「と、いう訳で一年一組のクラス代表は織斑一夏君に決まりました。・・・あ、“一”繋がりでいいですね」
試合の翌日、朝のホームルームで真耶がそう言った途端、教室中から歓声が沸き起こった。
第五話
「・・・・何故だ?」
不思議そうに一夏が真耶に聞く、自分の記憶が正しければ決闘に勝った方が代表になるという事だった筈である。
「それはですね「それは私が辞退したからですわ!!」・・うう」
答えようとしたら、その上から勢い良くセシリアが答えたので、涙目になる真耶
「勝負は確かに貴方の負けでしたが、私とほぼ引き分けの僅差に持ち込んだのですから・・」
セシリアは咳払いを一つしてから続ける。
「それで、私も大人気無かったと反省しましたので・・・」
彼女は一夏ににっこり笑いかけると
「一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。IS初心者であれ程の実力ですのでクラス代表になって実験経験をつみ重ねていけば、国家代表も夢ではないと思いますの」
そこでセシリアは頬を少し赤く染めながら一夏を見て言う
「そ、それでですわね・・私のような優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間が操縦を教えれば、それはもうみるみる内に成長を遂げて___」
「生憎だが一夏との訓練相手は私だ。」
そこで箒が立ち上がり、セシリアを睨んで牽制する。
どうやら乙女の勘が、彼女を明確なライバルだと認識したらしい
しかし彼女も怯む事無く、箒を余裕の目で見る。
「あら、誰かと思えばISランクCの篠ノ之さんでは無いですか。ランクAの私に何か御用かしら?」
「ら、ランクは関係ない! 一夏の相手は私だ。一夏にどうしてもと頼まれたからな・・」
実際は一夏がどうしようか・・と考えていると彼女が一緒に訓練してやろうと半ば強引に誘った結果である。
一夏自身も訓練用ISが無いから、箒の誘いに付き合ったのだ。
それは良いとして、二人の頭からバシン!バシン!と打撃音が響き渡った。
出席簿を片手に現れた千冬が、頭を抑えて悶絶する二人に言う
「座れ、馬鹿共」
そして、彼女は言う
「お前たちのランクなどゴミだ。私からしてみれば団栗の背比べだ。まだ殻も破れていない段階で優劣など付けようとするな。」
コイツみたいな規格外ランクの奴でもだ。と、一夏を指して言う千冬
ちなみに一夏のランクは規格外のSSである。
これは千冬のSランクを超えて、計測不能レベルの適正値に暫定的につけたランクである。
つまり一夏は世界一の適正値を持っているのである。
「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。下らん揉め事は十代の思春期の特権だが、生憎今は私の管轄時間だ。自重しろ。」
厳しく表情を引き締めて言う千冬に一夏は
( 流石だな・・これで私生活もしっかりしていれば良いのだが・・)
そんな事を考えていると、千冬がこちらを向いた。
「織斑、今何か無礼なことを考えただろう?」
ギロリと睨んでくるが、一夏は平然としていた。
「・・完璧な存在など、この世界に在りはしないと考えただけ・・です。」
相変わらず、ぎこちない敬語だった。
「そうか・・・」
ズバァン!!
「すいませんでした。」
「分かれば良い」
千冬はフン、と鼻を鳴らしてから宣言するように言う
「クラス代表は織斑一夏。依存は無いな?」
ここに一夏がクラス代表であるが決まったのだった・・・
その後、ISを装着する為に一組の生徒全員がISスーツを着てグラウンドに居た。
ISスーツは簡単に言えばスクール水着に似ている為、健康的な太腿とか見事に露出しており、男である一夏の視線を気にして恥ずかしがっている者も居たが・・・
当の一夏本人は腕を組んで立っているだけで、女の肌に興味は無いとばかりに無関心だった。
その様子に残念そうにしている一部のクラスメイトが居たのだった。
「それでは、ISの飛行訓練を開始する。織斑、オルコット、ISを展開しろ」
一夏は待機状態にある己のISに目をやる。それは黒きガントレットであり
その外見は『人世界・終焉変生』だった。
“本当に、これも何かの縁か・・・・”
「何を呆けている? 早く展開しろ」
ふと気づくとセシリアは既に展開している。
千冬に急かされた一夏は腰に腕を置いて肘を横に突き出す。それは押忍!の格好に近い
「___Yetzirah」
次の瞬間には黒い装甲を纏った一夏がそこに居た。
「よし、飛べ」
その言葉と共に砲弾の如き速度で上空に飛び上がる一夏、それに続いてセシリアも優雅に飛んでいる。
ある程度の高さにまで上昇すると一夏は宙返りして待機する。
「流石ですわ、一夏さん。」
何処か嬉しそうにセシリアが話しかけてくる。
「いや、それ程でもない・・」
素っ気無く返したのだが、その会話を快く思わない者がいた。
「では、今度二人きりで一緒に訓錬を「一夏、何時までそんなところにいる!早く降りて来い!!」
いきなり通信回線から怒鳴り声が聞こえたので、地上に目をやると箒が真耶からインカムを奪っていた。
「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。」
千冬が箒に拳骨を振り下ろして言う
「了解しました。では一夏さん、お先に。」
そう言ってセシリアは一気に加速して急降下し、一気に減速して完全停止をしてクリアした。
“流石は代表候補生と言った所か”
そう思いつつ、一夏も急降下を開始する。
急速度で地上へと降下して行く、そして地表ギリギリで轟音と共に止まる。
「・・・確かにクリアはしたが、その方法は止めろ」
千冬が言ったのは、地表寸前で一夏は一気に拳を突き出し拳圧で速度を相殺したのだ。
普通の人間が出来る事ではない。一夏だから出来るのだ。
「まぁ、良い・・・次は武装展開だ。」
千冬が一夏の前に立つ
「では、やってみろ」
一夏は何も言わず、ただ無言で拳を前に突き出し雪片弐型を展開する。
「これ位は問題無いか・・次はオルコットだ。」
「はい」
セシリアは真横に左腕を肩の高さまで上げる。
「ふむ、流石は代表候補生と言った所か・・ただしオルコット、そのポーズは止めろ
誰を撃つつもりなんだ?」
「で、ですが、これは私のイメージにまとめるのに必要な___」
「直せ、いいな」
「はい・・・」
流石のセシリアも千冬には逆らえず、ただ返事をするしかない様だった。
「次だ。オルコット、近接武装を出せ」
「は、はい」
返事をしたものの、中々で展開されない
「まだか?」
「い、いえ・・。う〜ん・・・。ああ!もう、“インターセプター”!!」
うまくイメージ出来ない事に痺れを切らしたセシリアは、初心者コースのやり方でショートブレードを展開した。
これは代表候補生たるセシリアにとっては屈辱だろう。
「何秒待たしている。実戦で相手は待ってくれないぞ?」
「・・・頑張ります。」
「分かれば宜しい」
この様に本日の授業は行われたのだった。
夕食後の自由時間、一年一組のクラスメイト達による『織斑一夏、クラス代表就任記念パーティー』が開かれていた。
「と言うわけで!織斑君クラス代表おめでとう!」
「「「「「おめでと〜〜〜!!!!」」」」」
「・・・・・・・・ああ」
一夏はパーティーの中心で、クラスメイト達から次々と祝いの言葉を送られていた。
いつもの如く、ぶっきらぼうな返答に無表情といった様子だが、彼女達の気持ちを無下には出来ないらしく、ちゃんと会話に付き合っている。
その様子を見て、箒は不機嫌そうに茶を飲んでいる。
「はいは〜い、新聞部で〜す。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました〜!!」
オオ〜と盛り上がる一同、学生だけあってノリが良い様だ。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長をやってま〜す。ハイ、これ名刺」
「・・・・どうも」
「ではでは、ずばり織斑君、クラス代表になった感想をどうぞ!!」
「・・・・・・・特に無い」
「え〜、もっと良いコメント頂戴よ〜?案ずるな、私は負けん!!とか」
お前はどこぞの黄金的な台詞を求めんのかよ!?と突っ込みたいが気にしないで置こう
一夏はマキナだ。マキナがそんな事を言うなんて無理にも程がある。
「・・・言葉で飾る必要など無い」
「おお・・・・・ハードボイルド・・」
一夏は言葉では無く、行動と背中で語る漢なのだ。
「じゃあ、仕方無いから適当に捏造しておくから良いとして・・ああ、セシリアちゃんも何かコメントを」
「私、こういったコメントはあまり得意ではないのですが・・」
そう言いながらも、満更じゃなさそうにしているセシリア
「では、まずどうして一夏さんに代表を譲ったのかと言うと___」
「あ、長そうだから、写真だけで良いわ。」
「ちょっ!?」
「クラス代表を譲った理由も、織斑君に惚れたからでいいよね?」
「なっ!?なななな・・・」
セシリアが真っ赤になってプシュ〜と蒸気を吹き上げる。
「ああ、織斑君、セシリアちゃんとのツーショットが欲しいから並んで?」
「構わん」
そこで一夏はセシリアの横に並ぶと・・彼女の肩に手を回した。
「い、一夏さん!!?」
「ぬぁっ!!?」
「「「「「「おお〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」」」」」」
「これ位のサービスはする。」
クラスメイトからは歓声が上がり、箒からはギリギリと悔しそうな表情で睨んできている。
「やるねぇ、織斑君。君って中々のプレイボーイ?」
「そんな訳あるか」
「じゃあ、撮るよ〜、35×51÷24は〜?」
「・・・知るか」
「正解は74.375でした〜」
直後にシャッターが切られるが、フレームに収まるようにクラスメイト達が入ってくる。
「・・・何故入っている?」
“まさか、箒までもが一緒になって入ってくるとは・・・”
獣殿もびっくりのチームワークである。
「あ、貴方達ねえ!!」
「セシリアだけ駆け抜けはないでしょ〜?」
「ま〜ま〜」
「クラス全員の思い出になっていいじゃん」
「わ〜い、おりむ〜に、いのっちと写真〜」
「先輩、後でその写真くださいね!!」
“全く、子供だな・・・”
一夏はそんな事を思いながら彼女達の見ていたのだった。
その後、セシリアの肩を抱いたことに対する箒の嫉妬に、頬へキスすることで落ち着いた。
が、ズルイと言う、セシリアを含めたクラスの声に一夏は仕方なくクラス全員の頬にキスする事になったのだった・・・
結局この馬鹿騒ぎは夜十時まで続けられ
その間に一夏は数え切れない位、クラスメイトの頬や額にキスをしたのだった・・
流石に“唇にしてくれ”と言う者は、同じ乙女達によって阻止されたが・・・
それでも皆、その日はとても満足そうにしていたのだった・・・・・