黒崎は、ニヤニヤと笑いながら俺を見る。
青く美しい瞳が俺の方をジッと見つめる。
「なぜ?お前は俺に関わる・・・刑事の家を出入りしていたら、捕まるぞ?」
俺は、黒崎を否定するかのように答えた。
だが、黒崎は表情一つ変えず、俺に言った。
「うーん、暇つぶしかな?でも、白川さんは俺の事を逮捕出来るかな?」
俺を挑発する口調。
意味が分からなかった。俺は刑事、コイツの事をいつだって逮捕出来る。
なのになぜ、こいつは俺にこだわるのか・・・。
「うるさい、貴様には関係のない事だ・・・娘に会いたいんなら、もっとマシな事は言えないのか?」
俺は、黒崎を睨んだ。
冷酷な殺人犯の力を借りるわけにはいかない。俺にもプライドはある。
それにコイツの事は逮捕する気だ。
だが、なぜか体が動かない。なぜ?どうして、俺は刑事なのに・・・。
「うーん、いいのかなぁ?俺が捕まったら、俺が白川さんに力を貸したって言うよ?」
脅迫をするように言う黒崎。
これで、やはり犯罪者なのだと、実感が持てた。
「でも、そんな事誰も信用しないぞ?お前は俺の父を殺した・・・」
そう父はコイツに殺されたんだ。
親を殺した奴に力を借りるバカがどこにいる?。
「それ相当の情報くらいなら、知ってるよ?だってずっと白川さんの事付けてたもん」
黒崎は、そういうと、10枚ほどの写真を俺に差し出す。
見ると、すべて、聞き込みをしていた俺が写っている。
写真うつりからすると、物影で撮ったのだろう。
「お前・・・俺のストーカーか?やっぱり、逮捕する」
やはり、信用はできなさそうだ。と言う判断だ。
黒崎は、ニコニコしらがらこう言った。
「聞き込みん所、全部見てたからさ、何となくわかるよッ」
信用していいのかしてはいけないのか分からない。
「今回限りだぞ?次俺の前に現れた時は、絶対逮捕するから・・・」
何となく信用すると言う決断にした。
黒崎は、俺の言葉に嬉しそうにする。
俺と黒崎は、古い俺のアパートに入った。
狭く小さなちゃぶ台と敷きっぱなしの布団をひいただけの生活感のない部屋。
部屋には、黒崎の娘の桜が布団に包まりスヤスヤと寝ている。
俺と黒崎は桜を起こさないようにそっと部屋に入った。
ちゃぶ台前に腰を下ろし、小さな声で話し始めた。
「でさぁ、この人たちと話してた時何言ってた?」
一枚の写真を指差す。それは、事件現場の近くに住む被害者と面識のある男性。
「あの・・・事件当日の夜中、何か物音はしませんでしたか?」
俺は男性の聞いた。男性は30代後半の会社員の尾崎。
尾崎は、自宅の玄関のドアを開け真剣に考えてくれた。
「あの夜・・・女性の走る足音がして・・・しばらくしてから、女性の悲鳴が聞こえました」
多分、その悲鳴は被害者の殺害される寸前の悲鳴だろう。
尾崎は、具合が悪そうな顔つきをする。
「すみません・・・あんな事があったので・・・気分が悪いので、もういいですか?」
尾崎は、そういうととっととドアを閉めてしまった。
「ふーん、まぁその証言は間違ってなさそうだね。じゃあ、これは?」
黒崎は、珍しく真剣に話を聞く。
尾崎の隣の家に住む老婆と話した時の写真を指差した。
「えぇっちょっとヤメてよッあの日から安心して眠れてないんだから!」
不機嫌そうに怒鳴り付ける白髪頭の70代前半の老婆。
老婆は自宅前をほうきとチリトリで掃除をする。
腰をかがめ、せっせと落ち葉などを集める。
「すみません・・・何でもいいので・・・」
頭を下げながら、老婆の証言を聞こうとする俺。
こう言う事は少なくない。
「あの日は寒くて布団に包まってぐっすり寝てたから、分からないわよッ」
老婆は俺に背を向け、そう適当に言う。
確かに事件発生時刻は深夜で、寝ている人は多い時間帯だ。
「あっそういえば、お隣の尾崎さんッ変な人なのよぉ
交際相手に酷いフラれ方したか知らないけどさぁ、挨拶すらしてくれないのよぉ」
その後、俺はなぜか老婆の愚痴を死ぬほど聞かされた。
「災難だったなぁッ女ってのはいくつでも口うるさいってッ」
黒崎はケラケラ笑う。
そこまで笑う必要はあるのかと思った。
「まぁそんなに怖い顔すんなよッ何となく犯人の目星は付いたよッ」
あっさりと俺に言う黒崎。
本当かと疑問気な顔つきをすると、黒崎はこう言った。
「まずさぁその老婆の話、お隣さんの話してたでしょ?
酷いフラれ方ってその相手を殺したいほど・・・って事もあるでしょ?」
黒崎は冷酷の目で俺を見つめる。
それが何だと言う疑問すら浮かび上がる。
「事件現場の近くなんだから、悲鳴が聞こえたんなら多少窓の外を見るでしょ?」
言われてみればそうだ・・・夜中に悲鳴が聞こえたら誰だって心配する。
だが、尾崎は何もしなかった。
「これは俺の想像だよ?尾崎はその交際相手に酷いフラれ方をして、その人に似た女性を殺して復讐をしようと考えた・・・」
黒崎はニヤリと笑う。
そんな事で、関係のない人まで殺せると言う意味か?。
「言われてみれば、尾崎は植物関係の研究員だったな・・・黒薔薇なら簡単に手に入る」
今になって思い出した。
まさか近所に住んでいた住民の中にいたとは・・・。
「一度、調べてみる・・・尾崎の事」
俺はそう決断した。
そういうと、黒崎は笑いながら俺の部屋を出て行った。
翌日、俺は尾崎の事を調べてみた。
尾崎は半年前、交際相手の女性に別れを告げられた。
理由はその交際相手にはもう一人恋人がいてその人と結婚するそうだ。
尾崎は現実を受け入れられず復讐を誓った。
そして、その女性の好きだった薔薇の花を暗黒の黒薔薇で復讐を表しばら撒いて殺そうと思った。
しかし、交際相手の居場所がつかめず交際相手に別れを告げられた時に着ていた赤いコートの女性を狙った殺人を計画を実行したそうだ。
そして、数日後尾崎に逮捕状がおりた。
しかし、話を聞く限り尾崎はうつ状態だった。
「ゴメンなさい・・・ゴメンなさい・・・」
壊れたロボットのようにそう繰り返していた。
「白川ッ最近調子いいなっこの調子で頑張れよッ」
いつも厳しい上司も俺の事を褒めてくれる。
まぁ半分は黒崎のおかげなのだが、そんな事は到底言えない。
尾崎は、うつ状態の事から精神鑑定を受けることになった。
恋愛と言うものは、人の心も変えてしまうのだろうか・・・。
それはあまりにも悲しい事だ。
1ヶ月後、俺はいつも通り桜を保育園から迎えに行きアパートに戻った。
片手にはコンビニ弁当が入っている。
この生活にも慣れ始めたころだった。
郵便受けの中に一通の手紙が入っていた。
書かれていたのは「市立青空小学校同窓会」と書かれていた。
どうやら、小学校の同窓会だそうだ。
もう10年以上も小学校時代の友人とは会っていない。
少し嬉しい気もした。
だが、この事が新たな壁を作るとは思ってもいなかった。