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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾弐話】崩壊する殺人人形  将軍起つ
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 18:21公開   ID:aJK45xIaU56
―――オオオオオォォォォォ!!―――
「今度は何だ!?さっきの空送機といいこれといい!」
一帯に轟く何かの叫び。いや、叫びと言うよりはそれは咆哮と言った方が正しい。
その声の方向を見ると、遥か遠くに何かがいた。
「ヴァルキリー1より各機、気を抜くな。嫌な予感がする」
一個大隊を殲滅し、戦闘続きのA-01は既に弾薬は少ない。それでも敵が来るのであれば戦うしかない。
 そして「ソレ」はものすごい速さで迫ってきた。
「キャエーデ中尉?」
「ソレ」はOBの勢いをそのままに、攻撃を仕掛けてきた。
「なっ!?ヴァルキリー1より各機、乱数回避!!」
とっさの判断で全員に指示を出す伊隅。
『何すんのよいきなり!』
速瀬中尉がごちる。しかし「ソレ」に乗っているはずのキャエーデ中尉からの反応は無い。
『伊隅、聞こえる!?』
通信に割り込んできたのは香月副指令だった。
『キャエーデがついさっきネクストとの戦闘で負傷。心停止寸前だからさっさとつれて帰ってきて。
絶対死なせるんじゃないわよ!?』
「現在そのキャエーデ中尉から攻撃を受けているのですが・・・!」
『!?』
音声の向こうで副指令が驚いているのがわかる。伊隅もまた、キャエーデが心停止寸前という話を聞いて驚いている。この状況は明らかに異常だ。心停止寸前であんな動きができるわけが無い。
『わかったわ。交戦を許可。ただしブースター類は壊さないようにして。予備が無いから』
「なるべくやってみます」
あまりに無茶な命令だと思いながら頷く伊隅。相手はPAも張っているのだ。手を抜いて勝てる相手ではないというのに。
「ヴァルキリー1より各機、兵器使用自由。シィカリウスの動きを止めろ。ただし管制部とブースターは狙うなとのことだ」
『そんな無茶ですよ!模擬戦でもやっとこさ引き分けだったような相手なのに!』
涼宮少尉が反論する。きっとそれは部隊の全員が思っていることだろう。しかし、
「それでもやるしかないんだ」
『そんな・・・』
しかし望みはある。先ほどからシィカリウスは全身から火花を散らせている。主に関節部分は壊れる寸前らしい。うまくいけば自滅するだろう。



―――Heus puer, ut puto corpus!体が思うようについてこねぇな!―――
本気の12分の1どころかもっと酷い。
QBを使って一機に距離を詰めるも逃げられる。
右手の関節が思うように動かなくなってきた。ブレードが振りづらい。
―――Non fugit filia Chokomaka!ちょこまか逃げるなよお嬢さん!―――
上に逃げた宗像機(キャエーデの知識を取り込んだためわかる)を掴み、地面に叩きつける。
直後に三方向からの射撃。全身のPAがそれを阻む。
―――Aliquam sed ornare transiret prius instructus proelio!それが通らねぇのは最初の模擬戦で学んだろうが!―――
掴んでいる宗像機を後ろに投げ飛ばす。自分もその方向に飛びブレードを振る。
胴から真っ二つになった宗像機。それでも銃で応戦しようとしている。
そんな宗像機には目もくれず、シィカリウスは今度は速瀬機に飛び掛った。



「宗像!?」
目の前で宗像の不知火が真っ二つになる。しかし突撃銃で応戦しているところから宗像はまだ生きているだろう。
「いい加減にしなさいよ!本気で怒るわよ!!」
『早まるなヴァルキリー2!』
長刀を手に襲い掛かる。怒り心頭の速瀬はかつてこのように襲い掛かりあっさりやられたことを忘れていた。
XM3独特の機動をしながら接近する。
そして長刀を振った瞬間シィカリウスは目の前から消えていた。
―――ザンッ―――
聞きなれたシィカリウスのブレードの音。
その直後速瀬の不知火の両腕が空を舞った。
「くっ!」
反転し、下がる。このままではやられる!
そう思ったのだが振り向いたらそこでは予想外のことが起こっていた。



―――Quod! ?何だ!? Corpus non operari!!体が動かない!!―――
速瀬機の腕を両断した瞬間。鈍い音と共に腕がまったく動かなくなった。
あの高速機動に精細な動きでの攻撃。腕に負荷が掛かりすぎたようだ。
ガシャンと音を立てて両腕が地に落ちる。ストリクス・クアドロを蹴り飛ばした時のダメージが今更来たのか足も動かない。
―――Misericordia残念だ. Ego mentem Shiteyaro occidere unusquisque in non-pugna, omissa ad desperatio残念だ。全員を戦闘不能にし、絶望に落とした上で皆殺しにしてやろうと思ってたんだが―――
己の意思での殺戮を楽しめなかったことに悔しがりながらキャエーデから引いていく。
―――Caedes relinquo alius sacerdos, ne ad mortem坊主が死んだらもう殺戮に出ることも無いんだろうか―――
己の主を心配しながらシィカリウスは眠りに着いた。


その後、キャエーデは伊隅機に回収され横浜基地に戻った。
右腕切断。内臓破裂。脳の血管も数本切れ、出血も酷くまだ生きていること自体がおかしいというような状態だった。




殿下の加速度病の症状があまりに酷いため、一時休んでいた。本当に短い時間だった。しかしその短い時間で白銀たちはクーデター部隊に包囲されてしまった。
空挺作戦・・・空送機で戦術機を運び空中から攻める。これだけ聞くと簡単なように聞こえるがこれがそうでもない。
あまり高く飛びすぎれば佐渡島に居るBETAの光線レーザー
に打ち落とされる。確実に。
かといって低く飛べばどうなるか。ここらは山岳地帯だ。へたをすれば山にぶつかって墜落する。
しかしそんな綱渡りを彼らは実行し、現実に成功させたのだ。
『国連軍指揮官に告ぐ―――私は本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連帯所属、沙霧尚哉大尉である。
直ちに戦闘を中止せよ。我々の目的は戦闘ではない―――繰り返す、直ちに戦闘を中止せよ!』
クーデターの首謀者が正にそこにいた。
『故あって決起し、立場を異にする諸君らと対峙しているが、我等の目的は戦闘ではない。
諸君らが無法にも連れ去ろうとしている我らが殿下を、お迎えに上がったのだ。
いささか一方的ではあるが……諸君らに、只今から60分間の休戦を申し入れる。
なおこの休戦は、煌武院悠陽殿下のご尊名に懸けて履行されるものである。
我々からそれを破ることはありえない。
その間、現在おかれている状況、諸君らがわが国に対して行っている行為の当否を冷静に熟慮し、現実的で誠実な対応を取られんことを切に願う。
60分後、再び全回線オープンチャンネルにて呼びかける。
返答なき場合、我らは必要と思われる全ての手段を以って事態の収拾を図る。
そう心得られよ―――以上』
 沙霧は一方的にそういうと回線を切った。



 ウォーケン少佐、月詠中尉、神宮司教官の三人の話し合いの結果、彼らは休戦の申し入れを受け入れることにした。
理由は殿下の回復を図る時間も稼げるというのもあるが、彼らは「煌武院悠陽殿下のご尊名に懸けて」と言った。ならばこの休戦の60分は絶対だ。自らが拠って起つものを辱めることは絶対にない。
 しかしそれでも安心しきれないウォーケン少佐は207のメンバーに戦術機を降りて殿下の周辺の警護を命じた。



決起部隊の通信から30分。いまだに彼らを一定距離で包囲している決起部隊の戦術機に動きは無い。しかし白銀はそのことに疑問を持っていた。自分達を完全に包囲している今こそ最大のチャンス。
空挺作戦という危険を冒してまでここまで来た彼らが今黙っているのはなぜか?
(あいつらが休戦を守るとしたらそれは「名誉」とか「誇り」とかそういうもののためだろう…?
そんなもの作戦の上じゃなんのメリットもないじゃないか・・・
沙霧大尉が命をかけて、世界に迷惑をかけてまでやろうとしていることはそんなに軽いのか!?)
「オレは違う…違うぞ。俺は迷わず全人類の勝利を優先する…」
 ではなぜ殿下が加速度病で苦しみ、ウォーケン少佐が鎮静剤トリアゾラムを投与するよう指示したときにそれができなかったのか?鎮静剤を投与し、進行を進めればこうして囲まれることは無かっただろう。しかし殿下が死亡する恐れもあった。睡眠状態での嘔吐により窒息死する恐れもあった。
頭では少佐の言っていることが正しいとわかっていた。しかしできなかった。
「…くそぉッ!」
自分への怒りをすぐ横にあった木にぶつける。
(何をビビってんだ…これが実戦経験の差なのか!?
・・・違う!人間相手ならまりもちゃんや月詠さん・・・少佐だって初めてかもしれないんだ!
なら今のオレに何が足りてないっていうんだ・・・オレがこの世界の人間じゃないからか?
根無し草だから・・・いざとなったら冷徹になれないのか!?)
「もっと強く・・・なりてぇよ・・・」



「―――白銀武!」
突然声がした。
みると斯衛の神代少尉だった。
「捜したぞ。
急げ、殿下がお呼びだ」
「え?」
言われるまま神代少尉についていくと本当に殿下の前までつれてこられた。
「―――殿下、白銀武をつれてまいりました」
「ご苦労でした、下がりなさい」
「は・・・」
 殿下は横になって休んでいた分だいぶ調子を取り戻したようだった。
顔色もよくなっている。
「―――白銀、ここへ」
「は、はい」
(ああっ・・・と、こういうときどうすりゃいいんだ?)
「どうしました・・・楽になさい」
どうしたらいいのかわからないので結局正座することにした。
「で、殿下。どんなご用でしょうか?」
「神代から状況は聞きました。時間が来る前に、そなたと少し話がしたかったのです」
「はい……オレでよければ」
 1人で居ても考えまいとしていることがグルグル渦巻いてしまうので、白銀にとってこうして人と話していられるのは願っても無いことだった。
「―――この度は私の不甲斐無いばかりにそなた達訓練兵まで矢面に立たせてしまったこと、残念に思います」
「そんな…これは国連軍の任務ですから当然のことです」
「当然・・・ですか?」
「え?」
「そなたの卓越した戦術機の操縦技能…
あれは国連軍正規兵とて比肩する者は希でしょう。
それが本来活かされるべきはもっと別のところにある―――そう思いませんか?
ほかの国連軍や米軍の将兵・・・ここで使われている物資も然り。
これらは本来BETA相手に用いられるべきもの…それがこのような形で失われることは残念だと思いませんか?」
 それは白銀が確かに思っていることだった。しかしそれは御剣や月詠中尉に米軍よりの考えだといわれた。しかし今、日本国家元首が同じ考えを口にしたのだ。
「私は先ほどから考えていたことがあります・・・何故あなたはあの時鎮静剤の投与をためらったのか―――」
「!?」
 白銀が言いよどんでいると殿下は言葉を続けた。
「白銀…そなたはその優れた資質ゆえにいつか人の上に立つこともあるでしょう」
「え・・・オレが・・・ですか?」
「人の上に立つということは多くの責任を背負い、多くの決断を下さねばならないということです。
国家や組織はその拠って立つところが違えば各々に理想や信念が異なるもの。
人もまた同じ―――何かを成そうとすればそれを善しとする者、悪しとする者が居るでしょう。
されどそれぞれの立場に立って物を見ることができれば、各々が拠り所とする正しさも見えてきましょう。そして悲しいことですがそれらの全ての者達の望みを満たす道が常にそなたの前にあるとは限りません。
その時そなたは何に拠って決断しどのような道を彼の者達に示すのか―――そのときもしそなたに迷いがあったなら原点を顧みること…立ち止まる勇気を持つのです」
 それは白銀も頭ではわかっていること。彼の原点・・・人類を救うという執念・・・きっとそれは誰よりも強い。彼は一度人類の敗北を目にしてきたのだから。それでもいざという時に迷ってしまうのが現状。
 そう考えていると殿下はさらにこう続けた。強い意思のある声で、
「そして自らの手を汚すことを厭うてはならないのです」
「!?」
「私の話はそれだけです。休息中に大儀でした・・・
下がるがよい」
(オレはどんだけ自分勝手何だよ・・・殿下を殺したくないってのも正義感じゃない・・・ただ自分が責任を負いたくなかっただけじゃないか―――!)
 考えていると足が動かなかった。それを怪訝に思ったのか殿下が話しかけてきた。
「どうしました?もう下がってよいのですよ?」
「・・・すいません」
立ち上がろうとする。すると白銀を止めるように問うてきた。
「何か申したいことがあるのですか?」
「いえ…ありません」
「そのような険しい顔をして何も無い・・・と申すのですか?」
「それは・・・」
「私では力不足でありましょうか?」
「では・・・お言葉に甘えて―――
その…国連軍の訓練兵がこんなこというのもおかしいかもしれませんがオレには日本人としての愛国心というか・・・そういうものが足りてないみたいで・・・
沙霧大尉が何故決起を起こしてまで日本を変えようとしたのか―――それはわかるつもりです。
でも今そんなことをするのは納得できません。
オレは今は人類の戦力はBETAを倒すために使うべきだと思うんです。
日本の将来を考えるのはいい。でもそれはBETAを倒してからの話じゃないですか?
人類が負けたら日本の将来も何も無い・・・それぐらい子供でもわかりきったことでしょう!?」
「……そうですね」
「なのに―――国連も米国もそれぞれの思惑で好き勝手に…少なくとも人類が一丸となってBETAを倒そうって考えてるとは思えない!!
BETAに負けること・・・それがどういうことなのかみんなちゃんと想像できてないんだ!!」
「白銀・・・少し落ち着くがよい」
「あ・・・すいません・・・」
知らず知らずのうちに語気が強くなっていた白銀。しかし殿下に諭され、すこし落ち着く。
「―――今こんなことしてる場合じゃないっていうオレの考えは米国寄りだって言われたこともありました。オレのそういう態度が達観してるとか他人事のように見てるって印象を持たれてるのかもって思ったら、それはオレと彼女達との間に根本的な気持ちの部分に違いがあるんじゃないかって・・・」
「……その違いが愛国心なのだとそなたは思うのですね?」
「はい、間接的とはいえ…彼女達と日本という国との深い因縁もその強さに関係あるんじゃないかって・・・」
「?国との深い因縁とは・・・?」
「え?」
(冥夜の身辺情報だぞ?月詠さんから聞いてないのか?)
「えーと、冥夜については説明するまでも無いですが―――他にも珠瀬国連事務次官の娘や彩峰元帝国陸軍中将の娘、それに鎧衣課長の娘もいます」
「なんという……まさに此度の件に只ならぬ因縁を持つものばかり…」
「それだけじゃありません。今朝殺害された榊首相の娘もいるんです」
「―――!」
 驚愕の表情を浮かべる殿下。そのことから本当に知らなかったんだとわかる。
「今のこの状況下でそれぞれがそういう深い因縁を持っているので…お互いともやりづらそうで…」
「それは無理からぬことでしょう」
「でも、それでも今部隊がまともに動いてるのは『愛国心』みたいなものが強いからなんじゃないかって―――」
「そうでしたか…」
 そういうと殿下は目を閉じ、何事か考え出した。
「・・・殿下?」
 白銀が声をかけるとそっと目を開き、彼女は言った。
「白銀―――そなたに頼みがあります。皆を…ここに集めてください」



「―――煌武院悠陽殿下に、敬礼!!」
―――ザッ―――
ウォーケン少佐の号令で皆がいっせいに敬礼する。
「ウォーケン少佐・・・このような火急の折…皆を呼び寄せたことをお詫びします。
―――我が国の此度の混乱・・・全てこの悠陽の力不足に端を発すること。
この場にいる国連軍…ならびに米軍将兵の皆様、日本国将軍として、国を預かるものとして心よりの謝意を表します・・・」
 そういうと殿下は深々と頭を下げた。
それを見た皆が驚く。日本の国家元首が一介の兵士に頭を下げたのだ。無理も無いことだろう。
「神宮司軍曹…そなたの部下と話をしてもよいでしょうか?」
「………は、ご随意に」
 まずは部隊のNO.1、部隊長榊が前に出た。
「そなたのお名前は?」
「は、はい!榊千鶴訓練兵です!」
 普段は冷静な榊が、明らかに緊張していた。
「そうですか……あなたが…」
「…?」
「榊 是親これちか
殿は私の忠臣でした。常に日本の行く末を案じ、事に臨んでは滅私の精神で奮闘する傑出した政治家であり大人物でありました―――」
「父が?」
「是親殿の生き様には私も学ばせていただくことばかりでした。此度のご逝去…憾悔の念に堪えません。
ご無念いかばかりかと心中お察しいたします」
そういうと殿下はそっと榊の手をとった。
「お…畏れ多いお言葉です」
「全てはこの私の責任…そなたにはお詫びのしようもありません」
「い…いえ・・・父は殿下と帝国の民に仕える政治家としての職務に殉じ本懐を遂げました。
決して殿下の責任では・・・」
 言いながら顔を俯かせ涙を流す榊。しかしあわてて涙をぬぐい頭を上げる。
「深い悲しみの最中重責に耐え、多大な尽力を頂いていることに万謝いたします」
「もったいないお言葉です」
「どうか今しばらくの間堪えてください」
「はい!」


次に殿下は珠瀬に声をかけた。
「そなたが珠瀬玄丞斎げんじょうさい
殿のご息女ですか?」
「はははははははいいっ!…殿下…父をご存知なのですか・・・?」
珠瀬もやはり緊張していた。声をかけられるまでは石のように固まっていたぐらいだ。
「はい…これまで幾度か事務次官が日本においでの際にお目にかかる機会がありました。
国連の事務次官職は激務と聞き及びます……そなたも心配でしょう」
「はい……」
「今時大戦における日本の戦略的位置は非常に重大ゆえ…我が国をめぐる政治的な背景は複雑を極めています。それゆえそなたのお父上は住々にして厳しい立場にお立ちになることでしょう。
―――されどそなたのお父上の弛まぬ努力によって日本にもたらされる公益は決して小さくありません。私と同様…さぞやそなたもお父上を誇らしく思われていることでしょうね…」
「…!」
「だからこそそなたも国連軍に身を置いているのでしょう?
お父上と共に国際社会に奉仕する道を選んだそなたは立派です。
―――此度のご尽力にも万謝いたします」
「はいっ!!ありがとうございます…殿下!」


「そなたは・・・」
「はい!鎧衣美琴訓練兵です!」
「そうですか・・・そなたが左近殿の・・・」
「なんでもそなたのお父上の貿易会社は城内省の指定業者だそうで…帝都城でも幾度となくお目にかかっているのです」
「ええ!そうだったのですか……」
 驚きの表情を見せる鎧衣。どうやら鎧衣課長は娘に自分の仕事に関してあまり教えていないようだ。
「―――そなたのお父上にはお会いする度にお聞かせいただく海外の面妖な土産話や諧謔で日々の心労をぬぐっていただいているのです」
「そうだったんですか・・・殿下にそう言って頂けると…父も喜ぶと思います」
「・・・お父上は常に海外を飛び回っており多忙なお立場でありました。此度、斯様な事態を招きそなたとお父上をさらに遠ざけてしまったこと…慙愧に堪えません」
「いえ殿下!決してそのようなことは!
その・・・わ、私は国連軍所属ですが・・・殿下のお力になれるのであればそれは私の誇りでもあります!職は違ってもそれは父も同じだと思います!」
「―――心痛の至りではありますが・・・今しばらく堪えてください」
「・・・はい!」


「そなたのお名前は?」
「・・・彩峰 慧訓練兵です」
 彩峰の表情には緊張の色は見られない。しかし心の中では人並みに緊張していた。
「私はお飾りであるとはいえ帝国軍の総司令官としてそのための教育も受けてまいりました。
されど今…訓練半ばであるそなたたちを戦場に赴かせているのはほかならぬ私自身。それが統率の正道であるか否かは考えるまでもありません。
私はこれまで幾人かの将兵に師事しましたが、いずれの師も今のこの状況を嘆かわしく思っているに違いません」
「・・・」
「―――人は国のためにできることを成すべきである…
そして国は人のために出来ることを成すべきである―――」
「!!」
このとき初めて彩峰は表情を変えた。無表情だった顔に驚きが見て取れた。この場にキャエーデがいれば彼もまた驚いていたであろう。その言葉は正しく彩峰の父の言葉だ。
「とある師の教えですが―――この言葉は常に私の心にあります。
今のこのときほどこの言葉の意味するものを大きく…そして重く感じることはありません。
―――このままではまこと恩師達に会わせる顔がありません。されど私も愚弟の謗りを甘んじるつもりはありませんゆえ、今しばらく堪えてくれませんか?」
「・・・はい」


「―――白銀訓練兵」
「はい」
「成り行き上そなたとは存分に言葉を交わせました故…ここで多くを語るのは詮無いことでしょう。
されど・・・改めてこれだけは言わせてください。
―――そなたに心よりの感謝を・・・」
そして突然声のトーンを下げて白銀にだけ聞こえるように言葉を続けた。
「そなたが何某かの答えを得る手がかりになると良いのですが・・・」
「え?」
そして殿下は皆に振り返り、元の声量で皆に告げた。
「さて皆様・・・今しばらくお時間をいただくことをお許しください。
長きにわたるBETAとの戦い・・・そして好転しない戦局に我が国民の心も疲弊し蝕まれつつあります。―――されど今の私の力ではそれを癒すことすらかないません。
あまつさえ皆様の多大な尽力を得ながら足手まといとなる始末―――
我が身の至らなさ、未熟さを痛感しております・・・
―――それでも私は民を守りたい。民の心にある魂を・・・『国』を守りたいのです。
―――この想いは全てのこの国の全ての人が持っていると信じています。
決起に走った者たちはその思いが強すぎたのでしょう。思いが純粋故、立ち上がざるを得なかったのです。
確かに彼の者達は同胞を殺めるという重い罪を犯しました。いずれその罪は法によって裁かれ相応の報いを受けることになりましょう・・・
―――されどどうか彼の者達の意気だけは寛恕していただきたいのです。本来その責めを負うべきはこの私なのですから・・・
されどこれ以上この状況を看過するわけにもまいりません。まして私ごときの為に人類の護りたる者達が鬼籍に入るなど…断じてまかりなりません。―――私が自ら決起した者達を説得してまいります」
「「「「「「「な!?」」」」」」」
その言葉は皆に衝撃を与えた。将軍が自ら決起部隊の前に出る。あまりに危険を伴うことだ。
ウォーケン少佐が止めに入る。
「恐れながら殿下!その提案には賛同しかねます!無礼を承知で言わせていただきますが正気の沙汰とは思えません!!」
「―――少佐、そなたのお立場もご意見も重々心得ております。
されど此度の由…承認を求めているのではありません故、そなたに従うこと叶いません…どうか許すがよい」
「で、殿下ッ!?」
「―――月詠、武御雷を持て!!」
凛とした声でそういうと、殿下は颯爽と起ち上がった。


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■作者からのメッセージ
シィカリウスの咆哮はエヴァ初号機の暴走よりもメタルギアピースウォーカーの咆哮をイメージしてください
つまりウォークマンを装備すれば怯みむk・・・ゴニョゴニョ・・・
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