「あ、お帰りなさい!!」
「あ、美鈴お前起きてたのか」
『紅 美鈴』 チャイナ服に赤茶色のロングの髪、身長は周りより頭一つ大きいくらい。目はパッチリとして、牛みたいな胸を持つ活発な女性だ。この紅魔館の門番をしている。
「なぜそれを……それより咲夜さんから聞きましたよ、妹様のお世話係りをまたやるみたいですね」
太陽のような明るい笑顔でシロガネに言った。
「まぁ、積もる話もあれだし、お前もそろそろ仕事切り上げて館で飯だろ、そん時にまた話でもしようぜ」
「はい、よろこんで!!」
シロガネとフランドールは紅魔館の中に入った。夕陽に染まる館は独特のどこか物寂しい風景を残していた。
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「で、レミリアどうしてそうなった?」
「いいじゃない、折角全員がそろったのだし。主の意向よ?」
食事を終え、食器を片づけ全員が一息ついているとレミリアが紅茶をのみながら思いついたように言った。
「「全員の親睦を深めるためにお風呂に入りましょう」」
という提案だった。無論シロガネは性別が違うため、拒否したが主には逆らえなかった。
「私は一向に構わないわよ、シロガネとは長い付き合いになるし裸のひとつやふたつ見せたところで、なによ今更って感じよね」
紫色の長い髪に優しそうな瞳、パジャマのような服に、ローブのようなものをまとった魔女、パチュリー・ノーレッジ。
やや、神経質な性格で、無類の本好きである。普段から紅魔館の地下にある大図書館の管理をしている。シロガネとはそれなりの付き合いがある。
「いや待て、オレが困る。オレは男だぞ」
「わたしはシロとお風呂入る!!」
(フランは別にかまわんさ、仕事の関係上、オレが入れさせることになるだろうし。だが問題は……)
シロガネは咲夜を見つめる。
「咲夜さんはどうですか?」
「え? お風呂に入ることはいいことだと思いますよ」
咲夜は何ともない表情で言った。
シロガネは重要な事実に気がつく。
「おい、美鈴ひとついいか?」
隣に座っている美鈴にこっそりシロガネは小言で言う。
「なんでしょうか?」
「咲夜さんっていつからここで働いている?」
美鈴が目を上に反らす。
「たしか……六歳くらい時からですよ、あのころは可愛かったな〜」
シロガネはある結論に達した。
咲夜は男性というものをあまり知らない、せめての救いが買い物に行ったときに会う店の主人くらいということを。だから男女に設けてあるルールを知らなくてもなんの矛盾もない。
「美鈴は風呂に入ることについてどう思う?」
「う〜ん、シロガネさんラッキーじゃないですか」
(駄目だコイツら、どうしようもねえ、ここに建てた病院が逃げちゃったよ、それ以上に今オレの体を見せるわけにはいかない)
シロガネは左胸を押さえる。
「決まりね、じゃあ、行きましょうかシロガネ?」
「駄目だ、オレは男だぞ? 女がみだりに裸体を晒すもんじゃない」
シロガネは静かに言った。
「それもそうね、けど、ここにいるみんな家族も同然よ? そうやって隔てる壁を作る必要もないんじゃない?」
「……わかったよ」
(不幸か、幸福か、わからん、変態にとってはまたとないチャンスだがどうにも気が進まない。なんというか嫌な予感しかしない)
シロガネは目を閉じ耳を塞ぎ静かに風呂の隅っこでお湯に浸かっていた。元々、風呂自体かなり大きいものなのでそれなりに距離が置けるのが幸いだろう。
気配で女性陣がくるのがわかった。一応、シロガネは妄想だけしてみる。
(みんな、楽しそうで何よりですきっとみんな遊んでいるそうに違いない。
そしてなぜだろうか?
なんか体が異様に重いし、なんかしがみ付かれているような感じがするのだが……)
(目を開くな耳を塞ぐな、頑張れオレ!! ここで開けたら何かが終わる――また体が重くなった!? 体重的にはあの姉妹か……)
「聞きなさい!! シロガネ!!」
腕を掴まれた。同時に腕がその握力により骨が粉砕した。
「痛いわ!! 今絶対折れたぞいや、粉砕したぞ骨!!」
思わず目を開けるシロガネ。
フランドールが背中にしがみ付き、レミリアがシロガネの膝の上にちょこんと座っていた。
(ん? あれ、フランってこんなに胸あったか? まさかオレのいない間に!?)
成長の喜びと、どこかもどかしい悲しさでシロガネはため息をついた。
「で、聞いていたの?」
「ん? ああ、すまん瞑想していた」
「だから、さっき咲夜がシャワーの温度を間違えて――」
ぴたぴたと浴場を小走りする音が聞こえる。
「お嬢様!! さきほどは――」
まぁ、変な妄想ばかりしている皆さんは次どうなるかわかるよね?
つるん、と咲夜が滑って転んだ。
「あっ――」
バシャーン。
シロガネが目を開けると。
「いってぇ……」
そして、ものの見事に咲夜がシロガネの胸に収まっていた。衝撃のせいか咲夜は気絶ししていた。
(神様、グッジョブ、そしてもう駄目だ……)
シロガネはため息をつき、咲夜をそっと抱きかかえ、風呂場から上がった。
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「うう……お嬢様……」
気がついたら、ベットの上に居た。自分の部屋の天井だと気づくのにさほど時間はかからなかった。
「気がついたか、浴槽で転んで気絶したんだぞ、まぁ、無傷だったし、人もいたからな」
目の前に居るのは、白い髪に赤いきりっとした瞳、顔立ちはそれなりによく、身長はなかなか高い、ワイシャツにズボンというラフな格好の男性がタバコをくわえながら椅子に腰かけていた。
「申し訳ございません、ご迷惑をかけてしまって」
咲夜がベットから起き上がりシロガネに頭を下げた。
「気にするな、晩飯の礼だと思ってくれ……うまかったぞ」
シロガネが気だるそうに、タバコの煙を目で追っている。
(……確証はないけど、シロガネさんって本当にいい人なのかしら? 私の能力が暴走し時も気を使ってくれたし……だとすると未だに警戒している、私ってものすごく失礼なのでは……もう少し様子を見てみましょう、お嬢様も信頼しているようですし)
「あ、そうだ、時計と指輪お返しします」
「いや、返さなくていい、オレが持っていても映えないしな」
「いや、ですが――」
「いらないなら、質にでも出すといい、自分で作ったものだからなんとも言えんがそれなりの金になる、能力が気になるなら、オレに言え、能力発動をキャンセルする」
シロガネは、タバコを携帯灰皿に入れ、欠伸をした。静寂に包まれた空間は二人っきりをさらに強調した。
「いくつか、うかがってもよろしいですか?」
「答えられる範囲で、もしくはそっちが秘密を漏らさないなら何でも話すぞ?」
シロガネは平たんな調子で言った。
「お嬢様とはどのぐらいの付き合いで?」
「そんなに、長くないせいぜい五十年くらいだな」
「戦役ってどんなのことしていたのですか?」
「秘密だ」
シロガネは強調も弱くも言わずとことん平坦に言った。むしろそれがその言葉を強調させた。
(そういう類のことをやってのけるということは、なにか目的があってここに来たという事だろう……まさか、この人が私の能力になにかしらの干渉をしたという可能性も、でもそれになんの利益があるというの? 吸血鬼ハンターなら吸血鬼を憎んでいるという可能性もあるが、妹様とも楽しく遊んでいいた、機会を狙っているのか?)
「では、私の能力の暴走とあなたの関係は?」
「ん、ああ、関係ないと思う、もし関係していてもそれは意図的にではなく、偶発的に起きたものだろう」
「そういいますと?」
「憶測でものをいうが、オレがここ、幻想郷に帰ってくるときにあっちの世界で強力な力を使って、結界の一部をこじ開けてここにくる、ほんの一瞬だけあっちの世界の時間と、こっちの世界の時間が混ざるんだ、その時、咲夜さんの能力を使ったら、能力の暴走がおくるかもしれないな」
シロガネはそう一息で言うとタバコを取り出し火を点けた。
「だが、これには不可解な点がいくつかある。ひとつめに三か月分の時間の誤差、ふたつめになぜオレだけが動けたか、みっつめにオレがそんなにハイスペックじゃないという三つの点だ」
「え? 聞く話だとあなたの能力はかなり強い分類に入るのでは?」
「短所言わなかっただけだ、オレははっきりいうが幻想郷では最弱の分類に入る」
「どういうことですか?」
「オレは、たしかに“不老不死”といったが、正確に言うと、それはあくまで“理論上の不老不死だ”もっと悲しい話をいえば、不老でもない。だから蓬莱人のような回復能力はない、致命傷を喰らえば武器能力がデリートされる。まぁ、簡単にいえば死ぬ。一応、武器能力で超再生能力を持つ物はある」
「つまり、あなたは自身の能力のデメリットは無くなったが、無敵ではないと?」
咲夜が首をかしげながら聞く。
「しかも、武器にも縛りがあって、一回に二つ、多くても三つ程度しか同時に武器を使う事が出来ない。あまり派手な能力の武器は、一つ使うのがやっとていうところだ。今使ってるのが、超再生能力の武器『アース』影を操る『ナイトメア』のふたつだ」
「今も装備しておられるのですか?」
シロガネは、後ろ腰から小型のナイフとそのナイフに柄についてるチェーンを咲夜に見せた。
「ナイフ本体がナイトメアでこのチェーンがアースだ」
そういって同じところにナイフを戻した。
「どうして、そんな重要なことを私にいうのですか?」
「単純だ、咲夜さんは知り合って間もない、つまりオレを信用しきれていなくて当然、オレとしては紅魔館の住人とは出来るだけ仲良くしたい。言ってしまえば、早々にそれなりの連携をとれるようにしたくてな……万が一を考えて、先走りすぎているのはわかっている」
シロガネは白い煙を口から吐きだしていた。
「わかりました、あなたのことは二〇パーセントほど信用しましょう」
「こいつは、手厳しい、じゃあ、そろそろ行く、すまなかったな」
シロガネはタバコをくわえながらそっと立ち上がり、静かにドアを開いて行った。
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「やっぱり、咲夜が気になるのかしら?」
「それなりにだ、やはり、ボッチにするのは可哀想だ」
「ボッチって、あなただけには言われたくないわね」
「そりゃ、どうも」
「でも、能力を使ってまでしなくてもいいじゃない?」
「影を操る……つまりは、ひとの心も体の中、影に潜むか。察しがいいな」
「会ってまだ初日なのにどうにも咲夜の様子がおかしくてね、妙に人を警戒していないのよ、その時点で分かったわ」
「そうだな、紅魔館の前にいて、お前の好きそうながらのメイド服、そしてオレのことを知らない、おそらく、オレと入れ違いになった、あの子だろ?」
「相変わらず、そのゴミ虫以下の能力をもつ人間の割にはさえるわね」
「ゴミ虫か……確かにここ、幻想郷じゃあ、オレの能力は本来の二割くらいしか出せないからな、しかも、オレは弾幕ごっこが出来ないからな。能力の利用の出来る幅が大きくても大して強くない」
「違う世界ではなんて呼ばれてたのかしらね?」
「世界の数だけだ、ゴミ以下、子供に劣る者、化け物、鬼、あるいは神」
「一度でいいから本来の力を見たいものね」
「ここじゃあ、あれが全力だ。超再生も妖怪並み、ナイトメアは人の心を軽く暗示にかける程度、その暗示も簡単に解けてしまうくらいの精度だ。今回はたまたま上手くいったがな」
「不憫ね、あっちこっちで能力の出力が変わるなんてね」
「どの道、もうすべて終わったことだ、この能力も人殺しには使えないし使わない、もう殺し合いをしなくていい、それだけで十分だ」
「そうね、あなたはここできっちり働いてもらうわよ?」
「こっちもきっちり給料もらうぞ?」
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シロガネの朝は早い。フランの面倒を見るのにお昼から夜までの間はほとんど自分のしたいことが出来ない、少しでも自分の時間を作るべくシロガネは早起きしている。
支給された部屋にあったベットで目を覚ます。むくりと起き上がり、カーテンを開ける。まだ薄暗く、肌寒かった。
着替えを簡単に済まし、部屋から出て、周りを眺めるようにゆっくりと歩んでいく。
「なにひとつ変わらないな……」
ポケットからタバコを一本取り出し、そっと口にくわえ一息置き、ライターでシュッと火を点ける。タバコ独特の香りが口の中に広がる。
「灰皿はお持ちですよね?」
後ろを振り返ると、食糧庫からの帰りだったのか食材をもった咲夜が珍しそうにシロガネを見ていた。
「ああ、灰皿ならもっている」
シロガネが寝起きの処理落ちを起こしかけてる脳で言葉をつなげる。
「朝早いですね、なにか用事が?」
「とくにはない、ただ早起きは一日が充実してる気がしてな。一日寝てるのもいいがこっちの方が性に合う」
咲夜は仕事があるために早起きしているのだろう、朝食を全員分作るためだろう。
「わたしは、見て通りです、一人分増えましたからさらに量が増えましたよ」
シロガネは思わず苦笑いを浮かべた。
「よければ、仕事手伝うか?」
「大丈夫です。ではわたしに用があれば厨房にいますから」
そう言って、すたすたと厨房に向かっていった。
シロガネはバルコニーに出てタバコの煙を思いきり吸い込む、タールのきつい煙は肺を心地よく刺激する。刺激に飽きると煙を吐きだし外の風景を眺める。広い湖はほのかに射す太陽の光できらきらとしていた。
シロガネは自分のタバコを持つ手に視線を落とす。タバコを口にくわえたまま手で影を作り、影の世界から一枚の写真を取り出す。
そこには、白銀の髪に紅のきりっとした瞳をもつシロガネとその隣には黒髪に蒼い瞳を持つ、シロガネに良く似た人物が肩を並べていた。
「まだ、そっちにはいけない……」
シロガネは写真を影の世界に送ると、タバコを深く吸い込んだ。
「さて、フランを起こすか……」
三杯目終わり