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大帝国〜ドクツの韋駄天〜 第二話
作者:rahotu   2012/05/14(月) 02:12公開   ID:8K.dmSHbsTU

-統一宇宙暦939年西部戦線-

ドクツ第三帝国艦隊は西部戦線に集結を終え早速対オフランス攻略会議を開いていたが中々議論は進んではいなかった。

いや、というよりも大まかな方針は決定しているのだがそれに対し西部方面軍提督グデーリアンが反対しているのだ。

「だから何もマジノラインを無理に突破する必要は無いと言っているのです。北側の暗礁地帯を迂回し敵後方に浸透すればエイリスとオフランス主力を包囲出来ます」

「だがそれは些か冒険的過ぎるのではないか?寧ろここは総統閣下のプランで行くのが理に適っている」

アイゼンのマンシュタインと渾名されるドクツ帝国宿将マンシュタイン元帥は腕を組みグデーリアンと先程から議論を互いに戦わせていた。

その隣で二人のやり取りを面白そうに見ているロンメル元帥と、何処か居心地悪そうにソワソワしているうら若き女性提督、エルミー・デーニッツが二人の顔色を窺っていた。

「あの、ロンメル元帥。お二人は余り仲が宜しくないのですか?」

デーニッツはそっと隣のロンメルに小声でそう聞くと、ロンメルは視線を二人からデーニッツに向け暫く思案してこう言った。

「あの二人は実は弟子と師匠の関係で、先の大戦でもマンシュタイン閣下の下で戦った教え子の一人なんだ」

「そうなのですか。でも、今は何だかそんな感じはしませんが...」

「まあ、この話を知っているのは今の軍には古参兵以外殆ど知られていないからな。元々グデーリアンは上官に直訴する奴だから昔から上層部には受けがよくなかったんだ」

ロンメルの話を聞き、デーニッツは成程と思ったがしかし聞けば聞くほど何故かグデーリアンに対してムカムカとして気持ちが湧き上がってきた。

最初この大事な作戦に参加する際、自分は辞退しようと考えてもっと他に優秀な提督が加わるべきだと思っていた。

でも、そんな時親愛なるアドルフ総統閣下は私を励まし勇気付けてくれた。

それに総統閣下から新兵器を任された手前、ここで自分が蔑ろにされることは酷く侮辱に感じたのだ。

「いい加減にしてください。グデーリアン閣下、貴方は総統の計画に不満でもあるのですか」

「不満は無い。寧ろ殆ど完璧と言っていい、だがこれでは十分では無いと言っている」

この男は何を言っているのか?と自分でも不思議に思い、ロンメルも先程までの笑みを含んだ瞳から獲物を狙う狩人のそれに変えグデーリアンを見つめている。

マンシュタインの視線も厳しくなったが、しかしグデーリアンは身動ぎもせずこう言う。

「確かに総統閣下の計画に従えば一回の戦いで“オフランスは”征服できる。が、本題はそこから先だ」

「何が言いたい」

マンシュタインが重く腹の底から響くような声で続きを促す。

「結論を先に述べましょう。私は今回の戦い真に相手すべきはエイリスだと思っています」

「ほう」

「何と」

「それは!?」

上からロンメルは興味深げに、マンシュタインは驚愕し、デーニッツは無茶だという表情を浮かべた。



-グデーリアン-

三人が三人ともそれぞれの表情を浮かべるのを見ながら、私は内心どうやって説得するか考えていた。

確かにこのまま行けばオフランスを戦わずして征服する事が出来る。

見すると理想的な勝ち方だがそれは相手がオフランスのみの場合だ。

ドクツが世界帝国を建設する際一番の障害となるのがエイリスであるのは間違いない。

現実世界の戦いでもどうだろう?

ヒットラーの判断の迷いがダンケルクの奇跡を生み出し大英帝国に反撃のチャンスを与えてしまった。

無論これ等のIFに対する回答は結果論とう形で解決されてしまっているが、今自分が居る立場はその結果を引き出す側にいる。

ならば自分が考える中で最良の結果を出す義務が私にはある。

「マンシュタイン閣下、今現在エイリスがオフランスに派遣している兵力はどの位かご存知ですか」

「報告では三十万と聞いているが」

「三十万の完全充足の艦隊が欧州に存在する。確かにこれがオフランスと共同戦えば非常に厄介ですが、しかし逆にこれは敵の主力を撃破するチャンスです」

グデーリアンは戦術モニターを操作し画面のオフランスの星域図と敵軍の配置を表示する。

オフランスとドクツとの国境はワープゲートを跨いだオフランス側にマジノラインが存在し、それに拠る形でオフランスの主力が控えている。

エイリスの欧州派遣軍は北寄りに配置し、北側からの侵攻に備えていた。

「このように敵は本来集中すべき戦力を分散し戦線に広く配置しております。特にオフランスはマジノ線頼みで殆ど錬度と士気も低い状態でエイリスとの連携を考えておりません」

「つまり貴官は敵を南北で分断できると言いたいのだな。しかしそのルートはどうする?オフランスの連中が動くには時間がかかるのは分かるがしかしエイリスはそう簡単にはいかんだろう。事実北側の主な侵攻ルートに兵力を集中し後方に予備戦力も置いている」

ロンメルはグデーリアンの狙いが敵を南北に分断してからの包囲殲滅だと見抜いたが、その現実性に対しては疑問を持ったというよりも面白いと感じたがそれが果たして総統の計画と比べるとどうなのか。

ロンメルはグデーリアンを試していた。

「グデーリアン、貴様の作戦を聞くとそれはシェリーフェン・プランの焼き回しではないのか?既に幾たびも議論されものをここで持ち出すのはどういった了見だ」

シェリーフェン・プランとは帝政ドクツ時代に計画された対オフランス攻略作戦の事であるが、今回の様に北側から大きく回りこみ敵前線を迂回してその後背を突くというのが基本戦略である。

マンシュタインも先の大戦時ドクツがその計画に従い結果として当時の軍事機能では計画を完遂できずシェリーフェンは机上の空論と化した。

「その計画ですとまず奇襲効果が重要になります。しかしそうなると今現在の状況ではそれは望めません。矢張り総統閣下のご指示に従ったほうが...」

「何か面白そうなことを話しているじゃないか」

「そ、その声は!?」

「閣下」

「おお我が総統」

「ハイル」

何時の間にスクリーンにはドクツ総統レーティア・アドルフが隣にゲッペルスを従え姿を見せていた。

「ああ、私のことだったら気にするな。それよりもマンシュタインの報告が遅いと思ったがなんだか面白しろそうなことを話しているな」

アドルフはそう言って快活に笑った。

「閣下、実はここにいるグデーリアンが閣下の計画に対し意見したい事があると申しておりまして」

マンシュタインは緊張した面持でレーティアの前で直立不動の姿勢をとった。

彼女の不興を買うこと何としてでもいや一ファンならば避けて当然。

しかしアドルフはそんなマンシュタインを知ってか知らずかその視線をジッとグデーリアンに注ぐ。

(ふむ、名誉や虚栄心から言うような奴じゃないな。寧ろ確固たる信念があり誇りある軍人だ)

アドルフはグデーリアンと直接合った事が彼がどんな人物か大まかにだが掴んでいた。

(まあ私の計画にケチをつけるだけの能があるかどうか。あればそれでいいし無ければ別に惜しいとも思わない)

「グデーリアン。遠慮するな話してみろ」

「はっ。敵の主力は大別するとマジノ線上と北方に分かれますが、実はこの両者の間には隙がありここを奇襲し敵が体勢を整える前に前線を突破し包囲します」

「で、その奇襲地点は?」

「アルデンヌです」

アルデンヌ、オフランスの北方にあるデブリ地帯であり通常ここを通って敵を攻撃しようなどと普通は考えない。

そもそもデブリ地帯の正確な航路図が無ければ進むことも間々ならず、最悪唯兵を遭難させるだけに終わる可能性もある。

「勝算はあります。私の軍に任せていただければ一週間で敵を包囲して見せます」

「ふ〜ん、だが仮にお前が言ったとおり上手く行ったとして戦線を突破し進軍する軍の側面は無防備だ。そこをオフランスとエイリスに襲われれば一たまりもない」

「エイリスに対しては奇襲と同時にドクツの全軍を持って攻撃していただければ十分です。オフランスについても一二度牽制を入れるだけでいいでしょう。オフランスはマジノ線に頼っている以上要塞を捨てるという選択は出来ません。もし仮にそうなったとしても今度はオフランス中央部から我々がなだれ込むだけです」

ふむ、とアドルフは顎に手をあて思案した。

当初自分が立てた作戦では敵の主力を迂回せず目の前でマジノ要塞の無力を知らしめることで戦意を喪失させオフランスを早期併合することを考えていた。

そうすれば必要最小限の労力ですむし何より確実だ。

だが、矢張りエイリスの精鋭を逃すのは流石に勿体無いとも思い始めていた。

仮にグデーリアンの作戦が上手く行けばドクツの欧州での優位は決定的となる。

「グデーリアン、お前の計画仮に実行するとして最低でも準備にどれ位かかる」

「ご命令さえ頂ければ明後日には」

「分かった。しかしお前中々見所のある奴だな。こうまで私の計画に対して意見するとは。国家元帥に対しての無礼は...まあ、今回の戦いで功績を挙げれば不問とするか」

「マンシュタイン、ロンメル!!」

「はっ」

「ここに」

「軍を北に移動させろ。デーニッツはマジノラインの前で待機支持は追って通達する」

こうしてドクツ全軍はグデーリアンの作戦計画に従い、対オフランス戦を行うことが決定された。

作戦の総司令官にはグデーリアンが任されドクツは遂に真の牙を剥こうとしていた。





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二話目を投稿ですが相変わらず短い...

シルフェニアでの普通の文章量がどの位か現在模索中です。

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