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ネギま!―剣製の凱歌― 第一章-第9話 桜通りの吸血鬼C
作者:佐藤C   2012/05/01(火) 00:54公開   ID:fazF0sJTcF.



「ごめんなさいアスナさん……僕、アスナさんに迷惑かけないようにって一人で頑張ったのに………ダメでした…」


 今にも泣きそうな顔をしてネギが言った。あのあと彼は茶々丸に杖を奪われ、それをエヴァンジェリンによって湖に投げ捨てられてしまう。
 カモが明日菜を連れて来なければ、きっとネギはそのまま血を吸われていただろう。

 今、二人と一匹は敵に目眩ましを食らわせて、橋の柱の陰に身を潜めていた。


「バカ、一人で何が出来るってのよ。子供はもっと年上を頼りなさい!」
「あた。」

 明日菜がネギの頭を小突く。

「私が助けに来たくて来たんだから迷惑でもなんでもないの!
 ホラ、あの問題児をチャチャッとなんとかするわよ!!」

(―――……。)



『貴様の親父ならこの程度の苦境、笑って乗り越えたものだぞ!!』


「………お願いしますアスナさん。僕、あの人に勝たなきゃ。」

「そうこなくっちゃな兄貴!よぉおっし一発イクぜ!!では姐さん!!」

 カモが呼んだ途端、明日菜は急に挙動不審になり、もじもじしながら頬を赤くした。

「む…まぁ…この場合はしょうがないわよね。緊急事態だし、相手は10歳だし……」

「う、うん。よし準備OK、いいわよ。じゃネギ、いくわよ。いくからね」

「へ? え?」

 明日菜の両手がネギの頬に触れて…彼女はネギの唇に口づけた。

(えっ…)


“――――仮契約パクティオー!!”


「兄貴、この前みたいなおでこのキスじゃ契約もチカラも中途半端なんだよ!でも今回はちゃんとイケるぜ!!
 ってワケで―――契約、更新ッ!!」









 第9話 桜通りの吸血鬼C









「ハッ…ハッ……っ大方斬り伏せた……か?」

 刹那が息を切らせて辺りを見渡す。
 少なくとも今、彼女の目の届く範囲には向かって来る悪魔はもういない。
 ………そう、地上には。

「―――ッ!」

 強大な力を感じ取り、彼女は咄嗟に空を見上げて―――その目を見開いた。


「な……!こんな…このクラスの召喚魔がなぜ………!?」


 彼女の真上を飛行してゆく、空を覆わんばかりの巨大な影。
 それはガンドルフィーニ達が目撃した、四体の『動く石像』だった。

「マズイ……!!」


(このままでは学園に………!!)


 悪魔達は真下の彼女に気づく様子もなく、真っすぐに学園都市へ進んでいる。

(ここまで侵入してきたということは…他の魔法先生や魔法生徒で対処できなかったということだ。私達で止めなければ――……)


 ―――ザッ…。

「…全く、最後にとんでもないのが出てきたな」

 ライフルを右脇に、拳銃を左手に持った真名が刹那の隣に降り立った。話しながら彼女はデザートイーグルの弾倉を排出する。
 しかし味方が現れても、刹那の表情は険しいままだ。

(…龍宮の銃弾ではあの悪魔達を倒しきることはできない。ならば……)

 だが先程までの戦いで刹那の"気"はほとんど削られ、体力も大きく消費している。
 彼女にも大型召喚魔を倒しきる余力はないのだ。……普通なら・・・・


(………ここにいるのは龍宮だけ。他には……誰も、いない)

 真名と刹那は、学園警備以外の場で一緒に戦う事もある仕事仲間だ。
 彼女なら―――既に見抜かれている気もするが―――バレても・・・・大した問題ではない。
 そうは思ってもやはり抵抗はある。…しかしこの局面では、選べる手段はこれしかない。

「……龍宮。私が往く」
「…あぁ、後ろは任せろ」

 銃弾の装填を終えて真名が応えた。


「―――来るなよ……誰も……!!」


 夕凪を握りしめ、刹那は覚悟を決めた。
 制服のブラウス、その背中をたくし上げ―――。


 ――――キュオンッ!!――ドガァッ!!


《グアァッ!?》


 空気を貫く独特な音が響いた直後、悪魔の一体が苦痛に呻いた。
 しかし…それだけでは終わらない。

 ―――キュンッ
 ――――キュキュッ!
 ――キュオッ
 ―――――キュオンッ!!


《―――ガァァアアアアアアッッ!!》


 ―――ドガガガガガガガガガガンッ!!!


 四体の召喚魔を襲う、姿の見えない幾多の攻撃。拳が奏でる鮮烈にして戦列の旋律メロディ
 その正体は極限まで強化したパンチが放つ"拳圧"……不可視の拳打「無音拳」。


「こんな時間に大勢で押し掛ける無粋な客には、早々にお帰りいただこう。
 ―――『右手に気』、『左手に魔力』」

 それは気と魔力の合一シュンタクシス・アンティケイメノイン。相反する二つの力を合成して強大な力を得る戦闘技法。
 身体強化、対物・対魔防御上昇、耐熱、耐寒、耐毒等の効果を併せ持つ最強の肉体強化術。
 ――――究極技法アルテマ・アート「咸卦法」。

 無音拳と咸卦法…これらを同時に扱える魔法使いは現在、世界に一人しか存在しない。


 ―――――ド ゴンッッ!!!


 鈍い音が響き渡り、次いで巨体が墜ちる轟音。
 土煙が舞い、地面には大きなクレーターが、悪魔の腹には風穴が空いていた。
 悪魔の肉体は消滅し、元居た世界に還って行く。


「怪我はないかい二人とも?」

 咸卦法により無音拳を威力特化で強化した「豪殺居合い拳」。それを使いこなす人物は。

「…はい、大丈夫です高畑先生」
「もう少し早く来ても良かったんじゃないですか?」

 学園広域指導員にして彼女達の元担任教師。
 魔法使いタカミチ・T・高畑が、宙に立って空から二人を見下ろしていた。

「ハハ…悪いね。でも無事でよかった、いきなり学園長から帰還要請呼び出しを受けて驚いたよ。
 離陸直後の飛行機から飛び降りるなんて貴重な体験もしたし……ねっ!」


 ――――ド ォンッ!!

《ガァアアッ!!!》

 言いながら再び豪殺居合い拳を放ち、二体目の『動く石像』が後ろに吹き飛んでそのまま消滅する。


 ―――直後、残る二体の『動く石像』を銀の閃光が穿ちきった。

「!?」

 いま飛来した何か。しかし刹那にはその正体が判別できなかった。
 タカミチはソレが飛んできた方向へ顔を向け、真名はさらに先へ視線を飛ばす。
 ……遥か彼方に、黒塗りの洋弓を構える赤い人影が見えた。


「……やれやれ、どうやら僕がわざわざ帰ってくる必要はなかったみたいだね。他の所も粗方片付いたようだ。引き続き警戒は必要だろうけど……お疲れ様、二人とも」

 タカミチは地面に下りて二人に笑いかけた。

「いえ。お気遣いありがとうございます」
「礼は要らないよ。代わりに報酬を貰ってるからね」

 そう言葉を交わした後タカミチは二人に背を向けるが、ふと何か思い出したように振り返った。

「ああそうだ、学園長先生から伝言があったんだ。
 「麻帆良大橋には近づかないように」と仰っていたよ」

「…?なぜです?」

 刹那が訊くと彼は困ったように口を歪めて、口籠りながら答えを返した。


「学園長が言うには……ケンカして仲直りさせる……とかなんとか」

「「??」」

 そう言ったタカミチの顔が僅かに笑っていたことに、二人は気づかなかった。




 ◇◇◇◇◇



「……フ、これで二対二…ようやく正当な決闘というわけだな。―――ではいくぞ。
 私が生徒だという事は忘れ、本気で来るがいい。ネギ・スプリングフィールド」

「……はい!いきます!!」

 ネギは明日菜との仮契約カードを掲げ、本来の杖の代わりに、星飾りの付いた使い古しの練習杖を取り出した。

「契約執行90秒間!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 彼の声が合図となり、再戦の火蓋が切って落とされた。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」
「ラス・テル・マ・ステル・マギステル!!」

「失礼しますネギ先生」
「ひゃっ!さ、させないわよ!」

 ネギに迫る茶々丸の攻撃を、明日菜が捌いて防御する。
 前衛二人…茶々丸と明日菜の力は拮抗し、呪文を撃ち合う後衛の魔法使いに勝負の行方が委ねられた。


「魔法の射手・連弾・氷の17矢!!」
「魔法の射手・連弾・雷の17矢!!」

 ――――相殺。

「ハハ!雷も使えるとは!だが詠唱に時間がかかり過ぎだぞ!!闇の精霊29柱!!」
「にっ…29!? く…光の精霊29柱!!」

 ――――相殺。

 二種類の魔法の矢が真っ向から衝突し、ぶつかり弾け、周囲に魔力の火花が散る。
 そんな光景がリピート再生のように繰り返される。呪文の光が迸る―――!

 ――――相殺。相殺。相殺、相殺、相殺――――――!!


「くうっ……!」
「アハハ、いいぞ!!よくぞついてきた!!」

(なんてスゴイ……!父さんはこんな人に勝ったのか……でも、僕だって!!)


「ラス・テル・マ・ステル・マギステル! 来たれ雷精、風の精!!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 来たれ氷精、闇の精!!」

「えっ……」
「フフッ」

 その詠唱にネギは呆気にとられ、エヴァンジェリンは悪戯染みた声で無邪気に笑う。
 カモはその意味をいち早く理解した。

(エヴァンジェリンのヤツ…あえて兄貴と同種の魔法を!?撃ち合う気か!!)


「来るがいいぼーや!!」


「―――――『闇の吹雪ニウィス・テンペスタース・オブスクランス』!!」
「―――――『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』!!!」


 ――――ズドンッ!!!


 同系二種の大呪文が激突した。
 ふたつの強風ごうふうが渦を巻く。黒染くろぞめの氷雪が吹雪き渡り、紫電を纏う青嵐が吹き荒ぶ―――!!


 ――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――


「どうした!?この程度かぼーや!!」
「ぐぅ……ッ!」

 ぶつかり合う『雷の暴風』と『闇の吹雪』。
 始めは拮抗していた吹雪と暴風、しかし徐々にネギの方が劣勢になってゆく。

(スゴイ力だ………!!……駄目だ、勝てな………)



『この程度で負けを認めるのか?
 貴様の親父ならこの程度の苦境、笑って乗り越えたものだぞ!!』


(………ッ!!―――いや…諦めない…!!もう逃げない!!!)


 そう決意した時、舞い上がった粉塵がネギの鼻孔を刺激した。

「は……? ―――ハックション!!」


 ――――ボッ!!!


「な――…なにっ!?」

 ネギの眼前に迫るほど押されていた『雷の暴風』が突如勢いを増し、『闇の吹雪』を押し退けて―――


 ――――オオオオオオオオオ―――ッ…ド オ ンッ!!!!


 エヴァンジェリンに直撃した。

「ネギ!?」
「マスター……!!」



「………や…やったぜ兄貴!!
 あのエヴァンジェリンに打ち勝つなんて信じらんねーーーーー!!」


 ネギは自身の魔力を制御し切れておらず、くしゃみによって魔力それを暴発させてしまう体質を持っている。結果『雷の暴風』はクシャミによって強化ブーストされ、エヴァンジェリンの呪文を正面から捩じ伏せたのだった。

 ……だが。「闇の福音ダーク・エヴァンジェル」はその程度では敗れない。


「……やりおったな小僧………。フ、フフ……流石は奴の息子だ………」

「…っ!あわわっ、脱げっ……!?」

 衣服こそ全て吹き飛んだものの、エヴァンジェリンは全くの無傷だった。
 彼女は上空に浮遊して、橋に立つネギを口を吊り上げながら見下ろす。
 ………全裸に剥かれたことに青筋を立てながら。


「…この私が打ち負けるとはな………。だがまだ決着はついていないぞ?
 それにお前の杖は砕けた……果たして勝負になるのかな?」

「くっ……!」

 ブーストされた魔力の負荷に耐えられず、元々練習用だったネギの杖は粉々に砕けていた。
 これではもう……ネギは魔法を使えない。

「いけない!!マスター戻って!!」

「な…なにッ!?」


 ――バシャッ
 ―――バシャ!
 ――――バシャッ!!

 茶々丸が叫んだ直後、闇の時間は唐突に終わりを告げた。
 橋を照らす街灯ライトに次々と光が灯り、周りの街にもネオンが戻る。

「…予定より7分27秒も停電の復旧が早い!マスターっ!!」
「ち…ええいっ!! いい加減な仕事をしおって!!」


 ―――チリッ――…バシィインッ!!


「―――――きゃんっ!!」


 エヴァンジェリンの体に電気が奔る。
 まるで何かを閉じ込めるようなその閃光が止むと、彼女は力なく宙を落下し始めた。

「ど・どうしたの!?」

「停電の復旧でマスターへの封印が復活したのです!魔力が無くなればマスターはただの子供…このままでは湖へ……!
 ―――あとマスターは泳げません……っ!!」

「ええっ!?」

「エヴァンジェリンさんっ!!」

 茶々丸が駆け出すと同時、ネギがエヴァンジェリン目掛けて橋から飛び降りた。



(……バカが…魔力を使い果たし杖もない。
 そんな身でなんのつもりだ………溺れ死ぬぞ……?)

 エヴァンジェリンは落下しながら、その様子を視界の端に捉えていた。


「間に合え…杖よメア・ウィルガッ!」

「ネギーーーーーーっ!!」




(―――そういえば…前にもいたな。そんな馬鹿が)




『危なかったなー、ガキ』

 ただの子供と思って、崖から身を乗り出して私を助けた男。

『お前が卒業する頃に、また会いに来てやるからさ』
『……本当だな?』

 そして彼は現れなかった。



 ……同時に思い出す男がいる。


『………「闇の…………福音」………!?』

 出会い頭に土下座して、私の従者になりたいなどとほざいた男。

『仮契約カード……。これでめでたく、お前の従者ってワケだな』
『フン、あくまで"仮の"契約だ。使えないと思ったらいつでも破棄してやる』

 そして彼は裏切った。



 約束も……契約も。

 ………そっちから言い出したくせに。そっちから頼みこんできたくせに。



 この―――――――嘘つきども。





 ………………。





(………………え?)


 いつまで経っても、湖水に落ちる気配はない。
 それどころか、暖かい何かに抱かれているような―――



“―――全く、世話の焼ける御主人様マスターだよ”


「そう思わないか?茶々丸」
「いえ。私にとってマスターの命令は絶対ですので」

 紅いジャケットを身に纏う赤髪の男。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの従者・衛宮士郎が虚空に立ち、己がマスターを抱きかかえていた。

「な……!おま………」

「――あぶふっ!?」ばっしゃーん!

 杖を呼び寄せて飛行し、エヴァを助けようとしたネギだったが…士郎が現れたことに驚いてそのまま湖に墜落した。彼が落ちた場所から水柱の様な水煙があがる。


「…何やってるんだネギの奴? あぁエヴァ、水かかってないか?」

「あ、ああ………」

「ガボゴボ……(ヒドイよシロウ)……」

 その後、ネギも士郎に引き揚げられた。




 ◇◇◇◇◇



「もー、アンタは言ったそばからまた無茶してー」ごしごし
「ス、スミマセン」
「大丈夫ですか?ネギ先生」

 全身ずぶ濡れになったネギは、茶々丸が取り出したタオルで為すがまま明日菜に体を拭かれている。

「ケケケ。ザマァネーナ御主人」
「……何でお前までいるんだ」
「俺ァ士郎ト一緒ダッタンダヨ。久シブリニ思ウ存分暴レラレテスカットシタゼ」
「……ああ、やはり襲撃があったか」

 離れた所ではエヴァ、チャチャゼロ、士郎の三人が会話していた。
 エヴァンジェリンは士郎が適当に投影した布を身に巻いている。

「ケケケ、俺達ガイナカッタラアノ坊主ガ御主人ニ勝ツナンテアリエナカッタダローナー」
「っ!? こ、こらチャチャゼロ……!!」

「―――ほう?それはどーいうイミだ」

 …それはいつもの鈴を転がすような声ではなく、低く据わった重い声。
 士郎がギギギと振り向くと、そこには敬愛すべき主の姿。しかし。

 ―――ゴゴゴゴゴ………ッ!!

 今は封印状態の筈なのだが…彼らの前には間違いなく、「闇の福音」が立っていた。


「さあ……詳しく聞かせて貰おうか?我が従者よ」

「………………はい……」

 がっくりと肩を落とす士郎の心中には、白旗を上げる以外の選択肢が残っていなかった。


 ・
 ・
 ・
 ・


 所変わって学園長室。
 今夜の緊急事態に部屋で待機していた近右衛門の頭に念話が届いた。

『―――学園長』

「おおタカミチか。スマンのう急に呼び戻して」

『いえ。それより先ほどの話ですが……ネギ君は大丈夫でしょうか?』

「ふぉ、心配は要らん。エヴァあやつは子供は殺さぬし、何より相手はナギの息子じゃ。それにそこまで非道でないことをお主も知っておるじゃろう?」

『それはそうですが………ネギ君はまだ10歳です』

「心配症じゃのう、あのナギの息子じゃぞ?
 それに……安心せい。ちゃんと信用できる者をつけておるわい。ふぉっふぉっふぉ♪」


 ・
 ・
 ・
 ・


「……フ、フフフ……そうかそうか…全てあのじじいの差し金か……!!」

「……はい…そうです…本当に申し訳ありませんでしたマスター」
「ヤメロー。御主人ヤメロー」

 それは異様な光景であった。
 両手を組んで仁王立ちするエヴァと、彼女の足元で土下座する士郎。そしてチャチャゼロはエヴァに足で踏みつけられていた。エヴァへの封印が復活したため、動力は失われて為す術なく踏まれている。
 そしてその標的は、隣りの赤い頭に移行した。

 ――――ぐにっ。

「うぐぅ」

「それで?貴様は主人の意向に逆らって己の祖父の頼みをきき……一体何をしたんだったかなぁ?」ぐりぐり……

「………はい……まずはマスターの行動に協力しないこと。
 オコジョ妖精カモミールがネギの元へ行くよう仕向けたこと。
 ネギが罠を仕掛けたこの橋で二人が決闘できるよう、邪魔者が立ち入らないようにしたこと……などです……」

「ほうほう。フッフフ………。ハハハ……」

 ―――ぐりぐり……。

士郎「……………。」←文句が言えない


「………ねえねえ、あっちはどうなってるのよ?なんで士郎さんがあんなコトに…」
「さ、さあ……僕にもさっぱり……?」
「気にしないでください、いつものことです」

茶々丸(……土下座してマスターに謝る士郎さん…これは貴重です!!)


「茶々丸」
「………なんでしょうマスター?(キリッ)」

 その時が来た事を悟って茶々丸は録画撮影を停止する。
 エヴァは茶々丸を見たあと士郎を見やり、次いで湖をクイッと指し示した。


 ―――――――落とせ。

 ―――――――Yes.マスター。

「えっ。ちょっ…オイぃぃい!!?」


 ――――ぽーい。

 茶々丸は士郎をがっちり羽交い締めにして拘束し、そのまま湖に放り投げた。


「エヴァンジェリンさん!!」
「ん?」

 ――――ばっしゃーん

「今度こそ僕の勝ちですよ!
 もう悪いコトはやめて、授業にもちゃんと出てもらいますからね!!」

「…………。」

(……まあ確かに…諸々の助けがあったとはいえ、このぼーやは中々見どころがある。
 私の呪文を正面から打ち負かすほどだ………)

 ……僅かに逡巡して、エヴァンジェリンは諦めたように口を開いた。


「……わかったよ。今回は確かに、私の負けだ」

「やった―――!!へへへ、じゃあ名簿のところに「僕が勝った」って書いとこー♪」

「っ!?やめろ貴様!!てゆーかどっから出した名簿ソレ!!」

「えーだってー」

「だってじゃない!!停電が続いていれば私が勝ってたんだよ!!」


 ――ぎゃーぎゃ――!!


「えと……アレは仲直りってことでいいの?」
「どうなんでしょうか?」

 魔法使い達はじゃれあい、従者達は苦笑してそれを眺める。

「安心してくださいエヴァンジェリンさん。
 呪いなら僕がうーんと勉強して、立派な魔法使いマギステル・マギになれたら解いてあげますから」

「オイ…それは何年待たなきゃならないんだ!?お前の血を吸えば今すぐ解けるんだよ!
 いいかぼーや、私はまだ諦めたわけじゃないからな!!」ふんすっ


「アーア士郎。馬鹿正直ニ落チヤガッテ」
「……いや、だって…ここは素直に落ちておくべきかなーって……うう、さむっ」
「アホカ」


 ・
 ・
 ・


 新年度直前の三月頃から、麻帆良学園で怪事件が発生した。
 女子寮付近の桜通り、そこで生徒が倒れているのが朝になって発見されるというものだ。
 その首には何かに噛まれたような傷があり、また倒れていた生徒達は総じて貧血気味になっていたことから…この事件は都市伝説と化してこう呼ばれた。

 「桜通りの吸血鬼」と。

 しかし大停電の夜以降、吸血鬼は現れなくなった……らしい。

 こうして、誰にも知られない戦いとケンカは終結したのであった。




 ◇◇◇◇◇



 月の光に照らされて、エヴァンジェリン主従一行は帰路についた。

 チャチャゼロは茶々丸の頭の上に乗っけられ、エヴァンジェリンは士郎におんぶされている。士郎の服は魔法で乾かしてあるので問題はない。
 ……布一枚しか纏わぬ幼女を男が背負っているその光景に、何ら問題はない。きっと問題はない。


「……………。」ウトウト…

 大きな背中から感じる体温が心地よく、エヴァンジェリンは徐々に舟を漕ぎだした。

(……そういえば)

 微睡み始めた彼女はふと、橋から落ちた時に頭に浮かんだことを思い出す。
 思わずそれが口を出た。


「……何でこう、赤毛の男にばかり引っ掛かるんだ」

「ん、何か言ったか?」
「何でもない」

 士郎とエヴァの後ろを歩く茶々丸達が、前の二人を穏やかに見つめていた。



 後日。

「士郎!今日は大根おろしハンバーグが食べたい!!」
「へーい」

「士郎さん、マスターが『今日はじっくり煮込んだシチューが食べたい』と……」
「あいよー」

「ケケケ、士郎。良イ酒出セヤ」
「うるさい黙れ。お前が余計なこと言わなきゃバレなかったんだよ!」

「――ほう。バレなければいいというその根性は度し難いな。
 士郎、今日の夕食はおかず一品追加だっ♪」

 ある家庭では従者への罰として一ヶ月間、主の希望通りの献立を作ることになったという。








<おまけ>

エヴァ『ほうほう。フッフフ………。ハハハ……』

 ―――ぐりぐり……。

士郎『……………。』

茶々丸『気にしないでください、いつものことです』

 大停電の翌朝。
 朝食の準備をしてくれている親友を見て、明日菜は昨夜の出来事を思い出していた。

木乃香「アスナー、ネギくーん。朝ゴハンできたえ♪」
明日菜「………このか」

 ―――がしっ!!

 明日菜はいきなり木乃香の肩をがしっと掴み、彼女の目を覗き込む。

明日菜「……強く、強く生きてね…」
木乃香「…ほえ?」

明日菜(言えない……士郎さんにあんな趣味があったなんて言えない……!!)

 …激しく誤解している明日菜であった。



〜補足・解説〜
 小説内で描写されない、特に解説がない部分はほぼ原作通りです。

>彼女なら―――既に見抜かれている気もするが―――バレても大した問題ではない。
 原作でも多分、この時期では真名にバラしてないと思います。でも彼女には魔眼があるので、刹那が「純粋な人間じゃない」という事はバレてるんじゃないかと。

>これらを同時に扱える魔法使いは現在、世界に一人しか存在しない。
 ガトウさんに無音拳を教えた人達や、彼らのお弟子さん達、もしくは別流派などがいる可能性もありますが、これで何人も無音拳使いがいたらタカミチの影が……(汗
 という訳で、この小説では彼が最後の伝承者です。伝承者って言い方をすると●ンシロウみたいですねw

>咸卦法により無音拳を威力特化で強化した「豪殺居合い拳」。
 ここは「豪殺無音拳」にするか最後まで悩みました……結局は原作準拠です。

>離陸直後の飛行機から飛び降りるなんて貴重な体験もしたし……ねっ!」
 タカミチ、離陸直後に近右衛門から連絡を受ける
 →認識阻害機能付きメガネをかける
 →添乗員に気づかれることなく飛行機のドアを勝手に開けて飛び降りる
 →麻帆良に戻る
 →後日、「離陸直後に飛行機のドアが開く事故」のニュースを見て罪悪感を感じる。

>残り二体の『動く石像』を銀の閃光が穿ちきった。
 正体は士郎の偽・螺旋剣カラドボルグUです。

>「……いや、だって…ここは素直に落ちておくべきかなーって……うう、さむっ」
 無駄に空気を読んだ。まあ魔法で空中に着地でもしようものなら、その後に数倍のお仕置きが待っているんですけどね。そういう意味では正しい選択。

>……布一枚しか纏わぬ幼女を男が背負っているその光景に、何ら問題はない。きっと問題はない。
 アウトー。

>士郎、今日の夕食はおかず一品追加だっ♪」
 可愛い。


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」No.12
 ―――「第10話 その夢の意味は」

 それでは次回!



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 誤字脱字、タグの文字化け、設定やストーリーの矛盾点等お気づきの点がありましたらご一報ください。

 2012/5/3、補足・解説のタグ文字化けを修正しました。
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