-統一宇宙暦939年-
ドクツ第三帝国はポッポーランド侵攻の一ヶ月前人類統合組織ソビエトと秘密協定を結んでいた。
その協定にはドク・ソ不可侵とポッポーランド、北欧連合王国の分割を含む両国の生存圏が取り決められていた。
ファンシズムと共有主義。
本来相容れぬ存在である両者であるが、共通の敵としてエイリス帝国の存在とドクツの進んだ技術力を得るかわりにソビエトの資源を融通するなど戦前から両者の関係は比較的良好であった事が幸いし此度の秘密協定も非常にスムーズに運んだ。
初戦の大勝もありソビエトのポッポーランド侵攻は速やかに行われ、残る北欧連合王国の一つフィンランドを併合すべく軍を進めていった。
北欧連合王国はノルウェー、スウェーデン、フィンランドの独立した三つの王家の連合からなる国家であり、その血筋は遥か昔ヴァイキングにその祖を求める事が出来る。
しかし大戦初期ノルウェーは早期にドクツに併合され、スウェーデンは中立の立場をとり残るフィンランドはたった一国で強大なソビエトと相手せねばならなかった。
フィンランドはありとあらゆる方策でソビエトに対抗する為に外交努力軍備両方の面で抵抗を行ったが、この時欧州ではドクツの西方電撃戦が行われており、中立を保っていたガメリカは心情的にはフィンランドに同情はしたが、彼等の感心は専らドクツとオフランスの戦いに雪がれていた。
こうして孤立無援絶望的な状況の中で始まったソビエト・フィンランド戦争、通称冬戦争は始まった。
当初一週間で終わると豪語していたソビエトであったが、フィンランドの英雄マンネルヘイム将軍の活躍と例年より早い冬の訪れによって侵攻は鈍化。
逆に地の利あるフィンランド艦隊はソビエト艦隊の後方に浸透しゲリラ戦を仕掛けソビエト兵に出血を強いた。
予想以上のフィンランドの抵抗に驚いたソビエトは増援を差し向けるも革命と粛清によってボロボロであったソビエト赤軍は戦意に乏しく又冬季戦装備も充実していなかった為殆ど前進する事無く一進一退の攻防が続く。
一方ドクツ、イタリンと同盟を組んだ極東アジアの世界最古の国家日本はガメリカ共和国に宣戦を布告しマニラ2000、マイクロネシアを奇襲しこれを占領。
初戦を勝利で飾り勢いに乗る日本海軍は資源確保の為エイリス植民地マレーの虎及びベトナムの南方攻略を目指す「あ号」作戦を発動した。
攻略したマニラ2000から東郷海軍長官率いる日本海軍が、併合した中帝国重慶から山下利古里陸軍長官が陸軍の主力を持ってマレー、ベトナムに進撃を開始。
対するはエイリス植民地総督パーシヴァル及びエイリス巡洋艦隊だが、日本軍の予想以上の進撃スピードに対応できず次々と戦線を突破されていった。
「攻撃を敵中央に集中。中央を突破し各個撃破する」
東郷毅海軍長官直卒の艦隊がエイリス総督パーシヴァル艦隊に猛然と砲火を撃ちかけ、旧式装備が主力である植民地艦隊は次々と撃ち減らされていった。
「小僧にはまだまだ負けられねえな。ほら、側面に回りこんで隙作ってやるよ」
そこに老将山本無限が側面からエイリス艦隊に攻撃を加え耐え切れずエイリス艦隊の戦線は崩壊してしまう。
「この私と電子戦で張り合おうだなんて百年早いんです。そら、ウィルスばばば流して電脳を焼き切ってあげます」
そして度重なる敵の電子妨害を全て防ぎ目に見えぬ攻防を繰り広げ、敵を撹乱する才女小澤祀梨提督。
「東郷長官、敵の戦線は完全に崩壊しています。ここは雷撃隊を突撃させ一気に勝負を決めましょう」
「秋山、分かった。田中艦隊に打電、突撃せよ」
日本海軍旗艦長門の艦橋で常に東郷長官の傍に控える筆頭参謀秋山敬一郎。
東郷長官の公務から私生活に至るまで全てを支え続ける苦労人であり、ある意味日本海軍一の功労者とも言える。
「よっしゃあ。やっと出撃命令が出たぜ。野郎共!!敵に熱いにぶちかましてやれ」
最後に問題児田中雷蔵提督。
雷撃を行わせたら彼の右に出るものはいないと言う雷撃の若き第一人者であるが、元ヤンが災いしてかガラが悪く今まで上官の命令に逆らってばかりで日本海軍の厄介者扱いされていた。
しかし東郷長官にその才を見出された、と言うよりも面白いからという理由で提督に抜擢されたが対中帝国、初戦の奇襲攻撃などで大きな戦果を挙げ日本海軍一番多く敵艦を撃沈している。
田中艦隊の突撃によってエイリス艦隊はパーシヴァル総督が乗る旗艦が撃沈され、指揮官を失った艦隊はその後降伏。
ベトナムでは陸軍艦隊とエイリス軍の戦いが続いていた。
-エイリス帝国首都星ロンドン-
日本のアジア植民地侵攻が開始されると同時、欧州最後の砦エイリス帝国は重大な決断を迫られていた。
「矢張り日本も我がエイリス帝国に挑戦するという事ですか。愚かな」
日本軍の動きは侵攻と同時に直にロンドンに伝えられ、セーラ・ブリテン女王はその報告に酷く頭を痛めていた。
「お姉様、そんなに大変なことだったら僕が行って日本をやっつけてこようか?」
妹のマリー・ブリテンはまだあどけなさが残る顔をかしげ姉の様子を心配した。
「大丈夫よマリー。でもエイリス女王として植民地の民を見捨てることはできない」
「でもでも、今欧州じゃあドクツが何時攻めてくるか分からないんだよ?それに皆不安がってるし」
「こらマリー、余り不用意なことを言ってはいけません。王族たるもの発言には常に注意すべきです。いつ何時どのような形でも王族が弱気になることはありえないのです」
「ごめんなさい姉様。でもさ、それならやっぱり植民地はどうするの?だってアジアだけじゃなくアフリカにもイタリンがいるしやっぱりは僕が行って...」
「...マリー悪いんだけれども少し一人で考えたいの。暫くしたら呼ぶからその時ロレンス達も一緒に連れてきてちょうだい」
「分かった姉様。いえ女王陛下」
マリー・ブリテンはおどけたようにそう言って部屋を後にした。
コンコン
「失礼します。新兵隊長ジョン・ロレンス以下参上仕りました」
三十分後マリー・ブリテンと共にセーラ女王が最も信用するエイリス最強の三人の提督が集まっていた。
「マリー三人を呼んできてくれてありがとう。ロレンスも良く来てくれました。モントゴメリー卿、ネルソン卿」
「はっ」
「ネルソンここに」
「エイリス女王として命令します。二人にはそれぞれアフリカ、アジアの守りに入ってもらいます」
「「イエス・ハーマジョスティー」」
モントゴメリー、ネルソン二人の提督は女王の前で跪いて頭を垂れた。
「モントゴメリー卿貴方には本国の四分の一の艦隊を、ネルソン卿貴方には五分の一の艦隊を預けます」
「女王陛下。我が身命をかけて必ずや勤めを果してまいります」
「このネルソン。見事陛下のご期待にかなえ東洋の竜を成敗してまいります」
「二人とも。私マリー・ブリテンからもささやかだけれどもどうか二人の行く先に幸があらんことを。どうかこの祝福を受け取って欲しい」
「ありがとうございますマリー殿下」
「姫殿下もどうか健やかにお過ごしになられるよう。遠く異国の地で祈ります」
こうしてエイリス帝国からこの日アフリカとアジアに向け艦隊が出撃した。
これはセーラ女王の植民地を見捨てないという意思表示であり、またドクツにとって最大の好機が訪れたことになる。