「これが……」
紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜はクロガネの言っていた通り、ベットを見るとあまり光景に感心したように呟く。
銀色の髪に、紅い瞳、くっきりとしたラインのふとももにはナイフが収まっているホルスターがあり、常に戦闘態勢である。
クロガネの言われた通り、ベットの下を開けるとそこには銀で造られた咲夜用の武器が綺麗に鎮座していた。
銀製のナイフが五十ほど、銃弾も全て銀で出来ている。
ナイフは鏡面にまで磨きあげられ曇りのひとつもない、これだけでも一種の芸術的な価値があるだろう。柄の部分には水晶が埋め込んであり魔を払う力を高めているのだろう。
銀は古来より、吸血鬼や悪魔、ワーウルフなどの人外を払う効果があり、実際にレミリアもこの銀で出来た武器に対してはかなりの苦戦を強いられたこともあった。
「お嬢様……」
レミリアはまだ、博麗の巫女と共にこの異変を解決しようとしているのだろう。咲夜は今すぐにでもレミリアの元へ駆けつけたいが、レミリアは来るなと咲夜に指示している。
悪魔が相手では、人間はあまりに分が悪すぎるのをレミリアは知っている。
悪魔には実体というものが無く、魔力や妖力によって物理的な具現化をしている。そのため戦闘のために多量の魔力を消費することは出来ない。そこで何かを憑代にして実体を保つようにする。そうなると厄介極まりない存在となる。
「これがあれば……」
咲夜はふともものホルスターに納められていたナイフを全て、クロガネの作ったナイフに入れ替える。武器にするにはもったいない芸術身あふれるナイフだが作りはしっかりしており咲夜の手に馴染む。
クロガネに渡された銃の弾を手に取ると、後ろから紙の切れ端のようなものが出てきた。
「なにかしら?」
咲夜が紙の切れ端を拾い上げるとそこには、銃の使い方とリロードのやりかたが詳しく書いてあった。
裏面を見ると咲夜は目を細めた。
そこには“二十時間後、援軍、死守”という三つの文字が書かれていただけだった。
「一日守れという事ですね」
咲夜は時間を止める。正確には時間に密接した空間止めているが、感覚で言えば時間を止めているという表現が一番的確かもしれない。
咲夜は美鈴宛てに文章を書き、紅魔館を後にした。
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シロガネは妖怪の山の頂上とある場所を目指していた。
白い髪に赤い瞳、見たところ武器という物を装備していないが、自分の好きなタイミングで剣や槍、弓などの武器を展開することができる能力を持つ。
それ単体ではあまり強いとは言えない能力だが、使いようによってある程度戦えるまでに修練は積んでいる。
あの悪魔たちは未来で妖怪の山を真っ先に叩き、根城にしていることはわかっている。
そして、悪魔には足りない、屈強な肉体を求めていた。
妖怪に住まう、その力にはあまりに申し分ない、化け物。
――鬼
悪魔に鬼の体を奪われたことでシロガネの時代の人間は悪魔に太刀打ちできない状況となり、過去に戻ることにした。それ以外に選択肢は無かった。
もちろん、シロガネの体にあった魔力を使い時間軸を捻じ曲げシロガネという存在をこの時代に確立させた。
しかし、シロガネにはその魔力はあっても魔法の技術は無い。過去に行くときはパチュリーを筆頭に魔法使いの協力もあった。シロガネがやった言えることは、魔力の供給程度のことだった。
クロガネはシロガネとはまた違う方法でここにたどり着いた。
「ここもだいぶ変わったな」
暗い空を見上げ、悪魔によって侵略されているせいかただならぬ雰囲気が立ち込めている。
シロガネは両手に剣を展開させる。
偵察のサキュバスに奇襲を仕掛ける。
背後を狙い剣でざっくりと仕留める。周りを見て剣についたサキュバスの血を舐め取る。
戦闘態勢に入っている妖怪の山では下手に捕食に入れば逆に命取りになる。魔力に変換するのにも多少の時間はかかる。
「今の魔力量なら、魔剣が一本ってところか……サキュバス二体で魔剣一本がせいぜいか」
シロガネは剣を解除する。シロガネの剣はいつでも展開できるが、制限時間が決まっており、五分ほどしか展開できない。
「あ、おい、そこのあんた!!」
シロガネは緊張が高まり、振り返りながら剣を片腕に展開する。両刃の剣が一秒も経たず展開される。
そこに居たのは白と黒の服にエプロンをつけた目はパッチリとして活力の感じる明るい可愛らしい魔法使い、魔理沙だった。
「魔理沙か……ここは危険だ。近寄らない方がいい」
魔理沙は真剣な顔つきになる。
「今回の異変、明らかに弾幕ごっこの域を超えている。まるで殺し合いだ、お前こそここにいるのが危ないぜ」
既にここの山はほぼ悪魔によって占領されかけている。
「オレにはやらなきゃいけない事がある、この異変でお前、死ぬぞ?」
魔理沙はますます剣幕を恐ろしくする。
「霊夢がやられた、幸い命には別条はないが大怪我だ、だから――」
「お前、空は飛べるよな、だったらオレをこの山の頂上に連れていけ!!」
魔理沙は一瞬ぽかんとした表情になったが、ニヤリと笑い、箒にまたがって宙に浮きあがりシロガネを掴んだ。
「しっかり箒につかまってな!!」
シロガネが箒を掴んだのを確認すると、破竹の勢いで魔理沙は急上昇する。まるで放たれた矢のように。
「ちょ、おい――」
「四の五の言ってられないぜ!!」
シロガネはこの後、魔の空中浮遊を楽しむことになる。
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「さて、どうしたものかなぁ〜」
「どうかしましたか?」
永琳が、クロガネの包帯を巻きながら聞く。
「流石にアンタでもこの腕と目玉はどうにもならないかと思ってな」
クロガネは無くなった腕の方を見て嘲笑した。
片腕は肩からなくなっており、片目も潰れている。目に至っては眼球が無くなっており目を閉じると陥没しており、なんとも言えない感触が残る。
「そうねぇ……種族はどうでもいいから、腕と眼の替えがあればいけるかしら?」
「……意外にお前、凄腕なんだな。見てくれだけかと思っていたよ」
永琳は顔をムッとさせる。
「失礼――」
「まぁ、美人で凄腕の医者に看病してもらえるんだ、これで飯も上手かったら、大怪我してきて正解だな」
永琳を遮るようにクロガネは言う。
「晩御飯、楽しみにしてなさい」
クロガネは食事のことを考えつつ、自分の目と腕のことを考えた。
「腕と眼か……」
クロガネはあの時のことを思い出す。
大量の悪魔やらなんやらのど真ん中に特攻を仕掛けた時のことを。
クロガネの本来の役割、それは体の中に秘めたドラゴンの力を使い、悪魔が幻想郷の住人に憑りつく前に、ある程度の数を減らす事。
未来での敗因それは、相手の数、そして狡猾にこちら側の重大戦力を潰していたという事だ。
特筆して、レミリア、フランドール、萃香、勇儀、幽香この五人を潰されたことが何よりの敗因にして命取りとなった。
もともと、悪魔の気質のある、レミリアとフランドールはそう簡単に潰されることは無い。勇儀もさとりにはクロガネがその旨を伝えてある、こちらも安心できる。幽香はもともとが強すぎるので考える必要はないだろう。
そして、最後に残されるは、萃香、基本的に単独で行動しており、一番最初に狙われる重大戦力の一人だ。普段から妖怪の山を徘徊しているとのことで、シロガネがすでに手を打っている。
クロガネは頭の中で戦略を練る。クロガネの力で何とか先手を打つことが出来た。
結果として、相手はかなりの戦力を失ったはずだ。
今はおそらく、シロガネは萃香の捜索、レミリアは戦闘中、しばらくすれば咲夜も加わるだろう。巫女はすでに一戦から退いて、ここに運ばれるだろう。聖たちは生き残った人々の安全確保をしているはずだとクロガネは考える。
クロガネは自分の身体の傷を見る。胸の傷はドラゴンの力もあってか表面上は完治している。中身はいささかの何は残るがドラゴンの超回復さまさまというところだった。
クロガネ自身、ここまで回復が早いとは予想もされず苦笑いしていた。時計を見るがまださほどの時間は経っていない。
(あと二十時間でスキマ妖怪が準備を終えるはずだ、それでチェックメイトだ)
あとはシロガネが役目を終えるのを待つだけだ。
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「魔理沙、ここまで送ってもらったのはうれしいがここ先はオレ一人で行った方がいいようだ」
シロガネは静かに言った。魔理沙は悪魔との戦闘に慣れていない、この先で悪魔に魔理沙の体を奪われるという可能性も出てくる。
「二人で行った方が楽に進めるんじゃないのか?」
「この雰囲気、明らかに何かがおかしい、魔理沙、お前には『伊吹 萃香』を探してほしいお前ならあいつの居所の検討くらいはついているだろう?」
シロガネはそう言って箒から飛び降りる。垂直に石を落したようにシロガネは落下していく。
だいぶ上まで来たが、頂上付近は明らかに様子がおかしかった。シロガネは当初の目的である伊吹 萃香の捜索を魔理沙に任せ頂上に上ることにした。
魔理沙のおかげで頂上までそう時間はかからないが、地に足をつけてみると人型の悪魔が溢れんばかりに居た。
「こりゃあ、飯時か……」
シロガネは両手に剣を展開させ笑った。
無機質なまでに無駄のないただ刃の付いた装飾も芸術性もない鉄の塊を両手にもつ。その刃はどこか空虚でありどことなく醜くも思えた。
シロガネの戦闘スタイルは剣での近接戦闘はもちろんだが剣をいくらでも瞬時に複製できるという利点から、剣を投げるという投擲スタイルの二つが存在する。それ以上に相手が遠のけば弓に切り替えればそれで話は済む。
銃という発想もあるが、内部機構の再現が難しく、銃弾も一発作るのに少なくとも一分はかかるため、突発的な戦闘に不向きである。使うとなれば、相手を遠くからなおかつ、気づかれていないという状態、暗殺程度の状況がなければ使うことはまずないだろう。
シロガネは剣を両手に展開して投げることで、悪魔の接近を許さない。が、相手の強度が少々上がっていることからシロガネは危機感を感じていた。ガキも量という言葉もある。
「仕方ない、魔剣を使うか……」
シロガネは右腕に神経を集中させる。
身体の中を巡る力のようなものが回路のように体の一点、右腕に集める。
魔力を多量に使った剣を展開させる。見た目は今まで展開していた剣と大して変わらない。
シロガネはその魔剣を群れの中央に投げる。
魔剣と聞くと強そうなイメージを湧くが、シロガネの使う魔剣は少し勝手が違う。
シロガネの魔剣は、魔力を多量に練りこんで展開させた剣である。そのため魔力が付近にあると、それを暴走させることができる。つまりは相手の魔力が多ければ多いほどダメージを多く与える事が出来る剣なのである。ただの人間に使ってもただ傷をつける程度である。悪魔や魔女などには絶大的な効力を発揮する。
そして、シロガネの投げた魔剣の先は魔力の塊である上級サキュバスの群れである。
音も立てずに次々とサキュバスが虫に殺虫剤をかけるように地面に落下して血を吐いていく。
おそらく、全滅したであろう。
「ここでは危険だが、仕方ない……捕食するか……」
魔剣は思いのほか魔力を消費するため連続して使用はできない。
死体を束ね、シロガネは口を大きく開いた。
捕食に感情は無く、止まる事も早まる事もなく淡々と機械のようにシロガネは口を動かした。
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「お嬢様……」
咲夜はレミリアのかすかな気配を探し、妖怪の山付近を捜索していた。
時間を止めては、移動を繰り返し瞬間移動をしているようにも思えるその姿は誰も目に入れることが出来ない。
「やはり、頂上付近に……」
咲夜は意識を集中させ、山を上り詰める。その足は棒になってると言っても過言ではないな、咲夜も所詮は華奢なメイド、能力と投げナイフの技術を除いても成人の男を上回ることができるかギリギリのラインである。
それでも、今の咲夜はその足の辛さは感じないにも等しい、それ以上にレミリアにたいする忠誠が遥かに上を行く。
時間が止まっている空間で咲夜はレミリアの気配に神経を集中させつつ、脚をひたすらに動かす。
周囲を見ると、悪魔の翼を生えた女の数が増えている。その悪魔を見れば麓に居た悪魔と微妙に違う、おそらく上級悪魔なのだろう。
「ん? これは一体――」
咲夜は目の前の光景に生唾を飲んだ、戦慄が走り体がこの先に進むことを拒む。深呼吸をして無理やり精神を落ち着かせ、能力を解除する。
地面はその一帯だけ深紅のカーペットを敷くように紅く染めあがり、まるで食べかけのように散らばる、咲夜はそれがなにかはすぐに理解することが出来た。
だが――
その先を見つめる事が出来ない。
咲夜の呼吸以外に聞こえる咀嚼の音が心拍を上げ胸の鼓動を早くする。
そうあって欲しくない、咲夜はそう願う。
だがどうあがいてもそれは叶わぬ願いだった――
目の前に居たのは敵ではなかった。
「なんで……あなたがそんなことを……」
目の前に居たものは体中を血まみれになっており、その腕には何かの頭であったと思われる何かが握られていた。
「……………」
無言のまま口を動かす素振りも見せない。その姿は一種の人形を思わせる、
「なんで、あなたが……シロガネさん」
目の前に居たのは、銀色の髪を適当に切り整え、眼は鮮血のように紅い男、体を悪魔の鮮血に染めたシロガネだった。
シロガネは驚いた表情に一瞬なったが、すぐに無表情に戻った。自分の感情を殺すようにも見える。
シロガネは身を翻し、木々の生い茂る山の頂上をめざし先に進む。
咲夜は目を瞑り、静かに深呼吸をする。
カチッと音を立てていた秒針が動きを止める。
咲夜はゆっくり歩き、シロガネの喉元にナイフを当てる。
「貴方の時間は私の物、どんなに早くてもこの空間では意味を持たない」
カチッと音を立て、秒針が動き始める。
シロガネは目の前にいきなり現れた咲夜を見て、歯を食いしばり体にブレーキをかける。
「お話、しましょうか?」
殺人ドールと謳われた、瀟洒なメイドは物静かにシロガネを見た。その眼差しは敵を見る目でも、仲間を見る目でもない、まるでそれは本物の人形のようだった。
「……分かった」
シロガネもただならぬ表情だった。
「わかりました、ではお伺いしましょう、何をしていたのですか?」
咲夜は小首を傾げた。
「悪魔を食った」
シロガネは最小限の言葉で済ませる。その後も口を開ける気はない。
「理由は?」
「悪魔は魔力の塊、魔力を使うオレには一石二鳥の供給源だ。まぁ、もっと効率もいい方法もあるのだがな、まだそれを使う状況じゃない」
「……お嬢様の居場所はご存知ですか?」
咲夜は本題を切りだすが、シロガネはかぶりを振っただけだった。
「ということは、この先の頂上ということですか……」
「行くのか? 一応言っておくが、命の保証は無いぞ、これは弾幕ごっこじゃない」
シロガネは咲夜の腕を掴む。
そのまま引き寄せられ、咲夜はバランスを崩し、前にのめり込む。
シロガネはその刹那で体の重心を低くする。
「食った魔力は大方変換が終わった。ここから先にはオレ一人で――」
「「ちょっと待ちな!!」」
シロガネは後ろ振り返ると、目を丸くした。
「あんたかい? あたしを探してる人間っていうのは?」
そこには、頭に角が二本生えた、小さい幼女が瓢箪を持ちながら堂々と立っていた。隣には魔理沙がいた。
伊吹 萃香
正真正銘の鬼、その怪力は世の理を軽々と覆すことの出来る破格の力。
「意外に早かったな魔理沙」
魔理沙は満面の顔でシロガネを見た。
「この先には、オレ一人で行く、お前らは一人でも多くの人間を助けてくれ」
シロガネはあくまで一人で行くことを止めない。
「どうして、そこまでして一人で行きたがるのですか――」
『そいつは、簡単な話だよなぁシロガネ?』
――忽然とそれは姿を現した。
しかも、咲夜たちのど真ん中に。
その腕には、ボロボロに痛めつけられたレミリアがぐったりとしている。
なにより、一番驚いたのは――
シロガネとまるで姿、声、体型、全てが一緒だったということ。
『オレの名前は……そうだなぁ、黒龍とでも言っておくか』
そこにいる者は驚愕を表すだけであった。
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シロガネは、自分とうり二つの黒龍を見て、激昂が湧きあがった。
すでに、シロガネを止める、理性のストッパーは壊れている。
怒りに身を任せ、両手に剣を展開させる。
「コオオオオオクウウウリュウウウウ!!」
怒鳴り声と憎しみがシロガネを煽る。
両手に展開された剣が風切り音と、シロガネの怒りを乗せて、一撃を放つ。
「おっと、危ない」
黒龍は片腕に剣を展開する、シロガネと同じように。
シロガネの剣と、黒龍の剣がぶつかり耳を貫くような音が響く。
シロガネの剣に、あっさりとひびが入りこみ、まるでガラスを落とすかのように砕ける。
「カエセカエセカエセカエセカエセカエセェェ!!」
訳の分からない単語放ちシロガネは剣を展開し振るう。
「どうした? そんなに怒ることないだろ?」
黒龍は怯むことなく、次々にシロガネの展開する剣を一撃で破壊する。
「ダマレダマレダマレダマレェェ!!」
シロガネは執拗に何かを表す表現をするたびに、体中の血管が浮き上がる。よほどの逆鱗でなければこうはならないだろう。
「おいおい、いいじゃねーか、人間の一人や二人、お前だってここに来るまでに一体何人殺した? ああ、数え切れないから結局、ゼロと大差ないのか、とんだ傲慢さだな」
シロガネはピクリと動きが一瞬にして、止まる。
「なんで……それをお前が……知っている?」
シロガネはかすかに震えた声を絞り出すように吐きだした。
その声に、先ほどの逆鱗は嘘のようだった。
「お前と、同じさ」
シロガネはその場に膝をつき、魂の抜けたようになった。色々な者を犠牲にし、この時代の不完全な黒龍を倒し、幻想郷の未来を変えるためにシロガネとクロガネは未来から来たというのに、黒龍もまた未来の記憶がある。つまり黒龍も未来から来たということになる。
幾多の人間の命を犠牲にし、数えきれないほど苦難が、全て無駄となったシロガネは虚構にかられ、地面にあらがう気力さえなかった。
「じゃあな、シロガネ、お前が消えればこの世界の未来はもう変わらない」
黒龍はその絶大な力と真の意味での恐怖を剣と共に振りかざした。
九杯目終わり