「お嬢様お加減はどうでしょうか?」
銀色の髪にメイド服、顔は可愛いというより凛としており物静かな感じに近いであろう。
「ええ、大丈夫よ、それよりシロガネは見つかったのかしら?」
「いえ、まだ……」
レミリアはベット上にて不満そうな表情になった。
ただでさえ、フランドールの周囲に、弱者がいるという状況で内心穏やかではないというのに、さらに命連寺に収容しきれなかった人間を紅魔館にてかくまっているという。
不満でしかなかった。いっそのことフランドールの食事として、みんな殺してしまうかと思ったほどである。
「まぁ、いいわ、ちゃんとフランを見ているのよ」
「かしこまりました」
咲夜は一瞬で消えた。咲夜の能力は時間に密接する何かを止める能力。客観的にみてしまえば、時間を止めているようにしか思えない。
咲夜自信も何とも説明がうまく出来ないようで、詳しいことはレミリアも分かっていない。
しかし、シロガネが居ない以上、フランドールがいつ暴走するか分からない。万が一暴れてでもしたら、中にいる人間は狼狽し収集がつかないだろう。
レミリアは頭を抱えた。というかめんどくさくなった。
実際、事が起こらないことを祈るしか他ならないレミリアである。
傷はほとんど完治しているが咲夜に耳にタコが出来るまで言われ、仕方なくベット横になっている。
今が昼なのか、夜なのか分からない。レミリアからしたらどっちでも構わないが、吸血鬼でも変な感覚になる。
レミリアの脳裏に黒龍が思い浮かぶ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レミリアはシロガネと思い肩を叩いた。
次の瞬間、鋭い一撃がレミリアを襲った。持ち前の身体能力が無ければ八つ裂きになっていただろう。
「へぇ〜、あんたがレミリア・スカーレットさんか……」
迂闊だった。シロガネはもう悪魔に取り込まれていたのか、とレミリアは確信した。
思い返せば、間違いであったこととは明白であった。
奴はシロガネに化けた黒龍。
「シロガネ……残念ね……」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!!」
黒龍の手には剣が握られており、刃からは殺気を感じる。
目には留まらぬほどの踏込で、黒龍は刃をレミリアに滑らせる。
一直線上に黒龍の剣が喉に突き立てる。
無論、レミリアもその軌道を読めないわけが無かった。
バックステップを踏み、ギリギリのところで刺突を避けるはずであった。
だが、黒龍はそのままの勢いで手を離した。直進した剣は空を裂きレミリアの脇腹に突き刺さる。
油断していた、そう言わざるを得なかった。
「っく!!」
レミリアはレーヴァテインを展開させる。
形状は一応槍なのだろう。神話に出てきそうな美術品としても十分価値のありそうな代物だが、これはエネルギー体であることから消耗品として投擲用に使われる。
レミリアはレーヴァテインを黒龍に投げる。
だが黒龍は待っていたと言わんばかりな表情になった。
身体を空中で横回転しながら舞うようにレーヴァテインを回避し、右手でレーヴァテインの柄を掴むと軌道を捻じ曲げ、レミリアの方へと投げ返したのだった。
レミリアは自身の放った技を返されるとは思わず、一瞬の戸惑いが命取りなって黒龍に敗北したのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「シロガネ……」
レミリアは無意識のまま拳を握りしめていた。
気がついたときには空の上を漂っていた。咲夜の報告によればシロガネが消えた場所にはもう何もなかったと聞いているが、どうにも信用ならなかった。
もちろんそれは咲夜に対する疑いではない、不安だった、このレミリアとあろうものが自分と最も近しい人間に真意を二度確かめる行為をしてしまえば、咲夜はまたその場所に行き確かめるというリスクを考えずもう一度、悪魔やらワーウルフ、低級吸血鬼などの巣窟に赴くであろう。
レミリアはそれを避けたかったのである。従者を想う気持ちはすでに種族の垣根を越えている。
シロガネも日は浅いが、レミリアの見込んだ人物であることは確かだ、それをもう一度探すのは主として当然のことであろう。
そう思うとレミリアは居ても立ってもいられなかった。
シロガネと最後に会った場所にたどり着く。
「そこに居るのは誰?」
純白を思わせる髪に、血よりも紅く表情は大人しい、優麗な顔立ちの男性がそこに立っていた。
「アンタは、たしか紅魔館の主、たしか名前はレミリア・スカーレット……」
男は記憶が怪しいのか首を傾げた。その双眸はレミリアを驚かすほど屈強ないわゆる信念という物が表れていた。
「私から名乗りを上げる必要はなさそうね、ならそっちも名乗るのは礼儀じゃないかしら?」
レミリアは男に戦意が無いことを認識すると、やや時間を空け言葉を発した、レミリアも男に劣らず、流麗な言い回し、まれで一輪の美しい花のようである。
「名乗るのか……いろいろめんどくさいからパスしてくれませんか?」
男はめんどくさそうな表情で手を挙げていた。
「言いなさい、名乗りを上げるのをめんどくさがる人物なんて初めてですもの」
男はため息をつくと、息をやや深く吸った。
「大量破壊兵器『黒髪 蒼』とでも言っておくよ、ちゃんとした肩書もあるけど原稿用紙半分は使うことになる」
一息でそう言い放つと蒼はため息をついた。
「聞く感じだと妖怪ではないのね?」
「オレは一応人間だが人間として逸脱した存在かな?」
蒼は自分でもよく分かっていないらしく、苦笑いをしていた。どうやらこの男自分がどういう人間なのか理解していないのかとレミリアは疑念を抱くほどだった。
「まぁいいわ、それより――」
レミリアの顔を何が通り過ぎたのはわかった、“おそらく蒼が何かを投げた”のだろう。
それの投げる動作すら見えなかった。
後ろ見ると、百メートルほど先にいた監視のサキュバスをピンポイントに狙っていたのは落下していく様を見て分かった。
「見つかったからな、騒がれるといろいろ困るからな」
レミリアは直感が嫌というほど理解した、この男はやばいと。
もし、あの男が武器による投擲系の行ったとしよう。
投げた物をあの距離でピンポイントに狙うのはレミリアでも大したことない、妖精でもできるレベルだ。
だが予備動作なしというそもそもおかしい話であった。
「アンタ、今何をしたの?」
「ん? 氷の弾を投げただけだ」
レミリアは辺りを見回すが、どこにも氷はなかった、というか水辺さえ見当たらなかった。
そう考えると、蒼は氷を発生させ、それを高速で飛ばすことができる能力だとレミリアは予想した。
もしくはそれ準ずるなにかであることは明白である。
「さて、手負いの吸血鬼がこんなところに来たか教えてもらおうか、いやなら別にかまわないけど」
蒼はどことなくやる気がなさそうだった。その怠惰が溢れる対応もそうだがこの者からオーラというか戦闘意欲が全く無いようにも思えた。欠片も無い、下手をすればそこらにいる村人よりも闘争本能が低いようにも思える。誰もがそう思うだろう。
だが蒼は自身のことを大量破壊兵器と称していた。たしかに実力的には申し分ないが、あの表情では如何なものか。
レミリアは本来の目的である、シロガネの捜索を蒼に打ち明けようか迷う。先ほど行動を見れば、蒼の強さは同じ人間の比ではないことは明らかだ、味方につけておいても何も問題ないだろう。
「シロガネって言う男がこのあたりではぐれて、そいつの捜索よ」
「ああ、それなら、放置していればそのうち帰ってくるさ、もしくは死んでる」
さらりと危なっかしいことを言い放つ蒼であった。その二択しかないのかよとレミリアはツッコミを心の中にいれる。
「どういうこと? 場合によっては力ずくでも聞き出すわよ?」
「……言ったところで、どうしようもない。ならば聞かない方が自分のもどかしさに気づくことは無い」
蒼は、言葉を続ける気配もなく黙る。
これ以上は話すことは無いと言わんばかりに。
「いいわ、忠告を無視したのだから、ただで済まそうとは思わないということでいいかしら?」
蒼はため息をつき、頭を抱えた。
「弾幕ごっこか……気持ちはわかるが、オレは水も操ることができる、吸血鬼相手ならそれがどういう状況かわかるよな?」
レミリアは顔を歪める。吸血鬼の弱点である流水を蒼はそれを操る能力者、圧倒的に分が悪すぎることは明白である。
「それでも、吸血鬼のプライドにかけてなおさら負けられないわ!!」
レミリアはポケットからスペルカードを取り出す。
だが、そのスペルカードは蒼に発動されることは無かった。
「おっと、悪魔どもに見つかっちまったぞ、ここは共闘といかないか?
シロガネがどこに行ったかも教える」
シロガネの視線の先には数千の雑魚悪魔の群れだった。
数が多すぎて、一つの黒い塊にしか見えない悪魔の群れがレミリアに牙を向ける。
「あなた、これを見越して話を渋っていた?」
「まさか、単にめんどくさかっただけだ」
レミリアは自分の周りに、大量の弾幕を発射する。
激しい爆裂音とともに悪魔が吹っ飛んでいく。
「手ごたえがないわね!!」
次々に弾幕とレーヴァテインで悪魔を蹴散らしていく。その姿はまさに吸血鬼の女王たる風格を持っていた。
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「さとり様、私たちにできることはないのですか?」
鴉の翼が生えた黒髪ロングのうつほが主であるさとりに聞く。
さとりを一見すれば小学生にも見える容姿であるが、見かけとは裏腹に意外と腹黒い性格は最初は戸惑うであろう。
「ええ、勇義も帰ってきましたし、私たちはここ、地霊殿の守護です、その任が私たちの最後の仕事です」
優しそうにさとりはうつほに言う。
うつほが心配してるのは、クロガネのことである。
曲りなりのも少しの間ともに行動していた、うつほも心配であった
「お勤めご苦労さんだこと」
声の主は、黒髪に紅い瞳、残念ながら紅く滾った瞳は双眸ではなく隻眼、そして右腕も肩からなくなって裾がだらりとしている。
命があったことをよしと思うべきか、腕と目玉が消えたことを凶と思うか、この異変では皆そう思ってしまった。
「シロガネさんどうしたのですかその体!!」
うつほは驚きを超えて青ざめている。
「気にするな、ふたつあるのがひとつになったくらいで、どの道あと四か月もすれば龍の力で腕は生やせるしな」
のん気にクロガネは欠伸を交えながら言う。
「さて、オレたちも最前線に赴くか!!」
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「聖、里の人間は全員、船に避難させました」
金色の目に金色の髪、凛とした東洋系の顔立ち、トラ柄の服に槍を持った毘沙門天代理、寅丸 星は主の聖に報告していた。
「そうですか、では私たちも前線に赴きましょうか、星もそろそろ疼き始めてきたようですし」
星は心を見透かされていたのか、苦笑する。
「それでは行きましょう」
また二人の強者が前線に赴いた。
「しかし、この異変は少々厄介ですね」
星は槍を携えながら聖の寄り添うようにして歩く。
「ええ、私の堪忍袋も限界です」
聖も穏やかな表情とは裏腹にかなりの逆鱗を貯めていた。
外に出ると、数多の敵に包囲されて星がため息をついた。
「私が行きます――」
星は軽快に飛び上がり、手に持つ宝塔をとりだす。
まばゆい光と共に、レーザーのような弾幕が一帯を襲った。
その光は、美しく神々しい、星の煌めきのようだった。
一瞬にして大量の敵を吹き飛ばし、星は道を切り開いた。
毘沙門天代理の名は伊達ではなかった――
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「師匠……」
鈴仙は驚愕していた。
目の前で、大怪我を負っていたのが、よりにもよって、幻想郷でも五本の指には入る、最強の巫女、博麗 霊夢だったからである。
幸いにも永琳の処置によりなんとか一命は取り留めた、もちろん後遺症も残らないであろう。
「大丈夫よ、それより、クロガネは?」
「それが……」
鈴仙は気まずそうになった。
「それが、私が言った時にはもぬけの殻に……」
永琳はため息を吐き捨て、冷ややかな視線で鈴仙に言った。
「ほっときなさい、あの患者は動かないと死んじゃう人種らしいから」
「は、はい……」
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「お、お嬢様が居ない!!」
咲夜は狼狽して、ティーカップが細い指からすり抜ける。
重力の法則に従い、ティーカップは床に激突し、バラバラになった。
「どうしました!?」
ティーカップが割れる音を聞いて、美鈴が咲夜もとに慌ただしく駆け込む。
「どうしたの?」
たまたま通りがかったパチュリーとこあくまがのんきにやってくる。
「みんなして、どうしたの?」
大勢がなにやら騒がしそうなのを聞きつけたのかフランドールがにこにことやってくる。
「「レミリア(お嬢様)が居ない!!」」
全員が慌ただしく旅支度とい名の武装をして、紅魔館を後にしたのは、レミリアの失踪に気づいてから二分とかからなかった。
「咲夜、どこにいるか検討は?」
「おそらく、シロガネさんが消えたあの場所かと!!」
咲夜は内心、半狂乱させつつ脳内を回転させる。
「案内して!! みんな行くわよ!!」
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「お疲れさん」
蒼は息のひとつも荒げる事もなく、あの悪魔ども次々と倒して言った。あの持っていた刀の切れ味は剃刀よりも上だろう。
一方のレミリアは、怪我のこともあってか、少々息が切れ気味である。
「アンタ、毎日危ない薬でも使ってるの?」
レミリアが顔をしかめながら言った。
「だから言ったろ、大量破壊兵器だって」
「伊達じゃないわね」
レミリアは珍しく人間を褒める。蒼はそれを是非もないと言わんばかりだった。
人間にしては珍しい能力、それに対応するように動く肉体、脳みそ以外はまるで常人から逸脱している。
「さてと、じゃあ、シロガネの居場所を教えよう
今、シロガネはここで言う黒龍っていうやつの心象世界にいる。」
蒼はお手上げのポーズを決めると苦笑いを決めた。
「だから外部からのアプローチは一切出来ないというわけさ」
「それで、あの黒龍とか言う奴は何者なの?」
何者か知れば、何かしらの対処があるとレミリアは踏んだ。
レミリアはまだ諦めきれていないのか蒼に言い放つ。
「黒龍か、あいつは神が作り上げた七の武器の三番目の器で、いわゆる心あるもの悪意の塊」
「悪意の塊? 悪魔じゃないの?」
「そういうことになる。詳しいことはわからん、ぶっちゃけ悪魔も悪意も大して変わらんからなおまけに黒龍は名の通り龍の属性ももっている、もはや悪魔なのか悪意なのか龍なのかそれさえ区別させるのは難しい、オレはそういう風に聞いたが、どこかで伝達が誤ってるなんてよくあることだ。
今言えることは、黒龍の悪意がシロガネを浸食するか、シロガネが黒龍の悪意を飲み込むかのどっちかしか言えない……本当は、黒龍と対峙するのはオレで秘密裏に行われるはずだった」
蒼がやや、物静かになる。
「そのためにオレは、母の友人である八雲 紫と契約し、黒龍をぶちのめす予定だった、だがシロガネも時空移動とオレの世界移動が偶然的に起きて、オレは空間と時間のはざまに幽閉されたというのが事の起こりだ、おそらく時間や空間に関する能力者が居れば気づいていたかもな」
八雲 紫は能力のあらゆる境界を操る能力によって、世界の移動まで簡単にすることができる。蒼の母親と交流があってもなんらおかしい話ではない。
「つまり、シロガネと黒龍が対峙することは無かった……そもそも異変が起こる事なんて無かったと言いたいの?」
静寂が広がる、聞こえてくるのはこの葉の掠れる音だげが空しく聞こえる。
「そいうことだ、しかしうちの母さんは顔が広いとは前々から思っていたけど、まさか別世界まで顔が聞くとはおもなかったよ」
蒼は自分の母親にため息をつく。
「アンタの母親一体何者なのよ、とりあえず只者でないことはわかったけど」
「オレも詳しく知らないな、とりあえず、うちの母さんはこの世界に二人の子を産み落としたことぐらいかな、それがシロガネとクロガネ」
レミリアははっとした。
「つまり、アンタとシロガネは兄弟なのかしら?」
「そういう事になる、詳しくは知らないが、今はシロガネになにかできるわけでもないし」
レミリアはニヤリと大胆に笑う。
「なら、私が―― 私たちがその運命を捻じ曲げるだけね?」
カリスマとはいついかなる時でも諸人を魅せる。
そう、まさにこのレミリアはカリスマの塊なのかもしれない。
実力の伴ったカリスマは、どんな状況でも羨望のまなざしを受ける。
既にレミリアの、背中には、紅魔の住人と魔理沙の全員そろっていた。
レミリアの能力で、ぽっかりと空間に裂け目が出来る。レミリアの能力の強大さが蒼の考えの上をいった。
「一応、言っておくが、帰ってこれるか分からないぞ?」
「私には……私たちには見えるわ、勝つ以外の運命が無いことを」
レミリアの言葉に蒼は半ばあきらめた表情になって、頷いた。
「帰ってくるまで、ここの防衛は任せろ」
そういって、シロガネの元に行くのを見送った。
「……さて、もうじき、臭いを嗅ぎつけて悪魔がやってくるだろう」
そう呟くころには、蒼の周りは視界が暗くなるほどの低級吸血鬼とワーウルフに囲まれていた。
蒼は静かに、とても静かに呟いた。
『シュラ・モード』
久々に使う、能力解放は心地が良かった。
「悪いがここら先は、手加減なしだ。折角、母さんが好いていたこの世界、お前には身に余るぞ?」
十一杯目終わり