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魔王日記 第五十七話 場面転換は難しい。
作者:黒い鳩   2011/10/05(水) 22:23公開   ID:LkYSqd5eQkI
白銀騎士団の一部が従軍娼婦の天幕にいる訳は単純で表に出せないのが理由だ。

黒金騎士団の内部にもイシュナーン皇女のシンパはいるため、騎士団のいる天幕を使う訳に行かない。

ましてや一般兵に知られれば、噂が噂を呼び、兵の士気ががた落ちになってしまう可能性もある。

彼女らが反逆した事にして殺してしまうのも手なんだろうが、

そうなれば黒金騎士団は皇女を公的にも敵に回してしまう事になる。

ましてや、皇女を殺せば帝国を敵に回してしまう。

黒金騎士団の地位向上が目的だという話が本当なら、どちらにも手を出す事は出来ないだろう。

ヴィリの話から予測したのはそのくらいの事だった。

問題は、劇団の団長だ。

イシュナーン皇女を目覚めさせる前にぶつかれば俺達の負けは確定だ。

イシュナーン皇女が交渉の場に立たなければこの戦争は止められない。


そして、最近少し不気味に思っている事もある。

このピンチに際して本当に石神がムハーマディラにいるとするなら、何のリアクションもない筈がない。

確実に、既に何らかの手を打っているはずだ。

となれば、むしろ戦争をして帝国軍が負ける可能性すらある。

どちらにしろ、大規模な戦になる以上、その人死にの数は確実に何千というものになるだろう。

それだけではない、もし、黒金騎士団の思惑通りにいけば、連合を組んだ国家がメセドナ共和国を蹂躙する事になる。

それを魔族側が座視しているとも思えない、戦争に介入して漁夫の利を狙おうとするはずだ。

最悪の場合、世界大戦のような様相を呈することになるだろう。



「時間がないな、そろそろ次の巡回の時間だろう、こっちの交代時間もわからないしな。

 フィリナ、ヴィリ大丈夫か?」

「はい、私はいいのですが……ヴィリのほうは流石に身長的に兵士には見えないかと」

「……あーうん、ヴィリ一人なら隠れたりできるんだろ?」

「ヴィリちゃんにお任せなのじゃ! しっかり隠れてついて行くのじゃ」



そもそも、陣の中から見とがめられずに一度出ているヴィリなのだから、今さら驚きはしない。

幼女のような外見とは裏腹に実力においては、フィリナをも凌駕しているのだ。

”明けの明星”というパーティの凄さを今さらながらに思い知る。

俺の我儘を2人が聞いてくれている事も不思議である。

だが、根本を解決するためにも、白銀騎士団を助け出さなければならない。



「見張りは2名だけか、フィリナ、出来るだけ話しはするなよ」

「はい」



フィリナも俺も補給物資搬入用の出入り口の門番から装備一式を奪って着込んでいる。

俺もはっきり言って着膨れ気味だが、フィリナほどではない。

フィリナは元が青い髪の巨乳美女だから、兜に髪を納め、兜のフェイスプレートを下ろし、顔を隠している。

装備サイズが合わなかったため、重ね着した上から装備している。

こう言う奴もいない訳じゃないから、取りあえずは文句は出ないと思う。

一応声も魔法で誤魔化せるので、しゃべっても問題はないんだが、とっさの口調でオカマみたいに聞こえるだろう。

念のため、あまり話さないように頼んである。

そんな状況ながら、どうにかばれる事もなく、俺とフィリナは連れだって娼館の天幕へと向かった。



「おう、ちょっと利用させてくれないか?」

「駄目だ駄目だ、陣を引き払うまで後1刻あるかないかなんだ。もうやってる時間もねぇよ」

「だけど、俺ら溜まっちまってよ」

「ばっきゃろ! もう直ぐ戦争になるんだから、そんなの戦場でなんとかしろ!」

「そう言うなって、俺ら2人とも早いからよ」

「早いって……まさかお前、四半刻で終わるとか言うんじゃあるまいな?」

「もちろん、それだけあれば十分さ」

「お前、そんなの本番前に終わっちまうだろ」

「でもやっぱ、闘いに行く前はすっきりしないとな」

「ちっ、めんどくさい奴め、いいだろう。金はあるんだろうな?」

「もちろん、無けりゃ頼まないって」

「わかった、あんまり時間かけるんじゃないぞ!」

「了解」



俺はフィリナと共に、客のフリをして潜入する事にした。

動き出すまであまり時間がない事は間違いないようだ。

俺としては、何としてもそれまでにイシュナーン皇女を目覚めさせ進軍を止めてもらわなければならない。

天幕の内部は、中央の廊下部を除いて10部屋程度の部屋数が存在していた。

それぞれせいぜい4畳くらいの部屋のようだ。

そしてその奥にあるのは恐らく娼婦達の待合室、

手前の受付に金を払い誰それをお願いと言えば出て来てくれる仕組みのようだ。



「あらお客さん、随分ギリギリに来るんだね。女の子達もあらかたで払ってるよ」



確かに、部屋は半分以上行為中のようだった。

ギリギリまで粘ってやっている連中だろう。

本当は、昨日のうちにすましておくべきものなのかもしれないが。

俺は大よそ当りをつける、客を取っているという事はあり得ない、かといってここから見える範囲にはいない。

となれば、ありうる場所はただ一つしかない。

この中に大魔法使いでもいない限りは、娼婦達の待合室に監禁されているとみていいだろう。

当然、そうなれば金を払っても中に入れる訳もない。

普通に考えれば強行突破を狙うしかないのだ。

だが、俺は一つ手段を思いついた、俺は天井に向けて視線を送る。

視線の先には、さかさまにぶら下がっているヴィリがいた。

天幕は中央が高くなって、端に近づくほど屋根の位置が下がる。

布(もしくは皮)製の屋根で雨を防ぐには雨の重りを受ける訳にはいかない、だからそういう仕組みになっているのだ。

ヴィリなら当然、中央を抜け反対側のあたりまで天井を動き回れるだろう。

親指を立ててヴィリが天井をするする移動する。

流石にあれはマネできないなと、心から思った。



「早くしてくれないかい、こっちも暇じゃないんだからね」

「そうだな、じゃあ初めてなのでお任せでそれぞれ頼む」

「はいよ」



俺は、ヴィリが作戦遂行しやすいように時間稼ぎに出る事をフィリナとの精神的な回線を軽く開いて教えた。

最近は、閉めっぱなしにしていた回線なのでまた記憶の流入が起こらないか心配だったが……(汗)

フィリナは女同士なのにどうすればいいのかと困惑していたが、

時間稼ぎなので、ようは話しでもして待っていてもらえば十分だと伝えておいた。

フィリナの方からは、童貞卒業おめでとうございますと帰ってきた。

うん、さっさと回線を閉めよう。



「あんまり時間もないだろ、空いてる人見繕ってくれ」

「お連れさんもかい?」

「ああ、よろしく」



そうしてまあ、俺とフィリナは別々の個室に案内されていく。

ソープとかをつい考えてしまうが、この娼館は決してソープのような場ではない。

戦場にそんなにいろいろ持ち込める訳もないからだ、彼女らがする事は基本的に行為のみ。

騎士団付きの兵士に限られるとはいえ、その数600人近く。

そのうち一部とはいえ相手にするのだ、そりゃいちいち気分を高めていたんじゃ間に合わない。

お一人様30分ぽっきりとかそういう感じである。

だがまあ、俺やフィリナはそういう行為をするつもりはない。


個室に女性がやって来た、まあこういってはなんだが、こういう場所の女性といってもピンキリなものだ。

そして、今はほとんどの人が最中でありアンアンやってる声が周りで響いている。

天幕だからそりゃ防音なんてできないよな。

っとまあ、そういうわけでピンのほうは出払っていることもあり来たのは当然のごとくキリのほうだった。

むしろこの人と行為をしようとする人を勇者と呼びたくなるような……。


痩せと太りはどちらが宜しくないか、それは一概に言えることではないのだが。

太っている女性は性的な意味とは別の意味で話しやすい人が多い。

ある種のあきらめから来る余裕かもしれない。

自分の太っている事をギャグにする事で防衛線を張ったりはするが、概ね話しやすい。


対して痩せの女性は神経質なことが多い、ダイエットのしすぎなのか、それともそれがデフォなのか。

ともあれ、ガリガリで女性的魅力に著しく欠ける病気なんじゃないかと心配したくなる体つきの女性だ。

それも、顔つきもまた目がおちくぼんでいたりして非常に怖い。



「お客さん、初めてなんだって?」

「あっ、ああ……」

「じゃあ、優しくしてあげるわよー」

「あっ、えっとな。あんまり急がなくてもいいよ……」

「もう出撃まで時間もないのに来たんでしょうー?

 勢いをつけるためよねー?」

「まっ、まあな……」



ガリガリでアンデットなんじゃないかと疑いたくなるその女性。

しかし、流石商売、時間内にきっちりと昇天させるべく俺に近づく。

俺は思わず後ずさりするものの、この部屋自体、ベッド以外はほとんど何もない部屋の広さも2m四方くらい。

つまりは、追い詰められるべくして追い詰められた。

フィリナに散々からかわれたが、俺も童貞卒業には夢がある。

そう、恋人を作ってその人とという……。

分かっている、このままでは9割方の確率で恋人が出来ず魔法使いと呼ばれるようになる事も。

それでも、商売の方相手に捨てるのは何か負けた気がするのだ(泣)



「いや、だから少し話を聞いて欲しいんだが」

「もう、いったいどうしたの? ここに来て行為以外のことを頼む人なんて初めてよ」

「あー、すまない。どうしてもちょっと聞いておきたいことがあって」



俺は言い訳がましくなんとか時間稼ぎを始めるが、相手はさっさと抜いて終わらせようとまた動き始めている。

こら、尻を触るな! 服を脱がそうとするな!

俺は必死で服を抑えながら、なんとか話を続ける、フィリナも同じ苦労をしているのだろうか?(汗)

でもこうやって人を減らしたんだから多少は成功率も上がったはず。

ヴィリ、本当に急いでくれ!!

そう頭の中では思いつつも、近い将来この時童貞捨ててれば良かった、とか考える自分が容易に想像出来泣けてきた。



その時、突然天幕が怒号につつまれる。

白銀騎士団の数名が天幕の奥から飛び出してきたのだ。

予定通りではあるが、もっと穏便にできなかったのか……。

俺とフィリナは騒ぎを聞いて逃げ惑う兵士に紛れて天幕を抜け出す。



「ふぅ、あいつらの事だから大急ぎで駆けつけるだろうな」

「はい、それに劇団が眠らせる以上の事が出来なかったのはもう一つ理由があります」

「ほう」

「皇女に何かあれば残る白銀騎士団に自動で伝わるようになっていますから。

 それに、一日以上報告がない場合も同じ、それでも夜まで眠らせるだけなら大事にはなるまいという判断でしょう」

「それだけあれば、軍はもう山脈を抜けるからな……」



俺たちは、白銀騎士団をそのまま追いかけずほかの兵士に紛れながらイシュナーン皇女のいる天幕を目指す。

そろそろ俺達の事もバレて騒ぎになっているが、

6人の女性騎士達が兵士らを蹴散らしながら天幕へ疾駆する姿がある以上そちらに注目が行く、

結果的に俺達は見つからずに兵士に紛れ込んだ。



「後は……、やはりか……」



イシュナーン皇女のいる天幕には、赤いドレスを着た女が一人。

まるで、白銀騎士団が出てくることをあらかじめ予想していたかのように現れる。

確か、キッスとかいったな。

胸の傷、どうやらもう塞がっているようだ、心臓を貫かれたはずなのに。

化け物、いや魔物の血の効果か、全く……。

しかし、これでよくわかったやはり劇団が関与しているわけか、だが奴はどうする気だ?

よく見れば、彼女はイシュナーン皇女を抱えている。

5歳児なのだ、女性の細腕だろうと普通に抱え上げられる。

いや……まさか、俺達を犯人にするよりももっと手っ取り早い方法がある事を忘れていた……。



「皇女殿下の身柄確かに預りましたわ!」



ようは彼女がそのままメセドナ共和国に逃げ込むだけで十分開戦の理由を満たしてしまう。

そして、彼女らは表向き黒金騎士団とは全く関係がない。

黒金騎士団はただ追いかけるだけでいい、結果的に

それをさせるわけにはいかない、泥沼の戦争なんて御免だ。

だが、白銀騎士団が追いつくより早く、イシュナーン皇女を抱えた彼女の体は滲むように消えていく。

彼女の能力を考えれば蜃気楼か何かだろうか。

どちらにしても、逃がすわけにはいかない!



「フィリナ、結界で囲め!!」

「アイ、マスター!」



俺の考えなどお見通しという感じで、フィリナは既に詠唱を終えていた。

そして、キッスとかいうその女はその場の直上で浮力を失い落下した。

そこに素早く駆け込みイシュナーン皇女を助け出したのは白銀騎士団の面々だった。

流石に異能を持つという集団だけあり、動きも素早い。



「殿下! 皇女殿下! お起きくださいまし!」



白銀騎士団の女性騎士はイシュナーン皇女に目覚めの魔法を施しながら声をかける。

イシュナーン皇女はだんだんと目を開けているが、問題は落下したキッスのほうだ。

白銀騎士団は警戒し、構えを解いてこそいないが、今逃げられると非常にまずい。

皇女に牙をむいた女がメセドナ共和国方面に逃げれば少なくともメセドナ共和国に脅しをかけられる。

場合によっては、押し込み強盗のように居座ってしまえば問題ないとも言える。

だが、キッスは本人が能力を使えたはずもないから、恐らく誰かによって逃がされたのだろう。

恐らくは他の団員に……。


ここのところ、暗躍を続けられいい加減うんざりしている俺は、フィリナを促し、陣を脱出する。

混乱が続いているし、イシュナーン皇女が起きれば進軍を止めざるを得ないはずだからだ。

陣の外に出たところでヴィリが追いついてくる。

流石というか、上手いこと抜け出してきたようだ。



「ヴィリ、あいつらの逃走方向は分かるか?」

「もちろんじゃ、というか奴らとしても逃げることよりも、どちらに逃げたのかを教えねばならんからの。

 結果的に、そういう証拠作りのために立ち止まらざるをえん」

「なるほどな……」

「しかし、マスター。折角童貞を捨てるチャンスに何もできなかったようですね」

「う”っ……」

「まあそう言うものではないのじゃフィリナ、きっとシンヤはロリコンなのじゃ!」

「それはない」

「にゅっ!?」

「はい、マスターは真正の巨乳派らしいです。

 某宿屋のアコリス嬢や、セイン等を舐めるように……最近私も身の危険が……」

「ぶっ!?」

「ふっ、そう来たか……。シンヤのくせに生意気じゃな!」

「もうこの際なんでもいいから……追いかけよう……」

「わかりましたマスター」

「はーい、なのじゃ」



すっかり目的を見失った会話を強引に切り上げ、どうにか追跡を開始する。

しかし、さすがはハイエルフだけあって、レンジャーとしても鍛えられているヴィリ。

直ぐ様痕跡を発見すると、どんどん進んでいく。



「ん……、なんじゃ。途中でカモフラージュをやめておる。

 あちらは……帝国側、それも……前にピエロとシンヤ達が戦った渓谷の方ではないか」

「……なるほど、並行してやってたわけか」

「よほど魔力が欲しいのでしょうね、彼らは」

「目的地が分かったのなら話は早い、あの女を引っ捕えて戻るぞ」

「うむ……じゃが、間に合うかの?」

「さすがに厳しいかもしれん、しかし、皇女が反対すれば恐らく進軍するのは難しいんじゃないかな」

「恐らくそれも半日持つかどうかでしょう」

「それでも十分だ、行って帰ってくるのにはな」

「無茶なことを言う奴じゃの……まあよい、あの皇女に暫く頑張ってもらうとするかの」



俺達の方針は決まった、このメンバーに俺の意地に付き合ってもらえるのだから俺は幸せ者だろう。

とはいえ、正直悪いなとは思うが……。


ほんの2時間弱ほどで、目的地にやってきた。

流石に人目をはばかる必要もないからだ、フィリナには結界をいくつか準備してもらっている。

問題は、セインがまだ渓谷内に残っている場合だ、しかし、セインはとうに脱出したらしく結界が破壊されていた。

絶対安心とまではいかないが、それでも不安材料は減ったことになるだろう。


渓谷の周囲に時限式の結界をいくつも仕掛けたあと、俺達は渓谷に踏み入る。

そこは、ある意味以前とは全く違った光景が作り出されていた。

石で出来た壁、客席と思しき段差、中央部が一番低くなっており、外周部から見渡すことができる。

中央部で舞踊や劇をし、外周の客を楽しませる、もしくは、神事を行い惹きつける、そういう場所。

それは、正に円形舞踏場というやつだ。



「全く、凝った仕掛けをしてくれるな」

「いえいえ、貴方達の物好きさには適いませんよ」



俺は、その中央に立っている黒いシルクハットとタキシード顔にはアイマスクをし、

赤い裏打ちのマントというタキシード仮〇を彷彿とさせる男を睨みつける。

外のその背後には、釣り人ことソード、ピエロことグリフィン、貴婦人ことキッスの3人が控えていた。

皆2つの呼び方があるが、どちらも本名じゃない、彼らがどういう存在なのかもさっぱりわからない。

ただわかるのは、彼らが黄金の魔物を連れ去り、白銀の魔物を探しており、そしてこの戦争を望んでいるということ。

そして、俺達は戦争を止めようとしているという事。

だが、それだけ分かっていれば今は十分だ。



「その、キッスとかいう女を渡してもらいに来た」

「あなたはこの可哀想なキッスを軍隊に突き出すおつもりですか?」

「ああ、彼女はそれだけのことをしたし、戦争を止めるためにはどうしても必要だ」

「ほう、貴方達は戦争を止めたいのですか」



まるで不思議な人を見ているかのように俺に問い返すタキシードの男。

俺は、相手が何か酷い憎しみを心に隠しているのを感じた。



「貴方は魔族でしょう? 元は人かもしれないが、今の貴方は立派な魔族だ」

「それがどうかしたのか?」

「魔族となった貴方が何故人の事をそんなに心配するんです?

 それも、赤の他人なんですよ、それに貴方は恨みを持ってもいいはずだ。

 魔族であるというだけで、周りの皆に手の平を返された貴方なら……」

「なるほど、確かにそういう考え方もあるんだろうな。

 いや……俺だって、恨みを持っていないといえば嘘になるかもしれない。

 だが、それだけじゃない。

 俺は故郷で人に認められたことはなかった、初めて認めてくれたんだよ俺のことを……」

「だがそれも一時の事でしょう、結果的に貴方は見捨てられている」

「そうかな? 今、俺の下には俺が魔族だと言っても付いてきてくれる人たちがいる。

 それだけで十分じゃないか?」

「……貴方とは分かり合えるのではないかと思っていたのですが」



団長というかタキシードの男は、少しだけ顔を伏せる。

この後戦いとなるのだ、時間稼ぎをさせているわけにはいかない。

だが俺は質問をしてしまった。



「お前たちは人に恨みを持っているのか?」

「その通りだ、人は魔族よりもタチが悪い。

 ソードは殺人現場に通りすがっただけで、犯人にされ、拘留を受け10年の月日を牢獄で暮らした。

 その間に妻は離婚し新たな夫を作っていたらしい、子供は彼の事を忘れていたそうだ。

 後にある貴族が罪をなすりつけるために行なったと分かったが、未だにその貴族にお咎めはない」

「復讐は自分の手でやったからもういいですよー」

「キッスは貴族の生まれだが、他国の侵略を受けた時、父や母に汚名を着せられ、侵略軍に差し出された」

「……そんな事……忘れましたわ」

「グリフィンはサーカスに差し出された孤児だったが、

 容姿に恵まれていたため、客を取らされ金持ちの慰み者となった。かなり無茶な事をさせられていたようだ」

「……あーはっはっは、サーカスはいかが?」

「この通り少し壊れている、そして私は、魔王領と帝国の中間にあった小国の王族だった。

 魔王領からの攻撃を受け止めている時、同盟を結んでいたはずの帝国軍の奇襲を受け……。

 滅びた我が国はさんざん略奪され、既に何も残っていない、そう何もだ!!

 歴史すら無かったことにされ、存在しなかった国となっている!」



つまりは、それぞれ復讐を満たすため、人そのものに憎しみを向けているということか。

実際、彼らには同情できる面もある、しかし、戦争を起こすという事の意味がこいつらに分かっているのだろうか?

それは、彼らのように憎しみを抱いて復讐者となる人たちを大量生産するという事だ。

つまり、彼らは彼らの嫌いな人と同じことをすることになる。



「そして、魔族を狩るのは魔族の血を得るためか」

「そういう事になるね」

「結局、お前たちは誰も信用していないって言うことだな」

「ああ、当然だろう?」

「復讐したくなる気持ちは分からなくはないが、無軌道にそれをぶつけるならそれは単なる我侭だ」

「っ!」



そう、誰だって嫌なことはあるし、殺してやりたい奴がいることだって少なくない。

しかし、その復讐の目を世界全てに向けても結果的に何も生み出せはしない。

不幸の連鎖、復讐の連鎖を呼ぶだけだ。

誰かがそれを止めない限り延々と続いていく。

一人でいることが多かった俺だからこそ、そういうことは考えすぎる程に考えた。

結論は出ていないが、それでも言えることがある、無軌道な復讐は不幸しか呼ばない。



「……どうやら私たちは本質的に相容れないようですな」

「どうなんだろうな。ともあれ俺の目的はキッスだったか。

 彼女を帝国軍の前に連れていくことだ」

「なるほど、確かに。もう戦争を止める手段はそれくらいでしょうね。

 貴方がどうやってザルトヴァールの鬼姫を丸め込んだのか知りませんが、彼女が味方なら確かに不可能ではないでしょう。

 だが……」

「ああ……、お前たちの目的からすれば、庇うだろうな」

「そういうことです。そして、この円形舞踏場は円形闘技場となる」



その言葉の通り、中央部の舞踏をするための飾りや、配置は取り払われ、地面が露出する。

更に、中央部は広がりをみせ10m四方から30m四方くらいにまで広がった。

そして、石柱が外部に出て、中央部は完全に何もない空間となる。

それは戦いの場、彼らが用意した幻想なのだろう。

ならば俺たちは、その幻想ごと打ち破ってみせるしかない。



「一度だけ言っておく。俺たちは既に何度もお前たちの芸を見ている」

「だが、私の芸はまだ披露していない!」



その言葉とともに、周囲に陰りが見え始める。

……なるほどこれは……。



「睡眠の魔法か……」

「いや、正確には思考力を奪う魔法だ。君たちの思考力は低下していく。

 抵抗などできないよ、そしてそのまま眠りにつくといい」



なるほど、確かに面倒な魔法だ……。

思考力を奪うため、抵抗するという思考もだんだん奪われる。

結果的に、眠りにつくのは完全に思考できなくなったからだ。

永続はしないだろうが、それでも数日眠り続けさせる位のことはできるだろう。



「だが……それも見ているといったら?」

「なっ……」

「フィリナ、魔方陣の展開タイミング、見事だった」



そう、フィリナの仕掛けた魔法により彼らの魔法は粗方無効化されている。

今まで何度も食らって分かったことだが、彼らの魔法はいわゆる場に作用する。

詠唱して魔法を使っているのではなく、その血の力で無理やり場に魔法をかけているのだ。

それぞれにカスタマイズしたジャマー的な魔法陣を組んでやれば場を乱す事ができる。



「どうして……」

「ヴィリちゃんの存在を忘れていたのがお前の敗因じゃよ」

「……まさか!?」

「ヴィリちゃんも皇女を眠らせる現場にいたからの」

「……」



その時ヴィリは恐らく潜んでいたのだろう。

ヴィリなら一人でも対処出来た気もするが、そのへんは恐らく一人だけでやっても面白くないとかそんなところか。

それを否定して協力してもらえなくなるのも仕方ない話だし、今は置いておくことにしよう。

ただ、これで彼らの切り札である魔血によって得た力はほとんど無効化したといっていいのだから。

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
今週もいろいろあって少々時間が遅れましたがどうにか水曜日の範囲内でUPできそうです。
今回もかなりグダグダですが、とりあえず相手の初手を封じて劇団との決着を目指します。
強さ的にはそれぞれ一芸であるために、そこそこの域を出ないかれらですがハマれば強いですからね。
とはいえ、本文中のとおりなんども見ているので……。
まあそういう感じです。



感想皆様ありがとうございます!
やる気が湧いてきます♪
テンションの維持は大事だなーと毎回思っている次第で。
時間がなければ執筆できないとはいえ、やる気がでないと時間関係ないですからね。
今後もがんばって感想もらえるようなものを作っていきたいと思っております。



>kieraさん
ですねぇww、というか私が18禁が書けないだけなんですがね。
Hシーンなしならいくらでも汚れさせることができますが。
Hシーンは書くのが恥ずかしくてwww

確かに、転生者って10歳までに大人以上の能力持ってるとかざらですよね。
でも、個人的には10歳以下で主人公がいくら強くても格好つけて格好つかないと思うのは私だけでしょうか?
ついでに、そんな不気味な子は親としても育てにくいような(汗)

シンヤの悪名……どうなるかは今後の展開次第かもですね。


>まぁさん
楽しく読んでもらえてなにより!
フィリナの弄りはどうしても平時に限られるので、緊張している時はシンヤを護衛しようとしますからw
前回はうまく挟めるシーンがあってよかったです。
今回は、ちょっと無理でしたが(汗)

石神は目の前の相手だけを見ていればいい場所にはいませんからね。
いずれ来る魔王領の軍勢も相手しなくてはならないし、人類側勢力も牽制しないといけない。
最終的には第三勢力を作るつもりでいるので、いろいろ手が足りない状況でしょう。

商会は設計図をもとに何をするのかは現状分かっていませんが、
石神は既に現物も完成させていますww


>Februaryさん
戦争が開始される可能性はかなり跳ね上がっています。
現状で彼らが引き上げたとしてもただでは帰れないでしょうね。

石神とアルバンはまぁ、もう少し先にネタバレをww
でもまあ、飛行石何か使ったらバレバレですやねw

安心安全の童貞ネタwww
ただまあ、緊張感の高いところでは使いづらいので控えてます。
フィリナの性格上そういうこともしにくいですしねw

ほほう、今度見ておきますねw
そういうネタキャラって多いんでしょうなww

そういえば、なんだか幼児をレイプしたって犯罪を聞いたことがあるけど。
ポークビッツ以下の大きさでなければ不可能でしょうな……。
趣味の事までは知りませんがww


>STC7000さん
お忙しい中コメントいただきありがとうございます。
今後も頑張っていきますので、またお時間が出来たら感想もお願いしますねw
決算だったり、仕事の山場だったりいろいろありますからね、頑張ってください!


>T城さん
そうですね、戦争開始が近づいてきています。
というか、いろいろあって動きが止まっているザルトヴァール帝国軍、そして迎え撃つ石神。
どちらも一筋縄で行くような連中ではないですがw
飛行するものとだけ今回は言っておきますw
ネタバレですしねw

シンヤの方もかなり追い詰められてますね、止めても恐らく帝国軍もただでは帰れないでしょう。
ただまあ、いろいろご都合主義はやるかもしれませんwww




それでは、皆様次回も頑張りますのでよろしくお願いしますね!
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