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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第4話:拳の語り合いと魔術師の余興
作者:蓬莱   2012/07/09(月) 23:49公開   ID:.dsW6wyhJEM
「まずいな…双方ともに本気を出すつもりのようだ。これでは、どちらかが脱落しかねない」
「え、でも、それって、好都合なんじゃないか…奴らが潰し合うのを待つ作戦じゃ…」

冬木大橋のアーチの上から、倉庫街の戦いを見ていたライダーは、焦るような声で呟いた。
初めて見せるライダーの焦りに、ウェイバーは訳もわからず、ライダーの狙いを問いただした。

「いや、古今東西の英雄達と会う機会など滅多にない。だから、わしとしては、一人でも多くの者と絆を結びたくて、ランサーの挑発に乗ったサーヴァント達を待っていただけなのだが…」
「へ…? 」

それに対し、ライダーは笑いながら、ランサーの誘いに乗らなかった理由をあっさりと告げた。
つまり、ライダーは、他のサーヴァントと、絆とやらを多く結びたいから、ランサーの誘いに乗らず、待っていただけなのだ。
その事に知ったウェイバーは、間の抜けた返事をしながら、ライダーの無謀とも言えるような楽天振りに唖然とするしかなかった。

「セイバーとランサー、互いに、こちらの胸を熱くさせてくれるような者たちだ。絆を結べぬまま、このまま死なせるのは、あまりに惜しい」
「死なさなくて、どうするのさ!! 聖杯戦争は殺し合って、え、ちょっと!? 」

そんなウェイバーに、いつもと変わらない笑顔を見せたライダーは、未だ激闘を繰り広げるセイバーとランサーを見ながら、立ち上がった。
半ばヒステリー混じりで糾すウェイバーであったが、忠勝の背中から噴射口が飛び出しくるのを見て、遮られた。

「そうとなれば、見物はここまでだ。わしらも参ずるぞ、ますたぁ、忠勝!! 」
「…!! 」

そして、ライダーは、ウェイバーと忠勝にセイバーとライダーの戦いを止める事を告げると、助走をつけないまま、冬木大橋のアーチから勢いよく飛び出した。
そして、すぐさま、ウェイバーを掴んだ忠勝もライダーの後を追うように、背中から青白い炎を噴出させながら、空へと駆けようとしていた。

「馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁ!! お前、やっている事が出―――本田忠勝、出陣だ!!―――ぎゃあああああああああああああああああああ!! 」

もはや出鱈目としか言いようのないライダーの行動を非難するウェイバーであったが、ライダーの呼びかけと同時に、その声は夜空に響き渡る悲鳴へと変わった。
そして、空を飛ぶ忠勝の背中に着地したライダーは、すぐさま、倉庫街へと向かって行った。


第4話:拳の語り合いと魔術師の余興


斬り捨てた騎士達の身体から巻き上がる火の粉を背に、炎の馬にまたがる紅蓮の槍兵に迫る深紅の鎧武者。
騎士達を屠った太刀から銀時の木刀に持ち替えたセイバーと戦斧を手にしたランサーは、幾度目かもしれぬ打ち合いを続けていた。
数の利で言えばランサーが有利であったが、サーヴァントの戦闘能力はセイバーが上―――勝負は再び、拮抗状態へと陥っていた。

「うぉらぁ!! 」
「この…っ!!」

と次の瞬間、互いの武器がぶつかり合い、鋭い轟音が響き渡ると同時に、セイバーとランサーの鍔迫り合いとなった。
セイバーの力に、ジリジリと押され始めるランサーであったが、即座に背後に展開した弓兵達によって矢が放たれた。

「やばっ!! 」
「―――っ!! 」

このまま身動きの取れないセイバーに向かって放たれた矢に、セイバーは即座にライダーを蹴飛ばした。
そして、セイバーは、幾つかの矢を斬り払いながら、空へと飛んで行った。

『ランサー!! 大丈夫か!? 』
「ええ、何とか。でも、本当に変わった英霊がいたものね」

セイバーの蹴りを受けたランサーに、ランサーのマスターは声を張り上げると同時に、治癒魔術を使った。
治癒の効果で回復したランサーは、治癒してくれたマスターに軽く礼を言いながら、空を舞うセイバーに目を向けた。
何かと変わり種のサーヴァントであるが、並のサーヴァントとほぼ同格の<騎士団(ナイツ)>の兵士たちを次々と斬り捨てるセイバーの力は、間違いなく本物だった。
先程の鍔迫り合いとて、セイバーが木刀に持ち替えたりしなければ、決着はすぐについていたかもしれない。
不殺という点を除けば、称賛を送ってあげてもいいわね―――そんな事を思いながら、ランサーは武器を構えた。

「うぇ…気持ち悪…」
「吐かないでね…絶対に吐くんじゃないわよ!! 」

もっとも、飛行にはまだ慣れていないのか酔ってしまった銀時に、中をゲロまみれにされたくないので、セイバーが必死になって呼び掛けている最中だったりするのだが。

「はははははっ!! やっぱり、それでも―――戦う!! 」
「だから、てめぇは、熱血バトル漫画のジャンプ主人公のつもりか、コノヤロー!! 」

この強敵と心躍るまで戦える事にランサーは、この生に充実を感じ、喜びの笑みを浮かべた。
それに対し、セイバーを装甲した銀時は、ランサーのノリについていけないと言わんばかりにツッコミながら、空から一気に斬りかかった。
そして、互いの武器がうなりを上げて、ぶつかり合おうとした瞬間―――

「待たれよ、セイバー、ランサー!! 絆を断ってはならない!! 」
「…!! 」
「んな!? 」
「え!? 」

―――セイバーの木刀を巨大な螺旋槍を持った忠勝が、ランサーの戦斧をライダーの拳が遮っていた。
間一髪のところで、セイバーとランサーも間に割り込んできた、ライダーと忠勝が、二人の攻撃を受け止めたのだ。
予想もしていなかった乱入者の出現に驚く一同を前に、ライダーは徐に声を上げた。

「それがし、徳川家康!! 絆の力で聖杯を勝ち取るべく、ライダーのクラスにて現界した!! 」
「徳川…家康…? 」
「ライダー? 」
「え、真名を…名乗った? 」

そして、ライダーの名乗りに居合わせた全員が、再び呆気にとられた。
聖杯戦争において弱点となりかねない真名を自ら名乗るサーヴァントなどあり得ない事だった。
もっとも、徳川家康についての知識がある銀時とセイバーは、一般的なイメージとかけ離れたライダーの姿に驚いていたのだが。
そんな中、ライダーは、セイバーとランサーを見渡しながら、問いかけた。

「お主たちとは、聖杯を求めて争う為に巡り合ったわけだ。しかし、わしは、あえて皆に問いたい事がある。皆が何を求めて、聖杯を求めるのか知らない。だが、ただ争うだけで、勝負を決してもいいのだろうか?」
「…何が言いたいの、ライダー? 」

静かに語るライダーが何を言いたいのか、判然としないものの、ランサーはある種の近親感を感じながら、聞き返した。
―――ああ、この優しさは、よく知っている。
―――かつて、大戦において、対峙したとある狂った王とよく似ている。
そして、ランサーの予想は的中することとなった。

「うむ…わしは、できうる事なら、争うことなく、そなたらと、絆を結んだ仲間として共に聖杯を得たいと考えている」

ライダーの口から語られたのは、あまりに突拍子もない提案だった。
セイバーと銀時は話についていけず言葉を失い、ランサーはやっぱりという表情でため息をついた。
秘匿すべき真名を名乗り、あまつさえ矛を交えないまま、共に聖杯を得んとするライダーの行動は、聖杯戦争という殺し合いを真っ向から否定しかねないものだった。
しかも、ライダーは、大真面目にそれを語っているのだから、始末に負えない。

「はぁ…正直、名乗りを上げたところまでは、認めてもいいけど…生憎、私達は自己満足が第一の酷い奴なの」
「…そもそも、そんな戯言を本気にする奴なんて、ここにはいないわ。戦場に何を求めているつもりなの。ねぇ、銀時? 」
「え、別に良いんじゃね。だって、あの徳川家康だぜ。素直に仲―――足でやられたい?―――信用できねえっての、この狸親父!! 」

苦笑交じりの称賛を告げたランサーは、自分が他人に好きにされる事が我慢できない性分である事を知っていたので、あっさりとライダーの提案を蹴った。
一方のセイバーは、徳川家康という稀代の策謀家の姿を知っていた事と、セイバー自身が武の悪を知らしめるための呪いを持つ故に、戦いの中で綺麗事を並べるライダーに対し、不信感と不快感をあらわにしていた。
もっとも、銀時は、ライダーの提案に乗ろうとしていたが、セイバーの脅しにあっさりと屈した。

「そうか…まぁ、お互い初対面だから、いきなりこう言われても、納得はできぬかもしれん。それでも、わしは…」
「らいだぁああああああ!! 絆とか言って、全然駄目じゃん!! 」

しかし、ライダーは、セイバーらに提案を蹴られてもなお、悲しむのではなく、あえてほほ笑んだ。
今は拒まれようと、そなた達と何度でも絆を結ぼうと思う―――そう言いかけようとしたライダーであったが、忠勝から飛び降りてきたウェイバーの声によって遮られた。
これまでの事に相当、頭に来ているのか、ウェイバーの声は低くかすれ、その表情は、もはや涙目寸前状態だった。

「あははははは!! すまん、ますたぁ。まずは、試しに名を名乗るところから、絆を結ぼうと思ったのだが…」
「試しで、真名をばらしたのかよおおおおおおおお!! 」

ウェイバーの問いに対し、ライダーは、いつもの笑みに困ったような表情を混ぜつつ、頭をかきながら、謝った。
逆上したウェイバーは、非力な拳でライダーの胸板を空しくポカポカと殴りつけながら、泣き喚いた。
もはや哀れとしか言いようのないウェイバーの姿に、周囲から同情の視線が集まっていた。

『そうか…よりにもよって、君が聖杯戦争に参加するとは…ウェイバー君』
「け、ケイネス先生…!? 」

ただ、ランサーのマスターだけは、怨みを含んだ声で、ウェイバーの名を呼んだ。
そのランサーのマスター―――ウェイバーの講師であったケイネス・エルメロイ・アーチボルトの声を聞いた瞬間、ウェイバーは震えるような声で呟いた。
考えれば当然の展開だった。
時計塔において講師の地位にあるケイネスならば、代わりの聖遺物を用意できることぐらい簡単な事なのだ。
そして、聖杯戦争において、ケイネスがウェイバーの敵に回る事になる事も。

『まったく、私の聖遺物を盗んで、何をするかと思えば…まぁ、その様子では、君も予想外のサーヴァントを呼び出してしまったようだねぇ』
「君も? 」

そして、ケイネスは、ウェイバーを忌々しげに詰りながらも、お目当てのサーヴァントを召喚できなかった不出来な教え子の姿を嘲笑った。
とここで、ウェイバーはケイネスの言葉に違和感を覚えた。
それではまるで、ケイネス先生も同じような失敗をしたような言いかたじゃないか?―――そう思ったウェイバーに対し、ランサーはあっさりと事実を告げた。

「そうそう。私も、実はマスターが手違いで呼び出しちゃったサーヴァントなの」
『余計なことは言わなくて良い、ランサー!! どうして、マスターである私を貶める!? わざとか? わざとなんだなぁああああああ!! 』

身内の恥をあっさりばらしたランサーに対し、ケイネスは普段見せた事のない取り乱しぶりで、ランサーを責め立てた。
なんかも、色々必死すぎて、他の一同からは、ギャグにしか見えない有様だった。
もっとも、ランサーは我関せずと口笛を吹きながら、ケイネスの小言を聞き流していたが。

『と、とりあえず…!! 君には、私自らが、特別に課外授業を受け持ってあげようじゃないか…魔術師同士が殺し合うという本当の意味を―――その苦痛と恐怖を余すことなく…』
「…」
「そこまでにしてくれいないか、ランサーのますたぁ」

ランサーへの小言を一通り言い終わったケイネスは、気を取り直して、寒気を感じるような冷たい猫なで声で弄るように、ウェイバーを言葉で責めたてた。
先程の醜態を見ていたとはいえ、ウェイバーは、ケイネスからの視線と言葉に震えあがり、死の宣告という恐怖で怯えていた。
とその時、ランサーと対峙していた忠勝が、ウェイバーの肩を掴むと、まるで敵から守るように抱きかかえた。
そして、ウェイバーを弄るケイネスの言葉を遮るように、ライダーは姿を見せないケイネスに向かって一喝した。

「え、忠勝…ライダー…」
「わしは、ますたぁとの出会いを、絆の力によってなされた奇跡だと思っている。故に、わしは、ますたぁの危機とあれば、全力で、守り抜くつもりだ!! 例え、それが、ますたぁの師であろうと、この絆を断ち切らせたりはさせない!! 」
「ま、無関係な俺が言うのもなんだけど…一端の師匠面しながら、弟子を叩き直す前に、てめぇの聖遺物を盗まれた間抜けさを叩き直せよ」
『ぐっ…貴様らぁ!! 』

この時、ライダーと忠勝のまさかの行動に、これまで振り回されていたウェイバー自身が一番驚いていた。
そんなウェイバーを尻目に、ライダーは、ウェイバーに憎悪を向けるケイネスに対し、普段は見せない厳しい表情で、マスターであり、自分と絆を結んだウェイバーを守り抜くと言いきった。
とここで、師という言葉に何か感じるモノがあったのか、無関係なはずの銀時も、ケイネス自身にも非がある事を付け足すように言った。
予期していなかった反論に怒りをあらわにするケイネスであったが、さらにケイネスに向かって非難の罵声を浴びせる者がいた。

「その通りやで、にいちゃんら!! こそこそ隠れとるような、臆病もん…役者不足もいいところやで」
「「「「「…!!」」」」」

一同は、西日本特有の喋り方で、ケイネスを挑発する声がした方向を一斉に見た。
そこには、蛇柄のジャケットを身にまとい、左目に眼帯を付けた男とその傍らにいる黒い衣装を着た銀髪の少女―――倉庫街へとたどり着いた真島吾朗とキャスターがいた。

「待たせたなぁ…わしも祭りに参加させてもらうで」
「はぁ…また、目立つような真似を…」

獰猛な笑みを浮かべる真島に対し、キャスターはため息を洩らしながらつき従った。
現れた真島とキャスターに対し、皆それぞれの反応をした。

「や、ヤクザだ…明らかに極道の人がきたぁああああああ!! 」
「また、ややこしいのが…」
「おお、今度は、任侠者か!! 」
「うわぁ…すっごい格好ね」

ヤクザの登場に怯える銀時に、次々に現れる乱入者に呆れるセイバー、絆を結べる相手が増えた事に喜ぶライダー、当世風の衣装に驚くランサー―――そんな彼らを品定めするように見まわしながら、真島は先程から目を付けていたサーヴァントの前に立った。

「おう、そこのにいちゃん。なかなか、おもろい男やないか。気に入ったで」
「ははははは。それは、嬉しいな。もし、できることなら、貴殿とも絆を結びたいのだが…」
「そら、おもろいかもしれんなぁ。ま、けど、わしとしては―――」

目の前にいるサーヴァント―――ライダーに対し、真島は笑みを浮かべながら、ライダーの男気を褒めるように笑った。
真島からの褒め言葉に、照れるように笑うライダーは、真島と絆を結びたいと右手を差し出した。
そんなライダーに対し、真島をポケットから右手を出そうとした瞬間―――

「…!! 」
「んなぁっ!! 」
「…っと!! 」
「―――あんたと、ほんまもんの喧嘩がしたいんや」

―――炎を纏わせた真島の右手が、とっさに防御したライダーの手甲に叩きこまれた。
真島の行動に驚く忠勝とウェイバーであったが、真島がポケットから手を出した瞬間、殺気を感じたライダーは慌てることなく攻撃を防ぐと、間合いを取った。
真島は、ある程度予想はしていたとはいえ、自分の不意打ちを、ライダーが防いだ事に喜んでいた。
やっぱ、わしの目に狂いはなかったのう―――極上の相手を前に、真島はさらに左手にも炎を纏わせた。

「炎を拳に纏わせているのか…これはすごいな…」
「なんや、ずるいちゅうんか? 」
「いや、わしは構わん。むしろ、全力でぶつかってきてくれた事に嬉しく思う」

両手に炎を纏わせる真島を見て、ライダーは、感心したように驚いた。
反則かと問いかける真島に対し、ライダーは頭を横に振り、まるで数年来の友と語り合うような笑顔を向けた。
ライダーとしても、絆を深めるために、こうした互いの胸のうちをさらけ出すような全力勝負は望むところだった。

「…やっぱ、わしの目に狂いはなかったで。こんなにワクワクするのは、久しぶりやで!! 」
「ああ、お互い、拳でしか分かり合えぬ事がある―――ならば、存分に語り合おう!! 」

ライダーの真っ直ぐな言葉を聞いた真島は、拳を構えながら、この男と戦える事に喜びを隠せないでいた。
ライダーも、真島との拳の語り合いにほほ笑みながら、逞しい胸の前、両の拳をガチンと打ち合わせながら、拳を構えた。

「忠勝、マスターを守ってやってくれ。こっちは手を出さなくて良い」
「キャスの嬢ちゃん、手で出し無用やで。男同士の喧嘩に、女子供はちょっかいだすんやないで」

ライダーは忠勝に、真島がキャスターに指示を出した瞬間、ライダーと真島は一斉に駆けだした。
そして、真島とライダーの…炎を纏わせた拳と光が迸る拳が激突した―――!!

「重っ…!! 」
「くぅ…!! 」

最初の一撃は真島とライダーの双方共に、お互いの腹に左拳を叩きこんでいた
互いに放った渾身の一撃を受け、思わず真島とライダーは顔を歪ませながら、すぐさま体勢を立て直した。
まず、先に仕掛けたのは、両の拳に力を込めたライダーだった。

「うおおおおおおおぉぉぉ!! 」
「うぉりゃあああああああああああ!! 」

ライダーの左右の拳から次々繰り出される拳の連撃が、まるで東風の様な速さで真島に繰り出された。
防御してもあの拳の連打の前ではガードは弾かれるし、後ろに下がろうとしても手数の多さで回避しきれない。
故に、ライダーの拳の乱舞を前に、同じく両の拳を構えた真島はあえて真っ向から迎え撃った。
ライダーの拳と真島の拳のぶつかり合いによって生み出された衝撃波によって、周りのコンテナが次々と破壊され、この戦場に突風が吹き荒れた。
お互いに一歩も引かないライダーと真島の殴り合いをしながら語り合っていた。
二人の男は、拳と拳で、熱く親しく絆を語り合っていた。
その二人の姿に、ウェイバーは唖然としながら見守るしかなかった―――胸の奥底に、初めて、何か熱いものを感じながら。

「やるやんけ…ホンマ好きになりそうやで」
「ああ、こちらもだ。楽しいなぁ…えっと…」

やがて、ライダーと真島の数十を超える殴り合いの末、互いの拳がぶつかり、止まった。
軽く息を切らせながら、楽しそうに獰猛な笑みを浮かべる真島に対し、ライダーも笑いながら応えようとして、口ごもった。
よく考えれば、今の今まで、ライダーは真島の名前をまだ聞いていなかった。

「真島や。…東城会直系真島組組長やっとる真島吾朗や」
「真島殿か。ならば、それがし、徳川家康!! 絆の力で、聖杯戦争を治めん!! 」

そんなライダーに対し、服を脱ぎ捨て、両肩に彫られた白蛇の刺青と背中に彫られた般若の刺青を晒し、楽しげに真島は自身の肩書と名前をライダーに教えた。
そして、真島の名を聞いたライダーも、己の真名を宣言する事で絆を結ばんと、真島に応えた。

「なら、こいや…家康ぅうううう!! 」
「応―――!! 」

次の瞬間、ライダーの真名を吼えるように叫ぶ真島と、真島の心意気に精いっぱい応えようとするライダーは同時に駆けだした。



ライダーと真島の二人の熱い漢のぶつかり合い対し、キャスターは対照的な冷たい目で見やっていた。
キャスターとして、御しきれないマスターがくだらない喧嘩に興じるのは、こちらはこちらでやりやすくなるので、都合のいい事という程度の事でしかなかった。

「まぁ、あっちは勝手に任せるとして。さて…あなた達が今回呼ばれたサーヴァントなのね」

そして、キャスターは、セイバーとランサーをさっさと片付ける為に目を向けた。
血を滴らせたような深紅の鎧武者セイバーと、紅蓮の炎をなびかせる騎士団を率いるランサーを前にしても、キャスターは動じることはなかった。

「へぇ、随分と変わったサーヴァントが呼び出されてみたいね。でも、相手としては、どうかしらね? 」
「うわ、何、このお子様…かなりムカつくんですけど。つーか、俺、子供と戦う主義じゃねぇし…飴玉上げるから、さっさとあのヤクザつれて帰りなよ〜」

セイバーとランサーを変わったサーヴァントと評しながら、キャスターは余裕の表情で笑みを浮かべた。
余裕を崩さないキャスターに対し、銀時は思わずムカつきながら、キャスターを子供扱いしながら、追い払おうとした。
だが、銀時は分かっていなかった―――見た目が少女とは言え、キャスターもまた危険なサーヴァントだという事に。

「ふふふふ…なら、精々、私を愉しませなさい―――!! 」
「何だぁっ…!! 」
「…っ!! 」
「やばっ…!! 」

と次の瞬間、キャスターの面前に禍々しい文様の魔法陣が展開され、そこから無数の光の弾丸が発射された。
それが、弾雨という勢いで、次々とセイバー達に降り注いだ。
キャスターからの思わぬ攻撃に、セイバーは重力制御による加速で、光の弾丸から回避を試みた。
忠勝は両手に盾を装備しながら、ライダーの指示に従い、ウェイバーを守らんとした。
ランサーも、重装型の兵士を壁として展開し、キャスターの攻撃を防ごうとした。
やがて、光の弾雨のよって、地面は爆砕され、瓦礫が飛び散り、戦場を土煙で覆い尽くした。

「銀時、セイバー!! 」
「大丈夫だっての…つうか、何だよ、あれ!! 何か黒い塊みたいなのが出てきたぞ!! 」
「くっ…肩部損傷!! 掠っただけで、あの威力だなんて…!! 」

アイリスフィールは悲痛な叫びを上げた瞬間、土煙の中からセイバーが飛び出してきた。
セイバーの中にいる銀時は、アイリスフィールに無事を伝えるものの、キャスターからの攻撃に驚くしかなかった。
セイバーも肩の部分を破壊され、装甲の復元を試みるが、かすめた程度で装甲を破壊したキャスターの魔法弾の威力に脅威を感じた。

「…」
「む、無茶苦茶だろ!! 何で、単純な魔法弾にあれだけの威力があるんだよ!! 」

一方の忠勝も、ウェイバーをキャスターの魔法弾から守りきったものの、盾の大部分は砕け散り、自身の装甲もところどころ傷を負っていた。
だが、ウェイバーが驚いていたのは、キャスターの放った魔法弾がごく簡単に行使可能な魔術だったことだった。
もっとも、威力は大規模な攻撃魔術クラスと大差ない代物であったが。

『くっ、世話をかけさせるな…!! 』 
「ありがと、マスター。でも、ちょっと不味いかも…」

そして、ランサーは盾として展開した重装型の兵士を全て粉砕され、手傷を負わされながらも、何とかケイネスの回復魔術で事なきを得ていた。
だが、それとは別に、ランサーは、銀時やセイバー、忠勝も気付いているであろう事実に冷や汗を流していた。

「何人か分かっているようね…今のが、小手調べという事が」
「殺すつもりのない攻撃ぐらい分かるわよ」

―――キャスターの言葉通り、今の攻撃が小手調べとして放たれた攻撃である事に。
あの魔法弾を放った時のキャスターに浮かんだ表情―――小動物を弄る子供のような笑みを見れば、すぐに分かった。
だが、ランサーにとって、キャスターの絶対的優位から来る過信と余裕こそ付け入る隙だった。

「けど、お生憎様。これ以上、子供の遊びに付き合う気はないの…速攻で行かせてもらうわ!! 」
「ふふふ…猪武者の大言、どこまで続くかしら!! 」

キャスターを挑発しながら、戦斧を手にし、炎の馬に跨ったランサーは一気に駆けだした。
そのランサーの突撃をあざ笑うかのように、キャスターは魔法陣を展開し、先程の魔法弾をランサーではなく、ランサーの周囲の地面を爆砕していった。

「わざと致命傷にならないように、嬲り殺し…見かけによらず、悪趣味ね」
『だが、それこそが好機』

爆発の際による四散した瓦礫で嬲る―――可愛らしい少女の姿で悪趣味としか言いようのない遊びをしかけるキャスターに対し、飛び散った瓦礫をかすませながら、ランサーは吐き捨てるように呟いた。
だが、アラストールの言葉通り、今こそがキャスターを討つ好機だった。

「いっけええええええええ!! 破城砕…!! 」
「何っ…!? 」

重装型の兵士すら粉砕するならば、それ以上のもので攻めたてる―――ランサーが呼び出したのは、巨大な炎で形作られた城の門を破壊する為の巨大な杭<破城砕>だった。
この時、キャスターは初めて焦りを見せた。
如何に魔法弾の威力の高いといえども、あの巨大な杭を破壊するには力不足だった。

「くっ…小癪な!! ならば、その紅蓮の髪ごと、地獄の業火で燃え尽きろ!! 」

すぐさま、キャスターは新たな魔法陣を展開した。
そして、キャスターの魔法陣から、全てを焼き尽くすような赤熱する巨大な火球が放たれた。
咄嗟に展開した急増の魔法だが、目の前の巨大な杭を破壊するには、それでも十分な威力を持っていた。
キャスターの魔法陣から放たれた火球の直撃を受けて、ランサーや破城砕を引きずっていた兵士ごと、破城砕を破壊した。
吹き荒れる熱風に、キャスターは、滅したとはいえ、自分に全力を出させたランサーを忌々しげに思った。

「囮…!? 」
「正解っ!! 」

―――破城砕を破壊した際の爆風を利用して、キャスターの目を逸らし、その背後に回ったランサーに気付けないほどに。
破城砕の攻撃が囮であるという事に気付いたキャスターだったが、時すでに遅かった。
ランサーの手にした戦斧がキャスター身体を両断するように斬り裂いた。

「ぐっ…!! 」
「<騎士団>―――大殲滅・密集突撃!! 」

致命傷の傷を受けたキャスターに対し、ランサーは迷うことなく止めの一撃を繰り出した。
ランサーの<騎士団>による最大の攻撃、騎乗用の槍を構えた騎士達による一斉攻撃―――<大殲滅・密集突撃によって、キャスターの身体に次々と槍が突き立てられた。

「ぐあ…がぁっ…!? 」
「…やったっ!! 」

槍を持った騎士達に突き上げられながら、全身を槍に突き刺され、末期の断末魔を上げるキャスター。
如何にサーヴァントといえど、キャスターに致命傷といえるダメージを負わせたランサーは、勝利を確信しかけていた。

『マティルダ!! こやつ、倒してはいない…!! 』
「くあははははは…久しぶりに感じたわよ。刃が自分の体を貫く感触を…!! 」
「何!? 」

―――アラストールから注意を促す言葉を聞くまでは。
そこには、アラストールの言葉通り、突き立てられた槍を引き抜きながら、あふれ出た内臓が再生し、血煙を上げながら傷をふさぎ、何事もなかったかのように笑みを浮かべるキャスターの姿があった。

「そんな馬鹿な…あの致命傷を受けて、再生した…!!」
「おいおい…どんなプラナリアだ、コノヤロー…」
「面白い攻撃だったわ…でも、どうやら、この私が不老不死の魔女だという事は知らなかったようね」

キャスターの再生に驚きを隠せないセイバーと銀時であったが、ランサーの攻撃を面白いと嘲笑っていたキャスターはあっさりと事実をばらした。
これこそが、キャスターの余裕の正体であり、魔力供給の乏しい真島と契約しながら、魔力を大量に消費する魔術を行使できる理由だった。
キャスターの持つ宝具<虚無の魔石>―――マスターの魔力供給によらずとも、使用者に莫大な魔力を供給するとともに、使用者を不老不死の肉体へと変える事が可能な宝具だった。
言うなれば、この宝具の力によって、キャスターはマスターの魔力供給を受けずとも活動可能なサーヴァントと成り得たのだ。

「そして、もうひとつ…この宝具には別の使い道があるの」

そして、キャスターの生前において、この魔石は七つに分割され、それぞれ違う並行世界の人間に宿された経緯を持っていた。
その為なのか、マスターに対し、キャスターが任意で、この魔石を貸し与えることも可能となった。
人間である真島が、サーヴァントであるライダーと互角に戦えたのも、この魔石を二つほど貸し与えられていたからだった。

「何だよ…何なんだよ!! キャスターは聖杯戦争で、最弱のサーヴァントのはずだろ!! 何なんだよ、お前!? 」

強大な力を持ったキャスターに、ウェイバーは悲鳴に近い声で嘆いた。
本来、聖杯戦争におけるキャスターは、対魔力のスキルを持つサーヴァントが大半である為に、全クラスの中で最弱と位置付けられているサーヴァントなのだ。
だが、このキャスターは、まるで、そんな事など意に返さないほどの圧倒的な力を持っていた。
そんなウェイバーに対し、キャスターは口を釣り上げるように嘲笑いながら、此処にいる魔術師達に絶望を与える為、親切に教えてあげることにした。

「そうね。炎の魔女、バビロンの大淫婦と聞けば、あなた達…マスター達は、すぐにわかるかしら? 」
「え…!? 」
「バビロンの大淫婦って…そんな馬鹿な!? 」
『まさか、貴様が、サーヴァントとして召喚されただと…!! 』

キャスターの口から語られた言葉に、アイリスフィール、ウェイバー、ケイネスは驚きを隠せなかった。
魔術師であるならば、その名を知らぬ者などいるはずがなかった―――歴史の裏で暗躍し、世界を混乱させながら、魔術協会や代行者と死闘を繰り広げた末、禁書目録聖省から派遣された討伐部隊によって討たれた最悪の魔術師の名を!!

「ま、まさか…!? 」
「そう、我が名はリーゼ―――ちょんまげ〜―――えっ? 」

なぜか、一緒になって驚く銀時の言葉に合わせるようにして、駄目を押しを与えようと、キャスターは真名を名乗ろうとした。
いつの間にか、キャスターの背後で、どっかから持ってきた椅子の上に立った全裸―――アーチャーが股間のゴッドモザイクをキャスターの頭の上に置くまでは。
そして、全裸が気の抜けた声で馬鹿を言った瞬間、その場にいたサーヴァントとマスターを含めた全員が凍りついた。




「―――余裕を持って優雅たれ、余裕を持って優雅たれ、余裕を持って優雅たれ…」
「…うん、想像はしていた」

当然のことながら、遠坂邸にて、点蔵をとおして、戦況を見ていた時臣も、アーチャーの暴走を見ていた。
そして、時臣は遠い目をしながら、自分を落ち着かせるように家訓をブツブツとつぶやいていた。
そんな時臣の隣にいた男装をした少女―――正純は諦めたかのように自分を納得させていた。



「や、やりやがった!! い、いくら、全裸だからって、まさか、やらねぇだろって思ったけど…アイツ、ジャンプ的には完全規制もののネタをやりやがった!! 」
「いやぁ…関西の芸人でも、ここまで、体張った笑いをとるやつはおらんでぇ…やるなぁ、にいちゃん」

その中で、最初にキャスターの背後にいる全裸に気付いた銀時は、もし、アニメ化したら完全規制モノのネタをやらかした全裸に愕然としていた。
キャスターのマスターである真島も、ライダーとの戦いを忘れて、一時手を止めて、妙に感心した口調で全裸を見た。
やがて、元凶である全裸は、椅子から降りると、キャスターの前に立った。
そして、軽く腰を落として、キャスターの両肩に手を置いた全裸は、真剣な顔でキャスターに頷いた。

「安心しろ―――助けに来たぞ」
「貴様―――!! 」

馬鹿をやらかした全裸に、キャスターは顔を真っ赤にさせながら叫んだ。


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ハーヴェストさん
新天地での投稿ということで色々とあるかもしれませんが、こちらこそよろしくお願いいたします。

色々と至らぬ点もあるかもしれませんが、感想や注意、ツッコミなどばっちこーい!!(M的に)待っていますので、皆様よろしくお願いします。
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