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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾話】国を思うが故 この力は何のために? 中編・甲
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 17:44公開   ID:aJK45xIaU56
―――ビー!ビー!ビー!―――
「何だ?」
 基地に警報が鳴り響く。
「キャエーデ!」
 御剣が叫ぶ。突然のことに驚いているようだ。
「悪いが俺は香月のところに行く。教官にはそう伝えてくれ」
「わかった!」
―――部隊は完全武装にて待機せよ―――繰り返す、防衛基準体制2発令―――
 白銀に聞いた未来にこんな事態は無かった。つまりこれはイレギュラーな事態。雇い主に指示を仰ぐため、彼は香月の元に急ぐ。



「首相官邸、帝国議事堂共に完全に制圧されました!」
「帝都城周辺の状況はどうなっている!報告急げ!!」
「相模湾沖に展開中の米軍第7艦隊依然動きはありません!」
「都内の浄水場と発電所が次々と占領されています!」
「主要な新聞社や放送局にも手が回っています
都内の通信施設は―――」
 中央作戦司令室は大騒ぎになっていた。次々と状況の知らせが飛び交う。
そんな様が正に今の状況の悪さを物語っていた。
その時、思わぬ人物に声をかけられた。白銀だ。
「キャエーデ?何でここに?」
「白銀!?まぁ気にスンナ。それより香月、この状況はなんだ?あとそっちの怪しい男は何者だ?」
隅の方で気配を殺している男を一瞥し、香月に問う。
「あらキャエーデ。大した事じゃないわ、帝都内部でちょっとクーデターが起きただけよ」
「君がキャエーデ=スペミンフィーメン君か。興味深い
私は帝国情報省外務2課 課長、鎧衣左近だ」
「鎧衣・・・美琴の血縁者か?」
 その時会話を遮る事態が起こった。
「副指令!クーデター部隊の声明が放送されるようです。つなぎますか?」
「そうして頂戴」
 司令室の一際大きなスクリーン・・・メインスクリーンに一人の男の顔が映し出される。
『親愛なる国民の皆様、私は帝国本土防衛軍帝都守備連帯所属・・・狭霧尚哉さぎりなおや大尉であります』
『皆様もよくご存知の通り…我が帝国は今や人類の存亡を懸けた侵略者との戦いの最前線となっており、殿下と国民の皆様を…ひいては人類社会を守護すべく前線にて我がともがらは日夜生命を賭して戦っています。
それが政府と我々軍人に課せられた崇高な責務であり全うすべき唯一無二の使命であるとも言えましょう」
『しかしながら政府及び帝国軍はその責務を十分に果たしてきたと言えるでしょうか!?』
『先日の天元山災害救助活動・・・報道では危険を顧みず救助に挺身ていしんする軍人…国民の生命財産の保護の優先 などという美辞麗句が並べられておりました』
『しかしかの作戦の実態は帰還住民の意思や権利を一切考慮せず、秘密裏に始末するという人道の欠片も無い行いだったのです!!』
『辛うじて風雨がしのげる程度の仮設住宅に押し込められ、食料の配給も足りず医薬品も十分にない…何の咎も無い国民があたかも罪人のごとく扱われる…これが難民収容所の実態なのです!』
『これは氷山の一角に過ぎない事例なのであります。
将軍殿下のご尊名において遂行された軍の作戦の多くが政府や軍にとっての効率や安定のみが優先され本来守るべき国民がないがしろにされています。
―――しかも国政をほしいままにする奸臣かんしんどもはその事実を殿下にお伝えしていないのです!!』
『…このままでは殿下の御心と国民は分断され遠からず日本は滅びてしまうと断言せざるを得ない。
超党派勉強会である「戦略研究会」に集った我々憂国の烈士は本日この国の道行きを正すために決起いたしました』
『我々は殿下や国民の皆様に仇成すものではありません。
我々が討つべきは日本を蝕む国賊、亡国の徒を滅すのみです…』
 そこで映像は終わった。一時の静寂。
「香月、俺はどうすればいい?模造品でもさっと行ってあの偽善者共を血祭りに上げるのはたやすいぞ?」
「あら?ちょっとお怒り?」
「俺は偽善振りかざす奴が嫌いなんでね。連中にとってはあれが正しい行動なのかもしれない。でも俺からの視点だと兵士としてあるまじきことだ」
 上に従わず、上に反逆する兵士など兵士ではない。だだの脅威。それだけだ。
「今すぐ行けとは言わないわ。あんたはA-01と行動して。コジマ汚染のことを考えるとPAの使用も極力控えて」
「わかった。俺はシィカリウスの整備をしてくる」
 司令室を出て行こうとするキャエーデ。それを香月が呼び止めた。
「待ちなさい。今入った報告よ。先ほど最後まで抵抗していた国防省が陥落、未確認だけど帝都周辺でクーデター部隊と斯衛軍戦闘が始まったそうよ。
それと臨時政府はクーデター部隊により榊首相をはじめとする内閣官僚数名が暗殺されたことを確認したわ」
「榊・・・榊千鶴の父親か何かか?」
「その通りよ」
「・・・」
 彼は無言のままその場を後にした。その表情には、何の感情も映し出されては居なかった。



「米軍受け入れ・・・やけに早いな」
 基地の発着場に次々と着地してくる米軍の戦術機。日本のものとは戦闘スタイルが違うため製造のコンセプトも異なる。
「最初からクーデターが起こることを知っていたのか、あるいは・・・」
 何かきな臭いものを感じるキャエーデ。きな臭いで一つのことを思い出す。
「彩峰のあの手紙・・・」
 聞いてみる価値はある。何か手がかりが掴めることを期待しながら、或いは彩峰が何も関わっていないことを願いながら、彼は彩峰の元に向かった。



「・・・キャエーデ」
「よぉ、その顔は来るのわかってたってとこか」
 彩峰はよく屋上に一人で居ることが多い。今も屋上で一人、あの手紙を手にたたずんでいた。
「その怪しい手紙に、クーデター。あまりにタイミングが合いすぎている・・・
説明、してはくれないか・・・?」
「・・・事が大きくなったら私を殺すんじゃなかったの?」
「あぁそう言ったな。でも俺はこの期に及んでお前が無関係であって欲しいと願ってる。
約一ヶ月とはいえお前は共に学んできた仲間だ。出来ることなら手にかけたくない」
「・・・」
 彩峰が思慮深げにこちらを見つめる。そして、何か決心したように、
「・・・読んで」
手紙を差し出してきた。
「確かにそれが一番早いか・・・」

―――彩峰慧様
日に増し寒さがつのる時節、極月ともなれば雪催いの日々
庭に目を向けるたび、寒松千丈の念深まるばかり
綴るにつけ語るにつけ、まこと言葉というものは無力
いかな彩りも見ずば気づかず、櫛とて峰で髪は梳けぬ
されど慧心に優れた君なれば、それもまた故ありと思う
子曰く、歳寒くして、然る後に松柏の彫むに後るるを知るなり
萩の季節に後れながらも閣の如くあらんと、志持てここに集う
国を憂い、民を憂いし彼の御方の無念晴らさんと
義憤に燃ゆる魂を見守り給え
これが最後の手紙となろう
君よ、願わくば、幸多き未来を歩まん事を
津島萩治―――

「読んだが意味がわからん」
 日本通といえど、外国の人間であるキャエーデにはあまりに難解。
「最後名前が違う」
「え!?」
 彩峰の言葉に驚くキャエーデ。ではなんと読むのか。
「その人の名前は沙霧…
沙霧尚哉」
彩峰の口から出てきたのは、期待とは裏腹に一番出てきて欲しくなかった名前だった。


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