大気を震わす、思わず耳を塞ぐほどの轟音。
轟音と爆発の衝撃で、周囲一帯に突風が吹き荒ぶ。
レンガ造りの倉庫は爆散。
遍く焦がし焼き尽くし、燃ゆる立つ紅い火柱。
―――士郎とフィンレイがいた倉庫は、激しく猛る火炎に包まれ燃えていた。
その魔方陣は、アジトとして使用していた倉庫から証拠を隠滅するための…いわば自爆用魔法地雷。
起動すればその瞬間に爆発を引き起こし、直径百mが火の海に包まれる。
そろそろアリアドネーでの仕事は限界だろうと、早めに仕込んでおいて良かった。
トバイアスはそんな事を考えながら、クックッと喉で笑う。
「……ああフィンレイ。君は小さい頃から正義感の強い良い子だった。
…でもそれが仇になるなんて、人の美徳って儘ならないな。
君が死んだと判ったら弟が悲しむね……まあ死んだら死んだで、君の代わりは幾らでもいるだろうけど。…くくっ」
込み上げる笑いを抑えきれない。
燃え続ける倉庫を背に、彼は仰け反りながら大口を開けて腹を抱えた。
「………く、く……くはは………ははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!!」
「よぉ。こんだけ派手にやっといてドコ行く気だ?」
紅蓮の業火を背後に背負い、その大男はトバイアスの後ろに立っていた。
「…どちら様ですか?」
彼は佇まいと眼鏡を整えながら、振り返って問い返す。
一部始終を見られていたのなら、この大男も消さねばなるまい。
…そんな、自分がどれほど愚かな事を考えているのか知らぬまま、彼は眼前の大男の素性を探ろうとする。
すると大男は、少しだけ意外そうな顔をして笑みを作った。
「ああ?…ったく、これだから大戦知らねえ若けえのは。
まあいい、俺もあまり畏まれるのは好きじゃねえ」
「…誰だと訊いているのです」
飄々として余裕を崩さず、また自分の知りたい情報を与えない大男にイラついて、トバイアスは棘を隠さず同じ問いを繰り返す。
しかし大男は、それに対してもただ不敵に笑うだけ。
そのまま彼は懐から、黒を基調とした長方形のカードを取り出した。
「なぁに、大したモンじゃねえ」
――――通りすがりの、英雄だ。
「
来れ」
“―――――――――――『千の顔を持つ英雄』―――――――――――――――――!!!” 過去話[、魔法世界編C 銀の髪の少女
乾燥した錆色の大地。砂塵が舞う寂寥とした荒野。
地平線の向こうでは、燻るように黄昏の火が燃えている。
墓標のように地面に突き刺さる無数の剣は、潰えた
理想の欠片だった。
その世界の王にして持ち主である白髪の男は、赤い外套を翻して独りで立っている。
こちらに背中を向けていて、男の顔は見えなかった。
『自身より他人が大切だなど、その考えは破綻している。
自分すら救えぬ者に他人を救う事などできはしない』
『近衛士郎。
貴様はあの時、自らが開けた壁の穴から迷わず彼女を放り出した。彼女を救った』
『それが彼女を傷つけたと、貴様は理解していないのだろうな』
『彼女の命は救えても、お前を思いやる彼女の心は見殺しにした』
『…覚えておけ。その代償は高くつくぞ―――』
――――そんな夢を、見た気がした。
◇◇◇◇◇
真白い部屋の天井が、少年の視界に入った。
「………うーむ」
気がついたらベッドの上で目を覚ました。もはや慣れっこ過ぎて何の感情も湧きませぬ。
怪我の程度の割に、士郎は随分と余裕であった。
魔法地雷の爆発で重体となった士郎が担ぎ込まれたここは、アリアドネー騎士団の付属病院。
この国最高の医療機関で治療を受け、士郎は無事に峠を越えて回復したのだった。
しかしそんな事を知らない士郎は上体を起こし、レンガ造りの個人病室をきょろきょろと見渡して様子を窺う。
「すぅ……すぅ………」
(…ええと……。)
彼女を見つけて、士郎は一瞬硬直した。
彼の目の前には……士郎が眠るベッドに頭を乗せ、腕を枕にして可愛らしい寝息を立てるフィンレイがいた。
―――ガラッ。
「おーす士郎、起きたかー? おっ、起きてるなー。
…ちっ、まだ寝てると思って見舞いの果物食っちまったじゃねーか(むしゃむしゃ…)」
「何かもう色々ツッこみたいですけど病み上がりじゃ無理みたいです師匠」
抱えたバスケットの果物を咀嚼しながら、士郎の病室にラカンが入って来た。
・
・
・
「まー、あの金髪メガネは、言ってみりゃ活躍したかったんだとよ」
都市国家アリアドネーを統治する、アリアドネー騎士団。
騎士団とは言うがその実体は、立法・司法・政治・警察・軍部、etc…これら全てを兼ねる巨大権力。
その有り様は言ってしまえば軍事政権に近い。
故に、この国で騎士と言えば軍人であり役人であり官僚でもある、大忙しの国家公務員なのである。
だからこそ、文官や政治家として優秀な力を発揮してきたトワイニング一族は重宝され、名門と称えられるまでになった。
トワイニングは“
絡み付く”
組紐。
縄紐の如き多様さで相手を自在に絡め取る、策謀を巡らす黄金蛇。
その次期当主、トバイアス・カイン・トワイニングはそれを誇り、この国で政治家として大成したいと常々思っていた。
「奴のガキの頃ってのは丁度大戦期らしくてな。
自分の親や親戚が腕を存分に振るって暗闘…「政治で戦う」姿を見て育ったんだそうだ」
彼らの様になりたい。そんな憧れを持って騎士団に入団したトバイアスは落胆せずにはいられなかった。
時代は戦後、しかも混乱期すら乗り越えて復興期に突入していたのだ。
世界中が自らの傷を癒すことに専念し、復興に力を注ぐ内政。他国に槍を向ける余力もなく穏便な外交。
彼の夢は果たされなかった。少なくとも彼は、夢への道が断たれたと思いこんだ。
憧れは、鬱屈した欲求へと姿を変えて…吐き出される事なく彼の内へ裡へ溜まっていく。
そして…トバイアスは遂に暴走を開始する。
今回の集団誘拐事件の最たる目的は資金稼ぎ。亜人の子供達を資産家に売り渡し、その資金を元手にして工作を行う。連合と帝国の関係を再び悪化させ―――もう一度、戦争を起こそうとした。
夢を叶える舞台を、手に入れるために。
「……ま、要は俺様みたいに華々しく活躍したかったってこったな!だっははは!!」
お
道化るように笑うラカンだったが…士郎の耳は、確かに聞いた。
―――これだから、大戦知らねえ
若者は。
彼がそう、吐き捨てたのを。
・
・
・
「おお、忘れるとこだった。士郎、お前はかなりの重体で運び込まれたんだがな、わかる通り今は見事にピンピンしてる。
だが火傷の痕は少しばかり残っちまうとよ」
そう言われて、士郎は患者服の袖を捲くって腕を見る。
……所々、皮膚の色が異なって浅黒い部分があるのが判った。
まあ、注視しなければわからないだろう。
「気にすんな。こんなカワイ子ちゃん助けた名誉の負傷なら上出来だろ」
ラカンは士郎の隣で眠るフィンレイを見た。つられて士郎も彼女を見る。
するとラカンが、ニヤニヤしながら視線を士郎に移していた。
「……何ですか」
「んん〜?ヌフフ、聞いたぜぇ士郎〜」
ああ…嫌な予感がフルスロットルで止まらない。
誰ぞ、誰でもいいからこの人にブレーキという装置を実装してくださいお願いします…!
「朝帰りした夜、お前この嬢ちゃんと会ってたそうじゃねーか!
やっぱ♪女の子と♪色々あったんじゃねーか!いよっ!ニクいねコンチクショウ!!」
彼は下世話な笑みを浮かべてばんばんっ!と士郎の肩を叩いてくる。
現代医療より遥かに優れた魔法医療だが…全身火傷を負った士郎の包帯が取れたのは、実はまだ昨日の事である。
叩かれでもしようものなら、通常以上の痛みが走るのは道理。
「…小遣い減らしますよ」
「お前が目ェ覚ましたって医者に知らせてくるわ。
気にするな、師匠として当然だろ?(キラッ☆)」
ラカン は ウインク して にげだした !
……バタン…。
「………ふぅ」
ラカンが退出して一人になると、士郎は息を吐いて独りごちた。
「……修行が足りないな」
完全勝利には程遠い。人質を取られたくらいで負けるようでは話にならない。
お陰で指輪を壊され、肝心の戦闘で魔法は使用不能となり、魔術で応戦したものの…魔法障壁がないだけでここまで大怪我する羽目になるとは。
爆発寸前、魔術で肉体強度を強化して何とか助かったが。
―――でも。
「……んん……。……すぅ…」
彼の前で眠る少女が、この戦いの全てだろう。
一年前とは明らかに違う結末。
――――守れたのだ、今回は。
ならきっと、それ以上の事は贅沢だろう。
この穏やかな寝顔が、士郎の最高の戦利品だった。
可愛らしい少女の寝顔を見つめるうちに、士郎の手が自然とフィンレイの頭に伸びる。
「……おお。綺麗なだけじゃなくて触り心地もいいんな、この髪」
「…………お前、何してる」
「すいませんでした」
◇◇◇◇◇
士郎は先程から変わらず、上半身を起こした状態でベッドに寝そべる。
フィンレイはベッドの横の椅子に腰かけ、両手を膝に乗せたまま俯いている。
「…………。」
「………。」
(………何でこんな気まずいんだ?)
さっきから居心地が悪くて仕方ない。
二人はどちらも会話の糸口を切り出せず、ただただ無言のまま時間を過ごしていた。
「………コノエ、…その………。…ありがとう」
「――は?」
静寂を破った開口一番の声は、少女の謝礼。
しかしいきなり頭を下げられても、士郎はてんでピンとこなかった。
「…みんなお前が正しかった。私が無理やり巻き込んで…酷い事も言った。
それにこんな怪我までさせて……本当に、ごめん。
…………あ、あと……。…助けに来てくれて嬉しかった」
最後の方はボソボソと消え入りそうな声だったが、彼女の感謝は確かに士郎の耳に届いた。
「………何をする」
フィンレイが思わず訊く。
士郎が僅かに身を乗り出して、彼女の額に手を当てていた。
「……いや、素直だなーって。てっきり熱でもあるのかと」
「怒るぞ」
というか、怪我人に心配などされたくなかった。
「でもなあ。そんな畏まったお礼を言う程のもんでもないと思うぞ?」
「…は?」
さっきと逆で、今度はフィンレイが呆けた声を出した。
「何を言っているんだ、お前は私の命の恩人だぞ。礼などいくら言っても足りな…」
「いいから気にするな。この位で死ぬほど軟じゃないし、もしそうなったら俺はそこまでだったって事さ。
それにお前と違って、俺が死んで困る人なんて居やしないよ」
―――フィンレイは、絶句した。
……最初は、
フィンレイに「気にし過ぎるな」と言ってくれてるだけの冗談だと思った。そう思いたかった。
でも、フィンレイは気づいてしまう。
「俺が死んで困る人なんて居やしない」。その言葉がまるで…
――――――死んでもいいと、言っているように聞こえた。
(…少なくともこいつは…本気でそう思ってる……!!)
少女の背筋に悪寒が走る。体が震える。寒気が止まらない。
目の前の少年は、「自分」にこれっぽっちの価値も見出していない。
「……フィンレイ?どうした?」
…あのとき。
自分より
少女を優先して逃がしてくれたあの時も、彼はそんな風に考えていたのなら。
「―――え」
どうしようもなく、腹が立った。
“――――バキィッ!!!”
士郎の顔に、フィンレイの鉄拳が直撃した。
「……痛って…!――お前、いきなり何すん…」
自分を殴った少女を見上げ、士郎は言葉を失った。
「―――は――っ…はーっ……!!……はっ……!!」
立って士郎を見下ろして、フィンレイは拳を握ったまま息を荒くしている。
肩を上下させて士郎を睨む彼女の目からは………ぼろぼろと、大粒の涙が零れていた。
「………なん、で、――何でそんなこと言うんだ!!死んでも誰も困らない?ふざけるな!!
そんな……お前を、ずっとお前を心配してた私が馬鹿みたいじゃないか!!」
端正な顔を涙でぐしゃぐしゃに汚しながら、しかし彼女は士郎を睨み続ける。
この現状に呆然としながらも士郎は、感情に任せて捲くし立てる彼女から目が離せない。
「全身っ、包帯でぐるぐるっ、巻きにされて……っ!五日間も眠り続けて…!!
このまま目が覚めなかったらどうしようとか!朝起きたら息をしてないんじゃないかとか!!色々考えて夜も眠れなかったんだぞ!!
………こわ、…っく、怖くて………っ!!」
少女の怒りはもう、尽きていた。
抑え込んでいた感情が溢れ出して止まらない。
握られていた拳は既に、力なくほどけている。
……士郎が自分に価値を置かなくなったのは…いつからだったか。
一体いつからだろう。
八年前…自分一人生き残るのが精一杯だった夕暮れか。
一年前、守ると約束した少女を死なせた夜か。
「死んでも……いいなんて……言うなよぉ……っ!!馬鹿ぁ………!!」
フィンレイが自分に縋り付いて泣きじゃくっていても、士郎は石になった様に動かない。
彼の頭を占めるのは、たった一つの
結果だけ。
――――また、泣かせた。
(…本当に……完全勝利には程遠い)
勝利などでは、決して無い。
再びの、敗北だ。
◇◇◇◇◇
少しだけ、事件のその後を語ろう。
主犯トバイアス・K・エインズワースは、ラカンに気絶させられ騎士団に引き渡された。
犯行の動機が非常に身勝手で自己中心的、子供を狙った悪質なものであること。また騎士としての権限を犯行に利用していた事などから、二年に及ぶ裁判の後に極刑に処せられる事となる。
エインズワースの家系図からは彼の名前が除名され、次期当主の座は妹が継いだ。
トバイアスの手下となっていた破落戸達は、一名を除いて全員が魔法地雷に巻き込まれて焼死したと判明した。
その生き残った一名は、魔法地雷起動時に倉庫の見張りをしていたために、火傷を負いつつも難を逃れる。彼は倉庫の爆発後、トバイアスと違う経路で逃走したためラカンと遭遇しなかったが、火傷で動けなくなっていた所を騎士団に保護・捕縛された。
彼は破落戸に身を落とすまでの経緯を同情され、裁判で終身刑となった。
共犯者アリア・サモラには妹を人質に取られていたという事情があったが、正確には脅されていただけでなく、「協力する代わりに妹を返して貰う」という取引を行っていたと判明した。
情状酌量で罪には問われなかったものの、多くの知人・友人を犯罪者に差し出した行為が騎士候補生として問題視され、理事会で彼女の処遇の協議が開始される。
すると彼女は処遇が決まる前に自ら退学届けを提出し、学校理事会はそれを受理。事件の二週間後に彼女は学校を去る。
事件の後、サモラ一家はアリアドネーから姿を消した。
攫われた子供達は騎士団の必死の捜索と追跡により、……無事にとは言わないが、全員が帰って来る事ができたと記す。
・
・
・
朝焼けに照らされる学術都市アリアドネー。
騎士団候補学校の校門前に、早朝の時間帯にも関わらず数人の人影があった。
「…もう少しここにいてもいいんじゃないかしら?
士郎君もまだ本調子じゃないでしょ。ウチの不始末が原因だし、完治まで責任持って面倒みるわよ」
「バッカ言え。そこまで
弟子を甘やかす気はねえよ。
それにこれ以上長居したら……別れが辛いだろ、あの嬢ちゃんは」
セラスとラカンが見つめる先では、士郎とフィンレイが最後の会話を交わしていた。
「じゃあな、これでお別れだ」
「…ああ」
士郎の術後の経過観察のため滞在していた一週間、彼女は毎日士郎の見舞いに訪れていた。
随分と親しくなったが…ひとまず、これでお別れだ。
「………あ、あのな。コノエ」
「ん?」
フィンレイは頬を染めて士郎を呼ぶ。
視線を斜め下に逸らして両手をもじもじさせながら、彼女は何かを話し出そうとする。
―――意を決して、フィンレイは顔を上げて士郎を見た。
「…し、親しい人は、私の事を「フィン」と呼ぶ。親しい友達とか、か…家族はみんなそう呼ぶんだ」
「そっか」
「あ、ああ」
士郎「………」
フィン「…………。」
「…で?」
―――ぶちぃいっ!!(フィンレイの血管が切れる音)
「ああもうっ鈍い奴だな!!お前もそう呼んでいいと言ったんだ!!そうだむしろ呼べ!!フィンって言え!!」
「…お、おおう」
目の前の少女が「がーっ!」と喚き立てている。何だか知らないが怒らせたらしい。
「お前みたいな馬鹿にはな、私みたいな奴がついてないとダメなんだ!!
そ、それにせっかく友人になったんだから愛称の一つくらい言ってくれてもいいだろうがっ!!」
士郎は若干怯みながら、怒声を上げて詰め寄って来る少女の要求に応えてあげた。
「フィン」
「…はぅ」
途端に彼女は、顔を耳まで真っ赤にして停止した。
…よく見れば耳どころか、首やら手やら、ミニスカートから覗く太腿やら……彼女の白い肌が全身朱色に染まっている。
(…おい、何だこいつ可愛いぞ)
フィンレイと違い、士郎は余裕綽々でそんな事を考えながら彼女を見る。
対するフィンレイはテンパって何も考えられず、茹でダコの様になりながらも士郎の事を見上げている。
図らずも見つめ合う形になった少年少女を、ラカンとセラスが笑みを浮かべて遠くから眺めていた。
「んじゃあ、そろそろ行くか士郎」
「はい」
彼らは少ない荷物を手にして、纏うローブを翻す。
セラス達に背を向けて歩きだしたラカンの後ろで、士郎はチラリと後ろを見る。
「じゃあな、フィン」
するとフィンレイは、不満そうに眉根を寄せて口を尖らせた。
「…またな、だろう」
士郎がきょとんとした目で見つめると、フィンレイは照れくさそうに頬を染めて彼からぷいっと視線を逸らす。
新しい友達の可愛らしい仕草に、士郎は思わず頬を緩めた。
「ああ、またな」
こうして二人は、束の間の別れを演じる。
…三年後、士郎が師と繰り広げる死闘に立ち会うその時まで。
<おまけ>
・騎士候補学校の校門前に残された、女二人の一幕。
セラス「ねえ、フィンレイ?」
フィン「…は、はっ!何でしょうか
総長!」
セラス「フフ、そんなに畏まらなくてもいいわよ」
男共を見送って残された女性と少女。
セラスは何でもないように、しかしフィンレイにとって重要な事を問うた。
セラス「せっかく友人になったんだから愛称の一つくらい…と貴女は言っていたけれど。
あなた自身は士郎君を名前で呼んではあげないの?」
フィン「…へっ!?」
―――近衛………士郎。
セラス「一度言ってみたらどうかしら」
フィン「へぇえっ!?い、いやそんな、グ、総長ッ!!」わたわたっ
真っ赤になって髪を振り乱す少女を見て、セラスは思わず頬を緩める。
セラス(あの凛とした子がねぇ……。恋する乙女は違うわね♪フフ)
いずれ後輩となる少女の初々しい様子に微笑むセラスに気づかず、フィンレイは「な、なまえ…で、でもそんな、まだ早いんじゃ…」などと呟いている。
フィン「……………シ、シロ………、……し、士郎…?」
―――ぽひゅっ
セラス「!?」
――ばたーんっ!!
顔から文字通り湯気を出し、フィンレイは顔を真っ赤にしてその場に転倒した。
フィン「きゅ〜………」
セラス「フィ、フィンレイ!? え、衛兵!近くに衛兵はいないのっ!?」あせあせっ
しばらくして冷静さを取り戻したセラスの『
治癒』により、フィンレイは無事に目を覚ましたのだった。
〜補足・解説〜>―――通りすがりの、英雄だ。
ラカン師匠が最後持ってったーーーーーーー!!!www
不出来な弟子の尻拭いも、師匠の務めですよっと。本来は他人の尻拭いなぞしない彼ですが、ラカンは士郎を弟子として気に入ってますし、また戦友・詠春の
養子なので、ちょっとおまけしてあげた感じです。
…しかしおかしいな…ラカンがセラスとのコネで呼んだ騎士団に包囲されて、トバイアスが敗北を認められずに喚き散らすというエンドになる筈だったのに…?
ラカン&士郎の師弟が全部解決しちゃったら騎士団の立つ瀬がない…しかも騎士が裏で糸を引いてた事件なのに…。公には、この事実は伏せられたに違いない。
>貴様はあの時、自らが開けた壁の穴から迷わず彼女を放り出した
前回、倉庫内に突入する時にぶち破った壁の穴の事で、そこからフィンレイを放り出して助けました。
爆発が大きいので無傷とはいきませんでしたが、何とか彼女は軽傷の火傷で済みました。
>『…覚えておけ。その代償は高くつくぞ―――』
剣の丘からコンニチハ!(おい
ああそうさ、どうせなら彼と同居中のイリヤも出したかったさ!!(泣
しかしここはあっさり済ませたかったので、先達である彼から痛い忠告をひとつだけ。
??「は――っはっはっはー!甘いわよイリヤちゃん!!
師匠である私を差し置いて出番を手に入れようなんて、十年は早いのだ―――!!
あ、桜ちゃん、ごはんおかわりー」
>士郎は無事に峠を越えて
実は結構な死線を彷徨いました。
>全身火傷を負った士郎の包帯が取れたのは、実はまだ昨日の事だった。
士郎はずっと眠っていたので知りません。
彼は事件後、アリアドネー騎士団付属病院に運び込まれて施術を受け、その後さらに五日間眠り続けました。つまり四日目に包帯が取れるまで、士郎は全身包帯だらけだったんです。
それがほぼ完璧に治ったのは、やはり魔法技術の恩恵ですね。
>魔法障壁がないだけでここまで大怪我する羽目になるとは。
障壁が使えたなら軽傷の火傷で済んでました。ただそうなった場合でも、フィンレイの火傷よりは重傷になっていたでしょう。
魔術は咄嗟だったので、何とか生き残れる程度にしか力を出せませんでした。それでも「強化」しなかったら士郎は死んでいましたが。
>「死んでも……いいなんて……言うなよぉ……っ!!馬鹿ぁ………!!」
士郎の歪んだ性根をガツンと揺さぶる一言です。
このエピソードはにじファン連載時からずっと、設定として作者の頭にありました。
色々と反省点の多いアリアドネー過去編ですが、この台詞を形にできただけでも書いた甲斐があると思っています。
ちなみに原作開始時点で士郎の持つ歪みに気づいているのはラカン、フィンレイ、エヴァンジェリンのみ。真名は違和感を感じてますが、明確な正体はわかっていないという程度。
ラカンは気づいているけれど「なるようになるだろ」とか「自分で乗り越えるべき」と考えて放置。エヴァは必死に矯正を試みています。
>再びの、敗北だ。
アーチャーが言った「高い代償」の正体、心を無視した相応の罰。
闘争には辛勝、救うという点では大敗。彼の戦績は惨敗にして完敗でした。
>次期当主の座は妹が継いだ。
妹の名前はグレイス・A・エインズワース。詳細は下部に記載しています。
「妹がいるとか唐突じゃね?」と思われた方、以前の〜補足・解説〜で「彼(トバイアス)には妹と弟が一人ずついる」と記述していますよー。
>事件のその後
今回の一連のエピソードは、敢えてハッピーエンドと言えない終幕にしました。
原作では描かれていないだけで、ネギま!世界では今回の事件の様な事が普通に起こっている筈です。特に魔法世界編の登場人物達、フェイトガールズ達の境遇を見れば、大戦期・戦後十年ほどがどれほど酷い時代だったかわかります。
ネギ達がそういう「闇」と関わりの薄い「光」の道を歩むのとは違い、士郎は正邪も善悪も全て見聞きし経験してきた。それを描こうと思ったんです。
……ただしこれは士郎にとってバッドエンドではない、と明言しておきます。
>破落戸達は、一名を除いて全員が魔法地雷に巻き込まれて焼死した
士郎の「剣の牢獄」に捕らわれていて逃げられなかったとか、そういう事ではないので注意。魔法陣が起動して爆発が起こった瞬間での即死です。
>そうだむしろ呼べ!!フィンって言え!!
にじファン時代からの読者様、お気づきだったでしょうか。
未来で士郎が「フィン」と呼ぶのに、今シリーズで士郎はずっと「フィンレイ」と呼んでいたのを!
それにはこんな経緯を経ていたのです。
>お前みたいな馬鹿にはな、私みたいな奴がついてないとダメなんだ!!
駄目な男に引っかかる女みたいな台詞ですねww(もし女性読者の方がいたらすいません
…あれ? どっかの野菜少年の幼馴染みの…爆裂娘もこんな事を言ってたような。
>…よく見れば耳どころか、首やら手やら、ミニスカートから覗く太腿やら……
この描写は、実は士郎の視線を追ったものです。
士郎、随分しっかりと見てるじゃねえか……!ww
>ラカンとセラスが笑みを浮かべて
言うまでもなく、セラスは微笑むように、ラカンはニヤニヤと……ww
>…三年後、士郎が師と繰り広げる死闘
後々のフラグとか伏線とか、そんな類のもの。
具体的な時期としては、麻帆良祭編が終わった頃をお楽しみに。
過去話Zの登場人物(及びその関係者)設定:
トバイアス・K・トワイニング(Tobias K. Twining)
古来より政治に携わってきた一族の出である事に、彼は密かなプライドを持っていた。
しかしそれが満たされない日々に彼は少しづつ歪んでいき、果てに今回の事件を起こしてしまう。
グレイス・A・トワイニング(Grace A. Twining)
罪を犯した兄に代わりエインズワース次期当主となった18歳の少女。トバイアスの妹。
兄と同じく金髪金眼、獣耳、黒い肌を持ち、これまた同じく銀縁の眼鏡をかけている。ただし眼鏡には落下防止のチェーンがついている。金髪は、立ち上がった時に地面に届かんというほど長い。
蝶よ花よと育てられた深窓のお嬢様だが、本来は気風のいい姐御肌の美人。今回の事件後、士郎が彼女の本性の被害に遭っているのは余談である。
実は兄よりも政治の才覚が深い。
兄の陰に隠れていたため侮られるが、数年後に当主を襲名すると周囲の評価をこれでもかと覆し、傑物、怪物、女傑、魔女など…それはもう色々と渾名されるようになる。
次回予告!
衛宮士郎が麻帆良学園に帰還した。
彼は幼馴染みの少女・桜咲刹那と再会し、運命の主人・エヴァンジェリンと出会いを果たす。
現在、2001年9月。
原作が始まるその時まで………あと17ヶ月。
次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
過去編は遂に終わる、舞台は麻帆良に帰って来た!
過去話[、麻帆良編 そこは運命が始まる場所
それでは次回!!