作者:佐藤C
2012/05/01(火) 00:20公開
ID:CmMSlGZQwL.
三学期と修了式を終え、麻帆良学園は春休みに突入した。
…その昼過ぎの街並みに、困ったような呆れたような声が聞こえる。
「もぉーーっ、どこ行ったのよネギ坊主ーーっ」
「ネーギくーん」
明日菜が周囲を見渡して、木乃香がネギの名前を呼ぶ。
しかし何処にも彼の姿は見えなかった。
「はぁ、何よアイツったら。春休みだから学園を案内して欲しいとか言って気づいたらいないじゃない」
「この学園広いからなー。はぐれたんやない?」
「しょーがないなー」
するとそこに見知った顔が、二人の横を自転車で通り過ぎた。
「あ、待って朝倉! 丁度いいトコに来たわ、放送頼める?」
「お?」
「ん――…でもホンマええ天気やわ〜♪ ピクニックでもしたいなアスナー」
木乃香が腕を上げて背中を伸ばす。
本日の天気は快晴。お日様は雲に遮られることなく顔を出し、学園は暖かい陽気に満ちていた。
ネギが麻帆良に来た頃はコートとマフラーが手放せなかった二人も、今は学園の制服だけで済んでいる。
もう完全に、春がやって来たのかもしれない。
「あたしはいーよ、帰って寝たいし」
「アスナは朝バイトなんだっけ?大変だねぇ。で、ネギ先生どうやって呼ぶ?」
「"迷子"で」
「おっけー♪」
(ネギ君また拗ねそーやね……)
“――ピンポーン”
《迷子のお知らせです。
女子中等部英語科のネギ・スプリングフィールド君、保護者の方が展望台でお待ちです》
「えー、ネギ先生迷子なのー?」
「クスクス…♪」
「うわぁぁああん!!僕先生なのにぃいいーーーーーー!!!」
第5話 謀略縁談/麻帆良ハイク
――数分後、展望台。
「アスナさんひどいです!!」
「あははゴメンゴメン」
「一日じゃ学園全部なんてとても案内しきれへんからな〜。ほらこっち来てネギ君」
木乃香に言われた通り展望台の端に行き、柵に手をかけて――ネギは感嘆の声をあげた。
「うわぁ〜〜!!こ、これはスゴイや!!」
そこからは麻帆良学園全体が一望できた。
西洋風のデザインが目につく街並み、そこに点在する木々と周囲の森など豊かな緑。
学園を囲む丘と山々に、図書館島が浮かぶ大きな湖。
「右手の方に住宅街とウチらの住んどる寮があって…こっから丘の向こうまでが大学施設やら研究所やら、あっこが中等部と高等部の校舎やね。
商店街がヨーロッパっぽいのは学園都市つくる時に周りに合わせたらしいえ」
「私達の寮とか最近建てられた建物は思いっきり鉄筋コンクリだけどね。
あ、ネギ。湖の真ん中にあるのがこの前行った図書館島よ」
ここが学園都市―――街丸ごとが学園という、広大にして巨大な教育機関であることをネギは改めて実感した。
「す…すごい、とても回りきれないです」
「実際私達もこの中等部付近しか知らないもの。無理ないよ」
――〜♪♪(着メロ)
「あや?おじいちゃんからメールやわ。……アスナー、ウチら二人に用事やて」
「げー」
「あ、じゃあ行ってください、僕は一人で大丈夫ですから」
「…でもなー」
「ついさっきまで迷子だったヤツに言われてもね…」
「う゛」
「ネギ先生ーーーっ!」
「何してんのーー!?」
「ん?」
展望台に繋がる、石垣が並ぶ坂道の向こうから黄色い声が彼らに届く。
ピンク色の髪を揺らして、ネギより身長の低い、同じ顔をした少女二人が手を振って歩いてきた。
「あ、鳴滝さん達だ。こんにちはー」
「こんにちはー」
「ちあーーっ♪」
「……あんた達いい所に♪」
2−Aの双子姉妹、鳴滝風香(姉)と史伽(妹)を見て明日菜は笑った。
◇◇◇◇◇
喫茶店アルトリア。
学校帰りの学生が主要な客層であるこの店は今、春休みによって普段よりも閑散としている。
そのカウンター席には、……これ以上なく顔を顰めながら紅茶を呷る、一人の少女が座っていた。
――思い出されるのは、三学期の修了式―――…。
『フォフォフォ、皆にも一応紹介しておこう。
教育実習生のネギ・スプリングフィールド先生じゃが、新年度から正式に本校の英語科教員として採用することとなった。
ネギ先生には四月から2−A…つまり新3−Aを担任してもらう予定じゃ』
「――あぁもう何からツッこめばイイんだよッ!?」
ガチャンッ!!
「ぅおうっ!?」びくぅっ!!
店内でいきなり叫んだ少女に反応を示すのは、店長にして唯一の店員のみ。
対して他の客は全く動じない。
春休みになってもここに通うレベルの常連には、すっかり見慣れた光景だからだ。
「ど、どうした千雨ちゃん…今日は」
「ああっ!? だってよ店長、10歳のガキが担任教師なんていいのかよっ!!私ら生徒を何だと思ってんだ!?
てかそれ以前に労働基準法違反だろ誰か突っ込めよぉーーーーーーーーー!!」
「ま、まあコレでも食って落ち着け!なっ?」
「いただきます!!」
血走った眼でサービスのチーズケーキを受け取り、千雨は憤然としたままもっきゅもっきゅとそれを咀嚼し始める。
その様子を見て店長―――衛宮士郎はホッとして別の作業に移るのだった。
「衛宮さーん私達もサービス欲しいーー♪」
「一人だけはズルイよぉ〜」
「はいはいお嬢さん達、ならせめてドリンクだけでも注文してくれると嬉しいんだけどなー?
何も頼まないでタダで済ませようなんてお兄さん悲しいなーー?」
「「ちぇ――っ」」
――ヴヴヴヴ……。
ポケットの中でバイブレーションが鳴る。
士郎が手を拭いてケータイを取り出すと…それは知人の少女からの着信だった。
…ピッ。
「おう、どうした明日菜?」
・
・
・
――――バサァアッ!!
客『おおっ!?』
通話を切ると流れるような動作で黒エプロンを脱ぎ払い、士郎は店内の客に向けて声を発する。
「悪いみんな、ちょっと急用ができたからしばらく店を開ける!
会計は今だけ出血大サービスで無料だ取っとけコンチクショウ!!」
「やたーーーーっ!!」
「衛宮さん太っ腹ーー♪」
「いよっ店長!!」
「千雨ちゃん、悪いけど30分くらい店番頼めないか?」
「はあ!? え、い・いや私がですか!?」
「他に信用できる知り合いがいないんだ、頼むよ!
一応準備中の札をかけて行くけど、お客様が来たら店員不在って言っといてくれ!じゃあ任せた!!」
――カランコローンッ!!
――ダンッ!!
喫茶店アルトリア店長、衛宮士郎は店を一歩出た瞬間に跳躍する。
魔力で強化した脚で跳び、彼は建物の屋上・屋根から屋根へ飛び移って駆けだした。
(――こちら"剣士"。"鍛冶屋"、応答してください)
すると彼の頭の中で、念話通信が繋がった。
(…こちら"鍛冶屋"、事態はこちらも把握している。そちらの持っている情報をくれ)
(…こちら"剣士"、了解しました。どうやら学園ちょ…"妖怪"がまた性懲りもなく"姫"を連れだした模様。
体格のいい黒服サングラスの男達によって、着つけの女性と共に現在車で移送中です。
着替えなどの支度は車内で済ませ、お見合い会場へ直接向かう算段かと思われます。
会場はおそらく麻帆良の外……どうしますか?)
(……三分で麻帆良大橋に行く。)
(…了解しました"鍛冶屋"。
こちらは準備を開始し、式神で引き続き監視と尾行を継続します)
(了解した"剣士"……遅れるなよ)
(心得ています、では)
念話を終え、士郎は脚に更に魔力を込めて足場を蹴る。
「瞬動ッ!!」
赤い人影が、学園都市を疾駆した。
………なんだろうなこのノリ。
◇◇◇◇◇
「で、学園長先生の用事ってなに?」
……時は少し遡る。
鳴滝姉妹にネギのお守りを任せた明日菜と木乃香は今、女子中等部の廊下を歩いていた。
「それが"用事があるから来て"みたいなコトしか言われてないんや」
「前に学園長から呼び出された用事って
新任教師のお出迎えよね。……そう考えるといい予感がしないわ」
「あはは、せやなー。ネギ君が先生ってわかった時はホンマびっくりしたわー」
(…しかも魔法使いよ、魔法使い。びっくりどころじゃないってのホント)
そんなこんなで二人の前に、学園長室の扉が見えた。
――コンコン。ガチャッ
「おじいちゃん、入るえ」
「失礼しまーす」
「む? おお来たかの、このかにアスナちゃん。そのままこっちに来なさい」
二人は学園長・近右衛門が座る机の前に並んで立った。
「…ネギ君は最近どうじゃな?」
「え、あいつですか?」
「んー、せやなー。先生らしくなってきたし、こっちに大分慣れてきたんとちゃう?さっきまで二人で学園を案内してたんや」
「ふぉっふぉっふぉ。それは何よりじゃ、仲が良くてよろしい。ふむ…ならばやはり」
笑いながら顎鬚を梳き、近右衛門は僅かに俯いて思案する素振りを見せる。
「……なんですか?」
「む?いやいやこちらの話じゃ。では本題に入るかのう」
近右衛門は机の引出しに手を入れ、ごそごそと何かを探り始めた。
(な、何が出てくるのかしら―――ハッ!? まさか私の成績のことで何か……!?)
(安心しいや、だったらウチも呼ばれた理由にならへんやん。
ていうかアスナ…去年の成績そんなに悪かったん…?)
どさっ。
(………?)
音をたてて机の上に置かれたのは、山と積まれた真白い冊子の束だった。
「…あの、学園長先生?これってな…」
「―――おじいちゃん…まさか……!?」
木乃香が体をよろめかせ、ジリッ…と半歩後退る。
「え…ちょっとこのか?」
「ヌフフフ……フォーフォーフォーーーー!
その通りじゃこのか、これはお主のお見合い相手の写真じゃあッッ!!」
バーン!!という効果音が聞こえてきそうなノリで、近右衛門は机に積まれたお見合い写真の一つを手に取り、中身を開いてバッと木乃香に突きつける。
対する木乃香は、顔をげんなりさせていた。
「…最近はそんな話ぜんぜんなかったやん……」
「士郎に邪魔されとったからのぅ。士郎から話を聞いた婿殿まで手を回して、見合い相手を立てるのを邪魔してきおる。
じゃが…二人ともまだまだよ! ワシの本気を侮るでないわ!!」
普段は豊かな眉毛に隠れた近右衛門の眼がクワッ!と見開かれ、彼がパチンと指を鳴らす。
すると何処に隠れていたのか、黒服の男五人が学園長室に直立不動の姿勢で現れた。
この場にタカミチやしずながいたら溜め息を吐いたことだろう。「その本気をもっと仕事に回してください」と。
「アスナちゃんを呼んだのは、このかだけに用事があると悟らせぬための
ひっかけだったのじゃ、ふぉーふぉーふぉー!!
あ、アスナちゃんもう帰ってよいぞ」
あんまりな呼び出し理由に二人はがくっと肩を落とし、隠しもせず揃って深い溜め息を吐いた。
「「…………そこまでしなくても/せんでも」」
「早く曾孫の顔が見たいんじゃ!ああ…ワシはあと何年生きられるのかのぅ……」
「簡単には死にそうにないと思いますけど」
「奇遇やねアスナ、ウチもや」
とはいえ話の内容が内容なので、結局二人は大人しく近右衛門に従うことに。
黒服の男達に囲まれながら学園長室を去る木乃香は、変なことに巻き込んだことを申し訳なさそうに、去り際に明日菜に手を振った。
そして明日菜ただ一人が、学園長室前の廊下にぽつんと取り残された。
「……学園長もこのかがお見合い嫌がってることは知ってるでしょーに。
もうアレ、士郎さんとかこのかのお父さんが邪魔してくるからって意地になってない?」
呆れたようにぼやきながら、彼女は携帯電話を取り出した。
◇◇◇◇◇
麻帆良大橋に向けて走る、車体の長い黒塗りの高級車。
その屋根に、人型の白い紙が貼り付いている事には誰も気づいていない。
そしてその車内では……。
「ふぅ……」
髪型を整えた頭に髪飾りをつけ、着物姿になった木乃香がやり切れない溜め息を吐いた。
「申し訳ありませんお嬢様……」
「ううん、気にしとらんえー」
木乃香に着つけをした中年の女性と黒服達は、彼女の事情を知っている。
それでも彼らの雇い主は近右衛門であり、彼らは仕事を全うしているに過ぎないのだと、木乃香もきちんと理解していた。
「それにシロウが、後でおじいちゃんに仕返しするやろーしな♪」
「ふふ……確かに」
―――キィッ…。
「「??」」
何故か麻帆良大橋の中央で、彼らを乗せた車が停止した。
木乃香が窓から前を覗くと、橋の出口に「この先工事中」「通行止め」といった看板及びバリケードが築かれている。
「しばしお待ちを」と木乃香に言って、黒服二名が様子を見るため車を出た。
「やけに人通りが少ないと思ったらこういうことか」
「…しかしどうなってるんだ?工事なんてやっていないハズだぞ」
「わからん。しかしここを通れないとなると……森の方の旧道を行くしかないな」
「間に合うか?」
「間に合わせるしかないだろう。ダメなら先方に連絡しなければな」
黒服達はそう結論づけて、車に戻ろうとし――
―――ばたっ。×2
前触れもなく転倒した。
「どうした!?」
「何がッ……!!」
他二名の黒服が車のドアを開けて飛び出すと……彼らも同じ末路を辿る。
遂には車内の運転手も着つけの女性も、…そして木乃香もぱたりと体を倒してしまった。
―――ザッ……。
そんな彼らに忍び寄る足音。
その正体は深紅の長袖Tシャツを着た赤毛の青年と、竹刀袋を抱えた制服姿の女子中学生。
するとその来訪者に応えるように、車の屋根に貼り付いていた人型の紙が二人の前に飛来した。
――ぽんっ!
《ちびせつな、尾行任務完遂しました!(びしっ!)》
煙と音をたてて現れたのは、袴姿をした二頭身の刹那…に良く似た、刹那の分身である式神・ちびせつな。
ちなみに本人そのものと言える思考分割型ではなく、本人より無邪気でちょっとおバカな
独立思考型である。
ちびせつなは姿を現すと、笑顔で二人に敬礼した。
「ああ、お疲れ様ちびせつな。エライぞ」
《えへ♪エヘヘヘ〜♪》
士郎が彼女の小さい頭を撫でてやると、ちびせつなは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
なぜ士郎は彼女の頭を撫でたのか?それはもちろん可愛いからである!(力説
「………術そのものは数分で効果が切れる弱いものです。早くお嬢様を」
「おう」
刹那がそれを、ちょっとだけ羨ましそうに見つめていたことに、士郎は最後まで気づかなかった。
刹那(……還りなさい。
解)
ちび《え、ちょっと待ってくだ…》
――バシュンッ!
……さて、彼らの一連の行動を説明しよう。
とはいったものの、行動そのものは単純だ。
士郎が工事の看板を投影して運転手を騙し、車を停車させ、黒服達を刹那の陰陽術で眠らせたのだ。
この場を目撃されぬよう対策もとっている。
人払いの呪符を橋の出口と、麻帆良から橋へ向かう道の要所に貼り巡らせているので橋には誰も近づかない。
さらには認識阻害の結界を車の周囲にも張り、今の彼らの行動を遠目からでも確認できなくするという周到ぶり。
……この二人、色々と本気を出し過ぎである。
士郎は木乃香を車内から連れ出し、黒服達を車内に戻して看板の投影を破棄する。
これでこのままここを去れば、傍目には停車した車とそこで眠る人達が残るだけ。
「では、私は人払いを解除してから戻ります」
そう言って士郎に木乃香を任せ、背を向けようとした刹那だったが……。
「……うぅん………」
(………お嬢様……。)
士郎の腕で穏やかに眠る木乃香の寝顔を見て、刹那は嬉しそうに頬を緩ませた。
「……刹那、お前が部屋まで連れてってやれ」
「――はっ!? え、い、いえ、わわ私のような者がお嬢様のお身体を抱きかかえてあまつさえお部屋に忍び込むなどそそそのようなことをするわけには…っ!!」
「や、忍び込めなんて一言も言ってないんだが。明日菜がいるだろうから連れてくだけでいいんだよ、適当なこと言ってさ」
顔を真っ赤にして慌てる刹那だが、それでも木乃香の寝顔をチラ見することを忘れない。
(ああもうお前…そんなに大好きならさっさと素直になって仲直りしろよ……!!)
「う…うぅ〜ん…?」
「「!!」」
士郎が心の中で嘆息したとき、木乃香が呻いた。
「で! では士郎さんお嬢様をお願いしますそれでは御免っ!!」しゅばっ!!
「あっおいせつ――……行っちまった」
目にも止まらぬ速さで消えた刹那に嘆息して、士郎もそそくさとその場を離れるのだった。
◇◇◇◇◇
『いいですよーー、学園の案内ですね』
『それならボクら“散歩部”にお任せあれ!』
ネギは鳴滝姉妹に連れられて、中等部体育館や運動場、屋外コートに屋内プールで運動部の活動を見学した。
文化部は数が多過ぎて紹介しきれないとの事で諦め、ネギはおやつとして学園食堂棟で二人に流行りのスイーツを奢る。
――そして日もすっかり傾いた夕方。
風香と史伽、ネギの三人は世界樹に登り枝上に座って、沈む夕陽を眺めていた。
「この樹は学園が建てられる前からここにあったらしいです」
「みんな"世界樹"って呼んでるよ」
「あとこの樹には伝説があるんですよ。
片想いの人にここで告白すると想いが叶うっていう……」
「ロマンチックよね――」
「私たちもいつか…ね」
「うんっ」
オレンジに染まる眼下の街を見つめながら、二人は揃って頬を染めた。
(……へ――…いつもは子供っぽく見えても、やっぱり女の子なんだなあ……)
「あ…そーだ史伽!今ここで先生に告って、とりあえずちょっとだけ彼氏になってもらうってのはどう?」
「あ・いーなそれ、きっと世界樹が叶えてくれるですよ♪」
「え!?」
いったい何処からそんなアイデアが出てきたのか知らないが、彼女達は本気だった。
そしてそれは10歳のネギには少々刺激的な提案であり、彼は顔を真っ赤にして狼狽える。
「ちょちょっ、だめですよ!僕たち先生と生徒だし…ふざけないでくださいーっ!!」
「えーい逃げるな!史伽そっち掴んで!」
「うんっ!」
樹の枝の上ではあるものの、世界樹の巨大な枝はネギの逃げるスペースを充分に確保してくれている。
…しかし女は強かった。
風香と史伽はじたばたと抵抗するネギを両側から挟みこみ、獲物の腕と肩をガッチリとホールドして取り押さえる。
「あ、だめー!叶ったらどーするんですかーっ!!」
「えへへ」
「せーの……」
―――ちゅっ
「あ……」
「ネギ先生だーい好きっ!」
「またプリンとパフェ奢ってね♪」
「あう―――っ!!」
ネギは耳まで顔を真っ赤にしたまま、こうして麻帆良
散歩を終えたのだった。
◇◇◇◇◇
――トゥルルル……ガチャッ
『もっ、申し訳ありません学園長!!お、お嬢様が……!!』
「ああ、よいよい構わん。このかの居所は知っておる。迷惑をかけたのぅ」
目に見えて狼狽える部下達を落ち着かせ、心配ないとの旨を伝えて電話を切る。
そして彼は頭を抱えて悔しそうに呻き始めた。
「くっ…おのれ士郎め、次はこうはいかんぞ!」
「へえ、そりゃ諦めの悪いコトで」
「ほ?」
学園長室の応接ソファに、足を組んだ士郎が背もたれに腕を乗せて座っていた。
彼は気配遮断スキルを持っていないハズだが……。
「さぁ……少し二人でO・HA・NA・SHIしようか…」
……十数分後に学園長室の扉を叩いたしずなは、室内の惨状を見て「あらあら」と笑みを浮かべた。
「
罰が当たりましたね、学園長先生? くすくす…♪」
◇◇◇◇◇
――ガチャッ!
「もうっ…僕先生なのにみんな子供扱いしてーーっ!」
「あ・ネギお帰りー。どうだったあの二人の学園案内は?」
明日菜はニヤニヤしながら、帰って来たネギに訊く。
……さっきの発言で大体の事情は把握できたが。
「え………べ、別に…うまくいきましたよ…とっても」
「ふーーん?(ニヤニヤ…)
あ、木乃香が寝てるからあんまり音たてないでよ」
「え?」
言われて部屋の奥を見ると、二段ベッドの下段で木乃香がすやすやと眠っていた。
「このかさん、寝るの早くないですか?」
「長い昼寝をしてるのよ」
「???」
何の気なしに訊いたネギが訊くと、明日菜は苦笑してそんな答えを返す。
ネギは訳がわからない。
「っと、そーゆーワケだから今日の晩ゴハンは私が作ったげるわ。
簡単なのしか作れないから焼き魚とお味噌汁でガマンしなさい」
「ええっ!?」
その声で「ピタッ」と、エプロンを身につける明日菜の手が止まる。
彼女は顔だけ振り向いて…後ろのネギを半目で睨んだ。
「………なによその「ええっ!?」って」
「え!?あ、いえ、その……。…アスナさん、料理できたんですね」
―――カチン。
「私だって少しくらい料理できるわよ!
そんな大声出して驚かなくてもいいでしょーーー!?」
「わーーっ!?
ごごごゴメンなさいアスナさんっ!ていうかそんな大声出したらこのかさんが起き」
「……んうぅ……」
((―――ハッ……。))
二人は顔を見合せて停止した。
「んぅ……?」
寝惚け眼で意味のない声を出し、きょろきょろと辺りを見渡していたかと思うと、木乃香の視線はネギ達に固定される。
そのまま数秒じっと二人を見つめていたかと思えば…彼女は少しだけ残念そうにクスッと笑った。
「…なんや、夢かぁ〜」
顔を正面に戻して呟いたかと思うと、木乃香はそのままにへらっと顔をとろけさせた。
「えへへへ〜〜♪」
「………ちょっと大丈夫? どしたのこのか?」
「ん〜? えへへ、ちょっとなー♪ 小っちゃい頃の夢見てん、三人で一緒に遊んでるとこ。
……今度久しぶりにシロウんトコ遊びに行こうかな〜♪」
(……三人?)
「アスナ、ウチ夢の続き見てくるから今日はもう寝るわ。ほなな〜♪」
さぞかし良い夢を見たのだろうと内容を訊こうとした明日菜だが、それより先に木乃香は布団をかぶって横になる。
「……うん、オヤスミ。良い夢見なさい」
喜色満面の親友の寝顔を見つめ、明日菜はネギに静かにするよう言いつけてキッチンへ向かった。
「…むにゃ………せっちゃん……♪そんなにシロウを怒らんとき……」
<おまけ>
後日、兄妹デートに興じる士郎と木乃香の姿があった。
始めは手を繋ぐだけの二人だったが、今は木乃香が士郎の腕に笑顔で抱きつきながら歩いている。
木乃香
「えへへ〜♪あ、シロウ!次はあの服見たいわー」
「今度はあっちー♪」
「あ・シロウ、アイスクリームあるえ!一緒に食べへん?」
士郎
(…偶にはこんなのもイイなぁ)
刹那
(エ、エヴァンジェリンさんっ!そう何度も電話をかけてこないで下さい!)
エヴァ
(し、仕方ないだろう!くそ、士郎めわざわざ麻帆良の外に出かけおって…。
しかも血の繋がらない兄妹だろ、下手をすれば…!)
刹那
(な、何を言ってるんですかあなたはっ!?///)
士郎
(…そして後ろの気配は刹那だろうなぁ)
そんなこんなで、二人は楽しい一日を過ごしましたとさ。
<ツッコミと補足>
士郎&刹那
たかだかお見合いに対して過敏に、そして過激な対処をし過ぎ。それで結婚が決まるほど重要なお見合いじゃないんだから。
近右衛門
東西の確執とかそれに関する木乃香の立場とかそういうもっともな理由を持ってる割に、嫌がる孫娘に度重なる縁談を強いるという方法しか選ばなかったアナタには天罰が下るべきだと思うよ。
今作品では下ったけど。
木乃香
何だかんだで一番得をしたかもしれない。
明日菜
今回で一番マトモな娘。ネギをからかったり木乃香に多くを訊かなかったり、年上な大人の一面を見せたかも。
しずな先生
今回の笑顔は怖い。
ネギ・風香&史伽
喫茶店アルトリアに行ったけど臨時休業で諦めた。
ちびせつな
まさかの登場。可愛い。すごく可愛い。
千雨
胃に穴が空く日も近い。
>ふむ…ならばやはり
「仲が良いならネギはこのまま、明日菜と木乃香の寮部屋に居候のままでいっか♪」という企み。
おい近右衛門、それは祖父としても学園長としてもどうなんだ。
次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
第6話 桜通りの吸血鬼@
それでは次回!