「どうする気……刑事さん」
黒崎はニヤリと笑う。
俺は決意した。
病室でコソコソと俺は黒崎に耳打ちで話した。
黒崎はコクリと静かにうなずく。
すると、病室のドアが勢いよく開いた。
テロリストたちが患者をナースステーションに集めている。
病室を一つ一つ見回っているのだ。
個室のため一瞬見ればすぐに分かる。
「いないな……」
そう言って覆面の男たちは去って行った。
病室には誰もいない……ように見えた。
病室のドアの隣にあるクローゼットの中に黒崎と身を隠していた。
ドアを開けた瞬間は隣など気にしないようだ。
「ふぅ……何とか気に抜けたな」
「だねッあいつらバカか?」
余裕しゃくしゃくな顔で笑う黒崎。
全く見つからないと思っていたような顔だ。
こうもしてはいられない。
時期また来るだろう。
その前に逃げねばならない。
「ねぇ何とかしないといけないでしょ?だったら、ボスを探して一旦話しあいする?」
黒崎はそんな案を言う。
まぁけが人が出る前に手を打っておかないと大変な事になる。
俺はその案に賛成した。
そしてこっそり病室から抜け出す。
「で、どうやって探す気だ?」
「うーん、考えてないッでも、手分けして探そッ俺向こう見てくる!」
そう言ってどこかへ走りだす黒崎。
何がしたいのだ?まぁ俺は病棟を回っていればいいだろう。
俺は病棟中を回った。
その中でテロリストに会ってしまった。
物影に身を隠し様子を窺う。
(どうする?ここで奴らにボスの居場所を突き止めたほうが速そうだな)
俺は隠し持っていた職場で使う拳銃を取り出した。
そして、テロリストに銃を向ける。
「な……ッ誰だ!?」
「警察だッ大人しくしろ!」
驚いた様子で向こうも銃をこちらに向ける。
しかし、俺は当たらないように一発二発と撃った。
テロリストは悔しそうな顔で銃を下ろし伏せる。
「お前らのボスはどこにいる!?」
銃を突きつけ脅す。
「……小児科にいる……やりたい事があるってさッ」
しぶしぶ白状するテロリスト。
小児科と言えば桜がいる。
(そういえば、黒崎が走った先は小児科……)
俺はテロリストに手錠をかけ院内にある手すりに付けた。
そして、急いで小児科に走った。
小児科はやはり誰もいない。
子供達もどこかに集められたのだろう。
すると、大きな物音がする。
物音のする方に走った。
すると、桜が壁にもたれかかり座り込んでいる。
「桜!?お前のお父さんは!?」
そう聞くと、桜は角を指差す。
俺は角をまがった。するとそこにいたのは男と傷だらけの黒崎だった。
黒崎は男に殴られたり蹴られたりしている。
「やめろ!?お前は誰だ!」
男はゆっくり振り返る。
俺は驚いた。見慣れた顔だった。
(ウソだろ?なんで……梶原さんが―――……)
そこには紛れもない上司の梶原さんがいた。
中年の顔で珍しい細い体に白髪の混ざった髪。
間違えるはずがなかった。
『小児科にいる』
(もしかして、ボスと言うのは梶原さんの事?)
俺は状況が分からなくなっていた。
「なぜッ梶原さんがここにいるんですか!?」
俺はそう問いかける。
「……お前の親父さんが死んだあの事件……あのビルでは俺の息子がバイトをしていたッ!だが、あの事件のせいで死んだんだ……」
悲しそうに悔しそうに言う梶原さん。
死亡者の中に梶原と言う名前があったのを思い出した。
昨日、険しい表情をしたのはこれが理由だった。
「他の仲間はどうやって見つけたんですか?仲間が持っていた銃は?」
俺はいろいろと問いただす。
すると梶原さんはゆっくり口を開く。
「仲間は俺が逮捕して釈放された元囚人だ!銃は署の方で集めた……」
淡々と語る梶原さん。
服役を終え社会に戻った囚人たちをあれこれ言い利用した。
俺は愕然とした。
「お前らを跳ねた車の運転手は俺だ!お前らがケガをすれば黒崎だって来ると思ったんだ……お前だって父を殺されたのだから分かるだろう?」
梶原さんはそう問いかける。
確かに俺の父は黒崎の殺された。
悲しみや怒り……俺には確かに分かる。
黒崎にはじめたあった日、どれほど怒りを感じたか分からないくらいだった。
しかし、俺はこう言った。
「確かに身内を失った悲しみは分かりますッですが、俺は刑事ですッ犯罪を見逃すわけにはいきませんッ」
俺はそうきっぱりと言い放つ。
梶原さんは怒りを感じたのかがくがくと震えだす。
すると、隠し持っていたナイフを懐から取り出す。
両手でギュッと握りしめる。
その目には涙があふれていた。
俺はナイフを見た瞬間驚きのあまりジリジリと立ちつくす。
俺は10年前を思い出した。
あの時も同じ状況だった。
恐ろしさの余り腰を抜かしてしまった。
何もできず、ただ呆然とする自分。
その時は情けなさも感じたくらいだった。
「やめろッ……そいつは関係ないだろう?殺すのなら俺を殺せばいい」
黒崎は傷だらけの体を引きずりながら必死に梶原さんの足をつかむ。
黒崎がここまで拒む姿は初めて見た。
あの事件の様子がよみがえる。
しかし、梶原さんは黒崎を蹴り飛ばした。
「お前ら幼馴染らしいな……知っているよ……10年前の事件の事……」
見破られていたようだ。
俺ですらずっと忘れていた記憶。
悲しさと後悔でいっぱいだった。
俺は今でも思い出したくない。
俺のせいで黒崎の人生を狂わせてしまったからだ。
どんな思いで生きてきたかが目に浮かぶ。
しかし、黒崎は何も言わなかった。
いや、本当は俺に強がっているのかもしれない。
本当は誰よりも弱く頼りたい人間なのかもしれない。
そう思うと、溢れだす思いがあった。
(これ以上こいつに悲しい思いはさせたくない!)
「なら、殺してやる……娘もお前の大事な物が目の前で消える所を見るがいい!」
目の前で息子さんが息を引き取る姿を見た梶原さん。
どれだけ思っていたのだろう?
大切なたった一人の家族……。
どんな気持ちでいたのだろうか……。
そう思うと胸が苦しくなった。
どれだけ泣き叫び怒ったとしてももう息子さんは帰ってこない。
一緒に食事をしたり話したりなど出来ない。
すべて俺の責任なのに……。
俺のせいでテロリストに脅されテロ事件を行った黒崎。
なんの関係もない人々とその身内の人生を狂わせた。
本当に死ななければならないのはこの俺自身なのに……。
すると、梶原さんは俺の方にナイフを持ちながら走ってくる。
その瞬間顔に真っ赤な血が飛んだ。
(ウソだろ?……俺はまだ……)
俺はギュッと瞳を閉じた―――……。