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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その2
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/07(土) 14:58公開   ID:eoF2Dat1HnA
 ここ帝国軍技術廠で一番忙しい人物は誰が、と問われると、10人中8人は彼の名前を挙げることだろう。

 その彼の執務室に軽快なノックの音が響く。

 「小塚技術中尉、よろしいですか?」

 「構わない、なんだ?」

 執務机の上には山のような書類が積まれており、彼はその中に半分埋もれるようになっていた。だが返す声も、その態度も毅然としたものだ。
 書類仕事のせいで疲れがたまっていようが、帝国軍人としての矜持がそれを表に出すことをよしとしない。
 帝国軍技術廠きっての堅物との風評に偽りはない。よく言えば謹厳実直、悪く言えば融通の利かない頑固頭。
 だが一部の者は知っている、それが単なる見せかけだけなのだと。帝国のためなら法に触れようがなんだろうが手段は問わない、清濁併せのむ合理的な思考の持ち主だと言うことを。

 「はっ、先日ロールアウトした『撃震』の稼働データを持って参りました」

 「ごくろう、悪いが見ての通り多忙でな。簡単な口頭での説明を頼みたいのだがいいか?」

 「はっ、了解いたしました」

 技術士官からの報告は、小塚の予想の範疇だった。それを確認できた小塚は、技術士官に山積みになっている資料の上に持ってきた資料を置くように指示した後、退出を促した。

 「まさか本当に5%の性能向上が見られるとは。柊町か、彼の地には魔物でも住んでいるのか?いや、帝国を守護する神獣か?」

 ぼつりつぶやく小塚に届けられた報告は、主要部品全てを柊町の工場で作らせたものを使用した撃震の機能評価についてだった。
 以前技術者たちの報告にあった通り、従来の撃震に比較して5%の性能向上。
 その下地作りととして、最重要部品にのみ絞ったが、柊町産の部品を使用した撃震を作成、その評価運用を行った結果が、今小塚が埋もれている書類だった。
 既存撃震と比較して3%前後の性能向上。
 ある者は驚喜し、ある者は否定し、ある者は半信半疑という実に微妙な反応で受け止められたこの結果をもって作成された、柊町で生産される部品の精度の高さ、品質の良さを証明するための資料作成、その実地検証について報告書。
 小塚の半年はこれらの処理をひたすらに行うためのものだった。
 しかも部品の制作場所については、機密扱いという普段なら考えられない処置を持ってだ。

 これについては、軍需産業、彼らからのバックアップを受けている技術将校から一斉に批難の声が上げられた。
 ようするに、出所も確かに証せない部品を使用するなど言語道断、だの、量産体制が整っていない一品物の部品を使って性能をごまかしている、などだ。
 彼らの思惑は分かっている。出所さえ分かれば生産地の工場に対して自身のもつ強大な権力を持って介入。その後は技術を搾り取るだけ搾り取って、その成果を自身たちが作り出した物だと言い張るつもりだろう。恥も外聞もない、権力と欲望にまみれた連中、それが小塚の抱く彼ら軍需産業およびそれをとりまく技術将校たちへの評価だった。人類存亡の危機が間近にせまっていながらもなお、この浅ましいまでの自己中心的な言動。
 そのためにも、制作場所については機密扱いせざるを得なかった。
 柊町が持つ潜在能力、つまり未来の可能性を、その場その場の損得でしか物事を判断できない金の亡者につぶさせてはいけない。これは小塚の判断でもあり、彼の直属の上司の判断でもあった。
 加えて理由はもう一つある。
 鎧衣左近主任の忠告だ。

 「物資の精度向上、これは確かに工作機械の性能向上の恩恵ゆえですよ、小塚中尉。そこにはあの大国の思惑も、その他の政治的な思惑も一切絡んでいない。それは自信をもって証言できます。だがならばなぜ、このような劇的な工作機械の性能の向上がなったのか?天の女神の贈り物か、はたまた地の魔神に対価を差し出して引き出した物か。答えは簡単ですよ、その中心には一人の人物がいる。その人物がは我々の埒外にある人物であり、今回の騒動の元凶とでもいうべき人物です。ですが今は私の口から言えることはただ一つ、あの地へのうかつな干渉を行うな、ですな。元凶となった人物はとにかく面白い、だが面白いが故に予測が付かないのですよ。従って今は静観するのが正解でしょう」

 鎧衣という男の人となりはともかく、彼のもたらす情報は信用できる。利害関係が一致している限り、いたずらに彼の忠告を破るようなまねをする必要もない。
 そう思っていた。あの「真・近接戦闘長刀」と銘打たれた戦術機用実験的改修兵装のデータを見るまでは。

 「でたらめだ…」

 小塚は試験評価の結果を見て頭を抱えていた。
 そもそも、戦術機の兵装である74式近接戦闘長刀を柊町の町工房に整備に出したのは、ちょっとしたいたずら心からだった。
 あれだけの技術向上を果たした人物が、果たして戦術機の兵装を見てどんな反応を返すのか。
 彼の技術者として好奇心と、ちょっとしたしゃれっ気がとんでもない物を作り出す結果になったのは明らかだった。

 「既存の74式近接戦闘長刀と比較して10%もの軽量化、しかも強度は失われてはない。いや、むしろ新素材と綿密に計算された刀身フォルムにより格段の向上が見られる」

 そう、この兵器はあまりにも従来の兵装の性能を逸脱していたのだ。
 部品の精度どころの話ではない。
 近接長刀の全く新しい形を提示していたのだ。
 それどころか、今回提示された新素材を流用して74式近接戦闘長刀を再設計すれば、どうなるか?
 おそらく前線国家はこぞって我先にと技術提供を求めてくることだろう。
 新素材と、コーティング技術、特許の出願自体はすでに終わっている。問題はこの認可をどうするかだ。
 素直に出願してきた企業に許可をくれてやる?馬鹿な、そんな技術をたかだが一地方の企業に持たさればどうなることになるか。
 ここは万全を期して帝国技術廠の名義の元正式な特許を得るべきではないか?
 軍需産業とその周辺がうるさくわめくかもしれないが、この程度ならなんとでもなる。
 だが、ここで一つ気にかかるのが、先ほどの鎧衣主任の言葉だ。

 「あの地へのうかつな干渉を行うな、か」

 今回の特許に絡む干渉が、彼の言ううかつな干渉に当たるのか。そこが問題だった。
 金銭的な問題を解決すればいいのだろうか?
 ふとそんなことを考える。
 特許とそれに付随して発生する莫大な権益について、表向きは技術廠が受けていることにし、なんらかの名目でその工場に便宜を図るないし、資金の供給を行う。
 この程度ならば問題ないのでは?

 「というわけで、ご意見をお聞かせ願えればと思うのですが、鎧衣主任?」

 小塚の冷たい声が部屋に響く。
 正確に言えば、小塚に視界の左隅にある応接セットにだ。
 忽然と、それは現れたように見えた。
 だが、それはこれまでも、そしてこれからも変わらずにそこにあるもののようにも見えた。

 「ふむ、その程度ならば問題ないでしょう。かの人物は、一方的に搾取されるなどといったゆがんだ関係でなければそうそう腹は立てない性格のようですし」

 「相変わらず勝手に私の部屋に入ったことに対する弁解はなしですか、まあいいですが」

 いつの間にやら自室に潜り込んでいた鎧衣主任に一瞥を与えると、小塚は再び書類の整理に取りかかった。
 鎧衣主任の無断での入室にかんするやりとりは、ここ半年でいやというほどしてきた。さすがに小塚もいつのまにやら湧いて出てきたように鎧衣主任が自分の部屋の応接セットに腰掛けている、という珍妙な現象になれてきていた。

 「いいかげん、その人物とやらを紹介はしていただけないのですか?」

 「嘆かわしいことに、かの人物はひどく人見知りのようでして」

 大仰な仕草で天を仰ぐ鎧衣主任を、小塚はひどくさめた目で見つめていた。
 このおっさんがこういう仕草をするときは、必ずなにか裏があるときだからだ。

 「条件はなんですか?」

 「はて?条件といいますと?」

 「その人物と引き合わせてくれるために、我々、いや私はなにをすればよいのか、と聞いているんです」

 韜晦する鎧衣主任に、小塚は絶対零度の視線を向けた。分かっているくせに、のらりくらりとこちらの言葉を交わし、決定的な言質をとらせる。いつもながら嫌らしい手法だが、彼の所属を考えればある意味当然か。

 「実は、かの人物は戦術機の兵装だけではなく、戦術機そのものにも興味があるらしいのですよ」

 ひくっ、と小塚の眉が動く。

 「先日なんとか名目をつけて、WS−16Bを都合したばかりです。そう簡単に次から次へと、と言うわけにはいきません。しかもものが戦術機となると話の次元が違ってくる。もはや、私の権限の範疇を超えている」

 「ああ、そのWS−16Bですが、近いうちに送り返される予定だそうですよ。例によって、少々形は変わってしまっているようですが」

 ひくくっ、と小塚の眉が動く。

 「ま、ば、ばかな?引き渡したのはほんの1月前ですよ?それがあの「真・近接戦闘長刀」ばりに変わって戻ってくるというのですか?」

 声は半ば悲鳴だった。だがそれは無情にも鎧衣主任に肯定されてしまう。

 「ええ、かの人物にとっては、その程度造作もないことだったようで」

 小塚は自分の中の常識が崩れていくのを必死に押しとどめていた。本来新機軸の兵器などほいほい開発できるはずがない。そもそも今ある兵器自体、当時最先端の科学技術の粋を集めて作られたものなのだ。
 科学技術は日進月歩とはいえ、兵器となると目新しさよりも、堅実さ、信頼性などにより重きが置かれる。
 人の命に直接関わるのだ、当然だ。
 だからだ。だからこそ「真・近接戦闘長刀」はそもそもがおかしいのだ。まるで何年もかけて実践検証が行われたような抜群の安定感と、堅実さ。それが元となった74式近接戦闘長刀を引き渡してから一月もしないうちに手元に戻ってきた。
 それが今度はWS−16Bも同様に姿を変えて戻ってくると言う。おかしいとか言うレベルではない。常識の枠を超えている。いっそばかげているレベルとでも言えばいいか。

 「わかりました…戦術機自体は無理でも、パーツ単位でなら何とか名目を作って送ることは可能でしょう」

 「おお、それはすばらしい。かの人物も大喜びでしょうな」

 「それで、その人物とのコンタクトはいつ頃になるんですか?」

 「さて、先方も忙しい人物でしてね。おまけに下手に振る舞うと機嫌を損ねてしまう可能性すらある。とりあえずは、あたらしいおもちゃを与えてご機嫌を取るのがさきかと」

 「っ、わかりました。ですが、時がくれば必ず」

 「ええ、心得ています。私も時を誤るつもりはありませんのでね。では」

 言ってさっそうとトレンチコートを翻して立ち去る鎧衣主任を、小塚は恨めしげな視線で見送った。

 もちろん、小塚は知るはずなどなかった。鎧衣主任が立花隆也とはなんの約束もしていないどころか、催促すらもらったことがないことを。


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