「―――であるからして、ISの基本的な運用は……」
真耶の声が教室中に響く中……
一夏は固まっていた、目の前の真実が信じられなかった。
目の前の分厚い教科書の存在が信じられなかった。
(意味がわからない! どういうことなんだ……)
内容が理解できず、隣の席を見る。
平次が普通に黙々とノートを取っている。
(姉の授業だからまじめに受けてるだけじゃないだろうな……)
そう思いながら一夏は平次をじっと見つめる。
「? なんでやんすか?」
疑問そうな顔で平次は一夏を見る。
「え、いや、なんでもないよ……」
一夏は思ったことを言うわけにもいかないので何もなかったことにした。
「そうでやんすか」
そう言って平次は再びノートに記入を始める。
「織斑君、何かわからないところがありますか?」
二人の会話に何かを感じたのか真耶が一夏に話しかけてきた。
「え、あ〜」
突然のことに一夏は戸惑う。
「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」
エッヘンと胸を張る真耶。
ロリ巨乳が胸を張っても揺れるだけである。
一夏は子供が頑張っているようにしか見えない。
(と言っても先生の頑張りを無駄にするわけにもいかない)
「え〜と。先生」
「はい、織斑君!」
胸を張り、やる気に満ちた麻耶に一夏はこういう。
「全部わかりません」
その瞬間クラスの一部を除いた空間の時間が止まる。
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
真耶の顔は困惑に固定され、メガネがずれる。
それを見ていた平次のメガネもずれる。
「え、えっと……織斑君以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
真耶がそう言うと誰も何も言わない。
というか静かになった。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「ああ、読んださ」
そう言いながら胸を張る一夏。
「ならばなぜわからん」
そう千冬が一夏に言う。
そしてそれに対する一夏の答えは……
「漢字が読めなかった!」
クラスの時間は動き出す事無くさらに凍りつく。
《パァンッ!》
「国語の勉強はしろと言っただろう」
「でも毎日しないと記憶から抜けて……」
《バチカァ!》
「ウボァッ!」
そして一夏は机に倒れ伏し気を失った……
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■【改ページ】
「頭が……いたい……」
「大丈夫でやんすか?」
「大丈夫に見えるならきっとそれはおかしいよ」
帽子の上から叩かれたため帽子の中心部分がかなり痛い。
「だって漢字が……」
「後で読み仮名をつけてあげるでやんすよ」
「おお! ありがとう平次大明神様」
「大げさでやんすよ」
一夏は平次の手を握り、極上の笑顔でお礼を言っている。
「ちょっと、よろしくて?」
「ん?」
「やんす?」
突如誰かが話しかけてくる。
「訊いています? お返事は?」
「へぇ、日本語がしゃべれるんだ」
一夏は少女の質問の返答に感想を言ってしまった。
「まぁ! 馬鹿にしていらっしゃいますの!」
「え、いや、すごいなぁと……」
「ちょっと一夏君。いう場面が悪いでやんすよ」
怒る少女。
戸惑う一夏。
そして眺める平次。
傍から見たら誤解されそうな光景である。
「もう、なんなんですの! わたくしに話しかけられるだけでも光栄なことなのですよ!」
「いや、そんなこと言われても俺は困るよ……」
「なんですの、その態度!」
一夏は騒ぐ少女に嫌悪感しか覚えることができない。
「ところで君は誰だ?」
一夏は少女に問う。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
「へぇ、ISの国家代表候補なんだ!」
「すごいでやんすねぇ」
一夏たちはただ単に代表というところに凄さを感じた。
「そう! エリートなのですわ!」
「うぉーすげぇー!」
そう言いながら胸を張るセシリアを一夏は持ち上げる。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「有名人と同じクラスってのはもりあがるね!」
「……馬鹿にしていますの?」
「あれ、そうとられちゃう?」
一夏は普通に喜んだが、セシリアは不愉快だったようだ。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを動かせる数少ない存在ということで、もう少し知性のある方と思っていましたけど、期待はずれですわね」
「いや、まったくだ。俺もなんで入学できたのか……」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
あまり優しそうには見えない。
(典型的なお嬢様って感じで嫌な感じでやんすね。一夏君は気にしてないようでやんすが……)
嫌悪感を増す平次を余所に一夏は立ち上がってセシリアを仰ぐ。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
唯一という部分を強調し胸を張るセシリア。
「あれ、そう言えば一応俺も教官を倒したよな、平次君」
「あ〜あれは思い出したくないでやんす。まぁ確かに倒したでやんすけど」
平次は少しうつむきながらその時の壁激突事件を思い出す。
「は……? わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子だけっていうオチじゃないでやんすかね」
その時何かにひびが入る音がした。
「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」
「そうなるんじゃないかな」
「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」
「え、あ、うん」
凄い形相で迫るセシリアに一夏はたじろぐ。
「とりあえず落ち着いて……」
「こ、これが落ち着いていられ―――」
《キーンコーンカーンコーン×2 コーン》
チャイムが鳴る。
「っ……! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
「い、いいけど……」
(どうしてこうなってるかわかってないでやんすね……)
それを見た平次はそう思った。
次回に続く