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マブラヴ 転生者による歴史改変 22話
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/07(土) 15:25公開   ID:eoF2Dat1HnA
 BETAの駆逐にかかったのは実に3分弱。
 全力のおれに対して、小型種BETAどもは少々物足りない。
 BETAの反応が完全に消えたのを確認して、生存者の救出にかかる。
 だが、気の反応から察するに、状況は絶望的だ。
 周囲を見渡すと、上半身が半分欠けた人間の死体、地面に叩きつけられたまま絶命している死体、人間の形をかろうじてとどめている物体とした表現できない死体、死体、死体、の山だ。
 それでも三人。まだ生きているんだ。
 急いで救出を行ったのだが、正直に言おう、手遅れだ。
 ここが最新医療設備の整った病院であればなんとか、というレベルの重傷を負った3人を地面に横たえる。
 一人は中年の男性、右肩から先がむしり取られている。決定的に血が足りない。止血もここまで主要な血管が破壊されていては、無理だ。むしろよく今まで生きていたなと感心するほどだ。
 一人はまだ若い、17〜8の少年。こちらは打撲による内臓破裂。しかも致命的なことに肺に肋骨が刺さっているようだ。これも即死しておかしくない状態だ。
 最後は妙齢の女性、左足が付け根辺りからごっそりとなくなっている。失血性のショック状態でこちらもいつ死んでもおかしくない。
 歯がゆい。
 技術はある、経験もある、知識もある、なのに道具がない。そのせいで手も足もでない。
 なんためにおれは今まで技術を磨いてきたのだ。まりもを助ける?そう、その通りだ。だがまりもが危機的な状況に陥ったときに、道具がありませんでした、ですむのか?
 そんなこと許せるはずはない。
 ならばどうする?答えは簡単だ。今のおれに出来る全力を尽くす。
 優先順位、ブラックラベルをつけるのと同じ順番で死亡確率が高い人間を選別。
 1位はおっさん、2位は少年、3位は女性。
 いいだろう。因果に抗うものの抵抗を見せてやる。
 気による人体の活性化。それは自分の身体で証明済みだ。ならば、それを他人に施せばどうなるか?
 答えは、気の性質の違いによる拒絶反応、それが極端に出た場合が爆発という現象だ。
 だが逆に気の性質を合わせてやればどうなるか?気の贈与、気による体内器官の活性化。病気、外傷により弱っている体の治癒さえも可能になる。
 まずは相手の気の性質を分析、与える気の性質を合わせる。脳内シミュレーションでは何度となく行っている作業だが、さすがに本番は緊張する。
 最初はおっさんだ。
 気による同調。血管の癒着、傷口をかさぶたで覆う。臓器に気を流し、無理矢理造血を促す。おれの気により無理矢理強化された臓器は、その無茶な要求に応えた。
 おっさんの顔に血の気が戻っていく。
 それと同時に少年の治療も行う。
 並列思考様々だ。
 内臓破裂系の処理は困難を極める。なぜなら臓器が破裂して元の形をとどめていないからだ。おまけに胃腸なんかが破裂すると内容物が体内にぶちまけられてしまう。
 ではどうするか?
 答えは意外と単純だ。
 右手でおっさんに気を送り込みながら、左手で少年の腹をかっさばく。
 盛大に出血するのを横目に、絶妙に制御された気を腹の中にぶち当てる。要するに生理食塩水で洗浄するところを、気で代用したわけだ。
 直接手を傷口に突っ込んで肺に刺さった肋骨を抜き取ると、すぐさま傷口を押さえ込み、少年用に調整した気を送り込む。
 傷口の癒着、損傷した臓器の回復。完全に元にはもどらないが、とりあえず命の危機を脱するのには十分だろう。
 最後の女性に取り掛かる。
 こちらは意外と簡単にことはすむ。もともと失血によるショック状態なので、傷口の修復、造血も気により無事終了。
 こうやって考えると、気ってのはすごいな。このあいだようやく脳内シミュレーションで気の検出に成功したけど、これは最優先で解析すべきだな。

 「んぁ…」

 悩ましい声が女性の声から漏れる。
 色っぽいなあ。前世ではなんか知らんがえらい枯れ果てていたんだが、今は精力旺盛なお年頃だ。それだけで、愚息が元気になってしまいそうだ。

 「ここは…っ!?BETAが、BETAが、私の足をっ」

 問答無用で口をふさぐ。さすがにばたつく体力は残っていないようで、大人しいものだ。だが目はせわしなく動き、内心の動揺を表している。
 鎮痛剤なんぞないから、どうすんべかと考えていると、

 「もごっ」

 なにやら訴えるようなまなざしでこちらを見ながら、女性が口をもごもごさせた。
 正直、たまらんです。
 いや、違った。とりあえず話ができる状態になったということか?

 「おれは人間だ。わかるな?」

 こくり、と女性が頷く。

 「ついでにここは、あんたらが襲われた戦地だ。一応、襲ってきた小型種は殲滅しておいた。命の危険はない、ここまではいいか?」

 こくり、と再び女性が頷くのを確認してから、最後の言葉をかける。

 「生き残ったのは、あんたと隣に寝ている2人だけだ。こっちが知っているのはそれだけだ。今度はあんたたちの情報が知りたい。教えてもらえるか?」

 こくり、と頷いた女性の目を覗き込む。うそをついている目ではないな。よし。
 手を離したおれは、さっそく女性に質問を投げかける。

 「あんたの所属を教えてもらえるか?」

 「私は国連軍東アジア方面軍12軍第7旅団237補給部隊所属のマイア・ロッシ軍曹よ。現在は第76戦術機甲大隊の補給任務についているわ」

 「予想通り国連か。ま、この地域で英語つかってるのは国連くらいだよな」

 マイアは、なんというか肉感的な色っぽい体をしている。赤味がかった髪と、気の強そうな青色の瞳。北欧の出身らしい、白い肌とくっきりとした顔立ち。
 うん、正直言おう。ストライクだ。

 「それで、あなたはいったいどこの所属なの?見たこともない格好をしているけど」

 おっと、いかん。まりもと夕呼あたりに知られたらいろいろとやばいことになるであろう妄想にふけるところだった。

 「おれの所属か?」

 所属か、そういえばどうするかなんて全然考えていなかったな。ここで日本帝国の名を出すのはまずいな。ここはひとつ機密部隊所属ということにしておくか?
 いや、でもそんなのすぐばれるだろうしな。
 でも今すぐこの場で確認することなんてできないだろうし、当面はそれでごまかせるか?

 「残念ながら機密だ。この格好を見てもらったらわかるだろうが、特殊任務の真っ最中でな。本来なら姿を見せることもまずいんだが、BETAに襲われている人間を放っておく訳にもいかないだろう?というわけでその辺の事情を汲んでもらえると有り難いんだが」

 「そう、わかったわ。こちらは助けてもらった立場だしね」

 「分かっていただけたようで何よりだ。ちょっと待ってな。通信装置を取ってくる。悪いが救援はそちらで呼んでくれ。3人とも応急処置はしてあるが、早いところ本格的な施設で治療する必要があるからな」

 「ま、まって」

 呼び止められて後ろを向くと、心細げな表情が目に入ってきた。まあ、BETAに足をかみ切られた直後だ。精神的に弱っているんだろうな。

 「大丈夫だ、すぐに戻ってくる。それにさっきも行ったろう。この辺りのBETAは殲滅しておいた。大丈夫だよ」

 「違うの、戦術機甲大隊が今も作戦任務継続中なの。後方支援部隊を逃がすためにBETA集団のまっただ中に取り残されてるのよ」

 なるほど、ここが襲われたのは掃討し損ねたはぐれBETAというわけだ。どおりで小型種ばっかりだと思った。

 「それを伝えたところで、おれにどうしろってんだ?」

 「こんなことを言えた義理じゃないのは分かっているわ。極秘任務の最中だと言うことも分かっている。でもお願い、彼らを助けて欲しいの。極秘部隊といっても随行している戦術機も当然いるんでしょ?」

 あー、なるほど。確かにそう考えるか。まさか単騎でBETAの群れに突っ込もうとしている酔狂な人間がいるなんて思わないよな。支援の戦術機部隊と一緒に行動していると考えるのは普通の流れだよな。
 とはいえ、それをバカ正直に答えると、いろんな意味で疑われるよな。どうすんべか。
 もっとも、考える振りをしているが、答えはすでに出ているんだが。
 今回の遠征の目的は、BETAの情報収集だ。そのついでに戦術機甲大隊を助けたところで何ら問題はないだろう。なにせおれの身分がばれる要素は今のところないしな。
 ついでにいえば、実戦での戦術機の運用もこの目で確かめたい。

 「わかった。連絡を取ってみよう。だから安心していろ」

 「ありがとう、ありがとう」

 感極まったように涙ぐむマイア。やっぱ色っぽいなあ。

 「それじゃ、今度こそ通信装置を取ってくる。待ってな」

 答えを聞かずにそのまま通信装置を探しに行く。
 照れくさかったからじゃないぞ、本当だからな。

 で通信装置を持って戻ってきたら、安心したのかマイアは気を失っていた。
 まあいいか。通信装置を置いて、おれはその場を後にした。
 問題は、これから向かう戦地でどう振る舞うかだな。
 なにか都合のいい武器とか置いてあると有り難いんだが。
 と思っていると、目の前に作業用の強化外骨格を発見。
 こりゃいいわ、と思い状態をチェック。
 問題なし。よし、これで行こう。
 後は武器だな。その辺に転がっているやつと、強化外骨格用の武装を持てるだけ持って準備完了。
 問題の第76戦術機甲大隊が戦っている場所だが、通信装置を探している途中にまだ生きている戦域マップがあったので場所も確認済みだ。
 強化スーツには強化外骨格用のインターフェースも仕込んであるので操作自体は問題ない。
 それに、本領発揮はこれからだ。
 気混入で、強化外骨格に気を込めていく。さすがにねじの一本一本までは無理だが、おおよその部品に気の供給が完了した。
 さてと、それじゃ行きます。

 全力で走る強化外骨格、その速度実に200km/h。
 端から見たらシュール極まりない光景なんだろうな。などと考えながらおれは目的地に突っ走って行った。
 ちなみに空を飛ばないのは、さすがのおれでも気混入した状態で、強化外骨格ごとの飛翔は無理だからだ。
 一刻も早く、焦るおれの耳に戦火の音が響いてきたのはそれから10分後のことだった。
 小型種は問題なかった。問題は大型種だ。さあ、今のおれがどこまで通用するか、おまえらでせいぜい検証させてもらうとしよう。


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