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ネギま!―剣製の凱歌― 過去話W、英国編B White snow/Crimson blood.
作者:佐藤C   2012/05/15(火) 20:21公開   ID:CmMSlGZQwL.




「…失礼する!」
「校長! …そちらの方は?」

 ドナは困惑しながら二人の人物を招き入れる。
 ネヴィル家の玄関を乱暴に叩いたのは…校長とアドルフ。
 彼らはそのまま上がり込んで家主の前にやって来る。

「お久しぶりです校長。…それで、いま何が起きているのですか?」
「話が早いなバートランド。詳しい話は彼がしてくれる」

 校長の視線の先で、アドルフがディアナの前に屈みこんだ。

「…何があったディアナ」

《……すまんアドルフ。時間稼ぎも連絡も出来なかった……お前の所まで辿り着くこともできずにここで力尽きたのだ。
 ……まさかそれが、あの小僧の家に着くとは》

 まるで運命の様なものを感じる――……とは、口にしなかった。

「何があったと訊いているのだ!!」

 アドルフが声を張り上げる。
 それを見て躊躇うように彼から目を逸らして……ディアナは再び銀の瞳を彼に向けた。



《……奴だ。“コーンフィールド”だ》


 その名前を聞いたアドルフと校長の顔色が変わったのを、ドナは確かに見た。




 ◇◇◇◇◇



 ―――イメージしろ。
 現実で敵わない相手ならば想像の中で勝て。
 自身が勝てないのなら勝てるものを幻想しろ。

 二十七の撃鉄よ…上がれ。魔力よ奔れ。
 このボロボロの身体にもう一度、立ち上がる力を……寄越せ!!


「――――同調開始トレース・オン









     過去話W、英国編B White snow/Crimson blood.









『――――同調開始』


「……む?」


 気の所為か、後ろから声が聞こえた気がして、吸血鬼は足を止めた。
 いま彼の後ろにいるのは死にかけの少年一人。声を出す余力すらない筈だ。訝しみながらも彼は後ろを振り返る。
 直後、彼はその行為を後悔した。


 全身に突き刺さる――――氷のように、冷たい、殺気。

 吸血鬼は、無限の剣に貫かれる己の姿を幻視した。


「………な」


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――――痛、い。

 激痛を伴う威圧感プレッシャー。まるで体を、氷の様に冷たいつるぎが貫くような幻覚イルージョン

 そう幻覚だ。幻覚だと、解っているのに。

 目の前に立つ少年から・・・・・・・・・・放たれるそれに・・・・・・・吸血鬼は・・・・抗う術を知らなかった・・・・・・・・・・





 ◇◇◇◇◇



 ――身体状況。損傷が著しいが、今は全ての傷が塞がっている。
 ――残存魔力。ほぼ満タン。
 ――戦闘意欲―――充分。
 ―――結論…“戦闘可能”。

 だが体は相変わらずボロボロだ。…一回。
 後一回動いただけで、このボロ雑巾の様な身体は今度こそ機能を停止するだろう。

 ……だが、それがどうした?
 それが眼前の男を見逃す理由には為り得ない。

 ――――投影開始。
 集中しろ。イメージしろ。己の裡の設計図を探し出せ。

 潜る。潜る。己の心へ、心象世界へ。敵を滅ぼしうる幻想を検索する。

 そして彼は剣の丘の中心から――――その剣を引き抜いた。


投影、完了トレース・オフ

 紺青こんじょうの装飾踊る黄金の西洋剣が、士郎の手中に顕現した。


「殺るだけ殺って逃げようなんて…道理が通ると思うなよ………!」


 一歩、士郎が踏み出した。


「………ッ!!」

 息を呑む。
 黄金の剣が振り撒く輝きが、纏う魔力の奔流が吸血鬼を恐怖させた。


(何だ…何だあの剣は!! 何であんな代物を…あんな子供が持っている―――!?)


 更に一歩、士郎が踏み出す。…一歩、吸血鬼が後退った。


(マズイ………実にマズイぞ……ここは予定通り一刻も早くこの場から離れ―――)


「逃げるのか?」


 その声が、黒衣の男を縛りつけた。


(……逃げ、る?)


 ………冗談ではない。
 私は吸血鬼、夜を支配する怪物!!
 それが、何故、私が何故、何故、何故!あのような子供から逃げねばならぬのだ!!
 吸血鬼わたしが子供に負ける道理など…ある筈が無い!!


 更に一歩、士郎が踏み出す。
 ―――吸血鬼も一歩、前に出た。



「……………。」
「……………。」


 正面から相対して対峙する男と少年。互いが互いの瞳を射抜いて睨み合う。
 二人の距離はおよそ5m。
 呪文の詠唱が終わる前に斬り伏せれば士郎が勝つ。
 斬りつけられる前に魔法を放てば吸血鬼が勝つ。

 撃たれる前に斬るか。斬られる前に撃つか。


(――――………。))


 果てのない静寂は一瞬で破られた。

 ―――黒衣の男が腕を前に突き出して。


「ヴァロス・ヴァロッサ・ハイレディン!闇の精霊23柱、集い来たりて敵を射て!
 『魔法の射手サギタ・マギカ連弾セリエス闇の二十三矢オブスクーリー―――――――――!!」

 二十三の矢が獲物へ向けて、漆黒の魔力を収束させて加速する。
 だがその光景を見て尚……士郎は微動だにしなかった。


(やはり立っているのがやっとか!!この戦い…私の勝利だ―――!!)


 吸血鬼が口元を歪めたのと同時。
 士郎もまた、口の端を不敵に吊り上げた。


「動きを、止めたな」


(!?)


 己の攻撃を確実に当てるには、敵の動きが止まっている時を狙えばいい。
 敵の動きが止まる時…それは。
 敵が攻撃する直前。攻撃の直後。そして…敵が勝利を確信した時。

 士郎の体を矢が貫くまであと一秒。
 剣を持った右手に力が籠もる。

 担い手の意志に応えて、その輝きをはげしくする黄金の剣。
 士郎はそれを両手で強く握り締め、闇を払うべく振り上げる――――!



「――――勝利すべき黄金の剣カリバーン――――――――――!!!」


 飛翔した黄金の斬撃が、漆黒の矢を容易く呑み込んで蒸発させる。
 壮烈な煌きは勢いを増し続け――――


「な…!?―――ぬぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


 纏う魔法障壁ごと、吸血鬼を斬り裂いた。


 『勝利すべき黄金の剣』。
 担い手が騎士道を往く限り、あらゆる勝利へ追い風を与える王の剣。
 そしてこの宝具が真の力を発揮するのは…伝承が残るここ英国ブリテン

 ―――伝説が体現されるのなら。
 伝説が吸血鬼に、英雄が怪物に敗けることなど有り得ない。

 この結果は当然のものであり、初めから決まっていたこと。


      幾たびの戦場を越えて不敗。
 “I have created over a thousand blades.”


 敗ける道理は、何処にも無い。




 ◇◇◇◇◇



「ぐあっ……ぁあ……グアああアァァアアあアあアッ!!!」


 その肉体に大きく刻まれた一条の傷痕、露になった血肉からは鮮血が吹き出している。
 ―――怪物は、まだ死んでいなかった。
 そして士郎の右腕もズタズタに裂かれたように傷ついていた。…だがそれは大した問題ではない。
 今、体中の傷が開いたことに比べれば。

 確かなのは………吸血鬼を、殺しきれなかったという事実。
 確かに敗けはしなかった。だが今の士郎では、勝つこともできなかったのだ。


「…ぐ……ッ!!」

 ―――ドサッ…

 カリバーンが霧散すると同時、呻きを漏らして士郎はその場に崩れ落ちた。
 斬撃の余波で壁が吹き飛び、二人が戦っていた部屋に冷たい外気が入り込む。
 冬の風が容赦なく、士郎の身体に吹きつけた。


『………お久しぶりですね。アドルフ・サクストン』

(………?)

 霞がかってゆく意識の中、その会話が耳に入った。


『遅かったか……貴様…!!エレナに手を出したばかりか…シロウまで…!』

『………「シロウ」。そうか、その少年はシロウというのか』

『…そんな事を気にしている余裕があるのか?…貴様はここで私に倒されるのだ!!』

『無理ですよ、貴方では。私を倒せるのは…私を殺す権利があるのはその少年だけだ』

『………どういう意味だ』

『フ…貴方に話す必要はない』

 傷の痛みに脂汗を浮かべながら、彼は侮蔑の笑みを浮かべてアドルフの問いを一蹴する。
 そのまま苦悶の表情で息を吐いて…吸血鬼はアドルフの背後を見た。


心して聞けシロウ…まだ意識はあるハズだ……


 放たれるその言葉は…まるで呪詛の様であり。


『…私が憎ければ…いつか魔法世界ムンドゥス・マギクスに来るがいい!』


『いま君に名乗りを挙げよう!我が名は吸血鬼、ボールドウィン・コーンフィールド!
 何時か来るその時までにこの傷を癒し、君との殺し合いに備えよう!!』


 運命の敵手に出会えた、歓喜の祝詞のりとの様でもあった。


『私が憎ければ追って来なさい…………魔法世界まで』


 その言葉を最後に、士郎の意識は暗転する。
 壁の向こうで深々と降り頻る…聖夜の白雪はくせつを視界に収めて。




 ◇◇◇◇◇




 Side 士郎



「………やあ、起きたかい士郎」


 俺が目を開けると、俺のすぐ隣にバートおじさんが座っていた。
 おじさんは俺の顔を覗き込んで安堵の表情を浮かべている……何でだ?
 白い天井…消毒液のような匂い…ベッドの上………ここは、病室?


「シロウ!目が覚めたのね!!」

 おばさんが目尻に薄っすらと涙を溜めて俺の視界に飛び込んできた。……どうやら凄く心配をかけたらしい。
 ……心配?


「…士郎、覚えてるかい?」

(―――!!)


 ――ガバッ!!


「おじさん!!エレナ…エレナさんはっ……!?」

 勢いよく上半身を起こす。何故か傷は痛まなかった。魔法で治癒されているのだろうか?
 だが今はそんなことどうでもいい。彼女は…エレナさんは無事なのか……!?

「ああ、彼女なら昨日退院したよ。君は三日も眠ってたけどね」

 ……退院…てことは!

「ああ、亡くなってしまったからね」


 ――――――え?


「…ッ!あなた!!」

「遅かれ早かれ知るんだ。だったら早い方がいい」


 …………何て……言った?

 ……誰が………どうなったって?

 ―――理解できない。
 何が、ここは、あの時、何処で、誰が―――


「でも…だからって今の言い方はないでしょう!!
 ああ、ごめんなさいシロウ………!」

 おばさんの胸に抱き締められる。

 でも俺の耳にはもう、何も入ってこなかった。




 ◇◇◇◇◇




「お嬢様はお身体が弱く、友人らしい友人が一人もおりませんでした。
 ですが、あなたが屋敷を訪ねるようになってからは………それはもう…生き生きとしておられて……」


 ……やめろ。
 やめろ………もう、お願いだからやめてくれ。


「あなたがお嬢様の為に戦ってくださったことは、校長先生より聞き及んでおります。
 本当に……ありがとうございました」

 黒い執事服を着込んだ、白髪白髭に長身痩躯の老人は、痛々しい表情で言葉を続ける。

「使用人一同からのお礼とともに、僭越ながら…お嬢様の遺言をお伝えしようと参りました」


 ………俺の所為だ。礼を言われる資格なんて俺には無い。


 ―――俺の所為なんだよ。


 あの時、吸血鬼あいつは戦う気なんてなかった。あの場から去ろうとしていた。
 それを勝手に引き止めて、無謀にも戦いを挑んだのは俺だ。頭に血が上ってたんだ。

 そんな時間が、そんな余裕があるなら…あいつが去るのを待って、エレナさんを医者の所にでも運べば良かったのに。

 一度倒れて、起き上がった後でもそれは出来た。
 ……エレナさんを救えたかもしれない、二度のチャンスを。

 俺は………ドブに捨てたんだ。



 執事服の老人は、その言葉を士郎に伝えた。


「ありがとう、と」


『私が憎ければ追って来なさい…………魔法世界まで』



(……ボールドウィン……コーンフィールド…………!)




 Side out




 僅か二年半後、彼はある吸血鬼を殺害する。
 だが今、それ以上に特筆すべきことは。

 ―――近衛士郎には、エレナ・キャンベルの遺言など毛ほども耳に入らなかったという事実。

 この世界のエミヤシロウが――― 一時的とはいえ―――溺れたのは、理想などでは決してない。


 ………それはおそらく、誰かの血でどす黒く染まった―――…。








〜補足・解説〜

>White snow/Crimson blood.
 英語で「白い雪/深紅の血」の意。
 旧題は「Blood Snow-降り頻るは紅蓮の鉄錆-」でした。

>飛翔した黄金の斬撃が、漆黒の矢を容易く呑み込んで蒸発させる。
 はたして公式のカリバーンは斬撃を飛ばすことができるのか? わかりません。

>まるで呪詛の様であり。
 この言葉が正しく呪詛だったとするなら、そのとき士郎の心は囚われてしまったのでしょう。


:英国編オリジナルキャラクター:

ボールドウィン・コーンフィールド(Baldwin Caulfield)
 「吸血鬼の真祖ハイディライト・ウォーカー」ではない、普通の吸血鬼。日光に弱くニンニクも苦手だが、それで滅びるという訳でもない。流水は見ていると嫌な気分になる。真祖ほどではないが不死身の再生力を持つ。
 魔法世界の一種族としての吸血鬼と、地球出身の人間との間に生まれたハーフ。人間の血が半分入っている所為か吸血鬼の本能に対する耐性が弱く、欲に負けて他人を襲い血を吸い続け、遂に魔法世界で指名手配されてしまう。
 そこでメガロメセンブリアのゲートポートからイギリス・ウェールズゲートを密航して地球に逃れる。その後もロンドンで犠牲者を増やしていた所をサイラスに倒され、力の源である血液を大量に失血してしまう。力の回復を待って、彼はそのあと10年間の隠匿を余儀なくされた。
 サイラス・キャンベルと相打ちになったと思われていた。


:設定上は存在するキャラクター:

ラーラ・レティ・キャンベル(Lara Lettie Cambell)
 歳が離れたエレナの妹。英国編時点で六歳、2003年で十歳になる。
 姉と違ってクセのない金髪を肩口で切り揃え、ブラウンの瞳をしている。
 天真爛漫で健気、可憐な少女。お姉ちゃんっ子でありお婆ちゃんっ子でもある。
 療養中のエレナを訪ねてウェールズに訪れた事も何度かあり、その際に士郎にも出会っている。将来の夢は「シロウさんのお嫁さんになること」。バレンタインデーには祖母直伝のチョコクッキーを日本の士郎に送ったりしている。
 ………本編に登場予定あり。

オリヴィア・キャンベル(Olivia Cambell)
 エレナとラーラの祖母で、サイラスの伴侶。夫亡き後はキャンベル家のヒエラルキーでトップに君臨している。
 10年前の吸血鬼事件と"コーンフィールド"の名前を今でも鮮明に覚えている。

ユアン・キャンベル(Euan Cambell)
 エレナとラーラの父であり、サイラス夫妻の息子。魔法使いとして優れた才能を持っていたが、商業で成功を収めた事、また父の死から魔法使いの道には進まなかった。

ラティーシャ・ミュリエル・キャンベル(Laetitia Muriel Cambell)
 エレナとラーラの母親であり、ユアンの妻。魔法使い。
 エレナの死の反動か、ラーラを過保護なまでに溺愛している。ただしあまりに度が過ぎるとオリヴィアに窘められる。ラーラ絡みで暴走した彼女は、オリヴィアにしか止められない。
 エレナの命日には、一人で部屋に閉じこもって泣いている。



 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 過去話X、魔法世界編 銀の髪の少女(仮)

 それでは次回!

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■作者からのメッセージ
 次話の投稿にあたり重要なお知らせです。
 以前「過去編は全6話になる予定」と書きましたが、予定を変更して全7話に変更となりました。
 また、次話にあたる過去話X、及び過去話Yで描かれる「過去話・魔法世界編」の執筆が非常に難航しております。読者の皆様をかなりの期間お待たせする事になると思いますが、何卒、広い御心でお待ちいただけるとありがたいです。
 遅くとも5月中には、過去編全話を投稿する予定です。

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