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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その7
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/07(土) 15:23公開   ID:eoF2Dat1HnA
 「これはこれは小塚外交官、どうされました?」

 「いえ、少し酔ったようです」

 「それはそれは、少しお休みになってはいかがですか?」

 「ええ、それではお言葉に甘えて」

 小塚一郎外交官、在米日本帝国大使館の一員は、壁際に並べられたイスに腰掛けた。
 まったく、どうにかならないものか。
 小塚は心の中で愚痴っていた。ここ連日催される晩餐会、いずれも米国の誇る兵器開発企業が表で、裏で絡んでいるものばかりだ。
 目的は分かっている。
 1987年に全世界に向けて発信された試作型撃震弐型、その技術を巡る謀略の一つの姿に他ならない。
 自分は弟たちとは違って、技術分野については詳しくはないが、まわりの様子と配られた資料からそれがいかに帝国に莫大な利益をもたらす物かは推測ができた。
 管制ユニットについては今まで米国産のものが世界共通のものととなっていた。それが、撃震弐型の管制ユニットは従来の管制ユニットをはるかに凌駕する性能を持っていたのだ。
 当然各国はこぞってその情報開示を日本帝国に迫った。米国などは、露骨に国連の影響力を利用してきさえもした。とうぜん誰もが一悶着起こると予想しただろう。だがそれを裏切って、日本帝国はあっさりとそれを了承したのだ。
 理由としては、全世界の衛士の生存率を向上させるために、有効な技術は安価に提供する、という大義名分だった。
 それにより日本帝国の国際発言力は飛躍的に増した。対照的に、高いライセンス料をむさぼってきた米国に対する風当たりは当然強くなる。
 おかげで、この手の催し物を隠れ蓑にした、米国企業からの接触が後をたたない。
 正直自分は外交官には向いてはいないのだ。とはいえ、将来的に政治家を目指すためには諸外国とのやりとりのノウハウは必要になってくる。これも来るべきその日のための修行と思って小塚一郎はあきらめにもにた心境で現状を受けいれることにした。

 「これも公務か、致し方なし」

 再び立ち上がり、晩餐会の中へと泳ぎだしていく。それを迎えるのは、獲物を狙う目をしたハゲワシども。
 さてさて、たかだか一外交官たる自分を狙ったところで引き出せる物はたかがしれているというのに。それだけ必死だと言うことか。
 冷静に分析しながら、気持ちを切り替える。相手がハゲワシだからといって、やすやすと欲しい物をくれてやるわけにはいかないのだ。いかに相手から相応の対価を引き出すか、そしていかにこちらの手札を出さずにすむようにするか。
 駆け引きというなのゲームは、まだ始まったばかりだった。



 「CIAはなにをやっていたのだ!86式兵装のせいで、兵器部門の収益が下がっている今日、戦術機の核となる管制ユニットの技術までも、先を取られるとは。しかも、なんの情報もなしに突然の発表だ!これは情報統括部門の怠慢にほかならないのではないのか?」

 「いえ、ですから何度も申し上げているように、あの国の技術廠は実に閉鎖的なのです。しかも開発の主体となった13特殊実証実験部隊というのは、さらに閉鎖的な連中でして。いかに我々といえどもうかつには手出しできない部署なのです」

 「だが、だからといってこれだけのビッグプロジェクトだ、そのしっぽさえつかめないというのはありえん」

 兵器産業から多額の献金を受けているので有名な閣僚の一言に、CIA長官の目元にけいれんがはしった。
 そうなのだ、そこなのだ。他の議員は見落としているのか、意識的にわからないふりををしているのかはわからない。だが、これだけの完成度を誇る兵器、その開発過程が全く外部に漏れていないと言うことは実に異常な出来事だった。
 まさに突然虚空から現れたとしか思えない兵器群の数々、そして自分たちの常識をあざ笑うかのような新機軸の改良を施されたF−4、いやこの場合は撃震弐型といったほうがいいか、これらの出現には実に不条理なことが多く存在した。
 CIA長官は頭を巡らせる。国家的なプロジェクトでしかなしえない、新兵装の開発、そして戦術機の改良改修案。いったいどうやってそれを可能としたのか?
 可能性として考えられるのは、外部にCIAにすら知られていない極秘開発プロジェクトチームを立ち上げ、そこで作製されたということか。
 それならばたしかに可能だが、狭い国土、さらには経済的にそれほど余裕がないあの国にそこまでする余力が果たしてあるのか?
 疑問は尽きないが、実際にそれらが存在することは覆しようのない事実なのだ。ゆえにCIAの怠慢が誹られるのも我慢できる範囲ではある。

 「しょせんはラングレーの野良犬風情か。期待するだけ無駄なようだな」

 閣僚の一言に、彼を見るCIA長官の目線の質が絶対零度の温度まで低下する。

 「分かりました。これからはさらに、日本帝国に対する監視を強化するよう指示をかけます。そして、今後二度とこのようなことがないように、徹底的な諜報網を構築することをお約束します」

 「わ、わかればいいんだ、わかれば。いいか、くれぐれも油断するなよ」

 視線に気圧されたように、閣僚は慌ただしくその場を後にする。故に彼はしらない、CIA長官がこぼしたその言葉を。

 「確かに我々は米国の忠実なる猟犬。だが貴様ごとき利権をむさぼる豚どもに、野良犬などとは決して言わせんぞ」



 「小塚少佐、そろそろミーティングの時間です。新しい機体が搬入されて嬉しいのは分かりますが、時間は守っていただきたい物ですね」

 「おう、わかったよ、って竹中、なにさらっと階級偽造してんだ。おれは大尉だぜ」

 「ところが残念なことに、先ほど辞令が下りまして、小塚少佐は正式に少佐に昇進されました。おめでとうございます。これで立派な佐官ですね」

 「ば、ばかやろう、そんな簡単なことじゃねえだろう。ってことはあれか?上のやつら、大陸派兵部隊に、俺たちを本格的に組み入れるつもりか?」

 「まず間違いなくそうでしょうね」

 竹中中尉の、冷静な声に小塚次郎新任少佐の頭が一気に冷えていく。

 「ちなみに聞くが、おれが率いることになる大隊の編成は?」

 「元第13中隊を核として編成されることは間違いないですが、それ以上となるとまだ未確定のようですね」

 「はあ、本気かよ、上の連中。13中隊の連中はともかく、ほかは使い物になるまでどれだけ時間がかかると思ってやがるんだ」

 「それは現場が考えること、と言うのでしょうね、参謀本部の方々は。彼らは必要なところに必要な人員を割り振ったら、そこで自分たちの仕事は終わったと勘違いしているふしがありますので」

 「だよなあ、あー、頭いて」

 頭を抱え込む小塚を冷徹な目で竹中が見つめている。どこか楽しんでいるような様子が垣間見えるのは気のせいだろう、たぶん。

 「さて、大隊長どの、ミーティングの時間が過ぎていますよ。早くしてください」

 「あー、わかった、わかった。ったく、どいつもこいつも、好き勝手いいやがって、こっちのみにもなれっていうんだ。

 小塚次郎の声が響く整備格納庫、そこには改良型撃震弐型が鎮座していた。



 「86式シリーズ兵装、すばらしい、の一言につきるな」

 「はっ、同感であります」

 欧州戦線その最前線ではそのような会話が至るところで交わされていた。
 なにせ、86式シリーズを投入した戦線では、BETAの進行速度を今までの50%以下にまで引き下げ、さらには衛士たちの生還率が実に80%以上も上昇しているのだ。
 これが賛辞されなければ、なにを賛辞すればよいのか。おまけに供給元の日本帝国においては、5年間の無金利ライセンス供給まで持ち出しているのだ。どこぞの金に執着して、人類全体の未来に対する視野がかけているとしか思えない大国とは大違いだ。
 おまけにアングラで密かにはやり始めているMANGAなるもの。日本は一部紳士達にとっては新たなる文化の発祥の地でさえあった。

 「さらにはF−4の改修型が低コストで配備可能になるか。その性能はF−15に勝るとも劣らないと聞く」

 「ええ、すばらしいことです。はやくわれわれEU圏も彼の国にまけないような戦術機を開発しなければ」

 「うむ、そうだな」

 「それにしても不思議なことです。我々のような最前線国家ではないとはいえ、あの大戦で完膚無きまでに叩きのめされたあの国が、なぜこうまで高い技術力を身につけたのか。そしてなにより、なぜこうも前線国家に対する配慮を怠らないのか?」

 「負けたが故、ではないかな?」

 「と、おっしゃいますと?」

 「負けた者がたどる道がいかに惨めか。いわんや我々が対峙しているのは意思疎通さえ出来ない化け物どもだ。あの国が我々前線国家を後押ししてくれる理由はそれだろう」

 「なるほど、しかし、高い技術力に関しては分からないことだらけですね」

 「そこは同感だな。ここまでの完成度を持つ兵器を作るには、莫大な実戦データも必要になってくるだろうに、それをいともあっさりとクリアしている。なにか裏があるのだろうが、まあ、それは我々軍人が思いをはせることではないさ」

 「はっ、確かにそうの通りであります」

 「よし、それでは前線を押し上げるぞ、各員、86式120mm滑空砲を装備、突撃級を粉砕した後、前衛装備の戦術機大隊で残りを駆逐しろ。光線級については、各自最優先で駆逐以上だ」

 号令が司令室に響き渡る。ここ欧州最前線は今日も変わらずに地獄である。だが、その地獄にわずかながらの光明を86式シリーズ兵装がもたらしているのも確かであった。



 「ここは地獄だ」

 小塚三郎の口から漏れた言葉は、誰も気にしなかった。
 正確には気にする暇さえなかったのか。
 小塚がここまで疲弊する原因になった、立花隆也からもたさられた設計書の数々。
 今回は実物がないだけ衝撃が薄いような気がするが、そんなことはまったくなかった。
 設計図だけで、それがいかにすばらしいものかがわかってしまうのは、彼の能力の高さ故だ。
 それが不幸なのか、幸運なのか、今の彼の状態を見ていると一概にどうと言い切れないところだ。

 「こ、この改良案は、実にすばらしい。だが、しかし、どうやったらこのような発想が?いや、そもそもこのアクチュエーター部分の…」

 「この主機の出力は異常やでー。でもそこがいい、それがいいんや−!」

 「演算機構の根本的な見直し?主演算ユニットはメインの処理をさせ、細かな制御は各部位に設置した演算ユニットに任せることで処理を分担させる?しかしこれではコストが、いや、そのための演算ユニットの簡略か?」

 「こ、これは?今あるF−4フレームの問題点を解消することで、新たなるステップへと?しかも現行の生産設備をほぼそのまま流用可能!?す、素晴らしい!」

 なんか周りの技術者達は単純に喜んでいるが、これが町工房出身、おまけに15歳にもならない少年からもたらされたと知っても、同じような反応をするのだろうか。
 彼らのあまりにもハイテンションな喜び様を見ていると、小塚は自分が悩んでいるのがばからしくなってきた。
 どうせバカになるなら、突き抜けてやろう。
 そう、ここに帝国軍技術廠が世界に誇る奇才小塚が誕生した瞬間だった。本人にとっては、甚だ不本意な称号であったが、帝国にとっては格好の宣伝材料であったため問答無用でそうなってしまった。
 小塚三郎技術大尉の苦労が報われる日は遠い…


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■作者からのメッセージ
演算機構については、シグルト様より2012/4/8にいただいたアドバイスを元にしています。
勝手に使用させていただいたこと、この場を借りて謝罪をいたします。
勝手に使用して、申し訳ありませんでした。それとすばらしいアイデアを使わせていただきました、誠にありがとうございます。
テキストサイズ:9232

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