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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第3話:紅蓮対深紅
作者:蓬莱   2012/07/09(月) 00:28公開   ID:.dsW6wyhJEM
聖杯戦争の初戦となる銀時とランサーとの戦いが始まったその頃、集積場に積み上げられたコンテナの上に、狙撃銃を抱えた切嗣の姿があった。

「どうやら始まったようだな…」

熱感知スコープで、切嗣は、銀時とランサーの戦いを見ながら、呟いた。
アイリスフィールに持たせた発信機を頼りに倉庫街へとたどり着いた切嗣と、切嗣の助手を務める久宇舞弥は、戦況の隙を見て、敵のマスターを狙撃する為に、それぞれの狙撃場所に陣取っていた。
そして、切嗣は、やや離れた倉庫の屋根の上からの熱反応―――ランサーのマスターらしき人物をすぐさま発見した。
典型的な魔術師だな―――これまで、切嗣の葬ってきた魔術師達と同じく、魔術に関する対処は万全だが、科学技術を軽視しているランサーのマスターに対し、切嗣は冷酷な笑みを浮かべた。

「舞弥、銀時達の北東方向、倉庫の屋根の上にランサーのマスターがいる。見えるか? 」
『いいえ。私の方からは死角のようです』

反対方向の場所にいる舞弥にも呼びかけた切嗣であったが、どうやら、攻撃可能なポジションにいるのは、切嗣だけだった。
切嗣は、仕方なくランサーのマスターに狙いを付け、隣の暗視スコープを覗き込みながら、狙撃体制に入ろうとした。
だが、次の瞬間、切嗣は、狙撃銃の銃身を巡らせて、デリッククレーンの上に狙いを付けた。

「…やはり現れたか」

忌々しげに言った切嗣の暗視スコープに映っていたのは、デリッククレーンの操縦席から、セイバーとランサーの戦闘を監視する帽子を目深に被った少年―――綺礼のアサシンからの予言でここに来た点蔵だった。
とはいえ、この展開は、切嗣の読み通りでもあった。
切嗣が、この戦場を隅々まで監視できる絶好のポイントであるデリッククレーンをあえて放棄したのも、自分達の後から来るであろう第三者を監視する為だった。
とはいえ、まさか、サーヴァントが来るとは思っていなかったが…

「舞弥、クレーンの上だ…風貌からして、アサシンだろう」
『はい…こちらも今視認を―――え? 』

アサシンらしきサーヴァントの登場に、切嗣は、反対方向にいる舞弥に連絡を入れた。
舞弥の方も、切嗣の見つけた帽子をかぶった少年の姿を捕捉したが、ある事に気付いて、思わず声が止まってしまった。

「どうしたんだ、舞弥? 」
『…すみません。今、金髪の少女が、アサシンのところに向かっているのですが』
「…は? 」

舞弥の様子に異変を感じた切嗣であったが、何やら申し訳なさそうに答える舞弥の言葉に思わず首をかしげた。
まさかと思いながら、切嗣は、もう一度、暗視スコープから覗いてみた。
すると、確かに、金髪の少女らしき人物が、アサシンと思われる帽子をかぶった少年のいるクレーンの操縦席に入ろうとしていた。

「…あー確かにいるね。何か熱源からするとサーヴァントっぽいけど」
『でも…何か変ですよ…? 』

切嗣が熱感知スコープで確認すると、金髪の少女もサーヴァントと同じ反応があったので、サーヴァントに間違いなかった。
だが、舞弥の言葉通り、帽子をかぶった少年と金髪の少女の様子は、何やらおかしかった。
金髪の少女がやってきて、慌てふためく帽子をかぶった少年に、金髪の少女は差し入れがはいったバケットを手渡していた。
帽子をかぶった少年は、恥ずかしそうに差し入れのサンドイッチを掴みながら、食べ始めた。
対する金髪の少女の方も、クレーンの狭い操縦席の中で、肩を寄せ合うように、帽子をかぶった少年の隣に座りながら、仲良くサンドイッチを食べ始めた。

「…僕達は何も見ていないね、舞弥」
『…はい、そうですね、切嗣』

その光景を覗き見ていた切嗣と舞弥は、投げやりに言いながら、何も見なかった事にした。
―――このスコープ壊れているんだろうなぁ…第一、あんなところで、いちゃついているサーヴァントなんているわけがないよ。
―――ええ、あれは単にちょっと熱々カップルが、二人っきりの場所でデートしているだけに決まっています。
そんな事を思いながら、切嗣と舞弥は、セイバーとランサーの戦況に目を向ける事にした。
この時、切嗣と舞弥は知らなかった。

「なんか、すげぇ音がするけど、なんだろうなー」
「どうやら、誰かが戦っているようですね」

―――実は、その二人を呼び出したサーヴァントであるアーチャーとホライゾンが倉庫街に来ている事に。

「…」

―――切嗣の姿を、背後で監視する手足の生えたトランプカードがいる事に。



第3話:紅蓮対深紅



アイリスフィールは眼前で繰り広げられる銀時とランサーの戦いに息を呑んでいた。

「…うぉりゃぁ!! 」
「はぁあああああああああああ!! 」

銀時とランサーが声を張り上げると同時に、互いの得物である木刀と戦斧がぶつかり合った。
ただそれだけで、生み出された衝撃波によって周りの建物の外壁が吹き飛び、両者の足が踏みしめるアスファルトの地面が陥没した。
その光景を目の当たりにしたアイリスフィールは、神話や伝説の世界の住人達が戦い合うという意味を体感していた。
そして、アイリスフィールは分かっていた―――これがまだ、両者ともに本気を出していない状態なのだと。

「これが…サーヴァントの戦い…!! 」

驚愕に震える声を抑えながら、アイリスフィールは戦いの行方を見守るしかなかった。
とここで、ランサーは笑みを見せながら、銀時に対し言葉を投げかけた。

「どうしたの、銀時…攻めが甘いわよ!! 」
「うっせーての!! つか、本当に女かよ、てめぇ!! 」

獰猛な笑みを浮かべるランサーの言葉と共に勢いよく振り下ろされる戦斧を払いのけながら、銀時は乱暴に言葉を返した。
とはいえ、銀時は、戦斧を振りかざしながら、次々と攻撃を繰り出してくるランサーに驚きを隠せないでいた。

『ランサーって言ったか…マジで強すぎだろ…』

これまで数々の戦いを潜り抜けてきた銀時であったが、ランサーの強さは別格だった。
普通、戦斧のような重量のある武器は、その重さによる攻撃力と遠心力を利用した破壊力を利点としている。
だが、ランサーは、純粋な力だけで、自由自在に戦斧を操っているのだ。
事実、これまで、銀時が仕掛けた攻撃を、振り下ろした戦斧の軌道を自在に変えることで、ランサーは、何度も銀時の攻撃を防いでいた。

『…銀時、何時でも準備はできているわよ』
『いらねぇよ。このくらい、まだまだ、余裕だっての』

ここで、一進一退のランサーとの戦いを見かねたのか、隠れているセイバーからの念話が届くが、銀時は憎まれ口を叩きながら、断った。
正直なところ、セイバーが加勢すれば、この戦況を変えられるかもしれない。
それどころか、あの宝具を使用すれば、ランサーを一撃で屠ることも不可能ではない。
だが、銀時にとって、出来うる限り、それは避けなければいけない事だった。
なぜなら、例え、ランサーを倒したとしても、銀時がアイリスフィールを殺さねばならなくなるから!! 
―――俺の背中を見守る奴を殺したんじゃ、俺が勝ったって意味ねぇだろ!! 
おのれの信念を貫くために、何とかランサーを殺さずに戦闘不能にしたい銀時は、木刀を構えながら、戦斧を振りかざすランサーに対峙した。

『ランサー…油断するな。この男、かなりできるぞ』
『ええ…分かっている。まさか、唯の木刀でここまで戦うんだから』

木刀を構えた銀時に対し、指輪に宿る意思は念話で、ランサーに注意を促した。
ランサーもそれは分かっていたし、正直なところ驚いていた。
ランサーは戦斧で何度も打ち合っているが、未だに、銀時の得物である木刀は折れていない。
ランサー自身が手を抜いているわけでもないし、木刀自体が特別な素材で出来ているわけではない。
恐らく、銀時は戦斧の柄と打ち合う際に、ランサーの攻撃を受け流しながら、力を逸らす事で、木刀への衝撃を逸らしているのだ。
口で言うのは簡単だが、実戦レベルの戦いでやるにはかなりの技量が必要となってくる。
だが、銀時は、それを考えてやったのではなく、戦の本能として自然とやっているのだ。
それほどまでに、銀時は戦い慣れをしているのだと、ランサーは気付いていた。

『それともう一つ…何かを出し惜しみしているわね』
『そのようだな。マスターからの指示か…或いは、何らかの条件があるのか…』

そして、ランサーは未だに銀時が何かを隠している事も見抜いていた。
これまで、銀時はランサーとの攻防戦の中で、ランサーに一撃を打ち込むチャンスは何度かあった。
しかし、その度に、銀時は、ランサーへの攻撃をためらっていた。
これらの銀時の不可解な行動に、指輪に宿る意思も、何らかの理由があるのではと疑っていた。

「ま、これぐらいやってくれなきゃ、刃を交わす価値もないわ」
「何か勝手にハードル上げてんじゃねーぞ、コノヤロー!! 」

―――なら、銀時…あなたが全力を出さなきゃいけない状況にしてあげる!!
とにもかくにも、命をかけるだけの強敵が目の前にいる事に、ランサーは喜んでいた。
最初の敵を前にして、死力を尽くした激闘に感じ入ったランサーの言葉に、不殺の枷をはめられた銀時は吼えるように言葉を返しながら、斬り込んでいった。


その頃、少し離れた場所から、遠見の水晶玉を通して、セイバーとランサーの戦いを見ているマスターとサーヴァントがいた。

「―――すごいでぇ!! ごっつすごいやんか!! 」
「ええ、そうね。少なくとも、ステータスで見るなら、優秀と見るべきかしら…後、マスター…前を見て、運転して」

愛車である大型トラックを走らせていた真島は、キャスターの持つ水晶玉に映っているセイバーとランサーの戦いを食い入るように見ながら、興奮していた。
現在、真島はキャスターと共に、セイバーとランサーが戦っている倉庫街に向かって、トラックを走らせていた。
どうしてこうなった?―――キャスターは、水晶玉に映る銀時とランサーの戦いに目を向けて、前を見ていない真島に注意しながら、ため息をつかずにはいられなかった。
キャスターとしては、監視だけに留めておきたかったが、英霊同士の戦いに気持ちの高ぶった真島に押し切られる形で、倉庫街へと向かうはめになってしまった。

「これ、全部、ほんまもんなんやろ? そそるやないかぁ〜!! こらぁ、急がなあかんで!! 」
「ええ、そうね…って、信号は、赤…」

一方の真島は、銀時とランサーの戦いを見て、自分も早くこいつらと闘いたいという闘争本能に火を付けていた。
こうなった真島をもはや止めるすべがあるはずもなく、真島はトラックのアクセルを一気に踏み込みながら、トラックのスピードを上げた。
すっかり興奮しきった真島に相槌を打つキャスターであったが、キャスターとしては、早めに決着がつくことを望んでいた。
恐らく、この戦闘狂のマスターなら、ほぼ確実に今戦っている両者に割り込む形で戦いを挑むのは明白だ。
キャスターとしては、できれば、それだけは避けたいと思っていた。
とここで、キャスターは目の前の信号機のライトが赤である事に気付き、足止めにはなるかと思い、真島に注意した。

「ああん? そないなもん、気にしとったら、間に合わんやろ。今のわしには、急がなあかん用があるからのう」
「…」

そして、当然のごとく、真島は、赤信号を無視して、アクセルを踏み込み、トラックをさらに加速させて通り過ぎて行った。
一応、聖杯から現代の知識を与えられているキャスターは、あっけにとられながら、真島の行動を見て思った。
―――ああ…このマスターに常識なんてもの、通用するわけないわね。

「待っとれよ…!! 喧嘩祭りに、わしをのけもんなんかさせんで!! 」
「ねぇ…後ろから、パトカーが続々来て…お願いだから、私の話も聞きなさいよ」

そんなキャスターの気持ちなど露知らず、喜色満面の笑みを浮かべた真島は倉庫街へむけて、すれ違う車の急ブレーキとクラックションの音をバックに、トラックを暴走させていった。
いつの間にか、暴走する真島のトラックを追跡するパトカーのサイレン音が続々と増えていく中、つくづく真島への催眠を怠った事に後悔しながら、キャスターは頭を抱えるしかなかった。



「ははっ!! 」
「うおぉらぁ…!! 」

セイバーと銀時の掛け声とともに、もう何十回とも知れない打ち合いが再びぶつかり合った。
依然として、銀時とランサーの戦いは、拮抗状態を保ったままであったが、徐々に変化が見え始めていた。

「すごいじゃない。正直、木刀でここまでやれるなんて思ってなかったわ」
「そりゃ、どうも…」

戦斧には殺意を込めながらも、ここまで、自分と戦える銀時に、笑みを浮かべたランサーは賛辞を送った。
そんなランサーの賛辞に、軽く言葉を返す銀時であったが、汗にまみれたその顔には疲労の色が見え始めていた。
加えて、ランサーの戦斧を受け流しながら、戦ってきた銀時だったが、時間がたつ度に、打ち合いの際に生じた衝撃の積み重ねによって、腕の痺れが出始めていた。
もはや、時間がたつごとに、銀時は不利な状況に追い込まれていた。

「ま、これが殺し合いじゃなきゃ、なおさら良いんだけどよ」
「あ、そうそう…その事なんだけど…」

銀時はそんな不利をランサーに悟られないように、あくまで余裕の態度で皮肉を言った。
とここで、ランサーは、これまでの戦う中で気付いたある事実を、銀時に言おうとした瞬間―――

『戯れ合いはそこまでだ。ランサー』

―――何処からともなく響き渡った冷淡な声に遮られた。
その声に、銀時とアイリスフィール、そして隠れているセイバーは目を見張った。

「ランサーのマスター…!? 」

慌てて、アイリスフィールはあたりを見回すが、それらしい人影はどこにもなかった。
おまけに魔術による偽装なのか、反響によって、声の出所さえ分からない状態だった。
どうやら、ランサーのマスターは敵に姿を見せないつもりのようだ。

『これ以上、勝負を長引かせるな。速やかに始末しろ―――宝具の開帳を許す』
「いいの、マスター? こんな序盤から、手の打ちを明かしちゃって」

姿を見せないランサーのマスターの言葉に対し、ランサーは悪戯をする悪童のような表情で、自身のマスターに聞き返した。
ランサーにしてみれば、途中で話を遮られた事に対する、マスターへのちょっとした仕返しのようだった。

『っ、私がいいと言っているのだ!! 一々、口答えをするな!! まったく…どうして、貴様はこう…!! 人をおちょくってばかりで…!! 自分のマスターに対する礼儀を知らないのか…まったくもって嘆かわしい!! 』
「…うわぁ、思いっきり遊ばれているよ」
「はいはい…あ、それとさっきの話の続きだけど――」

だが、思ってもいなかったランサーの反論に、ランサーのマスターは、ヒステリックに叫びながら、腹立たしげに叱りつけた。
常日頃から、ランサーに対してからかわれているのか、ランサーのマスターが発する声には、やけに感情がこもっていた。
どう見ても、ランサーに弄ばれているようにしか見えないランサーのマスターに対し、銀時は若干憐みを含んだ表情をしながら、呟いた。
未だ怒りの収まらない自分のマスターに対し、ランサーは投げやりに了承の返事をすると、銀時にむかって、先程の話の続きをした。

「―――これ以上、私を殺さないつもりで戦うなら、死ぬわよ」
「―――っ!! 」

―――不殺で戦っていた銀時に、これまでとは比べ物にならないほどの殺気を叩きつけながら!!
これに対し、ランサーを殺さないように戦っていた事見抜かれた銀時は、動揺してしまい、思わず動きを止めてしまった。
そして、次の瞬間、ランサーの周りに炎が湧き上がると同時に、ランサーの宝具が解放された。

「―――戦闘開始よ、<騎士団>!! 」

やがて、ランサーの開戦を告げる言葉と共に、湧き上がった紅蓮の炎は、次々と形を作り始めた。
剣を持った軽装の兵士、馬に乗った鎧騎士、分厚い鎧に身を包んだ重装の兵士、弓を手にした兵士などへと、紅蓮の炎は姿を変えた。
持てる武器を頭上へと掲げ、声なき雄叫びを上げながら、炎の軍団は、ランサーを中心に陣を組んだ。
これこそが、ランサーの指輪に宿った意思―――魔神<アラストール>の力によって、ランサーの思い描く力の象徴を具現化した宝具<騎士団>だった。

「炎が…騎士の軍団に…変わってく!! 」
「おいおいおいおい…!! てめぇ、そんなの有りかっての!! 」

その幻想的ともいる光景を目の当たりにしたアイリスフィールは震える声で、驚愕した。
そして、ここにきて、追い打ちをかけるような展開に、さすがの銀時も大慌てで、つっこみを入れるしかなかった。
だが、そんな事は、ランサーにとって意に介する事ではなかった。

「さぁ、これで、本気を出してくれるかしら…銀時ぃ!! 」
「ちぃ!! 」

主であるランサーの命令と同時に、槍を手にした騎馬部隊が一斉に、銀時に向かって突撃し始めた。
舌打ちをしつつ、銀時は、次々と突っ込んでくる騎士達を軽業師のような身のこなしで避けると、馬から馬へと飛び交いながら、<騎士団>を操るランサーへと一気に斬り込んでいった。

「へ、そう簡単に、やられてたまるかって…」
「甘いわよ、<矛槍>!! 」
「ぐっ!! 」

あと一歩のところで届く位置までたどり着いた銀時に対し、ランサーはすかさず、銀時を迎え撃つために、長い槍を持った騎士達を集結させると、一気に前へと押し出した。
一斉に突き出された槍衾を前に、銀時は慌てて後ろに下がろうとするが、突き出された槍の穂先によって、次々と薄らと傷を負った。

「銀時!! 」
『銀時、いい加減にしなさい!! これ以上、一人だけで戦うのは無理よ!! 』
「…うるせっての。ここから、軽く逆転してやるから、黙って見てろって…」

圧倒的多数の敵に蹂躙され始めた銀時に、アイリスフィールの悲痛な叫びが響いた。
すかさず、セイバーも念話で、一人で戦おうとする銀時を叱責するが、銀時は意に返す事もなく、尚も一人戦おうとしていた。

「…<弓>っ!! 」
「てめぇ!! ランサーだろ、槍使えよ、槍ぃ!! 」

だが、ランサーは、ボロボロの銀時に対しても、矢をつがえた弓兵に指示を送り、容赦なく攻め立てた。
一斉に放たれた矢の雨を前に逃げ惑う銀時は、多彩な攻撃を繰り出すランサーに向かって言い掛かりじみた言葉で責めた。

「ああ、もう!! この天然パーマ!! 」

もはや戦況は、完全にランサーに握られている―――劣勢に追い込まれた銀時の前に、遂に隠れていたセイバーは覚悟を決め、姿を現した。

「…もう見ていられないわ、銀時」
「セイバー…てめぇ、勝手に出てくんじゃねぇよ…」

セイバーを使わないと、意地を張る銀時に対し、我慢の限界に来ていたセイバーは苛立っていた。
そんなセイバーの登場に悪態をつく銀時だったが、もはや自分ひとりで戦うのが厳しい事はよくわかっていた―――この局面を切り抜けるには、セイバーの力を使うしかないということも含めて。

「へぇ…その蜘蛛みたいなロボットがセイバーなの。随分と珍妙な代物ね」
「珍妙…!? 」
「俺もそう思う…ところで、その<騎士団>なんだけどよ。生きているわけじゃねぇよな? 」

一方のランサーは、セイバーと呼ばれた紅い蜘蛛のロボットにしげしげと眺めながら、本当に何でもありね、聖杯戦争などと思いながら声を上げた。
さすがに珍妙呼ばわりされて傷つくセイバーであったが、銀時は、それに構うことなく、ランサーに対し、妙な質問をした。

「そうよ。詳しくは言えないけど、私の力を象徴するものと言うべきものよ」
「ああ、そうかよ…」

別に答えても、自分の不利にはならない質問だったので、ランサーはあっさりと銀時の質問に答えた。
そして、<騎士団>の兵士が生きていない事を知った銀時は、ランサーの言葉を確認すると、先ほどとは打って変わって、笑みを浮かべながら、あることを確認する為、セイバーの横に立った。

「なら、そいつら、相手なら遠慮なく、ぶっ飛ばせるな、セイバー」
「ええ。理には外れるわ」

ならば、遠慮なくぶっ飛ばしてやろうぜ―――セイバーからの言質を取った銀時は、反撃を開始するため、構えた。
―――セイバーの真の力を開放する為に!!

『ランサー、何をしている、止めを刺せ!! 』
「…<騎士団>、騎乗!! 槍突撃!! 」
「鬼に逢うては、鬼を斬る。仏に逢うては、仏を斬る―――ツルギの理ここに在り!! 」

銀時とセイバーの様子に何を察したのか、ランサーのマスターは止めを刺すように、ランサーに命じた。
不満そうな顔をするランサーであったが、令呪を使用しかねないマスターの様子に仕方なく、槍を構えた騎士達を四方八方から次々に突撃させた。
蹄の音を立てながら、騎士達の槍が迫る中、慌てることなく、銀時は、セイバーとの誓約の口上を言い切った。
次の瞬間、セイバーの身体のパーツがはじけ飛び、銀時の身体に纏わり始めた。
それと同時に、馬に乗った騎士達が殺到し、槍をつきたてながら、銀時らの姿を覆い隠した。
勝った―――圧倒的ともいえる自身のサーヴァントの勝利を確信していたランサーのマスターであったが、その確信はあっけなく崩されることになった。
銀時らに槍を突き立てていた騎士達が、腕を、頭を、胴を、次々と馬ごと斬り伏せられていたのだ。
やがて、全ての騎士達が切り捨てられた時、ランサー達の前に、ソレは姿を現した。

『なん…だと…!! ゴーレム!? 』
「へぇ…そういう事。それが、あなた達の本気って事ね」

驚きを隠せないでいるランサーのマスターと、銀時との本気の戦いが始まる事に喜ぶランサーの前にいたのは、巨大な刀で、炎の騎士達を切り捨てた深紅の悪鬼だった。
―――紅蓮の炎を思わせる<騎士団>とは違う、生々しい鮮血を思わせるような紅色の分厚い装甲に身を包んだ異形の鎧武者。
これこそが、銀時を使い手とし、サーヴァントにして宝具というセイバーを纏う事で発動する宝具<装甲悪鬼村正>だった!!

「―――正直、気は乗らねぇけどな。セイバー、始めるぞ 」
「―――諒解、死を始めましょう」

互いに不満を隠しながら、セイバーを装甲した銀時は、ランサーの指揮する<騎士団>に向かって突撃した。


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