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大帝国〜ドクツの韋駄天〜 第三話
作者:rahotu   2012/05/15(火) 00:49公開   ID:8K.dmSHbsTU

-統一宇宙暦939年オフランス北部アルデンヌ暗礁地帯-

グデーリアン大将率いる西部方面軍はアルデンヌ周辺の集結を終え、遂に同日早朝対オフランス攻略作戦「黄色ゲルプ作戦」が発動された。

「全軍前進せよ」

グデーリアンの命令と共にドクツ西部方面軍はアルデンヌの暗礁地帯へと次々と進んでいく。

同時に北部でもマンシュタイン、ロンメルの軍団が進軍を始めていた。

この時オフランス及ぶエイリス欧州派遣軍はドクツ軍がアルデンヌ周辺に存在するという情報を得ていたが、しかしマンシュタイン及びロンメルを含むドクツ主力軍が北部寄りに配備されている事からアルデンヌ周辺の軍は囮であると判断していた。

オフランスのド・ゴール将軍等先見の明ある軍人達はアルデンヌこそが攻撃の正面であると見抜いていたが、上層部を説得する材料が足りず又この時本人達もどうやってアルデンヌを突破するのか皆目見当がついていなかった。

しかしグデーリアン率いる西部方面軍は西部地域の宙域を熟知しており、特に大戦前からこの地域を度々訪れていたグデーリアンはこの暗礁宙域の進み方を知っていた。

更にはグデーリアンの軍は最新の通信装置が優先的に配備され艦隊間の意思疎通がこれまで以上に効率化されており艦隊の移動効率を大幅に上げており暗礁宙域を容易に突破する事ができたのだ。

エイリス欧州派遣軍はまさかアルデンヌに敵が存在するとは思わず、アルデンヌに置いていた部隊を全て北部に引き上げてしまったことも幸いした。

これによりグデーリアンらの存在はアルデンヌを突破するまで気づかれることは無く、完全な奇襲がここになった。

マンシュタイン、ロンメルの巧みな戦術も功をそうした。

自慢の装甲師団を前面に押したて欧州派遣軍を圧迫し敵に北部こそが攻撃正面だと思わせており、アルデンヌ突破までエイリス軍はグデーリアンの存在に気付かなかったのだ。

「グデーリアン提督。先鋒がまもなくアルデンヌを抜けます」

「よし。以後は作戦計画に従い唯々前進せよ」

作戦開始から二日後、遂に先鋒がアルデンヌ暗礁地帯を抜けここにドクツは完全に敵後方に回り込むことに成功した。

ヘルマン、マントイフェル、ビッテンフェルト、ファーレンハイト艦隊が無防備なオフランス星域後方を食い破りこの時はじめてオフランス、エイリス欧州派遣軍はドクツ軍の真の目的を悟る。


-エイリス欧州派遣軍司令部-

「前線との連絡がつかん!!今敵は何処にいるんだ」

「オフランス軍との回線が混乱して連絡に出ません」

「呼び続けろ。それともう一度敵の位置を確認するんだ」

エイリスから派遣された欧州派遣軍司令部は混乱の極地にあった。

今までドクツの攻撃正面だと思っていたのが実は欺瞞で、本命はアルデンヌの暗礁地帯を越えてオフランス後方になだれ込んだのだ。

欧州派遣軍はオフランスと遮断され同時にオフランス軍も又ドクツの予想以上の進撃スピードに司令部は全く機能していなかった。

一方猛烈な進撃を続けるグデーリアンの西部方面軍はアルデンヌ突破から五日後、エイリス軍を完全に包囲する事に成功した。

並びにマンシュタイン、ロンメルの軍団も北部から迫りエイリス軍は西と南から追撃するドクツ軍を前に唯一残った港ダンケルクへと追い詰められていった。

「足を止めるな。前進を続けろ。ここでエイリス軍を倒せばオフランスは“詰み”だ」

「良く動け、そして敵を撹乱しろ。グデーリアンの奴に速さで遅れをとるわけにはいかないからな」

マンシュタイン、ロンメルの軍団も今まで温存していた予備戦力を投入し本格的にエイリス軍に猛攻を加える。

先の欺瞞攻撃でエイリス軍が分散配していた駆逐艦以下、小回りの効く軍艦を優先的に撃破してきたお陰でドクツ軍は雷撃の危険無く存分にエイリス軍を打ち据えていった。

広い宙域全てをカバーする為に広く薄く艦隊を配備せざるを得なかった欧州派遣軍はマンシュタインとロンメルの連携の前に艦隊の手足である駆逐戦隊を無駄に損耗し、オフランス同様旧態依然とした軍事ドクトリンの限界は脆くも崩れ去っていく。

ダンケルクに追い詰められたエイリス軍は補給も援軍の当ても無くその後一週間の抵抗を続け三十万の兵力と共に壊滅し残るオフランスもエイリス軍の敗北を知ると首都星パリから王族は逃亡しオフランスはドクツと戦わずして降伏した。

西方電撃戦の成功によりグデーリアンはその名を欧州に轟かせ、彼の発案して電撃戦の有効性を実戦でもって証明した。

また、エイリス欧州派遣軍の壊滅はエイリス本土の防衛を危うくさせ、エイリス帝国は勢いに乗るドクツ第三帝国の正面に立たなければならなくなった。





-旧オフランス王国首都星パリ-

華の都パリ。

嘗て世界の向けその文化と栄華を花開いた都市から何時もの陽気で明るい空気は消え街は静まり返っていた。

そのパリを無血開城を果したドクツ軍が行進していく。

一糸乱れぬ規律の行き届いた兵士達が銃を掲げ、占領軍司令官が車の上で凱旋門の大通りに集まった物言わぬパリ市民を見つめる。

歓声も非難もなにもない静かで不気味なそして悲しいパレード。

国家元首であったルイ80世はドクツ軍の侵攻とエイリス軍壊滅の報を聞き、心臓発作を起こしそのまま死亡、残った王族達は我先にとパリを脱出した。

王座無き王国、それが今のオフランスを象徴していた。

市民は平和主義のもと戦うことも抵抗することも放棄し、粛々と占領軍の指示に従っていた。

だが遂に堪え切れなかった一人の男が目に涙を浮かべすすり泣く。

その時やっとパリ市民は気付く。

自分達の身に起こった事を理解し何を失ったかを。

ヴェルサイユ宮殿に着いたドクツ軍はそこで臨時国家元首となったルイ80世の姪であるシャルロット・パルトネーが降伏文章に調印したことを繰り返し全世界中に放送し、ここに歴史あるオフランス王家は遂に途絶える事となった。







-ドクツ第三帝国首都星ベルリン-

エイリス軍の壊滅とオフランスの降伏のニュースは瞬く間にドクツ全土に広がり、ベルリン市民を沸き立たせていた。

彼方此方でお祭り騒ぎの様に花火が打ち上げられ、人々は笑いあいビールを飲み歌いドクツ軍を讃えると共に益々レーティア・アドルフに対する敬意を深めていった。

ほんの数年前まで失業率五十パーセント以上と言う最悪の経済状況を、キラ星の如く現われたアイドル総統が快刀乱麻を断つ如く次々と状況を打開し市民は明日を生きる希望を取り戻していくという夢物語。

ファンシズムという幻想を現実に変えた当事者であるドクツ総統はその時執務室で対オフランス戦の結果報告を聞きながら今後の新たなプランを既に立て始めていた。

「思った以上に早く済んだな。私の計算だともう少し抵抗するかと思ったが、しかしこれでエイリスへの障害は無くなった」

スクリーンに表示される星間図にはここ半年間で広がったドクツの領土が映し出されていた。

東はソビエトと国境を接しポッポーランドから北はスウェーデン。

西はオフランスを下し残る欧州の障害は唯エイリス帝国一国となった。

だがしかし、エイリス帝国は全盛期の力こそ失っているが世界に冠する巨大帝国。

嘗てドクツがエイリスの世界支配に異を唱え挑んだ時その分厚い壁を終ぞ打ち砕くことはできなかった。

エイリスの強みはなんと言っても世界中から集まる様々な人、モノ、カネ、そして情報である。

長期戦となれば世界中から無尽蔵に兵力が湧き出るエイリスは確かに脅威と言える。

しかし、巨大帝国は往々にしてその巨大さゆえに足元が腐っていることに気付かない。

「今のエイリスは嘗ての大戦以上に貴族達の腐敗が浸透し腐りきっている。それに今のエイリス女王はまだ代替わりしてから日が浅い。浸け込むのなら経験の浅さと内部の分裂...」

アドルフが組織した対敵諜報部が持ち帰った情報あ彼女の頭の中で統合され必要なものとそうでないものとが区分けされ整理されていく。

そして個々の情報が統一され足りないパズルのピースを組み合わせていくような感覚で彼女は情報を見ていた。

そこから導き出される結論は唯一つ。

「エイリスとの短期決戦しかない」

敵が足元を固める前に、素早く迅速に侵攻し占領する必要がある。

背後にソビエトという不確定要素が絡む以上内部分裂を誘発する搦め手は時間がかかり過ぎ、間髪入れぬ攻撃こそ今のドクツに必要だと彼女は確信していた。

同盟した日本とイタリンがエイリスの植民地軍を押さえている間に決着を付ける。

幾つもの侵攻ルート、作戦計画、戦術、戦略そして兵器の設計、開発、製造から政策の決定。

それら全てを唯一人で考え答えを弾き出す彼女。

万能であるが故に彼女はまだ気付いていなかった。

大国は往々にして足元が見えないのは自分達も同じであると...





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■作者からのメッセージ
第三話目を投稿。

オフランスは呆気なく退場。

大帝国を知ってくださる方がいるみたいなので作者としては嬉しい限りです。

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