やあ、皆々様おひさしぶり、隆也のどきどきタイムのお時間がやってまいりました。
今回のミッションは、衛士育成学科に進学した者が受ける最初の試練、衛士適正試験の現場を生レポートすることだ。
え?そんなことして何が楽しいって?
バカだな、普段ならそうなんだが、今回に限っては別。
なにせ、まりもがその試験を受けるのだ。
そう、帝国軍の情報をある程度閲覧できるおれにとって、衛士訓練生が身につける衛士強化装備の特殊な事情は容易に知ることが出来る。
ピッチピチのラバースーツと名付けてもおかしくないほどの扇情的なデザインの強化装備なのだが、恐るべきことに訓練兵が着用する強化装備においてはさらなるエロ方面への強化がなされているのだ。その強化とはすなわち、保護皮膜が半透明な素材で作られたものへと換装されることなのだ!
これはエロい理由からではない、前線における男女平等、羞恥心削減のために必要な処置なのだ。ほかにも細々とした理由があるが、それらは全て衛士訓練生のために必要であるから採用されている。
そう、半透明なエロエロ強化装備を訓練兵に身につけさせるのは、合理的な理由から行われる処置なのだ。
ここまでいえば、賢明なる皆々様ならおわかりになるだろう。
そう、おれの真の目的とはエロエロ強化装備を身につけたまりも晴れ姿をこの目に焼き付けることなのだ。
ちなみに同期生では女性があと2〜3人いるという情報をゲットしている。
こちらもおろそかにはできない。
そう言えばなんで入学後に衛士適正試験が行われるのか、普通最初に適正検査を先にするべきじゃない?という疑問があるのだが、これにはちと事情がある。
おれが施した耐G機能の向上により、殆どの人間が戦術機の操作を行うことが可能になったため、まずこの適性試験に落ちる人間はいない。それでもやはり適正があまりに低い人間がいるのだが、そう言う場合は戦術機甲大隊の専属CP要員としての育成を行うことになる。
衛士としての訓練を受けることで、戦術機甲大隊のCPを努める際に、その経験を生かすことでより適切な戦況指示を行うことができる要員の育成を行う、と言う理由らしい。
最初からCP要員として育成するほうがいいのでは、とおれは思うのだが、この辺りはお偉いさんの決めることなので手の出しようがない。
と言うわけで、鎧衣さんから教えてもらった技能をいかんなく発揮し、戦術機シミュレーターが設置されている衛士育成学科の奥深くに位置する建物への潜入を果たした。
そういえばおれの潜入技術については、忍びの技術も加わっている。いや、すごいね、忍者だよ、忍者。武家があるんだから、忍びの者がいてもいいじゃない、と思って探したらものの見事にいました。
それも現代化の流れに乗って、新しい警備システムの研究とかにも余念がなく、ハイテク装備を苦もなく操るその姿はまさに科学忍者だった。
武術の師匠とか、鎧衣さんとかの人脈をふるに使い、忍びの里で研修を受けたのも良い思い出だ。
隠れて待つことしばし、人声がシミュレーター室内に届いてきた。
きたきた!
テンション上がりまくりのおれは、ひっそりと気配を周囲へと同化させる。
これで簡単には見つからないはずだ。唯一の不安要素はまりもだが、いかにまりもといえどもここまで隠形の腕を磨き上げたおれを見つけるのは容易ではないはずだ。
ただなあ、最近になってまた「女の勘」がレベルアップしたんだよな、あいつ。それだけが不安のタネか。
最重要ターゲットはまりもんだが、このご時世に衛士育成学科を志望する女性にも興味がある。
先頭をきって入室してきたのは教師だろう。40前後だろうか、なかなかに厳つい面構えの屈強な男だった。
次にぞろぞろと学生達が入ってくる。
ちなみに男どもだ。
そしておれは気づいてしまった
やろーも同じ半透明エロスーツ姿じゃねえか!
げんなりした。そりゃあ、もうげんなりとした。愚息もげんなりしている。
ちゅーか、考えて見ればおかしな話ではある。
元々戦闘要員、しかも戦術機の衛士なんて基本は男がメインだったはずだ。現に近年まで後方支援国家での女性の衛士率というのはかなり低いらしい。
前線国家では要員の確保が難しいことから女性の衛士も多いのだが、これは先に配置された男がぽこぽこ死んでいったために、相対的に比率が多くなったという側面もある。
つまりなにがいいたいかというと、
「衛士強化装備のデザインを考えたのって、実は男じゃなくて、女じゃね?しかも腐海に住まうというほうの」
ということだ。
「男性のマッシブな姿を野暮ったい装備で隠すなんて駄目!セクシーでスタイリッシュな装備でその魅力をいかんなく発揮させるべきよ!」
などと、腐海の森の住人である女性が、訳の分からない情熱に突き動かされて、設計したのではなかろうか?いやまあ、お姉系の男性という線も捨てきれないところではあるが。
いやね、本当のところよくTVアニメとかに出てくる様な野暮ったいパイロットスーツの方が耐G性能の向上はたやすいんだよ。でもあえておれはそのデザインには極力手を加えなかった。
なぜなら、女性に着せて楽しいスーツのほうがやる気が起きるからだ!
我ながらわかりやすいが、煩悩とかは結構原動力になるものなのだよ。
と言うわけで、目に写しながらも、記憶には留めないように、ラップスーツに包まれた野郎の群れを観察することしばし、最後にやってきましたよ、やつが。
けしからん我が儘バディ、童顔気味な顔にうっすらと羞恥の赤を浮かべて、我らのまりもが。
それだけでは終わらない。
その後ろに続いて、女性が2名これまた羞恥に頬を染めて続いてくる。
こちらはロリ系と、活発なボーイッシュ系で、ボディに関しては、ロリ系はまさにそのまま、ボーイッシュ系はそれなりなものだ。
確かに見た目的には圧倒的にまりもの勝ちだろうが、希少性に関してはロリが勝る。なにせ希少価値だからな。
おれが娘3人集をガン見していると、教師が色々と注意事項を説明開始した。
耐えきれないときは、緊急停止スイッチを押せ、だとか、無理はしないようにだとか、まあありきたりな内容だ。
そんな内容を真剣に聞く、生徒一同。皆、一様に緊張の色を浮かべている。中にはちらちらと、まりも達の方へと目を向けているけしからん奴らもいる。
まあ、わからんでもない。なにせ、3人娘そろいもそろって、レベル高いからな。
などと観察していると、最初の一組目がシミュレーター内に消えていった。
シミュレーターの数は12台。生徒の数はまりもを含めて40名ほどだから、全員の適性試験が終わるのにそれほど時間は掛からないだろう。
シミュレーターが小刻みに動き始める。時間がたつにつれ、その動きは激しくなっていく。
端から見ると分かるんだが、がっくんがっくん言っている。こりゃ、確かにきついな。
しばらくすると、徐々にシミュレーターの動きが緩くなってきて、完全に動きが止まった。
エアーが抜ける音と共に、中に入っていた男(ラップスーツバージョン)が出てきた。わりとしっかりした足取りだ。
うむ、これもおれが開発した、耐G機構のおかげだな。などと自画自賛していると、
「思ってたよりたいしたことなかったぜ。おまえらも、そんなに緊張することないぞ。大丈夫大丈夫」
などと、イケメンボイスでまりもたち3人娘に色目を使いやがった。
やろう、おれ様のおかげでその程度すんでいるんだぞ。おれが改良しなかったら、今頃青い顔して、ゲーゲー言っていたんだぞ。
内心の怒りの気が漏れたのか、まりもがおれの潜んでいる辺りにちらり、と視線を送ったので、慌てて冷静さを取り戻す。
やばいやばい、危うくばれるところだった。
バレたらどうなるか?むろん、まりもの説教がまっている。あれは、マジ勘弁だ。
というわけで、先ほどよりも慎重に身を潜める。
しばらく待っていると、ようやくまりもたちの番が回ってきた。
よし、がんばれよ、まりも。
まりもの胸にうっすらと浮かぶ桃色の丸い部分に声援を送る。
同時に、残る二人の胸にも声援を送ることは忘れない。
今までと同じように、シミュレーターががっくんがっくん動き始める。
そこまでは今までと同じだったんだが、途中でおかしくなってきた。
まりもが搭乗したシミュレーターだけ、動きが激しいのだ。
他のがシミュレーターの動きと比べるとその差は歴然だ。
え?故障?
そう思って教師のおっさんを見てみると、真剣なまなざしで指揮所のモニターに目を落としている。そしてちらちらと、まりもの乗ったシミュレーターの動きを確認すると、手元のコンソールを触る。それを頻繁に繰り返していた。
教師のおっさんがコンソールを触るのと、シミュレーターの動きの変化は連動していた。
ふむ、どうやら故障ではなさそうだが、となると、まりもがあり得ない数値をたたき出しているとかか。
まあ普段の高速三次元機動戦闘訓練に比べれば、シミュレーターの動きなんてロイヤルサルーン並だろうしな。
しばらくして、全シミュレーターが停止して、地面に降り立ったまりもは予想通りけろりとしていた。
全員の適性試験が終わった後、教師のおっさんが皆を前に立ち本日の結果について報告をする。
「よろこんでいいぞ、おまえら。全員基準値を突破。これで変な心配をすることなく、教育課程を受けることが出来るな。今日は慣れない戦術機のシミュレーターを体験したせいで疲れただろう。午後の授業までは休憩とする。以上、解散だ。あ、それと神宮司、すまんがお前は残ってくれるか?」
「え?あ、はい」
なんだろう、と首をかしげながらまりもが返事を返す。
皆がシミュレーター室を後にするなか、まりもは何かやらかしたかと不安そうな顔で佇んでいる。
例の二人の娘がなにかと気遣っているようだが、教師のおっさんに睨まれて後ろ髪を引かれるような様子で退室していった。
何が起こるんだ?まさか、教師と生徒の禁じられた恋い!?お、おじさんはそんなことは許しませんよ!
万が一に備えて必殺(マジで人一人消し飛ぶ)の気をひっそりと蓄えて、二人のやりとりに耳を向ける。
「神宮司、お前の戦術機適正値なんだが」
「あの、私の適正値、もしかして低かったんですか。で、でも、先ほど全員基準値は突破って」
まりもが衝撃を受けたように教師のおっさんに食って掛かるが、教師のおっさんは落ち着けとまりもを宥めながら次のようなことをのたまった。
「神宮司、お前の戦術機適正値は過去最高だ。いや、正確に言えば、現時点で日本帝国で行われた同様の調査結果の中でも、他の追随を許さないほどの高い数値をたたき出している。これが事実だとすれば、お前はまさに戦術機に乗るために生まれきた言っていいほどの傑物ということになる。」
「は、はあ」
まりもはいまいちピンと来ていないようすで、曖昧に返事を返す。
「あの、だったら別にいいことじゃないですか?」
「そうだ。実に良いことなんだが、お前のたたき出した数値はあまりにも異常すぎる。おれも職務上この結果は上に報告せざるをえない。そうなると、困ったことになるかもしれん」
渋い顔になる教師のおっさん。あ、なんとなく分かった。
「困ったこと?」
「うむ、つまり、斯衛からの引き抜きだ」
だろうな。いかに斯衛が優秀な人材揃いといっても、所詮は武家出身という限られた人間たちだ。より広範囲から人を募る帝国軍とではあつまる才能の数が違う。それを埋めるために、黒を纏う斯衛などというのがあるわけだが、ようするにそれにスカウトされる、ということだ。
問題は、スカウトそのものではない。帝国臣民にとって、斯衛に入るというのは非常に名誉なことなのだ。将軍を守るために剣を取る組織に所属する。
はっきり言って断る理由がない、ぶっちゃけると断ると非国民扱いされかねない。実質の強制徴用だ。
むむ、それはいかん。
そういう事情であれば、こちらも少々手を打つ必要があるな。
まずはデータベースの履歴改ざん、紙ベースの資料の改編、そしてこの教師のおっさんの記憶消去。
ふははは、やることは山積みだぜ。
「でもそれは断ればいいだけですよね?」
などと呑気に答えるまりもの知らぬところで、おれの陰謀は発動するのであった。