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魔王日記 第六十五話 ジジババも時には暴走する。
作者:黒い鳩   2011/12/07(水) 16:17公開   ID:VRXt0W.JDuI
つまるところ、フィリナにとって一番の問題は何だったのか……。

そして俺は一体何をしていたのか、メヒド・カッパルオーネ老に教えられた事は結局そう言う事だった。

まだしも、失われる前に気がつく事が出来た事は良かったと言うべきか。

それとも、歪な状態を長く続けるべきではないと見るべきか。

少なくとも、兆候は見えていたのだ、俺が鈍かっただけ……。

結局わかった事は、俺がやってきた事は所詮大した意味はなかったという事だろう。

時間が順逆するが、順序立てて話していくこととしよう。

俺が、俺として今後も歩き続けるために……。























パーティの翌日、朝食を済ませた俺達は、宿を出てエレベーターへと向かう。

メヒド・カッパルオーネ老がいる場所が第四層、つまり一番上の層だとわかったのはいいのだが、

そこまで行くにはそれなりにめんどくさい手続きが必要である事がわかった。

対して、石神の発行してくれた俺の戸籍がどれくらい使用に耐えるのか少し怖くはある。



「アイヒスバーグのセキュリティにおいて、都市に住む人間以外の人間が行けるのは、基本的に第一層のみです。

 住宅街や農業地帯つまり2層や4層に行くには審査に合格する必要があります」

「第三層は?」

「貴族達や一部の大金持ちの住む高級住宅街や、政治中枢が集まっていますので、更にチェックが厳しくなります」



確かに、テロなんかが起こるとすれば一番可能性が高いのは第三層だろう。

そう言う意味でチェックが厳しくなるのは当然と言えた。

ともあれ、俺達はエレベーターのある支柱の塔の近くで申請を済ませる事にした。

審査は基本的に住所や氏名を書くだけの物で、その照会が済めば通してもらえた。

本人確認等は魔法で行われるため、ある意味早いものだ。

街ぐるみで偽造戸籍を作っている等とは思われていないという事だろう。

石神もなかなかワルだねぇ。


ともあれ、乗ったエレベーターは何事も無く上昇していく。

俺達を運ぶエレベーターの大きさは20m四方もある。

一度に50人くらいは余裕で乗れるだろう。

まあ、柱ごとにエレベーターは3つづつで1と2は第三層には止まらない。

3は第一層と第三層を直通で結んでいる。

2つのエレベーターはそれぞれ1時間で往復しているらしく、30分ごとに一本やってくる計算だ。

はっきり言ってイメージはバスとか電車のほうが近い。


ヴィリが小さな体をぴょんぴょん跳ねさせながら、下がっていく街の姿を見ている。

エルフ耳がなければただの子供にしか見えないだろう、肉体に精神が引きずられると言うがヴィリを見るとそう思えてくる。



「しかし、魔法都市って言うから空でも飛んでいくのかと思ってたけどね」

「技術的には可能なのでしょうが、それをやると交通規制と流入する人間の把握が難しくなるのでやっていないようです」

「なるほど、テロ対策の一環か」

「元々この国も革命が成功したから出来た訳じゃしの。

 自分達が同じ轍を踏む訳にはいかぬとばかり、色々と仕掛けをしているようじゃぞ」

「なるほどな」



自分達のやった事を他者にやられたくないか。

一側面としては正しいが、何ともみみっちく見えてしまうのは日本人だからかね……。

そんな事を話しているうちに、第二層を抜け、第三層を通り過ぎ、お待ちかねの第四層にたどり着いた。

20分ほどかかったのは、乗り込みの出入りに結構時間を食ったからだ。

出入りの際武器等を所持していないかチェックされるようだった。



「まあ、剣や杖の類は基本全部置いて来てるし引っかかる事はないだろう」

「ヴィリちゃんはパスティア持ってきておるぞ」

「な!? どうやって抜けたんだ?」

「なに、パスティアは形状を変える事が出来るからの」

「形状?」

「ほれ」


ヴィリが取りだしたのはどう見てもコンパクトにしか見えない化粧道具。

しかし、ヴィリが魔力を込めるとコンパクトの形が紐がほどけるようにほどけ、

再構成されるように弓が現れた、それは見紛うことなくパスティアだ。

それまで、魔力もほとんど感じられなかったその弓は強力な魔力を放出し始める。

だが、直ぐさまもとのコンパクトの姿に戻された。



「まあ、流石に弓の形態じゃとバレバレじゃがの。いざという時役に立ちそうじゃろ?」

「凄いですね……」



まあつまり、抜け穴はあると言う事なのかもしれない。

まあ、そんな弓そうそうある訳じゃない。

しかし、俺たちだって魔族化という切り札は持っている。

安心できるかと言われれば微妙だったりするが……。

ともあれ、人目についたらまずいので今後はそう言う事をしないようにと言ってからチェックを抜ける。


外に出てみると思うのは風が強いという事だった、まあそれも仕方ない。

200mは高低差の存在する塔の上ということになるのだから。

ここより高い場所は、魔法使い達の塔が4本細く長くのばされているのみ。

実質メセドナ共和国、首都アイヒスバーグの最も高い場所と言ってもいい。

そんな所で農業なんて出来るのかと思わなくもないが、仕切られた区画に畑がずらりと並んでいる姿は圧巻といっていい。



「さて、外れのほうって言ってたけどどっちかな……」

「目印になるものが少ないですからね……小屋なら沢山ありますが……」

「大丈夫なのじゃ! ヴィリちゃんのセンサーにはビビッとくるものがあるのじゃ!」

「どっちにですか?」

「あっちじゃ!」



そう言ってヴィリが指差したのは中央部に位置する大きな泉だった。

雨水を集めるシステムになっているのだろう。

底から水路が伸びて畑や田に水を送るようだ。

そして、その中央の泉の真ん中にまた塔があった。

一目でわかる、これは個人の研究所じゃない、位置から見てもその巨大さから見ても協会本部か何かだろう。

それでも、目的の場所がはっきりしないので、その事を聞くためにそお協会本部と思しき塔に向かう。



「それにしても凄い場所だな……」

「そうでしょうか……あまり自然を歪めすぎるとしっぺ返しが怖い。

 そう言う事はマスターのほうがよく知っているのではないですか?」

「否定はしないさ……俺のいた世界では確かにそういうしっぺ返しが起こっていた……」



フィリナがそう言った知識を使い魔の回線からかなり取得している事は覚えているものの、

遮断している期間のほうが圧倒的に長いのに、俺の事を殆ど知られてしまっているように思える。

まあ……俺の平坦な人生なんてさほど記憶に必要な容量が大きくなかっただけかもしれないが。

逆にこっちに来てからの俺の人生は既にここに来るまでの人生の容量に匹敵しかねないわけだが……。



「そういえば、マスターは魔法を使う事が出来るんですよね?」

「一応はな、俺も勉強はしているし、マジックミサイルやファイアボールくらいなら数発撃てるよ」

「魔族化しない状況でもですか?」

「普段は魔力を殆どそっちに回してるからな……。

 それでも、マジックミサイルの1発や2発ならいけるかも?」

「こうしてみると、マスターも強くなったんですね……。普段が連戦ですから仕方ないですが」

「うっ」

「マスターって、実はかなり不幸じゃありませんか?」

「そっ、そんな事は……ない……はず……」



正直その辺は自信がまるでない、何とか切り抜けて来ているけどピンチに陥った事はもう何度目か。

両手の指じゃ効かないくらいの数になりつつあるのは間違いない……。

これで、不幸じゃないというのはちょっと確証が持てない……。

とはいえ、報われた部分も多い、俺が誰かの頼りにされると言う事や、俺の周りに常に人がいる状況とか。

この世界に来てからなのだ、この世界に来るまでの俺は不幸も少なかった代わりに、

誰からも頼りにされず、誰も俺と関わらない、空気のような存在だったから。




「ある意味釣り合いが取れているのかもしれないな」

「釣り合いですか?」

「不幸はもしかしたら増えたかもしれない、その代わりに俺の周りに人が増えた」

「ヴィリじゃんは人じゃないのじゃ!」

「私も人ではありませんよ?」

「ッ!?」



にっこりと笑って言うフィリナがSッけ全開に見えるのは気のせいか?

そう言う意味じゃない、人というのはもっと全体的な意味で……。

俺の周りにいる存在とかそういう意味なのに……。



「そうじゃなくてだな」

「ええわかります。話し相手とか、仲間という意味ですね?」

「あっ……ああ、まあそうなんだが……」

「そこで!」

「ヴィリちゃんとフィリナが端正込めて作ったドール、ビッチちゃんじゃ!」

「ッ!?!?」

「マスターがいつまでも童貞では寂しいでしょうという下僕としての心遣いです。

 是非、受け取ってくれませんでしょうか!」

「ちょっ、それは……まさか……オランダ人の奥さん!?」



オランダ人の奥さん……知る人ぞ知る男性のある種の欲のはけ口である。

この言い方では分かる人も少ないだろう、実際大部分の人はこれだけではわからない。

オランダやオランダ人の事をダッチと呼ぶ事を知っている人はオランダ通かその手の事情に詳しい人だけだろうからだ。

そして、奥さんとはワイフ。

ダッチとワイフ、もうお分かりだろう、男性諸氏の中でも一部の人が愛用するアレである……。



「ふっふっふ、そうなのじゃ! パーツは無論使用可能じゃぞ!」

「マスターが日々溜まったものをトイレ等で処理なさるのを不憫に思いまして……」

「いっ、いや俺は仲間っていいものだなという話をだな……」

「はい! ですので夜のお仲間を用意したのです!」

「なんならヴィリちゃんが手伝ってやるのじゃ!」

「アホかーッ!!!」



いや、ない……。

無いって本当に、いやそりゃ欲望くらいありますよ。

それに、彼女らの容姿を見ればそりゃあ欲望を晴らすのを手伝ってほしいと思わなくもない。

でもさ、恋愛ごとすっ飛ばすだけじゃ飽き足らず。

なんでオランダ人の奥さん相手に行為を行うのを手伝ってもらわにゃならんのだッ!!

それはナニかッ!?

俺に一生童貞でいろという暗喩かッ!?

そりゃー俺は彼女いない歴21年のバリバリ童貞野郎さ!!

後9年ほっとけば魔法使いにだってなる自信があるぜ!!

でもさ、なにもそれを身近な女性に突きつけられる事はないと思わないか!!?



「マスター……」

「……なんだ?」

「思考の障壁解けてますけど?」

「ぶっ!?」



慌てて思考にシャッターを下ろしフィリナに漏れないようにする。

しかし、既に遅い、フィリナに俺の考えどころか恐らくはいろいろな情報が流れ込んだ事だろう。

もうあれだな、フィリナにとって俺の履歴の全ては丸わかりになりつつあるな……。



「大丈夫ですよ。マスター」

「えっ?」

「ヴィリにも私を通じてマスターの思考はダダ漏れです」

「んむ、楽しい奴じゃ!」

「全然大丈夫じゃねーーーーッ!??!」



あれですかッ!!

俺のあられも無い秘密なんて知ってどうするんですか!?

あーもう、アンタら絶対俺の事嫌いだろ!!

そうじゃなきゃ説明つかんわ!!



「兎に角!! さっさとあの目立つ塔に行くぞ!!」

「仕方ありませんね……、了解しました」

「全く手間ばかりとらせおって」

「いやお前らのせいだからね!! これ以上童貞いじりされたら流石の俺も再起不能だから!!」

「ふっ、まだまだ甘いですね」

「今日のヴィリちゃんはまだ30%のいじり力しか発揮しておらんのじゃ」

「私なんてまだ20%です」

「いや、戸愚○弟風に言わなくてもいいからッ!!」



つーかこいつら……どこまで現代文化に染まってるんだか……。

だんだん俺をいじりの能力があがってないか……?

本当に……俺のライフポイントはもう0だよ……。



「さあ、バカな事をやっていないでさっさと行きましょう」

「いや、バカな事をやってたのはフィリナとヴィリだろうに……」

「吸血鬼にでも噛まれたと思って諦めるのじゃ」

「吸血鬼に噛まれたら吸血鬼になるだろ!!」



散々ボケ倒されてようやくたどり着いた魔法使い達の協会塔はある意味オアシスに見えた。

人前では流石にこいつらも自重してくれるはずだからだ……。

ってか、今日の2人は妙にハイテンションでボケまくるから怖い……。



「魔術師協会ね……ほとんどこの世界では魔法使いと言ってたと思うが……」

「魔術師というのはこの世界では魔法使いの事とほぼ同義です、あえて分けて考えなくてもいいですが。

 一点だけ違う事があるとすれば協会に所属し、研究者として魔法を使うものを魔術師と呼ぶ事が多いですね」

「なるほど……」



それほど意識しなくてもいいらしい、

魔術師オーフェ○の世界のように完全に魔術と魔法を差別化しているならめんどくさそうだが。

単なる呼称によるイメージの差程度なら気にする事も無いだろう。

そんな事を考えながら、中の受付と思しき場所へと向かう。

しかし、そこには既に先客がいた。


先客は髪の毛が天辺だけ見事になくなった白髪のじいさんで、受付に何やら文句をたれているようだ。

しっかりした足取りと、ハキハキしたしゃべり方で若くも見えるが、皺やシミ等から見て70代はいっているだろう。

天辺禿のじいさんはカウンターにいる受付けの魔法使いの女性にガミガミ何か言っているようだった。



「だから、言っておるじゃろ! 分からずやのバロックを呼んで来いと!!」

「いえ、ですから……バロック協会長はサミット出席のため不在ですと……」

「バロックがいないならフェンデでもええというとるじゃろ!!」

「フェンデ副協会長もご一緒されているので……」

「ならば、誰ならおるんじゃ!!」

「その……マーグリット評議員なら……」

「バカモン!! 奴は下っ端じゃろが!! 話してもあ奴らまで届かん!!」

「ですが今は……」



うわぁ、何か知らないけどえらい剣幕だな……。

この爺さんの声、恐らく3階上くらいまで届いているんじゃないか?

ともあれ、このままじゃ俺達の捜索が……。



「おお!! メヒドのじじいではないか!」

「じじい言うな!! もっと格調高くエルダーと呼べい!!」

「なーにがエルダーじゃ、単なるヨボヨボのじじいの癖に!」

「お前とて見た目はともかく、ワシより年上じゃろが!!」

「女性に年齢の事を言うでないわ!!」

「フンッ、ばばあをばばあと言って何が悪い!!」

「よほどその首飛ばしてほしいようじゃのう!」

「その耳切り飛ばしてただの幼女にしてやろうか!!」



あー、なんだこりゃ……。

いつの間にかヴィリも参加して大舌戦になってる……。

2人の背後によくわからん動物の影が浮かび上がってますよ(汗



「だから会いたくなかったんです……」

「それはどういう……?」

「メヒド・カッパルオーネ老はヴィリと言い争っているお爺さんですよ」

「なー!?」



世の中何が起こるか分からないとはいえ、何と言うか……。

まあ、元気そうな爺さんでよかったとは思うが。

本当に俺達に安全に使い魔を解除する方法を教えてくれるんだろうな(汗

まあ、まだお願いすらしていないわけだが……。



「あの」

「いーか! ワシは見た目はこーだが、心は20歳!! お前なんぞよりはるかに若いのだ!!」

「見よ! このヴィリちゃんのピッチピチのお肌を!! どこぞの死にかけの耄碌じじいとは違うのじゃ!!」

「あのー!」

「ならば、ワシの真の力を見せてやるわい!!」

「ふっ、望む所じゃ! 耄碌じじいがヴィリちゃんに何一つとして叶わん事を教えてやるのじゃ!!」

「あのーー!!」

「行くぞ!! くらえ!! こっそり鍛えたこのマッスルボディ!!」

「ふんっ、萌え萌えキュンなこの衣装で萌え死ぬがいいのじゃ!!」

「すいませんがーーー!!!」



くっ完全に2人の世界に突入してやがる……。

フィリナを見ると、お手上げのポーズで肩をすくめた。

そう言う時も微妙に揺れるフィリナの胸のほうに視線が行きそうになるのをぐっと堪え視線をバカ2人に戻す。



「じじいの癖に中々の筋肉じゃ!

 しかし、このエンジェル☆メイドヴィリちゃんの魅力には叶うまい!」

「クックック、ならばワシも第二形態に進化するしかないようじゃのう……」

「いい加減にしろ!! このクソ爺共!! さっきから呼びかけてるのが聞こえないのかッ!!」

「へうっ?」

「ななっ?」



いい加減切れたもー切れた、ただでさえさっきまでいじり倒されていてイライラしてるってのに。

更に人の言う事をガン無視するジジイだと!?

2人の世界にいっちゃってるんじゃねーッ!!

さっきから、頭の中はかなりヒート状態だった。



「ヴィリッ!」

「ひゃぃ!?」

「この方がメヒド・カッパルオーネさんだな?」

「んっ、んむ。そうなのじゃ」

「メヒド・カッパルオーネさん」

「どっ、どうしたのじゃ?」

「お願いがあってやって来ました。シンヤ・シジョウと申します。お時間はありますか?」

「ふっ、ふむ。まあ聞いてやらんこともないぞい」



天辺を光らせながら老人はさっきまでの怯えが嘘のように胸を張って尊大なポーズを取った。

なんとなく分かってきたのは、この老人見た目はともかく精神的にはヴィリとかなり似ているんじゃという事。

面白い事が好きで、自分もひょうきんで、やる時はやる。

そういうキャラのようにぱっと見でも感じられた。

しかしまー、ヴィリと互角のバカが出来るというのは凄い爺さんだ。



「さらっと流しましたが、マスター結構酷い事を言ってましたよね」

「いや、むしろ流してくれよ……」



普段ひどい事いってるフィリナやヴィリはOKで俺だと駄目なのか!?

もしや……。これが世に言う、可愛いは正義!?

ヴィリは文句なく可愛いし、フィリナも美人だけど可愛い時もあるし……。

はっ、どうでもいい思考の底に沈んでしまう所だった。



「はっはっは、お主らなかなか面白いのじゃ。

 ヴィリの連れてきたメンツだけはあると言う事かの?」

「ヴィリちゃんを褒め称えるがいいのじゃ!!」



はっ、もしかしてしゃべり方までヴィリとかぶっている!?

そもそものじゃ、ってのはじいさんばあさんの言葉だから間違いじゃないんだが……。



「マスターも気付きましたか」

「え?」

「実は2人はキャラがかぶっているのです……」

「はっ?」

「キャラが同じタイプなので色々とぶつかる事が多いのです」

「へっ、へえ……」

「仲はある程度いいのだと思いますが、2人揃うと4倍騒がしくなります」

「そうなんだ……」



もしや、フィリナが来たがらなかった理由の一つは2人揃うのが嫌だったという事ではないだろうか。

実際、フィリナはブルーの眉を歪め、眉間に皺をよせてしまっている。

まあ、もっともフィリナの場合それでも人目を引くに十分なほど美しいのだが……。



「兎も角あれじゃの、こんな協会の敷地で騒いでおっても仕方あるまい。

 案内するゆえワシの家に来るかの?」

「はい、お邪魔させて頂きます」

「では、レッツゴーなのじゃ!」



そうしてなし崩し的に俺達はメヒド・カッパルオーネ老の家に上がり込む事となった。

そこは確か研究所のはずなのだが、家というか小屋という感じの場所だった。

一人で住んで、好きな事を研究するにはこれで十分だとはメヒド老の言。


ともあれ、家に付いた後俺は、早速事情を話す事にした。

とはいっても、死の直後彼女を生き返らせるために使い魔にしたという意味の事以外はぼかしてだが。

俺の話しを聞いたメヒド老は最初驚いているようだったが、検査をしてみるとフィリナに色々質問し始めた。



「フム……あれじゃの、死んだ人間を使い魔として蘇らせる事は理論上可能とされているが。

 実際に生き返った例を見たのはワシも初めてじゃ」

「そう……なんですか」

「君はフィリナ君じゃったかの、確かバカ弟子のパーティにいた」

「はい」

「その自覚があるならば、主は本人の人格を残しているという事じゃの。

 確かに、成功しておるようじゃ。

 じゃがこれは……」

「どうかしたのか?」

「フィリナの中に2つの強大な魔力が存在しておる。

 一つはくまなく覆い隠すように巨大な魔の力。

 それとは別に内包された同等の聖なる力が存在しておる」

「聖なる力……それはどんな……」

「まあ何事も詳しく検査してみてからじゃ。数日時間をくれい」

「分かりました、じゃあ一度第一層に戻りますね」



そうやって暫く俺達は第一層と第四層を行き来する事が増えた。

何度か足を運ぶうちに少しづつフィリナの現状について話してくれた事に寄ると、

フィリナは普通の使い魔と違い絶対服従という状態とは言えないとの事。

その理由はフィリナの中にある魔王の魔力と対をなすような聖なる魔力のお陰だと言う。



「対をなす聖なる魔力っていったいなんですか?」

「ワシにもまだはっきりした事はわからんが、この強大さからみて先ず人ではああるまいよ」

「人ではない何者か……」



つまり、メヒド老はこう言っているのだ、フィリナの中では魔王の魔力ともう一つの魔力が拮抗していると。

そして、拮抗する以上は魔王と匹敵するなにか。

そして俺はふと思い出した。



「そうだフィリナ、翼を出してくれるかい?」

「えっ……あ、はい」



フィリナは使い魔となった時、翼を得ていた。

しかし、この翼、最初の頃は殆ど真っ黒だったのに、今では三分の一近くが白くなっている。

そう、黒い羽根と白い羽根、明らかにこの構図は先ほどの話を思わせる。



「……この翼は……使途の……」

「使途?」

「ソール神には7人の使途が仕えていると言われておる。

 そのうちの一人に白き翼の使途ユエルと呼ばれる使途がおる。

 その翼は魔力の燐光を放ち、無限の魔力にてソール神の敵をうち滅ぼすと」

「ユエル……まさか、私の翼が第一使途ユエル様のものだというのですか?」

「はっきりとは言えん、しかし、心当たりがある中でこれだけの魔力を持つとなれば他に思いつかぬよ」



魔王の魔力と匹敵、あるいは上回っているのだから普通ではないとは思っていたが……。

使途……ね……。

俺にとって心当たりのあるのはただ一人、ラドヴェイドを殺した第三使途ボイドを思い出す。

りのっちの影から現れ、俺がいる事を感知し、そして殺そうとした。

親族と魔族の仲が悪いのはむしろ当然なのかもしれないが、俺にとっては記憶に新しい”敵”だ。

フィリナも一度はボイドの前に立ちふさがり俺を庇ってくれた。

しかし……。

もしも、魔王の魔力が使途の魔力に駆逐されればどうなるか……。



「フィリナ……」

「マスター、やはり使い魔の契約は解かないほうがよろしいかと」

「え?」

「使途ユエルはソール神の抱える使途の中でも厳格を持って知られているといいます。

 私の中にユエルが封じられているというなら。

 魔王の力が切れた時、私はマスターを殺してしまうかもしれません……」



そう、それは確かに起こりうる未来でもあった。

俺はフィリナにどう言っていいのか分からず口をつぐむ。

沈黙が重い……、いや、むしろ当然だろう。

フィリナが俺の事を本当に大事に思ってくれているのは嬉しい、しかし、これではどうしようもない。

重くなった空気をどうにかしようと思ったのか、メヒドが口を開く。



「まあ、代わりと言っては何だがの。

 聖なる力を弱める薬程度なら渡してやれるわい、好きなだけ持っていくとよい」

「ありがとうございます。これでこれからもマスターを守る事が出来ます」

「……」


しかし、こんな事で喜んでしまうフィリナの事を悲しいと思うのは俺だけなんだろうか……。

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
おろ、前回より少しカウンターの回りがいいみたいですな。
やはり主人公がいたほうがいいのか、それとも単に英雄が嫌われ過ぎなのかw
今回は一部を除いてギャグ回にしてみましたw
最近ギャグ少なめでしたのでww
兎も角、完結まできちんと続けるためにも余裕がなくなってはいけないですしね(汗


感想ありがとうございました!
続けていけるのは皆様のおかげです。
テンションなんて簡単に下がるので、正直書いてる人間じゃないと本気にしてくれないのですがね(汗
書いている人は自分で最後まで書けるというのは大きな間違いです。
私はもちろんですが、他の作家さんだって、飢えてるのは間違いないと思います。
ごく一部を除いてw



>STC7000さん
救いようのない敵っていうのは今のところ、プラーク、ゾーグ、ある意味ボイドもかな。
この3人くらいですからねww
既に小物臭が漂い始めているゾーグや、出番がほとんどないし、上に従ってるだけっぽいボイドよりもらしさがあるでしょうねw

時間を操るアイテムですが、まあ、そんなに無茶なことをするつもりはありません。
プラークの護身用ですのでwディオのように能力を調べてどうこうなんてしないはずwww


>まぁさん
ですねー、シンヤの成長は精神的なものもですが、やはり最終的には全てといきたいところですw
ただまぁ、先は長そうですが……。

オーラムの悪巧みに関してはこの章のうちに一度はやっておきたいですねw

今回はより派手にいじってみましたwww

今のところ大きな変化はないですかねw

暗殺ギルドの本領っていうのは戦闘力じゃないので、今までの方がおかしかったともいえますがww


>Februaryさん
ヴィリは100歳のはずなんですが子供っぽいシーンがつい多くなるww
イメージがイメージなので仕方ないのですがww

量産型ですかww確かにありそうな話ですねw

改めて見てもヒデーキャラしか作っていませんね私はww
貴族が嫌いってわけでもないんですがw

確かに拳とか、関節技とかも考えましたがw暗殺ギルドっぽくないかなと思いましてw
まあ、幹部クラスにはそういうのもいそうですがw
ともあれ、あの推理そのものは穴だらけなんですけどwまあ、ゲームなので許してくださいw





ではでは、次回も頑張りますのでよろしくお願いします♪
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