黒崎とは昔の友人。
その事に気がついた俺は黒崎を探した。
「もう会わないでほしい」
俺はあいつにそうきっぱりと言ってしまった。
自分からひょっこりと現れるはずもない。
俺のせいであいつの人生を狂わせた。
10年前、俺が殺されそうになったところを助けてしまった黒崎。
あんなに優しかったのに変わってしまった。
人は罪を犯せば変わるものなのだろうか?。
悪魔へと変わってしまうのだろうか?。
俺は必死に探した。
逃亡犯だ。もちろん見つかるはずもなかった。
俺は休日、桜と家にいた。
桜は紙に絵を書いたりして楽しんでいる。
俺はこの子に黒崎と会わせたくも思った。
実の父親が逃亡犯なだけでも苦しいはず、会わせてやりたい。
すべて俺のせいなのに何もしてやれない。
苦しかった。辛かった。何もできない事に腹ただしかった。
「白川さん・・・公園に行きたい・・・」
突然そんな事を言い出す桜。
俺は暇だからいいかと思い桜を連れ公園へと歩き出した。
公園には桜と同じくらいの子どもたちが楽しく遊んでいる。
砂場で遊んだり鬼ごっこをしたりさまざま。
ただ家族連れが多かった。
桜は他人の家族を見てうらやましそうにしている。
(この子も父親と来たいのだろう・・・俺みたいな赤の他人とは違って・・・)
桜は砂場に走り出した。
砂場で遊んでいた子と仲良く山を作ったり掘ったりしている。
俺はそんな桜を見つめながら近くにあったベンチに腰を下ろす。
(家族ってこんなものなのかな?)
自分も桜くらいの時は父と母に連れられて公園に行った。
何だか懐かしくも思った。
「あれ?白川・・・こんなところで何してるんだ?」
頭上から声がする。
上を見上げると仕事場でお世話になっている上司の梶原さんがいた。
梶原さんは俺より30歳くらい年上で自分を息子のようにしてくれる。
休日で茶色を中心とした普段着に少し白髪の入った髪。
優しそうな目は子供に好かれていそうだった。
「梶原さんッいや・・・桜と一緒に・・・」
梶原さんももちろん桜は俺が預かっている事は知っている。
梶原さんは俺の隣に腰を下ろす。
そして、砂場で遊ぶ桜を見た。
「信じられんな・・・あの子があの黒崎の娘とは・・・」
父が死んだ時に電話をかけてくれたのは梶原さんだった。
父とは同期でライバルだったそうだ。
だからこそあの事件にはかなり拘っている。
「確かに・・・とてもいい子ですもんね・・・そういえば梶原さんってお子さんいらっしゃいましたっけ?」
そう問いかけると少しビクッとした。
視線をそらし下を向いてしまった。
何かまずい事でも聞いてしまったのかとヒヤヒヤした。
「あぁ・・・高校生になる息子が一人な・・・妻は2年前に死んだ」
「あ・・・そうですか・・・すみません」
奥さんの事かと思った。
そりゃあ最愛の奥さんを亡くされると落ち込むだろう。
だが、あの気は一体何だったのだろうか?。
「そろそろ暗くなる・・・早く帰りなさい」
そう言って立ちあがると少し猫背の体制で帰って行った。
俺も桜を連れて帰ろうと思った。
桜を呼び手を繋いで帰って行く。
その帰り道薄暗く気味が悪かった。
歩道を歩いていた時だった。一台の黒い車が飛び出してきたのだ。
俺は急いで桜をかばう。
「桜!?」
ドン!と音を立て車にひかれた。
目を覚ますと病室で寝ていた。
小さな部屋だったのでおそらく個室だろう。
軽傷だったのか頭に包帯を巻かれただけだった。
桜はどうなったのかと真っ先に思った。
「白川さん無様だねぇ桜なら大丈夫だよッ腕の打撲だけだから」
金髪に深くかぶった黒いニット帽にハーフの顔立ち。
黒崎が横でパイプ椅子に座りニヤリと笑っていた。
その姿は俺を見下した様子だった。
「黒崎・・・お前・・・」
思わぬところで会ってしまった。
「何その顔?俺が助けてやったんだよ?血を流して倒れてる白川さんをさぁ・・・あと、二人とも様子を見るために今日は入院してだってッ」
ヘラヘラしてて全く心配の色が見えない。
父親なら真っ先に娘の心配をするだろう。
それが軽傷であっても・・・。
「桜は小児科にいるよッぐっすり寝てた」
どうやら桜のもとにも行ったようだ。
それよりも昔の事について俺は気になった。
「お前・・・俺と同級生だったじゃないか・・・転校生のクロちゃんだろう?」
同じクラスにいた時のあだ名で呼んでみる。
「あー気付いちゃった?白川さん鈍いから面白くて言えなかったんだッ」
やはりヘラヘラしている。
あの事件で傷ついたかと思ったが全然そうではなかった。
まぁ元々再会した時もこんな感じだったなと思った。
「俺は最初っから分かってたよ?親父さんも・・・分かってた
でも、向こうも気づいてね・・・怖かったんだッあの記憶がよみがえりそうで」
(え?)
黒崎は真剣な表情で俺に言う。
だから、父を殺してしまったのか?記憶を消したくて殺した?。
やはり、自分のせいなのだと思った。
「白川さんのせいじゃないよ・・・自分の弱さに負けただけッそれにあの後転校しただけで何もなかったんだよ・・・」
そういうがそんなのウソだろう。
本当はもっと辛い事があったに違いない。
俺に言えない事・・・。
布団のシーツをギュッと握りしめる。
目の奥が熱い目の前が曇り始めた。
(俺は泣いてるのか?ダメだッここで泣けない・・・)
必死に涙をこらえる。
すると、廊下から悲鳴が聞こえた。
「何だ?何かあったのか?」
俺と黒崎は病室の扉をゆっくり開ける。
すると、ナースステーションで拳銃を持った覆面をかぶった男たちがいた。
患者やナースたちに拳銃を突きつける。
「大人しくしろ!でなきゃ病院内にある爆弾を爆発させるぞ!」
一人の覆面の男が言う。銃をいろんな人につきつける。
テロ事件だとすぐさま分かった。
患者達は恐れ床にしゃがみ込む。
「大変な事になったな・・・どうする?」
どうすると言われても分からなかった。
次々と患者達がナースステーションに集められガムテープで縛られる。
小児科にもすぐに行くだろう。
テロリストたちが俺のいる個室の方に近づいてくる。
このままでは捕まってしまう。
テロリストたちはゆっくりと辺りを見回しこちらへやってくる。
「このまま捕まる気?刑事さん・・・」
ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる黒崎。
そんな事はさせないッそう俺は決意した―――・・・