ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾話】国を思うが故 この力は何のために? 中編・乙
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 17:45公開   ID:uFxsqFJnvGY
「その人の名前は沙霧……沙霧尚哉」
彩峰の口から告げらた名前、手紙の送り主・・・それはクーデターの首謀者その方だった。
「・・・手紙の後半を見て。
『閣の如く』なんて普通書かない。当て字」
「そうなのか?」
「『彼のお方』って―――私のお父さん
『萩』の季節、『閣』の如く
―――で『彩峰萩閣』・・・それがお父さんの名前」
 どこかで聞いたことがある。この世界の歴史を調べている時・・・たしか光州クアンジュ作戦で敵前逃亡罪で投獄された人物だ。
「敵前逃亡なんて許されない。私もお母さんもそのせいで全てを奪われた」
 俺は敵を前に逃げるのが必ずしも悪いとは思えない。勝ち目の無い戦いに勇んで挑んでも資源を無駄にするだけだ。しかし今は黙っておく。
「―――父さんの部隊にあの人もいた。
あの人は父さんを尊敬していたし父さんもあの人をかわいがっていた。
…でもあの人は光州作戦の前に負傷して内地送還になって…」
「それだけの理由で手紙を送るのか?クーデターが発覚する恐れもあるだろうに」
「あの人は真っ直ぐな人だったから…
罪に問われ投獄される父さんを黙ってみているしかなかった自分を…今も責めてる」
 真っ直ぐ・・・それは時にいい事であり・・・時に逆でもある。チラリといつの日かのORCAの仲間達の姿が脳裏に浮かぶ。
「―――最近私に面接に来る人たちがいる。
父さんに世話になったとか、助けられたっていう大東亜連合軍の人たち…
手紙はその人たちが持ってくる」
「なるほどな。大東亜連合軍経由なら帝国と国連の間を直にやるよりは安全だ」
「その人たちは父さんは悪くないって言う。
民間人の避難と警護を優先して司令部の即時移動命令を無視することになってしまったって―――
『人は国のためにできることを成すべきである…
そして国は人のために出来ることを成すべきである』…」
「・・・いい言葉だな」
 素直にそう思った。国や人に尽くそうと思ったことなど無い自分の心にも・・・響くものがあった。
「父さんがよく言ってた言葉……失望はしたけどその言葉には今も従える。
でも軍の発表とその人たち・・・どっちの言ってることが正しいなんてわからない
―――だからもういいのに・・・
公開のつづられた手紙なんて欲しくない・・・
だから開かない・・・読まない」
 俺はなぜこの娘を疑ってしまったのだろう・・・こんな話をするのは、きっとつらいだろう。だから一つだけ告げていく。
「俺はお前らとは別行動で、HSST落下の時に乗ってた新型兵器で出て直接的な戦闘に参加する。
だから・・・祈っててくれ。俺と・・・沙霧尚哉が出会わないことを・・・
 出会ってしまったらきっと―――」
―――殺すしか選択肢はないだろうから―――



―――ドーン―――
場所は一転して帝都。
クーデター軍の歩兵の一人が帝国軍の戦術機にミサイルランチャーによる攻撃を仕掛けた。
『―――我、攻撃を受く。繰り返す、我、攻撃を受く!
応戦許可を―――!!』
「・・・貴様なぜ撃った!?自分が何をしたのかわかっているのか!?
―――帝都が・・・戦場になる・・・!」
味方の静止も聞かず、2発、3発と攻撃を続ける歩兵。
彼が取り押さえられ、米国軍の工作員だとわかるのはまだ先の話・・・



「・・・」
「あんたどうしたの?いつも以上に不機嫌そうな顔しちゃって」
移動中のトラックの中、速瀬中尉が話しかけてくる。引き分けに終わった模擬戦以来、彼女はやたらと馴れ馴れしい。・・・今度本気で潰そう。そうしよう。
「別に・・・」
 つい先ほど帝都で戦闘が始まったらしい。イライラする。戦闘の発端はクーデター軍の歩兵の一撃。自分の兵の管理も出来ない首謀者に腹が立つ。その独断で先行した歩兵に、かつて古王オールドキングと共に先行しクレイドルを落としにいった自分に重なるから余計にまた腹が立つ。

「お前ら、改めて作戦をおさらいするぞ。
最初は指定位置で待機。その後戦闘に参加だ。それとキャエーデ中尉」
「はい」
 伊隅大尉が唐突に俺の名を呼ぶ。
「香月副指令の命令でお前は戦闘は極力避けるように。基本的には機体の機能を停止しているようにとのことだ」
「了解」
さしずめ、敵やよその国にこの機体のことを知られたくないと言う所だろう。理にはかなっている。
「ちなみにお前のコールサインはヴァルキリー・ヌル(ゼロ)だ」
 今はただ、座して戦いのときを待つばかり。



『…時間……す……けるさん…起きてくださいたけるさん!』
「ん……ああ交代の時間か」
『目、覚めましたか?』
「ん〜まだちょっとだるいな」
『交代まであと15分あります。すこし外で風にあたってきたらどうですか?』
「そうだな…じゃぁバックアップ頼むわ」
 場所は一転して塔ヶ島離宮・・・将軍の別荘のようなものらしい。
 空模様は雪。冷たい風が白銀の肌を刺し、眠気を払う。
―――パキッ―――
唐突に聞こえる枝の折れる音。白銀は即座に身を伏せる。
近くに駐留している自分の戦術機、吹雪の暗視モニターにリンクし、人影を確認する。
(二人、武装はしていない・・・不法帰還民か?)
二人組みが目の前に来たタイミングで立ち上がり、銃を構え叫ぶ。
「止まれ!!両手を頭につけてゆっくりこちらに―――」
「な・・・銃を向けるとは何事です!!」
白銀の言葉を二人組みのうちの一人、初老の老婆が遮る。
 その後ろから老婆を制止する女性の声。
「―――おやめなさい。黒い強化服は国連軍衛士の証。
恐らくこの者は―――」
「冥…夜…!?」
その女性の御剣に瓜二つな姿に、白銀はついそう口から漏れていた。

『たけるさん気を付けて!』
珠瀬からの通信にハッと我に帰る。そして背後から忍び寄る気配。
「・・・ッ!?」
とっさに振り向き、銃を向ける。その銃口の先にはいつぞやあった鎧衣左近の姿があった。
「鎧衣課長!?何でこんなところに!?」
「…まさかこの場所に君たちが居るとは。いやはやさすがは香月博士というべきか」
「06(白銀)より05(珠瀬)…心配ない、この人たちは大丈夫だ」
『了解』
「どういうことですか?この人たちはいったい―――?」
「ほう…君はこの御方を知らないというのかね?」
鎧衣左近が面白そうな、意外そうな顔をする。
その後ろから先ほどの初老の老婆が叱責する。
「煌武院悠陽殿下にあらせられるぞ!無礼者!!」
「…こうぶいん…ゆうひ…?」
「日本帝国国務全権代行、政威大将軍殿下を呼び捨てかね?―――白銀 武」
「な!?」
 今そこに居る、御剣冥夜に瓜二つの女性こそが・・・
いま戦火の嵐の真っ只中の帝都に居るはずの人物。この国のトップ。
煌武院悠陽殿下その方だった










「さて、行くぞ○○○○。失敗は許されん」
「はい、わかりました△・△△」
「まさか衛星の映像で”奴”が写っているとは考えもしなかった。しかしそれも些細なことよ」

 陰謀は、確実に歩みを進め始めた。
クーデターは、大きく動く・・・


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:5558

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.