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ネギま!―剣製の凱歌― 第一章-第6話 桜通りの吸血鬼@
作者:佐藤C   2012/05/01(火) 00:44公開   ID:fazF0sJTcF.



 桜咲く春。
 希望と期待に胸を膨らませる新年度の最初、一年の始まり。
 新しい環境に踏み出す人、去年と変わりなく年を営む人。
 全てにおいて新風が吹き込むこの季節――麻帆良学園中等部のとある教室では。


「3年!」
「A組!!」

『ネギ先生――――――――っ!!』
『ワアアアアアアアアアァァァァッ!!』

 某国民的高校教師・金○先生の如き挨拶で盛り上がっていた。

千雨(バカどもが……)
夕映(アホばっかです……。)


「えと…改めましてこのクラスの担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。
 これから来年の三月までの一年間、よろしくお願いします!!」
『はーーい!』
『よろしくーーー♪』


 …しかし、新学期早々。


「うわぁーーーーーん!!
 アスナさん……こっこっ…怖かったです〜〜〜〜〜〜〜!!」


 ネギ・スプリングフィールドに試練が舞い降りる。




 ◇◇◇◇◇



 かつて、懸賞金600万$…魔法界で最高クラスの賞金首がいた。
 彼女の名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 闇の福音ダーク・エヴァンジェル不死の魔法使いマガ・ノスフェラトゥ人形使いドールマスター、禍音の使徒、童姿の闇の魔王……など、多くの異名を持つ大魔法使い――――だった・・・



『悪事から足を洗ったらどうだ?』


 1988年―――現在より15年前、「千の呪文の男サウザンドマスター」ナギ・スプリングフィールドに敗れたエヴァンジェリンは呪いを受け、麻帆良学園に封印された。


『あっはっは!!似合う!その制服素晴らしく似合ってるぜエヴァンジェリン!!
 ぷっくくく…ひ―――っ……!!』
『〜〜〜〜っ!!』
『ふぉふぉ、ホントじゃのう。とても600万$の賞金首には見えんわい』
『………殺ス』
『まあまあ、学校生活も楽しいもんだって』
『そうじゃな、小学生ではちと可哀そうじゃし…中等部に編入してみるかの?』


 彼女は麻帆良を守る"警備員"を兼任しつつ、学園の女子中等部に編入する。


『……お前が卒業する頃にまた来てやるからさ。そのとき呪いも解いてやる』

『光に生きてみろ』


 しかし…3年経っても彼は現れず。彼は行方不明になっていた。
 さらにその2年後、ナギ・スプリングフィールドは……公式に死亡扱いとなった。




(―――………嘘つきめ。)









 第6話 桜通りの吸血鬼@









 時は現在。2003年、3月下旬の頃。

「そろそろ動くぞ」

 この家の主・エヴァンジェリンがそう告げた。その宣言に茶々丸が口を開く。

「…具体的にはどのように?」

 エヴァンジェリンの目的、それは己にかけられた「呪い」を解くことだ。
 その解呪にはの血縁であるネギ・スプリングフィールドの血が大量に必要になる。

「坊やの生徒を何人か襲って誘き出す。
 今まで大人しくしていたお陰でジジイも完全に警戒を解いている。やるなら今だ」

 襲うといっても大きな危害は加えない。
 「闇の福音」は女・子供は殺さないという矜持がある。

「そしてまんまとやって来たところを狙う。全て上手くいけばそれで終いだ」

 エヴァンジェリンがニイッと笑った。

「決行は次の満月がもう少し近づいてからだがな。茶々丸、お前は私と行動しろ」
「了解しました」
「オイ御主人、俺ニモ殺ラセロー」
「五月蠅いぞ役立たず」
「役立タズナノハ御主人ノ所為ジャネーカ」

 今のエヴァは魔力を極限まで封じられている。よって彼女の魔力を動力に動くチャチャゼロは、もう15年も自力で行動することができずにいるのだ。
 半ばお約束と化した会話を終え、エヴァは士郎の方を見る。

「さて士郎。お前にはしばらくここに居てもらうことになるが安心しろ。
 お前にもたっぷりと働いて「断る」……。」


 …その一言で、場の空気が凍りついた。


 士郎は平然としながら頭の後ろで手を組んでソファにもたれかかっている。エヴァは半分驚愕、半分理解できないといった感情を隠し……怒りの形相で士郎を睨んだ。

「………貴様、いま何と言った?」

「嫌だ、と言った。俺はエヴァに味方しないし、かといってネギにも協力しない。俺はこの件には関わらない………俺は今回、中立の立場を取らせてもらう」

 ――ギリッ…!

 エヴァンジェリンは怒りで顔を歪めて歯軋りした。


「……あの、士郎さん。それは何故でしょうか?」

 状況に耐えかねた茶々丸が話を切り出した。

「ああ、俺にとってネギは弟みたいなモンだからな、それを襲う手伝いなんてしたくない。でもだからといって味方になる気もないんだ。
 だから不干渉…中立を選ばせてもらう」

「………士郎…貴様…………!!」

 士郎の肌に氷のような冷たい殺気が突き刺さる。


「敵にも味方にもならないだと…ふざけるな!!!」


 ――――バタンッ!!


 その一言だけ叫んでエヴァンジェリンは、壊れんばかりの力でドアを開け放ってリビングを出て行った。
 残されたのは、彼女の従者×3……。


「…あの…士郎さん。どちらにも協力しないというのは――」
「ああ、わかってるよ茶々丸」

 そう。この状況でどちらにも協力しないことは片方に肩入れすること・・・・・・・・・・に等しい。
 士郎がエヴァに協力しないことが、ネギにとって有利に働くのだから。

 だがそれでもネギの圧倒的不利は変わらない。
 弱体化しているが紛うことなき歴戦の魔法使いとその従者。それらと二対一で戦わなければならないのだ。
 士郎に出来ることは、彼が加わることで三対一という状況にしないことだけ。


(後はお前次第だ…ネギ)


 それよりも、士郎にとってはこちら・・・の問題の方がよっぽど深刻……いや厄介だった。


(さて…ウチのお姫様の機嫌をどう取るか……)


 先程の様子を見る限り、彼の主は相当にご立腹のようだった。あれを宥めるのは決して容易なことではない。
 しかし彼のそんな思考は、彼女達の会話に遮られた。

「―――ケ、御主人ヨリソンナ小僧ヲ取ルトハナ。オ前モシカシテソッチガ趣味カ?」
「怒るぞチャチャゼロ」
「ええと、そういうのを「男色」と言うのでしたか?」
「違う!茶々丸違う!!俺は至ってノーマルだ!!」

 話が明後日の方向へ加速しだす。そして茶々丸、どこでそんな知識を手に入れた。

「ケケケ、焦ッテヤガル。怪シイナオイ」
「ですね」
「なんでさぁーーーーーーーーー!!!」


 そんなリビングから聞こえてくる騒がしい声を、
 エヴァンジェリンは自室のベッドに包まりながら聞いていた。



 ・
 ・
 ・
 ・


 Side 茶々丸

 ……事の原因は、間違いなく先日の一件でしょう。

 あれからマスターと士郎さんは、全く口を利かなくなってしまったのです。


 Side out



 ◇◇◇◇◇



 後日…喫茶店アルトリアでは。
 店長・衛宮士郎がだらしなくカウンターに突っ伏していた。


「あーーーーーー…………」


(エヴァ、怒ってた。すっごく怒ってたな――…)


 ――――ヴーヴーッ……


 そんなちょっと滅入った気分の士郎の懐から音が鳴る。
 携帯電話に着信がある。そしてその電話の主は……

「もしもしネカネさん?」
『久しぶりね士郎くん♪』

 電話の主はネギの従姉、ネカネ・スプリングフィールドだった。

『半年ぶりになるかしら。元気にしてる?』

 その問いに、士郎は思わず口籠った。

「……まあ、そこそこ元気…ですね」
『? どうしたの?何かあった?』
「いえ、そんなことよりどうしたんですかネカネさん」

 ネカネはまだ何か言いたそうだったが、士郎の事情を汲み取って本題に話を移した。

『それがね。こっちで最近頻発してた下着泥棒の犯人を捕まえたんだけど…そのオコジョ、ネギの知り合いらしいの』

「……オコジョが犯人?知り合い?」

『そうなのよ、ただのオコジョじゃなくて妖精だったの。自分から「由緒正しいオコジョ妖精」って名乗るのはどうなのかって思ったけれ、その子がネギのコトを慕ってるっていうのは本当みたいでね、とりあえず私が預かることになったの。それでどうしようかと思って…。
 だから士郎君、この事をネギに話しておいてくれないかしら。あの子ったらケータイ買ったら番号を教えなさいってあれほど言ったのにまだ…ぶつぶつ』


(……………。)


「…ネカネさん。そのオコジョに電話を代わってもらえませんか?」


 ・
 ・
 ・


『わかったぜ旦那! このアルベール・カモミール、ネギの兄貴の力になるぜ! 日本の麻帆良って学校に行きゃイイんだな!!
 え? 旦那に頼まれたってことは秘密に? 了解だ、事情は知らねえが心得たぜ!』

 こうして後にネギの使い魔となるオコジョ妖精アルベール・カモミールが、一路日本へ向けてウェールズを旅立った。




 ◇◇◇◇◇



 Side 茶々丸

 まき絵さんを襲った翌日…始業式の日の夜。
 ネギ先生とマスターが接触しました。想定より早い遭遇ですが、計画通りです。

 合流場所はとある学区、周囲から見て一際高い8階建ての建物の屋根の上。そこに先生を誘き寄せる手筈になっています。
 万全に行けばそこで合流するまでもなく、マスターはネギ先生の血を吸うことが出来るでしょう。

 ………マスターが来ました、ネギ先生に追われる形で。…先生。これで詰みです。


「こんばんわ、ネギ先生」
「あ、あなたは3−A出席番号10番……絡繰茶々丸さんっ!?」

 ネギ先生はニ対一でも果敢に戦おうとしますが……私がいる限り先生の呪文詠唱は完成しません。
 私は"魔法使いの従者ミニストラ・マギ"、そのために居るのです。

「わかったか?パートナーのいないお前では我々二人には勝てないということだ」
「申し訳ありません。マスターの命令ですので」

 私は先生の首を絞めて拘束し、マスターに引き渡します。

「くく…待ちわびたぞこの時を。これでお前の父親が私にかけた呪いが解ける……!!」
「……え。そ、そんな……僕知らな……」
「悪いが……死ぬまで血を吸わせてもらう……!」
「うわーーん助けてーーーーー!!」

 牙を剥き出しにして先生の首に迫るマスター。

「ん………」

 ――カプッ。ちゅ〜〜〜………

 その時は、これで目的は達成されたと思ったのですが……。



「コラ――ッ!! ウチの居候に何すんのよこの変質者どもーーーーーーっ!!」


 本当に驚きました。
 クラスメートの神楽坂明日菜さんが現れ、マスターの顔面に飛び蹴りを放ったのです。


「あぶぶぶぶーーーーーーーーっ!!」


 ―――ドシャアアアアッ!!


 マスターが奇声をあげながら吹き飛ばされて転びます。
 私も蹴りを受けましたがマスターほどのダメージはありません。つまり今のマスターのシャッターチャンスを逃さずに済んだということです。
 アスナさん…グッジョブです。

「…くっ……!よくも私を足蹴にしたな神楽坂明日菜……、覚えておけよ……!」

 三流の捨て台詞を吐くマスター。了解しました、撤退ですね。


「……思わぬ邪魔が入ったが…覚悟しておけよ? 先生……」


 格好良くキメているマスターの隣で、私は先程の「あぶぶぶぶーーーーーーーっ!!」をリピート再生しながら必死に笑いを堪えていました。
 アスナさん、本当にグッジョブです。


 Side out



 ◇◇◇◇◇



 Side 茶々丸

 そんなことがあった翌朝。
 いつも通りダイニングのテーブルを囲んだ朝食の時間です。…ですが……。


 ズズ………

 カチャ………


 ―――無言。

 味噌汁を啜る音。食器の音、箸を動かす音。それ以外の音というものが食卓にはありませんでした。
 ああ、いつもなら私が作った朝食を美味しそうに食べてマスターが「美味い」と仰っているのに。最近では無言の鉄面皮です。面白くありません。

 ――ガタンッ

 ああっ。
 いつもなら「ごちそうさま」とか「うむ、今日も美味かった」など言いながらご自分の食器を流しまで持って行かれるのに。
 食事を召し上がった後そのまま、席を外してしまいました。あの、トテトテと食器を運ぶ可愛らしいマスターの姿が見られません……。
 …そういえばマスターがそのようなことをするようになったのは士郎さんが来てからですね。以前は食器の後片付けも全て私がやっていたのですが。


「………はぁ」

 士郎さんもだいぶ参っている様子です。
 私もこの状況をなんとかしたいと思っているのですが……。
 姉さん、どうすればいいでしょうか?

「オイオイ茶々丸、ソリャ本気デ言ッテンノカ? アンナンデモ主従ナンダ、御主人ノ命令ヲ無視シタ士郎ガ悪イ。自業自得ダ…何ノ文句モ言エネェヨ」

「ソレニ本気デ愛想ガ尽キタンナラ、御主人ガトックニココカラ追イ出シテルダロ。
 アリャア意地張ッテルダケダゼ。ケケケ、ガキノ喧嘩ダ。暫ク放ットケヤ」

 意地、ですか。ロボの私には解りません。
 しかし私には、このまま放っておくことは………。
 ああ、そろそろ学校へ行く時間です。
 マスター、ティッシュは持ちましたか?もう花粉症の季節ですよ。


 ・
 ・
 ・


「マスターは学校には来ています。すなわちサボタージュです」
「うわあぁっ!!!」

 教室にネギ先生がやって来ました。マスターの姿がないことを気にしていたようなのでお呼びしようかと思ったのですが…断られました。
 ちなみにマスターは学校に着いて早々屋上へ行くと仰いました。マスター…せめて朝のHRくらいは出席したほうがよいのでは……。

 それにしてもネギ先生、あんなに怯えて……。昨日は本当に申し訳ありません。
 マスターの命令ですので。


 Side out




 ◇◇◇◇◇



「………んん」


 学校の屋上に、朝っぱらから昼寝を決め込む可憐な少女がいた。
 麻帆良女子中3年A組、出席番号26番。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 言うまでもなく今は授業中であり、つまり彼女は授業をサボっている最中であった。


 Side エヴァンジェリン

 春の風が心地いい。私が人間ならこの陽気にもいい感情を持つのだろうが、そこは生憎「真祖の吸血鬼ハイディライト・ウォーカー」。太陽なんて暑いしダルい。
 しかし吸血鬼の性質のお陰で昼寝には困らないな。昼はいつだって眠いんだ。
 あの坊やが担任になって授業が随分サボり易くなったしな、うむ、そこは感謝してもいい。
 そして私はいつも通り屋上で惰眠を貪る………つもりだったのだが。


(…………眠れん…!)

 目を閉じるとあのバカ(士郎)の顔が浮かんでくる。
 やっと眠れるかと思うと、何故か最近は別のバカ(ナギ)の夢を見る。とても眠ってなどいられない。


(…ええい、失せろ貴様ら!)


 ――――バシンッ!!


(! …………。)


 何かが学園の結界を越えたな……。小さい、動物の類か?
 どうせ眠れんし仕方ない、これも仕事だ。全く厄介な呪いだよ。

 イラつく思考を切り替えて、私は"警備員"の職務を果たすべく屋上を下りていった。




 ◇◇◇◇◇



 Side エヴァンジェリン

 先ほどの侵入者を調査するため、茶々丸と合流して校外に出ようとすると。


「……ほう、神楽坂明日菜か」
「な……あんた達……!」

 随分と警戒しているな。ま、それが当然の反応だがな。

「安心しろ神楽坂明日菜。少なくとも次の満月までは坊やを襲ったりすることはないからな」
「……え?どういうこと?」
「今の私では満月を過ぎると魔力がガタ落ちになる。ホラ」

 口の端を指で拡げて歯を見せる。どうだ、牙がないだろう?

「次の満月が来るまでは私もただの人間。坊やを攫っても血は吸えないというわけさ」

 そろそろ行くか茶々丸。これ以上の会話は不要だろう。

「仕事があるのでな、失礼するよ」

 次の満月まで・・・・・・坊やを襲えないという・・・・・・・・・・認識を・・・植え付けることが・・・・・・・・出来たのだから・・・・・・・


 Side out




 ◇◇◇◇◇



 翌朝。学校の昇降口…下駄箱の前で彼らは相対した。

「おはよう先生、今日もまったりサボらせてもらうよ。
 フフ、ネギ先生が担任になってから随分と楽になった」
「くっ…!」

 ネギは冷や汗をかきながら背中に背負う杖に手を掛ける。

「おっとここで闘る気か?校内ではおとなしくしていたほうがお互いのためだと思うがな。
 そうそう、タカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ?また生徒を襲われたくなければな」
「うぐっ……」

(ははは、何も言い返せないか。 …む?坊やの肩に乗っているあのオコジョ……。
 ……学園結界を越えて来たのはアレか?)


 ・
 ・
 ・


(……間違いない。ここ数日坊やの周りをウロチョロしているあのオコジョから魔力を感じる。おそらく妖精だろう)

(坊やに足りないのはパートナーの存在と、実戦における駈け引きの知識・経験だ。
 あのオコジョがそれを補えるようなら………今の私では、勝負は分からんか)


「茶々丸。ネギ・スプリングフィールドに助言者がついたかもしれん。しばらく私の傍を離れるなよ」
「はいマスター」


「おーいエヴァ」

(うっ……タカミチ)

 エヴァンジェリンを呼び止めたのは、学園の広域指導員にして彼女の元担任のタカミチ・T・高畑。
 不老不死である彼女はかつて彼と同級生だった時代もあるが……今の時点でエヴァは、魔法先生と関わりたくなかった。

「…何か用か」
「学園長がお呼びだ。一人で来いだってさ」


(………やはり勘付かれているか)


「わかった、すぐに行くと伝えろ。
 茶々丸、すぐ戻る。必ず人目のある所を歩くんだぞ」

 コクリと頷く茶々丸と別れて、
 エヴァンジェリンはタカミチと並んで学園長室へ足を向けた。


「何の話だよ?また悪さじゃないだろーな?」
「うるさい。貴様には関係のないことだ」
「何してるのかは知らないけど、あまり士郎君を困らせるなよ?」

 ………ぴくっ

「……何故そこでアイツが出てくる」
「ん?なんだ、随分と不機嫌じゃないか。ははぁ、ケンカでもしたのか」
「五月蠅い。お前には関わりのないことだ」プイッ

 自分より遥かに年上の女性の子供らしい仕草に、タカミチはすっと目を細めた。

「あまり意地を張ってやるな、年上だろ。昨日アルトリアに行った時、彼、元気なかったぞ?
 ………どうしたエヴァ」
「…いや、なんでもない」


(そーかそーか、士郎の奴め元気がなかったか。ふん…いい気味だ)


 ………〜♪


(……エヴァ、急に機嫌が良くなったな?)

 タカミチはエヴァの変化に首を傾げた。





 ◇◇◇◇◇



 Side 茶々丸

 学園長に呼ばれていったマスターと別れ、日課であるネコ達のエサやりに行くことにします。
 道中いろいろありましたが、マスターが懸念していたネギ先生からの襲撃もなく、無事に教会に着きました。

 私が来るとネコ達が一斉に集まって来ます。最近は小鳥にも懐かれるようになりました。
 この子たちを見ていると…なんと言いますか、ゼンマイを巻いて貰ったばかりのような満ち足りた気持ちになります。…これは人間でいう「癒し」というものでしょうか?

 それにしてもマスターと士郎さんの不仲はもう見ていられません。
 お互い口を利かなくなってもう二週間近くになります。
 姉さんは放っておけと言いますが……。



 私はそのことに思考を割き過ぎて……。センサーの反応に気づかなかったのです。



「………油断しました。でもお相手はいたします……」


 いつの間にか私の後ろに、杖を握るネギ先生とアスナさんが立っていました。
 おそらく三日前の私達と同じ…二人がかりでまず私を倒そうという魂胆なのでしょう。そうすればマスターは独りになります。
 しかし……なぜお二人は申し訳なさそうな顔をしているのでしょう?


「茶々丸さん、あの…僕を狙うのを止めてくれませんか?」

 ……優しいですねネギ先生。問答無用で攻撃すればいいものを。
 やろうと思えば、私があの子たちに構っている隙に不意打ちもできたはずなのに。


「申し訳ありません。私にとってマスターの命令は絶対ですので」

「…うう…仕方ありません。……行きます!
 契約執行10秒間!!ネギの従者「神楽坂明日菜」!!」


 ―――契約執行…仮契約パクティオーを結びましたか。
 接近してくるアスナさん……速い…!!


 Side out




 ◇◇◇◇◇



 西洋の意匠が街中に多く見られる麻帆良には、その影響か幾つかの教会が建っている。
 そのひとつに過ぎない、何ら変哲のないただの教会の前で今……「普通」から大きく逸脱した戦いが戦端を開いていた。

 茶々丸と明日菜が拳を交わし、その後ろでネギが呪文を唱える。
 それは三日前の夜とは間逆の光景だ。

 そして……三者の戦いに視線を注ぐ鷹の眼が、教会の屋根にあった。



 Side 士郎

 上手くいけば儲けモンだと思っていたが……カモミールはなかなか優秀だったようだ。
 魔法界の知識、実戦の戦略。今のネギに足りない部分を見事に補っている。

 だが問題はネギの方だ。今のアイツはただカモミールの言う通りに行動しているだけ……いや、言い包められたと言う方が正しいか。

 確かにカモミールの言うことは正しい。
 ――だが、それはお前が望んだことか?
 何か引っかかってるものがあるんじゃないのか?

 誰かの意見を聞くだけでは駄目だ。
 それを聞き入れた上で、自分の意思で行動しなければ……。


 Side out





『兄貴、相手はロボだぜ!?
 手加減してちゃ駄目っス、ここは一発派手な呪文でドバーっと!!』

『うう……っ!! 魔法の射手サギタ・マギカ連弾セリエス光の11矢ルーキス!!』



(…………それがお前の結論か。ネギ)

 失望を顕わにして眉を顰める士郎の耳に――…その声は飛び込んだ。



『追尾型魔法…至近弾多数。回避方法の演算開始―――終了。結論…避けきれません』

『……すみませんマスター……もし私が壊れたら、あの子たちのエサを……』

『―――そして士郎さんと…仲直りしてください―――』



(―――ッ馬鹿野郎…!! んなこと言う暇があったら避けろ!!)


『や…やっぱりダメーーーーーっ!!戻れ!!』


 張り上げた声は、ネギのもの。
 自身の内から湧き出る思いがその叫びにはあった。


(……全く、遅いんだよ馬鹿が)


 そう…今さら「戻れ」と命令した所で既に手遅れだ。『魔法の射手』が軌道を変えるには時間も距離も到底足りない。それを悟ったネギの顔から血の気が引いた。


「だが…よく踏みとどまった。それがお前の・・・・・・正解・・

『え?』



 ネギが茶々丸を襲ったことは間違っていない。
 エヴァンジェリンを倒す為に、己の命を守る為に効果的な手段だろう。
 だがネギはそうするべきではなかった…そうしたくなかった。

 ネギは「先生」であり、茶々丸は「生徒」なのだから。

 先生は生徒の力になりこそすれ、傷つけることなどあってはならない。
 それは…あくまで理想かもしれないし、時には奇麗事かもしれない。

 それでもネギは、こちらの選択を選びたかった。
 なぜならネギは英雄父親を目指しているから。

 理想を追う者が、理想を裏切る訳にはいかない。士郎はその重さを知っている。

 だからこそ…「茶々丸を傷つけない」。それがネギにとっての「正解」だった。



(―――安心しろ……俺の家族お前の生徒は俺が救う……!!)


「カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテイル……!――――『無銘の剣匠エグコスミア・シディロルゴース』!!」


 ―――ネギの魔法を高速解析・瞬間理解・術式改変・反転投影。
 膨大な情報が士郎の脳内で瞬間的に処理されてゆく。
 ―――魔法の矢の進行方向を反転、標的を茶々丸からネギの矢へ。
 創製されるは十一の光の矢。


「――『偽・FALSUS・魔法ノSAGITTA 射手MAGICA――光ノ十SERIES 一矢LUCIS』!!」


 二者による光の矢は互いに引き合うように。鏡合わせのように同じ動きで進み―――衝突する。

 ネギは目を剥いた。

(―――そんな!?アレは僕の――――)

 その光の矢は誰が撃ったものだったのか、それは判らない。ただ…そのとき唯一ネギに解った事は。
 その呪文の術式は間違いなく、ネギの術式だ・・・・・・という事だった。


 ――――バキキキキキキキキキキキンッッ!!!!!


 11×2の魔法の矢が、激しい音を響かせながら相殺して消滅した。


投影開始アデアット!」

 七本の大剣が宙空に召喚され、茶々丸と明日菜を分断するよう地面に突き刺さる。
 そして―――


壊れた幻想ブロークン・ファンタズム


 ――――ッドォオオオンン!!!


『ッキャアアアアアアッ!!』
『うわあっ!?』

 轟音の直後、明日菜とネギの悲鳴が周囲に響いた。
 だが怪我をさせるようなヘマはしない、士郎は爆発を最小限に留めてあった。
 粉塵と土煙が舞っている今のうちに…。


「…士郎さん?何故ここに…」
「話は後だ、逃げるぞ茶々丸」

 士郎は有無を言わせず茶々丸を抱え上げる。
 そのまま跳躍して屋根から屋根へ移動し、二人は教会前広場から離脱した。




 ◇◇◇◇◇



 Side 士郎

 屋根から屋根へ飛び移る。俺は今、茶々丸を所謂お姫様だっこで抱えて走っていた。

「あの…士郎さん、私は大丈夫なので降ろしてください」
「いいから大人しくしてろ。聡美ちゃんに診てもらうから」
「しかし、私はその……機体ボディが重いですし」
「大丈夫だって」

 ………うん、実は結構重い。
 しかし女の子にそんなことは口が裂けても言えないのである。

「……士郎さん」
「えっ!?何だい茶々丸!?」

 思考を読まれたかと思って少し動揺してしまった。

「ネギ先生は……なぜ私に向けた矢を戻そうとしたのでしょう?」

 ……ああ、何だそんなことか。ふー焦った。

「簡単なことさ。お前はアイツの生徒なんだから」

「………理解できません。生徒である以前に、私は先生にとって敵のハズです」

「だから敵である前に生徒なんだよ。アイツにとっては」



「………ネギ先生。ネギ・スプリングフィールド…………」


 そう小さく呟いた後、
 聡美ちゃんの居る研究室に着くまで、茶々丸はずっと何かを考えていたようだった。


 Side out




 ◇◇◇◇◇



 翌日の土曜。
 ネギは、麻帆良を囲むなだらかな山の上を杖に跨って飛んでいた。


『兄貴!何で昨日矢を戻そうとしたんだよ!?』
『甘い!!兄貴は命を狙われてんでしょ!?奴ァ生徒の前に敵っスよ!!』
『アイツら絶対二人がかりで仕返しに来るって!!周りも巻き添えを喰うかも……』


(…アスナさんや皆には迷惑かけられない。何処か遠くへ逃げなきゃ……)


 ネギは、麻帆良から逃げ出したのだ。

 しかし直後、彼は杉の木に引っかかって墜落し、杖を無くして碌に魔法を使えない状態になってしまう。
 魔法を使えないネギはただの子供、山中で遭難すれば命も危ない。
 10歳の子供の目から、思わず涙が零れる。


「……おや?誰かと思えば…」

「え?」

「―――ネギ坊主ではござらんか」


 草叢を掻き分けて現れた、忍者のような格好をした……3−A生徒、長瀬楓にネギは助けられる。


「何か、悩み事があるようでござるな」


「ネギ坊主、しばらく拙者と一緒に修行でもしてみるか?」








<おまけ>

ネカネ「…士郎君、元気なかったわね……どうしたのかしら? ネギに訊ければいいんだけど…もう、あの子ったら「ケータイ買ったら電話してね」って言ったのに連絡して来ないし」はぁ…

ネカネ「春休みはあと一週間。ネギの様子も見に麻帆良へ行きたいけれど、メルディアナも新学期の準備で忙しくなってきたから難しいわよね…きっと校長先生にダメって言われるわ」

 ※外国では4月中旬頃まで春休みが続く国もある。

ネカネ「ああ、でも心配だわ……! ネギは一人できちんと先生をやれてるかしら?士郎君は何であんなに元気が無かったのかしら…?
 私が行ければいいんだけどそれは無理だし他にあの二人のことを頼めそうな人なんてああああ……っ!!」ぶんぶんぶんっ

教員A「………もう一時間ほどあんな様子なんですが」
校長「………そっとしておいてやれ」

 職員室のデスクで髪を振り乱して頭を抱えるネカネの姿を、教職員の同僚達が奇異の視線で見つめていた。



〜補足・解説〜
 小説内で描写されない、特に解説がない部分はほぼ原作通りです。

>店長・衛宮士郎はだらしなくカウンターに突っ伏していた。
 元気のない店長を心配して常連客が店に足を運ぶ回数が増え、売り上げが上がったのはここだけの話。

>『半年ぶりになるかしら。元気にしてる?』
 ネギがやって来る直前の夏休みに、死んだ友人のお墓参りのため士郎はウェールズに行っていました(いつか過去編としてこのエピソードを投稿します)。
 しかし校長がサプライズのためにネギの情報を隠していたため、士郎はネギが飛び級して卒業することを知りませんでした。

>迎撃呪文『無銘の剣匠』
 ルビは「エグコスミア・シディロルゴース」、意味はギリシャ語で「平凡な鍛冶屋」。

 投影魔術とネギま!世界の魔法をブレンドした技術。敵の魔法を視認し、高速で解析し、呪文の構造術式を理解し、相手の魔法・呪術を投影して相手に返す。高速解析・瞬間理解・反転投影・術式改変。このプロセスを一瞬で行う迎撃魔法カウンターマジック
 士郎に解析・理解できない魔法は投影できない。基本的には無詠唱で使用するが、強力な呪文や魔法を投影する際には呪文詠唱を行う(ここでは詠唱文を記述しない)。

>「壊れた幻想ブロークン・ファンタズム
 この小説では「壊れた幻想」の設定がFate原作と異なります。
 本来の「壊れた幻想」は、宝具を破壊することでしか使用できません。しかしこの小説では、普通の投影品でも「壊れた幻想」を使用することができます。
 この技は「"物質化した神秘"と呼ばれるほど膨大な魔力を秘めた宝具、その魔力を爆弾のように破裂させ、開放して暴発させる」という理屈です。つまり魔力爆弾です。なので、宝具を使用した場合ほどの威力はないものの、通常の投影品でも魔力を暴発させること自体はできるだろうと考え、宝具以外でも「壊れた幻想」を使用可能という設定にしました。

>あの子ったら「ケータイ買ったら電話してね」って言ったのに連絡して来ないし
 お互い携帯電話を持っているのに、原作では手紙でしか連絡を取り合う描写が無いあの二人。そんな所から「ネギはケータイを買ったのにネカネに連絡しない」という設定を作りました。

おまけの補足>
 ネカネにとってネギは歳の離れた弟、士郎は歳の近い弟です。
 でも選択を誤ると士郎×ネカネフラグが立つので注意!


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」No.9
 ―――「第7話 桜通りの吸血鬼A」

 それでは次回!



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■作者からのメッセージ
 桜通りの吸血鬼編は全4話になる予定です。
 また、今回登場した士郎の独自呪文『無銘の剣匠』は、他のオリジナル呪文と合わせていずれ詳細な設定話を投稿致します。

 誤字脱字、タグの文字化け、設定やストーリーの矛盾点等お気づきの点がありましたらご一報ください。

※2012/9/17…「無銘の剣匠」のルビを、誤った意味のものから変更しました。
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