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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾話】国を思うが故 この力は何のために? 後編・甲
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 18:06公開   ID:aJK45xIaU56
「―――将軍殿下が既に帝都に居られぬだと!?」
 クーデター軍の会議にて、一人が机を叩き立ち上がる。
「帝都城から地下道を使い各地の鎮守府ちんじゅふ城郭じょうかく
へと向かう動きが複数確認されています。
殿下はその中にまぎれ帝都を脱出された模様―――」
「早急に部隊を向かわせろ!!帝国軍や斯衛軍―――ましてや国連には断じて先を越されるな!」
 クーデター軍の誰もがあわてている。当然だ。殿下が国連軍や帝国軍の手に渡れば彼らは文字通り殿下に剣を向けた『反逆者』になってしまうのだから。そんな中、ただ一人、首謀者、沙霧尚哉だけは静かにこれからの動きを考えていた。目を瞑り、思案する。どうすればいいのか。
「例の男の情報…信用に足るものでしょうか…?」
秘書風の女が『ある人物』によりリークされた情報の信憑性について沙霧に問う。
彼は少し間を置いて言った。
「・・・戦に於いてはその範たるべし―――か…
殿下をお護りすべき我らが逆に助けられたようなものだ―――不甲斐ない。
これで我らは帝都を離れざるを得なくなった。
やはり殿下は御自ら囮となって・・・?」
 将軍殿下が既に脱出しているとあらば追わざるを得ない。そうすれば帝都は戦火を逃れられる。それを意図し、殿下は帝都を脱出したのだと・・・そういう意味だ。
「―――我等は幸福だ。殿下さえご無事であれば日本このくに未来さきは明るい。
―――あの方のいしずえとなるに何の迷いがあろう」
 その表情には安堵と覚悟が写し出されていた。立ち上がり全員に命令する。
「―――殿下をお迎えにあがる!行く先は―――」



「殿下の脱出情報をリークしたぁ!?」
「…騒がしいな白銀 武」
「よいのです白銀とやら。私が命じました」
 鎧衣課長がクーデター軍に殿下が帝都を脱出したこと、その脱出先の情報をリークしたという言葉に驚きを隠せない白銀。その白銀をたしなめるかのように殿下本人が自分の命
めい
だと告げる。
「だってクーデター部隊は殿下の裁可を欲しがっているんでしょう!?
今頃間違いなく追いかけてきますよ!?」
「当然だろう―――それこそが狙いなのだからな」
「え!?」
「彼らがこちらに引き寄せられれば帝国・斯衛・国連の全軍も追撃にかかる・・・となれば帝都での戦闘も終息する。―――違うかね?
殿下は帝都の民を戦火から遠ざけようと自ら囮役を買って出られたのだよ」
「!?」
 その言葉にまたもや白銀は驚かされる。この国の頂点である彼女にもしもの事があったらこの国は終わるといっても過言ではない。だというのに民草の為に彼女は自ら危険を冒したということだ。
「―――では白銀武、君が殿下を横浜基地までお連れするのだ」
「は!?お…オレがですかッ!?」
いきなり話をすっ飛ばしてとんでもないことを言う鎧衣課長。
「戦術機のコックピットなら殿下をお乗せすることは可能だろう?この状況ではそこ以上に安全な場所は無いと思うがね」
「確かにそうですけど!!」
 戦術機のコックピットはネクストと違って広い。3人ぐらいなら乗れるぐらいだ。
「私は帝都に戻りもうひと仕事してこねばならん。
白銀武…殿下を頼んだぞ」
 反論する暇も与えず、背を向け立ち去ろうとする鎧衣課長。そこに殿下が声をかけた。
「鎧衣…ここまで本当に大儀でした。我が臣を失ったという知らせはこれ以上聞きたくないのです。
…どうか気をつけて」
「―――斬った者斬られた者…共に臣下であります故殿下の悲しみは如何ばかりと存じますが…
国の乱れを憂う若者たちがそれを正すべく止むに止まれず立ち上がった―――というのが此度の仕儀の真相。
―――誤った道を選んだにせよそのような若者がいる限り・・・
まだまだ日本も捨てたものではございません。ここで膿を出し切ることで日本は再び目覚める。
―――私はそう信じております」
そう言った鎧衣課長の目にはある種の期待が篭っていた。



「面白いことになってきたわね・・・
伊隅!悪いけどチェックアウトの時間よ…準備はいいわね?」
『願ってもないことです副指令
となれば以降我々の仕事は―――』
「連中を部隊にあがらせないこと・・・頼んだわよ」
『は!』

「ようやく遊べるということだな」
『キャエーデ、アンタは基本的に戦闘に参加できないでしょ』
「速瀬中尉めせっかく忘れたフリして戦闘に参加するつもりだったのに・・・」
『さて貴様ら、別荘での楽しいバカンスはここまでだ。
我々は箱根に向けて移動する!ヒヨコどもが無事花道を通れるよう赤絨毯を敷いておいてやれ!!」
『『『『『『「了解!」』』』』』』



『―――10分ほど前、帝国厚木基地からの通信が途絶。続いて小田原西インターチェンジ跡の前線司令部(HQ)も沈黙した』
現在白銀は殿下と共に吹雪に乗り、神宮司教官から現状を聞いている。
『すでに明神ヶ岳山中では帝国軍隊が敵と交戦中だ』
(明神ヶ岳!?…ふた山向こうじゃないか!クーデター部隊はもうすぐそこまで…!)
戦術機ならば山を2つや3つ越えることなど造作も無いことだ。帝国軍が足止めをしてくれているからまだ来ていないだけ。
『では作戦説明に入る。敵主力は現在、東名高速自動車道跡(E1)と小田原厚木道路跡(E2)の二手に分かれ進撃中だ。
我々は熱海新道跡から伊豆スカイライン跡に入り、白浜海岸を目指し南下する。
おそらくE1は我々の西進を阻むため芦ノ湖スカイライン跡から旧三島市に抜け併走してくるだろう。
E2は国道135号線を南下―――そのまま海岸に向かいその確保を図る可能性が高い。
それと同時に我々の転進を阻む為の部隊(E3)がE2から分離し後方から追撃してくることが予想される』
これが本当になれば左右、後方の三方向をふさがれる形になる。
『我々はさらに南下を続けるが…この段階で想定通りE3が存在する場合、途中合流する米軍第108戦術機甲大隊が陽動を兼ねて各個撃破する』
 補足で説明すると小隊が戦術機4機。中隊が12機。大隊は36機だ。その上、連隊は108機。
つまり36機の戦術機が陽動兼各個撃破を行うということ。
『―――これによりE1は旧三島市から旧中伊豆町に抜けE2と連携、我々を包囲・挟撃しようとするはずだ。
敵にとって最重要ポイントとなるのがここ―――冷川料金所跡だ』
 網膜投影されている地図の一箇所が示される。
『ここは山間部が最も狭くなっている。敵が我々の頭を押さえられるのはこのポイント以外ない。
ようするにここを抜けてさえしまえばこの作戦は成功したも同然だ』
 しかし逆を言えば先にここを突破できなければ確実に包囲されるということだ。
将軍殿下が居る限り、へたに攻撃を仕掛けてくることは無いだろうがそれでも危険に変わりは無い。
『進撃隊形は06(白銀)を中心に楔弐型アローヘッド・ツーだ。さらに斯衛第19独立小隊が鎚壱型隊形ハンマーヘッド・ワンで後方を固めてくれる。我々はそのまま旧下田市に抜け白浜海岸から海道にて横浜基地へ帰還する。
―――白銀』
「はい」
『本作戦の最優先目標は煌武院悠陽殿下を無事に横浜基地にお連れすることだ。貴様はどんな犠牲を払ってでも必ずそれを成し遂げろ・・・いいな!』
「了解」
『207戦術機甲小隊・・・全機発進!』
『『『『『「了解!」』』』』』



「速瀬中尉〜、ヒマダゾ〜」
『気の毒ね〜アンタ』
中隊規模のクーデター部隊を片付けたA-01。もちろんその間キャエーデは待機である。
「白銀たちはどうしてっかな〜?」



『帝国軍が撃破された!?』
『うろたえるな!後方は斯衛が固めている!
00(神宮司)より各機!落ち着いて隊形フォーメーションを維持しろ!』
『06!もっと速度を上げられないの!?』
「バカ言うな委員長!殿下は簡易ベルト何だぞ!?これ以上は体力的にも無理だッ!」
 戦術機適性検査の時のことを覚えているだろうか?あの時白銀とキャエーデを除く207のメンバーは検査の後、ひどい乗り物酔いになっていた。強化服を着ていてなお、だ。
今は何度も乗ることで強化服に蓄積されたデータのフィードバックと慣れでほとんど揺れを感じずに済んでいる。しかし殿下は今普通の服なのだ。体にかかる負担ももちろん大きい。しかし、
「構いません白銀―――速度をお上げなさい」
「しかしッ!強化装備のフィードバックも無い状態で実戦機動ですよ!?いくら酔い止めスコポラミンは服用したからといって・・・無茶です!!」
「無茶しているのはそなた達も同じ―――この程度の揺れ何ほどのものでもありません…早くなさい」
「……くっ!了解!!06より各機!次の谷を噴射跳躍ブーストジャンプでショートカット―――」
『―――4時方向より機影多数接近!稜線の向こうからいきなり・・・』
「何だとォッ!?」
 レーダーには確かに複数の機影。所属不明機アンノウンが11機・・・
『全機兵器使用自由ッ!各自の判断で応戦!06の生存を優先せよ!
無闇に仕掛けるなよ?向こうからは迂闊に攻撃できないはずだ』
『『『『『「了解」』』』』』
「とうとう殺し合いかよ!くそおぉぉぉぉ!!」
その時、聞き覚えの無い声が耳に届く。
『―――国連軍及び斯衛部隊の指揮官に告ぐ。我らに攻撃の意図あらず。
繰り返す、我らに攻撃の意図あらず。直ちに停止されたし。貴官らの行為は我が日本国主権の重大なる侵害である』
 併走している敵機からの全回線オープンチャンネルによるコールだ。
しかし山の向こうなので敵の影は見えない。
その時、
―――ビー!ビー!ビー!―――
警報が鳴る。レーダーを見ると正面から所属不明機が複数。
「ぐ…クッソオオオオォォォォ!!」
『バカヤロウ!ロックオンスルナ!!コロサレタイノカ!?』
「!?」
目の前に現れたのは・・・
『こちらアメリカ陸軍第66戦術機甲大隊―――速度を落とすな!早く行けッ!!
作戦に変更は無い・・・安心して行け』
 そう言って米軍の戦術機・・・F15-Eストライク・イーグルは戦闘を開始した。さらに・・・
―――ドドドドドォン―――
突如長距離からの銃撃。しかしレーダーには反応は無い。機影だけが見える。
これが米軍の新型―――
―――ドォン―――
たった今クーデター部隊を殲滅したこの機体こそ・・・
対人戦にとことん特化した新型、F22-Aラプター
だった。



―――亀石峠仮設補給基地―――
『私は米軍陸軍第66戦術機甲大隊指揮官のアルフレッド=ウォーケン少佐だ。
現在我がA中隊が時間を稼いでいるが―――彼我の戦力差を考えれば楽観できる状況ではない。
207戦術機甲小隊は補給が完了次第隊形を維持し先発、両翼と最後尾は我々が固める』
『207リーダー了解』
 戦況も気になるけど…それ以上に不安なのは殿下の体調だ。
この補給で少しは落ち着くといいんだけど・・・
「殿下、大丈夫ですか?気分が悪くなったらすぐに―――」
「…心配はいりません。そなたこそ足が痛いのではないですか?ずっと私が腰掛けているものですから―――」
「あ…いえ、ベルトにテンションがかかってますから」
 あれだけ揺られて相当気分悪いはずなのに…自分よりオレの心配かよ・・・
こうして見るとますます冥夜にそっくりだ…冥夜みたいな勇ましさは無いけど内に秘めた強さ…
見たいなものは凄く似てる。
「私のことは気にするでない―――操縦の心得は多少あります」
「え?操縦って・・・戦術機のですか?」
「そうです。まだ実機で96時間ほどですが」
 96時間!?時間をループしたオレはともかく隊のみんなより乗ってるし!
「故あって今は手元を離れていますが私専用の機体もあるのですよ?」
 将軍の専用機・・・こんなん?
ものすごく煌びやかで派手なものを想像する白銀。ついでに言うといつぞやの紫の武御雷が将軍専用機だ。
「…白銀」
「あ…は、はい!」
「そなたは・・・はじめてあった時、私を『冥夜』と呼びましたね」
 殿下は静かに・・・本当に静かに言った。
「はい」
「冥夜が・・・御剣冥夜がこの部隊にいるのでしょう?」



「―――そうですか。やはりあの者は武御雷に乗ろうとはしませんでしたか・・・ふふあの者らしい」
少し寂しそうに殿下は言った。
「あの者は―――今まで一度たりと私の贈り物を素直に受け取ってくれたことがないそうです」
(ないそうです?)
「あの・・・殿下」
「なんです?]
[オレはここでの生活が短いので日本のことには疎いんですけど・・・」
 確かに嘘は言っていない。元々別世界の人間なのだから。実際こちらの世界で暮らしてる時間は
前のループの時の2年と今回のループの1ヶ月足らずだ。
「殿下と冥夜は…姉妹なんですよね?」
「・・・」
 白銀の言葉に少し殿下の表情が曇る。
「あ・・・すいません!聞いちゃまずかったですか!?」
「よい・・・あの者は己が身の上をそなたになんと?」
「聞いてるのは将軍家の遠縁・・・ってことぐらいです。
でも殿下の話を聞いてるともっと近しい関係としか思えない。
それに―――」
今までの御剣と殿下の姿を思い出す。わが身を省みず、他を優先しようとする姿。
「そっくりですから・・・顔も・・・性格とかそういうところも」
「それはそうでしょう。私とあの者は・・・
血を分けた双子なのですから」



「・・・う・・・」
殿下が小さく呻く。当然だ。すぐそこに敵が迫っているのだ。必然的にスピードも上がる。体の負担もかなりのものだ。
補給前よりも症状がひどくなっている。呼吸は荒く、顔面も蒼白だ。
「殿下、大丈夫ですか!?米軍のおかげで距離は稼いでいます。速度を落とすよう進言を―――」
「なりません…!私は大丈夫です、構わず任務を遂行なさい!!」
「ですが!どう見たって今の速度じゃ殿下が保ちませんよ!」
「・・・私のことならよい。
如何ほど酷くなろうと加速度病ごときで命を落とすことはありません!」
「しかし!」
 加速度病で命を落とすことが無いというのは嘘だ。症状が重くなれば嘔吐に伴う窒息や、脱水症状による死亡の確率は上がっていく。今のところ嘔吐は無いが、汗が酷い。呼吸も荒い。
『ハンター1より各機、旧三島市街―――136号線跡を進軍してきたと見られる敵部隊が冷川料金所付近に到着した。現在第174戦術機甲大隊が交戦中だ。
174大隊が相手にしているのはおそらく富士駐屯地の部隊だ。状況から考えて富士の部隊は連中の切り札に違いない。ヤツらも我々の頭を抑えようと必死だ。だが逆に我々が冷川を突破してしまえば
ヤツらに打つ手は無くなるという事だ。
―――ここからは時間との戦いだ!隊形・コースを維持し、最大戦速!!』
『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』』

距離残り約1.5km。時間にして数十秒。しかし回りは敵、敵、敵。
(ここさえ…ここさえ抜けちまえば・・・)
その時、一箇所の道を見つけた白銀。
「このまま・・・行くしかねぇんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
無事、突破に成功した。しかし・・・
「聞きましたか殿下!もうすぐ・・・!?」
そこには目を閉じ、苦しそうに呼吸する殿下の姿があった。


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■作者からのメッセージ
いろいろ省いたからわかんなくならないように補足説明。


煌武院家では双子は忌子とされているため、冥夜は生まれてすぐ遠縁の家に養子に出された。そして、殿下に万一のことが起こった場合の身代わりとして育てられた。
自分のせいでそんな生活を強いてしまったと考える殿下に対し、白銀はそんなことはないと話す。
話の末に、殿下は白銀に一つの人形を渡す。
かつて殿下と冥夜が共に過ごした証。ほんの数日の間でも確かに一緒にいたという証明。
それを冥夜に渡してくれと、殿下は白銀に頼んだ。
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