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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その11
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/07(土) 15:35公開   ID:eoF2Dat1HnA
 1990年 初春 日本帝国農水省

 「これはいったい何の冗談なんだ?」

 農水省第三合成食材技術研究室所属の高畑是清主任は、同期の中でも一番の出世頭である小塚三郎技術大尉が持ってきた資料に目を通しながら呟いていた。
 内容は、合成食材の弱点とも言える味を向上するための技術、そしてそれを実現させるための添加物についての量産方法についての技術資料だった。
 おまけに人体に有害であるかを判定するための実験内容、ラットでの影響調査に始まり、最終的には人間への長期間の投与により、生体に何ら影響ないことまでのデータが添付されている。
 馬鹿げている。これほどの革新的な添加物の製造方法、そして膨大な臨床データ、そんなものが簡単に受け渡しされていいわけがない。
 そもそも呼び出しからしておかしかった。

 「やあ、高畑くん。久しぶりだね、去年の同期生の集まり以来か」

 「ああ、そうだね。小塚くん。そう言えば、君の名は世界にまで轟いているじゃないか。同期生として、誇りに思っているよ」

 「はは、そういわれると面はゆいものがあるね。実を言えばね、高畑くん。君の所属している部署に技術提供をしたいと言っている人がいるんだよ。もちろん、君がこれからの日本帝国の食料事情を握る非常な重要な部署に所属していることは知っている。そして、素性も知らないような人間の技術にわざわざ注意を払う暇がないのも当然分かっている。それでもその人の意見を無視するには、ボクは少々借りを作りすぎていてね。少しで良いから時間を割いてもらいたいのだが、どうだろうか?」

 「君にそう言われるとさすがに断りづらいな。わかった、時間を作ろう」

 突然の同期である小塚からのコンタクト。相手は今や、帝国を代表する技術者である。一部署の主任程度の自分とは格がちがう。それのなのに、相手が下手に出てきた優越感に、高畑の思考は正常な判断を下すことが出来なかった。
 少し考えれば、想像はつくはずだった。技術廠の天才とも、奇才とも言われている人物が、まともな話を持ってくるはずがないのだと。
 そして彼は最後まで気づくことができなかった。彼は、小塚三郎技術大尉の持ってきた資料に心奪われていた。
 素晴らしい技術の数々、そして検証データ。これをどうするべきか。
 高畑は大いに悩んだ。自分一人の手柄にする、それが一番良い方法だろうが、相手は小塚だ。発言力も、影響力もまるで違う。最低でも技術協力者として、小塚の名前を入れなければならないだろう。
 それに、この論文が本当に使えるかの検証も必要となってくる。
 所属する部署が部署だけに、検証を依頼するメーカーには事欠かない。まずはそこから手をつけるべきか。
 高畑はそこに注目した。まずは実績を作るために、今手元にある論文を懇意にしているメーカーに渡す。そして実際にどうなるかを実地検証し、問題ないようだったらメーカーにいろいろと便宜をはからせつつ、自分の功績に上乗せさせる。
 よし、と高畑はほくそ笑んだ。
 小塚の名前は最小限に留める、あるいは、本人から文句を言ってきてもしらを切れる程度の名前の公表はする。だが、実際の功績を得るのは自分だ。
 今は小塚の後塵を拝しいている、だが見ていろ、お前が持ってきたこの論文を持って、すぐにおれの方が上だと世間に認識させてやる。
 高畑は、声に出さずに笑っていた。小塚の迂闊さを、そしてこれから自分に訪れるであろう黄金期を思って。
 だが、高畑の暗い感情を小塚三郎技術大尉が全て見抜いており、高畑が小塚の思い通りに踊っているとは、本人は知るよしもない。



 1990年 晩夏 アジア連合共同戦線

 「かぁー、うめぇ!さすが、日本帝国さまだな。合成食材がこんなにうまいなんて、たまらんぜ」

 前線の戦闘員に配給されるのは合成食材で作られた味も素っ気もない、栄養価だけは問題のない食事だった。
 そう、ほんの数ヶ月前までは。
 数ヶ月前に日本帝国から発表された合成食材の劇的な味の向上に関する技術。先行して前線にのみ導入されのだが、これが大好評だった。
 今までは本当に栄養補給のためだけの食事だったのが、今では食べる喜びを得るための食事へと変わっていた。
 前線において、それはどんな娯楽よりも勝った。
 一日中気の休まる暇のない前線において、たった一つとは言え楽しみがある。それだけで士気は全く違うのだ。
 今までの合成食材はなんだったのか、というほど、日本で作られた合成食材は旨かった。
 長期的な健康に関するデータ採集については不十分であるため、健康面での保証が出来ないため供給を限定する、との日本帝国農水省の声明に、大々的な反対署名活動が起こったことから、その味の差は推して知るべしだ。

 「どうせ明日をも知れないこの命だ。どうせなら旨いもん喰って、そして戦って死ぬさ」

 それは殆ど全ての戦闘職につくものの代弁だったかもしれない。
 かくして前線国家での日本帝国産の合成食材の評価はうなぎ登りだった。
 当然その考案者である高畑是清の名声も高まっていくのだが、彼はその名声に伴う重圧というものを正しく理解していなかった。
 群衆というのは、良くも悪くも、英雄を求める。そして英雄には常にその結果が求められる物だと言うことを。



 1990年 晩夏 東南アジア戦線

 「八十九式兵装か、まさかこれほどとはな」

 指揮所に詰める将校の一人から声がこぼれた。

 「いや、それをいうなら、CPUユニットの換装による戦術機の機能向上に目を向けるべきだ」

 その声に意見するように、別の将校から声が上がる。

 「まあまあ、なんにせよ、日本帝国の技術供与によりこうやって今日も戦線を維持できる。あれほど絶望的だと思っていた戦線を、膠着状態どころかむしろ優位にすることができる。それこそが重要ではないですかな?」

 一番老年の将校の声により、周囲の反目しあっていた将校たちはその矛を納めた。
 実際のところ、彼らの反目は無意味も良いところだった。なにせ、八十九式兵装も、CPUユニットの換装についても、すべてが日本帝国の発案による物だからだ。
 八十九式兵装は、従来の八十六式に使用されていた装薬を改良し、より銃弾の軽量化を可能にしたことよる弾倉の改良による装填弾数の増強、発射機構の材質強化による新型炸薬での発熱問題の対処等を行ったものだ。八十六式の突撃銃を低コストで八十九式にバージョンアップできることも魅力の一つである。
 CPUユニットの強化は、機体の反応速度向上、追従性の向上、戦術機制御OS機能の強化による硬直時間の消去、などを戦術機にもたらしている。このCPUユニットの搭載により、衛士の生存率が50%も上昇したというのは事実である。実際にこの恩恵に預かっているのはいうまでもなく、最前線で戦っている衛士達である。

 「日本帝国の思惑はともかく、BETAに対する戦力の増強という意味では確実に貢献しております。みなみなさま、それだけは忘れないよう。我々は、恩を忘れるような恥知らずではあってはならいのだから」

 老年の将校の声は、思いの外重く静かに指揮所に響いた。



 1990年 晩夏 極東アジア戦線

 「おーし、おまえら、わかっているとは思うが、相手はBETAだ。決して油断するなよ」

 整然と並ぶ撃震弐型の前に立った小塚次郎少佐は、これから共に戦う大隊の衛士達に演説をぶっていた。
 普段とはかけ離れた勇士、とはいかず、あいも変わらずにどこか退廃的な雰囲気を漂わせるままの姿ではあったが。
 かつて自分の中隊に所属していた人間は、新しく編成された第十三戦術機甲大隊の中隊にそれぞれ配置されていた。
 おかげで、小塚としては新任兵卒の扱きの手間は減ったのだが、その分さまざまな書類仕事に忙殺されていた。竹中中尉のおかげで何とかこなせていたものの、ここ数ヶ月の書類仕事は思い出すだけでも嫌気がさしてくる。

 「詳しい話は中隊長からされるとは思うが、これだけは覚えておけ」

 小塚の顔から一切の甘い表情が消えた。その表情はまさに、戦闘士官にふさわしい勇猛なる者のそれだった。

 「自分たちが操る機体を信じろ。支給された武器を信じろ。こいつらは俺たちの相棒だ。俺たちが信じれば、その期待に答えてくれる。そして、お前たちが生き延びるための力となってくれる」

 振り返って、居並ぶ撃震弐型を見上げる小塚の目には、絶対の信頼が宿っていた。小塚は視線を戻し、大隊の衛士達に告げる。

 「信じろ、おれたちの祖国の技術を。信じろ、おれたちの刃たる戦術機を整備してくれた整備士たちを。信じろ、共に戦場を駆け抜ける戦友達を」

 「「はい」」

 全員から返ってきた返事に心地よい高揚感を覚えながら、小塚はその場を後にした。
 第一次日本帝国大陸派兵、第十三戦術機甲大隊の出陣式はこうして幕を閉じた。彼らはこれからいくつもの戦場を駆け抜ける。当然それは簡単なものではない。
 時に仲間を失い、時に自らの身体に大きな傷を負い、しかし彼らは戦場を駆け抜けていく。日本帝国のため、いや、それ以上に共に戦う友達のために。


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不慣れな点もあるとは思いますが、これからよろしくお願いします。
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