俺達が図書館で書類に埋もれていた何日かの間も大統領選挙は演説や話しあい等を繰り返し、終盤へと近づいていた。
最終的には税金を納めていて、国民登録がなされている人全員が投票を行う。
今回の候補4人のうち誰が一番相応しいのかを決めるわけだ。
因みに、俺とフィリナは石神が戸籍を作ってくれているので投票権があったりする。
2票程度で何かが変わる訳でもないとは思うが、一応投票しておいてもいいかなと考える。
ここ数日は書庫の整理と、フィリナやヴィリによる精神攻撃、
ティアミスのフォローで撃沈という構図でダメージも多かったがそれなりに実りもあった。
純粋な魔力を作り出すための方法と思しきものが見つかったからだ。
とはいえ、現時点でどこまで出来るのかはしごく怪しいところだが……。
準備を整えるのに一月くらいかかりそうだし。
フィリナから追い出すべき魔力の詳しい質を調べるためには神聖ヴァルテシス法国に行かねばならない。
そう、今の俺達が一番行きたくない国である、ソール教団の総本山だ。
進歩は見えたとはいえ、苦労する事だけは目に見えているという泣ける構図である。
ともあれ、このまま呆然としていても仕方ないと、一旦解散し、宿へと戻る。
だが……部屋の扉を開けた先に既に先客がきていた……。
「しかし、眠いのじゃ……ここの所ちょっと遊びすぎたかのう……」
「うん、だからって俺のベッド占領しなくてもいいよね」
「何を言っておる、折角このヴィリちゃんが添い寝をしてやろうと言うのじゃ。
しっかり堪能して、光栄に浸るがいいぞ!」
「ふっ」
「今なんか鼻で笑ったような気がするのう……。
巨乳フェチには小さい魅力がわからんか、そんなだからいつまでたっても童貞なのじゃ」
「もしかして、そのネタがやりたいためにもぐりこんだのか?」
「そんな訳がなかろう。取りあえず布団に入るのじゃ。
話しはそれからでも遅くはないじゃろ?」
「遅いような気がしないでもないが……」
おふざけで俺のベッドにもぐりこんできたとばかり思っていたが、どうやら内緒話があるらしい。
ヴィリの真剣な表情というのが珍しいだけに、俺としても頷くしかなかった。
ぱっと見10歳前後の金髪幼女、エルフの長耳がなければそれだけで済んでしまう。
しかし、100歳を越えているという話通り時折見た目に会わない深い知性と苦悩の目を向ける事がある。
普段がおちゃらけているだけに、何と言うか不安にさせるのも事実だ。
俺は仕方なく、ベッドの上に腰かける。
あまり人に聞かれたくないのだろう、だから出来るだけ耳元を彼女の近くに持っていくという事だ。
「ふぅー」
「ぎゃッ!?」
「あっはっはっは! 引っかかった引っかかったー!」
「真面目なフリしただけかい!!」
「いやいや、すまんすまん。ヴィリちゃんは緊張感とか苦手なんじゃよ」
「うそつけ」
単にからかってるだけだろと、言いたいが又真面目腐った顔をしてくれるのでどうすればいいか迷う。
もう騙されるものかと思う反面、今度は本当かも知れないと思う。
とはいえ、俺の部屋だと言っても、あくまで宿の部屋、あまり大声を出せば人がやってくる。
さて、どうしたものか……。
「そんなに緊張せずとも良いのじゃ。ネタは今回しまいこんで置くのでな」
「信用できん」
「やれやれ、警戒させてしまったようじゃの。ならばヴィリちゃんのとっておきを見せるのじゃ!」
「なっ!?」
ヴィリはかぶった布団ごと俺に飛び込んできた、そして器用に俺の鎧をはがしながらベッドの上に転がりこむ。
俺はいつの間にか、ベッドに横になっている自分に気がついた。
特殊な関節技からの投げなのだろうとは思うんだが……。
ともあれ、俺とヴィリは布団の中で横たわる状態になってしまっていた。
「よし、作戦成功なのじゃ!」
「ってええッ!?!?」
「まあ気を悪くするでない。ヴィリちゃんと一緒の布団で寝られるのじゃ、悪い気分ではなかろう?」
「まあ、女の子と一緒に寝た経験などは皆無だが……」
何のかんの言って、フィリナと2人旅の時ですら、火の番の事もあって隣で寝たりはしていない。
一緒のテントの時も仕切りは用意したし(それでも気になって眠れない日もあったが)それなりに気は使っているのだ。
だから、布団一枚というか、直接肌が触れ合う距離で一緒に寝た経験などない。
俺が襲う事等無いと考えているからか。
まあ俺はロリにタッチする気はないので、否定しないし、襲ったとしても実力排除されそうではあるが。
「それでどうじゃ……。か・ん・そ・う・は?」
「やっ、やわらかいです……」
「そりゃもう、毎日磨いておる玉の肌じゃからの。きちんと責任とるのじゃぞ?」
「せっ、責任って!?」
「ふっふっふ、ここからが本題なのじゃが……」
「行き成りだなおい」
「責任取ってヴィリちゃんを嫁に!」
「なっ!?」
「というのは嘘で、ちょっと旅に出ようと思うのじゃ。
事情ができてしまっての……」
「事情?」
「今は深く言う事は出来んのじゃ……。いずれ……話す事が出来ればよいとは思っておるが……」
それは、最初にしていた真剣さのある表情で、結局これだけの事をして言いたかったのはそれなのだと言う事だろう。
話し辛かったからからかったのだとすれば、仲間意識というのもが彼女にも目覚めていたのだと言う事だろうか。
だとすればうれしい事でもある。
俺は彼女にそれだけ認められているという事なのだから。
「深く詮索する気はないさ。ただ、出ていく挨拶は皆にしてほしい」
「……すまぬ。それも出来ぬ事情がある」
「そうか……」
「話せぬばかりですまぬのじゃが、これを……」
彼女がそう言って差し出したのは、白いコンパクト。
これは確か、見た事があった。
そう、メヒド・カッパルオーネ老に会いに行く時だ、聖弓パスティアをこの形に変えている所を見た事があった。
つまりは……。
「聖弓パスティア……」
「悪いのう、本当はヴィリちゃんの体を報酬代わりにするつもりだったのじゃが……。
フィリナのような我儘ボディじゃないと駄目じゃとは、本当にお主は贅沢ものじゃのう」
「いや、それ以前の問題だから! って、俺に聖弓パスティアを預ける?」
「まあ、それはそうなのじゃが……。これはその、お主の元パーティのメンバーで弓を使う者に渡してやってほしいのじゃ」
「弓を使うって、ティアミスの事か? ヴィリ、知り合いなのか?」
「それも今はひ・み・つ・なのじゃ」
ヴィリはふざけてはいたが、何か後ろに影が差しているように見えた。
本当は何か言いたい事があるはずなんだが……。
俺が口に出して聞いてもはぐらかされるだろう。
だが、彼女の言葉を信じるなら……何れ分かる事なのかもしれない。
「分かった、渡しておくよ。
でもヴィリ……俺で役に立てる事があったら言ってほしい。
今までも世話になりっぱなしだからな」
「ふうむ……、ならばヴィリちゃん達が渡したあのプレゼントの使用具合の感想を……」
「使ってないから!!」
「なんじゃ、折角お主のためを思って夜なべして作ったのに」
「そんなのに夜なべする時間があるならきちんと休養でもとっておけ!!」
「そして休養で使うのじゃなくふふ」
「あーもー!!」
全くまともに取り合う気の無いヴィリに俺は少しいらだったが、まあ、ヴィリが俺を頼るような事態はそうないだろう。
だが、それだけに彼女がパスティアを置いてまでここを去る理由が分からない。
以前に俺に言っていた件と関係があるのだろうか?
どちらにしろ彼女は口を割ってはくれないだろう、そんな事をつらつら考えていると。
いつの間にか眠くなっている自分を自覚した……。
「すまぬな……、
ヴィリちゃんとしてもちゃん……たお別れを…………おきたかったのじゃが……。
次に……時は…………私……かれば……な…………」
意識が急速に失われていく、何か一服盛られたのだと気がついた時には意識は断絶していた……。
意識が回復した時既に日が昇っていた事から察するに、俺は10時間近く寝てしまったという事だろう。
泣けてくる話だが、ここの所、この世界の文字と格闘しながら探し物を続けて缶詰め状態が続いたため、
疲れがたまっていたのだろう……。
「ったく……、全員にきちんと挨拶していけよな……」
俺の愚痴は表向きではあったが、ヴィリがいなくなった事への寂しさが言わせたものなのだろう。
元々彼女は楽しい事だけしている、そう言っているし、そう行動している。
だから元気はつらつとしていて、見た目通りの子供のような印象を与える。
しかし、その実知識は深く、常に激することなく他者を観察しているようにも見える。
そんな2面性のある彼女だが、俺は随分と気に入っていたらしい、分かれに涙を見せる程度には……。
顔を洗って支度をし、朝食を取るために下の階に降りる。
廊下から外が見えるが、空は偏光スクリーンのようになっており、空の色が見える。
太陽の光も入っており、ぱっと見ここが4層からなる巨大な建造物の内部であるとは感じられない。
元々人間は窮屈を感じるいきものだ、空を見ないで長い間暮らすのは辛いだろう。
こういう処理はなんというか、魔法というより科学的なイメージがあるが、どちらも同じ事が出来ると言う事か。
そんな事を考えながら一階に下りてきた俺は、親父さんに朝食を頼み、トレー片手に仲間達のいる場所へと向かう。
「マスター、昨日は随分ぐっすりお休みだったようですが、疲れはとれましたか?」
「お陰さまでね。所でフィリナ、今さらなんだがマスターはやめない?」
「マスターと呼ぶ事に慣れてしまいました。
でもそうですね、ご主人様と旦那様、おにいたんとドブネズミ、どれがいいでしょう?」
「いや、それしか選択肢ないの!? っていうか、最後のは蔑んでるよね!」
「朝からテンション高いわね……」
「ボウィ、朝はティーを味わいながらゆっくりと目を覚ますものだよ」
「あーうん、そうだった。こんな事してる場合じゃなかったな」
「どうかしたのですか、マスター?」
「ああ。実は……」
俺は今揃っているメンバーに、ヴィリが出て行った経緯を話した。
とはいえ、何も聞き出せたわけではないのだが……。
ただ、何となくだが、ヴィリが急いだ理由はなんらか目的があってというよりは、
ここに居づらい理由が出来たからというほうがしっくりくる気もする。
「ヴィリさんって、確か勇者パーティの実質No2だった人よね。
私、数日一緒にいたけど殆ど話した事無かったわ……」
「からかわれるだけですので、関らない事をお勧めします」
「フィリナさんがそう言うっていう事は相当よね……」
少しだけ頭を抱えるティアミス、現在いるメンバーはフィリナ、ティアミス、エイワス、俺の4人。
気心の知れたメンバーであるので、割合深い話しも出来ると言う事だ。
因みに、お子様のティスカは夜騒ぎ過ぎたのでまだ寝ているそうだ。
ホウネンとヴェスペリーヌは朝早くから出掛けたらしく、居ないとの事。
この2人が一緒にいなくなると、ついつい何か企んでいるように感じてしまうのは被害妄想だろうか……。
「それで、ティアミス。お前にこれを渡してくれと言われている」
「これは……コンパクト?」
「普段はコンパクトなんだが、魔力を込めてみてくれ」
「うっ、うん……。
えっ!? ……こっ、これは……」
ティアミスが呆然と見ているのは聖弓パスティア。
ヴィリの持つ強力無比な武器だ、弓の力か、彼女の力か、撃てば相手を射抜き、曲射だろうと自由自在。
矢次第では、どんな敵にも大ダメージを与えられる。
確かに、ぽんとプレゼント出来るような代物ではない。
正直俺も何故ヴィリがこれをティアミスに渡そうとしたのか、その理由がわからないんだが……。
ただ、何らかのつながりがあるとみて間違いないだろう。
「こっ、これは……聖弓パスティア……。
何故これがここに……あれは確かに失われたはず……」
「どうかしたのか?」
「いえ……なんでもないわ……」
ティアミスはとてもなんでもないとは思えない表情のまま声を返す。
中学生程度にしか見えない彼女がそうして見せても迷子の子供のように見えてしまう。
ハーフエルフなので耳がとがってこそいるが、人間とさほどの違いはない彼女だ。
やはりエルフというのはそういう主所暮らしい……。
大人のエルフなんてそうそう見る事はないから何とも言えないが……。
「今ティアミスさんに向けて邪な気配を飛ばしましたねマスター」
「レイディの扱いがなっていなんいじゃないか、ボゥイ」
「いや、俺が思っていたのは大人のエルフってそうそう見かけないなーって」
「えっ、あの……」
「そんな事、理由は簡単ですよ。好奇心を失ったエルフは妖精の森から出てこなくなるだけです」
「それよりもレィディの扱いについて君はもう少し学習する必要があるね、アンダスタン?」
「わっ、私は気にしてないのに……」
「とにかく、渡したからなティアミス。理由は今度会った時にでも聞いてみてくれ」
「うっ、うんそうする」
まあ、彼女が何らかの理由でいなくなったのなら、それを解決するまでは会えないだろう。
となると、今はその事よりも先に解決する事がある。
フィリナに関する情報はかなり出揃ったと言っていい、
そろそろそれらの情報をメヒド・カッパルオーネ老に話して今後の対策を練ったほうがいいだろう。
朝食のパンがやけに固かったので、その後は噛み砕く作業に専念する事になった……。
イライラと行き来する足音がある、何かを待っているようではあるが、
部屋の中でこんなことをしなければいけない理由は単純だ、彼の待ち人が彼の命運を左右するからだ。
上院議員デトランド・ラーダ・バウル、保守党から立候補した大統領候補である。
今、大統領選はおおよそ三分の一の肯定が終了した。
メセドナ南部の住民達による投票が行われたところである。
デトランドは予想していた得票数を大きく下回る結果に焦りを隠せなかった。
実際問題、ここまでは彼の領土とその周辺の領主の抱き込みがあるので、得票数の半分は彼のものとなるはずだった。
しかし、始まってみれば彼を含め上院(貴族院)議員の得票数は全員合わせても半分に届くかどうかという程度だ。
残りの半分は、たった一期もまともに議員を勤め上げたわけでもない、下院の議員に集中している。
ただ、勇者のパーティにいたというだけの男にである。
「くそ、領主どもめ……。票の取りまとめに失敗しおったな……」
そう、ありえる可能性としては一般民衆の票の取りまとめをしている領主がうまくやれなかったというものだ。
しかし、そうなると今後も得票数が安定することはないだろう。
当然ながら、全て魔法使い崩れにいい方向に進んでいる。
まさかとは思うが、何か仕掛けたのかもしれない。
「どちらにせよ、もう悠長に構えている暇はない……。
ええい、まだか……」
「どーもー、情報屋っす」
「おお、来たか!」
情報屋……。
そう呼ばれている男がいる、この男は誰の求めにでも応じ情報をばら蒔いてくれる。
また、特殊な情報を仕入れる能力にも長けている。
デラントにとって非常に使い勝手のいい男であり、
給与を与えて秘書にしようとしたこともあるがのらりくらりと躱されるため、現在も要件があるたび呼び付けねばならない。
そういう部分は手間がかかって彼の好みには合わないが、情報屋の能力は高く買っていた。
「今回の要件は、やっぱり大統領選挙の件ですかい?」
「ああ、奴め、どういう方法を使ってきたんだ?」
「奴って、オーラム・リベネット候補ですかい?」
「そうだ……どう考えてもこの票の移動は有り得ない。
大規模な洗脳魔法でも使わない限り、こんな事になる訳がない!!」
「ですねぇ、まあそう言えなくもないかと」
「何!?」
「ああ、旦那の考えていることじゃないですよ、念のため。
ですが、まあそのへんは……ね?」
情報屋は指でお金の形を形作って情報料を請求してみせる。
見た目も、服装もさほど目立たないその男は、
こうやって今までかなりの金を稼いでいるはずだが、それが表に出ることはない。
「金貨10枚(100万円)でよかろう」
「まいどあり! 奴らがやってるのは簡単な事ですよ」
「簡単?」
「半年以上前から各地を旅する吟遊詩人が魔王退治や、彼がどういう政治をしているのか、どういう魔法使いなのか。
そういったことを物語として聞かせてるんですよ。
今じゃ多分全部の領土で月一くらいはそういう吟遊詩人がやってきているはずですぜ。
それに行商人もあた方オーラム議員に行為的な事を伝えているようですな」
「それがどうしたというのだ?」
「……民衆真理ですよ、民衆真理」
「まさか、吟遊詩人の物語程度で奴が大統領に相応しいと?」
「その通りですはい、考えても見てください。
彼らは貴方の事を一度も見たことがないんでずぜ?
となれば、領主から伝えられる言葉と、吟遊詩人の歌、後は行商人が持ってくる噂だけが大統領を選ぶ基準でさ」
「それは……そうかもしれんんな」
「その一つを完全に抑えられ、もう一つも殆どオーラム議員に好意的な事を話すんですぜ?
そりゃ票の半分くらい流れるでしょう」
「……」
デトランドは今になって衝撃を受けていた、それは情報屋から語られる話の意味に気づいたからだ。
つまり、今まで絶対だと思っていた取りまとめによる票集めは、所詮全体の3分の1程度の力しか持たない。
印象を操作することができたものが勝つということを。
今までそういうことが起こらなかったのは、あくまで誰もそれを利用する利に気付かなかっただけだ。
つまり、今デトランドは得意なはずの選挙戦で完敗しているということになるのだ。
「やはりこのままではまずいな。例の件進んでいるかね?」
「ええ、彼らは喜んで買ってくれましたよ。こんな取引なら、私はいつでも歓迎しますよ!」
「そうか……で? 彼らの動きは追っているんだろうな?」
「もちろん、こちらも商売ですからね。当然追加料金はいただきますが」
「金貨で100枚(約1000万円)だ。これで問題なかろう?」
「へい、もちろんでさ」
「今奴らはアイヒスバーグ入りをしたところですな。
奴らには取って置きの情報もやりましたんで、恐らくうまくいくんじゃないですかね」
「そうか、私が首都から離れるタイミングに合わせたのはお前だな」
「もちろんでさ、これもアフターケアってやつです。もちろんお代はいただきません。
末永くお付き合いいただくためのサービスだと思ってくだせえ」
「ふん、分かったわい」
アイヒスバーグに向かった者たちの見当はおおよそ付いていた。
もちろん、そういう情報の漏れ方をするように指示したからだ。
そして、恐らく……あの情報と共にオーラムの政治生命の致命傷となるはずである。
「後は、火消しのタイミング次第といったところか」
「その辺もきちんとお代さえ頂ければこちらで準備させていただきますよ」
「流石だな、しかし、どれだけのルートを持っているのだお前は」
「いえいえ、それでも国内に限っての事でありますし」
「確かにな、まあ、他国も同じレベルだとすればお前がいれば国が動くほどになる」
「そこまで強力というわけにはいきません。所詮コネと足で稼いでいるものですからねー」
「ふふっ、全くお前を抱えられれば怖いものなしだというのに」
「それだけはご勘弁を」
また断られた事に、別段デトランドは腹を立てるわけでもなく、しかし、安心感は得ていた。
あの男から買い取った情報、そのまま使うには危険すぎる。
だが、現状を考えれば使わない手はない。
そこで考えたのがこの方法、つまり自分とは関係の無い誰かに使わせるというもの。
絶対に足がつかないようにするのが難しいが、情報屋の口は硬い。
それに、情報屋もまた直接客に接触していないはずである。
そう指示したし、元々足がつくことを極端に嫌う性格をしている。
ここにきている情報屋すら、一人なのか組織なのかもわからない。
「お前に全て任せるが、私のところまで飛び火しないように火消しはしっかりとな」
「重々了解しております」
やや大げさに一礼して出ていく情報屋を一息着きながら見ていたデトランドは、
気持ちを切り替え、残りの選挙をどう戦うかを考え始めるのだった。
俺たちは、報告を兼ねて一度メヒド・カッパルオーネ老のいる第4層に上がった、
ティアミスはパスティアの事で何か思うところがあったのか、少しばかり沈んでいるようだったが、
一度会っておいてもらおうという事もあり、本来は審査が厳しいところをメヒド老の顔で抜けさせてもらう。
コネというのは何かと重要なのだと思う、最近は特にだ。
何故なら、結局のところ仕事をするにしても、何かを頼むにしても、知らない人では信用してもらえないのだ。
履歴書などで実績が分かっていようが、その人を信頼するかどうかは別のこと。
だから、今の俺はいろいろな人から信頼を受けるようになってきているのではないかと思う。
もっとも、魔族であること、いや魔王の候補であることを包み隠さず言って、
それでも信頼してくれる人がどれくらいいるかは怪しいところではあるが……。
「ふむ、神聖ヴァルテシス法国か、確かに必要な手順ではあるが……。
お主もアレじゃが、フィリナ嬢は厳しい事になるやもしれんの」
「使徒が活性化する可能性があるのですか?」
「何もせんのなら何もないで済むやもしれぬ、しかし、向こうには面識のあるものもおるのじゃろ?」
「はい、生前の養父や何人か知り合いもおります」
「そちらの方面も厄介じゃの……」
着いてから、メヒド老と話をしているうちに浮き彫りになったのはフィリナの危うさ。
確かに、向こうに行けばそういうことも起こりうる。
しかし、俺が行く以上、あまり離れられないフィリナを置いておくわけにもいかない。
行かないのも手ではあるんだが……。
「マスター、あまり私の優先順位を上に持ってくる必要性はないかと思います。
まだ、マスターには魔力を得る事、そして帰る手段を探すこと、幼馴染に協力する事などやるべきことは多くあります」
「いつの間にか、また色々と増えているようね……」
「狙っているわけじゃないんだが……」
とはいえ実際俺の手に余るようなことが増えすぎている。
ティアミス達が手伝ってくれることになったのは嬉しいが、
フィリナの事以外と言えば、どれを優先すればいいのかわからないのが現状だ。
「まあ、そんなに急くこともなかろう。少し今日は泊まって行かんか?
ワシの発明した魔法の数々を見せてやろうではないか!」
「なかなか面白い老人ですね。拝見させていただきましょう」
「(こくり)」
元”箱庭の支配者”のメンバーであるホウネンやヴェスペリーヌが興味を示している。
俺としても確かに、今そこまで急ぐ理由はない。
危険度はできる限り下げておきたいのも事実だし、何か足しになるものがあれば借りようと思った。
「ではまずワシの工房へと案内するとしようかの」
「お願いします」
ティアミスが受けた事により全員が一度工房に向かうことに決まった。
しかし、この時裏で動いていたことを知っていれば俺達は泊まるとは言わなかっただろう。
それくらいに、この後の展開は急転直下と言ってよかった。
もっとも、その日は何も知らず終始語られるメヒド老の初名品を見て使えるものがないか探していたのだった……。