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魔王日記 第七十四話 前振りが長引くのは作者の技量がない証拠。
作者:黒い鳩   2012/04/04(水) 19:49公開   ID:VRXt0W.JDuI
ここは、大陸の南端にあるラリア公国首都アッディラーン。

浮遊するアッディラーン城に、一人の男が訪ねてきていた。

装束は金はかかっているものの、マントも礼服と思しき服も、不思議と派手すぎるとは感じなかった。

落ち着いた着こなしとでも言えばいいのか、ラリア公国のような新参の国家には珍しい人物のようだった。

彼は謁見の間にて国王に対し跪き、国王アドナスV世から声がかかるのを待っている。

挨拶はもう済ませていた、儀礼的なものではあったが。


ただ、周りにいる騎士達、そして貴族達は彼の事をあまり快い目では見ていない。

ある意味当然だった、彼は伯爵位にありながら、最大派閥である、宰相派にも王弟派にも属していない。

それどころかどこの派閥にも属しておらず距離を置いており、

更には商人が力を持つこの国には珍しい武人の貴族である。

アルテリア王国からの独立の時、むしろ何故公国側についたのか、未だに疑問視している者も多い。

100年の月日がたち、4代は代替わりしているとしてもである。


しかし、そんな中平然と彼、ヴェイド・ディ・リューナー・アーデベルは視線を上げる。

自分だけでなく3人の男子のうち2人までも将校として軍に抱えられているため、

派閥に属していないとはいえ、彼の影響力は大きい、だからこそヴェイドは臆する事も、流される事もしない。



「行司もないのにここに来るというのは、伯にしては珍しいの。

 どのような要件でまいったのじゃ?」

「は! 今回のメセドナ共和国への派兵についてであります」

「ふむ、何か問題があったかの?」



アドナスV世は既に50代であり、子も10人ほど存在している。

そのため、小さな派閥が幾つもあるが、この場合はその事はどうでもいいだろう。

アドナスV世はお世辞にも政治が得意であると言える存在ではない。

また、軍事に長けているわけでもない。

そのため、宰相や王弟に権力が集中し、またそれらを支えている3大商人が実権を握っている。

だが、アドナスV世にはその事は伝わっておらず、疑問に思ったとしても言いくるめられてしまう。

それはもう、そういうふうに育てられてきたから仕方のない事でもある。



「私や私の子らを末席にお加え頂きたく」

「ふうむ……」



アドナスV世は考える素振りを見せる。

実際、彼は特にヴェイドの参加を拒んている訳ではない、参加させるのもいいかもしれないと考えていた。

しかし、横から声が上がりその思考は中断する。



「陛下、少々よろしいでしょうか?」

「ふむ、バラドベルか……如何した?」

「今回の派兵にアーデベル伯の関係者を参戦させる事が叶わなかった理由について、

 僭越に御座いますが私の方から説明をさせていただいて宜しいでしょうか?」

「うむ、良きに計らえ」



バラドベル宰相、アーデベルと同じ伯爵ではあるが、政治闘争に勝ち残りラリアで指折りの権力を手に入れた男である。

現在、国事のほとんどをこの男が取り仕切っているといってもいい。

とはいえ、軍部との繋がりはそれほど強くはなかったはずだと、ヴェイドは考える。



「今回の派兵はアルテリア王国との共同戦線となっており、我々としても切り札は伏せたいと考えているのです」

「我らが切り札とは、高く買っていただいているようですが……」

「更に我らの国は北はメセドナ共和国と数国の小国に、東はアルテリア王国に、何より西は魔王領に接しています。

 収めている領主はヴァンパイアロードとの噂、我らの進軍を隙と見て攻撃をかけてくるやもしれませんしな。

 以前のように、村一つ丸ごと吸血鬼化する可能性もあります。 

 そう言った緊急事態に備え、アーデベル伯爵と近衛騎士団には防衛のために待機願おうと考え、選考から外しました」

「……なるほど」



言っている事はもっともだが、要は戦功を上げさせないための処置であることは明らかだ。

何も、ヴェイドと2人の息子全員を待機させる意味はない。

因みに、長男は近衛師団長、次男は今回参戦しない将軍の副官をしている。

絶対参加させるまいというような雰囲気が漂ってくる人選である。

どの派閥にも入っていないアーデベル伯爵家の力が大きくなる事を防ぎたいのだろうが……。

ただ、ヴェイドにわからないのはこのゴリ押しが宰相一人に出来たとは思えない点であった。


その時、ヴェイドは何か不快な視線を感じた。

その方向に視線を向ける、そこにいたのは、若い、病弱そうな男だった。

しかし、陰湿そうなのが一目で分かるほどであり、彼の瞳は虚無的でありながら恐ろしいまでの渇望が伺えた。

反射的にヴェイドは気がついた、今回のこの絵図面を描いたのはこの男ではないかと。

普通なら不可能なことではあるが、国王を動かすには宰相を動かせばいい。

軍部には金をつかませればある程度融通を効かせる事もできる。

もちろん、そのための資金は国家予算の数%にもなるだろうが……。

それができればこの状況を作り出す事は不可能ではない。

そして、それを感じた時に、男はニヤリと笑った。

だが、その目が、雰囲気が、人間を想起させないほどに独特であった。

寒気が走る、この男を宮中においておいてはいけないという事がヴェイドには察せられた。



「どうかしたのかアーデベル伯」

「いえ、防衛任務確かに承りました」

「うむ、では次の議題について、公王陛下に奏上致しまする……」



会議は流れていき、宰相の独壇場に近い状態になっていた。

王弟殿下は軍部を、宰相は政治をそれぞれ掌握している、だからこそ2つの派閥となるのだが。

この場で声を出しても誰も聞いてくれない事はヴェイドも把握している。

だからだろう、意見を言うこともなく会議を終えたヴェイドは急いで自らの居城へともどる事とした……。





































「なるほど、よく知ってるね」

「詳しい事はわからないが、俺だって何もしなかった訳じゃないからね」



朗らかに、しかし、中身の全くない笑顔を見せる特徴の無い男に言葉を返す。

No5と呼ばれるアサシンギルドの最高幹部は、物騒ながらも俺達には分からない信義があるのだろう。

それは今さら仕方ないが、俺達はNo5が通ってきたというアイヒスバーグ外延部の特殊通路から第一層に戻った。

そして、俺の推論を述べた訳だ。



「僕はただ、殺すだけだから詳しい事はわからないよ。

 でも……きっとここは石神にとって楽しい場所じゃないんだね」

「むしろ嬉々として政治改革に乗り出しそうな気はするが……。

 っと、ともあれだ。

 この都市は魔法使いと貴族という二重構造によって支配されている」

「二重構造?」

「そう」




先ず、この街は権利の大部分を政治家達が持っている。

しかし、魔法使い達は独自に評議会を作り自治運営している。

魔法使いから政界に乗り出す人間も何もオーラムさんが初めてというわけでもない。

つまりは、貴族達とは別に魔法使い達の権威もまた強いのがこのアイヒスバーグの特徴だ。

まあ、この都市は魔法が無ければ成立しえないし、運営にも魔力が必要だ。

それにセキュリティの大半は魔法使いが用意したものだろう。

結果論的に魔法使い達は自負も大きくなり、貴族にのさばられているのが気に入らなくなる。

つまり魔法使い達にはもとから不満があったと言う事でもある。



だが、それではおかしな点もいくつかある。

どう考えても魔法使い達には利益がほとんどないです。

何故なら魔法使いの権威を引きずり下ろすようなものだからだ。

そう、テロの主張は魔法使い達にとってはマイナスになるはず。

なのに、どこか協力していたのではないかという嫌疑が浮上しているという点。

それは、初動の遅さと、今までの対応ぶりからかなりの率で何がしかの動きがあると見るべきだろう。



「俺に言える事は、この構造が長く続けば魔法使い達の鬱憤が爆発する可能性があったと言う事くらいかな」

「マスター、では……」

「うん、恐らくだけど、魔法使い達は貴族達とは別にこの都市を支配するための切り札を持っていた」

「それが、魔力の供給制御と言う事ですか」

「ああ、収拾し、返還し、供給する、はっきり言って一般人や魔法使い個人の出来る事じゃない。

 つまりは、評議会を中心としたこの国の魔法使いギルド、それ自体が調整役って言う事だ。

 そして、今はそれが働いていない、それがどういう事かと言う事だよ」

「自分達で解決しようとしているのでは?」

「その可能性が高いんじゃないかな。まさか国に直接敵対する理由はないとおもうしね」



そう、魔法使いの管轄である魔法エネルギーの貯蓄施設をあっさり奪われたのだ。

魔法使い達の失態は大きい、もしも解決を軍に任せでもすれば更なる失態だ。

結果的に相手に利すると分かっていても、自分たちだけで解決セざるを得ない。

恐らく評議会の判断はそういう所だろう。



「つまり、魔法使い達は今回の件に無関係だと?」

「そうは言わないし、協力者はいたと思う、でも総意としては恐らくそんな所だろうね」

「それで、どこに向かってるんだい?」

「魔法使いは4つの塔を持っている、塔そのものが色々な施設を抱えてかなりの魔力を消費している。

 恐らく自分たちに供給する魔力を優先的に配置していると思う。

 でも、第四層にある評議会の建物で直接管理しているなら占拠された時点で評議会が崩壊しているはずだ」

「なら第四層にはないだろうね」

「ああ、そして同様の理由から第三層にもない」

「占拠されてたらテロリストはもう目的を達していたはずですしね……」

「また、第二層にあるなら俺達が第一層から上がってくるテロリストを迎撃する必要はなかったし、

 奴らも塔を占拠して上層に向かいはしなかったろうな」

「つまり、第一層にあるっていうこと?」



絞込みといっても、大雑把過ぎる考え方ではあるが、あくまでこれは前提だ。

それはフィリナもNo5も分かっているだろう。

現時点のそれは推理というほどのものでもない。

ただ、ここまで絞り込めばある程度は候補が限られてくるのも事実ではあるが。



「次に、魔法使い達の管理する4つの塔はアイヒスバーグ外苑に位置し、それぞれが乗っ取られた様子もない。

 第一層の外縁部に無いのだとすれば……」

「中央部っていうわけか。でもそれでもまだ結構範囲が広いと思うよ」

「なあに、難しい事じゃないさ。あちらさんは隠れてる訳じゃない、占拠し続けなければならないんだから」

「行き当たりばったりということですか」

「……」



フィリナのきついツッコミの前に何も言い返せなかった。

とはいえ、実際問題として、見当はつく。

街中にそのままそんなものを設置するとは考えにくい。

いざというときに被害が出ないように、それなりの施設を用意するはずだ。

もっとも、俺の倫理観的なものだから、絶対等とはいえないが。

どちらにしろセキュリティの問題からある程度防衛のし安い位置に入口を設けるだろう。

となれば……。



「やはりな……」

「一般人を装っていますが、そもそも第一層の住民は殆ど逃げ去っているでしょうから……」

「なら、殺してもいいっていう事だね?」

「……任せる」



殺すという事に抵抗はあるが、今のこの状況を手っ取り早く処理するには適している。

せめて、終わった後、テロリストの名簿を取り寄せて名前位は覚えておこう。

死なせてしまった責任がこの程度でどうこうなるなんて思ってはいないが……。



「さあ行こうか……」



No5のこの一言に、俺達も、テロリスト達も反応出来なかった。

No5がゆっくりテロリストの見張り3人ほどの横を通り過ぎる

黒髪の特徴のない少年に毒気を抜かれるとか、そういう簡単な事じゃない。

目の前にいるのに、その少年が認識出来ない、いやいる事はわかるが反応する事が出来ない。

結果として、10秒ほどの間に彼らを素通りしたNo5は、俺達に振り返る。



「後は僕一人でもいいけど、どうする?」



そう聞くNo5は微笑んですらいたが、3人の見張りは言葉を聞くと同時に崩れ落ちた。

痙攣の仕方等から見て毒物だろうか……しかし、投与した瞬間はわからない。

何となくではあるが、手が相手に触れていた気がするので、何かを手の平に仕込んでいた可能性はある。

それが分かっても、とても出来るとは思えない、一体どうやったらそうなるというのだろう。



「お前の足手まといになるなら止めておくが?」

「僕には足手まといなんていないよ。だってそんな人、僕と一緒にいると勝手に死んでいくもの」

「そうか……」



誰かを庇う事も、誰かの味方をする事もしない、だからこそ足手まといはいない。

端的だが、それは精神的にはかなり病んていると言える。

まあ、何千といる暗殺者の頂点付近にいる、No5なのだ、むしろ壊れていないほうがおかしいのかもしれないが。



「じゃあ、僕は行くね。付いてくるならどうぞ」

「わかった」

「ふう、全く自分から危険に飛び込んで……マスターは本当に馬鹿ですね……」

「フィリナだってそうだろ?」

「私はマスターを助ける為なら切り捨てますよ。誰だって、でも余裕があるなら」



ため息をついたフィリナはそれでも、どこか諦めたかのように、しかし、微笑んでいた。

褒められた事じゃない、助ける為に殺すなんて矛盾している。

しかし、それでも関わってしまった事を無視するのは、昔の俺を思い出させて嫌だった。

本音を言えばそういう事なのだ、俺は昔の自分が心底嫌いだ。

諦めて何もしない、ただ生きているだけの生活。

ただ生きるという事も大事だということは判るが、同時に鬱屈し皮肉屋となり、世間が全て悪であるかのように錯覚する。

そう、自分がこうなった理由を全て回りに求めるようになる。

それは、悲しい上に、救いがない、俺はその事を知ってしまった。

だから俺は何もしないでいるのが怖いのかもしれない……。



「なら俺は、フィリナにその余裕があるように頑張るよ」

「それくらいなら突っ込んで行かなければいいのに……」

「まあ、このままなら俺の出番はないだろうけどね……」



実際No5の通ったあとには、死体しか残っていない。

俺は、馬鹿なことだと分かっていても、手を合わせて進んでいく。

敵が人ばかりならさっき言ったようにNo5が一人いれば終わるだろう。

しかし、もしも、召喚を使う相手がいた場合絶対とはいかない。

No5は人を殺す事に特化した暗殺者だと石神に聞いていたから、俺はその事に注意することにしていた。



「無人の野を行くが如しですね……」

「あまり褒められたものじゃないが、楽が出来るのは事実だな」



恐らく、敵から聞き出したのだろう、地下へと続く階段を見つけ、

警戒心がないかのように普通の足取りで進むNo5を見ているともう呆れるしかない。

十人単位で攻めて来てもNo5を捉えるのは難しいらしく、No5の動きの後に攻撃が届く始末。

恐らく俺にそれがわかるのは人じゃないからだろうか。



「あっという間だな、あれが魔力の供給設備室か」

「そのようですね……、だとすればあそこを開放すれば」

「いや、サブシステムを使うと言っていたから、恐らくもう終わっている頃かもしれない。

 でも、何か危険な仕掛けがある可能性は否定できない」



俺たちはNo5に続いて供給設備室へと入り込む。

それは、幅1km以上、奥行も同じかそれ以上の巨大施設。

ライトアップされているので、そう見えるが、もちろん全容がわかるわけではない。

それに、下にも100m以上の幅がある。

巨大な貯水槽のような感じを受ける場所だった。

実際、魔力を溶け込ませているのだろう、培養層のように水を湛えた入れ物が多く規模も今まで見た最大のものだ。

これが一つのマジックアイテムのようなものだとすれば恐ろしいほどだろう。

発電と同じことを魔法で行なっているということになるのだから。



「それにしても、人けがないな……」

「確かに……、何かおかしい気がします」



そもそも、目的地はここではなく、魔力の供給を制御している部屋だ、

幸いにして巨大部屋のほうに降りなくても制御室と思しき場所への通路が入口からまっすぐ続いている。

俺達は制御室へと急いだ。

正直、制御室につく頃にはもうNo5によって全てが終わっていると思っていた。

しかし……制御室で見た光景は……全く逆のものだった。



「No5!?」



そう、倒れていたのはNo5だったのだ。

暗殺者の心配と言うのもおかしな話だが、実際何故そうなったのかわからなかった。

彼の使っている絶技といっていいもの、即ち気配の消し方は人でどうこう出来るようなものではないはずだったから。

しかし、実際No5は倒れており、入口から見えるテロ組織のメンバーは無傷だった。



「また来たか、騎士ではなく、薄汚い暗殺者に頼るとは貴族共の底が知れるというのもよ」

「貴様がリーダーか」

「いかにも、”黎明の星団”団長。アッ……」

「リーダー!! 奴ら魔力供給のサブシステムを起動したみたいです!!」

「くっ、貴様らオトリかッ!! マウス、サブシステムの回線を切れないか試してみろ!!

 それから周辺に配置している人員をサブシステムの襲撃に回せ!!」

「了解しやした!!」



どうやらオーラムさんは無事にサブシステムによる魔力供給システムの奪還に成功したようだ。

奴らも混乱している、これでリーダーが捕まるか居なくなれば、恐らく撤退するしかないだろう。

奴らが軍に対して優位に立っているのはあくまでアイヒスバーグという都市を人質にとっているからだ。

それは、市民の命だけではなく、貴族達、引いてはメセドナの国家機能にたいする楔だ。

つまり、サブシステムを使ってうち消されてしまえば、彼らの勝ち目などない。

結果として、彼らはサブシステムを手に入れるために全力を注がねばならなくなる。



「第三小隊! 奴らを殲滅しろ!!」



そして、先ほど悪のボスっぽく名乗りを上げようとして出来なかったリーダーは俺達を迎撃する指示を出す。

だが、ここにいる奴らが特別強いようには見えない。

どうやって、No5を破ったというんだ?



「行くぞ!」

「はい、マスター!」



フィリナに声をかけ、俺はロングソードを抜き放ち第三小隊とやらにつっこむ。

フィリナは俺にサポート系の魔法をかけたようだった。

全身が軽い、それに剣の切れ味も鋭くなっている。



「ザコが! 俺に挑んで来る等100年早いわ!!」



一度言ってみたかったセリフを言いながら、剣や槍を構えて突進してくる相手をいなし、ながら一歩下がり。

ボウガンを10人単位で放ってくるのを扉を閉めて対処し、稼いだ10秒足らずの時間でウィンドハンマーを唱える。

その名の通り、空気を固定化したものを飛ばす魔法だ。

もちろん一時的な固定化に過ぎないが、範囲を広げれば盾代わりにもなる。



「ウィンドハンマー!!」



魔法の壁を盾にしてボウガンの矢を防ぎながら飛び込んだ俺は射撃を行っていたテロリスト達を数人袈裟切りにした。

フィリナも俺が飛び込んだのに合わせて、有名な魔法の一つであるゴッドハンドを唱える。

上空に出現した巨大な拳が、何人もまとめてテロリストを地面にたたきつけた。

あっという間に、護衛だったんだろう第三小隊は壊滅の憂き目にあう事になる。



「なるほど、我々の前に直接送り込んできただけの事はあるか。

 ならば”黎明の星団”団長。ア……」

「リーダー!! 指示は出してきやした! 参戦させてくだせえ!!」

「マウス……、まあいい、暗殺者共!! 引導を渡してくれるわ!!」



また自己紹介をしそこねた、リーダーとマウスと呼ばれている小男が俺達に向かってくる。

リーダーの筋骨は隆々で、2mはあろうかという身長に見合う体躯だ。

普通に考えれば強いわけだが、ただの筋力なら俺もかなりのものだと自負している。

しかし、No5を倒したのは恐らく彼だろう、何か得体の知れなさを感じる……。



「俺の新しい脇を見せてやる!!」

「え?」



なんかどっかで聞いたようなセリフ……。

というか、既に彼は服を脱いでポージングを始めていた。

腋毛……凄く濃いです……マントをくれたラドヴェイドの使い魔の事を思い出す。

二度と会いたく無かったタイプだ……。



「ダブルバイセップス(双上腕二等筋)!!」

「ぐあぁぁぁ!?」



なんだ、今の衝撃は!?

ボディビルダーがよくやる両腕を軽く持ち上げて腕の筋肉んお太さを見せつけるポーズをしただけ。

魔力の反応も無い、しかし、俺は体がビシビシ言うほどに筋肉痛になっていた。

今まで見たファンタジーを吹き飛ばす勢いの不条理攻撃……。



「マスター!?」

「おっと、行かせねえですよ!」

「退きなさい!!」



マウスと呼ばれた小柄な男は、俺のフォローをしようとしていたフィリナの周りを牽制しながら跳ねまわる。

バッタかゴキかと言わんばかりのその瞬発力に、フィリナは圧倒されて動きを止めている。

俺は全身の筋肉痛を押して立ち上がる。

この世界に来てから筋肉痛は日常茶飯事、個の程度でやられてはいられない。



「妙な技を使ってくれるな」

「別に大した事はしていない、共感性を高め、我が筋肉と美しい脇をお前の深層心理に送り込んだだけだ」

「何!?」

「つまり、お前は今私のような筋肉になろうと体が大急ぎで筋力開発に励んでいるわけだ。

 だが、同時にそれが終わるまでは激しい筋肉痛で動く事は出来ない」

「No5をやったのもそれか!?」

「かれはひょろすぎてね、直ぐに気絶したようだ」



なんという馬鹿馬鹿しい……しかし、ある意味強力な攻撃だ。

何しろ、目をつぶるかそもそも視界に入れない意外に対処のしようがない。

フィリナはたまたまポージングしている所を目にしなくて住んだからか、それ以後もマウスを退ける事に全力を注いている。

まぁ筋肉だるまのポージングなんぞ見たくもないだろうが……。

バカバカしくはあるが、ピンチであることに変わりはない。



「少しは鍛えているらしいな、しかし、次の一撃を受ければお前ももう終わりよ」

「クッ……」



緊張感はないが! 確かにピンチなのだ……。

対策は、見ないことではあるが、これだけ近くまで来られては目をつぶると言うのも怖い。

というか、もうすでに第三小隊とやらの生き残りがボウガンを構えている。

フィリナは強力な魔法で一気にというふうに考え何か唱え始めたようだが、マウスに邪魔をされる。



「さあ、次のポージング、美しい脇を見るがいい!! アドミナブル・アンド・サイ(腹筋と脚筋)!!」

「ギャー!??!」



両腕で後頭部を抱えるようにして肘をつきあげ、確かに脇を見せている。

腹を突き出すようなポージングだった。

見た目も酷いが筋肉痛が数倍になる……意識を保つのがやっと。

なんというか、恐るべき攻撃だ……。



「マスター!! しっかりしてください!!」

「まさか、まだ意識があるとはな……サイドトライセップス(横向き上腕三頭筋)で決めるしかないか」

「くっ……くそぉ……」



痛みは既に我慢でどうにか出来るレベルを超えつつあった、しかし、意識をつなぎとめるには逆にいい。

とはいえ、もう指一本動かすのすら辛い。

いつ、リーダーが指示を出してボウガンを撃たせてもおかしくない、それを回避する術はないのだから。

というか、現状では魔力を開放しても同じになってしまう、バレるだけ損だ……。

隣で気絶しているNo5が本格的にやばそうだなと現実逃避を始めているとき。



「ぐはぁッ!? なっ……何が……」



唐突に、リーダーの胸に矢が突き刺さっていた。

いや、マウスの額にも突き刺さっている、それどころかほんの数秒後には立っているテロリストはいなくなっていた。

矢の速度、正確性共に、とてもじゃないが普通とは思えない。

俺は霞む目をこらして、背後を振り返る。

そこにいたのは……。




「全く、いつもながら無茶苦茶ね……、言っているでしょ。無謀な事をするんじゃないって」



聖弓パスティアを構えたエメラルドグリーンの髪を持つハーフエルフ、


そう、ティアミスだった……。

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■作者からのメッセージ
ようやくテロも終決。
これから、世界対戦編へと移行する予定です。
っていうか、後半敵の事がちょっと面倒になったのでお笑い系にw
ネタもちょっとやばかったかもしれませんが、お許しくださいorz



感想ありがとうございます!
おかげさまで続ける事ができております。
章も変わって、色々フラグ回収していきますので出来れば今後も見てやってくださいね!


>STC7000さん
シンヤの足元を固めるのはまだまだ難しいですが、そろそろパワーUPしないと厳しいですねw

その通りで、フィリナが現在のフィリナであることを肯定すべきなのか、それとも過去のフィリナを取り戻すべきか。
割合命題臭いところですね、魔王日記全体においても指折りかもしれません。

一気に話を広げたので、前振りであるテロがなかなか収束せず時間がかかりましたが、これからは多少マシになるかなと思いますw


>コン兄さん
ありがとうございます!
一言あるだけでも、私は凄く力をもらってますので助かります!
今後とも頑張っていきますね♪


>まぁさん
フィリナの命題は今割と重要な転機に来てるのかもしれないですね。
シンヤの最終的な判断と、今後の情勢がどうなるかによっていろいろありますがw
オチをいうわけにもいきませんので、このへんは本編で頑張ります!w

シンヤがこれからぶつかる戦争と、他の召喚された友人達、そしてフィリナやティアミス。
どれくらいフラグが回収出来るか、頑張らねばなりませんwww





それでは皆様、次回も頑張りますのでよろしくお願いします!
テキストサイズ:18k

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