「ごめんなさい〜、わたしだって精一杯抵抗したのよ〜。だけど、だけど〜、いやがるわたしを無理矢理、何度も何度も執拗に」
半泣きのまりもがおれに謝っているのを、にやにやと眺める紫色の髪の少女。
「ふふふ、昨日はあんなに喜んでいたのに、ひどい言いぐさね」
紫色の髪の少女は、その冷徹な瞳に年に似合わない知性を宿していた。間違いない、こいつは鎧衣のおっさん級に食えない人物だ。
「ふええええ」
泣くまりもの頭をぽんぽんと叩きながら、おれは紫色の髪の少女に真っ向から対峙した。
「おまえが、まりもんを弄んだんだな」
毅然とした態度で相手を睨み付け問い詰める。
「ええ、そうよ、それがどうしたの?」
同年代のやつでも恐れるおれの眼光を受けながら、紫色の髪の少女は平然と答えを返してきた。大した胆力だ。それとも虚勢か?
「具体的にどうやったのか、非常に興味がある」
ふえ?とまりもが声を漏らすが、当然無視である。
「ふふ、そうね。まずはまりもが自由に動けないように、一服盛らせてもらったわ。なにせ本気で抵抗されたら、アタシではとてもじゃないけどかなわないし」
「なるほど。だが、そんなものそう易々と手に入れられるものじゃないだろうに?」
「まあ普通はね。でも案外なんとかなるものよ。科学実験室や保健室にある薬剤の入手程度なら、何とでもなるわ。後はそれをうまく調剤すればいいだけの話よ」
「なにげにすげえな、おい」
このお嬢さん、堂々と薬剤かっぱらったことを告白しやがったよ。
「この程度、大したことはないわよ。それで気分が悪くなったふりをして、まりもに保健室まで連れ添ってもらったわけ。後はのどが渇いたからお茶でも飲みましょうっていって」
「まりもんのお茶に一服盛った訳か」
「そういうこと、後はそのままベットに、というわけよ」
「ゴクリっ!」
妖艶に笑う紫色の髪の少女。まりもと同い年なはずなのに、非常に蠱惑的な笑みだった。つめの垢を煎じてまりもに飲ませたいくらいだ。
「アタシ、本当にゴクリって喉を鳴らすやつを初めて見たわ」
「こまけえこたあいいんだよ。続きだ、続きはどうなった!?」
美人の罵倒はちょっとしたご褒美ですらある。おれは構わずに続きを促した。
「最初はもちろんまりもも必死に抵抗しようとしたわよ。でも、薬のせいで自由に動けない身体。自由にならないもどかしさと、必死に体を動かそうと力んだせいで、徐々にまりもの呼吸は荒くなっていくの」
「続きを、続きを早くプリーズ」
「あんた、絶対アホでしょ」
「アホで結構、これで興奮しないやつのほうが、おれから言わせれば哀れだね。人生損してるよ、そいうやつは」
「まあね、アタシも欲望に忠実なのは悪いことじゃないと思うわ。ま、いいわ。つづきについてはこっちのレポートに書いてあるわ、好きに読めば?」
「お、おう」
差し出されたレポートをおずおずと受け取ると、おれはそれに没頭し始めた。
「え?あの、ねえ、ちょっと」
まりもの声が聞こえたような気がしたが、気にしない。
〜〜レポートより〜〜
ささやかな抵抗をするまりも。アタシはそれを無慈悲にも躱して、普段は人の目に触れることのない秘密の園をそっと露わにした。
おそらくそこをまじまじと見つめられることなんて今までほとんどなかったのだろう。まりもは恥ずかしげね身を捩るのだけど、自由を奪われた身では、それは逆に妙な色気を生んだだけだった。
「あっ、だめぇ」
切なげな声がまりもの口からこぼれてきたけど、それはアタシにとってはなんの意味もなさないものだった。
「ふふっ、かわいいわよ、まりものここ」
アタシは手にした棒状のそれをまりもの普段は隠れているの秘密の園にそっと触れさせた。
「んっ」
先ほどと同じ切なげな声。無理に押し殺そうとしているのが分かったけど、アタシはその行為を止めようとはしなかった。
「声もかわいいわね」
棒状のそれで秘密の園をなぞる度に、まりもの口から可愛らしい声がこぼれる。アタシはしばらくその行為に夢中になってしまった。
「いやぁ、もう、もうやめてぇ…」
懇願?いえ、違うわね。一見拒んでいるように見えて、その実、このこは誘っていた。
アタシが手にした棒状のものをその秘密の園の、そのさらに奥へと忍び込ませることを。
「ええ、わかってるわよ、まりも。あなたが本当にして欲しいことくらい」
「え?ひぅっ!」
するっ、とそれはまりもの中に入っていった。吸い込まれるように。
敏感に反応するまりもの様子をうかがいながら、ゆっくりと中に差し込まれた棒状のものを動かす。
「ああぁ…」
「どう、まりも、気持ちいいかしら?もっと続けて欲しい?続けて欲しかったら、洗いざらいしゃべってしまいなさい」
「だめ、それは秘密なの。絶対にしゃべらないわ」
まりもの瞳に強靱な意志が宿るのが見えた。
正直驚いた。まさかここまでされてなお、抵抗の意志を見せるとは。
「そう、ならこれ以上は止めた方がよさそうね」
中に差し込んだ棒状のものを抜き出し、再び秘密の園の縁をなで回す。
「あっ」
その声には理性と欲望の葛藤が見て取れた。強い意志を持つとはいえ、アタシと同い年。
そう簡単に欲望を制御することなどできない。
「ふふっ、物欲しそうね?どう、少しは素直になる気になったかしら?」
「だめ、だめなの、隆也くんと約束したの」
「へぇ、そうなの。隆也っていうのが関係しているのね。よく教えてくれたわ。ご褒美よ」
「あっ、ち、違うの、隆也くんはかんけ、ひぅぅっ!」
なぶるように周囲をなで回していた棒状のものを再び秘密の園の中に差し込み、中を蹂躙するようにかき混ぜる。
まりもは必死に抗おうとするけど、その感触にささやかな抵抗は霧散してしまう。
「大丈夫よ、まりも。まだまだ時間はたっぷりとあるわ。さあ、ゆっくりと話しましょうね」
「い、いやぁ」
拒絶の声は、なぜか歓喜の色を帯びていた。
〜〜レポートより〜〜
「え、エロいな、これは」
「そうでしょ、我ながら苦労したわ。アタシ文才の方はあんまりないのよね」
「いやいや、謙遜するこたあないぞ。十分エロいと思うぞ、描画が耳かきだってことを思えば」
ちらり、と横目でまりもを見る。まりもは顔を真っ赤にして、落ち込んでいた。
「うう〜、ごめんなさい、隆也くん」
「まあなあ、この手の方面の鍛錬なんてつんでないからな。ま、しょうがないさ。気にするなよ、まりもん」
慰めの言葉をかけるがまりもは落ち込んだままだ。まあ無理はない。
なにせ、まりもが特殊技能を持つこと、それがおれによりもたらされたことを、この目の前の少女に教えてしまったのだから。
堅く口止めをしていたにも関わらず、なぜこのような事態になったのか?
それについては、今おれとまりもが置かれた立場を少々説明をせねばなるまい。
1979年に行われた、教育基本法改正、こいつが諸悪の根源である。
成績優秀、品行方正、運動神経抜群のまりも。
成績まあまあ、学校さぼりの常連、運動まあまあのおれ。
まりもはともかく、おれは選抜にすら引っかからなかったのだが、全国の優秀な小学生を対象に行われた選考会。
それは優秀な人物を小さい頃から選び出し、エリート教育を行うことで国力の底上げを図る、という意図のもと行われたものだ。
遅咲きの天才ってのもいるが、この制度はそれについては考慮せず、手堅い方法を選択したようだ。
問題はこれにまりもが合格してしまったことだ。
あれほど、試験の時は「おれってばかだぜ〜」って思えっていったのにな。
不幸中の幸いなのは、まりもが進学したのが同じ柊町にある帝国軍白陵基地所属中等部養成所なるところに入れられたおかげで、なんとか休日は会うことができることか。
で、不幸中の不幸なのは相棒制度の相方が、この紫髪女だったことだ。
相棒制度っていうのは、優秀なもの同士を組ませて切磋琢磨させるため、二人一組で常に行動を共にさせる制度のことだ。
普通の人ならまりもの異常性に気づくことはなかっただろう。多少違和感を感じることはあっても、それをフォローさせる程度のことは覚えさせておいたからな。
だが相手が悪かった。
自称天才、実際天才の、この紫髪女に、まりもの持つ異常性を気づかれてしまったのだ。
そして好奇心旺盛、かつ天才にありがちな自信の知的好奇心を満足させるためには手段を選ばないその行動により、おれの存在が明るみにでてしまったということだ。
これが、まりもとペアを組んでから一週間目の出来事だってんだから、伊達に天才はやっていないということか。
「さて、それじゃ、話してもらいましょうか。あんたとまりもの関係。そして、まりもの特異な能力について」
高飛車な態度で、問いかける紫色の髪の少女。
はてさて、どうしたものやら。