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ネギま!―剣製の凱歌― 過去話V、英国編A Height of Blade.
作者:佐藤C   2012/05/04(金) 20:23公開   ID:RoX2XPyBYvg
 ◇◆◇◆◇◆◇









 過去話V、英国編A Height of Blade.









《――――――――――――――ゴォン!!》



 …歯車が噛み合う音だった。
 黄昏という言葉を想起する夕焼けの空。
 そこに―――幾つもの歯車が浮いている。

 ……ああ、なんて懐かしい――――


「え?」


 可笑しな思考に声を漏らす。懐かしい…だって?


(俺は…此処を知っている―――?)


 仰向けに倒れた士郎は、その疑問にガバッとその場で起き上がり―――


 剣。


 ……彼の周囲には…ただ、無限に突き立つ剣が在った。

 短剣、長剣、小剣、大剣、石剣、銅剣、片手剣、両手剣、西洋剣、騎士剣、斧剣、鎌剣、錘剣、双剣、湾刀、和刀、野太刀、小太刀、夫婦剣、霊剣、聖剣、魔剣、破魔剣、妖刀、神刀、神剣………。

 あらゆる剣が其処にはあった。

 砂塵が舞う錆び色の大地に、墓標のように乱立する―――文字通り無窮の剣。
 そして。


 赤い外套を翻す浅黒い肌の男。その鈍色の双眸に士郎は射抜かれた。


「………随分とボロボロなようだが…平気か?」


 言われて気づく。全身怪我をしていた筈の士郎の……傷が、治っていた。服は血だらけのままだったが。


「……安心するな。見たところ傷は塞がっている「だけ」のようだ。無理に動けば傷が開く。
 此処はあらゆる剣を構成する要素で満ちている。…それがお前の傷を塞いだのかもしれんな」

(………?)


「…何言ってるんだ? それじゃあ俺がまるで剣みたいじゃないか」

 士郎がそう言うとその男は、まるで面白いものでも見るような目つきで笑う。

「ク……『衛宮士郎おまえ』の口からそんな言葉が出るとはな。どうやらお前はまだ、自分が何者なのか理解していないようだ」

「は?」

「まあいい、こちらの用件をさっさと済ませてしまおう。お前はともかく女性レディを待たせておくわけにはいかないのでね。それにハッキリ言って…お前に此処に居られるのは迷惑だ。
 ………さて」



“―――――――ついて来れるか?”


 もはや何が何だかわからない。この男は何を言っているのか。
 混乱しながら士郎は、男を問い詰めるようと口を開きかけて


 ――――コトバが、紡がれた。



 
I am the bone of my sword.
“――――体は剣で出来ている”




 黒い太陽。ソコから溢れ出る黒い泥。ソコから噴き出す呪いの炎。

 周りには、路傍の小石の様に転がる……かつて人間ヒトだったもの。

 家族も友人も知人も他人も、何もかもが生きたまま焼けていく。

 家も公園も学校もどんな場所も、
 少年の生きたあらゆる世界が赤く赤く塗り潰される。

 大地も空も空気をも焦がし、それでも炎は命を喰らう。
 まだ喰い足りぬと叫ぶように、炎は勢いを増し続ける。

 それは地獄か、煉獄か。
 赤い世界で必死に自分を守った少年の心も。
 ………灰になって燃え尽きた。

 そして。


『………ああ、よかった』


 助けられた。救われた。そして…………呪われたあこがれた




Steel is my body,and fire is my blood.
“血潮は鉄で、心は硝子”




『――――うん。初めに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ』

『いいかい士郎。君の投影は、絶対誰にも見せちゃいけないよ』

『何を言ってるんだ士郎! 男はカワイイ女の子のために頑張るものなんだ!
 ………あれ?大河ちゃん? 何をそんなに怒ってるんだい?』

『…………士郎、女の子を怒らせちゃいけないよ。後で損するからね』


『僕は、正義の味方になりたかった』


『………ああ―――安心した』




 
I have created over a thousand blades.
“幾たびの戦場を越えて不敗”



『おはようございます、先輩。もう藤村先生が来ちゃいますよ?』

『士郎、ごはん!』

『おっす衛宮! で、どうだ? そろそろ弓が恋しくなったか?』

『いつもスマンな衛宮。ところで…実はまた視聴覚室のエアコンが……』

『よう衛宮。この僕がお人好しのお前に頼みたいことがあるんだけど、別に構わないよな?』




 
Unknown to Death,
“ただの一度も敗走はなく、”



『問おう、貴方が私のマスターか』

『どうせ何も解ってないんでしょ、衛宮くんは』

『喜べ少年。君の願いはようやく叶う』

『こんばんは、お兄ちゃん』


『―――聖杯は欲しい。けれど、シロウは殺せない』

『判らぬか、下郎。そのような物より、私はシロウが欲しいと言ったのだ』


『―――やっと気づいた。シロウは、私の鞘だったのですね』


『シロウ――――貴方を、愛している』







“――――契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい”




 
Nor known to Life.
“ただの一度も理解されない”



 ―――みんなを助ける、正義の味方になる


『殺して、殺して、殺し尽くした。己の理想を貫くために多くを殺し、無関係な人間の命なぞどうでもよくなるぐらい殺して、殺した数の数千倍もの人間を救った』

『そのうちにそれにも慣れてきてね、理想を守るために理想に反し続けた』

『自分が助けようとした人間しか救わず、敵対した者は速やかに皆殺しにした』

『犠牲になる“誰か”を容認する事で、かつての理想を守り続けた』


 ―――だって仕方がないだろう。何を救おうと、救われない人間というモノは出てきてしまう


『そんなことを何度繰り返したか……分からないんだセイバー』

『―――そら。そんな男は、今のうちに死んだ方が世の為と思わないか?』




 
Have withstood pain to create many weapons.
“彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う”



『…………じゃない』

『…………なんかじゃ、ない……!』

『………間違い、なんかじゃない……!』


『――――決して、間違いなんかじゃないんだから……!』


『俺の勝ちだ…………アーチャー』

『―――ああ。そして、私の敗北だ』



“それでも―――俺は、間違えてなどいなかった―――”




 
Yet, those hands will never hold anything.
“故に、生涯に意味はなく”



『私を頼む。知っての通り頼りないやつだからな―――君が、支えてやってくれ』

『うん、わかってる。わたし、頑張るから。アンタみたいに捻くれたヤツにならないように頑張るから。きっと、あいつが自分を好きになれるように頑張るから……!
 だからアンタも――――』

『答えは得た。大丈夫だよ、遠坂。俺もこれから頑張っていくから』



 ―――あの日俺を見送ってくれた君の笑顔は

 あの日とは違うものである今の俺の中にも。

 たしかに残っているはずなんだ。

 …だからいつか俺よ。




 
So as I pray , "unlimited blade Works".
“―――その体は、きっと剣で出来ていた”



 その笑顔がもつ意味を、思い出して欲しい――――。






「―――が………っ!!?」


 ―――脳が沸騰する。
 鮮明な映像が、音が、匂いが、感触が記憶が経験が"魂に"流れ込む。刻み込まれる。

 ―――脳が焼き切れる。
 膨大な情報量に、脳髄は悲鳴をあげている。

 ―――――吐き気がする。
 衛宮士郎じぶん殺戮りそうに。英霊■■■じぶん殺戮おこないに。

 そして理解した。


 ――――コレは、俺なのだと。



「今、お前は見たはずだ。
 未来に待ち受ける現実を。生涯下らぬ理想にとらわれたまがい物を。
 それが自分の正体だと理解したか」


「……それでも、なお立ち上がる気概があるのなら」


「持って往け。心象風景アンリミテッド・ブレイドワークスを」


 薄れゆく意識の中、近衛士郎の魂は在るべき世界に帰還する。


「――全く…姉弟揃って・・・・・英霊の座こんなところ”に迷い込むなど、誰が予想できるものか。
 少なくとも、私に非はないと思いたいが―――」





 ◇◆◇◆◇◆◇



 まるで始めから存在しなかったかの様に姿を消して、近衛士郎が去った後―――剣の丘に残されたのは。

 赤い外套を羽織った、白髪に浅黒い肌の男、と―――

 雪のように真っ白な肌と、輝く銀色の髪。血のように紅い瞳を持つ少女が、男の背に隠れて立っていた。


「ありがとう、シロウ」

「……私は君の弟とは別人だと何度言ったらわかるのかね?」

「もう、ホントにシロウは素直じゃないんだから!こういうときは素直にお礼を受け取ればいいのよっ」

 少女は声を荒げるが、その声色と表情は楽しげだ。
 対する男は無言で苦笑している。この場所で既に何度も繰り返された遣り取りだ。この少女には勝てないと、彼は既に諦めていた。


 この剣の丘に雪の少女が舞い降りたとき、彼は我が目を疑った。
 彼女から話を聞いて彼は混乱したが、正しい解答を与えてくれる者がいない以上、幾ら考えても詮無いこと。彼は諦めて現実を受け入れる。
 剣しかない孤独な世界に、住人がひとり増えた。

 ……どれくらいの時間が経ったか、ある時。血だらけの少年がこの場所に迷い込む。
 その少年は少女の弟であり、男と元を同じとする存在だった。
 狼狽える少女を制し、男は少年に近寄る。
 生きている。何故か傷は塞がっている"だけ"の状態だった。
 そして少年は呟いた。


「………護るんだ、俺が……。…約束、したんだ、か………」


 ……少年は誰かの為に戦い、傷ついたらしい。
 平行世界だろうが異世界だろうが、「衛宮士郎」は人助けをする性分らしい。
 男はそう、思った。

「士郎ったら、小っちゃい頃と全然変わってないのね。
 ケガしちゃいけませんって、何度…言ったら、判るのかしら………」

 少女が泣きそうな声で呟く。

「どうせこれからも、危ないコト続けるんでしょ………」


 ならばせめて。少年が死ぬことのないように。

 彼に―――……どうか、「戦う力を」―――――――。




「…………これで良かったのかね?」


 男は少女の望みを叶えた。己の記憶を通して少年に全てを与えた。
 魔術、戦術、戦闘技術、戦闘経験。そして心象世界のつるぎたち。
 要らぬ重荷も背負わせてしまったのではないかと、男は思考する。

「いいの。お姉ちゃんの言うことをきかない弟には、それくらいのバチが丁度いいわ」

 そう言って少女は笑う。
 その表情は自分の知り合いにそっくりだと、男もつられて密かに笑う。



 ―――其処は剣の丘。とある英霊の心象世界。


 いつまで私/彼女が英霊の座ここに居られるのかわからないけれど。

 ――――別れのそのときまで、一緒に/共にいよう。


 衛宮イリヤスフィールと英霊■■■。少年を見守る者が、ここに二人。








〜補足・解説〜

>Height of Blade.
 =ハイト・オブ・ブレイド。英語で「剣の丘」の意。
 heightは「高い」等の意味を持つ語句だが、そこから転じて「丘」「高い場所」などの意味も持つ。

>今、お前は見たはずだ。
 原作、Fate/stay nightより引用。


登場人物:

衛宮イリヤスフィール
 彼女は平行世界を隔て、「根源」に繋がる「聖杯」たる人物と同じ魂を持つ存在である。
 そのため彼女は死亡した後、本来なら死後の魂が概念という最小単位に分解されてしまう所を、「イリヤスフィール」という存在カタチを保ったまま根源に引き寄せられてしまう。
 その結果、彼女は自分の弟(=自らの血縁者)と浅からぬ繋がりを持つ存在…「彼」の居る場所にさらに魂が引き寄せられてしまい、見事にそこ……「英霊の座」内部の“とある英霊”の領域に引っ掛かってしまう。

英霊■■■
 浅黒い肌を持つ白髪の武人。赤い外套を羽織り、身長は190cm近い長身で筋肉質な身体をしている。
 衛宮イリヤスフィールの弟、衛宮士郎と魂の起源を同じとする人物。
 今回の一件以降、士郎とこの英霊の間にパスのようなものが繋がってしまい、心象世界に刺さる無限の剣の刀身に「衛宮イリヤスフィールの弟である士郎」の様子が映り込むようになった。
 それを通して■■■は、イリヤスフィールと共に士郎を見守っている。



 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 過去話W、英国編 Blood Snow-降り頻るは紅蓮の鉄錆-(仮)

 それでは次回!

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■作者からのメッセージ
 えー……。
 「彼」の登場や、「彼女」が現れた理屈がご都合主義満載となっておりますが、どうかご了承ください……(恐々

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