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ロストコントロール 第十四話『前夜』
作者:13   2011/06/09(木) 22:32公開   ID:JHZjjd6HxsM


 〜『とある基地』 エーテル〜


 硝煙が鼻につく、エーテルは壊れた戦車の上で缶コーヒーを飲んでいた。

「このぐらいやれば問題ないか……」

 そう呟くエーテル、『帝の椅子』エンペラーオーダーで皇帝直下の部隊長を務める彼は黒衣との誓いを果たすために彼の血を引き継ぐ二人の人間を密かに守っていた。

 そして今、その帝の椅子を裏切った。

 彼がしたことは簡単だった

 そう――
 

 たった一人で帝の椅子、二十二ある部隊のうち二十一部隊を壊滅させた。


 そしてここに最後の部隊である『女帝』がここにいる。
 女帝、青を奪還する作戦を阻止した張本人、そして蒼の師匠でもある。

「久しぶりだな、ローレライ」

 奴はたった一人でそこに立っていた。
 金髪の髪に整った凛々しい顔に修道服を着た女。

「どうやら、私が最後の標的のようだな」

 女性にしては低めの声でエーテルに問う。

「いや、お前は二番目だ」

 エーテルは缶を投げると抜刀した。
 黒衣が造ったミスリルの刀の切っ先をローレライに向ける。

 そこは沢山の死体で埋められた戦場だった。

「遠慮なく行かしてもらおう!!」

 ローレライが反転を使い地面を鋭い岩に変えて攻撃した。

 だが、エーテルはその攻撃以上の衝撃波を発生させローレライの背中をとった。


 肉を断つ音が戦場に響き渡った。それは空虚でもあり一歩でもあった。


 刃がローレライに触れる刹那、ローレライは微笑んだような気がした。

 エーテルは血を払い鞘に納める。

 死体を見るとローレライの首にあったペンダントがひらいており一枚の写真が入っていた。


「Ich auch, dass Eltern……」


 エーテルはその戦場を後にした。


 〜『ホーム』 茜〜


 レッドから話をきいた三時間後くらいに黒髪家はやって来た。
 
「お久ぶりです」

 茜の姿を見た緋色は驚いていた。
 金髪の長髪を後ろで束ねバーテンダーの服、穏やかで優しそうな顔をした緋色は以前、お世話になった人の一人だ。

「おお、茜ちゃんひょっとして蒼を追いかけてきたの?」

 茜が返事をして炎を指先からだす。

「しかも、反転が成長しているな」

 月白が横やりを入れる。このブイネックのシャツにジーンズ、黒髪に紅い目をしたちょっと怖い顔つきだが性格は優しく気配りが効く、時々口調が荒くなるのは仕様。
 この人は過去に何度か私を助けてくれた人でもある。

「さて、長旅に疲れた事だし二日くらいゆっくりするか」

 月白がのんきに言う。

「三日後は、命がけだからね、みんな思い残したことがあるなら今のうちにしておくんだよ〜」

 緋色までのんきだった。

 遅かれ早かれ三日後には全員無事かどうかわからない。そういうものなのだ。
 どうあれ、二日は全員暇なようだ……


 〜『海』 蒼〜


「試練の内容は耐久力チェック、だって」

 大海原にポツンといる。オオカミの耳をぴくぴくさせピンクの長髪が海風で舞い上がりボロボロのワンピースのような服を着たのはアゲハ。
 それを抱っこして支えているのが黒髪 蒼、白髪に紅い目をした、細身の身体の割には人間離れした身体能力を持ち、『水郷の理』という水を操る能力にアシュラ・モードという肉体を向上させる能力を持つ。
 そして何より右手には刀の文様、左の腕には銃の文様があり、そこから自由に紅龍という刀と蒼龍という銃を展開する事が出来る。
 分かりやすく言うなら化け物だ。

「時間がかかりそうだな」

 そういうのは黒髪 銀、彼は青の息子かわからないが下手に詮索するのもやめておこう。
 白と黒のマーブルの髪に紅い目、顔つきは精悍だが影でつくった黒いコートで体中を隠しているが細身なのがわかる、特徴は武器を持っているときは表情がかなり変わる。
 影で足場を造り態勢を保っている。きっと、そういう類の能力なのだろう。

「まぁ、問題ないか」

 最後に目の前に居る体長はタンカーを簡単に超えるくらいの大きさ、だいたい五百メートルくらいかな、見えてない部分もふくめるともっと大きいかもしれない。
 ユキヒラという生物で通常は大きくても百メートルくらいで大きな角が一本ありそれを武器にするらしい。
 このユキヒラは海を統べる海洋生物最強を冠する個体、名をエクリュ。

「やることは簡単だこれからオレを引っ張って隣の大陸まで引っ張ってもらう距離は二キロ程度だから問題ない、だって」

 そう聞くとエクリュの角から鎖が二本降りてきた。引っ張れということなのだろう。
 アゲハには荷が重いのでエクリュの頭で待機させた。

「行くぞ、蒼」

「了解」

 ぎちぎちと金属の擦れる音が耳を裂いた銀が先に影を使い歩みを進める。

 たった一人で何十トンもあるエクリュを動かす。

 度胆を抜いた蒼は負けじと歩みを進める。

「なかなか、やるじゃねーか」

 銀が余裕の表情で蒼を見る。

「お前もな、けどオレの方が上手だぞ!!」

 銀より一歩先に出る。 
 ムッとした銀は蒼より一歩出る

 不滅の消耗戦が今始まった――


 〜『火山』フランエル〜


「シローー!! 居ないのかな?」

 そういってふて腐れるフランエル、金髪の短い髪に紅い目どこぞやの王女様のようなゴスロリの服を着た幼女いた。
 一見すれば可愛らしい女の子だが、人間ではない、いや、人間だったと言いなおしておこう。

 彼女はアテナという吸血鬼の力を継承した、この世界で生まれた最初の吸血鬼。

 そんな彼女は自分の大切なたった一人の従者を探してイカロスまで来た。

「おかしいな〜、たしかここら辺に気配があったのに」 

「大丈夫よフラン、あのバカはちゃんと出てくるから三日後にね」

 優しく語りかけるのはアテナ、異界に住む最強の吸血鬼だ。最強と言ってもまわりがそう決めただけであって自分では中の上程度だと思っている。
 色っぽい大人のような雰囲気にスタイルの良い身体にドレスのような服、背中には大きな蝙蝠の羽がついていた。
 フランエルにも蝙蝠の羽はあるがまだ小さいので服で隠れている。
 
「じゃあ、お腹すいた〜、ゴハンが食べたい!!」

「そうね、でもここには美味しいものはないのよね、だからあのバカをさっさと見つけて血を吸いなさい」

 フランエルは大きく頷くとアテナの胸に抱き着いた。

「まったく、吸血鬼に愛されるなんて銀あなたは本当に名前負けしているわね」


 〜『海』銀〜


 静かにただ黙々と引っ張るだけになってしまった。
 ただでさえクソ重い物を引いているから黙るのも無理もない。

 目瞑ると主の顔を思い出す。

 まだ幼く力加減を知らない奴だからな心配だ。
 特に能力は一度発動すれば軽く何百人の命を奪う能力だ。
 今のところはオレの能力で発動条件である右目を塞いでいるからおそらく大丈夫だろう。

 銀の能力は影を操る能力である。影というよりは質量を持たない黒い物体を操るような感じだ。
 この影は自分の思い通りの形状、重さ、密度を調整することが出来る。
 実際、あの馬鹿でかいエクリュの鎖を引っ張っていられるのもこの能力のおかげである。
 
 銀はこの能力以外にも蒼と同じく武器を体内に取り込んでいる。
 その数二十四種類以上、そのため体中のいたるところに刺青のような文様がある。
 それを見られるのはあまり好きではない。普段は影を使って身体を隠しているが戦闘などがあるとその呪いのような体が晒されることになる。

 
「おい、銀さっきからなにボーとしてんだ?」

「ん、いやちょっと考え事だ気にするな」

「ところでさぁ〜」

 鎖を引っ張りながら蒼が話しかける。

「どうした?」

「時間がないってどういう事?」

「三日後、オレの兄弟と思われる人間が処刑されるんだ。だからこの地を味方につけて助けるんだ」

 神妙な顔つきで銀は鎖を引きながら言った。

「それ、オレも手伝うよ。兄弟が死ぬのなんて嫌だしな」

 銀はふっと鼻で笑った。
 マーブルの髪が海風で揺れた。

「いいのか、相手は地上最強の反転能力者、皇帝だぞ?」

 蒼はそんなことどうでもよさそうに笑った。

「構わないさ、高い壁の方が登った時の達成感があるってもんだろ?」

 蒼はまるでどこかに登山でも行くような感じで言った。
 銀は蒼がどのくらい強いのかは知らない。
 だが頼もしく思えた。

「ふっはっはっは!! 最高だぁぁ!! 気に入ったぜ蒼!!」

 高らかに銀は笑った。

「奇遇だな、オレもお前とは気が合いそうだ!!」

 二人は、何十トンの巨体を軽々しく引っ張ったまま歩いていた。

「なぁ、蒼今から競争しないか?」

「どんな競争だ?」

 銀が人差し指を立ててくるくる回しながら言った。

「ここからどっちが先に隣の大陸につけるかだ!!」

 そう吐き捨てた銀は影の形を変え一気にスピードを上げた。
 蒼は、はっとして追うように一気に加速し始めた。

「速いな、お前の反転か?」

「まぁ、そんなところだ『アシュラ・モード』って言うんだ。これでもまだ一割にも満たないけどな」

 銀は冷や汗が噴き出した。銀でさえ今の能力の出力は三割程度、もし蒼の言っていることが本当ならば、奴に……皇帝を倒せるかもしれない。

「すごいな、それ以外にも反転を持っているのか?」

 銀が冗談混じりに蒼に聞くと、

「あるよ、『水郷の理』っていう水を操る反転が、さっき取り戻した」

 これは本当に奴に太刀打ちできるかもしれない。この他にも蒼は武器をふたつ身体に取り込んでいる、このハイスッペクに魂が耐えられか怪しいが、戦力としては申し分ない。

 ちなみに、今銀と蒼は車を軽々超えたスピードで移動している。このまま行けばもうそろそろ大陸が見えるだろう。

「おお、陸が見えるぞ!!」

 顔を上げると大陸が鮮明に見え始めていた、ここまで早くこの試練が終わるとは予想もしなかった。黒髪 蒼もはや人間じゃないな……
 オレも人のこと言えないか、なにせ歩く武器庫とどっかの吸血鬼に言われたことがある。

「ここで止まれ、これ以上は私の管轄外だって言ってるけど!!」

 鎖の先にいる蒼と一緒にいたアゲハとかいうピンクの長髪にボロいワンピースのようなものを着た幼女が言った。
 銀は減速を始めながら主を思い出した。外見が近いためかつい思い出してしまう。
 

「合格だ、紋章を出せだって」


 蒼と銀はそれぞれ十字の先にサファイアの印を継承した。
 継承が終わるとアゲハが蒼に飛び着いた

「あとは樹海だけか、急ぐぞあと二日しかない」

 辺りはすっかり暗くなっていた。

「分かった」

 銀たちは水面を蹴った。



 ―― 残り二日 ――


 〜『樹海』 蒼〜


 朝日が昇る、夜も眠らず樹海に向かっていた。
 蒼たちが目指すのはキリサメの住む樹海の一角。

 既に蒼と銀の疲労はピークを越えて限界寸前だ。
 間もなく目的地に到着する。こう思っている間も猛スピードで走っている。
 
「なぁ、少し休まないか? オレはともかくアゲハが限界だ」

「勝手にしろ、オレは先に行く」

 銀にはもう時間がない、焦っているのだろう。ここで反発しても激昂を煽るだけ、合わせておくのが無難だろう。

「甘えてられないな分かった先を急ごう」

 そう言ってアゲハには申し訳ないが更にスピードを上げた。
  

 結局キリサメのテリトリーに着いたのは夕方だった。

 樹海は木が生い茂ってなかなか前に進めなかったからだろう。

 テリトリーの入口にキリサメのアルビノ種、ラセットが待ち構えていた。
 大きなオオカミの置物のような白さの毛並に紅い瞳は誰でも見とれてしまうだろう。
 
「ここまでよく来たな我が最後だ」

 真っ直ぐな視線でラセットは言う。
 
「じゃあ、試練始めようか」

 銀が両腕に黒い奇妙な形の刀を展開させる。

「我の試練に武器などいらない、我の試練はこれからひとつお前らに問う、その前にここの近くにある湯の湧く水場に浸かってもらおう」

 ラセットがその大きな体をひるがえし、こっちに来いと言わんばかりに尻尾を振る。
 蒼は銀と顔を見合わせてラセットについて行った。


 樹海の奥を進むと開けた場所にでた。そこには温泉が湧き出ていた。
 ラセットが湯に浸かれと指示したのに従って蒼たちは服を脱ぎ温泉に浸かった。
 お湯は少しぬるいがちょうどいい湯加減だった。アゲハはばしゃばしゃとお湯で遊んでいた。
 

 だんだんラセットのしたいことが分かってきた気がする。


 ラセットもお湯に浸かると大きな欠伸してゴロンと寝そべった。

「さて、ここで試練と行こう」

 蒼と銀は目つきを変える。

「試練の内容は簡単だ。我の名を当てる、ただし回答は一回だけだ」

 そう言って近くの岩に頭を乗せた。

「我は少し眠る、答えは明日の朝に聞くそれまでこの湯から一歩も出ることは許さない」

 銀は頭を回転させている。
 どうやら、変に考えているのだろう。

 この際だラセットの策略に乗ってやろう。
 蒼はお湯にどっぷりと浸かり眠りに入った。


 〜『ホーム』 茜〜


 あと二日もない、いよいよ最後の戦いが始まる。
 さすがにみんな焦りをつのらせていた。無理もないが秘色は特に落ち気がなかった。

「みんな、ピリピリしてるな〜」

 縁側に座っている茜にのんきにお酒を飲んでいる緋色が言った。

「よく、落ち着いていられますね……」

 ジト目を使う茜が言った。

「まぁ、元傭兵だし」

 緋色は金髪の髪を束ね直しながら言った。
 この人は元傭兵とでも言うのだろか反転を使った部隊、『帝の椅子』エンペラーオーダーの部隊長を務めていたくらいの実力の持ち主。
 
「僕たちは殺し合いのプロだからね、あんまりドキドキしないかな……」
   
「そうなんですか、ところでお酒なんか飲んで大丈夫なんですか?」

 緋色はお酒の入ったグラスを傾けながら言った、カラリンと氷が音を立てた。

「大丈夫、大丈夫、これは習慣のようなものだから」

 でもそれウォッカですよねと茜は言いかけたがやめた。
 緋色はかれこれ九十度のとてつもなく度数の高いウォッカを二瓶くらい飲んでいる。普通の人間ならとっく泥酔しているか病院送りだ。


「お、隣いいか?」


 後ろから黒髪に紅い目という異色のコントラストの強面の月白が緋色の隣に座った。

「お前のその習慣を見ると現役時代を思いだすな……」

 しみじみを月白が言った。

「そいえば、体は大丈夫か?」

「うん、あと数十回はいける、そっちこそ大丈夫なの?」

 月白はまぁなと言って苦笑いをした。

「時間がないな……」

「本当にね……」

「作戦の最終確認をする、茜も来い」

 月白は前よりも厳しい顔でそう言った。


 ―― 残り二十四時間 ――


 〜『ホーム』月白〜


 レッドから部屋とイカロスの処刑場近辺の地図を借り黒髪家を茜、レッドを集めた。

「そろったようだな、作戦の説明をする」

 全員が頷き会議は小さな和室の部屋で行われた。

「まず、秘色と紫紺はここで情報伝達、オレと緋色、茜は先陣を切る後方支援、萌葱とレッドは遠距離からの攻撃、以上だなにか意見はあるか?」

 一息で月白は言い切ると秘色が手を上げた。

「私も先陣に加えてくれ、私がいれば鳩羽の能力が使えるようになる」

「ダメだ、鳩羽の能力は危険すぎる、逆にオレたちが危険な状態になりかねない」

 秘色は口ごもって腑に落ちないままそっぽを向いた。
 月白は多少の罪悪感を感じたが仕方なかった。

「異議はないようだ、では作戦の概要を説明する――」

 十分ほど作戦の概要を説明し解散した。


「これが最後になりることを祈る」


 〜『温泉』蒼〜


 月がその仕事を終え、沈みかけていた。
 日がその仕事を始め、昇りかけていた。

 蒼は小一時間ほど眠っていたようだ。温泉に顔以外をどっぷりと浸しすやすやと、それを見ていた銀はにらみを利かせていた。
 起き上がり周りを見ると明るくなっていた。朝日が樹海の表面の緑を一層鮮やかにした。
 銀の様子を見る限りまだ答えにはたどり着いていないらしい、まぁ、ラッセトからしたらその迷いが目的なのだろう。
 
 ラッセトはまだ眠っている、アゲハもその白い毛に覆われた体にしがみ付いて眠っている。 

「……チッ」

 銀が舌打ちをする。かなり追い込まれているのだろう、明日はいよいよ兄弟を助けるのだから無理もない。
 だがこれができなければきついぞ銀。


『黒髪 蒼、ここにいたのか』


 蒼は全身を硬直させた。この低いどすの利いた声間違いない。

「お前はやっぱり『運命』か!!」

「その呼び方はもう捨てた、エーテルと呼べ」

 缶コーヒーを片手にエーテルは落ち着いた表情で言った。

「ラセット、オレはここを出る!!」

 エーテルを倒すそれが蒼の目的だった。

「いいだろう、ただし二時間だそれ以上は認めない、あと蒼以外はここから出ることを断じて許さん」

 蒼は温泉を飛び出し服を着る。


 エーテルはそれ確認すると奇妙な形の白銀の刀を抜いた。
 中が空洞のようにも見え、何かのカバーのような形の刀だった。
 最初に戦った時はこの刀の形状すら見ることが出来なかった。間違いなくエーテルは本気で殺そうとしている。

 蒼は左手に特殊な金属で出来ているショットガンの蒼龍、右手に紅蓮の刀である紅龍を展開し構えた。

 エーテルも刀を構えた。


 蒼がアシュラ・モードを発動させ蒼龍で発砲――


 ドォォン!! と凄まじい轟音と同時に今までの比にならない衝撃が体中を襲った。痛い――


 何百個の金属片がエーテルを襲う。


 カンカン!! と刀を高速で振って全ての金属片をエーテルは地面にたたき落とした。この時間、一秒にも満たない光景だった。


 後ろに回り、蒼龍の一撃を放ち、右にサイドステップをしながら三発打ち込む。

 エーテルはニヤリと笑い刀を大きく振りかぶる。

 着弾した瞬間エーテルは煙のように消えていた。

(光の屈折か!? 不味い!!)

 蒼は体勢を低くさせ後ろを向き武装を解除させて身体を捻る。
 後でエーテルが刀を振り下ろす。
 それを蒼は横から右拳を加え刃を逸らす、その勢いで左手に紅龍を展開させエーテルの喉元に刃を入れる。

 エーテルは身体を反らし、足で蹴り上げ紅龍の刃を逸らし地面にそのまま手を着きさらに跳躍を重ねる。


 お互いに疲れを顔に覗かせていた。秒単位でこれだけのアクションをしているのだから無理もない。


 エーテルが地面を蹴り一気に蒼との距離を縮め刀で鋭い一撃を決めた。
 蒼は紙一重、紅龍で受け止めるとほぼゼロ距離で蒼龍の一撃を喰らわす。


 金属片がエーテルに到達する前にエーテルは体をスライドさえ回避する。
 蒼がその背後を取り、紅龍で一太刀を決める。


 エーテルは刀を地面に突き刺しその反動で身体を持ち上げ蒼の一撃を回避し、顔面に蹴りを加える。
 蒼はそれを咄嗟の判断で武器を解除し腕で受け止め足を掴み握りつぶした。
 エーテルは突き刺さった刀を抜き追撃を喰らわせる。
 
 グチャリと刀は蒼の脇腹を貫通した。幸い急所は外していた。

 蒼はそんなことを無視しエーテルの顔面に全力の拳を喰らわせた。
 だが、苦痛のせいでほんの一瞬だけ隙ができた。その一瞬にエーテルはもう片方の足で突き刺さった刀を蹴りさらに奥に突き刺した。


 衝撃を殺しきれなかった蒼はそのまま温泉の中に突っ込んだ。


 蒼は起き上がり突き刺さった刀を抜こうとした瞬間、ドクンッと心臓が跳ね上がった。

 脈はどんどん加速を続けた。


 蒼は武装を解除し眼を閉じ意識を刀に集中させる。
 刺さった刀が頭に直接声を響かせる。


  ―― 我が名は白龍 ――

 
 ドクンと心臓が脈打つ。


  ―― 我が名は紅龍 ――


「お前も欠片だったのか――」

 突き刺さった刀は液体のように蒼の体の中に浸透していった。


  ―― 我が名は天龍 ―― 


 刀を再び展開させると峰の部分が紅く、刃は鋭い白銀に覆われていた。


『―― 天龍 ――』


 そう聞こえた、刀がそう言った気がした。


 蒼は両手で刀を持ち、一気にエーテルとの距離を狭める。

 
 エーテルの首筋には天龍の刃が寸でのところで止まっていた。


 エーテルはニヤリと笑った。

「Jetzt ist meine Rolle ist vorbei」
 
 煙のようにエーテルは忽然と姿を消した。
 何が起こったのか蒼ですら分からなかった。


 武器を納めた蒼は服を脱ぎ再び傷口を抑えながら温泉に浸かる。
 細胞が活性化している今なら治るのも早いだろう。
 少しでも回復させるために蒼は眠りに再びついた。


 目が覚めた時には夜になっていた。 
 体は完全に回復していた。

 銀は答えを分かったのか、蒼の肩には葉を象った翡翠の文様が浮かび上がっていた。周りみると銀の姿はなく、先に目的地に向かったようだ。

「私が案内する、乗れ」

 白銀のキリサメ、ラッセトはその風格を見せつけていた。ちなみにその背中にアゲハも乗っかっていた。
 蒼はアゲハの後ろに座った。アゲハ思いきり蒼に寄り掛かると嬉しそうに笑っていた。

 ラセットはまさに電光石火、樹を簡単に避け加速しながら走った。


 ―― 残り二時間 ――


十四話終わり

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ

 脱走した蛇が無事に捕獲しました。

 さていよいよ次が最終回のはず……です!!

 迂回ルートやetcがなければ最終回のはずです!!
 ゾクヘンツクルケドネ……
 まぁ、区切りよく第十五話がこの『ロストコントロール』の最後です。
 
 先にお礼と感謝のを述べておきます。

 本当にいままでコメント、回覧していただきありがとうございました!!

 来週のあとがきはキャラの誕生秘話などのどうでもよかったりする話をします。

 ここからはコメント返し


 黒い鳩 殿


 フランは確信犯です(キリッ!!
 それの理由もまぁ、来週わかると思います。
 
 視点切り替えの文章をもっと膨らませるべきでした反省します。特に紫紺の扱いが可哀そうになってしまいました。

 アシュラ・モードについては、シュラ→アシュラ→????(次回でてきます) という形になります、六倍というのは察しの通り腕の数です。

 最後の兄弟全員が戦うということなのですが、初めから兄弟全員が先陣を切って激しいバトルを繰り広げるつもりはありませんでした。
 最初から主人公と二、三人の仲間でボスに挑むという構想でした。兄弟が全員主人公なのですが、最後は蒼に補正をかけました。
 
 
 今まで本当にコメントしていただきありがとうございました!!




  ……ゾクヘンガ……おっと誰か来たようだ、ではこの辺で

以上
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