気がついたら朝だった。起き上がると、体中が焼けるように痛かった。
「ようやく、意識が回復したのね?」
どうやら、包帯が巻かれているらしく、左目だけで周りを見る。
「ここよ、まったく……いつまで寝ていると思ったら。今度は記憶障害ですか?」
目を追うと、隣で咲夜が座っていた。
「ここは、紅魔館?」
「ええ、そうよ妹紅が竹林で丸焦げになったあなたを見つけて永琳のところまで運んで行って、その後は大変でしたよ、お嬢様は怒りをあらわにして、妹様は泣き出すとか大変でしたよ? まぁ、無事に意識が回復したので良しとしますが、当分のお給料は無にさせていただきます」
咲夜が少しやさぐれながら言った
「オレはどのくらい眠っていた?」
シロガネは静かに体を寝かせたまま聞く。
「大体、一日っていうところです。いっそ一生意識が回復しないで私の愚痴を聞いてもらってもよかったのですけどね。とりあえず、まだ横になっていてください」
それから、シロガネの部屋に色々な住人がやって来た。
レミリア、フランドール、咲夜、美鈴、パチュリー。
シロガネは意識が回復して、しばらくすると、ほとんどの傷が癒え、走り回れるほどになっていた。
浴場にて自分の包帯を外す。
「やはり、あの時オレは……何をしていたんだ?」
上半身の包帯を解くと、鏡に自分の姿が表れた。
ところどころまだ皮膚が再生していないのかひりひりと痛むが大体の傷は完治していた。
あの時、シロガネはクロガネによって確かに丸焦げになった。人間なら致死レベルの。
シロガネは断片的で曖昧な、あの戦役について思い出そうと試みる。
「駄目だ、思い出せない……完全に消えている」
「なにが思い出せないの?」
ふと視線を降ろすとフランドールが動き回ってるシロガネを見て屈託のない笑顔を見せていた。
「いや、なんでもない、ちょっと昔のことを思い出してただけだ」
「ふ〜ん、そっか、じゃあ、あそぼ!!」
シロガネはしゃがみ優しい笑顔で言った。
「ちょっと風呂入ってからな」
フランドールは大きく頷き、服を脱ぎだした。おそらくシロガネと風呂に入るつもりなんだろう。
シロガネは下半身の包帯を解き、浴槽に浸かった。
「ひさしぶりの風呂か……」
意識が戻ったのはひさしぶり、シロガネの体感時間ではあまりたっていない気がした。
「シロ、なんであんな大怪我したの?」
フランドールが心配そうに聞いた。
「さぁな、気がついたらああなっていた」
「そっか」
隣でフランドールがバシャバシャとお湯で遊ぶ。
身体を洗い、浴槽で十分に温まったシロガネは脱衣場に向かいタオルで体を拭き、服に着替える。
「さて、フラン何をして遊ぶ?」
「ん〜とね〜、なんでもいい!!」
シロガネは少し考える。
「じゃあ、永琳のところに行ってちょうだい、あなたに飲ませる薬が切れていたはず、体の容体を見せに行くついでに行ってきなさい」
レミリアが入口により掛り腕組みをしていた。
「わかった」
シロガネはフランドールと共に紅魔館を出た。
「おいおい、あんたらバカじゃねーの、まったく素人がこの竹林に入ろうと思うなよ」
そういうは、白い和風の上着に赤い袴のようなズボンをはいた、白い髪に赤い瞳の女が言った。
『藤原 妹紅』 蓬莱の薬を服用した一人で正真正銘の不老不死である。
「すまない」
シロガネが謝罪する。その頭の上でフランドールはのんきに昼寝をしている。
「まったく……そういえば、最近あった話なんだが、丸焦げになったやつがいたんだ、そいつを永琳のとこまで連れて行ったのだが、大丈夫かな……」
妹紅が思い出すように言った。
「あ、それオレだ」
「はぁあ!? あれアンタだったのか!!」
妹紅が驚いた顔を見せた。
「ほらこれ」
シロガネは腕にある火傷の痕を見せる。
「これは驚いた、まさかここまで回復が早いとは思わなかった。永琳に見せた時には息してるかしてないかの瀬戸際でほぼ死んだと思ってたけどな」
妹紅は笑いながら言ったがシロガネは苦笑いを浮かべていた。
「礼を言う……」
「いいや、気にするな、おっとついたぜ、じゃあまた後でな」
妹紅はそう言ってまた竹林に戻っていった。
永遠亭と書かれる看板をくぐり中に入る。
「あ、いらっしゃい」
うさぎ耳の生えた女性が挨拶をする。
『鈴仙・優曇華院・イナバ』 みんからはうどんげの愛称で呼ばれており、性格は明るく優しい女性だ。
「あら、シロガネさんじゃないですか、具合はどうですか?」
笑顔で鈴仙はシロガネに聞く。
「まぁまぁだ、それより薬を貰うように言われたのだが?」
「あ、ちょっと待ってください、師匠を呼んできますから」
そういって鈴仙は奥に入っていった。
しばらくすると、奥から鈴仙が手招きする。フランを待合室の長椅子に寝かせシロガネは奥の診察室に入る。
「あら、いらっしゃい、具合はどうかしら?」
『八意 永琳』 ここ、永遠亭の医者で腕はかなりのものらしい。赤と青の服に、白衣を着ていた。髪は白く、顔立ちは優しげで慈愛に満ちている。
「見ての通りだ」
「そう、それはよかったわ、とりあえず座ったらどうかしら?」
シロガネは椅子に腰かける。
「とりあえず、体をみして頂戴」
シロガネは上着を脱ぎ半裸になる。
「すごい…あなた本当に人間なのかしら?」
「一応、人間だ、ひとつ聞くが最初のオレはどうな風だったんだ?」
鈴仙が何かを思い出したのか、口を押えどこかに向かった。
「内臓の一部は焼失していたけど奇跡的に心臓が動いて、手足は骨の髄まで焼け焦げていたわ。なんというか、あなたの体、蓬莱人のように一回死んで蘇ったようだわ。さすがに蓬莱人みたいな回復は見せなかったけどね」
「人間離れしていることはわかっているが?」
「そうみたいね、あと、次は気を付けなさいよ?」
シロガネは首を横に振った。
「そう、わかったわ、あなたが何をするかは知らないけど、限界を迎えるわよ?」
永琳が静かに言う。
「わかった……じゃあ、薬を出してもらおうか」
「ああ、これね」
永琳は机に置いてある紙袋を手に取るとシロガネに手渡した。
「寝る前に一錠でいいわ、単なる抗生物質だから」
「すまない」
シロガネは薬を受け取ると静かにフランドールを連れ永遠亭から出て行った。
帰りの頃に妹紅がタイミングよく竹林から姿を出した。
「案内する」
「頼もうか」
相変わらず眠っているフランドールを抱きかかえたシロガネは妹紅に一礼した。
歩きながら妹紅は不思議そうにシロガネを見る。
「どうかしたか?」
「いや、あんた妖怪なのか?」
妹紅がおそるおそる聞く。
「いや、こう見えても一応、人間だ」
シロガネがタバコを吸いながら言う。
「そうか、すまないな……」
妹紅は浮かない顔を浮かべた。
「いや、気にすることは無い、オレはそういう差別は無い」
「そうか、それはよかった」
「そういえば、ここら辺で武術の修練が出来そうなところはあるか?」
妹紅は首を傾げる。
「そうだな……心当たりはあるは二つほどあるがどちらもおススメは出来ないな」
「構わない、おしえてくれ」
少しの沈黙を破るように妹紅は言った。
「命連寺っていうお寺かな……人間にお勧めできるのは」
「もう一つは?」
「地霊殿って言って妖怪の山の奥にある旧道にある場所でな、またの名を地獄だ」
妹紅の言っていることは間違いではないだろう。
「へぇ、地獄ね……あいつの好きそうなところだ」
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「へぇ、ここが灼熱地獄か、面白そうだ」
マグマ煮え立つ地獄を見て、黒髪に青い瞳の男、クロガネは呟いた。
「ちょっと、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ!!」
空中を舞う長いロングの黒髪に背中には大きな鴉の翼を生えている女性がクロガネに言った。
「まぁ、まぁ、こんな心地よいい場所なんだもう少しいてもいいじゃねえか」
クロガネは手で溶岩をすくい上げ女性に言った。
「駄目だって!! いうこと聞かないと燃やしちゃうよ?」
そう言って、女性は手の中に炎のようなものを集めだした。
「へぇ、いいねぇ……お前名前は?」
クロガネは楽しそうに青い炎をちらつかせる。これはクロガネの気分が高揚して能力が制御しきれていないときにおこる現象だ。
「私は
『霊烏路 空』だ、みんなおくうって私のことを呼ぶ」
うつほは炎のようなものをクロガネに投げつける。
クロガネは鼻で笑いながら首を逸らしかわした。
はずだった。
凄まじい爆発がクロガネを襲う。
「なっ!!クッ、マジかよ」
クロガネは炎で爆発を相殺する。
そしてクロガネは静かにに笑い声を上げ始める。
「イイネ イイネ イイネ イイネ イイネ イイネ イイネ イイネ イイネ イイネイイネ イイネ イイネ イイネ イイ ネ イイ ネ イ イ ネ イイ ネイ イ ネ イ イ ネ イ イ ネ イ イ ネ イ イ ネ イイ ネ イイ ネ イイ ネ イ イネ イ イ ネ イ イネ イ イ ネ イイ ネ イ イ ネ イイ ネ イ イネ イ イ ネ イイ ネ イ イ ネ イ イ ネ イ イ ……イイネェ、サイコウダヨ、レイウジウツホ、ダカラコノコウゲキヲカワシテクレヨ?」
狂気に満ちたクロガネは青い炎をさらに大きくした。
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「ここが命連寺か……武術っていう感じの雰囲気じゃないな」
「おっきいね〜」
「お、フラン起きたのか」
上を見るとフランドル―が目をさまして活発になっていた。
とりあえず、正門をくぐると和風の庭に、神殿造りの開けたお寺、
「勝手に入って良かったのか……」
シロガネは呟く。
「あ、お気になさらず」
後ろを向くと黒い喪服にも似た黒いドレスとワンピースの間のような服を着た、紫と茶色の髪をした優しそうな女性が立っていた。
「初めまして、この命連寺の当主を務めさせてもらっております
『聖 白蓮』と申します。今日はどのようなご用件で?」
丁寧な言葉遣いでシロガネに話しかける聖。
「シロガネだ、ここに武術に秀でた者がいるとかで、竹林の案内人に進められて。稽古を挑みたいと思いまして」
「ああ、そうですかではこちらへ、案内いたします」
聖が寺の中に手招きし中に入る。中も大きなお寺としか言いようがないような感じの造りだった。
「しかし、珍しいですね、人が武術の鍛錬をここでしたいなんて。普通は人里の道場に行くものですよ」
聖は面白そうにシロガネを見て言った。
「あんまり人里は詳しくない、まぁ、鍛錬できればそれいい」
「そうですか、でもここの武術担当は、かなり腕が立ちますよ」
「楽しみだ」
廊下を進んでいくと道場のような場所についた。
「あ、聖、どうなさいましたか?」
道場には、金髪に金色の瞳、トラ柄の和服をイメージした洋服を着た槍を持っていた。
「武術の鍛錬をしたいというものがいましてね、相手してもらえませんか?」
「いいですよ、ちょうど運動をしたいと思っていましたから」
「シロガネさん紹介します。彼女は
『寅丸 星』毘沙門天の弟子で代理を務めてたものです」
星はシロガネに頭を軽く下げる。シロガネも星に頭を下げる。
(え、毘沙門天って、ものすごい神様じゃ、なかったか……?)
「今日はよろしくお願いします」
シロガネは言葉を付け加える。
「こちらこそ。じゃあ、さっそく始めましょうか、掛かり稽古方式でよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
「では安全のために練習用の武器でいいですか、私は槍を使いますがそちらは何を使いますか?」
「刀でお願いします」
星は道具を取りに道場を出て行った。
「シロガネがんばってねー!!」
フランドールがいつの間にか聖の隣に座りシロガネを見ていた。
「では、準備はよろしいでしょうか?」
シロガネは渡された、木刀を構える。星は木製の槍をシロガネに向け構えを取る。
「では、行きますよ!!」
星が槍を片腕で大きく前に突き出す。槍の長所であるリーチの長さに、柄ギリギリまで持つことでさらにリーチが長くなる。
シロガネは、木刀でわずかに軌道を逸らすが一撃が重く、一瞬だけ体勢が崩れる。その後一息で、一気に距離を詰める。
木刀で星に斬りかかる。
「なかなか、いいですね。ですが甘いですよ?」
「え――!?」
星が空いていたもう片方の手でシロガネの胸部に拳を加える。
シロガネは体重をずらし、拳を木刀でガードする。
「ぐっ!!」
木刀がみしりと音を立てる。
シロガネは片手で星の拳を掴み、柔道のように体をうまく使い星を投げる。
「なっ!?」
驚いた星だが、空中で一回転してピタリと着地する。
「人間と思って少し甘く見ていたようですね、少々本気を出しましょう」
「こっちは常に全力だ」
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「なんなの、こいつ」
うつほは、冷や汗を流した。
能力で核分裂を起こし、その熱で攻撃している。無論、温度は普通の炎の比ではないはずだった。
「温度で負けている……」
「おいおいどうした、そんなもんかよ?」
空中にいるおくうを地面に引きずり落とし、クロガネはその青い炎で攻撃をしていた。
高温になった地面は溶け出し、クロガネは溶岩に足を浸していた。
うつほはクロガネの攻撃ですでに服はぼろぼろになりところどころ皮膚が露出している、飛べる体力も残っていない。
クロガネはおくうの顎を殴り気絶させ、体を抱きかかえた。
「……すまねぇ、こうしなければ駄目だったんだ」
クロガネはいったん、その場を後にした。
うつほを抱きかかえたまま、ある程度進むとその場に座り込み。ポケットから半分灰になったタバコをとりだし火を点けた。
「これで、文句はないよな、スキマ妖怪?」
直接頭の中に声が響く。
「ええ勿論よ、あなたが働いてくれた。これで大きくバランスが崩れた。じゃあ、次の仕事はわかったるわよね?」
「ああ、本当にこれで平和が来るのか?」
クロガネが傷だらけのうつほを見て、見るに堪えなかったのか、傷の手当てをし始める。
「あの戦争を見たんでしょ? なにがどうなったのかも何もかもすべて」
クロガネは苦虫を噛み潰したような顔になる、戦争で見た血の雨、いつ死ぬかという恐怖を。
「わかった……」
うつほの傷は大したことは無かった。自分の能力である程度の熱耐性があったのか火傷はほぼゼロに近い。が、無理やり引きづり降ろしたときにの地面の衝撃で出来た傷だろう。
「う……うん?」
うつほが目を覚ましたのか声を漏らす。
「気がついたか?」
「あなたはさっきの」
「クロガネだ、先ほどはすまない、だがこっちにも事情があってな」
クロガネが傷口を手当しながら言った。
「事情? 詳しく教えてくれませんか?」
「……まぁ、いいだろう、ただし条件がある」
「条件?」
「お前の主に会わせてくれ」
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随分長くシロガネは星と稽古をしていたらしく帰るころには夕方になっていた。
「シロ、大丈夫?」
「まぁ、なんとかな……」
「あ、シロガネさんお帰りなさい」
美鈴が元気そうに笑顔となにかを揺らしながらシロガネに言った。
「あ、美鈴か……」
「おかえりなさい」
シロガネは紅魔館に戻ると薬を自分の部屋に置き、フランドールを地下室のベットで寝かせると玄関に戻っていき図書館の方に向かった。
(……さきにあいつに聞いてみるか?)
シロガネは方向を真逆に向け図書館の方へ向かった。
かび臭い本独特の臭いが鼻の中を充満させる。
「あら、珍しいわねあなたが来るなんて?」
眼鏡をかけ、読書を楽しんでいたパチュリーがシロガネの方を向く。
「聞きたいことがある」
「大体わかるわ、頭の中かけられたことでしょ?」
シロガネは表情を一転させる。
「どうしてそれを!?」
「私だって一応、魔女よ、あなたを見た瞬間には気がついていたわ、けどそれは私にも解除できないわ」
「どういう事だ?」
シロガネが首を傾げる。
パチュリーはため息をついて言った。
「それは、あなたにしか解けない魔法よ、正確には強い意志によって解かれる構造よ。それが解けないのは、あなたにその意思がないからよ」
パチュリーはそう言って視線を本に向けた。
シロガネはため息をつき部屋に戻った。
ベットの上に座り、薬を飲む。
「意志か……一体、どんな記憶なんだ……」
五杯目終わり