「ふぁ〜〜〜わぅ。みんな早いな」
ハンガーに行くと、207のメンバーはキャエーデ以外みんなそろっていた。彼らの練習機が搬入される日だ。練習機といえど、換装すれば実戦も可能らしい。
「キャエーデさんが遅いんですよ〜」
珠瀬が笑いながら言う。
「別に戦術機がいきなり逃げ出すこともあるまいに」
「・・・逃げるかもよ?」
彩峰が口をはさむ。それを榊(通称:委員長)がじろりとにらんだ。
「なわけあるかよ」
「・・・どうかな?」
「まぁいいけどさ」
「・・・あ、逃げた」
「何!?」
「そのネタはさっきやっただろ」
白銀が横から割り込んできた。この様子から察するに、同じ会話を白銀ともしたのだろう。
「しょうがない奴らだな、貴様らは」
不意に後ろから声がする。神宮司教官だ。
「―――敬礼!」
榊の号令で敬礼をするのもなれたものだ。
「朝食は済ませたのか?まあ、集合までは好きに見ていてもかまわないが」
そういわれると少し空腹感がした。腹の虫が静かにしていてくれることを祈る。
「でも、今日はまだ乗れないんですよね」
「そうだ。
だが、機体整備もコックピットの個人調整も今日中に終わらせてくれるはずだ」
随分とまぁ急ピッチなことで。戦術機の搬入も、だいぶ予定を早めたらしい。具体的には1ヶ月くらい。
「さて、私はそろそろ行くが・・・各自程々にしておけよ。集合には遅れるな」
「―――敬礼」
「私達もいきましょうか」
榊がみんなに言った。確かにさっさと飯を食いたいのだが・・・
(どうも視線を感じるんだよな。それも殺気の篭った視線がね)
その時、ハンガーの奥の方に吹雪ではない、雄雄しい紫色の戦術機が搬入されてきた。
それを見た御剣の表情が曇る。表情の理由を問うてみたい気もするが、やめておいた。何でもこの207B分隊は「特別」な事情を持った人間が多いらしい。これもそれに関係するのだろう。
「先に行ってるぞ?」
みんなに告げてPXに向かう。すると視線の主も追いかけてきた。
それも明らかにこそこそと。
(気配は4つか。ちっちゃいのが3つ、大きいのが一つ。この大きいのがリーダーって所か?)
殺気は感じるが行動に出ようという気配はない。様子見といったところだろう。ならば直接はなしをしようじゃないか。
曲がり角で待ち伏せる。幼少の頃から気配を消すのは得意だ。鈍い奴だと目の前にいても気付かないなんてこともあるほどに。
予想通り4人組みが追いかけてきたが角でぶつかりかけ、驚いている様子だった。
「何か用か?」
背の高い、リーダーらしき女に声をかける。
すると警戒した目でにらまれた。
「お前は何者だ」
「キャエーデ=スペミンフィーメン。ただの訓練兵だが?」
「とぼける気ですか?」
ちんまいのの一人が挑発するかのようにいう。
「質問の意味を理解しかねるな。ついでにそんな質問がしたいだけならその殺気をどうにかしてくれないかね?」
「・・・っ!」
余計に殺気が増してしまった・・・
「冥夜様に近づいた目的はなんですか?」
「望んで近づいたわけじゃない。ただの偶然だ」
「とぼけるな!こんな時世に傭兵だと?冗談ならもっとマシなものを考えろ!」
いい加減イライラしてきた。空腹なのもあるがしつこい彼女らに嫌気がさしてきたのだ。
「もう一度チャンスをやる。返答次第では・・・・・・・」
「返答しだいでどうなる?」
完全に気配を断つ。一瞬消えたようにすら見えただろう。
「後ろだ、後ろ。」
気配を戻す。4人の表情に僅かに恐怖が陰る。それもそうだろう。もしこれでキャエーデが彼女達を本気で殺そうと思えば今の瞬間に4人とも死んでいたのだから。
「これで話はもういいだろう?別に俺は何か目的がある訳でもない。戦えるならそれでいい。」
そういってその場を後にした。背中に刺さる視線が痛かったが・・・
後で御剣に問いただされ、4人組に絡まれたことを話した。結局あの四人組は御剣の関係者だったこと、彼女達は帝国斯衛軍というものだということを知った。