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黒の異邦人は龍の保護者 外伝 The light of 100,000 dollars shines with a night sky. "夜空に輝く10万ドルの光" 『青薔薇の蕾』
作者:ハナズオウ   2011/12/03(土) 06:13公開   ID:CfeceSS.6PE




 注意! この外伝は『死神の涙』編の一年半ほど前のお話です。




 突然変異したかのように能力に目覚めた人たちがいる。

 彼らは『NEXT』と呼ばれている。

 能力を使って犯罪を犯す者、それらを能力を使って捕まえる者。

 その様子を流す超人気番組『HERO TV』は人々の娯楽とともに、NEXT能力を正しく使う一つの道標となっている。

 そんな『NEXT』と人類が共存する街、シュテルンビルト。

 街は夜の光に染まり、静かに眠りに就こうと静かに輝いている。

 そんな夜の街で、賑わいを見せる店がある。


 生演奏や豊富なお酒の品揃えを誇るバーは、大人の社交場として賑わいを見せている。

 夫婦で、酒飲み友だちと、それぞれがそれぞれの楽しみ方で静かに盛り上がるバーは今日もいつものように賑わっている。

 そんなバーのバックヤードでは一人の少女がガチガチに緊張している。

 少女は今日初めて、このバーで歌い手としてデビューする。

 大人の社交場として賑わっているバーということで、少しセクシーなワンピースを着ている。

 少女は高校生に入ったばかりで、どこか幼さが残っている。

 綺麗なブロンドの髪をなびかせるも、どこか少女が背伸びをしている感じを出している。

 少女は自身の夢の実現のため、今日大きな一歩を踏み出そうとしているのだ。

 『歌手になる』という夢のため……。

 スーパーヒーローアイドル『ブルーローズ』としても活動し、歌手となるため少女は必死だった。
 氷を操る女王、ドSキャラと自分とはキャラが合ってないと少し不満はあるものの、少女は必死である。


 刻一刻と時を刻む時計の音に、少女の心臓の鼓動がバクバクと大きくなっていく。

 それに伴って、身体は思うように動かなくなっていく。

 息苦しさも感じ、少女はガチガチに緊張していた。

 バーのスタッフは静かに歩き、荷物を求めあっちへこっちへと行き交っている。

 緊張しきっている少女に構っている暇はなく、少女の周りを歩き回っている。

 スタッフの足音と時計の音だけがやけに大きく聞こえ、少女はパニックに陥りそうになっている。


 落ち着けー。落ち着きなさい、私。

 水着みたいなフザケた格好で歌ったじゃない!

 私が歌いたいジャンルなんかじゃなかったけど、これをこなしていれば歌手になれる契約がある。

 こんな場末のバーで歌うのも、もし契約がなされなかった時の保険でもあるし、いつでもデビュー出来るようにするためだもの。

 たかだた10人や20人の人の前で歌うくらい、これから何回もあるじゃない。

 変装してるとはいえ、これ以上のステージで歌ったじゃない!

 たかが……たかが、数10人じゃない。

 だから、だから収まりなさいよ、私の心臓!

 動きなさいよ! 私の指!


 緊張を治めようと、必死に自分を奮い立たせようとしている少女の表情はいつしか険しく眉間に皺を寄せていた。

 グルグルと思考がループしている。

 膝を凝視して、視線を上げることはない。

 思考に暮れる少女の頬に、突然冷たい何かが優しく当たる。

 思わず『っひゃ!』と可愛らしい声を上げる。

 反射のように体がガバっと起こし、頬に当たったモノを探す。

 そこには、優しい笑顔をした東洋系の青年が水が滴っている缶を差し出していた。

 東洋系の黒髪の青年は優しい笑顔で少女を見つめている。

 少女は青年をどこかで見たような感覚を覚え、差し出された缶よりも青年の顔を見つめる。

「はじめまして、今日演奏される方ですよね?」

「っえ! あ、……はい」

「僕はバーテン見習いをしています、李 舜生リ シェンシュンと申します。

 緊張されているようだったので、もしよかったらどうぞ」

「ありがとう。っあ、私は……」

「カリーナ・ライルさん。ですよね」

 え? っとカリーナは、青年の顔を驚きの表情で見る。

 李は、当然とばかりに笑顔を崩さない。

 カリーナはどこかであったのかと記憶を必死に辿る。

 『HIRO TV』のスタッフか? 会社の人か? 

 必死に辿るが、目の前の人物が誰であるか思い出せない。

「毎日トレーニングセンターで会ってますよ。

 僕は毎日ドラゴンキッドを迎えに行ってますので。『ブルーローズ』さん」

「え……っあ!」

「話すのは今日が初めてなので、わからないのも無理はありませんね」

 そういえば、ドラゴンキッドが帰るときによく見る人だ……っとカリーナは言われて初めて思い出す。

 ドラゴンキッドはカリーナよりも歳が下の女の子。
 カンフーと雷を操るヒーローだ。

 そういえば、ドラゴンキッドとは年が近いし同じ女だけど、あまり話したことなかったなっと思う。

 覚えているのは、自分がパンチで手首を傷めた時だ。

 その時は、手首を痛めないパンチの繰り出し方を教えてくれた。

 ドラゴンキッドはいつもトレーニング時は話さず、自身に課したメニューを淡々とこなしている。

 トレーニングが終わったら、シャワーも浴びずに迎えに来た李と帰っていく。

 だから目の前にいる李という男とも話した事はない。

「あんな凄いステージで歌われているから、慣れているのかと思いましたが……

 やっぱり緊張するんですね」

「そんなのっ! ……当然でしょ。

 あっちは変装して顔がわからないから……」

「安心しました。

 ――っあ、そろそろ休憩が終わりますので、これで。

 演奏楽しみにしてます」

 李は立ち上がる。

 カリーナは受け取った缶ジュースを少し嬉しそうに握りしめる。

「あ、李さん。これ……ありがとう」

「気にしないでください。もしよかったら、あの娘と仲良くしてあげてくださいね」

 李は優しい笑顔をカリーナに向けて、立ち去っていく。

 掌に感じる冷たさに、緊張で固まった体がほどけていく。

 緊張が溶けたカリーナの思考は回り始め、今日の演奏に対する決意を新たにする。

「うっし……頑張ろう」

 カリーナは出番だと呼びに着たスタッフに連れられて、バックヤードを出ていく。






―――――――





TIGER&BUNNY × Darker Than Black


黒の異邦人は龍の保護者


  外伝 The light of 100,000 dollars shines with a night sky. "夜空に輝く10万ドルの光"


『青薔薇の蕾』


作者;ハナズオウ






―――――――




 演奏を終えたカリーナはバックヤードの椅子に座って項垂れていた。

 初めての演奏を終えて、お客さんは皆拍手をくれた。

 聞いているお客さんにわかるかわからないかぐらいのミスだったけど……。

 オーナーさんも気にしないでいいからっと慰めてくれた。

 『来週も来てね』っと言ってくれた。

 それは嬉しかった……嬉しかったけど、だからこそ悔しい。

 私が目指しているのはもっともっと上なのに。

 勝手に緊張して、勝手に失敗して……気づかれなかったからいいなんてことない。

 悔しくて悔しくて……自分が嫌になってくる。

 ふと見上げると出番前に飲んだ、李から差し入れられた缶ジュースが机の上にまだあった。

 そうだ、李さんが緊張を解いてくれなかったら、もっとミスをしていた……。

 本当にダメだ、私。


 瞳に大粒の涙を溜めたカリーナは、自分へのダメだしを何度も何度も繰り返す。

 腰を下ろした椅子から立ち上がれずにいた。

 そんなカリーナの耳に、突然大きな音が届く。

 店の方からモノを倒し、グラスが割る音。

 音を聞いただけで、表で騒動が起きたことがわかる。

 大方酔っ払いが暴れているのだろう。

 事務室へと入っていたオーナーが音を聞いて慌てて出てきた。

「カリーナちゃんは表に出てきちゃダメだからね!」

 オーナーはそう言うと、急いで表へと出ていった。

 椅子に根を貼ったように立てないカリーナは、視線を動かすことなくオーナーを見送った。

 怒号が飛び交っていたはずの所から、いつしか笑い声が上がり始める。

 何があったのかと、カリーナは重い腰を上げて、ゆっくりと出口へと足を運ぶ。

 そこには、予想通り酔っ払いが怒号を上げながら暴れていた。

 その酔っ払いの怒号の矛先は、先程カリーナに缶ジュースを渡した李がお盆を盾に向かい合っていた。

 向かい合っているというよりも、襲われているのを必死に逃げている。

 腰が引けて、お盆で顔を隠しながら、あたふたと後進している。

 必死すぎて自身の脚に脚を引っ掛けてコケたり、椅子に引っかかったりとコケ回っている。

 あれは……格好良くないな。っと傍目から見ていたカリーナは呆れる。

 緊張を解こうとしてくれたあの行為は凄い嬉しかったし、ちょっといいなっと思った。

 でも、この目の前の光景を見ると全てを台無しだよっとカリーナは、いつしかハハハっと乾いた笑いを見せる。

 李は酔っ払いが殴りかかれば、逃げようと後退するも足を縺れさせてコケる。

 結果として殴られてはいないが、李はコケて転げ回り無様に逃げていた。

 それが他の客の笑いを誘い、酔っ払いが暴れる殺伐とした騒動が笑いが至るところに溢れるイベントとかしてしまった。

 逃げようとモノや段差に躓きコケたり、足を縺れさせてコケる。

 凹んでいたカリーナは、その間抜けな李の行動に笑いが込み上げてくる。

 乾いた笑いから、いつしか、腹を抱えるような笑いに変わってくる。

 お店にいたお客全てが、カリーナと同じように腹を抱えて笑っていた。





―――――――





 なんとか駆けつけた他のスタッフ数名が酔っ払いを羽交い締めにして押さえつけることで解決した。

 なんとか逃げ切った李は、一撃も殴られずに終わることが出来た。

 しかし、李はお客一同からとスタッフ皆から、『運動ができない奴』という烙印が押されることになった。

 その李は肩で息をしながらバックヤードで休憩している。

 『今日は大変だったから上がっていいよ』とオーナーに言われ、息を整えている。

 カリーナは腹を抱えて笑った事で、いつしか沈んでいた気持ちがなりを潜めていた。

 そして、なんとはなしに休憩している李の横に座る。

「李さん、だいじょう……ブフフフ!!」

 大丈夫か? っと声を掛けようとしたが、先程の間抜けな李の動きを思い出して吹き出していしまう。

 吹き出された李は、ハハハっと肩で息をしながら笑顔を浮かべている。

「格好悪い所みせちゃいましたね」

「ヒヒヒ。いいんじゃない? 殴られてないんでしょ?」

「はい、お陰様で。

 それよりもライルさん、演奏よかったです。すっかり聴き惚れてしまいました」

 うっ……っと、カリーナは笑顔から気まずそうに下を向く。

 自分が許せないと凹んでいたのに、李の間抜けな動きにいつしか笑っていた。

 そしてあろうことか、間抜けな動きをした李を慰めようとしていた。

 そんなことしていいはずないのに……。

 もっと自分を厳しく諌めなアイトいけないとと凹んでいたはずなのに……。


 李の間抜けな姿を見る前のカリーナの状況を思い出し、楽しい気分が一掃され気分が沈む。

 目に見えて沈んだカリーナの表情を察した李は、静かにカリーナを見つめる。

「私……ミスしちゃったんだ。皆にはわかるかわからないかだけど」

「それが許せないんですね。やっぱりライルさんは思ったとおり真面目な方ですね」

「そんなこと……ない」

「皆がわからないミスをそこまで気にするなんて、真面目ですよ。

 でも、真面目すぎです」

 落ち込んだカリーナに、李は優しく声を掛ける。

 李の慰めの言葉も、カリーナの心には届きはしない。

 そんなカリーナに、李は優しく頭を撫でる。

 優しく何度も、ゆっくりと……カリーナが驚きの眼差しを向けようと、李は笑顔でゆっくりとカリーナの頭を撫で続ける。

 頭を撫でられるなんていつ以来だろう……っとと思いつつも、恥ずかしさから顔が赤らめていく。

「一つアドバイスさせてもらうと、失敗した『事実』というのは忘れていいと思いますよ。

 覚えておくのは失敗した『原因』だと思います。

 失敗した『事実』をいつまでも引きずっていると、腐っちゃいますよ」

 李のアドバイスに、カリーナは少し考える。


 確かに李さんが解いてくれたとはいえ、まだ緊張してた。

 だから引き始めに指が動きにくくなってた。

 それで焦っちゃた。

 必死に落ち着こうと、ミスをしないように必死になった。

 ミスをしないようにしないように必死になればなるほど頭が真っ白になっちゃた。

 ピアノの音が必要以上に小さかったり大きかったりして……


「ライルさん、この後少し時間ありますか?」

「え? もう帰るだけだから大丈夫だけど……」

「少し気分転換に付き合ってください」

「いいけど……お母さんに言わないと」

「はい。なので、電話をしてもらっていいですか? 説明は僕からしますので」

 言われるまま、カリーナは李から携帯電話を借りて家に電話を掛ける。

 いつものように落ち着いた母親の声が電話越しに聞こえてくる。

「っあ、お母さん。ちょっと帰り遅くなりそうなのよ」

『何かあったの?』

「いやぁね、お店の人がちょっと付き合ってって。代わるから」

『つきあって? まさか初日から!? カリーナに春がきた?』

 カリーナの『付き合って』という単語に母親は過剰反応する。

 しかし、既に電話から耳を離したカリーナには届かず、変わった李の耳に少しだけ届く。

 母親の高いテンションに少し笑い、李は母親に対して挨拶する。

「あ、初めまして、李 舜生と申します。えっとですね。

 お嬢さん今日が初めての演奏が凄かったので、そのお祝いをしようっと思いまして。

 ちゃんと遅くならない時間には帰しますので……。

 はい、来週からはこの時間にはちゃんと御返ししますので」

『なら……お願いしてもいいですか? 娘をよろしくお願いします』

「はい、ちゃんとお送りしますので。ありがとうございます。

 この番号が僕の携帯なので、心配でしたらまたお掛けください」

 携帯越しのカリーナの母親に深くお辞儀した李は、静かに携帯電話を閉めてポケットにしまう。

 李は着替えてきますと、言ってスタッフルームへと入っていく。

 数分とせず李は、ジーパンに白のワイシャツと手には緑のパーカーを持ってスタッフルームから出てくる。



「そういえば、ドラゴンキッドは大丈夫なの?」

「ええ、さっき電話して先に寝ておくように言っておきました。

 明日はきっと色々と強請られると思います」

「へぇ、結構甘えん坊なのね」

「まぁ親元を離れて二人で暮らしていますし、甘えられる存在が僕しかいないからだと思いますよ」

 ふぅんっとカリーナが答えると、李はヘルメットと緑のパーカーをカリーナに渡す。

 カリーナはヘルメットを被り、李から渡された緑のパーカーを羽織り、バイクの後ろに乗る。

 静かに発信したバイクはシュテルンビルトの街を駆けていく。

 バイクは夜の街を抜けて、本日の営業を終えて灯りが消えた遊園地へと到着する。




―――――――




 郊外の夜の闇に包まれる遊園地。

 遊具も全て止まり、どこか不気味さを醸し出している。

 周りには人工的な光は一切なく、星空だけが李とカリーナを照らしている。

 メリーゴーランドの馬なども、夜の闇に紛れてしまえば、不気味な馬にしか見えない。

 気分転換にと連れてこられたカリーナは、不気味な遊園地に怖くなってきていた。

「ねぇ李さん……肝試しとか言わないわよね?」

「はい。こちらへ」

 カリーナの疑いの眼差しも、李は笑顔のまま手を差しのべる。

 既に町外れまでやってきており、一人で帰るのは無理なカリーナはその手を取るしかできない。

 李は柵をよじ登り、柵の上から手を伸ばし、カリーナを引き上げて、夜の闇に包まれる遊園地へと侵入に成功する。

 李は不気味がっているカリーナの手を引いて、遊園地の中を進んでいく。

 電気が消えた遊園地の遊具は闇に包まれて、昼には楽しそうに見えるはずが今は全てが不気味だ。

 すたすたとカリーナの手を引いて歩いていた李は突然止まり、カリーナの手を離す。

「では、ライルさん……目を瞑ってください」

 まさか、本当に肝試しをするつもりなのか……っと、内心疑いまくりでカリーナは薄目を開けて瞼を閉じる。

 李は音もなく歩いてカリーナから離れていく。

 まさか本当に肝試しでもさせる気?! っとカリーナは焦る。

 しかし、『目を瞑っていて』と言われたので、薄目を開けていた事がバレるのが何か嫌だったために、離れていく李を呼び止めることができない。

 李が夜の闇に消えて一分もせず、カリーナは泣きたくなっていた。

 ミスが許せない自分は凹んでいた。

 それを忘れていい。気分転換しましょう。っと誘ってきた李は、どこかへ行ってしまった。

 こんな真っ暗闇の遊園地で李を探すのは困難以外の何ものでもない。

 騙されちゃたのかな……人を騙すような人には見えなかったのに……っとカリーナはまた落ち込む。

 体中から力が抜けて、顔もいつしか下を向いてしまう。

 夜の遊園地は音も無く、カリーナの孤独感は更に深くなっていく。

「お待たせしました……! ライルさん、目を開けてください」

 空から降ってくるような李の声に、カリーナは放って置かれたわけではないと安心して、目を開ける。

 目を瞑っていて、目を開いてもすぐに視界がはっきりしない。

 ボンヤリと暗闇の中でもわかる輪郭がカリーナに届いてくる。


 ――ッパ

 ――ッパ

 ――ッパパ


 カリーナのぼやける視界に、ポツリポツリと光が輝いていく。

 一つ、二つっと輝き始めていた光は加速度的に増え、暗闇を見つめていたカリーナの視界を鮮やかに彩る。

 光の正体は、遊園地の遊具達。

 光を落とし、暗闇に落ちていた遊具は煌々と輝き、カリーナへと届く。

 後ろを向いても、横を見ても、四方八方輝く光が踊っているように輝く。

 メリーゴーランドも、観覧車もすべての遊具が楽しそうに動き始める。

「綺麗……」

「喜んでもらえてよかったです」

 光り輝くメリーゴーランドの脇から、李は嬉しそうに笑いながら出てくる。

「李さん……どうやったの?」

「秘密です。ではどうぞこちらへ」

 李は、優しくカリーナへと手を差し出す。

 カリーナと李は、光が瞬く遊園地を更に奥に進む。

 陽気な音楽と光を瞬かせ、楽しそうに廻るメリーゴーランドの前に二人はやってくる。

 李はなれた手付きで、装置を操作してメリーゴーランドの回転を止める。

 李はメリーゴーランド内にて、カリーナを馬が引く馬車へと導く。

「では、楽しみましょう」

 馬車から馬に乗る李を見るカリーナ。

 何時以来のメリーゴーランドだろうと思いつつ、男の人に誘われて乗るのは初めてだと気づく。

 そこからカリーナの思考には、夜の遊園地で男に誘われてメリーゴーランドに乗っている、どこか恋愛小説に出てきそうな場面だとグルグルと廻る。

 想像はこの後、今日初めて話した李に言い寄られるのだろうか。

 大人の階段を登っちゃうのかも。

 今日そんな心の準備してないよ。

 などと、純粋にメリーゴーランドを楽しんでいる李とは対照的に、ピンク色の思考にくれてしまっているカリーナ。

 薄らと頬を赤らめ、光瞬く視界の中心に李を捉え続ける。

 一分強の稼働を終えたメリーゴーランドは静かに止まる。

 メリーゴーランドを降りた李は、また優しくカリーナに手を差しのべる。

 ギュッと握ったカリーナは少し、李に近い位置を歩き始める。

 次は何に乗ろうかな? っと言った瞬間、男の怒号が飛ぶ。

「こら〜っ! お前らそこでなにしてる!!」

 後ろから飛んできた怒号に、二人はビクっと肩を動かして固まる。

 そして、視線だけを横に動かして視線を合わせる二人。

 こんな夜の遊園地にて怒号を放つ存在は一つしか心当たりがない。

 警備員だ。

 相談したい内容も、答えもアイコンタクトで出してしまう。

 『一目散に逃げよう!』

 二人は手を繋いだまま全速力で逃げ出す。

 警備員のおっさんと男女二人の追いかけっこが始まった。






―――――――





 ハァハァっと二人とも肩で息をして、芝生に大の字になって寝転ぶ。

 気晴らしにっと誘い出した李がやってくれたのは、遊園地へと忍び込んで勝手に遊ぶということ。

 結局すぐに警備員に見つかって逃げ出したが、今まで沈んでいたのが嘘のように気持ちが晴れている。

 何か些細なミスで落ち込みすぎていた自分が馬鹿だなっと口元が緩く解けていく。

 肩で息をしているのも面白くなったカリーナは腹筋をひくつかせる。

 小さな笑いはどんどんと大きくなっていく。

 声を出して笑い始めたカリーナに釣られて笑い始める。

「貸し切ったとかじゃなかったんだね」

「はい。悪い事ですから、ヒーローの皆さんには秘密にしておいてくださいね」

「言わないわよ、てか言ったら私も怒られるじゃん。

 知らない間に共犯者になっちゃってるじゃない」

「っあ、そうですね」

 なによそれっとカリーナは更に大声を上げて笑う。

「もう少し休んだら帰りましょうか、ライルさん」

「カリーナでいいよ、これからバイト先も一緒なんだしさ」

 踊っているような明るい声で応えたカリーナ。

 パンツが見えるなど考えなくていい楽さに、芝生の気持ちよさに力が抜ける。

『『グゥゥウウウウ! グゥルルル!』』

 力を抜いたカリーナの腹が突如として、大きな音で鳴る。

 それに合わせて、更に大きな音が被さってくる。

 同じタイミングでお腹を鳴らした二人は、また吹き出してしまう。

 二人はそれから少しして、芝生を去った。

 バイクを運転する李に抱きついたカリーナ。

 行きよりも強く抱きつき、李の体温を強く感じる。

 その心地いい温度にカリーナは、李の背中に身を任せる。

 たどり着いたのは、シュテルンビルトでも有数の大きな公園。

 李はまた、カリーナの手を引いて公園へと入っていく。

 進んだ先には一件の古びたラーメン屋台がひっそりと営業していた。

 李達がやってきたと同時に店から客が去っていった。

「奢りますから、好きなモノを食べてください。ここ美味しいですし、なんでもありますから」

「そうなんだ……メ、メニューは」

「適当でいいよ」

 店主の短い言葉に、静かに考え込み始めたカリーナ。

 李は慣れたもので、『いつもの』っと注文を済ませた。

 せめて何かヒントとなる注文をしてほしかった……っとカリーナは更に悩む。

 李の元には美味しそうな匂いを漂わせる大盛りのラーメンが置かれる。

 ではお先にっと李は食べ始める。

 っあ! っとカリーナは店主に耳打ちして注文を終える。

 大盛りラーメンを早々に食べ終えた李は、更にお代わりを注文する。

 程なくして、李の前には積み重なった丼が高くそびえ立つ。

 最後の一杯に取り掛かった時、カリーナの元にもようやく注文の品がドンっと音と共にやってくる。

 ビッチャーに盛られた巨大なパフェがそこにはあった。

 李は丼に集中していた視線を音の方へと移すと、数人で挑戦するレベルの大きさのパフェを発見し、目を丸くする。

「はい、旬のフルーツとシューショコラ白玉あんにん入りパティシエの超気まぐれパフェになります!」

 スプーンを持ったカリーナは気合を入れてパフェを軽く睨む。

 そして、李の方を向いて舌を軽く出して笑みを零す。








 屋台を出た二人はまたバイクに跨り、カリーナの家へと向かう。

 程なくして二人はカリーナの家の前へとやってくる。

 移動時間は行きと帰りでさほど違いはなかったが、カリーナは帰りの時間があっという間に終わったことに少し不満を持った。

 ヘルメットを返し、李の緑のパーカーを名残惜しそうにゆっくりと脱いで渡す。

「ありがとう、李さん。私次は頑張る」

「はい」

「それじゃぁ……また会えるよね」

「それはもちろん、トレーニングセンターでもバーでもどこでも会えますよ」

「フフ、そうだね。じゅぁね」

「はい、おやすみなさい」

 カリーナは笑顔を見せながら、ドアを開ける。

 李も笑顔を返し、手を振って見送る。

 バタンと閉じられたドアを確認して、李はバイクを走らせて帰っていく。




「おかえり、カリーナ。中々カッコイイ人ね、李さんって」

「えっ……そ、そう?」

「カリーナも李さんの上着嬉しそうに着てたじゃない」

「見てたの!?」

「挨拶しようかと思ったんだけど、カリーナが嬉しそうにしてたから……邪魔しちゃ悪いかなって」

 嬉しそうに話す母親とは対象的に、カリーナは頬を染めて視線をあっちへこっちへと細かく移動させる。

 動揺を隠せないカリーナに母親は更に笑みを深める。

「李さんとは今日初めて話したばっかりでっ!

 緊張とか解いてくれたりとかしてくれたりとか!

 思ったよりも背中大きかったりとか……!」

「フフフ」

 聞いてもいないのに話し始めたカリーナに、母親は笑いを堪えるのに必死である。

 手も加わり、カリーナは誰が見ても動揺してあたふたしている。

「でも李さんは、ドラゴンキッドの保護者だし!

 まだまだあの人のこと知らないし……」

「そうなんだ、楽しそうなバイト先になったみたいでよかったじゃない。ご飯はどうする?」

「あー、えっと……」

「あらあら、ご馳走になったのね、お風呂沸いてるから、お父さんに挨拶してから入っちゃいなさい」

「はーい」

 頬を赤らめながら去っていくカリーナを母親は嬉しそうに見送る。

 今日のこの出来事はその次の日から、ママ友との井戸端会議に度々上がる話題となる。

 それから、カリーナの動向はママ友ネットワークによって監視及び報告会が度々行われるが、本人は一切知ることはない。






......GO TO 『 #01 』





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■作者からのメッセージ
お久しぶりです……ハナズオウです。

もう一ヶ月近く更新できてなかったです。
ごめんなさい。
言い訳しても仕方ないですが、リアル多忙ですw
これからは頑張っていきます!

そして、今回なぜ『死神の涙』編ではないのかというとですね……
『死神の涙』編の#05からずっと重い話ばかりだったので、私が耐え切れなかったというのが一つです。
 ですので、今回のお話はほのぼの系です。

 そして、シルフェニア様が7周年を迎えられたということで、おめでとうございます!
 記念作品は投稿部屋の作家さんや絵師さんという事なので、これが記念作品となるかはわかりませんが、私なりのお祝いの作品とさせていただきます。


 そして、皆様!
 師走です!
 冬です!
 炬燵です!

 私は既に家にいるときは炬燵から離れれないですw
 みかんがあればもう天国ですね!

 それでは、次は多分『死神の涙』編を更新するかと思います!

 また、感想やご意見ありましたら、気軽に一行でも大丈夫ですので頂けると嬉しいです!

 では、ここより感想返信とさせていただきます!


 >黒い鳩 さん

 前回はほぼ黒の状況説明回でした。
 多分次回は黒とヒーロー(ドラゴンキッド抜き)のお話となる予定です。

 鏑木楓の家が近い設定は、読み切りの時のドラゴンキッドの友達として白羽の矢を立てた事に始まりますw
 そして、ならいっそこの話でも使っていこうと思ってますw

 NEXTと契約者の能力の強さと戦い方の違いについてですが、おっしゃるとおりですw
 いい具合にバランスを取ってくれそうで、なんとかバランスを崩さないように頑張ります。
 中にはアンバーっていう規格外の奴もいますけどねw
 やはり、アンバーはねwww
 回数制限があるとはいえ、凄すぎますよねw


  >to−tasu さん

 ご指摘ありがとうございます。
 消えてしまったようですが、前回も書いていただいたようで、ありがとうございます。
 まだまだ精進している身ですので、そういう指摘もありがたいの一言に尽きます!
 修正などはまた後日しようかと思います。
 また指摘などありましたら遠慮なくどうぞ、感想もあれば合わせてくださると嬉しいです。


  >雫 さん

 感想ありがとうございます。

 文章は私もまだまだ精進している所です。
 お褒めいただき嬉しいです!

 主人公(黒)が優位に立っているように書いていますが、実は主人公はヒーロー達とガチンコとなると、勝てるのは……ロックバイソンと折紙サイクロンくらいじゃないかと思っていますw
 『死神の涙』編の今公開しているお話では主人公は絶望に堕とされています。
 私がそういう話が大好きだという事が多いですが、主人公が圧倒的不利な状況を返すのが好きなのでw
 完結して、圧倒的不利を返すのを書きたいと思います。

 同じ小説投稿板に投稿する仲間同士、頑張っていきましょう!


 では、今回はこれにて失礼します!
 また、次のお話のあとがきにてお会いしましょう!
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