作者:佐藤C
2012/05/01(火) 00:48公開
ID:fazF0sJTcF.
週末の連休も明けて、あくる月曜。
「おはよーございます!今日も元気にいきましょう!!」
学園には、校門を抜けてなお元気よく走る子供先生…ネギ・スプリングフィールドの姿があった。
その顔は先週末と比べて活力に満ち満ちている。
(こないだ僕の方から茶々丸さんに仕掛けたことで、エヴァンジェリンさんが報復に来るのは間違いない。
でもこれ以上周りに迷惑はかけたくない……!)
そしてネギは「果たし状を渡すこと」を思いつく。上手く相手が応じてくれれば、決戦まで襲撃される危険はなくなり、周りに被害も出なくなるという寸法だが……。
………あくまで上手くいけばの話である。やはりお子様は考え方が甘かった。
―――ガラッ!
「おはようございます!エヴァンジェリンさんはいますかっ!!」
――あ、ネギ君おはよー
――お、おはよーございます…♪
――おーす!
「エヴァンジェリンさんならまだ来てないですが」
「なんや風邪で来られへんて連絡がー」
「へ……。あ、そうですか……」
いきなり肩透かしを食らってしまったネギは、しかし不審に思う。
(……よく考えたら魔法使いな吸血鬼が風邪なんてひくワケないよなぁ。でも仮病で登校の呪いから逃れられるかな?)
「よし。行ってみよう!」ダッ!
「あっネギ?どこ行くのよ」
明日菜が訊くより早くネギは走り去ってしまった。
「何かアイツ妙に元気ねー…エヴァンジェリンのことは大丈夫なの?」
(兄貴、昨日帰って来てから顔つきが違ってたからなー。何か考えついたんスかねー)
そんなネギを暖かい笑みで見送る生徒が一名いたことに、誰も気づいていなかった。
(…ニンニン♪)
こうしてネギはエヴァンジェリンの家に向かうのだった。
……朝のHRをすっぽかして……。…仕事しろ担任。
第7話 桜通りの吸血鬼A
生徒名簿の住所録を頼りにして、ネギはエヴァンジェリンの家に到着した。
それは丸太造りのログハウスの様な外観をした、二階建ての住宅だった。大きな屋根から煙突が伸びるその姿は、まるでシルバニアファm……いや何でもない。忘れてくれ。
「こんにちはー、担任のネギですー。家庭訪問に来ましたー」
紐を引き、玄関のベルを鳴らす。
『…はい、いま出まーす』
(…あれ? 今の声どっかで聞いたよーな……)
―――ガチャッ
「よう。よく来たなネギ」
「………え。えっシロウ!?」
「―――うわっ、中はスゴくファンシーだ……」
「はは、俺がここに初めて来た頃はもっと凄かったぞ?」
以前はこの家にはエヴァと茶々丸(+チャチャゼロ)しか居なかった。なのでたとえリビングがぬいぐるみだらけでもなんら問題なかったが…今は違う。士郎が共に暮らし始めてリビングを使用する人数と頻度が増えたため、以前よりマシにする必要があったのだ。
「というか…シロウがエヴァンジェリンさんの「魔法使いの従者」だったなんて………驚いたよ」
「ああ、言ってなかったからからな……一応言っておくと今、アイツとはケンカ中でな?」
「え……ケ、ケンカ?」
「ああ、だから俺がお前を襲うなんてことはないから、そこは安心していい」
「そ、そう」
ネギは隠しもせずホッと安堵の息を吐いた。
「あ・そうだシロウ、何でエヴァンジェリンさんは今日学校に来ないの?」
「マスターは病気です」
奥から声が聞こえてきた。声がした方向から、水の入ったポットとコップ、そして風邪薬をトレイに載せた茶々丸が現れる。
「あ、茶々丸さん……き、昨日はどうもすみませんでした!」
「………いえ。それより、学校の方には連絡を済ませたハズですが?」
「え……ま、まさか。不老不死の
吸血鬼が風邪なんてひくワケないでしょう?」
「ああ……その通りだ」
「っ!!」
頭上から押さえつけられるような威圧感にネギは思わず上を見上げる。
階段の手すりに腰かけて、寝間着姿のエヴァンジェリンが眼下のネギを見下ろしていた。
「―――エヴァンジェリンさん!!」
「よく一人で来たな?魔力が充分でなくとも貴様一人くびり殺すくらいわけないのだぞ?」
……バッ!
「……何だそれは?」
ネギが取り出して掲げたそれを見て、エヴァは内心首を傾げた。
「は・果たし状です!僕ともう一度勝負してください!!
それと授業にも出席してください!このままだと卒業できませんよっ!!」
「はっ。出席しても呪いの所為で卒業できないんだよ」
(結局、
呪いに行き着くんだよなあ)
(ええ。残念ですがマスターと先生の話し合いは平行線を辿るだけです)
「まぁいい、そういうことならここで決着を着けるか? 私は一向に構わないが……」
「……いいですよ。その代わりきちんと授業に出てもらいますからね!」
「ああ…マスター、ネギ先生……(オロオロ…)」
魔法薬の試験管を取り出すエヴァ、杖を構えるネギ。
周囲とは正反対に過熱していく当事者達。
場を収めたい茶々丸だが、この空気の前に何もすることができない。
そしてエヴァンジェリンが―――ニイッと笑った。
「! マスター!!」
茶々丸が叫んだ直後、エヴァンジェリンが前のめりに体勢を崩して手すりから落下した。
――トサッ……。
「フゥ…この意地っ張りは」
間一髪、彼女は落下する寸前に士郎に抱きとめられた。
どうやらエヴァンジェリンは意識を失っているようで、よく見れば顔が赤く息も荒い。
「???」
「先生。マスターは魔力を封じられている間は、元の肉体である10歳の少女と同様の体力しかありません。マスターは本当に病気なのです」
「…ええっ!?」
恐るべき吸血鬼は、風邪と熱でダウンしていた。
◇◇◇◇◇
エヴァンジェリンは士郎によって二階のベッドに運ばれた。
「ハア…ハア……」
(エヴァンジェリンさん、苦しそうだ……)
「ネギ先生」
「はい?」
「……申し訳ありませんが、マスターを見ていていただけませんか。私はツテのある大学の病院から良く効く薬を貰ってきますから」
「ええっ!ぼ、僕ですか!?シロウがいるじゃないですか!!」
そこで茶々丸は、困ったように言い淀んだ。
「………その…色々と事情がありまして…。士郎さんは今キッチンでおかゆを作っていますから、何か困った時には相談を」
「で、でもイイんですか?僕に任せて」
「ハイ。先生にならお任せできると判断します」
「わ、わかりました。なるべく早く帰って来てくださいねー」
そうして茶々丸は1階に下りていった。
(…僕は敵のハズなのに。何考えてるんだろあの人?いやロボ?)
「ううっ、ゲホッゲホッ」
「ああっ大丈夫ですか!?」
・
・
・
「ハアハア……のどが……」
「のどが渇いたんですね!待っててください!!」
「うう…あつい……」
「ああっスミマセン 窓から日光が!(やっぱ吸血鬼って日光ツライんだ……)」
「ハァ…寒い……」
「ああっどうしよう汗でパジャマがぐっしょり!着替えさせないと…ってうわ! な、なんか似合わないスゴイ下着……む…無理っ!シロウ―――――!!」
・
・
・
「ふう……なんとか落ち着いた」
(それにしてもヘンなことになったなー。勝負するつもりが看病になっちゃった)
エヴァンジェリンは寝息をたててぐっすりと眠っている。
看病の甲斐あってか大分ラクになったようだ。
(寝てるとこんなにカワイイのになあ。どうして吸血鬼なんてやってるんだろう……)
真祖。今では失われた秘伝の術式によって自らを吸血鬼と化した
元人間。
だからこそ、10歳の少女が自ら吸血鬼になるとは考えにくかった。
そして何故サウザンドマスターに呪いをかけられたのか。
二人はどんな関係だったのか…。
(……なんか気になってきた)
好奇心を抑えられず、ネギはエヴァンジェリンの部屋をゴソゴソと物色し始める。
教師が自分のクラスの女子生徒の部屋を物色する…間違いなく犯罪者の絵面であった。
「やめろ……」
「わあッ!!(ビクッ!) すっすいません悪気は…って、あれ?寝言?」
「サウザンドマスター……待て…やめ…ろ……」
(……サウザンドマスターの夢…?……そうだ)
「―――ラス・テル・マ・スキル・マギステル…」
(女の子の夢を覗くなんて気が引けるけど……父さんの手がかりがあるかも)
女の子の部屋を物色した後で言うのも今更である。この犯罪者がッ!!
「夢の妖精、女王メイヴよ。扉を開けて夢へと誘え…」
◆◆◆◆◆
そこでは金の長髪を持つ少女が、あわや崖から落ちる寸前の所を赤毛の男に助けられていた。
『危なかったなー、ガキ』
『…………。』
『つーか、お前みたいなガキがこんなガケの側で何してンだ?』
『………お前は誰だ。何で助けた?』
『そんな警戒すんなよ。そうだメシでも食うか?』
そこでは少女が、少しだけ頬を染めて赤毛の男を見つめていた。
『なあ……お前、私のモノにならんか?』
『…オイオイ。それよりいつまで俺について来るつもりだ?
俺について来たってイイこたねえぞ、はやくどっか行けって』
『やだ。お前がうんと言うまで地の果てまで追ってやるぞ』
次の場面では。
絶世の美女に姿を変えたエヴァンジェリンがチャチャゼロと共に、サウザンドマスター…ナギと対峙していた。
『とうとう追い詰めたぞ「
千の呪文の男」。この極東の島国でな。今日こそ貴様を打ち倒し…その血肉、我がモノとしてくれる』
ストーカーした挙句、終いには力ずくですか……エヴァンジェリンさんマジパネェっす。
『「人形使い」「闇の福音」「不死の魔法使い」エヴァンジェリン……恐るべき吸血鬼よ。己が力と美貌の糧に何百人を毒牙にかけた? その上俺を狙い何を企むのか知らぬが……。
――諦めろ。何度やっても俺には勝てんぞ』
『……貴様、その口調はなんだ?』
『いやー、偶にはこーいうノリもいいかなと』
『フン、フザけていられるのも今のうちだぞ? 行くぞチャチャゼロ!!』
『アイサー御主人!』
一秒後。エヴァとチャチャゼロは深い深ーい落とし穴の中にいた。
『ふははは!中をよく見てみるがいい!!』
『な…私の嫌いなニンニクやネギ〜!?』
『フフ…お前の苦手なモノは既に調査済みよ!うりうり』
『混ぜるなああ!あうっ、やめろぉ!!』
―――ボウンッ!
『アアッ、御主人ノ幻術解ケタ!!』
『わははは、大人の姿から元に戻ったな。噂の吸血鬼がチビのガキだと知ったらみんな何て言うかな』
『ひ…卑怯者ーーー!貴様は「千の呪文の男」だろ、魔法で勝負しろーーーー!!』
『やなこった。俺は本当は5、6個しか魔法知らねーんだよ。
魔法学校も中退だ。恐れ入ったかコラ』
『な……く、くそ!おいサウザンドマスター!!私の何がイヤなんだ!?』
『だから俺ガキには興味無いってば』
『歳なのか!?歳なら百歳越えてるぞ私!!』
『じゃオバハンだなー』
『オバハン言うなー!』
『落チ着ケヨ御主人』
『……なあ。そろそろ俺を追うのを諦めて悪事からも足を洗ったらどうだ?』
『やだっ!』
エヴァがそう即答すると、ナギは不敵な笑みを浮かべてアンチョコを取り出した。
『そーかそーかそれじゃ仕方ない。
変な呪いかけて二度と悪さの出来ない体にしてやるぜ』
――――ゴゴゴゴゴ………!!
『ば…馬鹿やめろっ!そんなふざけた魔力で変な呪文使うなっ!!』
『確か麻帆良のじじいが警備員欲しがってたんだよな……これでいいか。えーとマンマンテロテロ………』
『御主人ピーンチ!』
『た…助けて…やめろーーーーーー!!!』
『
登校地獄!!』
『いやーーーーーーーーーーーー!!!!』
◆◆◆◆◆
「うわああああああああっ!!!!」
大声をあげてエヴァンジェリンが目を覚ました。
勢いよく体を起こしたまま、呆然して荒い呼吸を続けている。
「ハァ…ハァ………また、この夢か」
(くそ……ここ一年ほどは全く見なくなったというのに、何故か最近頻繁に見るようになってしまった…。………ん?)
エヴァンジェリンが頭を動かすと、ベッドの端ですやすやとうたた寝をするネギがいた。
(………何だコイツは。敵の前で眠るなど殺してくれと言っているようなものだ)
エヴァの視線はネギの隣のベッドデスクに移る。
そこには数種の飲み物と風邪薬が置いてあった。気づけば寝間着も替えられている。
(――ちっ、私の看病をしていたのか……)
「…はっ!?しまった寝てた……ってあれ、起きて大丈夫なんですかエヴァンジェリンさん!?」
「…ああ、もう平気だよ。
……今日のところは見逃してやる、風邪は治ったからもう帰れ」
「あ…そ、そうですね。
じゃあ果たし状も今日のところはナシってことで……それでは」
(うわー、いろんなモノが見れちゃったなあ。アレが本当に父さんなのかまだ確信できないけど……)
コソコソと部屋を出て行こうとするネギをエヴァは不審に思う。
普通の魔法使いは魔法を使用するのに「魔法発動体」なる媒体が必要であり、ネギの場合それは杖なワケで…夢を覗いた時にも使っていたワケで……。
「……待て貴様。何故に寝ながら杖を握っていたんだ?」
(――ぎくっ。)
(……まさか)
「貴様………私の夢を…………!?」
ネギは自分の背と額に、びっしょりと冷や汗をかいているのを自覚した。
「―――言え!!何を見た!? どこまで見たんだ貴様ぁーーーーーーーー!!」
「べっ別に何も――?」
「ええい貴様らは親子揃って……!!……コロス。やっぱりここで殺す!!」
「えっ…うわぁ――――!?」
・
・
・
・
「ただいま帰りました」
「おう、おかえり茶々丸」
『わ――――わ―――――!!!』
『ギャ―――ギャ――――――!!!!』
二階から響く騒がしい人声に、茶々丸は天井を仰ぎ見る。
「……マスターは元気になったようですね。しかし何があったのですか?」
「あ―――……なんかネギの奴がエヴァの夢を覗き見したらしい」
「マスターがこれほど騒ぐということは………あの夢ですか」
「あの夢だろうな」
本人は秘密にしているつもりでも、従者達にはバレバレだった。ちなみに
情報源は寝言である。
「でも、マスターが元気になってよかったです」
「……ああ、元気だな。さっきまであんなに弱ってたと思えないくらい」
その事実に士郎は僅かに苦笑した。いやはや、意地を張り合える相手というのは貴重なリ。
『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!』
『ちょ…エヴァンジェリンさ……!!』
「!? あ、あの馬鹿…………!!」
――バキィィイン!!
―――バキキン!!
――――ミシミシッ!!
―――――ズドオォォォン!!!
………直後。穴の空いた天井から、目を回したネギが落ちてきた。
「…う…う〜〜ん…………」
(………頑張ってください、マスター………)
ネギを介抱しながら茶々丸は、二階にいる主に心の中でエールを送った。
《………降りて来い、エヴァ。》
その日エヴァンジェリン邸に、怒気を纏う赤髪の鬼神が降臨した。
『――――ビクッ!!』
一階から彼女の姿は見えなかったが、その怯えは空気を通して従者達に伝わった。
《―――降りて来いっつってんだろこの吸血姫ぃぃいいいいいい!!!》
(屋敷を壊すのはやり過ぎです、マスター……)
修理するのは士郎なのである。
士郎は怒らせると怖い、それを身を以て痛感したエヴァンジェリンだった。
◇◇◇◇◇
エヴァンジェリン邸一階リビングのソファで、二人の人物が対面して座っていた。
片方は深紅の長袖Tシャツに黒いズボンを履く青年、もう片方は寝間着の上にカーディガンなどを重ね着した金髪の少女。
「さて。何か言い訳はあるかなマスター?」
士郎は両手と足を組み、普段は見せないような威圧感を発しながら主に対して非常に不遜な態度をとっていた。
対して、その主人といえば。
「………………………ない」
エヴァンジェリンは気まずそうな表情をし、決して目前の従者と目を合わせようとしなかった。
ちなみに気絶したネギは茶々丸が起こして学校まで付き添って行った。
士郎と茶々丸はネギが自然に起きるまで寝かせてやりたかったのだが、授業があるだろうし適当な所で無理やり起こして、心配だと言う茶々丸が付き添う形になった。
天井もさっさと直し(投影使用)て破片なども掃除済み。
そして現在、エヴァに厚着をさせてから士郎は彼女と対面した。
「うんよろしい。エヴァ、いくらなんでもやり過ぎだ。次回からは騒ぎ過ぎて家を壊すなんて絶対しないこと。いいな?
…よし、もういいぞ。治ったっていってもまたぶり返すかもしれないから大人しく……」
「………………。」
……彼女が大人し過ぎて心配になる。
「…どうした?まさかまた体調が…」
「………どうして…お前じゃなくて、あの坊やが私の看病をしていたんだ?」
「? どうしてって……」
「…………看病もしたくないくらい、私に……愛想が、尽きたか………?」
顔を上げ、エヴァはそう言って士郎を見上げた。
心なしか彼女の目が潤んでいるようにも見えるのは……気の所為だろうか。
(………コイツ、そんなこと考えてたのか………)
「…………………ぷっ」
「ッ!!?」
「ぷっ……くっ――あはははははははははははははは!!!」
突然士郎が笑いだした。
「なっ、何が可笑しい!!」
「――だ…だって、キャラが合わないって!
そんなにしおらしいお前なんて有り得ないだろ!!!」
そう言って彼は今も腹を抱えて爆笑していた。終いにはテーブルをバンバン叩き始める
ほどである。
エヴァンジェリンが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「な………!こ、こっちは結構真剣に悩んでたんだぞ!!」
「く、ははは……!あ―――くくく……だ、大丈夫…こ、こっちが…遠慮してただけだから………ぷっ…くく……!!」
「…遠慮、だと?」
「……っは――……。…ああ。最近全く口を利いてくれなかっただろ?
それなのに俺になんか看病されたくないだろうと思ってさ」
「―――……!」
エヴァは驚いたような顔をして、倒れ込むようにしてソファにすとんと座り込む。
「…? エヴァ?」
「………………。」
エヴァンジェリンが俯きながら、ぼそぼそと何かを口にした。
「…………そんな…ことは…ない。」
先程とは違う理由で顔を真っ赤にしながら、彼女はようやくその一言を吐き出した。
(―――ク。全く……どうしてこのお姫様はこう素直じゃないのかな?)
―――ひょいっ
「わ。」
「ほら、もう寝ないと。また熱がぶり返すぞ」
士郎はエヴァの頭を撫でてから、彼女を抱えてリビングを出て行った。
(ケケケ、コレデヤット仲直リニ一歩前進カ?)
チャチャゼロに温かい目で見られていることに気づかない二人だった。
◇◇◇◇◇
「それにしても、あのエヴァンジェリンを授業に来させるなんてスゴイじゃない」
通学路を歩きながら明日菜が言う。
あの家庭訪問の後日、看病してくれたことに多少の恩を感じたのか、エヴァンジェリンは真面目に(?)授業に出席するようになった。
……まあ、たとえ授業中に居眠りしていようが、出席するようになっただけ進歩したと言えるだろう。
「はい。それもアスナさんやカモ君や長瀬さんのおかげです!」
「ん?楓ちゃんが何かやったの?」
「えっ。い…いや何でもないです」
修行として共に過ごし………一緒にお風呂に入ったとは言えない。
お年頃な少年には、年上の巨乳のお姉さんと密着して風呂に入ったなどとは口が裂けても言えまい。
(うーん、俺っちにはあのエヴァンジェリンがそう簡単に改心するとは思えねーんだけどなあ)
―――ワイワイ…ガヤガヤ……。
そんな会話をしながら下校するネギ達の前方に、生徒達の人集りができていた。
「どうしたんですか?」
「あ…せんせー」
「知らないの先生? 今日の夜8時から12時まで一斉に停電するんだよー」
「学園都市全体の年2回のメンテです」
人集りは、停電中の明かりを買おうとする生徒達の混雑だった。
「あ、職員会議で言ってたかも。
そうだ、それで僕、寮の見回りをしなきゃいけないんだった」
それは忘れちゃいけないだろうネギ少年……。
「アスナー。アスナの分のローソクも買っとこーか?」
「いや、8時だったら私寝ちゃうからいーや」
「それじゃみなさん、僕はここで」
「ほななー、ネギ君♪」
「がんばんなー」
そこでネギは明日菜達と別れた。
しかしまさか…この停電が、自らに嵐を運ぶことになるとは思いもしなかった。
◇◇◇◇◇
同じ頃、放課後の麻帆良女子中コンピュータ室に二人の少女がいた。
カーテンは閉め切られ、電気も点けない暗がりの中で黙々とキーボードを叩き続ける。
「………どうだ?」
「ハイ、問題ありません。ファイアウォールやセキュリティレベルの変化もありませんし、こちらの計画が漏れている様子はありません。予定通り実行できます」
「フ、そうか。坊やの驚く顔が目に浮かぶな……クッハハハ……」
「しかし本当によろしいのですかマスター?
結界を停止させれば、麻帆良は夜の襲撃に対して無防備になりますが……」
「フン、その程度の事態に対処できぬ奴等か?腐っても奴等は魔法使いだ。それにむしろ好都合。
魔法先生は襲撃に備えて麻帆良の端に、我々は麻帆良の中心で動く。これで坊やには間違っても助けは来ない。
いいな茶々丸、計画に変更はない」
「イエス、マスター」
◇◇◇◇◇
PM:7:59
《―――こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。
学園生徒の皆さんは極力外出を控えてください》
《こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。
学園生徒の皆さんは極力外出を控―――ザザッ…ブツッ》
PM:8:00
――フッ
『わ―――♪』
『うわぁ停電始った――♪』
「学園結界への電力停止、予備電源への移行を確認。予備システムへのハッキング開始。………成功しました。これで……」
『…なんか不気味な空ねー』
『そやなー』
「―――マスターの魔力は戻ります」
『じゃあ、私寝るねこのか』
『うん、おやすみアスナー』
………学園都市は眠りに就いた。
街がひとたび瞼を閉じれば、這い擦り出でるは
闇夜の無明。
そして光に代わって目を覚ますのは―――。
―――――バサァッ…!!
月光に煌めく金糸の長髪。闇をも呑み込む漆黒の
外套。
それらを靡かせる妖艶な美女が、月下に聳える時計塔の天辺に降り立った。
「さあ、始めようじゃないか坊や」
最強種の一・
真祖の吸血鬼。
不死の魔法使い。
人形使い。
悪しき
音信。
禍音の使徒。
童姿の闇の魔王。
其の名は――――
Evangeline A.K.
McDowell。
今宵、「
闇の福音」が復活した。
<おまけ>
これはネギが家庭訪問に来た日の夜の出来事。
深夜のエヴァンジェリン邸リビングに、明かりも点けずに動く怪しげな人影があった。
ケケケ「茶々丸、タブン首尾ヨクイッタゼ」
茶々丸「ありがとうございます姉さん」ごそごそ…
そんな会話を交わして茶々丸は、
チャチャゼロの後ろに隠しておいた小型デジカメを取り出した。
>>再生(ピッ)
『…私に……愛想が、尽きたか……?』
『こっちが遠慮してただけだから。俺に看病なんかされたくないだろうと思ってさ』
『………そんな…ことは…ない。』
―――ひょいっ
『わ。』
茶々丸(―――あああああああああああああマスターが可愛らし過ぎます!!!!!)
ケケケ(……………。)
翌朝、何故かリビングで電池切れになって倒れている茶々丸が発見された。
〜補足・解説〜 小説内で描写されない、特に解説がない部分はほぼ原作通りです。
>な、なんか似合わないスゴイ下着……む…無理っ!シロウーーーーー!!」
この後は士郎が着替えさせました。色々とバッチリ見てます。
「や、子供(みたいなもの)なんだから別にいいだろ?」by士郎 ←乙女の敵
>その日マクダウェル邸に、怒気を纏う赤髪の鬼神が降臨した。
ギャグ補正時、怒った士郎には誰も勝てません。ギャグじゃなくても士郎を怒らせるとタダでは済みません。これは麻帆良にいる人々の共通認識です。
次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」No.10
―――「第8話 桜通りの吸血鬼B」
それでは次回!