ディロンという巨人族の女性にまとめてブッ飛ばされた俺達は、
やりすぎたと謝るみーちゃんと共に部屋へと戻る事になった。
俺達が取った部屋は2室、俺1人の部屋と、ヴィリとフィリナの部屋だ。
同室なんて今さらだと思われるかもしれないが、野外と室内はやっぱり何か違う。
ともあれ、今回の事を他の人に晒す訳にもいかない、俺の部屋に全員集合してもらう事にした。
(ディロンさんは大きすぎるので遠慮願った)
皇女殿下にあの事が知られてしまった可能性が高い以上、この際巻き込んでしまうしかない。
力づくでどうにかなるのかは分からないが、状況によっては……。
そう言う決意のもと、皇女殿下も部屋に呼ぶ事にした。
「さて、皇女殿下、俺達の趣旨はわかりますか?」
「はい、ザルトヴァール帝国とメセドナ共和国の戦争を止めたいという事ですね?」
「ありていに言えばそう言う事ですが……」
「ただ、ザルトヴァールは、確かに国土が痩せており、肥沃な耕作地を持つメセドナをいつか手に入れたいと考えています」
それは、現実問題避けられない事であると、
5歳くらいでしかないイシュナーン皇女が偉いとかそういう意味でもなく、誰でもわかる知識なのだろう。
みーちゃんも、フィリナもおおよそ察しているのだろう、ザルトヴァール帝国の内情を。
「メセドナも元々は砂漠地帯等の多い枯れた国だったのですが……。
共和化してから150年ほどの緑化政策のお陰でかなり回復しています。
対して、ザルトヴァールは北方の凍結、また雪解けで泥沼化する土地の開発法を持ちません。
私が、シンヤ様の言うとおり陛下に申し上げたとしても、恐らく黒金騎士団は止まれないでしょう。
また、陛下も情報を握りつぶす公算が高いです」
それも否定できない事実だ、イシュナーン皇女は、よく梳かれ綺麗に流れる銀髪を揺らしながら首を振る。
俺達にとって、情報が伝わらないという事はつまり、負けという事になる。
特に今回は、形の上でとは言え俺のせいで戦争が起こるという事、それだけは絶対ごめんだ。
対策、そういえば……帝国が戦争をしかけるのは北方の貧困を救うためという命題があるんだな。
今まで、みーちゃんやフィリナ達から聞いた事の中でどうにかできる可能性がある問題が一つあった気がする。
「……皇女殿下」
「はい、シンヤ様どうかなされましたか?」
「貴方は知識人であるという前提でお話させて頂くのだが、帝国は金属を輸出していますか?」
「いいえ……、敵国の武器となる事を考えると鉄や銅を輸出する事は出来ないというのが考え方となっています」
それは確かに、ネックとなる考え方だな。
だが、鉄や銅といったものは、加工品が生活必需品といってもいいものになる事が多い。
ラリアやメセドナも見てきたが、やはりその公算は高いように思える。
「鉄を塊のまま売るのが問題でも、加工品を売るには問題ないのでは?」
「加工品ですか?」
「鉄は様々な物に加工できます。
ナベ、フライパン、包丁等の料理道具、クワ、スキ等の農具、つるはし、スコップ、釘、柱等の土木建築用具。
などなど、加工して売れば加工前よりも値を上げて売る事も出来る」
「それはそうですが……、鋳潰して再度鉄塊に戻せばまた武器にされる可能性も」
「ない、とまでは言いませんが。
そんな事をする国は、国民からそれらを巻き上げるという事、つまりもう先の長くない国です」
「計画的に買われる可能性は?」
「低いですね、それに、国の使うレベルの武具を用意するつもりなら、量が量ですから直にばれます」
「確かに……」
俺が何を言いたいのか、分かってくれたようだ。
それを対価にする事が出来るのかは、この先の皇女の言葉次第。
駆け引きは苦手だ、後は彼女に任せるしかない、ただし、彼女の対応次第ではこちらも……。
「駄目ですよ、シンヤ様。交渉の席で焦りは禁物ですわ」
「いや……それは……」
「なら、私ちょっとお茶入れてくるわ」
「私も同席します。マスター暫くお待ちください」
「そうじゃの、あまり自分を追い詰めてはいかんぞ、ヴィリちゃんのよーに泰然とじゃな」
「それは単に何も考えていないだけでは?」
「そんな事はないぞ!」
「ぷっ、くくく」
「こりゃ、シンヤ笑うなー!」
全く、まさか交渉相手も含め全員に気を使われてしまうとは。
俺もかなり焦っていたようだな。
まあ、明日のうちに何としても早馬なりを走らせて通達させないといけない以上焦るのは仕方ないのだが。
それでも、焦って良い結果が出る訳じゃない。
なんとかクールダウンしないとな。
「お茶をお持ちしました、殿下もよろしければ」
「はい、ありがとうございます……。
そういえばフィリナ様とヴィリ様、お二人とも”明けの明星”のパーティの方ですわね」
「はい、元とつきますが。”明けの明星”は解散しましたので」
「魔王を倒して解散したパーティの方とお会いできるなんて光栄ですわ。
私はカールしか存じませんので」
イシュナーン皇女は先ほどまでとは打って変わって、朗らかな笑顔で話しを振る。
朗らかな笑顔自体、年齢にはそぐわないものだが、不思議とこの皇女様にはにあっていた。
「カールは実直な戦士でした」
「今も実直な方ですわよ。あまりしゃべらないのが困りものですけど」
「え?」
しゃべらないのが困りものという言葉で、みーちゃんの動きが止まる。
何か、心底意外そうな顔をしているようだが。
一体どうしたんだろう?
「いえ、同一人物かは分かりませんけど、図書館の帰りに話しかけられたもので」
「カールにですか?」
「本人はカールと名乗っていましたし、その後あの騒動があったので」
「間違いなさそうですね、でも自分から声をかけるなんて珍しいですわ」
「そうなんですか?」
「彼は実用的な事以外あまりしゃべらないタイプですので」
あまりしゃべらないタイプであるカールという戦士、そして、そのカールに話しかけられたみーちゃん。
傍目から見れば明らかに新たな出会いという奴だな。
それに、聞く所によるとカールという戦士は今や、青銅騎士団の騎士団長。
玉の輿にも乗れるわけで、縁談的には文句のいいようもない。
ただ、みーちゃんには既に石神という好きな人がいるだろうからなー。
それにしても、こうしてみるとイシュナーン皇女がまるで普通に話しているかのようにも見えるが、
5歳程度の身長でしかない以上、どの動きもどこか滑稽さがあるので、俺はそれが顔に出ないように苦労した。
その後、暫く談笑が続き、また話題が戻ってきた。
「確かに、鉄や銅をそのまま売るよりも、加工して売るほうが収益が高い上に、戦争で使われる可能性も減ります。
収益金の概算を考えれば、北方地域の生活も安定すると思われます。
視点そのものは斬新で素晴らしいものだと思います」
「問題があると?」
「2つ、まず、既得権益を持つ貴族達の反対があるでしょう。
しかし、それは私達で何とでもなる問題でもあります。
もう一つは、鍛冶師の不足、鎧や剣は大規模鋳造施設があり、鍛冶師も事欠きません。
ですが、それ以外となると国内向けの小規模なものと人数しかいないというのが現状です」
「武器や防具の鍛冶師に転向してもらうわけには?」
「武器防具に関しては、これからも魔王領との戦争が続く以上鋳造を続けねばなりません」
「……なるほど」
戦争で得るのとは別の利益を準備するという点において、鉱物資源の売却を考えたが難しいようだ。
だが、不可能ではない、鍛冶師を用意さえすればいいという事でもある。
その方法ならば頭に浮かばない事もない。
「帝国政府の布告として、鍛冶師を奨励し、育成する。
もしくは、冒険者協会を通じて、国内の鍛冶師、もしくは鍛冶師になりたいものを探してもらう。
国家規模でやれば案外動く事も多いと思いますが」
「なるほど、そう言う考え方もあるのですね。参考になります。
一日でそれを実現という訳にはいきませんが、確かに、国の発展に貢献できる案であると思います」
「ッ!?」
抜かった!
この皇女様俺が見立てていたより数段上手だ。
彼女の口元が全てを物語っている、案はもらった、しかし軍は止められないと。
理由もわかってしまう、つまりは即効性の問題だ。
「皇女殿下は凄まじく切れる方のようだが……」
「分かっております。貴方が何を求めているかは」
「ああ」
「分かりましたわ、人質になりましょう。軍を止めるために全てをなげうつというのなら」
「なげうつ立場も、ものも、人も残っていないさ」
「本当にお人よしな魔族さんですわね」
「この生き方を選んだからね」
「選び取った……のですか?」
「ああ」
初めてイシュナーン皇女の驚いた顔がみれた。
年相応に幼い顔だったので、どこかほっとする。
そう、安全に生きようと思えば、フィリナを助けず、冒険者にならず、カントールから動かなければよかった。
しかし俺は選び取った、周りの沢山の人々に支えられて。
だが、俺は選んでしまった、周りの人々の期待を裏切っても。
相応の対価はもらっている、この選択の結果がすべて裏目に出てはいない証拠、それがフィリナなのだ。
彼女には確かに意思があり、制約があるとはいえ生きている。
俺にとっては、人生をなげうつ価値のある対価であった。
恩人に恩を返せないような生き方はしたくない、そう言う思いがおれにはある。
もっとも、それ自体がこの世界に来てからの考え方である事も否定できないが。
「みーちゃん、悪いがここでお別れだ。
そして、ヴィリ、君も無理をして付き合う事はない」
「何を言っているのじゃ、これから面白くなるというのに、ヴィリちゃんがついて行かない訳がないじゃろ!」
「えっ、人質って……本当なの?」
「そう、俺は国際指名手配犯、シンヤ・シジョウだからな!!」
そう言うと俺はイシュナーン皇女を小脇に抱えて窓から飛び出す。
2階程度今の俺からすれば高いは高いが、別段足をくじくようなものではない。
ヴィリも軽やかに、フィリナも特に問題もなくついてくる。
流石にみーちゃんは反応できなかったようだが、それで丁度いい。
途中、西欧系の顔をした巨人の女性、恐らくディロンさんだろう。
視線を向けてきたが、俺は軽く会釈しつつ走り続けた。
「もう、全く仕方ないですわね。私がこの格好のまま門の外へ出る事はできませんわよ?」
「別にいいさ、むしろ街中を駆け巡って宣伝すればいい」
「なるほど……ですが、もう一ついい方法がある事を忘れていませんか?」
「もう一つ?」
「私が直接黒金騎士団長バルフォルトと話をつけるというのはいかがです?」
小脇に抱えられたままのイシュナーン皇女が笑みを浮かべたまま言う。
なんというか、頭がいいのはいいのだが、豪胆さまで年齢離れしているのはもう不思議な領域になるな。
それも、ヴィリすら霞んでしまいかねないほど個性が強い。
一体全体どういう育ち方をすればこんな子が育つんだか……。
「そ・れ・に、殿方にエスコートして頂けるのは嬉しいのですが、
私これでも山歩きとか得意ですの、はしたないかしら?」
「……いや、単純に凄いを通り越してるからもう何とも言えない」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
嬉しいって、しかしこのくらい濃い性格をしていると、国からはちょっと敬遠されそうにも思える。
切れ者過ぎる存在は、他者からの妬みを買いやすい、彼女はどうなのだろうか?
「門兵と話をつけましたわ、これで通っても問題ないはずです」
「何から何までお膳立てしてもらったみたいで悪いな」
「それ相応の対価は既に頂いていますわ、金属の加工販売、版権料等は払いませんのであしからず」
「ははっ、そりゃいーや」
そんな感じで、俺達4人は帝都を離れる事になった。
あわただしいことこの上ないが、それでも何かが出来ているという事は嬉しいものではある。
ただ、イシュナーン皇女の事を考えるなら、何故こうも好意的に接してもらう事が出来るのかは分からない。
先ほどまでの口ぶりだと、国に対しての報告は渋っているようだった。
その代わりという訳でもないのだろうが、黒金騎士団長に対する勧告は行ってもいいという。
その基準点がよくわからないが、恐らく彼女より上の者が止めると見たのだろう。
彼女より上の存在などそう多くはない、皇帝か、皇太子辺りともめているという事だろうか。
どちらにしろ、俺は後に引くことなどできない。
「これ、あまり肩肘はっるんではないぞ、ヴィリちゃんがもんでやろうかの?」
「もむって……どこをもむつもりですか!? 位置が低いって!!」
「ヴィリは下ネタが好きですから……」
「だって、なんだか皇女に強引に持っていかれてしまったような気がしてのー」
「あらあらそれはすみません、私も結構そう言うのが好きなものでして」
「ほんっとーにお主5歳なのかや?」
「はい、正真正銘満五歳です。これからすくすく成長しますのでお待ちくださいね♪」
「こんなにひねた子じゃ、親も大変じゃろうの……」
「母上は会ってもくれませんわ……父上も私の前でいる事に少し怯えているよう。
まあ、この年齢ですので仕方ないのですけど……」
「なら、子供らしくする事じゃ、別に出来ない訳じゃないじゃろうに」
「それはそうなんですけど……、幼い振りをしていると、際限なく利権主義の貴族が寄ってくるものですから……」
「あーまあ、皇帝の娘じゃしの」
「はい、最近はもうすっぱりと何も言ってこなくなりましたわ」
「それでいいのか……?」
イシュナーン皇女の将来が少し心配になる。
まあ、これだけの知識と豪胆さ、そして今ずっと俺達が走るペースに問題なくついてきながら雑談を続ける身体能力。
どれをとっても、彼女がまともな方法でどうにかなるはずもないのだが。
そして、そのまま国境線近くまで来て、山を登り始める。
皇女が国境を出るなんてことは流石に表ざたに出来ない。
だが、野宿を彼女に進めるのは少し気がとがめた。
「あら、心配する必要はありませんわ。みなさーん」
「え?」
「はい?」
「おおう、これは転移の魔法じゃぞ!?」
そう、行き成り現れた白銀の甲冑を纏った女性の一団。
身なりからして、騎士団と同じような感じだが……。
「私は今日ここで泊まる事にします。アラヴィス小隊はテントを用意、ポリアナ小隊は周辺の警戒。
よろしくお願いしますわ」
「こんな強力な魔法いつ覚えたのじゃ?」
「いいえ、覚えておりませんわ、私が飛ばしたのは長距離念話だけです」
「まさか、来たほうが転移の魔法使いなのか?」
「それも違いますわ、転移の魔法使いは城で待機しております。
知らせが入ったら私を基準にして召喚されるのです」
「その魔法使いの名は?」
「お答え出来かねます。国家機密ですので」
「むぅヴィリちゃん相手に機密ときたか、それは挑戦じゃな!?」
そんなやり取りがあった間にも、
白銀の鎧を着た女性達はテキパキと普通のテントの10倍くらいの大きさの軍の陣地等で使う天幕を作り上げる。
その中に迷うことなく入っていくイシュナーン皇女。
「それでは、本日はこれにて失礼しますわ、明日の朝またお会いしましょう♪」
まあ考えてみれば、5歳児の頃なんて1日10時間くらい寝るのが普通だ。
まるで普通の大人のようにふるまっていたのでつい忘れていたが、どう考えてもオーバーワークだろう。
「これ! ヴィリちゃんも入れんか! 行き成り天幕とは珍しい!」
「いえ、いくら勇者の方々でもお通しする事はできません」
「我らは白銀騎士団、皇女殿下の私設兵団でもあります。
それゆえ、皇女殿下の命にしか従う事はありません」
「むぅ、なかなか変わった子飼いをもっておるのう、あの皇女一筋縄ではいかんな」
「俺達も休もう、明日は早い」
「そうですね、ヴィリも無駄な体力は使わないようにしましょう」
「それもそうじゃな、しかし、人質らしさは皆無じゃの」
「まあ、名目上のものだしな。逃げもしないだろう、その気になればいつでも出来る事も分かったし」
「それもそれで問題なのですが」
確かに、それに俺がメセドナに戻るリスクも大きい。
場合によってはそのまま捕えられて終わりという可能性もある。
それに、彼女を人質にして黒金騎士団が引いてくれるのかが未知数だ。
イシュナーン皇女は自身満々な感じに見えたが、
実際独断に近い形で軍を動かしたのだとすれば、言う事を聞かない公算も高い。
保険を用意しておく必要があるな。
とはいえ、イシュナーン皇女の一応とはいえ信頼を失う訳にもいかない、なかなか面倒な話だ。
「この辺りでいいのではないでしょうか?」
「ああ、じゃあま。寝るかね」
「ヴィリちゃんひと肌さびしいのー」
「ボケた事を言っていないで、テントを張るの手伝ってください」
「こっちはいいぞ」
「はい、それでは」
「先に休んでいてくれ。最初の見張りは俺がやる」
「……わかりました」
3人になってから、見張りは3時間交代で取る事が多い。まあ、だいたいでだが。
だが、フィリナに関しては、睡眠を絶対に必要とする訳でもないらしいので、
最初の見張りをやらせると朝になっている事がよくある。
そう言う事をされるのも申し訳ないので、出来るだけ最初は俺がやる事にしている。
さっきおこした焚き火の番をしながら色々考えてみる。
「ちょっと話をせんかの?」
「ヴィリ?」
ヴィリがいつの間にか、俺の近くまで来ていた。
気配がしなかったのは流石エルフというべきか。
それとも、元勇者のパーティ”明けの明星”ナンバーツーのヴィリだからか。
どちらにしろあまり関係はないが、珍しくヴィリが俺に真剣な目を向けている。
それは少し不思議な事ではある。
いつもふざけていて、俺達をからかったり、バカをしたりしているヴィリが。
「別に構わないが」
「そうか、これから”私”が話す話しは他言しないでほしい」
「あっ、ああ……」
真面目な顔をしてまじめな口調で話すヴィリを見て俺はかなり焦った。
真面目な顔をしていればヴィリは確かに金髪碧眼、年齢こそ10歳程度にしか見えないが、
それでも神秘的な美少女である事は間違いない。
普段はおちゃらけているので、多少割り引いて見ているのだとわかる。
「貴方が新たなる魔王となる事を私達は歓迎します。
長きにわたる閉塞を晴らすための楔となる事が貴方には出来るはず」
「……ヴィリ、君は何者だ?」
閉塞という言葉、魔王の知識を持つ俺にはなんとなく察する事は出来る。
しかし、その事を知る者はもっと根幹にかかわる者だという事も魔王の知識から知っている。
ならば、ヴィリもまた根幹にかかわっている何者か、いや、私達という言葉からすれば……。
「私達が何者かをまだお教えする事はできません。
新たなる魔王、貴方が本当に魔王となった時もう一度場を設けて頂きたく思います」
「……わかった、その時はよろしく頼むよ」
俺としても実際、そう言うしかない。
ヴィリがただついてきた訳ではないというのは半ば予想していたが、方向性が違ったようだ。
俺はてっきりフィリナの事で俺を監視しているとばかり思っていた。
「ふう、疲れたのう、今の言葉まだよくわからん部分もあるかも知れんが、何れわかる。
じゃからきちんと魔王になるんじゃぞ?」
「まあ出来るだけそうするつもりでいるさ」
「何だか気合いが足りんのー、まあ良いヴィリちゃんはもう寝る。おやすみなさいなのじゃ」
「ああ、おやすみ」
ヴィリがテントに戻っていくのを見て、
不思議に思いながらもまあ理由は分からないが彼女にもやはり目的はあるのだと安心した。
自分で言うのもなんだが俺はモテてた事はない。
今までで一番いい関係に近かったのは、この世界で出会ったハーフエルフのティアミス・アルディミア。
見た目は中学生だったが、年上風を吹かせる事の多いパーティのリーダー。
そして、次は絶対服従の魔法を刷り込まれて俺に敵対する意思を持つ事が出来ないフィリナ・アースティア。
この2人に恋人になってくれといった場合どうなるか、背筋が寒くなるくらい理解しているつもりだ。
それとは別というか同じというか、そう言う話としては性欲はこの世界に来てからはあまり発散してない。
体力を限界まで使ったり、緊張の連続だったりであまりそう言う事に気をまわしていられないというのが本音だ。
確かに、疲れピー現象がある事もあるが、自分の部屋を取った時くらいしかできない。
実際一人になれる事が少ないしな(汗)
まあ、一人でいる事が多かった昔を思えばむしろそれくらいの犠牲は大したことではないが。
そんなバカな事を考えているうちにも時間は立ち、月の位置が傾き始めたのでフィリナを起こして交代する事にした。
俺はそのまま眠りにつく、そういえばさっき考えたことで妙に意識してしまう。
フィリナの寝ていた場所を占領し、隣ではヴィリが寝ている。
なんというか……むぅ、普段意識していなかったがテントはやばいな……。
そもそも3人でテントを2つもとはいかないし、テントなしで寝る事は不可能ではないが雨が降るといろいろまずい。
それに、実際こういう雪国や高山では外で寝る事は死に繋がる。
南のほうであるラリア公国にいた頃は考えられない話だったが、流石にこちらに来る時にテントは用意した。
つまりまーテントを使い始めてまだ一週間程度しかたっていないわけだ。
妙な想像は頭から追い出し、寝る事だけに集中しようとする。
しかし、寝る事に集中するという事は神経を使っているという事で、つまりなかなか寝られない。
そして、ヴィリは割合寝相が悪いらしくごろごろ転がってきたりする。
「むぅー、もー食べられないのじゃー」
また、ベタな寝言を……。
と思ったら、またヴィリが転がって来て、俺の耳たぶにかみついた。
「ッ!?」
「今一うまくないのぉー、この肉はむにゃむにゃ……」
食べるな食べるな!
てーかさっきもう食べられないって言ってなかったか!?
と心の中でつっこみつつも、起こすのも悪いかと暫くじっとしている。
すると、直ぐに俺の耳を噛むのはやめたようだ。
しかし、今度は俺にしがみついて離れない。
いや、胸とか当たってはいるけど、まー肉体的には10歳程度、俺のリビドーを呼び起こすには早いぜ!
とまあある意味安心していたのだが……、ヴィリの手がいつの間にか俺のデンジャーゾーンに……。
「ってお前起きてるだろ!」
「あっ、ばれたかの? いやー若者をからかうのは面白くての♪」
「明日早いんだから寝かせてくれよ……」
「しかし、あれじゃな。
折角絶対服従の巨乳娘がいるのに手を出していないと聞いてロリだと思ったんじゃがのー。
もしかしてホ○か?」
「○モ言うのやめれ! 単に今まで女性と縁遠かったから距離感がつかめないだけだよ。
それに、絶対服従の女性に何かをさせるといっても、彼女自身はどうなる?」
「ふむ、ある意味気骨はあるのかもしれんが、チキンじゃのー」
「……」
俺は毛布をかぶり、ヴィリとは逆の方向を向いて目をつむる。
そこに、今度はヴィリの先ほどまでとは打って変わって小さな声が放たれる。
「ただ、遠慮のしすぎは逆に相手を苦しめる事もある。その辺りは気をつける事じゃ」
「……ああ、気には止めておくよ」
全く、ヴィリがいったいどういう奴なのかまた分からなくなった。
俺は頭の中でため息をつき、また無駄と知りつつ寝る事に集中を始めた……。