「そうか、まりもんは教師になりたいのか」
「うん、学校の先生になって、みんなに英語を教えたいの!英語のいろんなお話、翻訳されたものもいいんだけど、英語の原文で読めるときっと、もっともっと楽しいんだよ?」
「ああ、そうだな。そうなったらいいな」
まりもの夢。いつかかなえてやりたいな。
そのために、今はおれの出来る限りをする。世界の意志が立ちはだかろうが、打ち砕き、おまえを導いてやろう。無理を通して道理を引っ込ませるのだってやってやる。だから、夢を果たすまで、おまえもあがき続けるんだ。
「だがそのためにはいくつもの試練が待ち構えている、まりもん。果たしておまえはその試練を乗り越えることができるかな?」
「うん、がんばる」
と言うわけで、今この時をもってまりもんの魔改造が本格的に始まった。
「えー、というわけで、まずは気を使用した身体能力の向上について説明したいと思います」
まずは基礎講座から始めることにした。なにごとも基礎が肝心だからな。
「はい、隆也くん質問」
手を挙げて質問するまりも。ふむ、なかなか君も分かっているな。教師と生徒のイメージプレイ、そう、気の利用にはイメージが大切なのだよイメージが。
「気ってなに?」
「うん、まあ普通、最初はそこからだよな」
わかってたよ。そんなに簡単に理解できないことくらい。
なにせこの世界には娯楽が少ない。前世では誰もが知っていたあの世界的格闘漫画も今生では誰も知らない。
かろうじてアニメーションが存在するが、その種類たるは微々たるもので、話の内容も日本昔話的なものがせいぜいだ。
というわけで、まずは気とは何なのかを説明することから入る必要がある。
「オーラ、小宇宙、念、まあ呼び方はいろいろあるが、簡単に言えば精神力にある一定のベクトルを持たせることにより取得できる力の一種だとおれは考えている」
「ふえ?」
まりもが訳分からんちん、といった顔で頭の上に大きなはてなマークを浮かべている。
そりゃそうだ。なにせ現代科学では解明どころか存在すら確認できていないものだ。
おまけに、多分に感覚的なものなんで口で言ってもわからんだろうし、おれの独自解釈しか今のところ存在しないので、体系づけられた知識取得の方法も確立されていない。
「まあ、定義はともかく、まりもんは気を扱えるようになっているはずなんだ。だからあとは気を操るイメージをものにすればいいだけだ。ね、簡単でしょう?」
おれはボブのように軽くいってやった。
「そういわれても、難しいよ」
「それは頭で考えているからだ、どんとしんく、ふぃーる、だ!」
「それって、Don't think.Feel、っていうこと?」
まりもの口から流暢な英語が流れる。悔しいが、英会話はやつのほうが上手のようだ。
ちなみのおれは読みは出来るが話すことはできない。なにせ勉強のお供は常に本だったから、発音すらよくわからん。
それに引き替えまりものやつは、英会話教室なんかにも通っているせいで、読み書き会話とネイティブばりだ。
「そう、それ。感じるんだよ、全身で、自分の中に巡る気を!そして解き放つんだ、熱いパッションを!」
「もう、パッションってわけわからないよ。それに、なんか質問の内容からそれてるよ?」
むう、最近反抗的だなまりもくん。いつだったかの怪談ビデオ上映事件の際に下手に出すぎたのが仇になったか。
ここは一つ、上下関係という物を再度教えてやらねばならんか?
いやまあ、それはとりあずまたの機会にして、今は気の講義を続けるか。
「へーへー、わかりましたよ。それで気ってのは全身に巡っている見えない力だ。だから想像することが大切になってくるわけだ」
「想像?」
「そう、想像、イメージ。例えばまりもんよ、君は剣の修行の際に仮想敵を想定して稽古をするときがあるだろう?」
「うん」
「それって、目に見えるものか?」
「ううん、だってあたしの想像だもん。あ、でも頭の中では想像できているよ」
「それと同じだ。目には見えない。だがそれは確かにまりもんの体を巡っている。それを想像することが肝心なんだ。そしてまりもんはそれを自在に操れる。たとえば、こんな風にな」
おれは右手を差し出し、バスケットボール大の気弾を放出した。ちなみにそれは右手の平の十センチ程度上でふよふよと浮いている。
「え!?」
「これが、気、だ。まりもんの場合は、気を認識する能力があるから、これが見えるはずだ。どうだ?」
「すごく、大きいです」
あっけにとられたまりもの口からお約束がこぼれた。
「いや、そこでネタに走らなくていいから」
「ふえ?あ、え、え、と、これ、なに?」
「まあ、びっくりするわな、普通は。さっきから言っている気を外部に放出したものだ。ちなみにここまで制御するようになるにはかなりの修練が必要になるぞ」
実際、気の固定化には莫大な努力が必要だったからな。
「ようはこれを作るのに使っている不思議な力が、君の体にも宿っているのだよ」
「な、なんだってーΩΩΩ!!」
「いや、だからネタに走るなっていってるだろうに」
「う、うん。でも、本当にそんなものがあたしの体に?」
「まあ自覚がないのは分かるがな。確かに存在しているよ。で、ここからが肝心なんだが、気を使うことにより身体能力の劇的な向上が望めるようになる」
なにせ状態表示で気力があるのは確認できているからな。間違いないはずだ。
「どういうこと?」
「この気っていうのを体に巡らせることで、体を頑丈にすることができるんだよ」
おれが10歳程度の体で、とんでもない身体能力を発揮できる理由の一つがこれだ。気をまとうことにより、細胞レベルでの変質が起こるようなのだ。
例えば100Kgのベンチブレスを片手で持ち上げる、言葉にすれば簡単だがそもそも子供の骨格が、片手にそんな極端な荷重をかけることに耐えられるか?
答えは否だ。
それを可能にしているのが気による細胞レベルの強化にある。気が大きくなればなるほど、細胞レベルに宿るその量が多くなりより頑強さを増すことになる、それが今までの経験と実験で分かったことだ。
要するに気が大きくなればなれるほど体が強くなるわけである。ただし、頑丈さと身体能力の高さは比例しないので、気力の増大=身体能力の向上には直結しない。ちぇっ!
「そうすることで、より大きな負荷を体にかけることができるようになる。そして負荷に応じて体は力をつけようとする。この繰り返しにより、劇的な身体能力の向上が見込めるということだな」
「ふええ、すごいねえ」
「すごいねえ、じゃない。それを今からまりもんがやるんだよ」
「ええ!?」
などと少々頭が痛くなるようなやりとりをした結果、無事まりもんは気を使えるようになりましたとさ。その結果がご覧の有様だよ。
基本情報
名前:神宮司 まりも
性別:女
年齢:10歳
身長:130cm
体重:29kg
身体能力情報
筋力:390(200+3000)
体力:402(200+3000)
俊敏:473(200+3000)
器用:312(200+3000)
感覚:420(200+300)
知力:177(200)
精神:499(200+300)
気力:441(200+3000)
おおう、自分で鍛えておきながら、なんてスペックだ。10歳にして成人男性にせまる身体能力とは…
こりゃ、将来が楽しみだな。
通常技能情報
・外国語学:237
・外国系勉学:746
・文系勉学:773
・近接格闘術:614
・剣術:611
・応急処置:127
・気放出:102
etc…
とりえあずまりもんも例のあれを撃てるようになった。
もちろんかけ声はおきまりのやつだ。
はずかしながらもぶっ放すまりもんの姿はカメラがないのが惜しいほど見物だった。
剣術は、すでに達人級。はっきり言って、一般人ではまりもの相手にすらならない。
近接格闘術も立派に育っており、もはや死角なしだ。
勉強方面は相変わらず英語に偏っているらしいが、このあたりは本人の未来の夢もあることだし、温かく見守っている
特殊技能情報
【新規取得のみ抜粋】
・身体強化:LV2
・気強化:LV2
・超回復
ついに取得した身体強化と、気強化、おまけに超回復。
おかげさまでまりもも無事に人外へと道を踏み外しつつある。
しかし、いいなあ。これだけの能力を消費経験値たったの3,200で手に入れられるんだから。
そんなこんなで魔改造まりもん育成計画の一幕は過ぎていくのであった。