リョウ達スーパーGUTSマーズを含むTPCの隊員達はスクリーンに映されている多くのスフィアを見て唖然とした表情を浮かべている。
15年前の戦いでスフィアの親玉であるグランスフィアを撃破して以来の出現情報が一切無かった為、多くの人々は"スフィアは絶滅した"と確信していた。だがTPC総監であるヒビキ、リョウ達スーパーGUTSをはじめとするグランスフィアとの最終決戦に参加した一部の人間はまだ残党が存在している可能性があるとして警戒を続けており、各TPC基地には万が一に備えての戦力も配備されている。だがその万が一の事態に備えていたとはいえ、過去に例のない規模に驚くしかなかった。
「約40体のスフィアを確認!!当基地まであと10分とありません!!」
端末を操作していたオペレーターからの言葉を聞き、その場にいた全員の表情に更なる緊張が走る。
過去のスフィア出現の際はせいぜい15体程度の戦力だったが、今回のスフィアの数はその倍以上。15年前の戦いで絶滅寸前まで追い詰められたのにこの数はあまりにも不自然過ぎた。
「ユミムラ隊長!!科学班のナカジマ主任から回線が入っています!!」
「回して!!」
リョウのその言葉にオペレーターは端末を操作し、目の前のスクリーンに少々太った図体の男性が映った。彼も15年前のグランスフィアとの最終決戦に臨んだ元スーパーGUTS隊員であり、現在はTPC科学班主任を務めている〔ナカジマ・ツトム〕である。
《ユミムラ隊長、監視衛星から送られてきたデータから調査した結果、あのスフィアは過去に出現したスフィアとは異なっています。》
「それはどういうこと?」
リョウの問いにナカジマは少し動揺を露にしつつも報告していく。
《あのスフィア達から感知された生命エネルギーはこれまでのデータと比較すると非常に強い物になっています。恐らくこの15年の潜伏期間に力を蓄えて繁殖率を増やしてきたのだと思われます。我々人類への復讐の為に。》
ナカジマの推測が正しければスフィアはこの15年間、人類の目が届かない場所でひっそりと準備をしていたという事になる。それほどまでに人類に対する強い憎しみを抱いているのかと思うと背筋が悪寒が走るような感覚がリョウを襲った。
リョウはナカジマとの通信を終了させた後、隊員達に向き直る。
「こんな記念日に初出撃になっちゃうけど、これだけは言わせて。全員、必ず生きて帰るのよ!!
スーパーGUTSマーズ、出動ッ!!!」
「「「「ラジャーッ!!!!」」」」
副隊長のカリヤ、隊員のフドウ、イカリ、レイコは迎撃の為に格納庫へ向かおうと走り出す。しかし、彼等が走り出して数mのところでリョウが初めておかしな点に気づく。
「ちょっと待って。タイガは!?」
その言葉に4人は周囲をきょろきょろと見るが、近くにはおろか、この司令室にすらタイガ・ノゾムの姿は見えなかった。司令室に入った際は一緒にいたはずだというのに。
そんな彼らの疑問に答えるように、1人の女性オペレーターが声をあげた。
「ユミムラ隊長!!3番ハンガーからガッツイーグルα号、緊急発進します!!パイロットは・・・タイガ・ノゾム隊員です!!」
その声を聞いた面々は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情でオペレーターへと目を向けると、司令室の通信スピーカーからの声は響いた。声の主は言うまでもなかった。
《こちらタイガ、α号!!行くぜッ!!!》
その言葉と同時に前方のスクリーンには3番ドックから出撃するα号の姿が映し出された。
「あいつ・・・」
「先を越されちゃったね。」
「フッ・・・やれやれ」
「俺達も行くぞ!!」
4人はそれぞれの反応を示しつつも遅れを取り戻すべく再び格納庫へと走り出していった。
出撃したα号のコックピットに、リョウからの通信が響き渡る。
《タイガ、実戦では撃墜数なんて二の次よ。最も大事な事は必ず生還する事。いいわね?》
「ラジャーッス隊長!!ちゃんと生きて帰りますよ!!」
その言葉と同時にタイガは視認しているスフィアの軍勢に向けてフルスロットルで向かっていく。最初に1体のスフィアが自機の前に躍り出るなり緑色の光弾を放つが、α号はそれを難なく回避。機首のコックピットの左右に装備されたビーム砲を放つと、スフィアはそれを回避できずに被弾。爆炎に包まれた。
味方が撃墜されたのを皮切りにスフィアの群れは蜘蛛の子の様に散開し始め、タイガは渓谷に向かって降下していく2体のスフィアに狙いを定めた。
「逃がすかよッ!!」
2体のスフィアを追って渓谷に入ったα号はすぐに2体の後ろにつき、ロックオンを確認したタイガは操縦桿の発射ボタンを押してビーム砲を浴びせる。
だがそれと同時にレーダーが後方から接近する2体のスフィアを感知した。
「フンッ、やっぱりさっきの2体は囮か。俺を渓谷に誘い出す為のな!!」
渓谷のように曲がりくねった細いルートでは航空機の行動は制限される。曲がりくねったルートを飛ぶ為にも下手にスピードを上げれない。上昇すれば渓谷から離脱出来るが、敵機が後方にピッタリくっついた状態では狙い撃ちにされる可能性が大であり、追われる側からすればかなり不利な状況に追い込まれてしまう。
タイガはスフィアがそれを狙っていた事は知っていた。その誘いに乗らないという選択肢も存在したというのに何故わざわざ不利な状況になる事を自分で選んだか。
それはタイガ自身、その状況を潜り抜けれるという強い自身を持っていたからである。
後方からの攻撃を機体を傾けたりバレルロールなどをする事でヒラリヒラリとかわしていきながら渓谷を進んでいくα号。
『もうすぐか…』
そしてタイガはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら後方の敵が自機にくっついている事を確認する。
「・・・今だッ!!!」
目の前に切り開いていた渓谷が終わりを告げるように立ちふさがる火星の地層を視認すると同時にα号は機体のエアブレーキを展開させると同時に機首を90度上げて急減速をかけ、ホバリング状態を保つ。
2体のスフィアにα号同様の技が出来るはずもないため、減速する暇もなく火星の地層に激突。消滅してしまった。
α号はそれを見届けると再び上昇。基地に向かっているスフィアに向かっていく。
「敵機3機撃墜!!このまま行くぜ!!」
15年前のグランスフィア撃破以降、数は大きく減少したものの、いまだに異星人からの侵略行為と怪獣災害は度々続いており、TPCは防衛戦力向上を図り、現役の防衛兵器をベースに新技術を導入する事による新型機開発を行っていた。
タイガの乗っているアルファベットのAを模した三角形の高速型戦闘機、正式名称〔ガッツイーグルα号U〕もそれによって誕生した機体である。15年前に活躍していた優秀な戦闘機〔ガッツイーグルα号〕をベースとし、様々な技術を投入された機体で、外見はあまり変わってはいないものの性能はそれなりに上がっており、タイガもルーキーでありながらその高性能さを十分に発揮している。
別のスフィアを正面に捕らえると、再びビーム砲を浴びせようとトリガーに置いた指へ力を込めようとした時、狙いを定めていたターゲットは別方向から放たれたビームによって撃破されていた。
へ?という間の抜けた声がコックピットに響いた直後に通信が入る。
《なかなかやるじゃないか。だが先に出るだけが能じゃないぜ?》
タイガのα号に寄り添うように現れたのは同じカラーリングの戦闘機、〔ガッツイーグルαスペリオル〕。タイガは機体を見るや否やパイロットの名を口にした。
「フドウさん!?」
フドウはキャノピー越しにタイガへサムズアップを作ると、再び機体を前に出して前翼の左右に装備されたビーム砲でスフィア達を火星の大地へ叩き落していく。
αスペリオルは火力よりも命中精度を高めたα号の別タイプの強化戦闘機であるがその他の性能が向上した事が裏目に出て、並のパイロットでは性能を十分に発揮するのが難しい機体(現在性能とコストをダウンさせた養成学校用の訓練機タイプの開発と量産が発案されている)なのだが、その機体を駆って見事なフライトをしている事からフドウのパイロットとしての優秀さが見て取れる。
さらにフドウとは別の場所から放たれていく青と黄色のビームが次々とスフィアを捉えていき爆風に包んでいく。
《タイガ、いい腕をしているのは認めるが隊で最も求められるのは連携だ。あまり突っ走り過ぎるなよ。》
《お前だけにいいカッコはさせねぇぜ?》
《そうそう。私たちって負けないわよ!!》
〔β号〕に搭乗している副隊長のカリヤ、〔γ号〕の同期であるイカリ、レイコがそれぞれ通信でそう告げると、タイガはフッと笑みを浮かべながら返答していく。
「スイマセン副隊長。あとイカリ、レイコ、お前らには負けねぇぜ?」
いかにも彼らしい言葉でそう返すと同時にカリヤから各機への指示が下る。
『すでに他の部隊も迎撃の為出撃しているが敵はまだ多数存在している。互いにカバーしていく事を忘れるな!!』
《《《《ラジャー(ッス)!!》》》》
TPC火星方面隊所属のスーパーGUTS、通称〔スーパーGUTSマーズ〕の4機の戦闘機の活躍で次々と撃墜していく中、そんな彼らに続くように基地からは一般部隊の戦闘機、〔ガッツウィング・クリムゾンドラグーン〕、〔ガッツウィング・ブルーハリケーン〕が離陸していく。
《レッドチーム出るッ!!彼等に遅れをとるな!!》
《サイクロン小隊出撃するッ!!サイクロン1より各機へ。スーパーGUTSだけにいいカッコさせるなよ!!俺達の実力を見せてやれ!!》
TPC火星基地の戦闘機部隊も彼らには負けておらず、40数体いたスフィアは確実にその数を減少させていた。
「戦況は?」
「ハッ!!被弾した機体もありますが、いまだ撃墜、または離脱された機体は1機もありませんが、スフィアの数は出現当初の半数近くまで減少しています。」
オペレーターのその言葉に一安心するリョウだったが戦場ではわずかな油断が命取りになる事を体は忘れてはおらず、表情はまだ引き締まったままだ。
スクリーンに映された戦闘機部隊の活躍を見つめていく中、彼女は仲間達のスキルの高さに驚愕していた。一般部隊にカリヤ、フドウの実力は言うまでもないが、驚愕したのは今回が初の実戦となる3人の腕だ。特にタイガは無茶なフライトを自分のテクニックで難なくこなしつつ敵を圧倒している。その戦い方は"彼"を彷彿させるものであり、それは前線で共に戦っているカリヤ、そしてリョウと同じくスクリーンで戦況を見守っているナカジマも同様であった。
「あの戦い方・・・まるで・・・」
リョウがそうつぶやくと同時に、オペレーターが悲鳴にも近い声をあげた。
「数体のスフィアが火星表面に激突!!生命エネルギー、増大しています!!!」
「あれは・・・!!」
撃墜したわけでもなく火星の大地に激しいキスをするかのように衝突したスフィアは、まるで液体のように溶け出して岩石や砂に張り付いていくと、それらは一体化して巨大生物と化した。
5本の目を持った3本足の蜘蛛のような姿をした怪獣を見て、カリヤはただ一言呟く。
「スフィア合成獣・・・!!」
スフィアは飛行能力や光弾、体当たりによる攻撃など様々な能力を備えているがそれ以上に恐れるべき能力があった。
それは他の生物、または物質と融合して怪獣化することであった。〔スフィア合成獣〕と名付けられたその怪獣の戦闘力はどれも高いものばかりであり、スフィアはこれらを用いて幾度も人類に牙を向いてきたのだ。
たった今誕生したスフィア合成獣 〔ダランビア〕は初めてスフィアが人類の前に姿を現したときに出現したものと同じタイプであるが、スフィアが現在までに力を蓄えてきた事を考えればその能力も上がっている事は間違いないだろう。
「レッド、サイクロン両小隊はスフィアを頼む!!ダランビアは俺達に任せてくれ!!」
《こちらレッド1、了解!!》
《サイクロン1、分かりました!!》
α、β、γ、そしてαスペリオルの4機はダランビアを新たな攻撃対象として捉えるがうかつに攻撃しても無駄な事を全員が知っている為、無駄な攻撃は出来なかった。
これまで出現したスフィア合成獣達の共通点は亜空間バリアと呼ばれる防御シールドを発生させる能力を備えており、通常のビームやミサイルによる攻撃は簡単に防がれてしまう。目の前にいるダランビアも当然例外でなく、恐らく以前出現した固体よりも強力な亜空間バリアを張り巡らせているに違いない。
カリヤはα号とγ号に通信を入れる。
「タイガ、イカリ、レイコ!!合体してトルネードサンダーを奴にぶつける!!合体シークエンスに入るぞ!!」
《ラジャーッス!!》
《《ラジャー!!!》》
ガッツイーグルのα、β、γはそれぞれ合体する事により、強力な大型戦闘機、〔ガッツイーグル〕へと姿を変えることが出来、合体した3機の戦闘機のエネルギーを直結させる事で発射できる光線砲 〔トルネードサンダー〕が最大の武器である。当然15年経った現在では当然威力もより強力なものになっている為、それならば亜空間バリアを破れるとコウダは判断したのだろう。
合体シークエンスに入ろうとβ号を操縦するカリヤの元へ、フドウから通信が入った。
《副隊長、俺がダランビアに攻撃を仕掛けて気を逸らします。その隙に隊長達はトルネードサンダーをダランビアに!!》
「待て!!あまり無茶な事は−−−」
《このαスペリオルの機動性なら可能です!!やらせて下さい!!》
フドウの申しに少し考えるカリヤ。そして再びフドウへ返答した。
「わかった。だが絶対に無茶をするな。限界だと感じたらすぐに離れるんだぞ。」
《大丈夫です。アスカの奴に使いこなせた機体です。やってみせますよ。》
その言葉に互いは笑みを浮かべながら通信を切り、αスペリオルはダランビアへ一直線に向かってき、前翼の左右に装備されたビーム砲を1射、2射と放つがそれに気付いていたダランビアが展開した亜空間バリアによって防がれる。
ダランビアはお返しとばかりに口を開いて光線を放つがそれをあざ笑うかのようにαスペリオルは回避し、再びビームを叩き込む。
「そうだ・・・お前の相手は俺だッ!!」
亜空間バリアに防がれる事などお構いなしにビームを叩き込みながらダランビアの近くを横切って遠ざかっていき、小さくなっていくスペリオルを見て逃げたのかと思ったのか、ダランビアは視線を外す。
だがスペリオルは180度旋回して猛スピードで接近しながら機首を左右に開き、そこからは大きなビーム砲が姿を現した。
「どこを見ている!?スパークボンバー、発射ッ!!!」
放たれた強力なビーム砲、スパークボンバーは完全に油断して亜空間バリアを張っていなかったダランビアの背部に直撃し、悲鳴に似たような鳴き声をあげた。
それに激昂したダランビアは雨のごとくスペリオルに光線を浴びせていくが、フドウもそれを何とかかわしていく。
《待たせたなフドウ!!もう十分だ!!》
カリヤからの通信が入ると、ダランビアの背後にはガッツイーグルが機首を向けて待機しており、それを確認したフドウは自機とダランビアとの距離を取る。
「トルネードサンダー、発射ッ!!!」
カリヤがトリガーを引くと同時にダランビアがガッツイーグルに前を向けるがそれはあまりにも遅すぎた。
ガッツイーグルの機首に当たるα号の機首から放たれたトルネードサンダーは、大急ぎで展開された亜空間バリアを窓ガラスのように粉々に砕くと、勢いが止まることなくダランビアの体を貫いた。ダランビアのその巨体は大きな爆風に包まれて撃破された。
ダランビアが撃破される様子がスクリーンに映し出されていた司令室に職員が喜びの声をあげると同時に隊員達の歓喜の声もスピーカー越しに響きった。
《よしっ!!》
《ッシャアァッ!!》
《やったぁ!!》
《フッ。》
《フィニッシュッ!!》
そんな彼等に厳しい口調でリョウがインカム越しに怒鳴った。
「気を抜かないで!!まだスフィアは残ってるのよッ!!!」
《ラ、ラジャー!!各機再分離!!残りのスフィアを叩くぞ!!》
自身の言葉に隊員達のビクッとした様子がスピーカー越しで感じ取りながらオペレーターに声をかける。
「スフィアは後どれくらい残ってるの?」
「はい。スフィアは残り11体まで減少していますが、戦闘機部隊は撃墜された機体は1機も確認されていません。」
状況はこちらが優勢。自分達の完全勝利が少しずつ見えてきた事を感じつつも、リョウの精神は一切の油断を許さなかった。
指揮官としてどんな事態にも対応できるように最悪の事態を想定しなくてはならない。それが部下の命を守る上官としての義務である事を、隊長に昇格されたばかりの頃に総監から教えられ、リョウはその教えをしっかり胸に刻んでいた。
スフィアの増援、新たなスフィア合成獣、別の侵略者の出現。考えればキリがない。
だが次の瞬間に起こる事態を、リョウは含めるこの場の誰が想定できただろうか。
"それ"の出現を予告するかのようにオペレーターが叫んだ。
「戦闘空域上空に巨大なエネルギー反応確認!!増大しつつあります!!これは・・・ワープアウト反応に酷似しています!!」
ワープ。異星人が用いる超光速航法であり、自分達TPCの航空機などにもそれが可能なネオマキシマ航法を使用しているが、ワープアウトに"酷似した"とはどういうことなのだろうか。
「ワープアウト反応に酷似ってどういうこと?ワープアウトじゃないの?」
「わかりません。エネルギーの波長などはワープアウトに似ているんですが・・・過去の例とは桁違いのエネルギーですし、その他の点を比較しても似ていますが大きく異なっています!!」
似て非なるもの。オペレーターが困惑した様子の報告はその場に人達の思考を一瞬ではあるが大きく混乱させた。そして別のオペレーターが叫ぶ。
「エネルギーさらに増大!!現れます!!」
その言葉に全員がスクリーンへ目を向ける。
何が現れるのかという緊張の中、巨大な"それ"は姿を現した。
「なんだこりゃ・・・・?」
タイガ・ノゾムは先程まで追いかけていたスフィアなどそっちのけで突然現れた漆黒の巨大な円形宇宙船を見上げながらそう呟いた。
それはガッツイーグル各機に乗っている仲間達は勿論、レッド小隊とサイクロン小隊。そしてスフィアまでもが突然の来訪者に動きを止めていた。
「で・・・でけぇ・・・」
「何・・・これ・・・?」
γ号のイカリ、レイコ両ルーキー隊員も驚きを隠せないでいる。
フドウは驚きを少し露にしつつもカリヤに通信を入れる。
「副隊長・・・これは・・・」
「ああ・・・データベースにない宇宙船だ。だがスフィアの様子を見ても、連中の仲間という感じではなさそうだな。」
カリヤの言うとおり、β号のディスプレイには宇宙船をUNKNOWNと表示されており、それは他の機体や司令室も同様だろう。おまけに宇宙船が出現すると同時に逃げ回る、応戦するなどしていたスフィアがそれらをする事を忘れたかのように動きを止めたのだ。
スフィアには自分達人類や異星人のように表情が存在しない為、外見だけで感情を把握する事は難しいが、その様子は自分達で言う呆然とした様子に似ている。
そして次の瞬間、宇宙船からは円状の大きなビームが11体のスフィアに向けて照射されると、スフィアはまるで網にかかった魚のようにもがいているがそのビームから抜け出す事はできず、そのまま宇宙船へと吸い込まれていった。
「何ッ!?」
「スフィアを・・・捕えた?」
スフィアを吸い込んだ宇宙船はそのまま自分達を見下ろすように浮遊している。
全員が疑問の目で宇宙船を見つめていき、沈黙だけがその場に流れていくが、次の瞬間、その沈黙は衝撃とともに破られる事になる。
不意を突くかのように宇宙船から放たれた光線が戦闘機部隊に襲い掛かってきた。
「ッ!?全機散開!!!」
カリヤが叫ぶと同時に全員が操縦桿を倒して回避行動を取るが戦闘機部隊の中で宇宙船に最も近い場所にいたγ号が被弾してしまった。γ号は大きく揺れ、コックピット内では各機器が火花を散らした。
「グアアァッ!?」
「キャアアァッ!?」
「イカリッ!?レイコッ!?」
幸い操縦不能という致命的なダメージは避けられたが、それを見たタイガは仲間を傷つけられた怒りから宇宙船に機首を向けて突貫していく。
「てめえぇッ!!よくもっ!!」
「タイガ待てっ!!」
カリヤの声も届かないまま、α号は宇宙船に接近すると同時にビーム砲を叩き込んだ。
「くらえっ!!」
ビーム砲は宇宙船に命中し爆炎が上がるものの、巨大な宇宙船からすればその攻撃は小さなダメージでしかなかったようだ。
チッと苦虫をかんだような表情を浮かべるタイガの耳にリョウからの通信が入った。
《タイガッ!!すぐに宇宙船から離れなさいッ!!》
「えっ!?」
次の瞬間、タイガの体を今まで感じた事のない不思議な感覚が襲った。
突如出現し、攻撃を仕掛けてきた宇宙船に対する疑問が強まっていく中、再びオペレーターが叫んだ。
「宇宙船から再び強大なエネルギーを検地!!再びワープするものと思われます!!!」
その言葉にリョウはとっさにインカムを掴んで叫んだ。
「タイガッ!!すぐに宇宙船から離れなさいッ!!」
《えっ?》
タイガの声が聞こえた直後だろうか、宇宙船は青いエネルギーを放ちながら一瞬で姿を消してしまった。
「宇宙船、レーダーから完全にロスト!!ガッツイーグルα号も同様です!!」
オペレーターの悲鳴にも似た声を聞いたリョウは再びタイガ機に通信を試みる。
「タイガ?返事をしなさい!!タイガッ!!!」
《おいタイガッ!?こちらγ号、応答しろよッ!!》
《こちらスペリオル!!α号応答せよ!!α号応答せよっ!!》
《こちらカリヤ。タイガ、聞こえるか!?おいタイガ!!》
仲間達も必死にタイガを呼び掛けるが、その言葉に返事をするものは誰もおらず、スピーカーからは沈黙しか帰ってこなかった。
『何者だ・・・・』
スフィアの1体が周囲が真っ黒な空間の中で怒りをこめてそう呟くと、1人の宇宙人がその問いに小さな笑い声をあげながら答える。
『これは失礼。はじめましてだなスフィアの諸君。私は君達のいた世界とは異なる別の世界からきた者だ。〔バット星人〕と呼んでくれたまえ。』
機械に身を包んだような姿の宇宙人のホログラムがそこに現れ、スフィア達に語りかけてきた。
『手荒な真似をして大変申し訳ない。ただ、君達の力を借りたくてね。』
『我々の力だと?』
物腰の低い言葉遣いのバット星人に対する警戒を強めながらもスフィアはバット星人にそのように返す。
『私は平行世界の征服を考えている。現にいくつかの平行世界は私によって滅ぼされていてな。その為にも君達のその優秀な力が必要でね。もちろん平行世界を支配した暁には、君達も私と同様、宇宙の神となる。どうかね?悪い話ではなかろう?』
『申し訳ないが断る。我々はその前に、この世界の人類という下等で愚かな生命体に復讐しなければならないのだ。』
自分達の党首が愚かな人類とその救世主気取りの愚者によって滅ぼされて15年間。屈辱と怒りに堪えながら宇宙の片隅で潜伏して復讐の準備を整えてきた。そして復讐の時が来たとばかりに彼等は手始めそしていくつかの文明を滅ぼした後に再び人類に牙を向いたが無様にも返り討ちにあった。スフィア達の人類に対する怒りの炎はさらに強まっている。復讐以外に何かをする気がないのも無理もない。
バット星人は当然それを理解しており、別のホログラムを出現させた。
『なるほど。しかしこれを見ても君達は黙っていられるかね?』
『ッ!?これは!?』
スフィア達はホログラムで映し出された1人の銀色の巨人を見るや否や怒りの声を口々に発していく。
『忘れるものか・・・命などという馬鹿げた物を守る為に我等が同志、そして我等が党首を滅ぼした憎き光の巨人、ウルトラマンダイナ!!!奴はワームホールに飲み込まれはしたが、奴を我等が滅ぼさぬ限りこの命、死んでも死に切れん!!』
その言葉にスフィア達の間で怒号が飛び交い、その空間に怒りの雰囲気が満ちていく。それほどまでウルトラマンダイナに対する強い憎しみを抱いているという事なのだろう。
バット星人はその様子を小さくほくそ笑みながら再びスフィア達へ語りだす。
『彼はワームホールを通じて平行世界に飛ばされたが、いずれ我々の前に姿を現すだろう。彼を倒す為にも、彼との戦闘を経験している君達に是非協力を頼みたい。』
物腰柔らかな口調でそう告げるバット星人。その言葉にスフィア達の間に沈黙が流れ、やがてリーダーと思われる1体のスフィアがバット星人に向けて言い放つ。
『バット星人・・・と言ったな。承知した。そなたに力を貸そう。だがもし我等を陥れるような真似をすれば、そなたを殺す・・・!!』
スフィアのその言葉にバット星人は小さな笑い声をその場に響かせながら背を向けてホログラムを消滅させた。