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ネギま!―剣製の凱歌― 第一章-第10話 その夢の意味は
作者:佐藤C   2012/05/01(火) 01:03公開   ID:fazF0sJTcF.



“………。……………ろ。”
“い…………て…る”



(………?)



“お……雑…。…っと……き……”
“い…まで……………る気だ”



(声が、聞こえる……? 誰の声だ……)



“…雑種。さっさと目を覚ませ。
 いつまでこの我を待たせる気だ?”


(ッ!? なんだ、このどっかの金ピカみたいな声は!?)



“何だ、我が誰だか判らんというのか?
 我は、貴様の――――”





 ―――……目が、覚めた。


「………………ヘンな夢だ」

 ていうかアレは何だったんだ?いやホントに。
 よりによってあの金色っぽいのが出てくるとは…悪夢か。うん悪夢だな、よし忘れよう。
 さて…そろそろ起きようか―――


(……って、あれ…?)

「おはようございます士郎さん。
 もうすぐ刹那さんとの鍛練の時間で――……士郎さん!?」

 立ち上がろうとした途端に視界が歪み、
 駆け寄って来る茶々丸の姿を視界に入れて…俺の意識は暗転した。









       第10話 その夢の意味は









 ――魘されている。


『なん、で』


 ―――魘されている。


(これは……そうだ、師匠と修行していた頃によく見た夢だろ…)


 ――――魘されている。


『そんなこと……』


(修行で気絶する度に、俺はこの夢に苛ま―――。)


『―――――…っ!!』


 ――ガバッ!!



「ロ………ロリブルマッ!!?」


 士郎は奇声を上げて目を覚ました。


エヴァ「…妙な魘され方をしていたが、大丈夫か?」
茶々丸「虎の道場がどうとか、ドリルがどうとか口にしていましたが……」

士郎「……え?ぜんぜん覚えてない……(ハァ…ハァ…)」




 ◇◇◇◇◇



 Side 士郎


「………39度7分。おそらく風邪だと思われます」
「うう………マ、マジか………」
「なんで苦しんでる本人が驚いてる。周りからは重症なのが一目でわかるぞ…」

 う、うるさいな。風邪なんて何年ぶりだと思ってるんだよ。
 花粉症も持ってる誰かさんとは違うんだ。

「今日一日は絶対安静ですね。…というより動きたくても動けないハズですが。あと刹那さんには連絡しておきました」

 ああ、その通りなんだ。体がものすごくダルくて気持ち悪い。体には全く力が入らないし。
 それにしても額の濡れタオルが気持ちいい…あと刹那に連絡ありがとうな茶々丸。

「茶々丸、学校に連絡しろ。身内の看病をするから今日は欠席するとな」
「…ちょっと待て…。お前は何を言ってる…」

 いきなりエヴァが、とんでもないことを言い出した。

「ふん、お前は自分の衰弱ぶりを自覚していないのか?今のお前を一人きりにさせるワケにはいかんよ。
 安心しろ、従者の面倒を見てやるのも主人の務めだ」

「いや、でも…俺の所為で二人を欠席させるわけには………」
「何を言ってる?休むのは私だけだぞ?」

「「え?」」

 俺と茶々丸は揃って驚きの声を出した。するとエヴァが不思議そうな顔をする。

「何だ貴様ら揃って。私とて看病くらい造作もない。茶々丸は学校に行っていろ」



「「………不安だ/です」」

「な、なんだと!?」

 如何にも心外、といった様子のエヴァ。いや、だってさ……。


「…エヴァが心配で…おちおち寝てられないな……」
「マスターが心配で授業など受けていられません」
「どーいう意味だ貴様等!?」

 ああ、目に浮かぶな茶々丸。
 身長130cmくらいしかないエヴァが棚から薬を取ろうとするけど背が足りなくて、棚をじっと睨み上げる姿が………。

(これも封印されていて飛べない所為だと言うんでしょうね)

 そのあとお盆に水と薬を載せて運んでくるんだけど…階段で躓いてぶちまけて、その場の掃除をする羽目になるんだ……。

(それも呪いの所為にするんでしょうね…)


「「………不安だ/です…」」

「なんだ貴様らその目はぁ!?」

 おお…つい父親な気分に。


「しかしマスター。なぜいきなり「私だけで」学校に行けなどと?」

 あ、それは確かに。今までこの二人は大体一緒にいた筈だよな。なんで急に一人で行けと言うんだろう?
 …するとエヴァは二ィッと口を吊り上げて、流し眼で茶々丸に視線を向けた。

「いやなに、茶々丸はあのぼーやに会いたいだろうと思ってな?」
「ッ!!?」

 ああ、なるほど。
 この前の一件以来、茶々丸はどうもネギの事を気にしてるみたいだからな。

「………そ、そのようなコトはありません」
「ほう?ならば今の間は何だ、この色ボケロボ(ニヤニヤ)」
「マ、マスター!今の発言の撤回を要求します……!」
「……もう学校行けよお前ら」

 渋る二人を無理やり送り出して、俺は大人しく惰眠を貪ることにした。




 ◇◇◇◇◇



「みなさん!おはよーございます!!」
『おはようございま―――す!!』

 麻帆良学園女子中等部、3−A教室。
 いつもと変わらず元気な生徒達と朝礼を終え、ネギは出席を取り始めた。

「柿崎さん」
「はーい」

「アスナさん」
「はーい」

「春日さん」
「はーい」

「茶々丸さん」

「……アレ、居ない? お休みですか?」
「ウチんトコには連絡来てへんよー」

 ネギの疑問に保険委員の亜子が答える。
 教室を見渡すとどうやら、エヴァンジェリンの姿もなかった。


 ――ガラッ

 すると丁度、茶々丸とエヴァが教室に入って来た。

「あ、おはようございます茶々丸さん。珍しいですね、茶々丸さんが遅刻なんて」
「私は珍しくないのか?先生」

 エヴァがギロリとネギを睨む。

「だって、エヴァンジェリンさんはよく授業をサボるじゃないですかー(ニコニコ)」
「…ぐっ」

(コイツ…私に勝ったからと調子に乗ってるんじゃないだろうな……?)

 屈託ない笑顔で事実を言い放つネギに、エヴァは何も言い返せなかった。

「スミマセン先生。家族が熱を出しまして、その看病で遅れました」
「家族………って士郎さんですか?」

「はい、39度の高熱で……。学校を休もうかとも思ったのですが、本人が看病は要らないと言うので…」
「そ、そうですか。わかりました、もう席に着いていいですよ」

「ではこれで朝のHRを終わります。10分後に一時限目の授業を始めますよー」




 ◇◇◇◇◇



「――で。何だ貴様らは」

 ベルが鳴り、茶々丸がパタパタと玄関に向かっていく。
 その姿を視界の端に収めていたエヴァは、彼女が招き入れた客人にそんな第一声を浴びせた。

 今エヴァの前には……士郎のお見舞いに訪れた、ネギ・明日菜・木乃香の三人が立っていた。

「何ってエヴァちゃん、お見舞いに決まってるじゃない。はいコレ、商店街で買ってきたフルーツセット」
「ありがとうございますアスナさん。皆さん、今お茶をお持ちします」
「あ、お気づかいなく茶々丸さん」
「どうせタダだったしね、その果物」
「…?」
「へー、エヴァちゃん家ってふぁんしーやなぁ。かわええわー♪」

 実はお見舞いに行きたがった者が他数名いたのだが、各々の事情によってこの三人のみの参加となった。



 ―――士郎の自室。

「悪いな、わざわざ来てもらって」
「ダメやえシロウ」
「あぐっ」

 木乃香がズビシ!と、士郎の額にチョップをお見舞いした。

「シロウは病人なんやから気ィ使わなくてええんよ。こういう時はありがとうってゆーてな?」
「………ごめん」
「ホラまた謝ったー。そーいうところはホンマに変わらへんな〜」
「……うっ…。」

「それにシロウはいつも働き過ぎや。土日も人助けしとるやろ、商店街でもえらい評判やったし。
 士郎が風邪ひいた言うたらな、八百屋のおじさんがタダでフルーツセットくれたんやえ?」
「え、そうなのか?そうか…今度お礼をしないとな…」
「………ああもう、偶にはゆっくり休まんと―――!」

 木乃香は人差し指をピンと立て、捲くし立てるように士郎に苦言を呈し始める。
 そんな義兄妹の微笑ましいやりとりを、周囲は黙って見守っていた。

「ここだけ見てると、このかの方がお姉さんみたいね」
「そうですか?」
「いや、士郎の性格と扱い方を知ってるだけだ。
 義理とはいえ流石は妹なだけある………今度じっくり話をしたいな」
「あはは。褒めてくれてありがとなーエヴァちゃん♪」

(…てゆーかさネギ?士郎さんが風邪ひいたのって…)
(は、はい。多分、昨日湖に落とされ……)

「何か言ったか貴様ら?」
「「いえ、何も」」

 ネギと明日菜をジロリと睨んだエヴァはそれ以上は追及せず、今度は木乃香に向き直った。

「近衛木乃香、お前はここで士郎と一緒に居ろ。
 ぼーやと神楽坂明日菜は私と来い、話がある」

「?? うん、わかったわ」

(…エヴァちゃん、何の用かしら?)
(さ、さぁ…僕にも。一体なんでしょう)


 エヴァ、茶々丸、ネギ、明日菜の四人は、エヴァに連れられて士郎の部屋を退出した。




 ◇◇◇◇◇



 ネギと明日菜は一階リビングのソファで、テーブルを挟んでエヴァに向かい合って座っていた。

「えと…エヴァンジェリンさん、お話というのは一体……」
「なに、この前の約束を果たそうというだけだ」

「…約束?」
「何だ忘れたのか? 私に勝ったらサウザンドマスターと私の関係を話してやると言っただろう」

「………!!」

 その一言で、ネギは大きく目を見開いた。

(サウザンドマスター……父さんの情報………!!)


「紅茶をお持ちしました。マスター」
「うむ」

 エヴァは静かにカップを受け取ると、紅茶を飲んで口を湿らせる。
 …少しして、彼女はカップを持ったままネギを見て口を開いた。

「貴様は昨夜、―――非常に癪ではあるが…この私に勝った。だからわざわざこんな場を設けてやったのさ」

「もー、もったいぶらなくても知ってるわよ。
 エヴァちゃんはネギのお父さんのコトが好きだったんでしょ?」


「――――ぶぅーーーーーーーーーーっ!!! ゲホッゴホッ!?」


 優雅にカップを傾けていたエヴァは、明日菜の台詞で盛大に紅茶を吹き出した。

「な、なぜ知っている!? …ネギキサマか!!貴様が喋ったのか!!
 やはり貴様、私の夢を見たなぁあーーーーーー!!!」

「あわわわ……!ス、スミマセンーーーーー!!」

「ああ、ネギ先生達もご存知だったのですね」

 エヴァの動きがピタッ!と止まる。
 いま間違いなく、自分の従者が無視できない何かを言った。

「オイ茶々丸!!何故お前も知っている!?」

「マスターがサウザンドマスターを想っていることを知らない者は、この家にはいませんが?」

 さらりと爆弾発言を喰らってエヴァンジェリンは絶句する。
 次いでハッと、何かに気づいたように慌て始めた。

「ま…待て!と、ということは士郎も知っているのか!?」

「あら、なーにーエヴァちゃん? 士郎さんには知られたくないのお?」

「うっ!? べ…べ別にそそそ、そんなワケないだろう!?」

 耳まで真っ赤にしたエヴァが士郎の事を口にした途端、さらに全身まで赤く染め上げたのを明日菜は決して見逃さない。

「んふふー。そーお?エヴァちゃんって恋多き乙女なのねー♪」

「………だ……黙れぇぇえええええ!!神楽坂明日菜ぁぁああああああ!!!」


 普段は人の色恋をからかう事などない明日菜だが、"あの"エヴァンジェリンの恋となると話は違う。
 この時ばかりは彼女もまた、女子中学生の本性を存分に露わにした。

「アハハ、エヴァちゃんってからかうと面白ーい♪」
「ア、アスナさん……」


「………覚悟はいいか。ガキども」
「「えっ」」




 〜〜〜しばらくお待ちください〜〜〜




 エヴァと明日菜のじゃれあい(茶々丸談)のあと話は本題へと移り、場の空気は急速に重みを増す。
 …話が終盤にさしかかると、エヴァの目には僅かな涙が滲んでいた。

「………だが奴は死んだ……。10年前にな………」

「……エヴァンジェリンさん、違うんです。
 僕、サウザンドマスターに会ったことがあるんです!」

「………何? 確かに奴は10年前に死んだ!お前は今10歳だろう、どういうことだ!?」

「そ、それは……。で、でも僕、本当に父さんに会ったんです!6年前の雪の日に……。
 その時に助けられて…この杖を貰ったんです」

「………そんな……奴が、生きているだと………?」




 ・
 ・
 ・



『アハハハハハハハハハハハハ!!』
『そーかそーか、奴が生きているか!!』
『ま、殺しても死なんよーなヤツだとは思っていたがな!!』


「なんやゴキゲンやなーエヴァちゃん。ここまで声が聞こえてくるえ」
「あー、15年想い続けた人が生きてたってんだから、そりゃ嬉しいだろーな」
「15年?」
「!! い、いや、なんでもない!」
「??」

(あ、アブねえ!!…ネギのコト言えたモンじゃないな……ふー)




 ・
 ・
 ・
 ・



 ――カランコロン。


 ネギ達が帰った後しばらくして、再びエヴァンジェリン邸のベルが鳴る。


「…お邪魔します。エヴァンジェリンさん」

「………やっと騒がしいヤツラが帰ったと思えば、次はお前か。…刹那」


 扉を開けて入って来た人物は、士郎の幼馴染みの――桜咲刹那だった。




 ◇◇◇◇◇



「もう起きても大丈夫なんですか?」

「ああ、熱はすっかり下がったからな。もう平気なんだけど…茶々丸に寝かしつけられた。
 明日も寝てろって言われそうだな、はは」

 士郎はベッドの上で上体だけ起こし、刹那はその隣で行儀よく椅子に座っている。

「いえ、そのとおりです。士郎さんはいつも働き過ぎですから、このような機会でも無ければ休まないでしょう?
 ゆっくりと静養した方がいいですよ。
 ………? どうかしましたか?」

 きょとんとした顔をした士郎に刹那が問う。
 すると彼は、彼女にとって意外な答えを口にした。

「……いや。木乃香と同じこと言うんだなと思ってさ」

「! そ、そうですか………」

「………刹那」
「…? はい」


「修学旅行、このままだと京都になりそうなんだってな」


「………はい」


 ―――京都。
 日本を代表する歴史的な都市であり………しかし今の会話ではそういった「普通の」意味合いだけでなく。
 その古都は、日本古来の術法を使役・管理する組織――『関西呪術協会』の本拠地である。

 対して、西洋の魔術…"魔法"を修めた魔法使いを統括するのが『関東魔法協会』。
 ここ麻帆良学園の裏の顔にして正体でもある。

 そして何より問題なのが、この二つの組織が対立関係にあるということだ。

 刹那が所属していた京都神鳴流も、関西呪術協会の派閥に属している。
 彼女が"東"の麻帆良学園にいる現状は、向こうから見れば「裏切り」に値する行為なのだ。

 それでも刹那が麻帆良へ来たのは―――ひとえに、木乃香のため。

 木乃香は関東魔法協会会長の孫娘にして、関西呪術協会トップの一人娘。
 潜在的ながら極東最大の魔力を生まれ持ち…血も資質も権力も、全てにおいて強大な力を持つ稀有な存在。
 狙われるには、充分過ぎる生い立ちだった。

 だからこそ彼女を護るために、刹那は西を脱退した。
 裏切り者の謗りを受けようとも、大切な親友を護るために。

 ………現在は諸々の事情で、当事者二人の関係はこじれてしまっているが。


 …そういった事情故に、士郎は木乃香と刹那が京都に戻るいく事を、心配せずにはいられなかった。


「……向こうでいろいろ起こると思う。木乃香のこと………頼むな」

 士郎は左手を刹那の頭に伸ばすと、そのまま彼女の頭を撫でた。

「…はいっ。お嬢様は…私が必ずお守りします!」

 刹那は凛々しく微笑んで、士郎の期待に是と応えた。



 …それほどまで大切に思っているのに。
 刹那は以前のように木乃香と接することができないでいる。
 親友だった頃の愛称では呼ばなくなり、今ではお嬢様と呼ぶようになった。

 それは……木乃香が生い立ちに問題を持つように。

 刹那もその生い立ちに、大きな秘密を抱えている―――。


(あわよくば…今回のことで仲直りしてくれれば一番なんだけどな。
 何か……キッカケがあれば……)

 義妹と、その親友である幼馴染み。
 彼女達が昔のように隣りあって笑顔で過ごせるよう、士郎は心の底から願った。




 ◇◇◇◇◇



 Side 士郎


「………ようやく帰ったか」
「…エヴァ…?」

 …どうしたんだろうか。
 サウザンドマスターが生きてるかもしれないとご機嫌だったはずなのに、今の彼女は何処か酷く不機嫌に見える。

「なんてことはない。自分が弱っている時まで他人の心配をするバカを見て胸くそ悪くなっただけだ」
「………スイマセン」

 エヴァはさっきまで刹那が座っていた椅子に、ぴょんと跳び乗って腰かけた。
 ……足が届いてなくて可愛いかったりする。

「言っておくが、刹那はお前が思っているほど弱くはない。…まあ、だからこそ義妹を任せたのだろうがな」
「……なんだよいきなり?」

 彼女はそれに答えることなく、無言で俺のベッドに乗り出してくる。
 ――ずいっと顔を寄せて俺の目を覗き込む、青い双眸がそこにあった。

「…なに、お前の心配など杞憂に過ぎんというコトさ。
 大魔法使い『闇の福音ダーク・エヴァンジェル』の、直々の未来予報予言だ。せいぜい感謝しろ」

 そう言って彼女は二ヤリと笑って、また椅子に座り直した。


「…………そうだな」


(言葉通りの意味か…あまり心配し過ぎるなって意味か…まあ、どっちも同じか)


「………うん。なら安心だ。じゃ、俺はもう寝るよ。オヤスミ」

「?? む、そうかわかった。しっかり休めよ?じゃあな」

 席を立ち部屋から出て行くエヴァの背中に、俺は一言言っておきたくなった。

「………ありがとう。エヴァ」

「……何がだ?」

 顔だけこちらに振り向いた彼女は、俺の言葉を聞いて不思議そうにしていた。

「いや。なんとなく」

「そうか。………おやすみ」


 ――バタン…。


 去り際にエヴァが電気を消していってくれたので、俺はそのまま横になった。


(……やっぱ俺って考え過ぎなのか?)


『士郎。確かにオメーは考えて戦った方が強えんだろうがな、偶には後先考えずに気合いでなんとかしてみろや。
 案外うまくいったりするモンなんだぜ?』


(…そういえば師匠もそんな事を言ってたな。そういや最近、気合いなんてものとは無縁だしな……。
 まあ、あの人は深く考えてないんだろうけど)


 そんなことを思考しているうちに、俺の意識は深い眠りに落ちていった。




 ◇◇◇◇◇



 …目の前に、こちらに頭を下げる少年がいる。
 その黒髪はボサボサで、歳の頃は…十代前半といった所か。

『近衛翁。僕に……西洋魔術を教えて頂けませんか……!』


 その、10数年後。

『なんじゃ、何ぞ良いコトでもあったかのう?』
『……はい…今日は、報告に来ました。………僕、父親になるんです』


 更にその…数年後。

『おかーさま!シロウはわたしがだっこする!!』
『ふふ、ダメよ。イリヤには重いわ』
『ぶー。』
『フォ…微笑ましいのぉ』
『そうですね……僕にはもったいないくらいの…家族です』



 ――チュンチュン…チチチ……。


「………ほ。こりゃまた随分と…懐かしい夢を見たモンじゃわい」

 最後にあの男に会った時。
 彼は相変わらずのボサボサ頭に黒いスーツ、黒のトレンチコートを着て――……随分と、痩せこけていた。


「……お主の息子は立派になったぞ……………切嗣」


 近右衛門は布団から起き上がり、窓から快晴の空を見上げて呟いた。




 ◇◇◇◇◇



 同じ頃、エヴァンジェリン邸では。

「…まさか…熱を出した翌日から運動トレーニングしようなどという愚を犯すとは思いませんでした」
「バカなのか?貴様は馬鹿なのか!?」
「すいません申し訳ありませんでした反省してますいやホントだからやめて痛いですってはい」
「オイオイ俺モ混ゼロヤテメーラ。ケケケ」

 早朝鍛練に出かけようとした士郎は茶々丸に発見され、
 エヴァに取り押さえられて折檻されましたとさ。

 ちゃんちゃん?









<おまけ(※長文注意)>

 これは、エヴァと茶々丸が学校に行っている間の一幕である…。

 何処からどう話が伝わったか、士郎のお見舞いにエヴァ邸を訪れる人物がいた。

 授業の合間を縫って現れたその人物は、麻帆良学園の女性教師――…葛葉刀子。

 何を隠そう彼女、元は刹那と同じ京都神鳴流剣士である。
 しかし西洋魔術師との結婚を機に西を抜け、ここ関東へとやって来たという過去を持つ。
 …だがのちにその男性とは破局。現在は事情を知らない一般人の彼氏を捕まえて交際をしているという……。


刀子(風邪ですか……全くだらしのない。
   もう少し近衛家に名を連ねる者の自覚を持って、しっかりして頂きたいですね)


 士郎は家族を喪った後、詠春に引き取られて近衛家の養子となった。
 元々近衛家の分家筋だった"衛宮"だが、血の濃さを考えればそれは異例と言えなくもない処置であった。

 そんな事情を知る彼女は士郎に、近衛の名前に相応しい人間となるよう、口を酸っぱくして言う時が多々あった。
 そしてそれは何故か、士郎が近衛家から籍を抜いた後も変わっていない。

 しかし刀子自身は士郎が嫌いではないし、どちらかといえば好ましくすらある。
 彼のお人好しに甘えたことも一度や二度ではないし、そもそも嫌いな相手にわざわざ見舞いになど来たりしない。
 そう…時たま見せる厳しい態度は、一番近い言葉で言えば「愛の鞭」なのである―――。


刀子「…しかし…これはどうしましょう……」


 …その結果がこの状況である。


刀子(……あ…余りにも辛そうだったから……つい)


 刀子は熱に魘されて眠る士郎の隣りで、彼の手を握っていた。



 ◇◇◇


 士郎以外誰もいないエヴァンジェリンの家に不法侵入者よろしく上がり込んだ彼女は、熱に魘される彼を発見する。

士郎『はぁ……はっ…はぁ……』

 必要なのは風邪薬か、解熱剤か、額の濡れタオルを取り替えようか――などと、普段の彼女からは想像できないような慌てっぷりを見せて右往左往して…ふと。
 ……士郎の苦しそうな顔が目に入った刀子は。


「…………。」


 ――ぎゅっ


 彼の手を優しく握る。


士郎『…はっ…はぁ……。………。』


 すると士郎は、目に見えて顔が穏やかになっていった。



 ◇◇◇


 ……そして冒頭に戻る。
 刀子は帰るタイミング…もとい手を放すタイミングを完全に見失っていた。
 もう一度言うが彼女は教師であり、今は授業の合間を縫ってここに来ている。いつまでもこうしている訳にはいかない。
 タイミングを何とか見定めようと、彼女は必死になって士郎の顔を観察する。


士郎「………。(すぅ…すぅ…)」

刀子「…………。」





刀子(………………かわいい)


刀子「―――はっ…!? い、いま私は何をっ!?」

刀子(な…何を邪なことを考えているのですか私は!!
   ね、熱に魘される年下の男の寝顔を見て…か、かわいいなどと……!! わ、私には恋人が……!)

 熱を出した士郎以上に顔を赤くした彼女は、その長髪を振り乱すほど首をぶんぶん振って自らの思考を否定する。
 はーっ、はーっ、と乱れた呼吸を整えてようやく落ち着いたと思ったそのとき。
 再び士郎の顔が視界に入り…刀子はまたしても見入ってしまう。

刀子「〜〜〜っ!!…か、帰ります!!もう帰ります!!」

 果たして誰に向けて言ったのか、刀子はそう叫んで士郎と繋いだ右手を乱暴に振り解く。
 そのまま彼女は士郎の部屋を飛び出して、エヴァ邸を後にしたのだった。

 そしてそんな出来事が起きていたとは露知らず。
 刀子が去った後も士郎は、ぐっすりと眠り続けたのだった。

士郎「す――…すー……(すやすや…)」



〜補足・解説〜

>(ッ!?なんだ、このどっかの金ピカみたいな声は!?)
>何だ、我が誰だか判らんというのか?
>我は、貴様の――――
 これは士郎の中に眠る"あるモノ"が、士郎の記憶の中の「ギルガメッシュのイメージ」を借りて出てきているだけであり、ギル様本人ではありません。そこ注意。
 何でギル様のイメージを借りたのかというのも設定に関わってきます。正しく重要なのはギル様の宝具である「乖離剣エア」ですが。

>「ロ………ロリブルマッ!!?」
 たぶん彼はタイガー道場に旅立っていたんだと思いますw

>従者の面倒を見てやるのも主の務めだ
 雇用主が従業員を慰安旅行に連れていくような感覚の発言であり、エヴァがメイド服を着て士郎に「ご…御主人様……?///」とか言ったりしないので要注意です。

>義理とはいえ流石は妹なだけはある……今度じっくり話をしたいな」
 特別講演会「衛宮士郎の操縦法」、近日開演(ウソ)。意外と参加希望者が多かったり。

>エヴァと明日菜のじゃれあい(茶々丸談)
 明日菜「ふふーんだ、その盾っぽいの私には効かないんだから!」
 エヴァ「ええいクソッ!封印されてるとはいえ真祖の障壁を無視するんじゃないっ!」
 茶々丸「本当に仲が良いですね。要録画です」
 ネギ「えっ」
 カモ(止めねーのかよ!)

>「……お主の息子は…立派になったぞ……………切嗣」
 修学旅行編における士郎サイドの伏線。
 現時点ではこの設定がストーリーの本筋に関わることはない予定ですが、もしかしたら……。

>(風邪ですか……まったくだらしのない。
 社会人は自分の健康管理も義務なので、風邪に対しても評価の厳しい刀子さん。原因がエヴァにあると彼女は知らない。
 余談ですが、刀子先生は外面はSだけど実は絶対Mだと思います(力説)。

おまけの補足>
 刀子先生とフラグが立った………のでしょうか?
 士郎との年齢差から見たら、彼女はむしろ姉とかおばs…いえ何でもないです。
 しかし、刀子先生には彼氏がいるんだがなぁ…。



 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 『第11話 誕生日会の飲み会』

 それでは次回!

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2012/12/13…文章を改訂しました。
テキストサイズ:19k

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