-統一宇宙暦940年ドクツ第三帝国-
国防軍最高司令部が置かれているベルリン官庁街の巨大な建造物内にある会議室には既に軍の主要な人物達が姿を見せていた。
ドクツ宇宙艦隊の顔マンシュタイン元帥にロンメル元帥。
旧帝国時代からの長老格であるゲルト・フォン・ルントシュテット元帥。
本星防衛艦隊司令官レーダー元帥。
ルントシュテット元帥はプロシア貴族の流れを組む由緒正しい軍人の家系に生まれ、先の大戦では参謀職を歴任し。
ドクツ二等国時代には上級大将にまで昇進し退職したが、レーティア・アドルフ勃興の際、旧プロシア系軍人達の請われて軍務に復帰した。
実務は殆ど若い軍人に委ねたが、その立ち位置は旧帝国軍の代表者としての一面とドクツの精神的支柱として国防軍最高司令部に籍を置いている。
レーダー元帥も旧帝国軍からの生き残りであり本来らならば宇宙軍最高司令官の地位にいても可笑しくないのだが、生憎とマンシュタイン、ロンメルの影に埋もれてその話が中々進まないと言う不遇の軍人である。
しかし、敗戦間もないドクツ海軍を守り抜き後の礎となるべく宇宙軍再編に備え準備し続けたその手腕は確かなものでアドルフ総統自らによって本星防衛艦隊司令官という宇宙軍でナンバー2の地位を与えられている。
知名度でいえばアドルフ政権のナンバー2にゲッペルス、次いでマンシュタイン、ロンメルが続く形になるが、レーダー元帥にとっても本星防衛艦隊司令官就任は満足できるものであった。
彼等以外にも日本に出向したデーニッツ提督に代わり潜水艦隊司令官に就任したVTVN提督、マンシュタイン貴下のトエリエステ・シュテティン、ヴィルベルヴィント、ロンメル貴下のケッテンクラート、アドルフ私設親衛隊隊長を務めるロンメル同期のノンツィヒ・ヒムラーSS提督。
そして先の西方電撃戦の立役者であり上級大将に昇進したハインツ・グデーリアンとその貴下のヘルマン・ホト、マントイフェル、ヴィッテンフェルト、ファーレンハイト等、ドクツ海軍主要メンバーが勢ぞろいしていた。
「皆またせてすまない」
そう言って会議開始の十分前にアドルフ総統が姿を見せ、全員が起立し敬礼した。
「「「ハイル・アドルフ」」」
右手を掲げる敬礼に短く返したアドルフは、会議室の中央の席に座りそして全員が座ったところを見計らって言う。
「ではこれよりエイリス攻略作戦の具体的な計画を発表する」
会議の中央に設けられた360°どこからでも見れる立体映像を操作し、作戦図画描かれる。
「まずオフランスの主要ワープゲート港からエイリス帝国本土に侵攻。艦隊を即座に展開し迎え撃つエイリス艦隊と交戦に入る」
エイリス、ドクツ双方に色分けされたマーカーが接近する。
「この時敢て艦隊を広く布陣し、それぞれの艦隊が受け持つ地区を予め決めておく」
ドクツ軍を示すマーカーがエイリス軍と接触直前に広く帯の様に展開し、つられてエイリス軍も同じ様に艦隊を広く展開した。
「敵も同じ様に艦隊を広く展開する。そして我が方は其々が受け持つ地区で戦術的勝利を重ね星域全体での優位を維持したままエイリス本星ロンドンまで前進する」
広く展開したエイリス軍を優勢なドクツ軍がロンドン近郊まで押し上げる。
「恐らくここまで行けば数の上での有利はほぼ互角となる。後は敵をロンドンで包囲しこれを殲滅。エイリス攻略作戦を完了とする」
ロンドンに展開したエイリス艦隊をドクツ艦隊が完全に包囲し、その輪を狭め完全にエイリス軍を示すマーカーが消える。
「何か意見はあるか?」
まずルントシュテット元帥が挙手をし発言した。
「総統閣下、作戦初期の段階でもし敵が先に攻めてきた場合はどうするので?」
「その場合はオフランス領内で迎え撃つ。が、この可能性は今の時点で攻勢の可能性は殆ど無い。先の西方電撃戦でエイリス軍は遠征軍とその精鋭を丸々失っている。この回復にはかなりの時間がかかるはずだ。それに情報部から既に報告が行っているようにエイリス本土から相当数の艦隊がアジアとアフリカに向け出港したのが確認されている。今の時点でエイリス本土にいる艦隊は少なく、敵は攻勢よりも守勢に出る方が容易だ。仮にもし元帥が言ったとおりの事が起きてもそれは逆にエイリス艦隊を確固撃破する好機になるだけだ」
「総統閣下、具体的な兵力及び作戦時期、作戦期間はどの位を想定すれば」
マンシュタインも挙手をしアドルフにより具体的な作戦プランの説明を求めた。
「遅くとも二ヶ月後には作戦の発動を予定している。参加兵力はソビエトへの備えと国内及び植民地、占領地の維持兵力以外全てを投入する。作戦期間は短期戦を想定し三週間と決めている」
三週間、その発言に会議室内がざわつく。
あのエイリス帝国を僅か三週間で攻略すると目の前の少女が言い切ったのだ。
これが唯の少女ならば唯の戯言だが、しかし彼女は良くも悪くも真の天才。
ドクツ救国の聖女であり、彼女がやると言えば必ず実現すると言う不思議な説得力があった。
「総統閣下。必要以外の国内に残る兵力全てとの事ですが、その作戦SS隊長として我々の作戦も認めてくださるので?」
ヒムラーとアドルフの熱狂的ファン軍人達が自分達もと互いに頷き合っている。
「それは心配するな。SSにも勿論存分に働いてもらうつもりだ」
「有難うございます。マイン・ヒューラー」
西方電撃戦以後、最近になって目立ってきたSSアドルフ私設親衛隊だが、彼等が参加すると聞いて何人かの提督が面白くなさそうに鼻を鳴らした。
アドルフの熱狂的なファンがレーティアの為、ドクツ軍に協力する組織だがその実態は素人集団の集まりで軍組織としてそれはどうかというのが良識ある軍人達の間では共通の思いとなっている。
無論アドルフもその点は注意しているが、ヒムラーによって急速に軍組織化され唯のアイドルオタの集団から兵力と呼べるまでに鍛え上げられたSSの力は無視できないものもある。
もしSSの隊長がロンメルの旧友ヒムラーではなかったとすれば、アドルフはSSを警戒していただろう。
「総統閣下、万が一ソビエトが不可侵協定を破ってきた場合如何いたします?」
「ソビエトとは秘密協定を結んでいるが過信はしていない。頻繁にエイリスの外交官がソビエト高官と接触しているとの情報も得ている。十中八九ソビエトの参戦工作だろうが今の時点でソビエトが先に裏切るメリットは無い。ソビエトもフィンランド王国を併合し終え今の所は満足している、エイリスに唯黙って使ってやられるような連中じゃないさ」
ソビエトはドクツが西方電撃戦を始める頃と前後し北欧連合王国の一つフィンランドに戦争を仕掛けていた。
フンランド軍の抵抗激しく、凡そ半年間も戦い続け度々ソビエト国内に逆侵攻されるという事もあったが、粛清の恐怖と最終的に物量差によってフィンランドはソビエトに吸収されてしまった。
「他に意見はあるか?無ければ各員作戦計画書に目を通し作戦に備えてくれ」
アドルフが立ち上がり会議室を出た後、続々と提督たちも会議室を後にした。
そうして二ヶ月の時が過ぎ...