作者:佐藤C
2012/05/01(火) 00:15公開
ID:fazF0sJTcF.
「…………ふあ。」
前触れなく、刹那が可愛らしい欠伸を漏らした。
「…刹那?」
「すっすいません」
放課後の喫茶店アルトリア。冬の日はとうに暮れ、店内の客は疎らである。
カウンター席に座る刹那と会話しているのは、唯一の店員であり店長の士郎だ。
「いや別にかまわないけどさ。…眠いのか?疲れてるのか?」
「……両方、だと思います。もうすぐ学期末試験ですから、その勉強で」
「珍しいな?刹那ってあまり自分から勉強しないだろ?」
「はい。お嬢様の護衛がありますし、鍛練や剣道部の練習で時間を使っていますから。
ですが今回はその…事情がありまして………」
・
・
・
「…………はぁ? 学年最下位を脱出できなかったらクラス解散ん?」
士郎が素っ頓狂な声をあげる。
デマにしてももっとマトモなのがあるだろうにと。
「いえ、あくまで噂であってそんなコトはありえないと思うのですが。
ただ…今回も最下位だとウチのクラスに何かある…というのは本当らしいのです」
「ふ――ん……」
(有り得ないと判ってても、木乃香と離れたくないから一応頑張ってるワケか。
やっぱり大好きなんだなあ……)
幼馴染みの心情を察すると、士郎は奥に引っ込んでそれを持ってきた。
「じゃ、そんな刹那にはこの特製紅茶をあげよう」
その紅茶には、疲労回復作用がある酢を少量と、味を調えるためのはちみつが入っている。
偶然だがさっきまで刹那が飲んでいた日本茶も、体の疲労成分の排泄を促進する効能があるのだ。
「あ、はい。ありがとうございます。それでは…(カチャッ)」
「ああ、するとテストまで朝の鍛練は休んだ方がいいな」
それだけは何故か刹那に渋られた。お前、状況を考えろ状況を。
◇◇◇◇◇
―――これは麻帆良学園に噂される都市伝説……。
馬鹿力のツインテール―――バカレッド
高身長で細目の忍者―――バカブルー
褐色肌の中華武人―――バカイエロー
リボンを自在に操る―――バカピンク
いつも変なジュースを飲んでる―――バカブラック
―――麻帆良女子中等部には、バカ
五人衆が棲んでいる――――。
だがその伝説は実在する。
そしてそんな伝説を為す少女達が今夜、ある目的の元に結集する!!
『テスト最下位のクラスは解散〜!?』
『バラバラになるのはイヤやわー』
『ま、マズイね。足引っ張ってるの私達だし…』
『今から死ぬ気で勉強しても間に合わないアル』
『ここは――……アレを探すしかないかもです』
『夕映!? ア、アレってまさか……!』
『ウチの学校の図書館島に、読めば頭が良くなるという「魔法の本」があるらしいのです。
まあ魔法などありえないですし、大方出来のいい参考書の類かと思いますが。
それでも、手に入れれば強力な武器になるでしょう』
『…………………。』
『―――行こう!!図書館島へ!!』
バカばっかである。
第4話 期末テストと図書館探検
PM:6:52
〜図書館島・秘密の裏口(図書館探検部・
公式情報)〜
バカレンジャーの明日菜、楓、
古菲、まき絵…リーダーの
夕映。
図書館探検部の部員であるのどか、ハルナ、木乃香。……そしてネギ。
総勢八人、選ばれし光の戦士達が図書館島に結集した。
ネギ(…僕、なんでココにいるんだろう……)
シェルパ――実働部隊と連絡を取り合う役割――としてのどかとハルナの二人を残し、
バカレンジャーは夜の大図書館という闇の中へ踏み入った―――。
PM:7:00
〜図書館島・地下3F〜
「往復四時間で帰って来れるハズです」
「一応ちゃんと帰ってきて寝れるねー」
「あ、あのー、皆さん何でこんなトコに集まって……」
「ええーーーっ!? 読むだけで頭が良くなる魔法の本を探しに!?」
(ちょっとアスナさん! 今日僕に魔法に頼るなって言ったばかりじゃないですかー!)
(うっ…ま、まあ緊急事態だしカタいこと言わないでよ。
このまま私達の成績が悪いと大変なコトになっちゃうし。……だから、ね?)
PM:?:??
〜図書館島・???〜
「わあっ!これ凄く貴重な本ですよ!!」
「あ、先生。貴重書を持ち出そうとすると…」
ネギが目を輝かせて棚から本を抜き取ると、
―――ヒュンッ!
――ガシッ!!
「…え?」
嫌な風切り音がした直後、ふわっと顔にかかる風。
…何やら嫌な予感しかしない。ネギが恐る恐る横目で見ると……
………彼の顔から数センチ横に、
本棚から飛び出した矢を間一髪で
掴み取った、楓の腕がそこにあった。
「気をつけるでござるよネギ先生」
「は、はい……ありがとうございます長瀬さん………!(ブルブル…)」
「盗掘者除けの罠が仕掛けられているそうです」
呆然とするネギの横で、夕映はあっけらかんと恐るべき事実を告げた。
ちなみにネギは「魔法に頼り過ぎ」と明日菜に言われて反省し、魔法を封印中――つまりただのお子様モードである。
それを無理やり明日菜に連れ出されたのだから堪ったものではない。
「…それにしても、片手で矢を掴むとはスゴイです長瀬さん(二ヤリ)」
「お褒めに
与り光栄でござるよバカリーダー(フフ…)」
「なに呑気に話してんのよ!?フツー図書館に罠なんてありえないでしょ!?」
「うわーん大丈夫なのーーー!?」
「大丈夫やて。図書館探検部のウチもいるし♪」
その根拠のない自信はどこから来るんですか木乃香さん?
…とまぁそんな出来事を経て、明日菜、まき絵、ネギは、夕映の言葉に恐々としながら歩を進める。
すると何と、目の前には先に続く通路が無かった。
……かと思えば夕映が、吹き抜けから飛び降りて下階の本棚の上に着地し、何でもないように歩き続ける。
「………本棚の上を歩くんですか…?」
「なに考えて作ったんやろねー」
図書館島に所蔵される本の数は膨大であり、館内を埋め尽くす本棚は高さが云十メートルもあるものばかり。
地下階は特にそれが顕著であった。
「た、高いよー、落ちたらケガするー…!」
「――そこ、気をつけてです」
カチッ
「えっ」
まき絵の真下、本棚と本棚を繋ぐ床板が――…こう、「パカッ」と開いた。すなわち…
「キャーーーーーーーーーーーーー!!」
「さ・佐々木さんーーーーー!」
まき絵が真っ逆さまに落下した。
ていうかいちいち忠告がワンテンポ遅くないですか夕映さーーーん!?
「――ううっ―――……!っえーーーーーーいッ!!」
―――ヒュンッ―――シュルルルッ――――ビシィッッ!!
「(ぶらーん…)……あ――、びっくりした」
新体操部員の彼女は咄嗟にリボンを上階の手すりに巻き付け、何とか落下を免れた。
(……アレって新体操のリボンだよね? あのリボンって人の体重を支えられるものなの?
ていうかあそこまで自在に操れるものなの!?)
困惑するネギを尻目に、バカレンジャー一行は進軍を続ける。
――カチ。
「あっ」
再びまき絵が罠を踏んでしまい、上部の本棚が一行に向かって落ちてくるも。
「ハイヤーッ!!!」
古菲が掛け声をあげて飛び蹴りで本棚を押し返す。
だがその本棚に収まっていた大量の本が、雪崩れのようにネギ達目掛けて落下してきた。
「ほいほいほいほい♪」しゅぱぱぱぱっ
しかしそれが何のその、全て一瞬で楓の腕に収まった。
「はい、時間ないからさっさと進むですよー」すたすた…
(夕映さん軽ッ! なんなのこの人達!?)
「ワタシ達、成績悪い代わりに運動神経いいアルから!」
「これくらいなら平気でござるよー」
(そんなレベルじゃないよ絶対―――!!)
古菲の「ワタシ達」という言葉に、まき絵が「え、私も…?」と困惑気味に呟いた。
ええ、気づいてないなら言いましょう。アンタも充分超人です。
「ふふ…流石バカレンジャーです。これなら……!」
隊列の先頭で、夕映は不敵に笑っていた。
「夕映、燃えとるなー♪」
尋常ではない身体能力を武器に、バカレンジャーの快進撃は続く!!
◇◇◇◇◇
その頃、エヴァンジェリン邸。
アウトドアなアクティブ真っ最中の誰かさん達と違い、一家はただいま静かに読書中である。
ソファに座る士郎の太腿を枕にしながら、仰向けでページを捲るエヴァンジェリン。
彼女の為すがままにされながら、士郎もエヴァと同じように本を開いている。
茶々丸は二人の傍に控えて紅茶を淹れるなど給仕をしており、チャチャゼロは棚に安置という名の放置プレイである。
その時、士郎の携帯電話が鳴った。
「…刹那か」
エヴァがピクッと反応する。
彼女は興味の無いフリをして読書しながら盛大に聞き耳をたて始めた。
「もしもし、どうした? ………なに?木乃香が寮に帰って来ない…!?
――わかった、俺が調べよう。だからお前は大人しく勉強してろよ、いいな!」
――ピッ。
「悪い、そういうワケだからちょっと出掛け……おいなぜ睨む?」
Tシャツの上に黒いコートを羽織る士郎を、エヴァンジェリンが不機嫌そうに睨み上げた。
「ふん。こんな平和ボケした場所で大事が起きるわけないだろう、放っておけばいいんだよこのシスコン」
「行ってきます」
「っ!!? …ま、待て士郎無視するな!そう怒るな、私が悪かったから!!」
「ああ、マスターがあんなに慌てて……。
嫌われたくないんですか、嫌われたくないんですね……!」
「…変ワッタナ茶々丸……。」
茶々丸はうっとりした
眼をして、主人の様子をしっかりと記憶容量ドライブに録画保存する。
それを見たチャチャゼロは、妹の成長(?)を喜ぶべきか悲しむべきか悩んでいた。
…外出する青年、狼狽する幼女、恍惚のロボ娘、懊悩する人形。何だろうこの集団は。
◇◇◇◇◇
……一方その頃、図書館探検組は立ち竦んで戦慄していた。
「な………何コレ……!?」
――――☆英単語TWISTER☆Ver.10.5――――
《フォフォフォ……! この『
メルキセデクの書』が欲しければワシの質問に答えるのじゃー!》
RPGゲームのラスボスの間の如き広間で、巨大な二体の人型
石像が動き出す。
彼らはそれぞれ大剣と大槌を掲げて、バカレンジャーの行く手を阻んだ。
……なのに本を持ち出す条件がツイスターゲームというのは何故か?んなモン知らん。
《では第1問、
DIFFICULLTの日本語訳は?》
魔法の本を手に入れるべく…!バカレンジャーがゴーレムに挑む!!
《――第2問、
CUT》
《――第7問、
REMEMBER》
《――第11問、
BASEBALL》
《…よくぞここまで辿り着いた!これが最後の問題じゃ!
DISHの日本語訳は!?》
「やった――!最後だって!」
「え…ディッシュ?」
「ほら!食べる時に使うやつです!」
「メインディッシュとか言うやろー」
「わかった!『おさら』ね!!」
「『お』!」
「『さ』!」
「『ら』!」
「…………『おさ
る』?」
まき絵の手と明日菜の足は、誤って「ら」でなく「る」の文字をタッチしていた。
《…あ〜あ、ハズレじゃな》
「アスナさんーーーー!」
「まき絵ーーーーー!!」
文字を間違えて選択した二人に非難が集中する。
しかしそれを遮るように、ゴーレムが大声で笑い出した。
《フォーフォーフォー! それでは地下でお勉強じゃーーー!!》
―――ドゴォンッ!!
高笑いしながらゴーレムが、手に持つハンマーでネギ達が立つ床を破壊する。
『いやああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』
レンジャーズは絶叫しながら、開いた大穴に仲良く落下していった。
◇◇◇◇◇
…さて、木乃香の魔力を頼りに図書館島に向かっている士郎だが。
「………刹那? 待ってろって言ったよな?」
「お嬢様に危機が迫っているというのなら、それをお守りするのが私の使命です」
そこには士郎に並行して走る刹那の姿があった。
「……ならとっとと仲直りしろよ……(…ボソッ)」
「何か?」
「いや何も?」しれっ
「………あれは?」
二人の視線の先に、のどかとハルナが狼狽している姿が見えた。
「あーわわわどーしよー!!連絡とれないよーー!!」わたわた…
「皆さん、返事してくださーい!!」オロオロ…
「……どうしました?」
「あ!桜咲さん……と、誰?」
「初めまして、お二人さん。俺は衛宮士郎、名字は違うが木乃香の兄貴だ」
「へ?木乃香っておにーさんいたの?」
「それよりお二人とも、何があったんですか?」
「あううー、それが………」
・
・
・
……えーと………。学年末テスト最下位を回避するために?
「頭が良くなる魔法の本」を探そうとして?
危ないトコまで行って連絡がとれなくなったと?
ネギも一緒になって。
………………。
……………………。
……………………止めろよ。
止めろよぉ…………ネギぃ…………。
仮にも教師だろぉ…………!!
(あー…頭痛い。茶々丸ぅー、頭痛薬〜)
士郎はどんよりとした重い空気で、顔を俯かせて目を覆った。
「…あ、あの、士郎さん?」
「あ、の……馬鹿ども…………!」
「「「ひっ!?」」」
そのとき三人は、怒気を纏う士郎の背後に鬼の姿を幻視したといふ。
「早乙女さんと宮崎さん……と刹那。今日はもう帰れ。後は俺がなんとかしとくから」
「しっ、しかし…」
「大丈夫だから…………な?(にっこり)」
「「「はいいぃぃぃぃぃぃ!!」」」
――その時の士郎さんは…笑っている筈なのに、何故だかとても恐ろしく見えたのです。(刹那談)
◇◇◇◇◇
解析と高い身体能力を駆使して数多のトラップを潜り抜け、
士郎は一時間かけずにレンジャーズが落ちていった大広間に辿り着く。
だが彼が着いた時には、広間中央に大穴が空き、一体の
石像が傍に佇んでいるだけだ。
…彼は知らないがもう一体のゴーレムは、レンジャーズと共に大穴へと落下していった。
「さーて、どーいう了見だジジイ」
《ひょ!?士郎、なぜ一発で儂が正体だと………》
「気配がする」
《ひょー………(汗)》
そのニ体のゴーレムを操っていた者こそ……学園長・近衛近右衛門だったのである。
《ふぉっふぉ、流石はわしの
義孫……!》
「どういうつもりだって聞いてるんだが?」
木乃香のこと以外全く聞く耳を持たない士郎の手に、黒い洋弓と、とてつもない魔力を放つ捻れた矢が現れた。
《わ、わかった!わかったからそれを仕舞っとくれい!!》
現在、ゴーレムと近右衛門の感覚は同調している。そこに宝具など喰らったら一溜まりもないだろう。
…まあ、士郎はわかってやっているのだが。
《うーむ……つまりじゃな………》
学園長のお話まとめ。
・今回の学期末試験で2−Aが最下位を脱出できなければ、ネギは正式教員になれずにクビとなる。
魔法使いとしての修行も落第。
・それが噂となって(変な形で)伝わり、2−Aの成績不良者がテスト対策を講じようとした。
・その結果、図書館島の都市伝説「魔法の本」を入手し、その力でテストを乗り切ろうという結論になった…らしい。
《それで少ぉ〜し懲らしめるために、まぁ突き落したワケじゃ》
字面だけを見れば何とまあ、物騒なお仕置きである。
「……大丈夫なのか?結構深いだろこの穴?」
言いながら士郎は大穴を覗き込む。そこには真っ暗な闇しか見えない。
《フォフォ、その辺りは無問題じゃ。落下中に魔法で気絶するようになっておっての、着地時は風魔法で優しくキャッチ。
目が覚めた時には、魔法などと気づくことなく「穴から落ちてきた」と勘違いするようになっておる!!
儂が直々に作った術式じゃからネギ君でも簡単にはレジスト出来んぞ!! そもそもあの高さから落下して気絶せぬ者の方が少ないがのぅ》
「…………無駄に凝ってるな……」
士郎は呆れて言ったのだが、気を良くした近右衛門ゴーレムは得意気に話を続ける。
《それだけではないぞい!あの子らが落ちた「地底図書室」には全教科の参考書(一教科につき十種類ずつある)と食料・キッチンを完備! 明るい光に溢れ、気温と空調は快適じゃ!!》
(………その情熱を1%でいいから仕事に回してくれ……)
しずなとタカミチの苦労を思い、士郎は心の中で涙した。
《おいおい様子を見て、地底から出してあげるつもりじゃ。
魔法に頼ろうとしたあの子らが地底でマジメに勉強するかは、ネギ君次第じゃな》
「そうだな。じゃあ俺も行ってくる」
《…ふぉ?》
「キッチンあるって言ったけど、アイツらは料理する時間も惜しいんじゃないか?だから行って来る。
早乙女さんと宮崎さんが心配してたから、クラスの娘達にも連絡しといてくれ。あ、俺のこともエヴァに言っといてくれな」
《ふぉ!?待つのじゃ士郎、それは…》
「じゃあな」
ひょーいと瓦礫を跳び越えて、士郎はバカレンジャーを追って大穴に飛び込んでいった。
(エヴァに伝えたら、それ……儂が八つ当たりされるんじゃないかの士郎ーーーーーーーー!!?)
大広間には、顔を青くした近右衛門ゴーレムだけが取り残された。
◇◇◇◇◇
……翌日、朝のHR前の2−A教室では。
「何ですって!? 2−Aが最下位を脱出しなければネギ先生がクビに!?」
ネギLoveのクラス委員長・雪広あやかが悲鳴をあげていた。
「く…何ということでしょう。問題はアスナさんたち
五人組ですわね……」
「みんなーーー!ニュースニュース!!
アスナ達とネギ先生、今日から三日間、特別学習室で合宿だって!!」
ハルナとのどかが息を切らせて教室に入って来た。
「な…っ!? 『ネギ先生とラブラブお泊まり会』ですって!?ズルイですわッ!!」
「ちょっ、いいんちょソレ違う」ヾノ・ω・)
「特別学習室?どこそれ?」
「合宿だってー♪ 楽しそーじゃない?」
「ていうか今日ネギ先生の授業あったよね」
「あの五人はわかるけど、なんでこのかも参加なの?」
「あ、そうそれ。保護者としてこのかのお兄さんも一緒なんだって」
「へー、このかってお兄さんいたんだー」
「あたし達昨日会ったよー」
「えっ!どんな人!?」
「ん〜けっこーカッコよかったかな?顔も整ってたし、身長は龍宮さんくらいあったし」
「えーー!!会ってみたーーい!!」
(マ、マジか………!!)
クラスが士郎(とネギ達)の話題で盛り上がる中、長谷川千雨は絶望した!
(てことは…「アルトリア」は休みかよ!? テスト前の最後のリラックスタイムが………)
「皆さん! アスナさん達が頑張っているのに私達が負けるわけにはいきませんわ!!
ちゃんと勉強して最下位脱出、ネギ先生のクビ回避ですわよ!!」
『おおーーーーーーーーー!!』
クラスが一致団結して盛り上がる中。
士郎が帰らなくて機嫌の悪いエヴァを宥める茶々丸は、一人落ち込む千雨に気づいて首を傾げた。
◇◇◇◇◇
レンジャーズが落とされた「地底図書室」は樹木の根に支えられた広大な空間で、常に何処かから木漏れ日のような明かりが射しこんでいた。砂地とそこに流れ込む水がまるで、浜辺にいるかのような佇まいを形作る。かと思えば樹木の根に取り込まれた建物が遠くにあり、整備された通路や東屋まで備えられていた。
そして今日は、テストを明日に控えた日曜日。地底図書室の面々はというと――。
「この問題がわかる人?」
「はーい! y=2(x-2)-1です!!」
「正解です!!」
「やたーーー!!」
『おおおーーー!!』
絶賛勉強中だった。
学園長の言う通り色々と至れり尽くせりな場所ではあったが…案外足りないものも多く、
ネギが見つけた黒板と、士郎が(こっそり)投影した机と椅子で授業が行われていた。
ちなみに士郎はと言うと。
「おーい皆、昼メシできたぞ――」
「わーーい!!」
「待ってましたーーーーー!!」
士郎は給仕を務めていた。この男、何処に行っても主夫である。
彼は当初、魔法でテストをどうにかしようとした彼女達を説教しようと思っていたのだが……
地下に着けば真面目に勉強する彼女達の姿があり、タイミングをすっかり失ってしまっていた。
(……頑張ってるみたいだし、まあいいか…)
「師父、これ食べ終わったら食後の運動に手合わせお願いするアル!」
「古ちゃん、その呼び方はやめてくれ…」
「おお、今日の昼食は和食でござるか」
「しろーさんってなんでも作れるんだねー♪(もぐもぐ)」
「卵焼き、かぼちゃ煮、こんにゃくのおかか煮、野菜の肉巻き炒め、ほうれん草のおひたし、鶏肉の照り焼き、きのこの炊き込みご飯、大根とにんじんのお味噌汁………ふむ、お袋の味ですね。(ズズ……)」
「ホント美味しいわよね。桜咲さんと龍宮さんも士郎さんの店に通ってるし」
「二人に会ったでござるか?拙者も士郎殿のプリンが好物でござる♪(ちらっ)」
(アレ?遠回しにプリン欲しいって言ってる?)
そんなこんなで、彼女達は食後の昼休みを迎えた。
「師父! 早速手合わせを―――」
「テストが終わったらな。ほらほら勉強」
「あ、皆さん。水浴びしてるん…です…か…」
「「「キャーーーッネギ君のエッチーーーーーーー!!(笑)」」」
「あ、あわわっ、スミマセン!!」
「本に囲まれて暖かくてホント楽園やなー♪」
「一生ここに居てもいいです」
「コラ。木乃香はともかく、夕映ちゃんはンな余裕ないだろが」
「そんなことを言いつつ差し入れを持ってきてくれる士郎さんはいい人です」
「あ、アイス作ったん? 美味しそーや♪」
「な、何よそれぇ!!クラス解散とか留年とかはデマなの!?」
「はい、そうだと思います。本当は僕のクビがかかってるんですけど」
「だったらこんなヘンな図書館になんか来なかったわよっ!!」
「ええっ!?アスナさんヒドイ!!」
穏やかな時間が平和に過ぎてゆく中――――ソレは、唐突にやって来た。
「キャーーーーッ!大変やーーーーーっ!!」
『―――あ!』
木乃香達の前に現れたのは……彼女達をここに突き落した、ゴーレムの片割れだった。
《フォフォフォーー! ここからは出られんぞ、ここには出口など無い!!》
(……ノリノリだなじいちゃん…。つーか「様子を見て出してやる」って言ってたよな?
こんな登場でどうするつもりだ?)
《フォーフォーフォー!》
―――ズシーン、ズシーン、ズシーン、ズシーン……!
(……おいおい追い回し始めたぞ!?)
『キャーーーーーーーーーー!!!』
迫り来るゴーレムから、明日菜達は悲鳴を上げて逃げ始めた。
常人離れしたメンバーもいるにはいるが…自分達を地底に落した張本人が相手では、
ほとんどのメンバーがいつもの元気を発揮できずにいるようだった。
(こんな怖がらせるような手段でどうする気だじいちゃん!? ………ああ、しょーがない)
バカレンジャーズと一緒にゴーレムから逃げながら、士郎は溜息して足を止めた。
「――皆!あの滝の裏に隠れろ!楓、皆を頼む!古、アイツの足止め手伝ってくれ!!」
「わ、わかりました!」
「任せるでござる」
「りょーかいアル!」
(この地底図書室の構造は解析済みだ…あの滝の裏に非常口がある。このままいけばアイツらも見つけるだろう)
走って行く明日菜達の
殿を楓が務め、士郎は古菲と共にゴーレムと相対した。
「中国武術研究会・部長の
実力を見るアルよ!
――ハイ!!―――ヤッ!!」
掛け声と共に古菲はゴーレムの左脚部に拳を打放ち、直後すぐさま跳び上がって右腕部を蹴り上げる。
痛みと衝撃でゴーレムはよろめき、その隙に士郎はゴーレムの首もと…顔の正面に到達した。
(―――『
戦いの旋律』…!!)
『戦いの旋律』。肉体に魔力を流し・纏うことで身体能力を上昇させ、攻撃面・防御面ともに強化する近接戦闘呪文のひとつ。
無詠唱でそれを発動した士郎は、足を後方へ振りかぶる。
《!! ちょっ――待つのじゃ、しろ…》
「ボールは友達ッ!!!」
《ひょーーーーーーーーーーーーー!?》
――――ボガンッッ!!!
サッカーボールを蹴る要領でゴーレムの頭を蹴り砕く。
あれだけ口が達者だったゴーレムは、そのまま無言で倒壊した。
――ズズゥン……。
「…あのゴーレム、最後に何か言わなかったアルか?」
「さあ、気の所為じゃないか?」
「古菲さん、士郎さん!出口がありました、脱出しますよ!!」
「お!?出口があったアルか!!」
「おし、これで帰れるな」
・
・
・
地底と地上とを繋ぐ、直通エレベーターの扉が開く。
「わ、眩し………。」
「やったーーー!!外に出れたーーーーーーー!!!」
「いえ――――っ♪」
こうして八人+一人は無事に生還し、明日菜達はテストまでの時間をひたすら勉強に費やしたのだった。
◇◇◇◇◇
「―――というわけで……。」
なんと2−Aが、学期末試験で学年トップの点数を叩き出したという。万年最下位を脱出させられなかったタカミチの苦労が偲ばれる。
この大金星によって見事、ネギが四月より正式な教員になる運びとなった。
そして…お祭り好きな2−Aがこれで何もしない訳はなく。
『2−A学年トップおめでとうパーティー!!!』
『いえーーーーーーーい!!!』
今回の件に関わった士郎が喫茶店の店主ということで、2−A女子31人がアルトリアに(強引に)押し掛けたのだった。
「…ウチの店、定員が二十人くらいなんだけど………」
「詰めればなんとかなるって♪」
「師父の料理の美味しさなら狭くても問題ないアル♪(もきゅもきゅ…)」
「何コレ!?お、美味しい!」
「こんなお店が近くにあったなんてね――」
「また来よっか?」
「ほら、むしろ常連が増えそうだよ♪」
(くっ…なんてこった、あたしのオアシスが……!)
「…あんまり増えても困るんだけどな」
「だってさ朝倉。記事にするのはやめといた方がいいんじゃない?」
「…チッ」
「え?なにその子?」
「よくぞ訊いてくれました! 報道部の突撃カメラマンと言えばこの私・朝倉和美!
どーよこのかのお兄さん、宣伝のためにも取材受けない?」
「………いや、遠慮しとく」
「…チッ」
「ええい士郎!いつまで他の女とばかり口を利いてる!!」ばんばんっ!
「ああ、マスターが寂しがって……」
「五月蠅いボケロボ!!」
「ネギ君、先生おめでとーーー!」
「えへへ、ありがとうございます!」
喫茶店アルトリア、定員オーバーで営業中。
騒がしいその店は、まだまだ閉まる気配がなかった。
<おまけ>
これは後日、夜の喫茶店アルトリアで見られた光景である。
タカミチ「そうですか……2−Aが……」
――カラン…。
タカミチが持つグラスの中で氷が揺れる。
明石「………。」
ガンドルフィーニ「…………。」
両脇の席に座る他二人も各々のグラスを手にしている。
だが今のカウンター席は、どうにも酒と酔いを楽しめる空気ではない。
ちなみに夜の『アルトリア』は酒も出るし喫煙もOKである。
タカミチ「……あの子達が…最下位から…学年一位に………」
明石「………。」
ガンドル「…………。」
以前、彼女達の担任をしていたタカミチは、どんな対策を講じてもあのクラスを最下位から脱出させることができなかった。
それがネギ――僅か10歳の子供先生が担任になると覆ったのだから、悔しくないと言えば嘘になる。
タカミチは少しだけ寂しそうに笑みを浮かべて…フッと軽く息を吐いた。
タカミチ「……本当に良かった。あの子達は、頑張ればできる子達なんですよ」
タカミチ「…………それに引きかえ僕は………本当にダメな奴だなぁ……(泣)」
がっくりと肩を落として落ち込むタカミチ。
明石教授とガンドルフィーニは何も言わずに、彼の肩を優しく叩いた。
士郎(…ここで祝勝会をやったなんて言えねぇ……!)
店主が流す冷や汗に、幸い彼らは気づかなかった。
〜補足・解説〜 小説内で描写されない、特に解説がない部分はほぼ原作通りです。
>それだけは何故か刹那に渋られた。
刹那からすれば朝の鍛練はデートですw (←にじファン時代に読者様から頂いた感想)
>――――麻帆良女子中等部には、バカ五人衆が棲んでいる――――。
「魔法使いの夜」のキャッチコピー、"坂の上のお屋敷には、二人の魔女が住んでいる―――。"をモジったものです。
>図書館島・秘密の裏口(図書館探検部・
公式情報)
ぜんっぜん秘密じゃねえ。
>エヴァンジェリンが不機嫌そうに睨み上げた。
すなわちジト目(半眼)の上目遣いである。
そう…つまり最強だ……(お前は何を言ってるんだ
>チャチャゼロは妹の成長(?)を喜ぶべきか悲しむべきか悩んでいた。
マクダウェル家ではチャチャゼロが一番の常識人になりつつある。
そしてこの現象、ネギま!二次小説ではよくある事らしい。
>木乃香の魔力
彼女の魔力はまだ目覚めておらず、現時点ではまだ潜在的です。
しかし「誰しも魔力を持っている」とされており、覚醒していなくとも微弱な魔力を持っていて、士郎はそれを探知して木乃香を捜しています。
>儂が八つ当たりされるんじゃないかの士郎ーーーーーーーー!!?)
「何ィ!?士郎が数日帰らないとはどーいうことだ!?」byエヴァ
次回、『ネギま!―剣製の凱歌―』
「第5話 春休み 縁談謀略&麻帆良ハイク」
それでは次回!