カール・ソルド・オライオン、宿に戻る頃になってようやくピンと来た。
帝国内では彼の話を聞かない日はほとんどないという程。
魔王を倒した勇者のパーティの一人にして、青銅騎士団団長。
青銅騎士団を今までと違う、警察機構のようにきちんと統制のとれた騎士団へと変貌させた立役者。
いろいろな逸話のある人物だ。
「まさか、私が勇者のパーティなんていうファンタジーな存在に出会うなんてね。
元の世界じゃ鼻で笑ったような話だけど」
こういった話は、まろの得意分野だったと思う。
とはいっても、あいつだって実物を知っていた訳でもないだろうけど。
ディロンさんにとっては、この宿の部屋は狭すぎるので、裏にテントを張って生活してる。
宿の人もちょっとびっくりしてたみたいだけど、巨人に対応した宿屋は極端に少ないのでこうなったみたい。
私がもっとお金持ちなら対応した宿屋に泊まる事も出来たんだけどね。
まあ、そんな事をぶつぶつ言っても仕方ない。
とりあえず旅の間に稼いだお金でディロンさんの食費だけは何とか賄っている。
そういえば、巨人ってトイレどうしてるんだろう?
巨人用のトイレなんて旅の途中でも見かけた事ないんだけど……。
怖くて聞けないでいる私。
「まあ、そんなしょーもない事よりも、夕食にしましょ」
頭を切り替え、宿の一階にある食堂に顔を出す。
ここのおばちゃんは気のいい人なので気に行っている。
裏に巨人用のテントを張っても怒られなかったのも好印象ね。
ともあれ、この宿にはお世話になっております。
「今日の夕食は何にするね?」
「やっぱり熱々のシチューとパン、今日は少し鶏肉ももらおうかしら」
「へぇ、豪勢だね」
「うん、そろそろちょっと行ってみたい所もあるし、その前に美味しいもの食べて力付けないと」
「もう行っちまうのかい? いい話相手だとおもってたんだがねえ」
白人の恰幅のいいおばちゃん、体重は80キロオーバー。
しかし、雰囲気は非常にいい、ここの宿が人気なのの何割かはおばちゃんのお陰だろう。
だって、ここで食べている人のほとんどは同世代のおじさんおばさん。
私達のような旅の者が宿を取っている以外は、基本的に近所の寄り合い場になっているんだろうと思う。
そう思っていたんだけど……。
ここには不釣り合いな、若い女性の一団がやってくる。
見た感じそこそこ裕福な人達なんだろう、こんな場に来ているのにドレスの人達もいる。
そうでない人達も小奇麗な恰好をしているし、少し厚めに化粧をしていると思しき感じもうける。
10人くらいの団体客、ううん、客なのかな?
みんなギスギスした雰囲気を纏っている。
そういえば、私、必要最低限のスキンケアすらまともにできていない。
せいぜい、毛の処理までが限界ね……、リップもしてないなんてあっちじゃありえない話。
うう”、女の子としてはよくここまで生きてこれたと思うわ……。
そんな事を考えているうちにも、一団は、キョロキョロと何かを探しているように見えた。
けど、私と目があったとたん、目的を見つけたという感じで私に向かってくる。
彼女らの事は明らかに初対面、恨みや憎しみの感情をぶつけられるいわれはないはずなんだけど……。
この娘達目が怖い、なんていうか、熱狂っていうのかな、そうそう、てらちんの取り巻きにどこか似ている。
まあ、てらちんの取り巻きはまだ理性があった気がするけど、こっちは……。
「貴方ね、カール様と話をしていたという田舎者は」
「カール様?」
「まあ! 知らずに話をしていたというの、これだから田舎者は」
「まるで教養がありませんのね、あのお方事も分からないなんて」
「ああ、そう言えば帰り道でカール・ソルド・オライオンと会ったわね」
「やはり知っているではないですの!」
頭に血の上りやすい状態、何を言ってもバカにするか逆上するかしかしない。
こういう沸点もメンタリティも低下した状態、こういうのも一つの集団心理という。
つまり、そういう集団になっている事で自分が間違っていないと思いこむ。
自分は間違っていないのだから、間違いの指摘を受けてもひるまない、他人が間違っていると思うから見下す。
そう、彼女らは集団である事で、他者を排斥出来ると考えているらしい。
「私は彼ともう会うつもりもないから、さっさと帰って」
「彼、彼なんて貴方が言うのは100年早いですわ!!」
「いや、そうじゃなくてね」
「キー!! カール様に近づく者は皆敵よ!!」
何と言うか、本気で私の言う事を聞いてないわね。
恋は盲目って言うんならまだいいけど、これファン心理よね。
つまり、あの騎士さんあれで結構モテモテっていうことなんだ。
そうは見えなかったけどね……。
「もういいでしょ、私には関係ないんだから」
「何を言ってるのよ!
カール様は貴方みたいな田舎者が話して好い方じゃないのよ!!」
「知らないわよ、だいたい突然来たと思ったら、そんなどうでもいい事で怒って。
あんたこそ一体何者?」
「決まってるでしょ、カール様親衛隊の者よ!」
「個人、それも騎士の人に親衛隊?」
「いい? 金輪際カール様の近くには近寄らないことね!」
私はいい加減うざったくなっていた、だいたい私は彼の事を何とも思っていないのだ。
私が好きなのは……、いやまあ、どの道この国から出ないと会いにもいけないわけだけどね。
石神君……この世界でもやってるみたいよね……帝都に来てからは情報が結構入ってくるように……。
「もしかして……みーちゃんか?」
「え……まろ?」
端っこの方の席で、夕食を食べていたまろが私を見つけたよう。
幼馴染との再会、私も望んでいた事、でも一年もたつとなんというか、本当に再会出来るのかって思うようになっていた。
でも、まろがここにいる。
そうか……まろは忘れていなかったんだ。
「ちょっと待ちなさい! 私達の話は終わっていませんわよ!」
「そうですわ、田舎者といっても無礼です!!」
「このような者、パパに言って帝都から追い出して差し上げますわ!!」
「お待ちなさいッッ!!!!」
再会に水を差そうとした彼女らを、更に大声で止める声があがる。
私は思わずキョロキョロと周囲を見回す。
まろともう一人の女性も同様かと思ったけど、違った。
二人は私のすぐ近くを凝視している。
そう、私を取り囲んでいる親衛隊の人達のお腹のあたり……。
「何事かと思って聞いていましたが、なんですかその体たらくは。
意中の男性がいらっしゃるならば、告白し成就させればよいではないですか。
徒党を組んで、近づく女性を攻撃している暇があるなら己を磨いて意中の男性を振り向かせて見せなさい!」
「何を言っていますの、それが出来れば苦労は!!」
「まっ、待ちなさい!」
「あのお方はもしや……」
「なっておりませんわ、徒党を組んで一人を貶めようとは。
レディの嗜みとしては下の下ですわね」
フアッサっと髪をかき上げる、見事なまでの銀髪、でも……小さな女の子。
これだけ言葉がしっかりしているのに、見た目はいい所4歳か5歳。
でも、ドレスの仕立て、ちりばめられた宝石等から見てかなり階級の高い貴族じゃないかなと思う。
「貴方みたいな小さな娘にレディの嗜みを云々される言われはなくてよ!」
「待ちなさい!」
「どうしたって言うのよ!」
「目の前のお方をよく見なさい!」
「えっ、もしや……」
「貴方達の頭の中にはカールの事しかないのかと思っておりましたが、
私の事くらいは覚えておいでなのですわね」
小さな女の子は、女性集団のおびえた視線を当然のごとく受け止めている。
それは奇怪な光景だったけれどどこか痛快な、なんと言えばいいのか某水戸のご老公を彷彿とさせる。
それはつまり、彼女がザルトヴァール帝国内においてそれだけの地位を持つ存在である事を意味する。
そういえば、ここのところまで何かが出掛かっているような……。
「貴方は……、皇女殿下……」
「素行が悪いと評判の!?」
「超人的な力で無理やりねじ伏せると噂の!?」
「すぐに城を抜け出しては遊びほうけてるとよく聞く!?」
「じゃかましいわ!!!」
「「「「ヒィ!!」」」
「ともあれ、確かに貴方達の言うとおり、私が皇女ネストリ・アルア・イシュナーンですわ。
貴方達の言動は逐一覚えておりましてよ、先ほども言いましたが、自分を磨いて出直していらっしゃい。
今ならばまだ罪には問いません」
「「「「失礼しましたー!!」」」」
呆然としている間に、小さな皇女様はカール様親衛隊とやらを追い出してしまった。
噂では怪力の持ち主でなんでも力技で解決すると聞いていたけど。
巨人すら投げ飛ばすと評判だしね……。
「皆さん、騒がせてしまって申し訳ありませんわ。
お詫びとして、この場は私におごらせてください。
そこの吟遊詩人の方も、これで一曲振舞っていただけませんか?」
「もちろん!」
彼女の鶴の一声で、静まり返っていた夕食の場が再び喧騒に満ち始める。
私が小さい頃ってこんな気遣いできてたかしら?
絶対してなかったわね、いやこればっかりは幼馴染達全員がそうだと思うわ。
石神君も例外じゃなく。
「凄い皇女様だね、年齢からすると信じられない」
まろが隣に来ていた、まろの奴前の冴えないフリーターだった頃とは何かが違う。
体つきも筋肉がだいぶついていてがっしりしているし、顔はさほど変わっていないけど目つきが違う。
なんていうのかな、以前とは違って明確に何かを目指して頑張っていると言う感じが出ていた。
それに、隣につれている青い髪の女性、凄まじいまでの美人だ。
メイクをしているように見えないのに、瑞々しい肌をしているし、大きな胸がぷるんぷるんゆれている。
そのくせ、女性のほうも視線はやわらかく、清楚そうなイメージしかわかない。
だけど、どこか芯が強くて誰にも踏み込ませないような一線をもっていそうな……。
正直、見た目ならりのっちに敵う人はそうはいないと思っていた。
でも、この人はりのっちと同じくらい、ううん、女性としては彼女のほうが上かも。
まろ……今まで何をやってたのよ……。
「まろ、さっきこっちに来ようとしてたでしょ」
「余計なお節介じゃないかと思ったけどね」
「そんな事はありませんわ、むしろ出番を取ってしまったようで申し訳ありません」
「いえ、俺では穏便に解決とはいきませんでしたからね」
「あら、お上手ですね」
皇女様も私達に興味があるのか私の隣に座る、これで4人カウンターに並んだ事に。
でも、さっきもびっくりしたけど、4歳か5歳程度の年齢の子と対等に話すまろを見て、またびっくりした。
確かにこの子は皇女様で見た目どおりの人ではない事は間違いないけれど、
普通はこれくらいの年齢の子を見るとどこか大人として子供に対して接するようになってしまう。
実際私はそうしようとしていた、けれど、まろはそういう侮りのようなものは見えない。
全く、この世界は確かにまろ向きなのかしらね。
「それにしても、久しぶりねまろ……」
「ああ、そうだな……あの日以来だからな、もう一年以上経ってしまった」
「そうね……皆を見つけて帰るんだって意気込んでいたけど、ちょっと疲れてきてた所なの……」
「確かに……難しい問題だよな、もうただ集めて帰るって言うわけにもいかなくなったしな」
「いろいろ、あったんだね」
「ああ、まあな……」
この時、まろの言っていた事が立場とか、しがらみとかそういう問題じゃないと言う事だとその時の私はわからなかった。
帝国に来た理由も、どうしてそこまでのことをしたのかも。
まろや石上君達の思いをまだ私は知らなかった……。
俺が声をかけた後、みーちゃんの周りを何とかしようと近づきかけたとき。
小さな女の子が、トイレのほうからやってきて集団のほうへと向かった。
確かあっちにはヴィリがいたはずで……もしかして、ヴィリ順番待ちしてたんじゃ……。
いや、本気でどうでもいいことだった。
そうこう考えているうちにも、ほんの4歳か5歳にしか見えない銀髪の少女がみーちゃんが囲まれている現場に到着した。
そうして、声を発する。
「お待ちなさいッッ!!!!」
そしてあっという間に小さな少女の手によって喧騒が静まり返る。
彼女が皇女であったのは偶然なのかそれともこちらに用があったのか。
ただ、この皇女は凄まじく頭が回り、それでいて身なりで他人を見下したりするようなタイプでもない。
その分、カール様親衛隊に対する態度を見ていると、無能に対して多少きついのかもしれないが……。
「凄い皇女様だね、年齢からすると信じられない」
騒動がひと段落した後、俺はフィリナを伴いみーちゃんの隣に腰掛ける。
そういえば、石神を介さずに彼女と話をするのは初めてではないだろうか?
ただまあ、そういった事よりも今までに見た事のない異才を見てしまった今の俺には感慨半減ではあるが。
みーちゃんはかなりの防寒装備をしている。
まあ、流石に部屋の中なので、外套やマントの類はつけていないが、
グリーンのハイネックセーターと厚手のロングスカート、
その下から羊毛を使って体温を逃さないようにしている膝までありそうなブーツを履いている。
露出部分は首から上と手くらいのものだ。
まあ、俺達のように準備もせず北国に来たバカ共ではないのだから当然ではあるが。
「まろ、さっきこっちに来ようとしてたでしょ」
「余計なお節介じゃないかと思ったけどね」
「そんな事はありませんわ、むしろ出番を取ってしまったようで申し訳ありません」
「いえ、俺では穏便に解決とはいきませんでしたからね」
「あら、お上手ですね」
4歳か5歳の少女がコロコロという感じに笑う。
正直それはそれで異常な風景だが、最近はもう異常な人々には見慣れてきてしまった感があるな(汗
それにしても、みーちゃんまで大国や神や魔のパワーゲームに巻き込まれてなくてよかったと思う。
てらちんやりのっちは神や精霊の側に立ってしまっている以上俺は近づく事すら難しい。
そんな疲れが顔に出ていたのだろうか?
フィリナから視線で確認される、俺は大丈夫だと視線を返すと、
ほぼ同じタイミングでみーちゃんから話しかけられていた。
「それにしても、久しぶりねまろ……」
「ああ、そうだな……あの日以来だからな、もう一年以上経ってしまった」
「そうね……皆を見つけて帰るんだって意気込んでいたけど、ちょっと疲れてきてた所なの……」
「確かに……難しい問題だよな、もうただ集めて帰るって言うわけにもいかなくなったしな」
「いろいろ、あったんだね」
「ああ、まあな……」
流石に、俺が魔族となってしまった事をこの場で口に出す気にはなれない。
確かにチャンスではあるのだが、皇女という絶好のスポークスマンがいるのだから。
ただあの時のように、てらちんとりのっちに知られてしまった時ように、
前提条件が整っていない場で話してもとてもじゃないが受け入れられないだろう。
ならば、せめてみーちゃんのいないときにするべきか。
ただその場合も、いずれ和解する事に関してはかなり難しいと言わざるを得ないが。
「どうかされたのですか?」
「いえ、どうと言うわけではないのですが」
「そうですか、ならば良いのですが……」
この皇女様、俺が悩んでいる事に気づいた?
それだけじゃない、恐らくはあの時、騒ぎに介入するとき既に大体周辺事情を把握していたように思える。
5歳くらいだからと侮っていては不味い事になる程度で済めばいいが。
どのくらいのレベルなのかも図れない位に頭がよく回るようだ。
そして、もう一つ気がついた、確かに彼女は景気よく金をばら撒いた。
しかし、通報した人間が誰もいない、つまり彼女の失踪はこの国では日常茶飯事で、
しかも彼女の好きにさせる事が慣例になっていると言う事になる。
その証拠に、料理を持ってきてくれたおばちゃんは皇女様と親しそうに話している。
「所で皇女様はお忍びで?」
「ええ、私結構お転婆ですのよ?」
「そのようですね、だとすると町がどこか浮き足立っていて兵士達が見回りをしているのも」
「私のせい、ですわね」
にこにこ微笑んだままその事に答えてくれる。
この年でよくもまあここまで肝っ玉が太くいられるものだ。
ここにいる誰かが少しでもその気になればここには兵士たちが大挙して押しかけてくるだろう。
それを全く気にしていないように見える。
「でもそうですわね、お二人の再開にあまり水を指す訳にもいきませんし……」
「あー!!」
「ッ!?」
「「「!?」」」
トイレから出てきたヴィリが皇女様を指差す。
あー、こんなに時間がかかったんだからまー、色々あったんだろうなと想像がつく。
出来れば穏便にいきたい所ではあるんだが……。
「よくも、よくも、よくも! ヴィリちゃんに後始末押し付けたわね!!」
「なっ、何の事だかわかりませんわ……」
見た目十歳のエルフの装束(チェニック等軽装の)縦ロール金髪少女と、
四歳ぐらいの銀髪を結いあげたドレスの少女、はた目からは微笑ましくしか見えないが、
(両方ともヴィリは実際見て来ているし、皇女様は噂ではあるものの)
互いの戦闘力は巨人すら打ち倒すという正直まともじゃない2人の子供、
「偉いさんの娘だろうとなんだろうと!
ヴィリちゃんに後始末を押し付けた事タダで済ますなんてありえんのじゃ!!」
「なっ、なんの事なのでしょう……、わっ、私は知りませんの事よ……」
「ほう、口に出して言ってほしいわけじゃの……」
「それだけは絶対ダメー!!」
「ならちゃんと謝罪するのじゃ!!」
「はう……、わっ私は……」
「言う、やっぱり言ってしまう」
「ごめんなしゃーい!! それだけはいわにゃいでー!!」
あっ、顔面崩壊した。
皇女様であんなにやり手だとしても、マーナ(第一話及びカントール編参照、現在7歳)より年下だもんな。
泣きだした皇女様をなだめるのに半時間近く消費した事を追記しておこう。
そういえば、最近不思議なほどに小さい子とよく出会う……。
まあ、どうでもいいんだが。
「ぐしゅ、ぐしゅ……チーン!! ハンカチありがとうございますにゃ……」
「猫語が治ってないのじゃ、まだまだ若いの」
「そりゃ若いでしょう……」
「しかし、まろ……なんていうか、ハーレムね……」
「はい、これだけいて誰もデレてないという素晴らしいパーティです」
「うご!? っていうか、正式なパーティはフィリナだけだろ!!」
「えーヴィリちゃんはパーティ要員じゃないのかのう?」
「いや、面白いからついてきているだけとか言ってなかったっけ?」
「んむ、”明けの明星(勇者のパーティ)”に参加したのも同じ理由じゃが?」
「そうなんだ……。それはそれで凄いですね……」
「そうじゃろ! そうじゃろ! ヴィリちゃんをもっと褒め称えるのじゃ!!」
いや別に褒めてないけどね。
まあいいや、うやむやになったようだし。
正直恋愛ざたは随分遠ざかっていたから今さらそんな話をされても戸惑うだけだ。
そりゃ近くで女の子が寝起きしてればそれなりに気は使うけどね。
「兎も角、即席なんでね、ずっと一緒にいたパーティっていうわけでもない」
「そうなの……いろいろあったんだね」
「まあな……」
ヴィリが入ってきたことで更に混迷を深め始めた状況で、どう話を切り出していいやら。
今の目的は戦争を止める事、ならば皇女にそれを言うのが一番いいだろう。
とはいえ、頭は年齢とは比例していない彼女の事だ、迂闊な事をすれば利用される可能性もある。
軍がムハーマディラに到達するまでおおよそ後2日と少し、明日には俺達が見つからない事には戦争は止まらない。
だがそれだけに、慎重にいくべき所を見誤ってはいけない。
「みーちゃん、ちょっと外に出ないか?」
「えっ、うんいいけど」
「ヴィリちゃんもいくのモゴッ!!」
「いってらっしゃいませ」
「積もる話もありますでしょう、無粋な事はお控えなされませ」
「うー、面白い話しが聞けるとおもったのにー」
うしろでヴィリ達が何か言っていたようだが気にしない。
今は一番現状を確認しつつ、俺のしてきた事を言っておかなければならない。
前の時のように結果だけ押しつけるのでは、どうしようもないのだから。
「まろから連れ出される事になるなんてね、こっちに来てからプレイボーイになった?」
「そんな訳ないだろ、まあそれでもコンプレックスはマシになったかな」
道なりに歩きながら、巡回の兵士があまり来ないような公園に向かう。
まあ全く来ないわけではないが、ベンチで二人座っているくらいなら変な目で見られたりもしないだろう。
そんな訳で、みーちゃんに席を進め俺も腰を下ろす。
「じゃあみーちゃんは、北の鉱山町から巡回医師の仕事をしながら帝都にやってきたのか」
「ええ、途中寝込んだ子供の世話をしたり、雪山で遭難したり、魔物とだって戦ったのよ。
主にディロンさんがだけど」
「それでも十分凄いと思うよ、今までの人生感変わったんじゃないか?」
「そうね、でもまろほどじゃないはずよ?」
「ああ……、俺の場合はもう人生感どころの話じゃないけどね」
「そうなんだ……」
そして俺はぽつりぽつりとこの世界に来てからの事を話し始める。
それは、バカみたいな意地や、こだわりのために起こった色々な波紋。
やってきたことへの責任、だが諦めたくはない気持ち。
俺のしてきた事は、そんな事の繰り返しだった。
「……本当なの?」
「ああ、今の俺は魔族で、国際指名手配犯という事になるな」
「それは、そんなになってまでしなくちゃいけない事なの?」
「俺にとってはね、まあラドヴェイドのしがらみという事も大きいけど」
「馬鹿よ、そんな事したって何にもならないじゃない!」
「そうかもしれない、でも……俺は今までしてきた事の答えが欲しいのかもな」
「多分今までよりももっとひどい目にあうわよ?」
「それでも、俺にだって意地があるからね」
「ふう……、まさかまろがこんなに頑固だったなんてね」
みーちゃんの顔は、かなり怒っている顔だ。
しかし、俺を止める事が出来ない事はわかったのだろう。
元々俺は選んだ道を違える気にはなれない。
俺一人だけじゃなく、既に巻き込んでしまった人々のためにも。
「簡単だなんて思っていなかったけど、折角希望が見えたと思ったのに……」
「その件だが、俺に限らず幼馴染達を見つけても直ぐには声をかけない方がいい」
「え……?」
「精霊の勇者となったてらちん、ソール教団の聖女となったりのっち、
一年でほぼムハーマディラの支配者となった石神、それぞれが巨大な組織をバックに抱えている。
下手に近づこうとすれば利用される可能性が高い」
「……絶望的じゃない、そんなの」
「そうときまった訳でもないが、特に石神はもう少し時間があれば町を完全に自分のものにするだろう。
そうなれば、会いに言ってもさほど問題はないはずだ、それにアイツの実行力はお前が一番知ってるだろ?」
「そうね」
どこか悲痛な表情をしていたみーちゃんも石神の事を考えて少しだけ表情を和らげた。
やはり二人の間には、そう言う信頼関係があるんだろうなと思う。
元々2人はいつ恋人になってもおかしくない関係だった。
ただ、石神は政治家を目指すためにまい進しており、みーちゃんもテニス部の事で忙しかった。
なんとなく離れていたというのが正しいので、何れは又くっつくと信じている。
とはいえ、二人とも美男美女なので、放っておくと他の人に惚れられているんだが。
「ヴィリちゃんを仲間はずれにするとはいい度胸なのじゃ!!」
「へっ?」
「ああ、どうぞお続けください。人払いは済ませておりますので」
「私個人としてはもっとこう、濃厚な場面を期待してしまうのですが」
「そのためにも、雰囲気作りが大事かと」
「なるほど勉強になりますわ」
「……」
「……」
えっ、なにそれ……。
気配を断って尾行とか何考えてるんだ!?
「因みに、私はマスターの護衛のため離れられません。というか、あまり離れると私が死にます」
「それはそうだけど!」
「ヴィリちゃんがこんな面白い事見逃すはずがないのだ!!」
「それはどうなんだ!?」
「勉強になりますわー、私も流石に男女関係の事にはうといんですの!」
「早すぎるわ!!」
「……」
えっ、あれ?
みーちゃん、何だか背後に凄いオーラをまとっていないかい?
「砕けて縛れ、アースバインド!!」
「ギャッ!?」
「なっ!?」
「にょえ!?」
「ディロンさんやっちゃえ!」
「ワカッタ!」
地面ごとみんなを縛りつけた強力な拘束魔法もだが、いつの間にいたんだあの巨人!?
そんな事を考えている間にも、一緒に縛られてしまった俺に向かって巨大すぎる拳が振り下ろされる。
ペギョッ、とかいう訳のわからない悲鳴を上げた俺はそのまま意識を失った。