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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第参話】共に進む若者達 疎外感
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 17:21公開   ID:lu2Cx/G1lWE
「キャエーデ=スペミンフィーメンだ。よろしく頼む」
 翌日昼前、キャエーデはまだ二十歳にも満たない少年少女達の前にいた。
207訓練小隊B分隊。先日、まず基本の歩兵技術のテストである総合戦闘技術演習をクリアした戦術機のパイロット−衛士−の卵らしい。
 この若者達の中に混じるというのも気恥ずかしいものがあるが兵士には年など関係ない。かく言う自分も10になる頃には普通に人を殺していた。生きるために。
 香月の創り出したシナリオはこうだ。『彼は香月の実験の為に呼ばれた人員である』と。副指令・・・実質この基地の全権力を握る彼女なら多少の無理も通るらしい。何より軍とは上の命令が全て、絶対だ。
上が白と言えば黒いものでも白なのだ。そこに下位の者の意思が入り込むことは許されない。
(こういう制度は俺は苦手だな・・・)
 ひそかにそんなことを考える彼だった。
「彼は年も違うがあるがここで訓練している間は貴様らと同じ訓練兵だ。戦術機に関しても文字通り素人だ。仲良くやれよ」
淡々と話す教官『神宮司まりも』軍曹ではあったが、内心、慌てていた。なにしろいきなり昨日訓練小隊に人員が追加されると言われたと思ったら、そいつは軍属の人間で、年も自分より上の人間だという。普通どおりにやれというのは少々酷だっただろうか。無二の親友である夕呼の無茶ぶりには今に始まったことではないが、いつまでも慣れることは無い。
「はっ!」
少女5人、少年一人、若き兵士達がきっちりとした返事で答える。
 こんな若者たちまで戦わねばならないなんて、前の世界もここも、異常なんだろう。
「午後は強化装備を実装して衛士適性を調べる。各自昼食は一時間前までに済ませ、ドレッシングルームに集合せよ。
以上だ―――解散」
「はい」
この後の予定を言い終わると早々に神宮司教官は立ち去った。
 207訓練小隊B分隊、彼を含め7人は軽く話しながらPXへ向かった。
少しぎこちない雰囲気だったのは言うまでもあるまい。




「むぅ・・・ぐぅ・・・」
うめき声があがる。昔縫った胃が裂けるんじゃないかとすら思う。
「キャエーデさん大丈夫ですか?」
白銀武が面白がってるような心配してるような微妙な顔で声をかけてきた。
「この状態が大丈夫に見えるならお前の目は間違いなく腐ってるぞ?」
それもそのはず、あの悪魔共(御剣 冥夜・榊 千鶴・珠瀬 壬姫・彩峰 慧・鎧衣 美琴)は伝統だとか言って彼の食事だけ京塚曹長(食堂のおばちゃん)に頼んで通常の三倍のご飯を持ってきたのだ。
 まぁこのことによって7人のぎこちない空気は払拭されたのだが。
「まぁいいや。さっさと強化服に着替えて行くか」
「そうですね」
 二人黙々と着替える。
 着替えてみると、腰から上の肌が丸見えだった。
「これだと色々と生々しいものが丸見えなんだが・・・」
 彼は幼き日から死と隣り合わせの環境で生きてきた。ゆえにその体は消えぬ傷がいくつもあるのだ。
「キャエーデさん!急いでください!時間がないです!」
白銀が急かして来る。まぁ傷のことは気にすることもないだろう。
「あぁ、わりぃな」


「ほう・・・これは・・・」
 自分で着ているときから多少の予想はしていたが、女性陣も自分と同じで体の大部分が薄い被膜で覆われており、肌の色が見えていた。
(素っ裸よりエロく感じるのはなんでだろうな?)
声に出したら殴られそうなことを考えつつ、今し方やってきた教官の方へと向き直る。
「これから適正検査を行うわけだが、呼ばれたものからシミュレーターへ乗り込め」
見れば、手前から奥にかけてシミュレーターの箇体がずらりと並んでいる。どうやらあれに乗って調べるようだ。
「榊1号機、御剣2号機。残りはその場で待機!」
教官の声で、千鶴と冥夜がすぐさま箇体に乗り込む。ほどなくして、教官の合図と共にシミュレーターが動き始める。つながれたシリンダーが伸縮し、箇体を揺らす。
「なるほどな。油圧シリンダーによる疑似的な機動の再現か。よっく考えたもんだなぁ」
いたって簡単で、確実な効果を上げることのできる装置だ。
 「ネクストなんて慣れだ!」といっていきなり自分をネクストに押し込んだセレン・ヘイズを思い出して人知れず身震いする。
 そうしているうちに一番手の二人の検査が終わったようだ。シミュレーターから出てくる2人、だが、その表情はまるで死人のようだ。
「榊さん、大丈夫?」
「う・・・・・大丈夫・・・・・よ」
「御剣・・・・・・平気?」
「うむ・・・・・・・心配するで・・・・・無いぞ」
ふらふらと歩く2人に皆が声を掛けるが、言葉と裏腹に体は正直だ。どうやら、加速度病、いわゆる『乗り物酔い』になったようだ。
(あれ?飯たらふく食った俺やばくない?)
後にわかったことだが、実践では搭乗者のデータが蓄積され、フィードバックされていくので揺れは感じなくなるそうだ。
「次!1号機白銀、2号機スペミンフィーメン!」
呼ばれてそそくさとシュミレーターに入る。ACよりは広々としたコックピットだ。
着座した瞬間、強化装備のリンクや教官の通信で目の前に文字や映像が映った。
「網膜投影か・・・すげぇな」
ひそかに感心していると教官の声が聞こえた。
「これから検査を開始する。気分が悪くなったら横の緊急停止ボタンを押せ。くれぐれもコクピット内にぶちまけるなよ?」
そう言われた後シミュレーターが動き出した。キャエーデは何とかぶちまけまいと表情を硬くしていた。


「二人とも平気だったんですか?」
検査の終わった後、PXにて207小隊の面々は夕食をとっていた。話題はもちろん先の適正検査だった。
「ああ」
「別にどうというわけでもなかったな」(満腹感と心地よい揺れに寝入ってしまったのはここだけの秘密だ)
珠瀬の言葉にしれっと答える白銀とキャエーデ。
「おかしいよね・・・・・人間として」
「お前が人を語るか?」
白銀がふざけているが、彩峰の言葉にチクリと心に刺さるものを感じるキャエーデ。
(ある意味人間じゃねぇよな。人類種の天敵、大虐殺者、食人鬼、いろいろ言われたもんだしな)
 「人類種の天敵」や「大虐殺者」はご存知の通り。
彼は幼少時代食べるものも家族もなく、10歳ごろから飢えを凌ぐ最後の手段として殺した人間の肉を喰らっていた過去がある。そのことから食人鬼と呼ぶ人間もいたのだ。そして17歳になる少し前ぐらいにセレン・ヘイズに拾われたのだ。
 一抹の寂しさを感じながら若者達の会話を聞いていた。こんな平和な時間が、彼らをいつまでも包んでいてくれますように。静かにそんなことを思っていた。


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読み直して思ったんだけど・・・キャエーデ優し過ぎwww
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