俺のもとに小学校の同窓会の招待状が届いた。
同窓会は日曜日なので幼稚園が休みなのだ。
そのため桜はアパートの隣の部屋に住む威勢のいい老婆に預けることにした。
久しぶりの休暇で、10年ぶりに会う友人達。
少し胸が高ぶった。
同窓会は友人が営業をしていと言うホテルで行われることになった。
俺は普段着があまりないと言う理由もあるのだが、少し背伸びをしてスーツ姿で行った。
ホテルは思った以上に大きく広い。
白と金色で彩られた壁紙にシャンデリアや高そうなテーブルや椅子、花瓶があった。
同窓会が行われる部屋に入ると、大勢の人がいた。
俺が会話中の人々の中に入ると。
「よぉッ拓真!久しぶりだな」
一人の男が懐かしそうに俺に話しかけた。
テンションで分かった。親友の雄介だ。
昔はかなりやんちゃで服はいつも泥だらけだった。
今は綺麗なスーツ姿で、大人びた声だった。
俺は懐かしくいろんな人と会話した。
昔、ガキ大将でいじめっ子だった奴も今は会社の社長。
内気で泣き虫だった女子も、小学校の教師になっていた。
見た目、立場が変わってしまっても中身は全然変わっていなかった。
「そうそう、4年の時の担任の林先生・・・向こうにいるよッ」
ニヤニヤしながら指を差す先には、4年の時の担任の林先生がいた。
10年前はフサフサした黒髪で眼鏡をかけていた先生。
結構厳しく俺はよく怒られていた。
今になっては頭の天辺が薄くなっている。
「減ったな・・・先生」
俺は呆然として呟くとそれに合わせてドッと笑いが立ちあがった。
そして一人の友人が卒業アルバムを取りだし皆で見た。
懐かしく写っている友人を今と比べたりもした。
「小林・・・昔ちっちゃかったのに今はすっげぇデカくなったよなぁ!」
背の順で一番前だった小林も今は俺とほとんど身長が変わらない。
そんな事をして、皆で盛り上がっていた。
俺はふと自分と一緒に笑顔で写っている少年を見つけた。
今までなら見れば誰か分かったのだが、この少年だけは分からない。
自分と一緒に笑っているはずなのに分からない。
「なぁ、こいつって誰だっけ?」
俺は軽い気持ちで皆に聞いた。
しかしその瞬間、場は重苦しい空気になった。
冷や汗をかきヒソヒソと話す。
「お前・・・そいつの事分かんないのか?」
雄介は視線をそらしながら俺に問いかけた。
俺は何のためらいもなく頷いた。
「そいつは4年の時に転校してきて半年で別の学校に転校した―――・・・
黒崎レイヤ≠チて奴だよ」
その名前を聞いた時、俺は凍りついた。
あの笑み忘れもしない父を殺したテロリスト・・・。
頭の中を渦が巻いている。そして渦が止まった。
体は汗でグッショリ濡れ、目の奥が熱い。
記憶がよみがえる。目からは涙がこぼれ瞳にはかつての記憶が浮かんでくる。
(思い出したくないッ!)
俺は瞳を閉じた。
10年前、朝のホームルームで教卓の前に立つ林先生の隣に一人の少年が立っていた。
教室全体はざわめいた。
俺も近くの席の子とヒソヒソと話した。
「誰?」
「転校生?しかも外国人ッぽい・・・」
皆、いろいろ少年と先生に聞こえないように話す。
少年はゆっくりと口を開いた。
「アメリカから転校してきた・・・黒崎レイヤですッ」
日本語に慣れていないのか少し片言の黒崎。
先生は黒板に『黒崎レイヤ』と書く。
黒崎は今とは違って内気な表情でどこかあどけなさがあって可愛らしい。
今とは変わらない金髪で少し浮いた風貌。
ハーフの顔は皆くぎ付けになった。
だが、その後黒崎はなかなかクラスに馴染めず教室の隅で一人でいる。
「ねぇ・・・黒崎君、一緒に遊ばない?」
俺は思い切って話しかけてみた。黒崎は嬉しそうに微笑んだ。
それから徐々に会話の輪に溶け込んでいった。
どちらかと言うと小柄だった黒崎は『クロちゃん』と言うあだ名がついた。
そんな時にあの事件が起きた。
俺の家の電話が鳴った。母が電話に出た。
「拓真ぁ、黒崎君って子から電話よぉ!」
俺は母から受話器を受け取ると、脅えた口調の黒崎の声がした。
俺は不思議に思い何があったのかを聞いてみた。
「拓真君・・・助けて・・・お母さんとお父さんが・・・」
俺は少し心配になり急いで黒崎の家へと走った。
家へ行くとカギが開いていた。恐る恐る家へと足を踏み入れた。
家はマンションで少し広かった。
靴を脱ぎリビングの方に向かった。
リビングには膝をつき呆然とする黒崎の姿があった。
「クロちゃん?どうしたの・・・?」
近づいてみると、黒崎の目の前に30代の男女が血まみれで倒れている。
肌は青白く目を開きピクリとも動かない。
女は日本人の顔で男は欧米風の顔だった。
すぐに黒崎の両親だと分かった。
俺は驚き壁にもたれかかる体制で座り込んでしまった。
よく見ると奥の方から1人の男が血まみれのナイフを持って立っている。
おそらく黒崎の両親を殺したのはこの男だ。
手には現金を持っていて多分強盗だと思った。
「何だ・・・お前・・・?」
ナイフを持ち俺にゆっくりと近づいてくる男。
腰を抜かし立ち上がれない。
殺される。そう確信した。
後ろで黒崎が目に涙を浮かべ手にはナイフを持っている。
左眉の部分には男に傷つけられたのか血が流れている。
「クロちゃんッやめてぇ!」
俺は叫んだ。しかし、黒崎は男を刺していた。
男は倒れ、黒崎の手には血まみれのナイフが残っていた。
男は腹から血を流し動かなくなった。
俺は泣き叫んだ。起きた事が理解できなかったがただ泣き叫んだ。
しかし、黒崎は狂ったかのように笑い始めた。
「クロ・・・ちゃん・・・?」
問いかけたが返事はない。今までとは人格が違った。
そう、この瞬間黒崎は悪魔のような人格へと変化していた。
そして、その後黒崎は二度と学校に現れる事はなかった・・・。
皆の間では、警察に捕まったとかアメリカに帰国したなどの噂が立った。
その後、徐々に黒崎の存在は忘れられていった。
俺が思い出したのはここまでだ。
目の前で友人が殺人を犯し見たの事ない人格を目にする。
俺は悲しみのあまり記憶をもみ消した。
「でもさ、まさか今になって事件を犯すとはな・・・しかも、お前の親父を殺して逃亡中って・・・」
しかし、なぜ父を殺した?。
父とは顔見知りのはずなのになぜ?。
それに今になってなぜ俺にあうようになったんだ?。
俺は心の中で黒崎に問いかけた―――・・・