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大帝国〜ドクツの韋駄天〜 第六話
作者:rahotu   2012/05/24(木) 23:37公開   ID:ihZ1hPx/q6Q

-統一宇宙暦940年-

続々とドクツ艦隊がワープゲートを潜り集結していた。

対するエイリスも女王セーラ・ブリテン自ら陣頭指揮に立ち、徹底抗戦の構えを見せる。

ドクツ総統アドルフが立案し直接指揮を取る「アシカゼーレヴェ作戦」と、抵抗するエイリス帝国との通称「バトル・オブ・ブリテン戦役」と呼ばれる長い長い戦いが始まろうとしていた。



-ドクツ第三帝国艦隊旗艦ビスマルク-

「アドルフ総統閣下。全艦集結完了いたしました」

就航したばかりの新鋭戦艦ビスマルクの艦橋でドクツ軍本陣の提督を務めるレーダー元帥が上座に座るアドルフに準備完了の旨を報告した。

「よし、これよりエイリス攻略作戦ゼーレーヴェを発動する。全艦最大戦速」

アドルフの指示のもと動き出したドクツ艦隊に合わせエイリス艦隊もドクツ艦隊との距離を急速に縮めていく。

事前の計画通りエイリス艦隊と接敵前にドクツ艦隊が大きく横に広がり、エイリス艦隊も釣られて大きく鶴翼の陣を敷いた。

そのまま互いに大きく艦隊を広げた状態で接触し同時に攻撃を開始した。

ドクツ艦隊の陣形は大きく分けて中翼を務めるマンシュタイン元帥、左翼を率いるロンメル元帥、右翼には上級大将に昇進したグデーリアンがおり、レーティアの本陣はレーダー元帥と共に各戦線を督戦と予備兵力を担っていた。

更にアドルフには其々の元帥が担当する戦線を艦隊ごと或いは戦域ごとに区分けし三つの塊がより有機的に動けるよう細かい指示も行い、ドクツ軍の動きは正に一個の生物そのものであった。

対するエイリスは中央に親兵隊艦隊提督ジョン・ロレンスとセーラ・ブリテンの近衛艦隊。

右翼にはアンドリュー・カニンガム提督、左翼はラムゼイ提督が展開しドクツ軍と激しい砲火を交えた。

数で勝るエイリス艦隊は鶴翼に広げた陣の両端からドクツ艦隊を包み込む包囲しようと目論み、数で劣るドクツはそれを艦隊の質とアドルフの戦術戦略能力で補っていた。

アドルフの指揮を支えるマンシュタイン、ロンメル元帥も卓越した戦術でエイリス軍を圧倒し、特にロンメル元帥は早々にカニンガム艦隊に対し優位を作り上げていた。

「敵は陣形を横に伸ばしすぎて一つ一つの戦線の層は薄い。突破し撹乱してやれ」

電撃巡洋艦三号、四号で編成された戦隊を同時に切り込ませカニンガム艦隊の動きを拘束。

敵に自由な行動を起こさせず機動力で翻弄していく。

カニンガム提督も決して無能ではないが、しかし新戦術を駆使するロンメルとアドルフが作り上げた新型戦艦の性能に上手く対応できていなかった。

「くそっ。これがドクツ軍の力か、ポッポーランド、オフランスで見せた実力は本物であったか!!」

一方マンシュタインの攻勢に晒されている中翼は厳しい状況が続いている。

「第十六巡洋艦隊後退します。第八駆逐戦隊も撤退の許可を求めています」

「余裕のある艦隊から戦力を抽出。戦線の穴を埋めます。しかし、噂には聞いていたが流石はマンシュタイン元帥。見事な艦隊行動を取られる」

中翼は両軍共に最精鋭がぶつかり、マンシュタインが状況を優位に進めていた。

ロレンスもそれに対抗しているが、マンシュタインの高い指揮能力とアドルフとの連携に流石に苦戦を強いられていた。

エイリスにとって左翼、中翼では厳しい戦いで始まる一方、右翼艦隊ではエイリス軍が善戦していた。

ラムゼイ提督は戦場となったドーヴァー宙域を知り尽くしておりそれが功を奏し、グデーリアンを相手に優位に進めていた。

「ラムゼイ提督。敵はなれない戦場で動きは鈍いようです。ここは攻撃に打って出て敵を早期に撃滅しましょう」

「そうだな、左翼に敵の側面から後方に回り込むよう指示し、敵を前後で挟撃する」

ラムゼイ艦隊は動きの鈍いグデーリアン艦隊に一気に畳み掛けるべく包囲攻撃を仕掛けた。

対するグデーリアンも地の利ある相手に二日間にわたり強固に抵抗し敵の突破を防ぎつつも何とか対抗していた。

「グデーリアン提督。敵右翼艦隊に動きあり。こちらの側面に回り込もうとしています」

「数の差を生かした包囲殲滅か。旋回する敵右翼艦隊の先頭に攻撃を集中。奴等の頭を押さえるんだ」

「少しお持ち下さい閣下」

グデーリアンが敵の意図を挫こうと指示を下そうとしたとき、隣からそれを制止する声が出る。

「参謀長か。何故止める?」

グデーリアンの隣に立つ男は凡そ軍人とは思えない身形をしたレオン・ニーダス大佐は士官学校を首席で卒業するという大変な経歴を持つが、本人の身形への無頓着さと日頃の奇行から余り周囲からは評価されているとは言えない人物であった。

「敵は我が方より倍する戦力を持っています。これに正面から当たるのは得策ではありません。寧ろここは敵の策に嵌った振りをして敵を誘い込むべきです」

ニーダス大佐は戦術モニターを操作し作戦を説明する。

「敵の右翼が動くと同時に敢てこちらの左翼を下げ斜線陣を敷き敵の攻勢を受け流します。敵が攻勢の限界に達したところで敵右翼の旋回点を横撃し敵を分断。敵を分断し次第右翼を全力で叩きその勢いでもって敵を逆に包囲します」

「成程敢てこちらの脇を晒すことで敵を誘い戦線を伸びきらせようというのか。その作戦の具体的な期間とはどの位になる?」

「恐らく敵は早期に決着を付けようとするはずです。敵は劣勢な中翼と左翼を放っては置けませんからね。恐らく三日から四日の内に敵は攻勢限界点を迎えるはずです」

ぼさぼさの髪をポリポリと掻きながらニーダス大佐は自身ありげな笑みを浮かべる。

「宜しいでは参謀委細は...君に任せればいいな」

「有難うございます閣下」

こうしてニーダス大佐立案のもと、ドクツ軍は三日間かけて敵右翼の旋回を阻止しつつも後退しその間にロンメルもかくやとばかりの戦力の隠蔽を敵左翼の攻撃発起点への集結を完了させ遂に四日早朝二個機甲師団(快速と打撃力とを旨とする艦隊。主に巡洋艦や高速戦艦等で攻勢される)でもって敵左翼翼の右側面を突かせ、敵中翼と左翼とを分断する事に成功する。

ラムゼイ提督率いる左翼艦隊は突然の敵襲に大混乱に陥り、特に前線で戦う部隊は敵に挟撃されると言う精神的打撃を受け進撃が頓挫。

逆に押し返される結果となった。

「よしこの機を逃すな。右翼艦隊は一転攻勢に打って出ろ」

グデーリアンは機を逃さず攻勢に出て敵左翼の殲滅を図ると共に、右翼及び中翼に対しても攻勢を強めた。

「不味いこのままでは左翼が全滅する。直に予備兵力を出して救出に向かわせろ」

「ラムゼイ提督、敵の前面攻勢です。艦隊の正面が崩されつつあります」

「左翼が包囲されたことで艦隊全体に動揺が走ったか。だが、ここで我等が敗れるわけにはいかない。全艦奮闘せよ」

ラムゼイ提督の檄によって混乱は早期に収まりつつあり、逆に右翼を分断した二個機甲師団を包囲しようとした。

「グデーリアン閣下」

「うむ、ニーダス大佐。頃合だな。敵中翼と右翼との基点に攻撃を一点集中」

グデーリアンは敵が左翼を分断した艦隊を逆包囲殲滅を図ろう企図した頃合を見計らい、今度は右翼との中間点に艦隊を突出させ分断するかのような動きを見せた。

「不味い、このままでは右翼が分断される。左翼の敵を包囲するのを一時中断。右翼艦隊の援軍に向かわせろ」

この間二個機甲師団はまんまと包囲網を潜り抜け、エイリス軍はその後姿を唯指を咥えて見ている事しかできなかった。

ニーダスは劣勢であったグデーリアンの艦隊を救うのみならず、名提督ラムゼイを手玉に取るという活躍を見せ彼に対する周囲の評価を変えていく。

この頃会戦から一週間が経過し状況はドクツ優位のまま推移していた。

実際この時アドルフ総統の計算ではエイリス軍は後一週間した持ちこたえられず、その後は反撃する力も無くロンドンまで後退するはずだと考えていたと言う。

会戦十日目。

この日セーラ・ブリテン女王が乗るエイリス海軍旗艦クイーンエリザベスが前線に姿を見せた。

最早戦力に余裕がなくなりつつあったエイリス軍だが、女王が前線に姿を見せたことで士気が回復しこの日の戦闘はドクツ軍相手に一歩も引かなかったが、アドルフはそれがエイリスの最後の抵抗だと見ぬいていた。

そして運命の十二日目。

「今回でエイリスの運命を決める。各員一層奮励努力せよ」

アドルフの檄で士気が上がったドクツ艦隊は猛然とエイリス艦隊と砲火を撃ち付けあう。

既にエイリス軍は補給、体力、兵力共に磨り減り全軍で二十パーセントもの損失を出していた。

逆に余力を温存したままで最終決戦に臨む事ができたドクツは今日を最後と決めそれこそ獅子奮迅の如くエイリスを攻め立てる。

十二日目の会戦が始まり八時間が経過すると既に状況は決したかに思えた。

既にエイリス軍に無事な艦隊は存在せず、全艦ボロボロの状況で特に嘗て白亜の大理石の彫刻と形容されたクイーンエリザベス号は味方艦を庇い船体をレーザー痕で黒く染め、セーラ女王自身も重傷を負いながらの指揮を取っていた。

このままドクツがエイリスを倒してしまうかと思われたその時、イタズラな運命の神は思わぬ知らせをドクツ総統アドルフに送る。

「アドルフ閣下、イタリン総統ムッチリーニ閣下より通信が入っております」

「うん?まだ戦勝祝いには早いぞ。まあいい、こっちに回してくれ」

「やっほー。アドルフちゃんお久しぶり〜」

「ムッチリーニ、今私は忙しいんだ。用が無いならこのまま切らせてもらうぞ」

「ごめんごめん。実は今日はアドルフちゃんにお願いがあるんですよ」

「?一体何が...」

「実は...占領していたアフリカの植民地をエイリスに奪還されちゃって今ムッチリーニ大ピーンチなの」

「はあ!?」

この後情報を収集しイタリンの現状が本当だと知ったアドルフは内心焦りを感じた。

迂闊にもエイリス戦を余りに優先しすぎた結果、同盟国の動向を掴み損ねると言う失態と予想よりもはるかに弱いイタリン軍など彼女の予想だにしなかった出来事が度重なり、ここにアドルフの計画は完全に破綻してしまった。

「と、兎に角直に援軍を送るからあともう少しだけ持ちこたえてくれ」

「分かったわ。でも長くは持ちそうに無いから早く来てくれることを待ってるわ」

ムッチリーニとの通信を終えるとアドルフは彼女の天才的頭脳をフル回転させて現状の解決方法を導き出そうとして。

「....ロンメル元帥に通信を繋いでくれ」

暫くして通信モニターにロンメルの顔が映し出され、アドルフはこう命じなければならなかった。

「ロンメル、この通信と一緒に情報も送ったが改めて説明する。同盟国であるイタリンがエイリスに逆侵攻され今危機的状況にある。今私の手元の中でお前が一番機動力がある。すまないが直にでもイタリンに向かってくれ」

「ヤボール。閣下の命令とあらば致し方ありません。直に準備に取り掛かります」

「ああ、よろしく頼む」

通信が切れる間際、アドルフの頼むと言う時の表情は常の彼女らしくない自信なさげな顔であった。






-エイリス親兵艦隊旗艦トラファルガー-

「ロレンス提督。敵ロンメル艦隊が後退これは...戦線を離れていきます」

「罠、ではありませんね。恐らくドクツで不測の事態が起きたのでしょう」

「ロレンス」

「陛下!?そのようなお体で戦場に立たれるなど」

「私はエイリスの女王なのです。王たる私が戦わずして皆が着いて来るでしょうか」

病室からそのまま出てきたのであろう。

包帯は血に濡れ、痛々しいまでの姿をしているが、しかし彼女のその強い瞳の輝きは失せることを知らない。

そこにアフリカに派遣されたモントゴメリーから長距離通信が届く。

「陛下、モントゴメリーでございます」

「モントゴメリー、よくぞ」

「おおモントゴメリー卿。貴方から連絡が来たということは」

「陛下、早速アフリカにて失われた植民地を奪還いたしました。並びに今現在イタリン本土攻略の準備を進めております。いま少しお待ちいただければ状況は好転するでしょう」

「モントゴメリー卿。たった今ドクツ軍からロンメル艦隊が戦域を離脱した。恐らく同盟国のイタリン救援に向かったのでしょう。ご注意を」

「忠告傷み入る。陛下、ご安心召され。きっとこのモントゴメリー、アフリカでもエイリスの威光を見事知らしめて見せます」

「モントゴメリー卿、貴公の武運を願ってやまないぞ」

モントゴメリーとの通信が切れ、ロレンスの提案で全艦隊にモントゴメリーのアフリカでの勝利が伝えられもう間も無くイタリンが陥落するであろうともロレンスが全放送を通して言った。

これにより絶望のどん底であったエイリス艦隊は息を吹き返し、ロレンスの宝剣エクスカリバーが決まったことで状況は決した。



-ドクツ軍旗艦ビスマルク-

「アドルフ閣下....」

「閣下...」

「閣下次の指示は...」

旗艦には次々と味方からの指示を求める通信が届き、それらを押し留める為オペレーターたちが何とか対応していたが、肝心のアドルフは唇をかみ締めそして決意する。

「全軍に撤退を通達。再度命令する全軍戦闘を即座に中止し撤退せよ」

運命の十二日を境にドクツの戦略的優位が揺らいだことでゼーレヴェ作戦は中止され、十四日目のドクツのエイリス本土からの完全撤退を持って戦いは終わった。

この戦いの後、暫くアドルフの政務は滞り代理を立てなければいけなくなるほどだったが、天才が始めて経験する挫折とその心中は押して図るべきものがある。











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■作者からのメッセージ
ゼーレヴェ作戦が失敗に終わりました。本当はドクツの空母建造秘話とか航空戦艦とか高速戦艦のお話もやれたら良かったのですが...

次か次くらいでソビエト戦に入りたいと思います。
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