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コードギアス 共犯のアキト 第二十五話「王の剣」(後編)
作者:ハマシオン   2011/10/16(日) 18:34公開   ID:0A0oW1AgDOk
コードギアス 共犯のアキト
第二十五話「王の剣」(後編)





「敵航空艦から艦載機の射出を確認! しかしこれは……速度が戦闘機以上です!」

 嵐が過ぎた直後に再び始まったブリタニア軍の攻撃と同調するように、上空から飛行戦艦と思われる気影が前線を突出。ミサイルの飽和攻撃にも耐えきった程の防御性能に驚く暇もなく、2機の艦載機が真っ直ぐこちらを目指している。

「敵の正体はなんだ?」

「映像を捉えました! スクリーンに出します!」

 澤崎の声に応えて兵の一人が敵の様子を映し出した。
 正面スクリーンに映し出されたのはランスロットとモノケロスの姿。単独で飛行するナイトメアの姿に、基地司令部の兵士達から驚愕の声がそこかしこから上がる。

「空輸ではなく、単独飛行だと!?」

「あの機体は……報告にあったラウンズと枢木の機体か!」

 ツァオ将軍と澤崎も同様に驚愕するも、その顔には未だ余裕が感じられる。それもそのはずで、相手は飛行可能な高性能機とはいえ、たった2機。対してこちらは100機近いナイトメアと多数の戦車や戦闘ヘリを備えているのだ。
 それに性能がどうあれ、相手がナイトメアと判明している以上、打つ手はある。ツァオ将軍はそう考えて迎撃部隊へと命令を下した。

「ヘリ部隊前進。まずは相手のエナジーを消耗させろ」





 ――まるでピラニアのいる川を遡って泳いでいるようだ。
 スザクはそんなことを考えながら次々と襲いかかるミサイルの雨をかいくぐり、ハーケンでヘリを落としていく。
 発艦後間もなくして迎撃に出てきた戦闘ヘリからの熱烈な歓迎に、スザク達は予想以上の消耗を強いられていた。対空ミサイルは言うに及ばず、数だけは多い戦闘ヘリからの銃撃やミサイルにロケット。それらがこちらを休ませることなく攻撃してくるのだ。福岡基地は、九州エリア最大の要害ということは分かっていたが、これは敵の指揮官の手腕によるところもあるだろう。

『ちいっ、このままではエナジーの消耗が馬鹿にならん! 枢木、雑魚は無視して最大戦速で防衛ラインを突破するぞ!!』

「Yes, My Load!」

 ドロテアも同様に考えていたのか、鬱陶しく飛び回るヘリを無視しフロートのスラスターを全快にしてその場を離脱した。それにスザクも続き、一路福岡基地へと向かうランスロットとモノケロス。
 敵の戦闘ヘリが相変わらず行く手を阻んで攻撃を仕掛けるが、極力回避に専念し、進路を阻むヘリだけをハーケンやMVS、ブレードで擦れ違い様に切り捨てて行く。
 そうして発艦して数分後、山間部が開けて人工的なライトに照らされた福岡基地が露わになる。

「右手に滑走路を確認。これより着陸します」

 緩やかに速度を落とし、スピナーを出して着陸するランスロット。ブレーキをかけつつ機体を安定させようとしたその瞬間――

『枢木、右だっ!』

「っっ!」

 ――機体を捻って左腕のブレイズ・ルミナスを展開。直後襲った複数の砲火からなんとか身を守ることができた。次いで降りてきたモノケロスが砲撃した機体に対してライフルを撃ち、撃破する。

(無防備な着陸時を狙うとは、よく考えてる!)

 フロートユニット装備の機体で、急制動からの垂直着陸もできないことはないが、今回の作戦ではエナジーの消耗を極力抑えなければならないため、そのような無茶な機動はできない。
 そして着陸の隙を狙って撃ってきた機体と同じ機体が、基地のそこかしこから姿を現した。サザーランドより低い全高にずんぐりとしたシルエット。そして二本の脚ではなく、背中から延びる補助輪によって自立を可能としているなど、おおよそナイトメアとは認められないほど不格好な機体だ。
 だが搭載している火器は両腕の二門のマシンガンに加え、腰にも二門のキャノン砲を備えているため、正面火力だけならサザーランド・オーガーにすら匹敵する。
 機動力をウリとするブリタニアのナイトメアとは、根本的に発想が異なる機体コンセプトだ。

「あれが中華のナイトメア、ガン・ルゥか!」

 10機以上のガン・ルゥの搭載火器が一斉に火を吹き、ランスロットと着陸しようとするモノケロスに襲いかかる。スザクはブレイズ・ルミナスを展開しつつヴァリスで敵の注意を引きつけ、ドロテアはその隙になんとか基地の滑走路へと着陸した。
 そしてランスロットと合流して、モノケロスもライフルで応戦するも相手の火力に押されてしまう。
 2機は盾とブレイズ・ルミナスで防御しつつ移動、左右に広がる施設格納庫の隙間を縫いながら、基地司令部へと目指す。
 そして建物の隙間に入って相手の攻撃が途切れたその時、オープン回線を通じて敵から通信が入った。

『そこのナイトメアのパイロット。君は枢木の息子か?』

「……っ!!」

 スザクがランスロットのパイロットということは、先の選任騎士の就任式典で大々的に報じられていたため、澤崎がこちらを知っていても不思議ではない。だが今更このような戦場で自分に何の用なのか。

『ふふふ、そうか。奴にこんな息子がいたとはな……』

「……澤崎さん、今ならまだ間に合います。降伏して下さい!」

『何故だね? 君達を追いつめているのは我々だ。それに私は奪われた祖国を取り戻すという、正当な主張がある。君のように国を捨てて、敵国の兵士に成り下がった輩に文句を言われる筋合いはない』

 国を捨てた――そう紛れもなく自分は国を捨てたのだ。自覚はしていたものの、他人から言われるとやはりその言葉は自分の心に重くのしかかる。
 自分の矛盾に気づきながらもルルーシュに指摘されるまで、向き合おうとしなかったその行為。だが今の自分には、自分の剣を捧げるに値した方がいる。彼女ならばこの間違った社会に楔を打ち、きっとよりよい世界にしてくれる。そう信じているからこそ、今の自分に自信を持つことができるのだ。
 スザクは澤崎の言葉に動揺を感じず、逆に強く言い返した

「ならば言わせてもらいます! あなたは所詮中華という虎の威を借りているに過ぎない! 他者の手を借りて得た独立など、誰の賛同も得ることはできず、いずれは瓦解します!」

『それが戦略と言うものだ。やはり君はまだまだ青いな』

『枢木、最早奴は耳を貸さん! 待っていろ澤崎。今すぐ貴様のその首を落としにいってやる』

『ふん、黙っているがいい、皇帝の犬め……スザク君、我々に投降したまえ、旧日本国首相の遺児として、丁重にもてなすことを約束するよ。君が希望するなら、その女も同様の扱いをしてあげてもいい』

 澤崎の言葉から、スザクはここで自分達を逃がさず捕らえるつもりなのだろうと予想した。正確にはランスロットとモノケロスを求めているのだろうが。
 ガン・ルゥの機体を見る限り、中華の技術力はブリタニアや日本のそれに及ばない。ランスロットとモノケロスは最新鋭の第七世代。世界を股に掛ける大帝国の最新鋭機ともなれば、どこの国も喉から手が出るほど欲しがるものだ。
 しかしそんな事情は知ったことではない。スザクは強い口調でそれを突っぱねた。

「お断りします! こんな所で父の名を使って、自分を辱めるつもりはありません!!」

『……頑固な所は父親そっくりだな。では、死にたまえ』

 その声と同調するように、ランスロットとモノケロスの死角……後ろ上方から銃撃が襲いかかった。

「くっ!?」

『なにっ!?』

 予想できない方向からの銃撃、建物の壁しかない方向からの攻撃に、2機のフロートシステムは破損してしまう。
 そして銃撃の正体はガン・ルゥや攻撃ヘリでもなく――

「あれは……虫型の無人兵器!?」

 壁にへばりつき、口からガトリング・ガンの銃口を覗かせるのは赤いカラーリングの虫型無人兵器。それは1機だけではなく、ビルの屋上から次々と姿を現し、威嚇するようにガチガチと口を鳴らしている。
 ――その正体はアキト達の世界で、陸上用の無人戦闘兵器として使われていたジョロだった。

『くっ……ここはマズイ! 移動するぞ枢木!』

「は、はいっ!」

 ガン・ルゥの攻撃から逃れるために狭い路地へと逃げ込んだ2機だったが、壁をはって進入してくる無人兵器相手では、この場は不利となる。2機は施設の路地を出ると、再び施設の中央部へと目指した。





「例え単独飛行可能なナイトメアといえど、飛行するには幾ばくかの加速がいります。しかしこの基地でそのような隙は与えませんし、万一飛行を許したとしても離陸直後は最も隙が大きい。此処に侵入した時点で奴らは文字通りの袋の鼠ですよ」

「流石ですなツァオ将軍。あの無人兵器も早速役に立ったようでなりよりです」

 いかに高性能機といえど、エナジーを消耗しきってしまえば、木倶の坊に成り下がる。こちらには多数のナイトメアや攻撃ヘリ、そして基地格納庫に保管してあった無人兵器がある。数で押せば、たかが2機に負けるはずもない。
 虫型兵器は敵が仕掛けてくる直前に制御系を奪えたので、実戦テストを兼ねて投入してみたが、中々の働きをする。ブリタニアのナイトメアだけでなく、あの無人兵器を持ち帰れば、中華の軍も充実させることができるだろう。ツァオは澤崎の言葉に軽く頷きながらも、心の中でほくそ笑んでいた。





「くっ、流石にこの弾幕では……っ!」

『スザク君! エナジーの残量が危険領域に入っているわ! エナジーを戦闘と通信に絞り込んでっ!!』

 敵の司令部に徐々に近づいてはいるものの、フロートも故障しエナジーも底をつきはじめて、スザクの心は焦燥に駆られ始める。
 その様子をアヴァロンのモニターで逐一見ていたユーフェミアは、座っていた席を立ち上がるとよく通る澄んだ声で、声をかけた。

『スザク! あきらめてはなりませんっ! あなたにはまだまだしてもらうことがたくさんあるのですから、そんな所で死ぬことは許しません!!』

「……ッイ、Yes, Your haighness!!」

『ドロテアさん! あなたにはまだ未熟なスザクを導いてもらわなければなりません! あなたが真のラウンズというのなら、その力を今此処で見せつけて下さい!!』

『フフフ、そこまで言われればもう一踏ん張りしなければなりませんな!』

 ユーフェミアの発破に、あきらめかけていたスザクと、状況に焦り始めていたドロテアは再度奮起する。そしてガン・ルゥの並ぶ防衛ラインの一角に綻びを見つけると、その場に突貫。ライフルブレードでガン・ルゥの部隊を薙払うと、包囲網を突破した。

『枢木! ついてこい!!』

「は、はい!!」

 ランスロットがモノケロスの開けた穴に続き、進行を止めようとするガン・ルゥ達をMVSとハーケンで蹴散らしていく。そして大きな隔壁が下ろされた門の壁を、ハーケンを使って飛び越え門の上へと着地する。門の上ではモノケロスも同様に佇んでおり、視線を門の向こうへと向けていた。
 1kmもない先には澤崎がいるであろう総司令部、そして眼下には多数のガン・ルゥと戦車、そしてジョロの姿があった。

『さて、澤崎の元へ行くにはこいつらを突破しなければならないわけだが……枢木、残りのエナジーはどの程度だ?』

「……残り5%と言ったところです」

『私も似たようなものだ……状況は絶望的、か』

「ですがユーフェミア様の命です。絶対に生きて戻らなければなりません」

『……フ、そうだな。勝利を掴んで凱旋するぞ!』

 この後に及んで引く道理はない。例えエナジーが底を尽き機体が動かなくなっても、敵の機体を奪ってでも澤崎の元へとたどり着いてみせる。
 ランスロットとモノケロスを壊してロイド博士に怒られるかもしれないが、生きて帰ったらその怒りは甘んじて受けようと小さく笑い、そして意を決して飛び出そうとしたその時――


『おまえ達の覚悟、見せてもらった。しかしここから先は私に任せてもらおう』


 そう告げるくぐもった声と共に、赤黒い閃光が眼下を薙ぎ払った。





「何事だっ!?」

 ブリタニアの最新鋭機をもうすぐ撃破できそうだというその時、突如襲いかかった赤黒い光線に、包囲していたガン・ルゥの部隊が謎の光線に飲み込まれ、総司令部は突然の事態にざわめいていた。

「わ、分かりません! いきなり反応が現れました!」

「なんだとっ、ステルスかっ!?」

「映像捉えました! モニターに出します!!」

 オペレータは端末を操作して、光線の発射元にカメラを移動させ、その姿を捉える。
 そこには、六枚の羽を以て悠然と浮かぶ不気味なナイトメアの姿があった。双つの眼は冷厳と地を見下ろし、その身に纏うのは夜空に溶け込むような漆黒と目を奪われそうな黄金色。その体躯は赤々と燃える炎に照らされ、さながら地獄を見下ろす魔王のようであった。

「な、なんだ、あのナイトメアは……」

「攻撃してきたのですから敵に決まっております! ヘリ部隊! 相手は1機だ! 包囲してせん滅しろ!!」

 呆然とする澤崎にツァオ将軍が渇を入れるように吠え、残存のヘリ部隊を向かわせ攻撃するよう指示する。
 先程の光線により多くのガン・ルゥを破壊されたが、敵が光学兵器を持っているとしても全方位に撃てるはずがない。例え正面の部隊がやられても側面、あるいは背後に回る部隊が攻撃を加えればそれまでだ。
 しかしそんな目論見も、空に浮かぶナイトメア――ガヴェインに搭乗するルルーシュにとっては無為なものだった。

「なるほど、よく考えている……だが無駄だ」

 IFSを通じてガヴェインに命令を下し、左右に広げた両の腕を包囲しようとしているヘリ部隊へと向ける。その数はちょうど10機。

「貴様等にはこれで十分だ――消えろ」

 その言葉と同時に、両手の指に仕込まれたハーケンクローが射出され、黄金色の凶爪がヘリを寸分の狂い無く貫き、夜空に更なる火花を彩らせた。

「バカな! 10ものハーケンを別々の目標に放つだと!?」

 その様子を下から見ていたドロテアは驚愕を露わにした。
 ガヴェインのスペックはモニカ経由で既に知っており、その扱いがとんでもなく難しい所詮実験機でしかないことも知っている。確かにフロートシステムを始めとした数々の機構は素晴らしいが、いずれも未完成でまともに運用することは出来なかったはずだ。
 だというのに、あのガヴェインはハドロン砲の収束のみならず、本来面制圧の武器でしかないガヴェインのハーケンを指一本ずつ別々の目標に狙いを付けるという離れ業を見せつけている。
 本来スラッシュハーケンはシステムの補正があるとはいえ、手動で狙いをつける兵器だ。腕が二本あるのだから、二つのハーケンを使いこなすものは多くいるし、ランスロットやモノケロスのハーケンは補助ブースターを備えてあるから同時に四つのハーケンを扱うことができる。
 しかしガヴェインのハーケンの総数は10。とてもじゃないが同時に全てのハーケンに狙いを定めるのは普通では無理な話だ。
 一体どのような手品を使ってあのじゃじゃ馬を使いこなしているというのか、ドロテアには皆目検討がつかなかった。





「IFSの同期は問題なし、ハドロン砲の収束、及びハーケンの照準精度もコンマ02以下……流石はラクシャータだな」

 従来のナイトメアのコックピットよりかなり広く作られたガヴェインの後部パイロットシートで、ルルーシュはその出来の良さを改めて確認し、そう呟いた。
 神根島から帰還した直後、ラクシャータにIFSへの転換、さらにハドロン砲の調整を頼んではいたが、予想以上の出来に薄く笑みを浮かべる。

「ルルーシュ、喜ぶのはまだ早いぞ。そら、正面から出迎えがまた一段と増えたぞ」

 前方のシートに座る純白のパイロットスーツを着たC.C.が窘めるようにそう告げる。
 正面からはガン・ルゥが総数30機余り。基地周辺を守るように飛んでいた攻撃ヘリもこのガヴェインの元へと続々と集まってきている。C.C.のナイトメアライダーとしての腕前は黒騎士も太鼓判を押すほどのものであるし、ハーケンとハドロン砲があれば、敵が集結する前に片付けることはできなくもない。
 だがそれだけではつまらない。これは好都合と、ルルーシュは顔に張り付けた笑みを更に深くした。

「いい機会だ。おまえ達に見せてやろう……IFSの真髄というものを」





『聞け、仮初めの大儀を抱く哀れな兵士達よ』

「これは……オープン回線か!?」

「貴様! 一体何者だ!!」

 総司令部で、事の推移を見守っていた澤崎達は、スピーカーを通じて発せられた敵の声に反応すると憎々しげな声で問い質した。

『我が名はゼロ、黒の騎士団総帥にして、不当なる暴力を振るう全ての敵だ』

「ゼ、ゼロだとっ!?」

 今この世界で最も有名な対ブリタニアの抵抗組織、黒の騎士団。それを率いる男がたった一人で戦場に現れるのも不可解だが、何故同じ目的を持った仲間である自分達を攻撃するのか。

「ゼロ! 貴様は私と同じ日本解放を憂う同士のはず! それを不当とは何事だ!!」

『同じ? おこがましいな、澤崎よ。貴様は自らが先頭に立って動いていると勘違いしているようだが、所詮貴様は愚かな傀儡にすぎない』

「な、なにいっ……」

 ゼロの侮蔑に等しい言葉に、顔を歪ませる澤崎。
 戦略のため、ブリタニアから日本を取り返すためとはいえ、中華連邦に媚び諂って軍を用立たせて日本を取り返しにきたのは紛れもない事実。それを取り繕いもせず、あからさまに馬鹿にしたような言葉で指摘されたため、スザクに指摘された時以上に、澤崎の怒りを買った。

『貴様は既に舞台に上がる資格などない。あるのは唯一つ……道化としてこの舞台で最後まで踊ることだけだ』

 好き放題喋るゼロの言葉を聞きながらも、ツァオは部隊に敵を包囲するよう伝えており、直ぐに攻撃を仕掛けれるよう準備をしていた。敵が会話に集中しているのなら好都合。その隙に撃ち落としてやろうと瞳を鋭くする。
 そしてついに堪忍袋の尾が切れた澤崎が、攻撃命令を下す。

「戯言をっ! 最早問答無用だ! 全機、目標をあのナイトメアに照準を合わせろ!!」

『故に――』

 しかしその命令の矛先は――

「撃てーーーっっ!!」

 ――ゼロの告げる言葉に塗り潰される。



『舞え、傀儡くぐつの如く』



 これまでと比べようのないくらい濃密な弾幕と砲火が総司令部のモニターを覆いつくし、その光景に澤崎とツァオはこれで終わったと、確証の笑みを浮かべる。
 しかし硝煙が晴れ、そこに映った光景に今度は信じられないといった驚愕の表情を浮かべた。空を舞うガヴェインには傷一つなく、変わりに何機ものガン・ルゥが破壊されていたのだ。

「な、何が起こったのだ!?」

「同士討ち!? 馬鹿者っ、何をやっているっっ!!」

ガン・ルゥの放った死を告げる銃弾は、空に浮かぶガヴェインへと襲いかかることはなく、何故か友軍の部隊へと襲いかかった。

『そ、操縦が、操縦が利かないっ!』

『おい、やめろっ! こちらは味方だ!!』

『言うことを聞けよこのポンコツっ!!』

『う、撃つな。撃つ――――ブッ』

『止まれ止まれ止まれっ! 何で動かないんだよっっ!!』

『あ……あぁ! 誰か! 誰か止めてくれえぇっ!!』

 ガヴェインが見下ろす機体の全てが操縦不全に陥り、至る所で同士討ちが発生、そして連鎖的に混乱が生まれていた。
 それはまるで自ら死へと行進するレミングスの群のようであり、同時に踊り狂う喜劇の人形のようであった。
 そうして1分も経たない内に展開していたガン・ルゥは全て行動不能に陥った。ガヴェインを包囲しようとしていたヘリ部隊も操縦不能となって墜落し、その爆発によって基地の至る所で炎が上がっている。
 ガン・ルゥのパイロットで未だ意識が残った兵士の一人が、炎と火の粉に照らされ、煌々と金の光を煌めかせながら空に浮くガヴェインを、霞ゆく視界の中に納めながら最後に慟哭する。

「ま、魔王……あれはまさしく魔王だっ!!」

 そのパイロットはかつて子供の頃に見たおとぎ話のような敵の姿に恐れ怖いた。そしてその言葉がパイロットの今生の最後の言葉となり、次の瞬間、赤黒い光が彼を飲み込むのだった。





「な、なんてことなの……」

「ちょっとちょっと! もしかしてハドロン砲の収束だけじゃなくて、もしかするとドルイド・システムの方も!?」

 福岡基地から200km程離れた上空に待機していたアヴァロンのロイドとセシルも、この光景をランスロットとモノケロスを経由したカメラ越しに観察していた。
 そしてモニターに映し出されたのは、彼らが調整に難儀していたガヴェインではなく、もてるスペックを存分に発揮したガヴェインの理想型そのものだった。

「ハーケンクローの同時多目的攻撃。そしてあれだけの数のナイトメアを支配下に置くハッキング能力……」

「どれもドルイド・システムのスペックを考えれば不可能ではありません……でも、それを可能とする処理速度を一体どうやって!?」

 しかしだからこそ分からない。
 ハドロン砲の収束については、自分達でも調整の目処が立っていたのでまだ分かる。だがドルイド・システムはその余りにも高すぎるスペックに、ハードの処理速度が到底追いつかないため半ば放置されていた。ゼロは如何にしてそれを可能としたのか……。

(ルルーシュ……)

 一方で、ゼロの正体を知るユーフェミアは、先ほど起こった凄惨な光景を作り出したのがあのルルーシュだと今更ながらに思い至り、悲しみとも哀れみともつかぬ感情に至る一方、これが戦争なのだと自身の心を戒める。
 そもそもスザクやドロテアに敵を倒すよう命じたのは自分自身なのだ。今更綺麗事を言うことなどできない。だがしかし、祈る事くらいは許されるはずだ。

(どうか皆、無事に生きて帰ってきてください……)





「フハハハハハハッ! これがIFSの真の力だ!! 文字通り我が傀儡くぐつとなって、無様に踊り狂うがいい!!」

 眼下に映し出される光景を目にし、ルルーシュは高笑いをあげる。
 ルルーシュの両手はIFSの操縦幹を握ってはいるが、それは今までのようなグローブ型のものではない。彼の両手の甲にはIFSの文様がくっきりと表れており、それは地肌から発光していることが分かる。

「改めて感じたがやはり素晴らしいな、このIFSは。頭で感じたことをダイレクトに機体に反映させるだけじゃない。キーボードを全く使わずに、これほど複雑なシステムを文字通り我が手のように操ることができるのだからな」

 そう、ルルーシュはアキトやラピスと同じように自分の体にナノマシンを埋め込み、ガヴェインを操縦しているのだ。その効果はグローブ型のIFSと比べても、反応速度、処理性能が段違いで、かつてサザーランド1機でなんとかナイトメア1機を操っていた頃に比べるべくもない。
 元々搭載されていたドルイド・システムが多数の標的の捕捉、あるいは味方との同調を主眼に置いたシステムだったのも、この成果に繋がっている。
 ラクシャータのゲフィオン・ディスターバのおかげで、ハドロン砲の収束に加えてステルス機能も搭載され、強力な砲撃力と電子装備を備えたガヴェインは、正にルルーシュ好みの機体へと仕上がっていた。

「おいルルーシュ。新しい玩具にはしゃぐのもいいが、お前がそうしている間は機体の主導権は私にあるという事を忘れるなよ」

「言われずとも分かっている。だが半端な操縦をしてコイツを傷つけるなよ?」

「フッ、誰にものを言っている」

 欠点と言えばドルイド・システムを作動させて敵の機体を操っている際は、細かい機動や他の攻撃手段が一切使えないことだが、そのためにC.C.が乗っているし、他の敵を操って攻撃させたりすれば済むことだ。

「さて、下の2機……スザクのランスロットと、モノケロスとか言ったか? 奴らはどうするんだ?」

「スザクはともかく、ドロテアの方は片づけておきたいが、今手は出せんな……奴らには予定通り露払いの役をこなしてもらおう」

 他の機体、もしくはランスロットを操ってモノケロスを倒すこともできなくはないが、その場合スザクとの間に深刻な軋轢が残ってしまう。敵味方に分かれているとはいえ、せっかくの親友に溝を作りたくはなかった。
 エナジー切れでほとんど動かない2機の元へとゆっくりと近づくガヴェイン。

「二人とも、まだ駆動系は生きてるな?」

『その声、やはりゼロか……』

『貴様、我らに一体何の用だ』

 やはりというべきか、二人はこちらを警戒しているようだ。まぁ無理もないだろう。ランスロットとモノケロスはエナジー切れでほとんど動くことができないし、敵を人形の如く操るような真似を見せられて、警戒するなというのは酷な話だろう。
 だがゼロは二人に警戒することなく近づくと、両手に取り出したあるものを2機に差し出した。

『それはっ……エナジーフィラー!? どういうつもりだ、ゼロッ!』

「私はこれから澤崎を倒す。貴様達は好きにするといい」

 ゼロの言葉に目を丸くするスザクとドロテア。
 それをスピーカーで聞いていたユーフェミアはルルーシュの行動の意図を探ろうと頭を捻る。

(これは私達に……いや、ブリタニアに貸しを作るということ? いいえ違うわ、恐らくルルーシュも澤崎の日本を認めるつもりはない。彼が目指すのは他の国家勢力の後押しによるものではなく、自主的な独立――例え日本の独立を謳っても、正当性のない暴力は認めるつもりはない、という私ブリタニアと他の勢力に対するメッセージ……)

(それに加えて我らに地上の部隊の露払いをさせるつもりか。いくら空を飛び強力な砲撃能力を持っているといってもフクオカ基地は広い。少しでも消耗を抑えて澤崎の首を押さえる……といったところか?)

 ユーフェミアと同様にドロテアもゼロの行動の意味を推し量り、テロリストに貸しを作ることになるとはと、心の中で舌打ちをついた。
 例えゼロの思惑がどうであれ、ゼロの提案を断ればエナジーの切れたナイトメアを敵が放って置くわけがない。生き残るためには、ゼロの差し出すエナジーフィラーを受け取らなければならないのだ。
 そして只一人、スザクだけは共にルルーシュと戦えることに喜んでいた。スザクもルルーシュに色々と思惑があることは分かっていたが、既に和解した友人の助けに心沸かずにはいられない。
 ランスロットはMVSを背に納め、空いた手でエナジーフィラーを受け取った。

『悪いけど、それは僕達の手でやらせてもらうよ』

 そしてモノケロスも、致し方なしといった様子でライフルブレードを腰にしまい同じようにエナジーフィラーを受け取る。

『露払いなど冗談ではない。澤崎の首は我等の手でとらせてもらう』

「フッ、できるものならな」

 二人の言葉にそう返すと、ゼロはエナジーフィラーを2機に渡すと再び空高く舞い上がる。そしてエナジーを交換して万全の状態になったランスロットとモノケロスは再び剣と銃を携え、澤崎のいる総司令部へと疾駆した。





 一方の総司令部で、オープン回線でやりとりしていたゼロ達の会話を聞いていた澤崎達は、恐慌状態に陥っていた。
 それはゼロやスザク達が協力してこちらを攻撃しているからではない。いや、それもあるが、問題はこちらの戦力だと思っていた虫型無人兵器達が、ゼロが現れた途端こちらの制御を受け付けなくなり、こちらに銃口を向け始めたことだった。

「な、なんということだ……これもあのゼロの仕業か!?」

「止めろ! なんとしても奴等を止めるんだ!!」

 3機の暴れぶりは正に鎧袖一触。
 地上からは桁外れの突破力を持つランスロットとモノケロスがガン・ルゥを蹴散らし。空からはハッキング能力と強力な砲撃を持ったガヴェインが対空兵器や戦車を潰していく。そしてそれを助長、あるいは補佐するように無人兵器が暴れ回る。総司令部を守る防衛線は、文字通りズタズタにされていった。 
 そしてそんな孤立無援の状態の澤崎にさらに追い打ちがかかる。

「そ、総指令!」

「今度は何だっ!!」

「佐世保から緊急連絡です! 黒の騎士団の部隊が佐世保基地を強襲! 基地が壊滅状態とのことです!!」

 福岡基地がエリア11攻略の要となる基地であれば、佐世保は中華との中継地点となる重要な基地。そこを何故黒の騎士団が攻撃をかける!?

「基地の防衛部隊は何をしていたのだっ!!」

「そ、それがレーダー機能がほとんど動作していなかった上、例の無人兵器が――」

 しかし続く兵士の言葉は、突如照明が落ちることで遮られてしまう。
 発電施設をやられたかと、幾人かは考えたがどうも様子が違う。直ぐに補助電源が作動し、幾分かは明るくなった司令部で、今度はオペレータから悲鳴が上がる。

「大変だ! 基地のシステムがハッキングされている!!」

 オペレータの言葉に澤崎とツァオの顔が蒼白となる。ここでさらに基地のシステムまで乗っ取られてしまっては、手の打ちようがない。

「なんとかしろ! ここで基地の防衛機構を失えば、我々は丸裸同然だぞ!!」

「ダメです! 相手が早すぎます!!」

 幾人ものオペレータが必死に指を踊らせてハッキングに抗うが、そんな抵抗を意に介さないように、次々と防壁が突破される。
 そして抵抗空しく全ての防壁が突破され、完全に基地のシステムが敵の掌中に陥ったその時、正面のモニターに映し出された映像に、司令部の面々は目を丸くし、呆然とした。

「な、なんだこれは?」

 澤崎が困惑した表情でそう呟くのも無理はなかった。
 モニターには薄い桃色をバックに、でかでかとデフォルメされた釣り鐘が映し出されており、その釣り鐘にはこう書いてあった。

 『思兼』と――





 ――同時刻、佐世保基地沿岸

『なぁ、これってわざわざ俺達が出る必要あったのか?』

『確かに、あの無人兵器だけでも十分だよな』

「我々の目的は新しい船を安全に確保することです。不測の事態に備えるのは当然でしょう……第二特務隊、間もなく目標が出ます。至急敵の対空砲を沈黙させてください」

 黒の騎士団の潜水艦司令部では、ディートハルトが臨時のオペレータの役割を果たし、基地を襲撃する部隊に指示を出していた。
 佐世保基地は中華との中継拠点として機能していだけあって、中々の戦力が配備されていたが、内部から無人兵器が暴れている上、防衛システムを乗っ取られてしまったため、ほとんど抵抗らしい真似もできず、敵部隊は次々と沈黙させられていた。

「各基地の無人兵器、順調に集結中。現在の進捗は58%」

「追撃部隊は出ていませんね?」

「ま〜ったくないわね。どこの基地もあの『オモイカネ』ってコのおかげで大混乱しているみたいだし、その余裕もないんでしょう」

「しかし、これだけの無人兵器をブリタニアに察知されることなく配備していたとは、驚きですね……」

 現在黒の騎士団は全く同じタイミングで、九州エリアの各基地に秘密裏に配備してあった、バッタ等の無人兵器達を引き上げさせていた。
 七年もの間にアキト達が作り上げた無人兵器の数は膨大であり、各基地の司令部を通じて湾上に集結するよう指示を出してはいるが、九州エリア全ての無人兵器が集まるにはもう少し時間がかかるらしい。基地の混乱により追撃の部隊が出てこないだけでも御の字といったところだろう。
 そして今黒の騎士団がわざわざ出撃し、サセボ基地を強襲しているのは、中華との中継地点であるこの基地に無人兵器や今回の黒の騎士団の行動を中華に知らせないためであるが、もう一つ大きな理由があった。

『こちら黒騎士、間もなく13番ドッグより船が出る。』

「13番ドッグ? 見取り図では12番までしかないようですが……」

『見取り図にはない秘密のドッグだ。各部隊をポイントFー4に集結させ、こちらの合図と共に予定通り離脱させろ』

「……了解です」

 ディートハルトの指示通り、部隊は沿岸付近に集結し、無人兵器も彼らを守るように展開する。
 そうしてその沿岸で暫く待っていると、端のドッグにあった絶壁の壁が開き、1隻の船が姿を表した。

「「「「「おぉ……っ!!」」」」」

「美しい……あれが我が黒の騎士団の空中戦艦、ユーチャリス!!」

「黒の騎士団の戦艦なのに白いのねぇ……」

 ラクシャータの呟きを無視し、ディートハルトは一人その船の姿に見とれていた。
 剣の切っ先のように鋭い艦首に、艦尾を覆うように配置された楕円形のリング。そしてそこから突き出る四枚の翼は、これまで見たこともないような優美さを持っている。
 名前を聞いたときは戦艦に花の名前なんて……と奇妙に思ったものだが、この美しさならば納得せざるを得なかった。
 そして一方、ユーチャリスのパイロットシートでは、ラピスに代わりアキトがその席に座ってユーチャリスを動かしていた。

「復旧率63%か……流石に専用の設備もない状況では、七年の時間をかけても完全に復旧するのは難しいな」

『それでも戦闘行動は十分可能!』

『グラビティブラストもバッチリ!』

『撃ってイイ? 撃ってイイ?』

「……七年間籠りっぱなしでストレスが溜まっているのは分かるが、それは駄目だ。あまり派手に基地を壊すとブリタニアに怪しまれる」

『ちぇ〜〜』

 ユーチャリスの頭脳とも言える『オモイカネ.verU』――アキト達は普通にオモイカネと呼んでいるが――は、宇宙空間だけでなく空も海も八年もの間航海する事ができなかったので、随分とストレスが溜まっているようであった。
 ブリタニアの脱出から七年の間、旧日本の首都東京から遠く、また思い出深いこの佐世保にユーチャリスを隠匿し、長い時間をかけて修理を行ったユーチャリスだが、流石に100年以上の技術的ハードルもあってか、完全に機能を復旧させるのは無理であった。それでもオモイカネの言うように戦闘行動は十分可能で、主兵装の四連グラビティブラストも使用可能である。
 ユーチャリスのグラビティブラストは強力だ。だが、その威力は地上で使うには余りにも大きすぎる上に、もしここで発射すれば基地だけでなく、基地付近の租界やゲットーにも被害が及ぶ可能性がある。そうなればブリタニアも、本腰を入れて被害の原因を探るだろう。
 そうさせないためにもアキトはオモイカネを軽くなだめつつ、その憂さを敵基地のシステムハッキングで晴らすように仕向け、大した抵抗もなくユーチャリスは佐世保基地から脱出した。

『アキトさん、ル――ゼロは大丈夫なんでしょうか。いくらガヴェインが強力だからと言っても単機じゃぁ……』

 ユーチャリスの確保と周囲の警戒のために付いてきていた紅蓮弐式に乗るカレンから通信が送られてきたのはそんな時だ。
 此方は一隻の船を奪還するにあたって、ほぼ全戦力をあげての行動に対し、ゼロはたった単機での強襲だ。カレンが不安に思うのも無理は無い。しかしアキトはそんな心配は無用だと逆に言い放った。

「問題無い。向こうにはスザク君のランスロットやドロテアもいるし、何より機動兵器の戦闘に限って言えば、今のゼロに適う敵はそういない」

『でも……』

「今のガヴェインのスペックを考えれば、単機でも十分だし無人兵器の援護もある。そう心配する必要はないさ」

 事実、ガヴェインに新たに搭載されたハッキング機能を駆使すれば、アキトの新月を含む黒の騎士団の全てのナイトメアを支配下に置く事も可能だ。ましてや中華連邦のナイトメアなどは電子装備が貧弱なため、ガヴェインにとってはいい鴨であろう。
 しかしいくら強力な電子装備が備わっていようとも、それを扱うものがきちんと使いこなさなければ意味は無い。その点で言うとルルーシュの能力は申し分なかったが、寧ろあれほどまでにIFSを使いこなすルルーシュに、アキトは感嘆していた。

(ルルーシュのIFSの適応性には目を見張るものがある……いくら後期型のIFSと高性能のCPUがあると言っても、マシンチャイルドに匹敵するオペレート能力は尋常じゃない)

 アキトは幼少の頃からの長年のIFS経験値があるが、機動兵器はともかくナデシコ級戦艦のオペレートは勝手が違いすぎて今でも苦手だ。しかしルルーシュは僅か一年足らずという短い時間の中で、IFSの特性を理解し使いこなしている。今のルルーシュのIFSのオペレート能力は、初代ナデシコのオペレータであったルリちゃんに匹敵するかもしれないと、アキトは思っていた。

(全く我が主君ながら、恐ろしい子だ)

 アキトは幼少の頃から見ていた主君の成長に、喜びをかみ締めていた。
 そんなアキトの嬉しそうな表情を目にしたオモイカネが『アキト、まるっきりお父さんだね』、と小さくウインドウを出していたが、幸か不幸かアキトがそれを目にすることは無かった。





 時を同じくして、福岡基地はゼロとスザクによって壊滅状態に陥り、最早基地の陥落は時間の問題だった。
 その一方で、澤崎はツァオ将軍と共に軍用ジープに乗って、脱出用のヘリの待機するヘリポートへと向かっていた。

「おのれゼロめ……なにが偽りの大儀だ。外国に助力を請うことも戦略の一つだというのにっ!!」

 手を戦慄かせて歯を食い縛り、澤崎はゼロへと向けてぶつぶつと呪詛のような言葉を紡ぎ続けていた。
 それを横目に見ていたツァオ将軍は冷めた目で澤崎を見ていていたが、ここで負けては自分も本国からは見捨てられることは分かりきっていたので、澤崎を落ち着かせるために次の行動について話し始めた。

「鹿児島ならばまだ防衛線が引けます。まずはそこまで兵を下げさせましょう」

「はっ……世話になります」

 幾分か落ち着いたのか、澤崎はそう返事をすると落ち着いた表情を取り戻した。
 だがそれは、目前に迫った脱出用ヘリが黄金色のハーケンに貫かれるまででしかなかった。

「なっ、ヘリが!」

『残念だが、これまでだ。澤崎』

 ハッとして上を見上げると、そこには悠然と空に浮かぶガヴェインの姿があった。
 福岡基地全体の見取り図については、強襲前にラピスがハッキングで取得済みだったため、スザク達に先んじて澤崎を見つけることが出来たルルーシュ。本来ならここで澤崎と中華の将軍を捕獲し、面倒事はブリタニアに押し付ければそれでよかったが、今回の騒動を考えるとそうはいかない。

(澤崎、確かに貴様の策は悪くはない。だがそれでは日本の上に立つのがブリタニアから中華に取り変わるだけ……何も変わりはしない。そしてなにより、貴様は我々の日本奪還作戦を前に戦力の低下を招き、更にはブリタニアに隠匿していた無人兵器の存在を知らしめてしまった……この罪は重い)

『貴様を生きてブリタニアに渡すわけにはいかない……さらばだ、澤崎篤』

「ま、待て。待ってく――」

 澤崎の言葉を最後まで聞かず、ルルーシュはハドロン砲を照射。澤崎とツァオ将軍の二人は赤黒い粒子の波に飲み込まれ、その生を閉じた。
 澤崎が生きていれば、彼の口から無人兵器の存在が明るみになるため、生かす気はルルーシュには毛頭無かった。しかし既にランスロットとモノケロスの2機がその無人兵器を目にしているため、直にでもブリタニアにその存在が明るみになるだろう。
 だがそれでも、ルルーシュの顔に焦りは全く無い。

(些か計画は狂ったものの、いずれも修正が可能な範囲だ――この日本を取り戻すのもそう遠くないな)

 計画が前倒しになったとはいえ、自分の手元には信頼できる仲間と力。そして全てを引っ繰り返すことの出来る最大の切り札「ギアス」がある。

(間もなく大きな戦いが始まる――例えこの手が多くの血に濡れようとも、ここで引き下がるわけにはいかん。全ては優しい世界のために――)

 一方で操縦席の前に座るC.C.は、そんな事を考えるルルーシュに声をかける事無く、唯彼を見守る慈しみの視線を向けるだけだった。





 同日、ブリタニア艦隊は九州の各地に散らばる澤崎の残党を壊滅させ、同時に首領の澤崎の死亡をメディアを通じて発表。また、澤崎を除く数名の旧日本首脳部を拘束し、九州エリアの平定を完了したことを報じるのだった。
 そこに、黒の騎士団の名や姿が映ることは無かったが、いくつもの媒体を通じて彼等が澤崎らを攻撃したことは知られている。だがその行動の裏に、大きな戦いの予感が迫っていることは、まだ誰も知る由も無かった。





 ※オリジナル兵器説明

 ガヴェイン(共犯のアキト仕様)

 神根島でルルーシュが奪取したガヴェインを、ラクシャータの手によって調整されたルルーシュ専用機。
 ブリタニアでは手に余っていたドルイド・システムを、機体をIFSに対応させることで、そのスペックを十二分に発揮させる事に成功した。
 新機軸の粒子兵器「ハドロン砲」に、10基ものスラッシュハーケン。空中での行動を可能としたフロート・システム。そして最大の武器は、そのドルイド・システムを用いた広域ハッキングで、有視界内の機動兵器の制御を掌握する事が可能。
 しかし、ハッキングの間はそれに集中しなければならず、他の兵装や機動戦闘が不可能であるため、それを補佐するためにC.C.が搭乗している。

 武装――ハドロン砲×2
     スラッシュハーケン×10
 特殊兵装――ドルイド・システム
       フロート・システム
 


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■作者からのメッセージ
まずは最初に、前回早く投稿できると豪語したにも関わらず、また2か月も放置してしまい申し訳ありませんでしたorz
ガヴェイン無双のシーンまではサクサク書けたのですが、あれもこれも入れなければと、追加していくうちにとうとうポメラの制限すらも越えてしまうほどの分量になってしまいました(汗
おかげで容量は過去最高の62kb……うーん、もう少しコンパクトに纏めるべきだったか。
さて、今回のお話の目玉はガヴェイン無双とユーチャリスの登場、そしてヴィレッタさんのメイド姿っ!!(ナニモマチガッテマセンヨ?)
ヴィレッタさんはC.C.さんと違って忘れていたわけではなく(ぉ、どのタイミングで出すべきなのか迷いに迷っていたので、ここまで伸びてしまいました。
今後の彼女の活躍に乞うご期待下さい!


それでは感想返しです
>>ふぇんりるさん
 この作品のルルはアキトのおかげで随分とアグレッシブになっておりますから、まぁこの位はイイかなあと随分活躍させてしまいましたw
 そしてラクシャータを応援するよりは、多分今の状況ではブリタニアこそ応援するべきかもしれません……

>>かがみさん
 確かにこの作品のユフィはユリカっぽさがかなり入っている感じがあります。筆者も気付かないうちに自然とこうなってしまったわけで……あれか、作品の陰でユリカが「私を出せ〜私を出せ〜」と妙な電波でも送っているかもしれませんな。
 あ、噴いたピザは丁寧に掃除させてもらいます……。

>>FATさん
 感想ありがとうございます!
 これはナデシコとのクロスですがナデキャラが少ないので、せめてギアスにはなかったほのぼのとした空間を提供できればと入れたシーンですが、好評なようで安堵しています。
 アキトの指名手配については、コーネリアも「手配犯が執事とかしているわけないだろうjk」と考えているという事で一つ……w

PS.ヴィレッタさんのメイド姿には堪能しましたか?

>>青菜さん
 いつも感想ありがとうございます!
 この四人の交流については劇中でほとんど無かったので、無理をして入れましたがホントこのシーンは書いてて楽しかったですw
 ユフィもアキトの影響により思慮深くなっていますが、どちらかというと彼女は漫画の方のユフィと似ているかもしれません。

>>まさるさん
 公式はモニカさんとドロテアさんに酷い事しましたよね……。
 ですが二次創作はベースとなるキャラを如何にそれらしくするか難しいですが、彼女達はほとんど劇中描写が無かったのでその辺りは自由に書いて気は楽ですねw

>>見習い一号さん
 ハイレグレオタードにガーターベルト……だと!?
 どこ情報よーそれどこ情報よー画像も無しにそんなじょうh(ここから先は血で汚れて読めない

>>マルセルさん
 実は今回のガヴェイン魔改造フラグは十三話の時点で用意しておったのです!
 いやーここを書く事を目標としておりましたが、それが生きてホッとしておりますw


さて、そろそろ原作でも終盤ですが、こちらも一部終わりが見えてきたかな?
次回は久しぶりに学園編ですぞー。
それではサヨナラ、サヨナラ。
テキストサイズ:32k

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