作者:佐藤C
2012/05/01(火) 01:13公開
ID:fazF0sJTcF.
第11話 誕生日会と飲み会
「ん〜〜〜♪ 美味しーーーーーー!!」
喫茶店アルトリアに、明日菜の至福の声が響いた。
……洋梨とブルーチーズ、トマトと生ハム、海老と野菜のフリッター、スペアリブのハニーグリル、牛フィレステーキ切り分け、
炙りマグロのカルパッチョ、ピザ、フライドチキン、フライドポテト、コーンポタージュ、鳥ガラスープ、コンソメスープ……
白いテーブルクロスが敷かれた木製テーブルの上には、所狭しと様々な料理が並んでいる。
明日菜はそれを口一杯に頬張りながら、思わず目尻を下げていた。
「ホンマやなぁ♪シロウのごはんはいつ食べても美味しいわー♪」
「…士郎さんは何でも作れるのですね」
「取材受けて広告出せばもっと儲かると思うのになぁ〜」
「この味でこの値段はお得だよねー」
そんな彼女の周りには、嬉々として大皿から料理を取り分ける少女達がいた。
「……ちょっと。なんでクラスの皆も来てるのよ!?」
その1‐明日菜の誕生日
アルトリアはこの日の夕方、3−Aクラスによる貸し切りと化していた。
何故かと言えば――…本日4月21日は、明日菜の誕生日なのである。
本来はほんの数人が参加する程度の、もっとこじんまりした催しになる筈だった。
しかし当初のメンバー…明日菜、木乃香、ネギの三人に加え、時間が経つほど徐々にクラスメートが来店し……。
気づけば何故か、クラスのほぼ全員が小さな喫茶店に集結していた。
お陰で士郎は現在、足りない分を調理するため厨房に入りっ放し状態だ。
しかし「忙しい忙しい」と零しながらも楽しそうに作業をしている辺り、やはりコイツ根っからの料理人である。……いや、主夫か?
……春巻き、小龍包、シューマイ、麻婆豆腐、海老チリ、白身魚のチリソース、鶏の唐揚げ、春雨サラダ。
春雨スープ、ワンタンスープ、手鞠寿司、五目ちらし寿司、茶碗蒸し………
そうしている間にも、料理は減ったり増えたりしていく。
「本当に美味しいですわね。ウチのシェフにも食べさせてあげたいですわ」
「え――!?そんなに!?」
「……てかスゲー…専属シェフいるんだ……」
「…だから、なんで呼んでないのに来てるのって――」
「まあまあ、大勢でやった方が楽しいじゃん?」
「気にしたら負けだよーアスナ♪」
そう言って笑いながら明日菜の肩を叩くのは、…………3−A随一の噂拡散能力を持つハルナと、報道部記者の朝倉だった。
「あんたらか――――っ!!」
「「……てへっ♪」」
――そう、ここまで大所帯のパーティーになったのは主にこの二人の仕業である。
ハルナにバレれば麻帆良に、朝倉にバレれば世界にバレると言われているのだ……。
(……まあ、でも………)
――ショートケーキ、チーズケーキ、ガトーショコラ、抹茶ロールケーキ、杏仁豆腐、
白玉クリームあんみつ、フルーツあんみつ、焼きプリン、かぼちゃプリン………
(な、なんだ……?龍宮と長瀬が黙々とデザート食ってやがる……!?)
「ん〜♪このかぼちゃプリン美味しいでござるよ♪(もぐもぐ…)」
「楓、このあんみつもなかなかイケるぞ?(ぱくぱく…)」
(……こんな大人数で誕生日パーティーなんて、初めて―――)
「よーし出来たぞ!!ホラホラ皆、道空けてくれ!!」
「会心の出来」と言わんばかりにニコニコしている士郎が、厨房からガラガラと台車で運んできたのは―――
…高さ1mはありそうな、それは大きなバースデーケーキだった。
「スゴッ!!大っきーーーーー!!」
「凝ってる―――!!」
「え、ちょっと何アレ!?衛宮さんってパティシエ!?」
※完全なる我流です。
「ほらネギ、お前がまとめろ。先生だろ?」
「え? う、うん! ……えーと…コホン。
アスナさん!!お誕生日おめでとうございます!!!」
『おめでとーーーーーーーーーーーっ!!!』
―――ワーーーーーーーーー!!!
パチパチパチパチパチ……ッ!!
「…………ありがとう…みんな。わ…私……私、嬉しいよっ!!」
その後も誕生日会は盛り上がり続け、大盛況で幕を閉じた。
◇◇◇◇◇
「へー、そんなことがあったのかい」
その日の夜。喫茶店アルトリアは引き続き貸し切りの状態にあった。
何があるのかといえばそれは……主要な魔法先生による打ち上げ会。
正確には打ち上げと言うよりも、先日の結界停止事件の慰労会のようなものであった。
その2‐大人達の飲み会
そこには、ぐったりとカウンター席に倒れ込む士郎と、その正面に座るタカミチがカクテルを飲んでいた。
「……
3−A元気過ぎですよ、どうしてあんなに騒ぎ続けられるんだか。あのスタミナは異常でしょう」
「はは。元気なのは良いコトじゃないか」
「…さすが元担任。笑って言えませんよそんなコト。…特にあの集団には」
「ハハハ」
疲れた顔で言う士郎に、タカミチは軽く笑ってそう返す。
こうして彼は先程から士郎の愚痴を聞いている。
辺りを見渡せば、他の面々も自由に楽しんでいた。
弐集院と明石は窓際のテーブル席に座り、何やら魔法談義に花を咲かせている。
その他のメンバーは士郎とタカミチから離れたカウンターに座っており……。
黒人教師ガンドルフィーニが、後輩の瀬流彦を捕まえて絡み酒。
刀子とシスターシャークティは、神多羅木を挟んで三人並んで座っていた。
「けどね士郎君。出張から帰って来た時にあの子たちの笑顔を見ると……何だか元気が湧いてくるんだよ」
「……俺はその境地には至れません、無理です。
常にアイツらと一緒にいるネギの苦労が計り知れませんね…」
「おーい士郎君!枝豆と唐揚げ、あと生ビールを追加してくれー!!」
「食い過ぎ、飲み過ぎですよ弐集院先生ー」
「わかってるよ、最近娘にも「パパ太り過ぎ!」なんて言われちゃってね。これで最後にするから!」
「…わかりました、本当にこれで最後ですからね」
そう言って士郎は厨房に入って行った。
「……どうじゃ、楽しんでおるかの?タカミチ君」
すると、学園長・近右衛門がタカミチの後ろから話しかける。
彼はそのままタカミチの隣に腰掛けた。
「………のう、タカミチ……」
「…どうしたんですか、改まって?」
近右衛門は物憂げに息を吐き、自身が持つお猪口に注がれた日本酒を覗き見る。
水面に映る、皺だらけの自分の顔。
そこに隠しようのない憂愁を見て、彼は再び重い溜め息を吐き出した。
……そして彼は、その一言を口にした―――。
「何で誰も、わしと飲んでくれんのかのう!?」
今まで彼は店の隅っこで、一人ぼっちの酒を寂しく飲んでいたのである。
「………そ、それは僕にはちょっと………」
言葉に詰まるタカミチの耳に、周りの声が聞こえてくる。
「瀬流彦君、私は自分が不甲斐無いよ……大型の悪魔が来ても何もできなかったんだ……」
「そんなに落ち込まないでくださいよ。他に悪魔が大勢いて身動きとれなかったんでしょう?仕方ないですよ。
それに何の被害も出なかったんだからいいじゃないですか」
「仕方ないとはなんだね!?この学園と生徒を護るのが私達の使命なんだよ!?
高畑君が居なかったらどうなっていたことか……聞いているのかい瀬流彦君!!」
「あーはいはい聞いてます!あーもう慰労会なんですからもっと気楽に飲みましょうよ!!」
「はあ……最近仕事が忙しくて、彼氏に会えてないんです………」
「…刀子先生。申し訳ありませんが、そういう話は
修道女ではなく懺悔室で神父様にお願いします」
「そうだな、いっそ修道女になったらどうだ葛葉? 一生を神に捧げれば結婚を意識しなくて済むぞ?」
「斬りますよ?」
「………スマン」
「ホレ、皆楽しそうに飲んでおるじゃろう………」
「そ、そうですね……」
果たしてそうだろうか……。主に瀬流彦とか。
「…タカミチ。士郎にはもう……話すべきかのう?」
何気なく出されたその言葉に、タカミチは微かに目を見開いた。
「………切嗣氏のこと、ですか?」
近右衛門はとっくりから、空になったお猪口に酒を注いで頷いた。
「アレはもう一人前じゃ。話しても受け入れてくれると思うのじゃが………。
……わし自身が、踏ん切りがつかんでのう」
初めて顔を合わせた時の……赤毛と紅い瞳を持つ、真っ直ぐな眼をした少年の姿。
それが脳裏に思い出されて、タカミチは僅かな険を顔に浮かべた。
「初めて
士郎君を見た時は……彼が
あの衛宮切嗣の息子だとは信じられませんでした」
「悪名ばかりが伝わっておるからのう。じゃが奴が戦い続けた理由を知れば、誰もが親子と納得するとわしは思うておる。
根っこの部分は間違いなく父親譲りじゃよ。他人を優先し過ぎる、あの性格は………」
「あなたに彼の話を聞いた時は本当に驚きました。かの"魔術師殺し"がそんな男だったのかと……」
近右衛門のお猪口は、再び空になっていた。
「――はいお待たせしました弐集院先生。枝豆と唐揚げに、あとビールです。
太り過ぎて娘さんに嫌われないようにしてくださいよ」
義理の祖父の会話には気づかず、士郎は料理を運んで行った。
「ハハハ、わかってるよ。でも…いつかはウチの娘にも反抗期が来て、「嫌い」とか言われちゃうんだろうなぁー……」
「それは仕方のないコトでしょう。
でもウチのゆーなは反抗期らしい反抗期が来なかった代わりに、今でも小学生みたいなこと言って私にベッタリなので…それも困りますけどね……」
「聞いているのかね瀬流彦君!!」
「あーはいはい聞いてます聞いてますって!!」
「しかし……神父様ですか。行ってみましょうか…最近少し、気になることもありますし…」
「何だ、恋人と上手くいってないのか?それとも他に気になる男でもできたか」
「(びくっ!)…き…斬りますよっ!?」
「…? ああ、すまん」
こうして店の夜は更けてゆく……。
〜補足・解説〜>料理
作者は料理に詳しくないので、料理の品名はネットから掻き集めてきました。
調べてもフリッターが分からない…。
>時間が経つほど徐々にクラスメートが来店し…
この日の日中は原作通り、ネギ&木乃香、そしてそれを尾行するチア三人娘、いいんちょ、明日菜が渋谷に行っていました。
なのでそのまま、なし崩し的に情報が漏れていき…という流れです。
>麻婆豆腐
…何もないですよ。いくらFateとのクロスオーバーだからって何も起こらないですからね!
>ウチのシェフに食べさせてあげたいくらいです」
Fate原作では「玄人裸足の腕前」という公式設定ですが、ウチの士郎は「作る料理によってはプロレベルの腕前」です。…あれ、玄人裸足と似たようなもの?
今話では、手毬寿司や茶碗蒸しがいいんちょのお眼鏡にかなったようです。
>この二人の情報拡散&発信能力を舐めてはいけない。
作者の感覚では、ハルナは狭く速く、朝倉は確実に広範囲に情報を広めるイメージです。
>白玉クリームあんみつ、フルーツあんみつ、焼きプリン、かぼちゃプリン………
あんみつとプリンを二種ずつ出したのは、常連の忍者と巫女スナイパーのため。
>かぼちゃプリン
パンプキンプリンと言わないのは作者のポリシー。
>高さ1mはありそうな、それは大きなバースデーケーキ
凝り始めたら止まらなくなり、最後にはノリノリで作業した結果です。
>悪名ばかりが伝わっておるからのう…。
ただし魔法世界(主に帝国周辺)だとその限りではありません。
切嗣の詳細は、いつか投稿する予定の設定話で。
次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
『過去話T、京都編 関西呪術こども協会』
それでは次回!